PandoraPartyProject

シナリオ詳細

醜悪なるコロニー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 バルツァーレク領。
 名の通り、遊楽伯爵と言われるガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)の影響強き地である。概ね幻想西部が派閥的な勢力圏内と言うべきだろうか――その一角で生じている事件にて当の伯爵は頭を悩ませていた。
「奴隷商人、ですか」
 先日の大奴隷市の影響か奴隷商人の影が増えているのだ。
 幻想各地において妙な魔物が増えているという事件の影で暗躍する者達もいるとは……全く困ったものである。彼らの様な存在を放置しておけばやがて治安の悪化にも繋がるかもしれないとなれば、何かしら対処は必要だ。
 しかし先程も述べた様に魔物事件も多発している最中。
 そちらへの警戒も必要であれば、簡単に自らの兵を動かすという訳にもいかない。
「……スラン・ロウやギストールの件もありますしね」
 王家にとっての重要物たるレガリアがスラン・ロウより盗まれたとされる事件。
 そして魔物の暗躍か何かか――壊滅した街、ギストール。
 これだけの事が同時に起こっているのはきっと『偶然』ではないと伯爵は思考していた。今の所なにか証拠がある訳ではない。ただそう思っているだけではあるが……とにかく兵を動かし辛いとなれば、解決方法は他に――
「…………」
 他に――ある。
 ローレットへと依頼を出せばいいのだ。
 しかしそれには些か気がかりがあった。もしもイレギュラーズに依頼を出したなら。
 ――『彼女』の耳に届いてしまうかもしれない。
 それは伯爵にとっての気がかりであった。先日、自らの邸宅で倒れた彼女に万一また……いやそうでなくても……

「……しかし、止むを得ませんね」

 だから伯爵は決断する。彼女の耳には伝わらぬ様に――内密に依頼を出そう、と。
 ローレットとは懇意にしている仲だ。そういう意図も不可能ではないだろう。
 手紙をしたため早馬走らせ。
 伯爵は願う。
 どうか彼女の耳には――入らぬ様にと。


「さぁ! ご来場の皆様、どうぞご観覧あれ! 当マーケット自慢の一品を!!」
 幻想西部オルフェン街。
 海に面し、港町として栄えるここでマーケットが始まっていた。
 勿論――それは遊楽伯爵が懸念していたブラック・マーケットという意味でだが。
 ここは船の中である。港に停泊しており、大型の客船にしか外からは見えないが……中では表には出せぬような物品のやり取りが成されていた。そしてその物品には、問題になっている『奴隷』もまた存在していて。
「おい、準備はいいだろうな?」
「勿論です。今日の連中は高級奴隷としての目玉ですからね……既に着飾らせていますよ」
 司会も務めている奴隷商人が、舞台袖に控える部下とやりとりを。
 観客の者達は須らく仮面を身に着けている身なりの良さそうな者達だ……資産家か、貴族か。そこまでは分からないが――そんな彼らに相応の『モノ』として用意すべく、今宵集められた奴隷達は決してみすぼらしい姿ではなく、むしろ麗しい衣装を着せられている。
 その全てを売り物とする為。
 その全てを彼らに魅力あるモノとして映し出す為。
 肢体の端まで――艶らせて。
「よし、準備させておけ。オーナーが到着されたら、目玉商品として出すからな」
 商人が指示を出し、集まりし者達へと再び声を張り上げ始めた。
 周辺には警備兵が幾らかいるようだ。されどそう数は――少なくとも見える範囲には居ないように窺える。それよりも観客の数の多さが気になる所だ……幻想国内にこれ程奴隷を求める者がいるとは、辟易とさせてくれる。
「全く……多少マシになったとは言うけれど、幻想もまだまだね……」
「さて。どうしましょうかね~……もう暫く時間はありそうだけれども?」
 しかしそれも今宵までだ。
 高級奴隷として『わざと』捕まったアルテミア・フィルティス (p3p001981)とアーリア・スピリッツ (p3p004400)は拘束を受けながらも顔を見合わせ『動く』タイミングを計る。手には枷があるものの、奴隷としての見栄えを優先させているのかあまり堅牢なモノではない。これならば鍵開けの技能がなくても強引に破る事は出来るだろう。

