PandoraPartyProject

シナリオ詳細

最後の花弁

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その輝きに想いを馳せて
 今日は空が青い。
 空が青い日は決まって『彼女』が訪れる日だった。若き青年は朝早くに家を出ると、王都の大通り沿いにある一軒の花屋へと向かった。
 店では独り身の女主人が開店に向けて準備を進めており、朝特有の柔らかな風の香りに混ざって花の甘い匂いが周囲を優しく彩っている。
 女主人は青年を笑顔で迎えると、「なんで天気の良い日は手伝いに来るんだい?」と訊ねた。
 青年は照れたように笑って。『彼女』の事を話した。
「なるほどね。アンタもお屋敷の仕事があるだろうに大変だねぇ……ん? ちょうど来たみたいだよ」
 そして時刻は開店して数刻経った頃。花屋に客が一人来る。
 悪戯っぽく笑い、女主人はその場から離れて他の花をショーケースから取り出したりして手入れを始める。
「おはよう。実はまたお花が枯れちゃって、新しく買いに来たの」
 風に流れるプラチナブロンドの髪。明るく快活そうな円らな瞳は青空の下で瞬きをするたびにインディゴの輝きを有していた。
 何度目かになる再会といえど、青年はその姿に一瞬見惚れてしまう。彼は彼女に恋心を寄せていた。
 青年はいつもの花で良いのかと問い掛ける。
「お願いしようかな」
 朗らかに笑う彼女の姿に青年は店の奥へと駆けながら胸を弾ませた。
 今日もまた良い日だと信じて。

●輝きの裏側で
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は卓に集まったイレギュラーズを前に依頼の詳細を説明する。
「今回の依頼は王都西区にお住いの貴族の殺害。それに伴って護衛の役目を持っている執事、使用人も殺してもらう」
 貴族の暗殺だろうか、とイレギュラーズはそれぞれ頷きながら呟いた。
「依頼人はとある教会のシスター……〝だった〟女性だよ。件の貴族に彼女のいた教会は焼かれ、敬愛する神父や若い娘達を惨たらしく殺された。
 何故かって? 以前あった幻想での騒動に際して教会に集まる孤児達を恐れて先手を打ったというわけさ」
 結果、確かに貴族は暴徒化した民衆や狂乱の渦に巻き込まれる事なく騒ぎを乗り越えた。
 しかしその因果は途絶えていない。今まさに唯一の生き残りである元シスターは復讐の代行をローレットに依頼したのだ。
 その思いは如何なるものか、イレギュラーズには想像する事しかできない。
 と、そこでショウが──何処からか入り込んで来た──卓の上にヒラヒラと降りて来た蝶に視線を落とした。
「そうそう……依頼人からのオーダーには続きがある。執事達は一思いに殺してほしいだってさ」
 ふわり、と。再び飛び立つ蝶をイレギュラーズ達も思わず視線で追ってしまう。
 ……その時ショウから聴こえた「どうしてだろうね」という呟きを聞きながら。

GMコメント

ちくわブです。本依頼は悪属性となりますのでご注意下さい。

 以下依頼における情報

●依頼内容
 『ゼリクリエル・ヴァン・ペニーワイズ』の殺害
 禍根を残さない為に屋敷の使用人、執事は皆殺しにする

●成功条件
 依頼内容の遂行
⚫︎情報精度A
 絶対に想定外の事態は起きません。

●ロケーション
 全ての使用人達が出勤する日の夜明け前の早朝、依頼人の根回しによって屋敷の正面玄関や門が開いているので乗り込みます。
 暗殺する必要はありません。屋敷の周囲には今では更地となった教会跡地と使用人宿舎しかないため、騒ぎは一部を除いて第三者に聞かれる心配は無いでしょう。
 特別な罠や仕掛けの類はありません。屋敷に入ってイレギュラーズが行う事は殺しのみ、です。

