PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>Irregulars auction

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 どうしてなのだろう――
 こんなにも愛しているというのに。

 月のあかりが窓から差し込んで来る。
 一人の少女が月明かりの広場でクルクルと踊っていた。
 たどたどしい足取りのステップも、小さな身体も。全てが愛おしい。
 それを、じっくりと舐めるように見つめる一人の男。
 豪奢な衣装に身を包み、豪華な椅子に腰掛けて、踊る少女を見つめている。

 少女はいつ、自分の愛を受入れてくれるだろうか。
 明日か明後日か。どれだけ愛を囁けばいいだろうか。
 彼女に愛が満たされるまで、触れたりはしない。
 ただ、見つめて。愛を伝えるだけだ――

「でも、ボクの愛をみんな受け取ってくれないんだ」
 悲しい声が部屋の中に聞こえてきた。
「だから、分からせてあげようとするんだけどね。どうしても、壊してしまうんだよ」
 三ヶ月ほど経って、愛を囁き終わった頃。
 その男は愛を受入れなかった者を壊してしまうらしい。
「仕方ないから、次の子を見つけるのさ」

 次はどんな子が来るのか、楽しみだと男は満面の笑みを見せる。


「今回はですねー、奴隷になってオークションで落札されてくださいー」
 誰かが『旅の占い魔女』セスカ・セレスタリカ(p3n000197)の顔を見つめて、苦虫を噛みつぶした様な表情をした。
「いや、これは仕方の無い事なんですよー」
 間延びした声が席を立とうとするイレギュラーズを「どうどう」と押しとどめる。
 セスカに呼び止められ、とりあえず、ローレットのテーブルに着くイレギュラーズ。
「幻想にあるパトリテという地域で、行われるオークションがあるんですがー、そこに来る悪徳貴族の足取りを追うための潜入捜査なんですよー」

 週末に秘密の場所で行われるオークション。
 美しい美術品から、骨董品。そして、観賞用の奴隷まで売られているというのだ。
 そこに訪れる者は仮面を被り、素性が分からない。
 誰かの代役という可能性もあるのだ。

「そこに現われる一人とされているのが、フランソワ・ディ・ラトルルという貴族なんですよー。何でも定期的に観賞用の奴隷を買い漁っているのだとかでー」
 最初の三ヶ月は一切の手を出さず、愛を囁き、心を解きほぐす手法を用いるらしい。
 三ヶ月もあれば、素直な子供なら懐いてしまうかもしれない。
「でも、その貴族の愛はとても重くてですねー、普通の子供なら耐えきられないという事なんですー」
 以前に奴隷を買ってから丁度、三ヶ月。
「おそらく、今回、その貴族は現われるに違いないのです。それで、最低一人が、悪徳貴族フランソワ・ディ・ラトルル男爵にオークションで落札され、アジトに連れて行かれれば証拠もばっちりなんですよー」
「他の人に買われる心配は無いのか? 会場はそいつだけじゃないだろ?」
 イレギュラーズはセスカに疑問を投げかける。
「ええ、そうですねー。でも心配ありません」

 セスカは悪徳貴族の好みのタイプを読み上げる。
 それは――

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。
 今回の依頼は『奴隷になってオークションで落札される』です。
 これはローレットからの依頼なので、仕方が無い事なのです。
 わかりますね?

■依頼達成条件
 オークションで落札される
 悪徳貴族のアジトを突き止める

■フィールド
 幻想のパトリテという地域です。
 奴隷オークション会場です。
 オークションパートと救出パートにわかれています。

■オークションパート
・最低一人
・好みのタイプは、あなたです。ストライクゾーン広すぎ!
・誰もやりたくない場合はセスカを犠牲にしましょう。
・男爵の好みは、売られる人です! 都合がいいですね!
・ちなみに鑑賞用奴隷であるため、老若男女問わず超セクスィな衣装を着ることになります。やったぜ!

