PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決> 静謐なる墓地を汚すもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 月明かりが墓地を照らしている。
 目を閉じて静かに祈りを捧げていたクラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は、それを終わらせるとそっと立ち上がった。
 目を開いて、微かに視線を横に向ければ、湖面に月が浮かんでいた。
 風もなく、美しき湖面を照らす月と夜空が鏡のように映しだされている。
 不意に、びょう、と風が吹きつけた。
「……え?」
 風に攫われて、何か聞こえたような気がして、クラリーチェは思わず振り返った。
「風に木が揺れただけでしょうか」
 少しばかり目を細めて、そちらの方を見つめた後、何も見えず、結局はその場を後にする。
 そのまま、クラリーチェな猫達の世話も終わらせて、そっと眠りについた。

 ――――翌日。
「クラリーチェおねーさま!」
 扉を叩き開けるように、驚き慌てた様子で少女が姿を見せた。
「んん……どうかしたのですか?」
「大変です! 大変なんです! 墓地が! 墓地が!」
 銀色の髪を乱して、怯えたように声を震わせる。
「墓地?……」
 寝起きのぼんやりとした頭でふわふわしていた。
 ぽやぽやした頭が、徐々にクリアになっていく。
「墓地……?」
 改めてハッとして、クラリーチェは少女の方を向いた。
「墓地が……墓地が荒らされてるんです」
 着の身着のまま外に出て、墓地の方へ走り出す。
 後ろから、あの子が着いてきているのも感じつつ、ぴたりと立ち止まった。
「これは……」
 目を見開いて、静かな――いや、静かであるべき墓地を見て止めた。
 墓石自体は崩れたりしていない。
 掘り起こされているわけでもない。
 けれど――そこはたしかに、荒らされていた。
 献花は引きちぎれ、何かの肉片が落ちている。
 昨日の夜はこんなことはなかった。
 明らかに、昨日の夜、クラリーチェがここを離れた後に何かがあったのだろう。
「クラリーチェおねえさま……なにがあったんでしょう」
 きゅっとクラリーチェの服を握って抱き着く少女を、落ち着かせるように撫でながら、昨日の夜にかすかに聞いた何かの音を思い出す。
「分かりません。……そういえば、猫達は」
「あの子たちはみんな無事です……」
「……そうですか」
 一つ、安堵の息を漏らした後、とりあえず墓地の清掃を熟していく。

 そうやって、荒らされた墓地を片付け終えた頃、クラリーチェの服を再び少女がきゅっと握りしめた。
「どうかしましたか?」
「おねーさま……何かいる……こっち見てます……」
 震える声で少女が指をさす。そちらには森が広がっている。
 風の動きなどとは明らかに違う葉の動きが見える。
「……一旦、戻りましょう。明日、裏山でお花を集めなおしましょうか」
「はい!」
 ぱぁ、と目を輝かせて、裏山へ遊びに出かけていくのを楽しむような様子を見せた。


 その日の夜、クラリーチェは部屋の窓からこっそりと外の様子を見つめていた。
 あの後、最近、イレギュラーズの領地で魔物の襲撃事件が発生しているという話を思い出した。
(あの話を考えると、もしかするとここに魔物が襲撃してきた可能性もありますが……)
 遠吠えが聞こえ始める。ふと空を見やれば、月明かりを飛翔する鳥が見えた。
(思っていた以上に魔獣の数が多いですね……ローレットに援護を要請しましょうか)
 考えを纏めながらその様子を観察していると、森の奥から別の魔物が姿を見せた。
 月明かりに照らされたそれは、人――のようなもの。
 ボロボロの衣装を着て、崩れる肉を垂らすのは――
「アンデッド……」
 思わず、声に漏れていた。
「クラリーチェおねーさま……」
 震える声で、少女がクラリーチェを見上げていた。

GMコメント

さてそんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
ヴァーリです。

それでは早速詳細をば。

●オーダー
 墓地に姿を見せた魔物の討伐。


●フィールド
 クラリーチェ・カヴァッツァさんの領地にある湖そばの墓地です。
 月明かりに照らされ、視野は良好です。

●エネミーデータ
・アンデッドナイト
 騎士のような姿のアンデッドです。大剣と大盾を持ち、それぞれを片手で持っています。
 言語を解すことなく、全身から怨念で出来た気迫のような物を纏っています。
 HP、物神攻、防技に秀でた集団のボス個体です。