●ペニーワイズ家執事
 若い執事長の青年を始めとした八人の執事は暗殺や護衛の任務をこなせる精鋭です。
 イレギュラーズより数段弱いですが囲まれた場合苦戦する可能性があります。
 『暗殺術(物至単・低確率【麻痺】付与)』『徒手格闘術(物至単・【弱点】)

●使用人
 戦闘力はありません。
 若い侍女三人と料理長の男、庭師やその他に四人存在します。
 彼等は恐らく戦闘開始後に可能な限り逃げる可能性があります。
 
●ゼリクリエル卿
 幻想種の魔術師であり他の派閥貴族に教会や土地を貸し与えて利益を得ていた。
 ペニーワイズ家の現当主であり今回の殺害対象。リプレイ開始時は使用人達とは違い二階の自室書斎(部屋の中は30m四方の空間となっている)に居ます。
 一般的に知られる炎系神秘魔法を行使する事が出来ますが、その慎重すぎる性格から反応は遅いです。
 『マジックフラワー(神近単・【火炎】)』『焔式(神近単・【火炎】)』

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 最後の花弁完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月14日 20時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
ルーティエ・ルリム(p3p000467)
ブルーヘイズ
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
獅子吼 かるら(p3p001918)
多重次元渡航忍者
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
芦原 薫子(p3p002731)
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女

リプレイ

●焼け爛れる想い
「復讐依頼か……」
 二対の翼をはばたかせる少女、『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)がその胸中にある思いを吐露する。
『どうした?』
 対する落ち着いた声は彼女ではなく胸元にある十字架の『同居人』の言葉である。
 ティアは「何でもない」と応え、いつの時代もこういった事はなくならない事に何か思う所がある様子を見せた。
『人の怨恨が無くなる事は無いからな』
 彼女達は眼下で動いている仲間たちを眺めながら、静かにその時を待っていた。
 屋敷の各出入口、門扉と厨房近くの裏口の傍を徘徊する犬達。そしてヒラヒラと風に流されていく紙切れ……に見せかけた物は、人形のそれ。紙人形が扉や窓の隙間からペニーワイズ邸に侵入していた。
 時刻は夜明けを迎える前。既に使用人達が屋敷内へ戻って行ったのをティアが確認している。
「神の信徒……ふふ、復讐に身をやつす神の信徒とは、ええ、正直好きです。ええ。」
「復讐かぁ。復讐は良いよね、道理じゃなくて心情に訴えかける力がある」
 その手に持つ油の入った筒を傾け、屋敷の窓辺にトポトポと振りかけて行くのは『Code187』梯・芒(p3p004532)と『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)である。
「人の恨みを買ってれば、まぁ報復はしかたないわよね。ましてや生き残りを許してしまったんだもの」
 正面玄関に人の気配を感じて正面玄関を避けた通路上にある窓、客室や応接間へと度数の高い酒を振りかけて行く『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)。
「一思いに殺してくれかあ。それは憎しみ故か、はたまた芽生えてしまった想いのせいか」
 『多重次元渡航忍者』獅子吼 かるら(p3p001918)は屋敷の前庭で茂みに隠れながら何かをその胸に抱いていた。
 否、もがき苦しむ『それ』は人だ。来る筈の無い新聞配達を装ったかるらに近付かれ、引き摺り込まれた哀れな庭師の男はじきに窒息して息絶えるだろう。
「後者なら……う~~ん、ゾクゾクしちゃうね」
 彼女は依頼人のオーダーを思い出して色々と想像する。果たして真意は何なのか、興味は尽きない。
 かるらは遂に息絶えた庭師の亡骸を茂みに放ると、そのまま出て行った。
「首尾はどうかな~?」
「もうやるぜ、時間もねェしな。ったく、貴族はなるべくなら敵に回したくねェんだがこれも依頼だからなァ」
 煙草の煙を揺らす『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が「恨むなら依頼主を恨めよ?」などと言いながら、屋敷の方を見ていた。
「まー殺しちゃダメな奴がいるよりは楽でいいよな。わたし達にとっても禍根はなくなるわけだし、人の恨みを買うようなことは気づかれないようにやるくらいが丁度いいもんだ」
 次第に集まって来る仲間。彼女達は気取られない程度に距離を置いて正面扉付近に見える使用人達を見据え、『ブルーヘイズ』ルーティエ・ルリム(p3p000467)が『夢の続き』蓮乃 蛍(p3p005430)に向かって手を振った。
 蛍はそれを受けて一同に頷くと、そっと両の手を広げてその身から神秘を糸のように伸ばした。不可視の糸は屋敷のあちこちに滑り込み、紙人形に一つの命令が送られる。
(蛍は悪い子です。こんな復讐は良くないって理解しているのに……)
 それでも依頼者の気持ちは分かる。恨みに正しさなど邪魔でしかない事、必要ない事。
「お父様、お母様……ごめんなさい。蛍は今日、鬼になります」
 彼女はまだ、人を殺めたことが無かったが……今日この時を境に蛍もまたローレットの持つ闇の一面に触れた者の一人となるのだ。
 次の瞬間、ダメ押しにイレギュラーズは油や酒の入った瓶を二階の窓へ次々と投げ込み、直後に屋敷は業火に包まれる事となる。