■救出パート
・馬車をつけて悪徳貴族が奴隷を収容しているアジトを突き止め、落札された人が収容される前に救助しましょう。
・馬車をぶちころがすのです。
・全員落札される側にいってしまった場合は、セスカが魔術でぶち転がしてくれますので、戦って逃げましょう。
・悪徳貴族は三か月は絶対に手を出しませんので、同じ馬車に乗っても安心です。

■同行NPC
『旅の占い魔女』セスカ・セレスタリカ(p3n000197)
 世界中を旅して占いなどをしている魔法使いの女の子。
 旅の路銀も少ないため、もっとギルドに顔を出そうと決意した。
 魔法を使って攻撃や回復を行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>Irregulars auction完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月10日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

サポートNPC一覧(1人)

セスカ・セレスタリカ(p3n000197)
旅の占い魔女

リプレイ


 幻想国のパトリテ。夜の月が浮かぶ時間。
『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)は件の悪徳貴族フランソワ・ディ・ラトルルに苛立ちを覚える。
「一方的な愛を囁いては、気に入らずに人を壊してしまう繰り返し……一体どんな狂人なのかしら」
 敵はとてつもなく問題のある人物に違いない。
 しかし、ワルツは一人では無い。仲間のイレギュラーズが居るのだ。幾度の大戦を戦い抜いてきた猛者がついているのだ。身の安全は確約されたようなものだろう。
 フランソワがこそこそと一体どんな悪事をはたらいているのか。
「この目で確かめ暴いてやろうじゃない!」
 ワルツはそうだろうと『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)へと振り返る。
「三ヶ月ごと定期的に……一体、今までにどれだけの人数を犠牲にッ」
 アルテミアはギリリと歯を食いしばった。
「定期的に、三か月ごとに、なんて知られるくらいという事は
 もうずっと長く続けている、という事ですね」
 何人も犠牲になってしまったのだろう。『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は儚く散って行っただろう奴隷達に思いを馳せる。
「何人も何人も……これ以上、赦す訳には行きません」
「ええ、絶対にここで止めてみせる、その為ならこの身を囮にしたって構わない!」
 アルテミアの慟哭(けつい)が夜の闇に響いた。

「さて、奴隷ばかりを選ぶのは、壊しても咎められないから、か?」
『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の金色の髪がぐるぐると怒りを表す。
「初めから己の愛は届かぬと、知った上での手慰みだとしたら。尚更醜悪、だな」
 眉を顰めて嫌悪感をあらわにするエクスマリア。
「愛を受け取れずに、壊れてしまうから……次を、見つける……?」
 心底、忌避感を顔に浮かべる『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は首を横に振った。
「いいえ、いいえ……そんなもの、愛ではありません。愛は押し売りする、ものではありません」
 胸に手を当てて苦しげな表情を見せる。
 愛は尊いものなのだ。一方的に押しつける物でも、強制するものでもない。
「奴隷として閉じ込めるだけでなく、愛を囁くだけ囁いて受け入れなかったら壊すなんて。そんな事許されないわよ!」
 ネーヴェの隣で『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)も憤る。
 今まで犠牲になってきた奴隷達は、その愛を受入れられず、命を散らしたのだ。許される筈もない。
「あらあらまぁまぁ♪ 悪い方もいるものですね♪ 悪い子は首を刈ってしまいましょうね♪」
 月光に『首神(首刈りお姉さん)』紅迅 斬華(p3p008460)の剣が光った。
「いえ、今回は調査が目的ですのでー」
 斬華の言葉に『旅の占い魔女』セスカ・セレスタリカ(p3n000197)が首を振る。
「え? 刈っちゃだめ? 残念です……。では適当に刈っていいものを首にしておきます♪」
 剣を仕舞った斬華は溜息をついてにっこりと笑った。

 ――――
 ――

 ワルツは正体がばれないように、髪型を下ろしメイクも何時もと違う色合いをのせる。
 普段とは違った、超セクスィな格好とはどのようなものだろうかと、不安になるけれど。
 あんまりに恥ずかしい服装じだったらどうしようと口を引き結ぶ。
 ワルツが着せられたのは大胆な切り込みの入ったドレス。深いスリットからちらりと見えるのは、ひも。
 赤い髪と対照的な白いドレスがとても扇情的な雰囲気を醸し出す。
 それだけではない。頭には小さな白銀のティアラが乗り、腹部はおへそがしっかり見える
 ――でも! でもでも! ここまでは、そこまで普段とは違わないと己に言い聞かせたい所だが。
 襟から胸元への布地は、カーテンか暖簾のように、ただそこに『乗っている』。
 風でも吹けば大惨事になりそうだ。
 頬を染めるワルツが隣のリースリットを見上げた。
 観賞用奴隷という性質上、際どい衣装を着せられてしまうのは仕方の無い事なのだ。
 覚悟を決めたリースリットは真っ赤なドレスを身に纏う。やはり今にもめくれそうな胸元は、あまりに心許ない。
 ワルツの白いドレスと合わさって綺麗なコントラストを彩っていた。
 辺りを見渡すと『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)の姿もあった。
 秘宝種には性別は無いが、グリーフは女性の体つきをしている。勿論、合わせられるのもセクシィなドレスだった。
 裾の短いチャイナ風のドレスは、すらりと伸びた脚を強調して美しい。
 他は肌の露出こそ多くないが、美しい刺繍を這わせた絹の生地は余りに薄く、また身体のラインをそのまま強調させており、むしろ扇情を煽っている。