<スキル>
怨斬(A):怨讐を乗せた強力な横薙ぎを放ちます。
物近扇 威力中 【猛毒】【麻痺】【呪い】

怨衝(A):怨讐を乗せた斬撃を飛ばします。
神遠単 威力中 【万能】【猛毒】【混乱】【必殺】

怨殺(A):怨讐を極限まで纏い、対象を両断します。
物至単 威力大 【必殺】【ブレイク】

・アンデッド×3
 アンデッドです。EXFが高いアンデッドです。
 言語も解さず、生者に向かって襲い掛かります。

<スキル>
狂襲(A):対象に向けて襲い掛かり、身動きを封じます。
物至単 威力中 【猛毒】【崩れ】【泥沼】【狂気】

・ブラッグドッグ〔悪〕×4
 吼えるように赤い瞳をした漆黒の犬です。
 しかしながらどうやら邪悪さが増しており、逆に墓を荒らすような挙動を取ります。
 神攻、反応、回避が高い個体です。

<スキル>
死喰(A):急速に近づき、対象を喰らいつきます。
神遠単 威力中 【万能】【移】【麻痺】【呪い】


・屍喰鴉×8
 やたら大きなカラスの魔物です。
 常に飛行状態です。

<スキル>
急速降下(A):対象に飛び込むように降下して攻撃します。
物超単 威力中 【万能】【移】【泥沼】

飛行適正(P):飛行時のステータスペナルティを持たず、その代わり地上時にペナルティを持ちます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決> 静謐なる墓地を汚すもの完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
蘭 彩華(p3p006927)
力いっぱいウォークライ
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

リプレイ


 微かに傾きを変えた月明かりは地上を穏やかに照らしている。
 イレギュラーズは墓地の傍にある教会でその時がくるまで待機していた。
「皆さま、この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません。
 そして、ありがとうございます」
 集まってきた仲間たちの方を向いて、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は申し訳なさそうに首を垂れた。
「墓地にアンデッドとか定番だけど、これも最近の計画的な襲撃の一つなのかしらね」
 話に聞くイレギュラーズの領地への襲撃のことに思いを馳せ『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は小さく言葉にした。
「墓地にアンデッド。ホラーですねぇ」
 同じように定番ともいえる敵の種類に『宵闇の調べ』ヨハン=レーム(p3p001117)も呟く。
「アンデッド……汚らわしい魔物達ですね、仲間の領地に手出しはさせません!」
 扉の向こう側を見据え『力いっぱいウォークライ』蘭 彩華(p3p006927)もそう言ってぎゅっと拳を握る。
「墓地から蘇ってきた……わけじゃないんだよね?」
 首を少しかしげて『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が言えば。
「墓地に惹かれてやってきたのかしら」
 そう『血華可憐』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)も答える。
「どうにも最近、このような事態が多いようだな。
 領地を荒らし、不安を蔓延させるのが目的か、何かの復讐か」
 そういう『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は拳を握ってガントレットの調子を確かめる。
「例の領地を襲うモンスターかあ。落ち着き始めたって聞くし、この辺が踏ん張りどころだね!」
「ええ、生者に手を出さない内に、彼らにも眠ってもらいましょう」
「敵の目的が何であれ、死者の眠りは安らかであるべきだ」
 3人の言葉はここにいるイレギュラーズの総意である。
「大丈夫ですか? クラリーチェ」
 クラリーチェ自身に視線を向けて『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は声をかけた。
「ええ、怪我などもありません」
 こくりと頷かれて、ホッと一息吐いて。
「それにしても……」
 リアは思いを馳せる。
(死せる者の骸を弄ぶとは、聖職者に真正面から喧嘩売ってきてますね)
 同じく聖職者たるリアの胸の内は穏やかじゃない。
「アンデット……死者を冒涜するあいつらはあたしが世界で一番嫌いな敵よ
 見ていて気持ちのいい物じゃないですし、さっさと片付けましょう」
「……墓地は故人を偲ぶ人が、静かに思いを馳せる場所。
 私はその、守り人」
(そして、いつか自分が空に還るまで、この場所を守るもの)
「……死者の眠りを冒涜するのはよくないね、終わったら追悼の歌でも歌わせて」
 アリアの言葉を受けてクラリーチェが頷いた。
 行こうという言葉を聞きながら、クラリーチェは外に出る。
 その最中、ちらりと居住スペースの方を見上げた。
 灯りのともされたそこから、少女の影が見えた。
(あの子はちゃんと安全な所で待っていてくれているみたいですね。
 良い報告ができるように頑張りましょう)
 各々の思いを胸に、イレギュラーズはうめき声の聞こえ始めた方向へと歩き出す。