●長い夜明け
「……あの恐ろしい人が、どうして毎月こんな事をするのでしょうね?」
 侍女の若い娘がくすくすと笑う。
 夜明け前、屋敷に集まったのは所属する使用人や『裏仕事』も行う執事達全員。何故彼等が集められたのかと問われれば、彼等の認識する主からは中々考えられない恒例行事のおかげだった。
 彼等は月に一度、全員でゼリクリエル卿と共に過ごし、一日の最後は全員で晩餐を開くのである。
 何故そうするのかは仕える身として気にはなるが、主人が詮索されることを嫌う性格なのも把握している。
「さぁ、あれでいて寂しいのかもしれない」
 万に一つも有り得ないと分かっている。若き青年執事長は苦笑交じりにエントランスホールにある吹き抜け階段を下りながら言った。
「おはようウィリー。聞いて、さっき門のところで可愛いワンちゃんがいたのよ!」
「はいはい、俺はあんま犬は好きくないんで。それよかあれっすよ、皆さん並んで下さいっす」
 彼はエントランスに使用人たちが全員揃っているのを確認する。二人いない事に気付くが、それが庭師と料理長であると分かって彼は静かに頷いた。
 いつも通りである。あとは自らの主が書斎から出て来るのを待つだけだった。

────パリンッ
「……は?」

 どこかの部屋から鳴ったガラスの割れる音。
 若き青年執事は思わず間抜けな声を漏らし、他の執事に確認してくるように指示する。まさかその直後に更に同じ音が屋敷のあちこちから連続するとは予想できずに。
 突如鳴り響く破砕音の連打。そして、暴力的に開かれる扉。
「あら……手間が省けたわね」
 もはや落雷にでも遭ったのでは、と身を屈めていた使用人達の視線がエントランスの正面扉へ向いた。そこに立っている人物が胡蝶と芒であるとは誰も知らない。
 だが、青年執事含め他の何人かは一目で悟った。『同業者』の類、或いは近頃その名を聞くようになってきたギルド・ローレットの……
「お前ら、逃げろ!!」
 青年執事が怒号を挙げた。が、既に遅い。
 ツインテールの女(芒)が駆け出しながら投げ撃ったナイフで若い娘の侍女の肩を貫いたかと思えば、半ば飛び蹴り気味に襲いかかった。呆気にとられ、初動が遅れた娘に避ける術などある筈も無い。
 直後に馬乗りに激しい殴打を受けた侍女は致命的な音を首元から響かせて死んだ。
「イヤぁぁあ……ぁっ!!」
 一瞬の出来事に止めに入る事ができなかった、肉付きの良い体型をした侍女が惨劇を前に悲鳴を上げた。
 次に動いたのは執事達だ。直ぐに非力な使用人達を背にかばう様に立ち回ると、青年執事が使用人を連れて退避する。
 その際、首を切るジェスチャーを添えているのを芒は見逃さなかった。
「ふふふ、じゃあ応報鏖殺と行こうかな」
 彼女は頬の返り血を指先で拭いながら笑う。まだ始まったばかりである、長い……長い、夜明けは。