 多少、オークションに掛けられる人数が多いかとリースリットは思案するが何人居ても問題無いだろう。
 フランソワの顔を見ておきたかったのもある。
 流石に、万が一でも素性が割れるのは避けたい所だ。普段は降ろしている髪をアップにして前髪を分けてみる。ステージで映えるように赤い口紅を塗れば、普段とは打って変わって艶やかな色気を纏った。
「リース姉様綺麗……」
「ありがとう、……ロンド」
 手を絡め合ったリースリットとワルツ。ちょっと尊み溢れすぎる光景。
 ともあれ今日は幻想種の姉妹という設定で行くのだ。
 リース姉様とロンド。それが姉妹の名前だった。
 握ったワルツの指先が震えている。流石に奴隷扱いをされる機会は初めてで、はらはらと不安がつきまとうのだ。けれど、信頼できる親友リースリットがぎゅと手を握ってくれる。
 それだけで安心するとワルツは姉役のリースリットを見つめた。本来であれば年上のワルツが姉役をするべきなのだろうが。身長が高いリースリットが姉を担当するのだ。
「大丈夫」
「リース姉様」
 常に傍に寄り添って、お互いを気遣い合う不憫な幻想種の姉妹を演じる。
 スポットライトの中に吸い込まれていくワルツとリースリット。
 震える妹を抱きしめて「大丈夫よ、ロンド」と会場に聞こえる程度の声で慰めた。
「手を繋ぎ、頬を寄せ合いなさい。手のひら同士を合わせるように、そうです」
 司会のおばはんによって、尊いポーズをさせられる姉妹。
「視線は互いの方へ。ええ、そうです。それから次は自由型です」
 なんだ自由形って。ええと。妹のワルツが不安さや儚げな振る舞いをするのを優しく抱き留めるように腕を回す。
 それはさておき。これまでの情報を読み解く限り、フランソワは相応程度にきちんとした振る舞いをするだろうとリースリットは読んでいた。
「では千ゴールドからスタートです」
 木槌の音が響く。
「十二万」
 値が跳ねた。
「十八万」「二十七万」「四十八万」
 どんどんつり上がっていく。
 だが最高落札者は――
「いいね。君達姉妹は離れてはいけない。両方とも買い取ろう。三ヶ月後には、二人の間に入ってあげるからね」
 数人の貴族が舌打ちした。
 万死に値する台詞を吐いたフランソワは、誰も手出し出来ないような値段でリースリットとワルツを落札する。
 その振る舞いを見てリースリットは『少し安心して感謝を示す』ようにお辞儀をした。

 エクスマリアはグリーフと共にステージの上に立つ。
 儚き花もあるし、目は引きやすいだろうとエクスマリアは会場の貴族達を見渡した。
 別に無くともフランソワは随分と気の多いタイプらしい。
 手枷、足枷も無くステージの上に連れて来られたエクスマリアは髪を縛られなくて良かったと安堵した。
 彼女の髪は自在に動かせることが出来る。
 それを悟られるのは面倒だからと長い髪を首に巻き付けたのだ。
「……しかし、観賞用奴隷とは、聞いた、が。この服は、寝間着とするにも、随分薄い、な」
 小声でグリーフに話しかけるエクスマリア。
 エクスマリアが着ている衣装は、薄い薄いシルクのワンピースだった。
 シルエットもレースやリボンも、飾りそのものは実はかなり可愛らしい。
 だがこうしていざ身につければ裾は極端に短く、かえって背徳感が強い。
 なにより光の当たり具合でシルエットが透けて見える。エクスマリアの褐色の肌に白いワンピースが乗せられている。
 下はあまりに浅く、少し動くか座りでもしただけで、大変けしからん光景になりそうだ。
「スリットを見えない程度にめくりなさい」
 膝立ちでポーズ、次はのけぞったポーズ。腕で胸元をはさみこむポーズ。グリーフに次々と命令が下される。
「表情は恥ずかしげにしなさい」
 いずれも扇情的なポーズの指示だった。
「もっとこう。このような表情です」
 頬を染める名演技を見せる司会のおばはん。
 いや、しかし。言う事を聞かねばならない。
 ええと、次はエクスマリアの版だ。
「この大きなボールに座って、上下に弾みなさい」
 司会のおばはんがエクスマリアを、なんかでっかいボールに座らせる。
「表情は切なげにしなさい。弾むのをやめてはいけません」
 この司会のおばはん、やたらと注文が細かいぞ。
 さて、お値段は。こちらも先程と負けず劣らずつり上がるが――
「二人ともいいね。この子達も私が買い付けよう。二人とも、三ヶ月たったら、着ているのか着てないのか分からないような水着を買おうね。白い子は紐だけの水着、褐色の子は超マイクロにしようね」
 またもや最高値をつけたフランソワに、会場がどよめいた。