 目標は――この船の『オーナー』である。

 今オークションの会場で司会をしている者は所詮下っ端でしかない。
 この船自体を運用している更なるボスが……いる筈なのだ。情報によれば場が始まり暫くすると挨拶に訪れるのが定例らしいが……その為にどのタイミングで動き始めるか、が重要であった。
「彼らは油断している様ですからね――かといって逃げられては面倒です」
 そう。小金井・正純 (p3p008000)の言うように、奴らはまさかここにいるのがイレギュラーズとは思ってもいない様である――だが一度動き出せば騒ぎが起こるだろう。観客の波に埋もれてオーナーに逃げられては元も子もない。
 それに――舞台袖に控えている巨漢の男、も気になる。
「…………」
 寡黙。一切言葉は発さないものの、しかし他の警備兵とは一線を画す雰囲気を醸し出している人物がいるのだ。その腰に携えている分銅付きの鎖は……奴隷が逃げ出した時や、何か不測の事態が起こった際の武器だろうか?
 オルベグ、と商人から呼ばれていたが奴にだけは気を付けた方がいいかもしれない。
 ――まもなくオークションが始まろうとしている。
 下劣な空気が周囲を満たす。さて、どのように行動したものか……
「……伯爵」
 雰囲気を感じ取りながら、依頼主でもある男性の顔を思い浮かべるは――一人の女性。
 虚空に紡ぐように。
 もしもこの場に彼がいれば『何故』と問うていたかもしれない。
 それは伯爵が、この依頼だけは知られたくないと思っていた――
 リア・クォーツ (p3p004937)。正に彼女がそこにいたのだから。

GMコメント

●依頼達成条件
 主催の奴隷商人『オーナー』の撃破、捕縛。

●フィールド
 幻想西部オルフェン街に停泊中の大型客船。
 時刻は夜ですが、船の内部は灯りで満ちています。
 この船は表向き他国から訪れた旅行の為の客船……なのですが、その実態は客船内部で様々な裏取引が成されています。これを利用する資産家や貴族が客船へと訪れている様です。

 内部では大広間の様な空間があり、そこで奴隷売買のオークションが行われています。
 皆さんは二つの立場として潜入できます。
 それは捕まった【奴隷】としての立場か
 外から【潜入】する者としての立場です。

 奴隷としての立場の場合、拘束されている状態からスタートします。
 しかし奴隷としての華やかさを優先されている為か、拘束はさほど厳しいものではないので鍵開けの技能が無くても、音を立てていいなら無理やりぶち破る事も可能でしょう。
 また奴隷の場合武器は身に着けていないものとして判定されます。(スキルは問題ありません)

 潜入者として参加すると武器を持ち込む事が出来ます。
 ただし何かしら警戒網を突破する必要性があるでしょう。
 隠密の技能などがあると便利かもしれません。

●敵戦力
・『オーナー』×1
 今回の奴隷売買の主犯です。
 実は派閥自体はバルツァーレク派の――貴族です。
 今までは遊楽伯の動きなどを警戒しながらこっそり動いていたようですが……ついにその動きがバレたのと、警戒していた伯爵の兵ではなくイレギュラーズが動いたために気付いていないようです。
 シナリオ開始後、暫くすると仮面をつけて舞台袖に現れます。
 奴を捕縛、もしくは撃破してください。