●灰燼に血は蒸発する
 程なくして他の部屋から脱出を試みた使用人達は自身が絶体絶命であると理解した。
「こ、こっちの部屋にも火が……!」
「厨房は!? あそこは有事の際に備えた水の魔法が収められた魔石があったはずだ!」
「よしそれだ! みんな奥まで走れ走れ!」
 侍女たちの利用する給湯室なる部屋も外から投げ入れられた火炎瓶によって炎に包まれ、窓の外へ近付こうにも外側から燃え上がる火の手は通路を駆け抜けるのが精一杯であった。
 そもそも水気の無い彼等がまともに火の中へ飛び込めばどうなるか、文字通り火を見るより明らかだった。
 しかし、そもそもその厨房も無事であると何故思ったのか。
 厨房扉にあるガラスから向こう側が見えて来た時、若き青年執事が使用人達を止めた。厨房の扉に多量の血痕が付着しているのが見えたからだった。
(手が早い……回り込まれた!?)
「サプラーイズ♪」
 踵を返し、全力で戻れ戻れと叫んだ直後。厨房から登場したのは先ほどエントランスホールで遭遇したはずの芒だった。
 これがローレットのイレギュラーズと呼ばれる者達であると、青年執事は背筋が震えた。
 芒の背後でも炎が燃え盛っているのを見た青年執事は、使用人用通路の階段で二階へ逃れる事を考える。
(二階の、旦那様なら……!)

 執事達が動くより先に紅い電雷を纏った薫子がエントランスを駆け抜ける。
 豪奢な赤い絨毯を引き裂き、大理石の床に大太刀の刃を触れさせ火花を散らすその様は、恐るべき殺気を持って眼鏡をかけた執事の動きを止めて縫い付けていた。
 瞬間、懐へ飛び込んだ彼女の刀は切り上げの一閃によって執事を吹き飛ばしていた。
「このッ女……!」
 血飛沫上がる最中に動けた初老の執事は称賛に値するだろう。とてもではないが、ただこの一度だけとはいえ彼女達に反応できたのは彼だけなのだから。
 滑るような動きから繰り出された早業は確かに薫子を捉えた。
────ガッ!
 しかし。いとも容易く刀身で防がれ、執事の頬の横を折れた麻痺針が跳んで行った。
 執事の表情に絶望の色が見えるが時は既に遅い。彼に向かって横合いから振り抜かれた裏拳が突き刺さったのだ。
「ぐぁっお……!?……ッ!!」
「申し訳ございませんね……ええでも、お詫びに楽に潰してあげましょう。感謝しながら眠りなさい?」
 胡蝶の冷笑が視界に入ったのも束の間。執事は直後に薫子の大上段から振り下ろされた紅雷の一太刀によってその身を両断され、死んだ。
「それにしても、こうして逃げられてしまうと……思ったより面倒ですね」
「逃げ場は依頼人の言葉が本当なら無い筈。それなら私達は無理に追いかけず卿を討ちに行けばいいんじゃないかしら」
 数瞬して、彼女達の横に落ちて来た眼鏡の執事が這って逃げようとしていたのを、胡蝶が彼の首元に足を絡めて一気に首の骨を折った。艶かしい印象を与えるが、一思いに殺せが依頼人からのオーダーである。
 既に他の五人の執事達は胡蝶たちの姿を見て一目散に逃走していた。
 だが外からことほぎの声が何度か聞こえる事から、恐らく逃走している者達は彼女達イレギュラーズが想定していた通りに追い詰められ、そして最後は仕留められるか炎の中で息絶えるのだろう。
 ならば、と。胡蝶と薫子は互いに顔を見合わせて階上へと向かい始めた。