 続けて出てきたのはアルテミアだ。
 どこか花嫁姿を思わせる、麗しい衣装。
 白いレースが胸を包み、ベルトが腕と胴体を繋ぎ止める。
 綺麗な足を可愛らしくドレープのスカートが流れて行った。
 金色の首輪から伸びる鎖が胸の谷間に食い込み金属音を鳴らす。
 とても際どい衣装だ。セクシィという他無いだろう。
 お分りいただけるだろうか。例のおなじみの(!?)衣装とポーズである!
 羞恥に伏せる睫毛が一層アルテミアの美しさを引き立てた。覚悟の上とはいえ、じろじろと見られるのはやはり不快感が付き纏う。
 アルテミアはステージの上から貴族達を見つめた。こんなに沢山の貴族が奴隷を求めているなんて。
 欲に塗れ、肢体の端まで舐め回すような視線がアルテミアを這い上がる。その不快感に怒りを覚えるアルテミアだったが、表情には出さない。出さないが。
 フランソワは豊満な胸と長い髪の容姿も好みらしい。
「立ち上がって歩きなさい」
「……」
 司会に歩かされると、たわわな果実がふるふると揺れ、あわやこぼれおちそうだ。
 後ろで拘束された手首が、ふいに解かれる。
「両手でハートを作り、こう、こうです、このようなポーズをなさい」
 ポーズをやって見せる司会のおばはん。
「……」
 貴族達の視線は、萌えきゅんなポーズをとらされたアルテミアに釘付けになっている。
「手をこう、こんな風にネコっぽくして、上目遣いに『にゃん♪』と言いなさい」
「……にゃん」
「音符が足りません。ウィンクして、羞恥と笑顔をない交ぜにした表情で言いなさい」
「……にゃん♪」
 最近どこかで聞いたような光景かはしらんけど、会場の貴族達が興奮し「いやしかばい」とどよめいた。
 けれど、もう一押しとアルテミアはキッと貴族達を睨み付ける。
 ――何をされても私は絶対に屈しはしないッ!
 こうした場面で絶対に想うべき本当に大切な心情を感じ取ったのか、ごくりとどこからともなく唾を飲み込む音が聞こえた。
 やはり値段は先の二件と同じように、どこまでもつり上がるが。
「いいねぇ。その瞳が愛に切なく揺れる様が是非見たい。三ヶ月たったら語尾にいつでも『にゃん♪』をつけようね」
 アルテミアの拘束を取り外しエスコートするように手を差し伸べたフランソワはそのまま彼女の手を取り席を立つ。
「では、君達にはこれから毎日愛を囁こう」
 馬車に乗り込むフランソワはアルテミアたちに、歪みきった笑みを向けた。


「君達は私の愛を受け取ってくれるかい」
「そうだね。『ご主人さま』壊れてしまうほどの、重い愛、というのも気になるかな」
「そうかい。君はわかってくれるかい」
 エクスマリアはフランソワの気を少しでも引こうと言葉を投げかける。
「愛とは、なんなのでしょうか」
 馬車の振動に揺られるグリーフは目の前のフランソワに尋ねる。
「……愛は、尊く、最高の感情だ」
 フランソワは決してグリーフには触れずに微笑んだ。
 グリーフは愛する女性を模して作られたものだ。
『製作者』から愛されるために生まれた。『製作者』を愛するように定められた。
 ――けれど、ワタシは私で。ニアにはなれず。
 ニアに漸近するために向けられた製作者からの感情は、1年間の愛と、1年間の憎悪。
 目の前のフランソワの感情は、製作者と同じなのだろうか。
「その愛憎の先に、なにがあるのですか……?」
「私もそれを知りたいんだ」
 フランソワの向こう側に窓の外が見える。グリーフは尾行してくるなかまの姿を捉えていた。
 アルテミアは愛を囁いてくるフランソワに嫌気がさしていた。そして言い放つ。
「そんな言葉だけの薄っぺらい愛なんて、いくら囁かれても受け取るつもりは無いわ」
「おやおや。そんな事言って。私の愛は海よりも深いんだよ」