 なお、既に船のどこかにはいます。
 上手く調査出来ると舞台袖に現れる前に発見できるかもしれません。

・警備兵×??
 オークション内部には六名います。
 剣か銃を構えた者で構成されています。槍などの長物はないようです。
 戦闘能力はそこそこ程度。

・直轄兵『オルベグ』
 舞台袖に控えている巨漢な男です。
 顔を覆う仮面を身に着けており、寡黙な印象ながら強者の圧を窺わせています。奴隷が逃亡を試みたり、何かしら騒ぎが起こると鎮圧のために動き出し、その手に握る分銅鎖で抵抗力を奪おうとしてくるでしょう。

 分銅鎖は遠距離まで届き、優れた命中と腕力があります。
 分銅鎖がマトモに命中すると『不吉』『足止』『乱れ』『ショック』の中からランダムに二つ、付与される事があります。更に鎖を絡ませて己が至近へと対象を引き寄せる事もあるようです。
 反面、あまり素早くは動けない上に範囲攻撃は無いようです。

・観客達
 資産家か貴族か……詳細は不明ですが、皆須らく仮面を身に着けています。
 彼ら自体に戦闘能力はありません。
 戦闘などの騒ぎがあれば我先にと脱出を図るでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 醜悪なるコロニー完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)
混沌の娘
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
※参加確定済み※
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
※参加確定済み※
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
※参加確定済み※
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート

リプレイ


 ――あの日が思い浮かぶ。
 暗き場所。光届かぬ悪意に埋もれる場。過去の記憶を想起せしは『陸の人魚』シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)だ。『こういう』経験は昔にも――あるのだと。
「暗くて怖い所に売られるのだけはいや。おねがい! せめてちょっとでもイイところに私を売れるように綺麗にしてほしいな。高く売れた方が君たちにも良い、そうでしょ?」
 着飾りの係に口走るは演技――否。
 彼女の本心だ。かつて抱いた、経験上のだが。
「ねぇおねがい……私、私、どうしても……」
 涙ぐむように魅せて彼女は懇願し。ならばと用意されたのは――おや。
 胸元が大きく強調され、素足が可能な限り晒される衣装だ。いやこれはうっかりすると――なんでもじゃないよ! なんでもじゃ……えっちなのはダメだと思います! え、これを着てれば高値間違いなしって? だめってば――!
「ふふ……それにしても懐かしいわねぇ、オルフェン。
 この街にもう一度戻って来る事があるなんて思ってもいなかったけど……」
 同時。この街に蔓延る空気を吸うのは『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)だ。
 かつて――アーリアが商船の積荷に隠れて逃げて来たこの街。
 ……あの時と変わっていない気がする。女を食い物にする下衆な男が大勢いて、建物の陰では悪意と欲望が恐悦の声を挙げていた。こんな街――
「美を愛する伯爵の領地には似合わないのよ」
 だからアーリアは動く。シグルーンの声が着付け係を引き付けている内にその影で。
 放つのは鼠だ。ファミリアーにより創り出した――使い魔。
 これをもって周囲を探る。聞き耳立ててオーナーを割り出すのだ。
「バルツァーレク派に連なる貴族でありながらこんな事をする方がいらっしゃるなんて……とても信じがたい事です。自然とこう思ってしまう……バルツァーレク派だからこそ、でしょうか。隠れるにはうってつけですよね」
「こ、これ失敗したら売られちゃうのかしら……? せ、潜入はちゃんとできたみたいだけど、もしも、もしも万が一失敗したら……うぅ……嫌ぁ……」
 更に『武の幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)もアーリアに次いで使い魔を放つ。優れた五感を共有して更に捜索の範囲を広げるのだ――『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)は怯えながらも敵意を探知する術を走らせる。
 奈々美の脳裏に走るのは己に訪れるかもしれない嫌な未来だ。
 ああきっとこの後競売に掛けられ、オークみたいなおじさんに買われるのだ……そしてそのまま連れ帰られれて【検閲】的な事になり【検閲】に溺れさせられ、下手すれば【検閲】を【検閲】して末路は【検閲】的な事になるかもしれない……
 そうはならぬ様に尽力しようと健全な魔法少女は闘うのであった――!
「はー……しかし私片腕こんなですが、売れる気がしないんですが、こんな場に連れてきたオーナーも一体何を考えているのか……いやそもそも売られる気もないですけど」
「いんやー、このメンツで捕まっちゃうってのもなんか新鮮で良き良きだな! ぶははははは! ……あれ、ところでほむちゃんは? いつものほむちゃん居なくね? あれ? もしかしてこれマジのやつじゃん? とりまやばたん」
 吐息を漏らすは『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)だ。己が片腕は義手であり――美しき素肌を晒す面々が多い中では眼を引くと正純自身は考えている。一方で陽気なテンションながら『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は某火付け人がいない事にやばばを感じて動き出す。
 そう――イレギュラーズ全てが奴隷として潜入しているのだから。
 万が一仕損じれば全員どこかに売られ消息不明となってしまうだろう……
 故に正純は周囲を観察し少しでも情報を集めんとする。暗き場所すら見通す目をもってして様子を伺うのだ……秋奈も誰かが近付いて来れば。
「やだ……こわいよぉ、お父さん……かえりたいよぉ……うぅ……」
 強引に連れてこられた清楚なか弱い囚われの少女として涙目で――くそ、誰だコイツは! さっき『ぶはははは!』とか笑ってたぞ! ともあれイレギュラーズ達は動き出す。周囲の調査や演技をもってして……
「……この国は多少マシになったとは言うけれど、結局は何も変わっていない……まさか我が家と同じバルツァーレク派にもまだこんな輩が潜んでいたなんて……!」
 そして『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が皆の枷を解錠し始めていた。こんな事もあろうかと移動させられている間にわざと足を縺れさせるように転んで――床に落ちていた小さな針金を手に入れていたのだ。
 代わりに『さっさと歩け!』と腹を蹴られたものだが、その程度の苦痛は安いもの。
「緩いものよね……悔し気に睨み上げたら、良い気になっていたわ」
 多少腹は痛めど、さほど問題はない。
 それより此れより先は欲望だけを抱いた下劣なる者達が集まる場。
 ああ――『だから』なのだろうかと『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は思考する。伯爵が今回の依頼をあたしに伏せていた理由は……きっと……
「……伯爵。貴方はあたしに失望するでしょうか?」
 ある青髪の少女がうっかり口を漏らさなければリアはこの依頼自体を知らなかったかもしれない。けれどこうも考える――知ったのはもしかしたら、運命なのではないかと。
 あの人がこの事を知ったらどういう表情を浮かべるか。
 ……分からないし、想像する事自体が怖いけれど。
「伯爵……ガブリエル様……それでもあたしは、貴方のお役に立ちたいのです」
 枷が外される。
 武器は無く、自前の知恵と意志だけでこの場を切り抜けねばならぬ。
 きっと――帰るべき場所に帰るためにも。


 アーリアらの放ったファミリアーが各地を巡る。
 ドレスの中に仕込んでおいて鼠が物陰やダクトを。聞き耳立てて情報を入手。
 ――オーナーはどちらに――? ご挨拶を――?
「さ、て、とぉ。そろそろ動き始めましょうか?」
 さすればアーリアはアルテミアと正純に合図を送る。行動開始の合図を、だ。
 警備の者に『ねぇ』と声を掛けて。
「オークションまでもうちょっと時間があるんでしょう――? ちょっとの間で良いから、お手洗いに行かせてくれない?」
「何を言うか。もうすぐ始まる、大人しくしておけ」
「商品が汚れてたら……価値が下がるわよ? それは貴方達が怒られるんじゃあない?」
 そ・れ・に――と、アーリアは小声を。耳元に吐息を零しながら。