 苦しむような、喉の奥から絞り出すような、聞き苦しいうめき声が聞こえていた。
 春先といえど深夜には肌寒く、それが闇への恐怖を微かに助長する。
 獣の唸り声が、烏の鳴き声が墓地を裂いて響いていた。
 アンナは他の追随を許さぬ超高速で動き出す。
「野生のカラスも意外と愛嬌があるものだけど……さすがに魔物ではそうもいかないわね」
 大空を舞う、一般的なサイズ感を大幅に外れた黒い翼の魔物を見据え、アンナは呟いた。
 大空を飛ぶ烏たちの注意を引くように、少女はその華奢な身体を翻して大胆に走る。
 その姿に烏と1匹の犬が反応を示す。
『ギャー』
 うるさいほどの鳴き声を聞きながら、突っ込んできた犬の頭部をふわりを躱し、その勢いで烏も躱す。
 疾走するブラッグドッグを潜り抜け、彩華は剣を構えた。
 天高く舞い、鳴き声を上げる烏。そのうちに一匹目掛け、彩華は剣を閃かせた。
 双刃閃き、真っすぐに飛ぶ狐火が一羽の烏とぶつかり、挑発でもするようにぐるりと円を描く。
 攻撃を受けた烏が、鳴き声を上げて遮二無二突っ込んでくる。
 偶然なのか、眼前に駆け抜けてきたブラッグドッグの動きを躱して、リアは術式を起動する。
「聞こえるかしら? あたしの旋律」
 描き出されたヴァイオリンへ、長剣を素早く引いた。
 精霊の力を継承して描く魔法の旋律が響き渡る。
 貫かれたかのようにびくついたブラッグドッグの動きが停止する。
「イリスさん、援護しますよ! 先に行きます!」
 ほとんど同時に動いたのはアリアである。
 奏でる歌は不敗の英雄譚。気高き意思はあらゆる異常を物ともしない。
 イリスへ加護を齎すと、次いでアリアは歌う。
「強力な技も……使えなくなっちゃえば怖くないんだよ!
 歌が描くのは誰かを留め、封ずる簡易術式。
 鮮やかな音色の歌は術式となって騎士の身を焦がす。
 拳を握りなおし、ジョージはアンナの周囲にへばりつく魔物へと拳を撃ち抜いた。
 打撃はアンナを囲む全てへと綺麗なまでの一撃となって叩きつけられる。
 波涛の如く繰り出された拳に烏とブラッグドッグの身体がひしぎ、静かに呼吸一つ。
 青白い妖気棚引く拳がジョージの動きに合わせてゆらゆらと揺らいでいる。
「見た目以上に強そうですね。気を引き締めていきましょう!」
 最奥、騎士風のアンデッドを見据えてヨハンは自分に言い聞かせるように右と、術式を展開する。
「イオニアスデイブレイク! 必滅! この世に滅びぬものなどないっ!」
 それは護りを固め、意思を強める加護の魔術。
 防壁を築く術式が仲間達を導く。
 その反面、ヨハンは世界の法則へと手を伸ばす。
 接触し、電気信号を用いて法則を書き換えれば、近くにいた仲間たちの気力が満ちていく。
 動き出したアンデッドたちが近くにいるイレギュラーズへ襲い掛かり始める。
 それらを無視して、イリスは敵の奥にいた大物めがけて駆け抜けた。
『憎憎憎憎憎憎憎!!』
 言語化できぬ雄叫びに何かは、憎しみに満ちていた。
 憎悪の乗った剣が横薙ぎに振り抜かれる。
 イリスはそれを持ち前の高い抵抗力と防御技術を駆使して完全に防ぎ切った。
 籠められた憎悪が微かに傷を生むが、気にするほどではない。
 その相性の良さに怒りを募らせたように、もう一度アンデッドナイトが憎しみに満ちた咆哮を上げた。
「命あるものはいつか潰える。そしてその魂は天に還る。戻ることはないのです。
 ……迷いしものよ。私が天への道を指し示しましょう」
 追憶の鐘を握り、クラリーチェは道を示すように鐘の音を鳴らす。
 静かな鐘の音が戦場に静かに響き、アンデッドが呻いた。
 脳髄に浸透する輝きに動揺して、それらは為されえるのだ。