 レイリーはオークション会場が見える場所で静かに潜み、出てきたフランソワ達を尾行していた。
 鎧などは脱いで金属音を消し、出来るだけ身軽な服装で馬車を追う。
 その後ろを着いてくるのはネーヴェと斬華だ。
 何でも見通すネーヴェの瞳はレイリーの行動をしっかりと捉えている。
 レイリーはアジトらしい貴族の館を見つけ、後続にハンドサインを送る。
 突撃のタイミングを見計らい、瞬時に武装を装着した。

「私の名はヴァイスドラッヘ! 愛を侮辱する者を討つため只今参上!」
 レイリーの名乗りと共に、ネーヴェと斬華が馬車の車輪を叩ききる。ついでにセスカも攻撃した。
「ふふ~ん♪ 車輪は首♪ ちょりゃぁぁぁぁぁ!」
 真っ二つに割れた馬車の車輪とゴロゴロと転がる馬車。
 そうだ。シャフトを斬るのは首をはねるのと同じだ。
 斬華は気持ちよく車輪を刈り取り満面の笑みを零す。
「車輪さえ刈ってしまえばもう逃げられませんよね♪」
 なんなら馬と馬車を繋ぐ留め具もそうだと言わんばかりに、さらなる一刀。
 自由になった馬が風と共に駆け出す。
 ぶち転がされた馬車の中、もぞもぞと動く仲間の姿があった。
 貴族のアジトから何事だと衛兵が飛び出してくる。
「この目で見させてもらった。覚悟しろ!」
 レイリーは飛び出してきた衛兵を引き寄せるように声を張り上げた。
「兎は、飛び跳ねるもの……軽やかな動き、お見せしましょう」
「っな、す、すばやい」
「ええい、くそ」
 ネーヴェの素早い足さばきに衛兵たちは後退る。目で追うことすら難しい。
「兎は被捕食者。されど、そうやすやす捕まる兎では、ございません」
 白い着物でくるくると回り、攻撃を繰り出すネーヴェ。レイリーとネーヴェが敵を引きつけている間に斬華は馬車に取り憑き、ドアを開けはなつ。
「あら……皆さんすごい格好ですね……風邪を引いてしまいそう!
 おっと、とりあえず蹴散らせて逃げちゃいましょう!」
 ワルツの手を取り、引っ張り上げる斬華。ワルツはグリーフに守られているフランソワにウィンクをしてみせる。ドッキリアピールに、フランソワは胸を高鳴らせる。
「これが真実の妹力よ!!」
 グリーフは馬車が転倒する際に、咄嗟にフランソワを庇っていた。彼を殺したいのであれば、ローレットに依頼が回ってきた時点で注文があったはずなのだ。けれど今回はアジトの発見のみ。殺さず捕え、法のもとに裁くことが目的であれば、彼が事故で命を落とす必要はないはずだとグリーフは考えたのだ。
「では、さようなら、だ。ご主人さま。生憎だが、お前の愛は、少しばかり、鬱陶しい。
今度からは、庭の花にでも囁くのが、良いと思う、ぞ」
「待て……!」
 エクスマリアに追い縋るフランソワをグリーフが抱き留める。
「――男爵様。御戯れはもう、御終いに致しましょう」
 リースリットがそう告げて馬車を抜け出していく。
「く、きさまら――!」
 この依頼はフランソワの殺害が目的では無い。だから、グリーフはそのまま彼の首をきゅっと絞めて意識のみを落とした。

「うーん……人間さんや生き物は無闇やたらに首を刈っちゃダメなのが面倒ですね……」
 追ってくる護衛を殺さないように手加減する斬華は溜息をついた。
 剣の腹で横になぎ払い、護衛を圧倒する。
「ふふ♪ お姉さんが本気で斬りかかっても平気な、お強い方はいらっしゃらないかしら?」
「ひ……!」
 斬華の圧倒的な強さに怖じ気づく護衛たち。
 それにしても困った文化だと斬華は思案する。奴隷というものは、人が人である限り根絶が難しいのかも知れない。
「ですが人であればこそ、美しくもある……」
 殿を務めるアルテミアを援護しながら斬華は呟いた。
 アルテミアの際どい衣装(特に胸)から零れ落ちそうな肌に護衛達は一瞬気を取られる。
 その間に斬華はアルテミアを抱きかかえ、闇の中に消えて行った。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 無事にアジトを突き止めました。
 MVPはとりわけ身体を張った方にお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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