「脂ぎった貴族の前に、貴方達に一瞬でイイ夢も見せてあげるから」

 誘惑するのだ。貴族が高値を出す女を先に味見できるのだ――と。
 彼女の言葉は耳から味わう甘露の如く。抗えようか、傍目には拘束されし無力な女。
 艶を携え、主張してくる数多の魅力を前に――表情を崩す警備の者は『やむなし』とばかりに扉を開けて。
「一人じゃ寂しいのです……一人は、嫌なのです。
 ……私と一緒にいてくれませんか?」
 更に秋奈も警備の視線を逸らすべく上目遣いで敵の視線を己の向けさせるものだ。
 開錠に気付かせず、奴らの注意を引く。今少し、動くまでの間を――今少し。
「……ねぇ、ちょっと。ここ風の流れが悪くて……汗かいて気持ち悪いの。
 あたしはこの通り拘束されてるから、代わりに拭いてくれない?」
 同時。リアが別の者に晒すは背中だ。
 服の構造上、背後は大きく開かれ素肌がそこに。微かに見える汗が艶やかなる雰囲気を醸し出して……魅力がより鮮烈に際立っている。
「へへ、それぐらいならいいだろう。よし、動くなよ――」
 さすれば男が一人布を持ってきて背中に付ける。
 拭き取りながらも、しかし男の手が不遜にも『前』の二房にも至ろうとした――その時。
「ありがと、お馬鹿さん」
 打ち倒す。
 それは刹那の出来事であった。拘束している筈の腕が自由に動いて男の首に。
 締め上げ手刀の勢いを脳髄へ。夢見の中で続きをしてろ。
 同時に秋奈が引き付けていた者も同様に意識を刈り取る。
 武器が無くてもやりようは幾らでもあるものだ――アーリアが連れて行った警備の者もあらば、注意が薄くなったこの場での騒ぎを感知しうる者はおらず。
「出来た――これで全員分の枷は外れたわ! 後は……!」
「待って。どうやら、始まるみたいだよッ」
 そしてアルテミアが最後の枷を外しきった。
 流石にその場で急遽手に入れた針金では多少苦戦した様だが……しかし皆の時間稼ぎもあって無事に完遂。であればとその時丁度、会場の雰囲気の変化に気付いたのはシグルーンだ。
 場が沸き立っている。早く買わせろと獣共がいきり立って――
「ち、近くに警備はいないみたいだよ……どうする……? い、いっちゃう……?」
「オーナーが来た時に一気に行きましょう……そうしたら後は速度が勝負です……!」
 不安げな奈々美は常に周囲の敵意を探りつつ、皆と息を合わせんとする。だがまだだ。往くとすればオーナーが出てきた正にそのタイミングだとハンナは視線を巡らせる。
 出るのが早すぎればオーナーが逃げる。遅ければこちらの騒ぎがバレる。
 チャンスは一度、一瞬限り。
「私が行くわ。どうやら競りが先に始まりそうだし、時間を稼がなきゃ……オーナーが出てくるまで……!」
 故にアルテミアはまだ枷がされているように振舞いながら自ら『場』の方へと。
 往けば――心臓の鼓動が跳ね上がる。
 其処にあったのは無数の『目』だ。彼女の全身を嘗めまわすかのような視線がほぼ全方位から突き刺さって来る。欲に塗れ、肢体の端まで見据える……舌なめずりの魂。
「こんな奴等が居るから、“あの子”はあんな目に……ッ」
 思わず出してしまった怒りの表情――
 こんな奴らがいなければ……もっと世界が、豊かな人々が皆に優しければ……

 『あの子』と――遥か異国の地で、あんな再会をする事なんて――ッ!