●赤々とした花
 いつの間にか自身を含め四人に減っている事に、青年執事は気付いた。
 もうもうと充満する煙と、それに勝る炎の勢いは屋敷が直ぐにでも潰れてしまうのではないか? という不安を抱かせた。
 故に、視界の悪さや追跡者の存在に怯え、錯乱した使用人達は逃げ道を求めてバラバラに逃げてしまったのだ。
 今の彼と行動を共にしているのは二人の執事と肉付きの良い侍女一人だった。
「旦那様は既に書斎から出ていた。あの方の性格からしてまず向かうのは一階の金庫部屋の筈だ。
 俺達は速やかに旦那様の寝室にあるバルコニーから脱出するっすよ」
 執事の一人が主人を置いて行く事に異議を唱えるが、青年執事はそれに「命あっての忠誠だ」とだけ言って通路途中にある部屋へ駆け込んだ。
 やはり中は火の手が進んでいたが、素材のせいだろう。それほど炎の勢いは強くなく、そして外に通じている窓は大きく……外から割られていた為に駆け抜ければ火を無視して出られそうだった。
「やった……助かったわ……!」
 侍女が引火したエプロンを脱ぎ捨てながらバルコニーに向かって走り出す。
 だが、バルコニーへ滑り出た侍女の頭上から冷ややかな声が降り注ぐ。
「悪く思わないでね。これも依頼だから」
 大気を揺るがす轟音と共に黒い弾道の軌跡を残して侍女の額に致命的な一撃が入る。鮮血に混ざる黒い残滓に青年執事達が戦慄する。
「マジっか……飛べ、ぇええええ!!」
 上空に待機して脳天を狙っているティアの存在を知った青年執事が叫び、同時にバルコニーに留まらずそのまま階下へと跳躍していった。
 二度、三度と転がりながら体勢を素早く整える辺りはやはり幻想貴族の抱える暗殺者か。執事達は周囲に立っていた女たちを前に身構えた。
「やっと出て来たなお前ら、ってか貴族はどうしたんだよ見捨てて来たのかァ?」
 ことほぎが軽く下がりながら首を傾げている。
「……一応聞く、何者だアンタら」
「殺す相手と喋る趣味はないんだが、まあ思い当たる節くらいはあるだろ……木っ端貴族になんか雇われるもんじゃないな」
 ルーティエの気だるげな眼が青年執事を指し示した。『他の執事』とは動きのキレが違うことに気付き、青年が依頼人の言う若い執事長だと推測したのである。
 対する青年執事は二度目をまばたきさせて、最後に目を見開いた。
「幻想蜂起の……? まさかアンタらを雇ったのは教会の……」
「今回の依頼主ねえ、お花が好きなんだってさ」
「は……?」
 不意に、背後から聞こえた声に振り向いた。執事二人の間に気配を消して近付いて来ていたかるらが、執事長らしき青年に話しかけていた。
「綺麗な青い目をしててね、いつも同じ花屋でいつも同じ花を買うんだってさ。何でも焼かれた協会の生き残り? だとか、
 『執事達』は一思いに殺してくれって言われててね……君は彼女がどんな気持ちでそう言ったのか、分かるかな? わかるなら教えて欲しいなぁ」
 ニンマリと依頼人の事を思い浮かべるような仕草をしながら語るかるらを、後退りしながら二人の執事が青年執事を見た。少なくとも彼等は何のことか『思い出せない』様子だった。
 或いは思い出したくなかったのか。
 青年執事は血の気が引いたような顔でかるらの話を聞いていた。
 心当たりが、あった。綺麗な、澄んだ瞳をした彼女。いつも同じ花を買う変わった女性。青空を一度は見上げる癖があって、その時の彼女の瞳には花が咲いて……
「……そんな…………」
────ゴォッ!!
 脱力、隙だらけ。そんな様でかるらの放った火焔を避けられるわけも無く、細身の体が薙ぎ倒されるまで彼は信じられない表情で唇を震わせていた。
 呻き声を挙げる暇は無かった。最早運命の賽は投げられ、そして彼はかるらの目論見が成功(クリティカル)したのと同時に致命的(ファンブル)失敗となったのだ。
 青年執事は一瞬脳裏を過ぎた『彼女』を思い出し、飛び込んで来たかるらにトドメを刺されて死んだ。
「ウィリィィィィ!!」
「畜生ォオオオオッ!!」
 激昂した執事達が飛び出すが、数に劣る彼等では超人の域にあるイレギュラーズは倒せない。
 直後にことほぎが撃った魔力の収束波によって一人は腕を飛ばされ、上空のティアからの射撃に動きを止められた一人はルーティエの踏み込みから繰り出された槍の石突で頭を割られ、壮絶な音と共に倒れた。
 即座に飛来する魔力の砲弾に腕を飛ばされた執事がトドメを刺される。
「そっちの野郎は思い出してたぜ、自分のしたことくらい」
 短くなった煙草を燃え盛る屋敷へ放り捨て、ことほぎは嗤った。