 着地と同時、アンナはその勢いを殺すことなく、一気に前へ。
 そのまま、再びくるりと跳ねた。
 己が身の回転を利用し、夢煌の水晶剣が奔る。
 その身軽さはいつか至るであろう全盛期を反映し、限界を超えた力を見せる。
 三日月を描く剣閃は、烏の1匹から翼を削り落とし、ぱたりと地面に落とした。
 反撃とばかりに襲い掛かってくる烏とブラッグドッグをひらりと躱して、静かにその数を数えていく。
 ブラッグドッグの1匹が、アンナの背中へ食らいつこうと動き出す。
 それを見ていたのは彩華だ。
 間に割り込むように駆け抜けると、アンナがくるりとブラッグドッグを躱すのに合わせ、双刀を奔らせた。
 牽制に惑わされたブラッグドッグの喉元へ、目にも止まらぬ速さでもう一本が入り込み、切り裂いた。
 アリアは静かに曲を奏でいた。それは不敗の英雄とはまるで正反対の歌。
 『悪い神々』を冠す楽曲は、人々の謂われなき蔑みを、呪いを、迫害を返す怨嗟に満ちている。
 身を削るような悪意にアンデッドナイトが苦しそうに吼える。
 それはアンデッドナイトのソレを一考だにせぬ凄絶さを思わせる。
 金色に変じたリアの瞳が仲間達を見渡している。
 紡がれる旋律は優しくもどこか悲し気に。
 独特な旋律に後押しされるように、周囲の仲間たちが記録を振り絞っていく。
 美しき夜の演奏会は、観客というには悍ましき者達に囲まれながらなお陰りをみせることがない。
 充足した気力を糧に、ジョージは拳を握る。
 棚引く青白い妖気が落ち着いていく。
 眼前にいるのはアンデッド。
 左手へ集中する妖気はより濃く輝きを放ちながら揺蕩い続ける。
「存分に相手をしてやろう! 幸い、ここは墓地。そしてシスターがいる
全てが終われば、貴様も死後の苦しみからも解き放たれるだろう」
 踏み込み、前へ。インパクトの瞬間、アンデッドの肉体が砕け、吹き飛んだ。
「不死がお前らの特権ではないという事を教えてやる!」
 2体になったアンデッドに視線を向けながら、声高に告げたヨハンは魔導書を媒介に魔力を高めていく。
「正義の光は陰る事はない! サンクチュアリ!!」
 充実した魔力を術式に変え、傷を負った仲間達に治癒を施していく。
 聖域を思わせる輝きにアンデッドたちがたじろいていた。
 艶さに満ちた剣が降ってくる。
 イリスは円盾でそれを防ぎながら、三叉で受け流そうと試みた。
 強烈に撃ち込まれた剣がその身に宿る加護を消し飛ばすの感じ取る。
 崩れかけた足に力を入れて、降ってきた剣を受け流す。
「かなり強い怨念を感じるのは確かだけど、それを誰彼構わず生者にぶつけられるのはお門違いというやつなのよ」
『オノレェェェェ』
 絶叫が、意味を持つ単語に聞こえた気がした。
「貴方達は、何か伝えたい事があるからここに来たのですか?」
 クラリーチェはアンデッドの方を見据えながら霊魂疎通を試みる。
 意味ある言葉は返ってこなかった。
『憎い憎い!! 許すものか!』
 深すぎる憎悪だけが身体をぞわぞわさせる。
 これでは生前に遺した想いも何もない。