「来ましたッ!」
 瞬間。ハンナは気付く。
 彼女の放っていたネズミの使い魔が会場の様子を、共有されし瞳に映し出して――
 そしてオーナーの存在を感知したのだ。
 これより競りを始めますと、手を翳しながら壇上に上がる一人の存在。
 明らかに手下の雰囲気ではない。奴だ!
「――こんな衣装を着せてジロジロと人様を見ていたツケを払っていただきましょうか。
 女の肌を無秩序に晒す服を着せるだなんて……万死に値します」
 故に、往く。
 正純もまた露骨に布の面積が低く、局部を目立たせる奴隷のドレスの様な衣装を着せられていたが――この格好は何より寒いのだ。早く終わらせて着替えさせてもらうとしよう。
 オーナー。
「貴方を一度――殴らせて頂いた後で」
 五指を握りしめる。
 ああ――ステゴロの感覚は随分久しいと、昔を思い起こしながら。


「んっ……なんだ? 何か音が」
「あら、どこを見てるの? こんな女が目の前にいるのに……いやな人ねぇ」
 瞬間。手洗い場へと連れ込んだ警備の者を――アーリアは一瞬で堕とす。
 月の魔力がまるで酔わせるように。脳髄に沁み渡り昏倒させて。
「残念ながら安い女じゃないのよねぇ。身体を許すのは素敵な人とだけって決めてるの」
 そう、例えば――『彼』の様な。
 思いめぐらせ、しかし暇はない。アルテミアにより外されていたが、外れていないように見せていた枷を今こそ外し、アーリアは駆ける。恐らく先程感じた気配は――行動を開始した故の気配なのだから――ッ!
 同時。会場では一気に喧騒が広がっていた。
 イレギュラーズ達の行動が混乱を巻き起こしているのである。狙いはオーナー。邪魔をする者達は――すべて排除する!
「腐ったクソ野郎め……! あの方の優しさに付け込んで、裏でこんな商売をしてるだなんて! 伯爵の顔に泥を塗るあんたは絶対に逃がさないわ!」
 リアはわずかに飛行し、邪魔されぬ空中を闊歩しながら真っすぐオーナーへ。
 奴もまた混乱している様だ。この機にその身柄を確保し、逃がさない!
 自らの存在を名乗り上げる様に奴へと向かい――しかし。
「おっとぉ、リアちゃん気を付けな! やべー奴がいるぞい!」
 そのリアの下へと放たれるは分銅だ。
 オルベグ――傍に控えていた男が動き出したか! 即座に秋奈がその分銅を弾く。正しきを標榜する審判の一撃にて敵に接近しながら。
 騒いでいる観客共は無視だ。むしろ奴らが逃げ惑えば警備員の到着が遅れる事も見込める故、わざわざぶちのめしてやる意味もない。オルベグと警備員だけに注視し、オーナーを倒す。
「借っりるよこれ。いつものとは違うけど、贅沢はいえないね」
「ええ――まぁ最悪拳でなんとかするしかありませんね!」
 そして秋奈は控えていた際に倒しておいた警備員から武器を拝借。
 剣を二振り使いて、なるべくいつもの様にと。一方でハンナは拳にて剣の舞を再現。
 拳でもまぁまぁ使えるのだと。武神(かみ)に捧げる血の舞を――今日は特別に!
「ははは、偶には良いのではありませんか? こういうのも、ね!」
 一方で正純は――むしろ気が昂っていたような気もする。
 久々の拳だからだろうか? 顔を殴れば骨の感触が伝わって来る――ああこれがステゴロの感覚だ。弓では味わえぬ殴り合いの極致。
 ――闇夜に光る眩き星よ。
 今宵は天にて輝くその一線を、地上にて顕現せしめん。
 天に吼える狼は地上でも無双たる権化であるのだと――祈りを五指に、敵の防御を砕かん!
「な、なぜ奴隷如きがこれ程戦える……!? 止めろオルベグ! 私は――」
「逃げるつもりかしら? そうはいかないわ……売られる人たちの苦しみを知りなさい!」
 未だイレギュラーズであるとは気付いていないオーナーへと往くはアルテミアだ。
 手刀による一撃。それは双炎の蒼と紅を乗せている……『あの子』もいるのだと。
 奇襲し、倒れている警備兵があらばそこから彼女も剣を奪い――
「……させん」
 されど何もかもが順調では流石になかった。
 武器の有無と警備員から奪うまでの間――いつもと同じ調子とはいかない。
 そこへオルベグの分銅が襲い掛かる。奴の鎖は鋭く、正確だ。
 アルテミアの腹を撃ち抜き、それは一番最初に蹴られた場所でもあって――鈍い痛みが彼女を襲う。そして逃げ惑う観客達を掻き分けて警備員たちも至れば、イレギュラーズ達にも負傷が増えるものだ。
「ひ、ひぇええ……! でもまだ、まだ……! 捕まる訳にはいかない……!!」
 だからこそ奈々美は必至にならざるを得なかった。
 【検閲】的な事は嫌だ。一応あたしは……健全な魔法少女なのだから……!
 苦難はあっても【検閲】はいけない。火力で貢献していくのだと――歪みの力が敵をねじ切る。同時。シグルーンの呪いのキューブもまた、警備兵の一人を包んで。
「……ね、オーナーさん。君の顔と名前、私忘れないことにするね」
 そして告げる。まるで死神の様に。
 例えば貴方がここで死のうと、生きようと。どんな結末だろうと。
 ――お前は何がなんでも逃がさないと。
「オルベグ、早く倒せ奴らを! 早く!」
「――あらあらオーナーさん、随分焦ってるわねぇ」
 シグルーンの気配に圧倒されたオーナーが焦り声を飛ばし、シグルーンへと分銅の一撃を放たせるが――駆けつけたアーリアの一撃が代わりにオルベグへと。
 奴の身体が揺らぐ。なんらかの負が奴に纏わり付いたか、動きが鈍って。
「でもね、もう貴方は駄目よぉ。奴隷売買の長としても、男として、ねぇ?」
 もう『使い物』にならなくしましょうかぁ――
「そこ、踏むわぁ」
 小奇麗な床にアーリアの靴が良い音を響かせる。
 ――と同時に轟く絶叫があるのだが、さて果たして彼女ついでに何を踏んだのか。
「こんな場を主催しながら随分ダンスが下手なようで。あの方の足元にも及ばなくてよ?」
 そしてリアが再度往く。邪魔な警備兵を押しのけながら。
 傷ついた仲間には治癒の祝福を。傷付いたオーナーには――地獄の苦しみを。
 あの日の――ダンスを共にした伯爵の顔を思い浮かべながら。