⚫︎花の因果は散る
「貴様らァ……ッ、ローレットには私も支援していたのだぞ!! それを、よくもこんな真似を! どうなるか分かっているのだろうなぁ!!」
 燃える瓦礫。崩れた瓦礫の下にあった金庫を取り出そうとしたゼリクリエル卿は腕に火傷を負っていた。
 しかしそれでも傷が浅いのは炎への耐性が少なからずあったのか。激昂する幻想貴族の周囲では魔力を媒介に生みだされた火炎が渦巻いていた。
「大丈夫ですよ。あなたが死のうとさして変わることはないので……喚き散らしながら死ぬといいのです」
「その通り、それに依頼人はそういうことを見越して既に『根回し』は済んでるみたいよ?」
 薫子が大太刀を構え、胡蝶が不敵な笑みでゼリクリエル卿の怒号を一蹴した。
「~~~~ッッッ!!!」
 崩れぬバベルを以てしても意味を為さない叫び声と同時に、紅蓮卿は怒り狂う感情のままに火炎の渦を胡蝶へ叩き込んだ。
 それをステップすることで回避を試みるが片足を焼かれる。しかし彼女は表情を崩していない。未だその目には不敵な物を感じさせていた。
 炎の渦が放たれ、その余波が吹き荒れた直後。
 ゼリクリエル卿の眼下に飛び込んで来た深紅の軌跡が全力を以て斬撃を打ち上げた。卿は声を上げる事すら許されない。
 恐るべき反応速度は隙を許さず。打ち上げられたゼリクリエル卿の頭上へ紅雷と共に上がった大上段斬りが振り下ろされた。
 炎に混ざって鮮血が飛沫を上げた。
「がッ……ッ!」
「はい、これでおしまいね?」
 床へ叩き付けられた卿の首へ足を絡めた胡蝶の声がやけに涼やかに響いた。
 ゴミでも放るかのように、彼女は締め上げた後に砲弾の如く燃え盛る瓦礫の中へゼリクリエル卿を投げたのだった。
 ──────部屋に響く声と、火が燃え移った赤い花は、間もなく燃え尽きて行く。

●最後の花弁
 かくして。イレギュラーズはただの一人たりとも生存者を許さず、屋敷諸共全てを灰燼に帰した。
 夜明けを迎えた彼女達は門の外で待っていた依頼人と会った。
「お疲れ様でした皆様。……これで、終わったんですね」
 修道女の服に身を包んだ彼女はそう言うと、背後に待たせていた馬車へと乗り込む。どこかの組織に彼女は身を寄せているらしい。だから根回しができたのだろう。
「……」
 かるらの言葉を何故か蛍は思い出していた。何を思って依頼人は復讐を決意し、そして一抹の情けをかけたのか。
 まだ経験浅い彼女には分からない、分からないが……
 依頼人の首に提げられた花を模ったペンダントは、恐らくまだ終わっていない事を示している気がする。
 そう蛍は思った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 煙に噎せる最中、背後から超全力で追いかけて来るイレギュラーズはどう見えたのだろうか。
 
 というわけで皆様お疲れ様でした。
 今回は悪属性依頼でしたが、如何でしたでしょうか?
 またの機会をお待ちしております。

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