 戦いは長期化していた。
 元々が攻めより守りに長けた面々が集まっていることもあり、それは問題にはならない。
 ヨハンとリア、クラリーチェの3人による支援力の高さは、あまりにも堅牢だった。
 ガス欠の心配を殆どなく戦況はイレギュラーズに有利のまま、徐々に圧倒していったのである。
 それに加え、最も危険性が高いアンデッドナイトはイリスの堅牢な守りと、アリアの支援による行動失敗も重なってほとんど自由なことがなかった。
『ォォォォ!』
 アンデッドナイトの憎しみに満ちた声が響き渡る。
 振り下ろされた剣がイリスに防がれた頃、影が疾走する。
 気づいたアンデットナイトが動き出すよりも速く、アンナは動く。
(まだ、大丈夫かしら?)
(問題ないわ)
 視線での会話と共に、スイッチすることなく懐へ。
 舞い踊るように繰り出された剣は三日月を描きながらアンデッドナイトの身体を強かに打ち据える。
 それ自体は握られていた盾に防がれるが、美しき軌跡はアンデッドナイトの動きを引きつらせる。
「炎よ走れ、穢れを焼いて清めるの」
 ボウと両手に握る剣に狐火が宿る。
 闇を照らす美しくも妖しき2つの輝きは、ゆらゆら揺らめいている。
 それを彩華は真っすぐに打ち出した。
 放たれた狐火は夜闇に尾を引いて飛び、アンデッドナイトの周囲に纏わりつくように動く。
 そのまま振り払おうと騎士が動くのを嗤うようにその懐に突っ込んで行く。
「魂の無い貴方にこの音色は届かないのでしょうが……
 せめてもの手向けとして、この旋律を聴いて、朽ち果てなさい」
 アンデッドナイトを見据え、リアは自らの魔力を励起させる。
 そのまま弾いた曲は歌い踊るように幾重にも重なりながらアンデッドナイトへと殺到する。
 幾つもの傷を刻みながら、あるかもわからぬ気力を吸収する。
 怨嗟に満ちたアンデッドナイトの声が上がる。
 アリアの歌が夜を彩っている。
 罵り、蔑み、暴力となって紡がれた呪詛が紡がれる歌はアンデッドナイトの身を削り落とす。
 悍ましきかな、紅蓮の蛇がアンデッドナイトの身を焼き付ける頃には、詩は次に移り行く。
「ようしアンデッドナイト!そろそろ大詰めだ!
 きっと名のある騎士だったのでしょうけど、騎士の道を踏み外したお前には負けないぞ!
 仕上げといこうか!」
 ヨハンは前へと出た。
 怨讐を唱える騎士が、震える腕で剣を振り上げる。
 シンプルに振り下ろされた斬撃を真っすぐに受け止める。
「騎士とは守る者だ! 怨念のままに暴れる者ではない!」
 騎士として、打ち据えられた剣を合わせるように前へ押して勢いを殺し、洞の双眸を睨み据えた。
 クラリーチェは静かに鐘を響かせる。
 戦場へ浸透するようなその音色は体力の尽きかけた仲間達へ、最後のひと絞りとばかりに癒しを齎していく。
 魂亡き魔物達へ、二度目の永訣は望むべくもなく。ただ、今を生きる仲間達への支援を。
 イリスは三叉を握り締める。
 崩れ落ちそうになりながらも健在のアンデッドナイト目掛け、真っすぐに撃ち込んでいく。
 振り絞るように伸ばした腕は自身に齎されていた異常を掻き消し、導かれるように心臓部辺りへ走り抜ける。
「中々の気迫だ。戦場の怨念か、果たされることのなかった誰かの恨み辛みか」
 雄叫び――であろう声を上げるアンデッドナイトの眼前へ、ジョージは踏み込んだ。
「大人しく、再び永久の眠りにつくがいい。
 誰の怨念かは知らないが、全て片付けば、祈りの一つは唱えよう」
 身体を前へ、棚引く妖気が波のように揺らいでいる。
 静かに、全霊を籠めた拳を、静かに叩き込む。
 べきりと音を立てて、アンデッドナイトの身体がへし折れた。


 戦いが終わり、墓地が静寂を取り戻した頃、イレギュラーズは戦場と化したことで汚れてしまった墓地の内部の掃除を始めていた。
「クラリーチェにはウチのクォーツ院の手伝いにも来てもらってるから、恩は少しずつでも返さないとね」
 そう言ったリアは、墓地の一角に新たに制作された場所に、アンデッドだった遺体を葬る準備を進めている。
 彩華はアンデッドだった者達を纏めて弔ってやろうと積極性を見せていた。
 彼らだって、きっと眠りを妨げられた被害者に違いないのだから、と。
 それ以外にも肉片やら血液やらで汚れた部分は多く、それらはアンナを中心として掃除が進められていた。
 クラリーチェはそれらの作業に協力し終えると、墓前一つ一つへ歩みより、少しばかりの祈りを捧げている。
「騒がしくしてごめんなさい」
 そう、ここに眠る多くの人々への謝罪の気持ちを示していく。
「……おねえさま、御無事で何よりです!」
 その最中に、全てが終わった事を理解したらしく、少女がひょっこりと姿を見せた。
 最初は心配そうな目も、クラリーチェを見た途端に安堵の笑みに変わっている。
 それらの作業が終わった所で、アリアの演奏が静謐さを取り戻した墓地に響き始めた。
 穏やかに眠れるようにと願いの込められた歌だ。
 イレギュラーズ達は暫し、自然と目を閉じて黙祷を捧げるのだった。

成否

成功

MVP

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫

状態異常

イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫

あとがき

おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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