 オーナーの意識を奪う一撃を奴の顔面へとくれてやった。

「ぬ、ゥ――」
「さ、さささ……今の内に逃げよ……! 敵も……浮足立ってるし……!」
 オルベグらの動きは鈍い。が、これ以上奴らと死ぬまで戦う意味も無し。
 奈々美は撤退を進言するものだ――オーナーを捕縛すればもうOKだと。
 ……しかしもしオークションが予定通り開かれていたら値段はどうなっていたのだろうか。もしも露骨に値段が低かったりしたらどうしよう……うぅ……
「そうですねとりあえず退きましょうか! 私も結構スッキリしましたしね!」
 同時。紡ぐのは正純だ……もうすでに意識のなく顔面血まみれの警備兵の胸倉を片手で掴み上げて表情を輝かせている様は――その――なんというか恐ろし、あ、なんでもないです正純さん!
 ともあれこのような奴隷用の衣装などごめんだ。
 オルベグが復帰する前に、警備兵達を捌きながら――外を目指そう。
「これで……またもう少しマシになれば良いのですがね……!」
 そしてファミリアーにより脱出路も入手していたハンナが呟く。
 新参なれど己もバルツァーレク派の一人であれば。

 この国が清らかなる幻想になる事を――願っているのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)[重傷]
混沌の娘
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女

あとがき

 ――他者の魂と尊厳を支配したい輩はどこにでもいるのでしょう。
 しかしその内の一人の野望は……今日ここで潰えたようです。

 ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM