シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>炎纏いし紅蓮の虎
オープニング
●焼き殺し、焼き殺し、貪り食らう
平和だった街中を、突然紅蓮の炎が包んだ。外を歩いていた人々は直接炎に包まれて、建物の中にいた人々は燃える建物から脱出できずに、悲鳴を上げ助けを求めながら次々と焼け死んでいく。
運良くその炎に巻き込まれずに済んだ人々も、大半は助からなかった。炎の中から姿を見せた炎の虎――怪王種、『炎虎』ヴァーミリオンと、その周囲にいる人型の炎の精が、火を消そうとする者も逃げだそうとする者も手当たり次第に襲ったからだ。
「ぎゃあああっ!」
勇敢にも火を消そうとした男が、ヴァーミリオンの牙にかかった。男は牙に身体を貫かれただけでなく、ヴァーミリオンの身体の火が引火して、全身が炎に包まれた。
「うわああああっ!」
その間にも、炎の精は周囲の人々や建物に火球を放ち、人々や建物を次々と焼いていく。
炎の海が街の一部から街のほぼ全体を覆い尽くすまでに広がるまで、さほど時間は要しなかった。
不幸中の幸いと言うべきは、突然の襲撃にもかかわらず難を逃れられた者が少数ではあるがいたことだろう。
彼らは最初にヴァーミリオンが出現した地点から遠い場所にいたと言う幸運と、事態を知った時に何よりも自らの命を最優先して逃げ出したという判断の正しさによって助かった。だが――。
「逃げ切れたのはいいけど……」
「これから、どうしよう……?」
全力で走って街から逃れた彼らは、ヴァーミリオンが追ってこないことを確認するとほっと胸を撫で下ろした。だが、命を取り留めた安心は今後への不安に変わり、途方に暮れる。何しろ逃げることを最優先したために、食糧も財産も何ら持ち合わせていないのだ。もっとも、そうしなければ街で焼け死んでいたのではあるが。
しかし、ここで戸惑っていても如何にもならないし、そうしている間にヴァーミリオンが追ってこないとも限らない。少しでも住み慣れた街から距離を取るべく、彼らは歩き始めた。
――難を逃れた者達が再び動き始めた頃。
ヴァーミリオンは、己が焼き殺した犠牲者の遺体をガツガツと貪り食らっていた。
●火急の報せ
「ふわあ、ぁ」
ギルド・ローレットで、微睡 雷華(p3p009303)は可愛い欠伸を発した。しかし、これ自体は無理もないことだった。依頼から戻ってきたばかりで身体が疲れているのに加え、完了報告も終えてようやく気を抜くことが出来たのだから。
(今日は、何を食べようかな……?)
眠気に頭をぼんやりとさせながら、雷華はこれからの食事をどうするかを考え始めた。ローレットの依頼を受けていない時の雷華は、大抵食事をしているか惰眠を貪るかなのだ。この後も、食事を済ませたら適当な宿に泊まってひたすら眠るつもりでいた。
だが、その予定は自領の執政官が送った使者によって覆された。
「領主様、ここでしたか! 一大事です! 至急、領地にお戻り下さい!」
「……ど、どうしたの?」
血相を変えて用件を告げる使者の姿に眠気を吹き飛ばされた雷華は、「一大事」の内容を尋ねる。
それに対して使者は、雷華の領地の近くに『炎虎』ヴァーミリオンと呼ばれる怪王種が現れて周囲の街や村をことごとく焼き尽くしていること、そのヴァーミリオンが雷華の領地に近付きつつあることを告げた。
「そっか、わたしのところにも来たんだね……わかった、ちょっとだけ待ってて」
最近、イレギュラーズの領地を魔物が襲撃するという事件が頻発している。それがとうとう自分の領地にも来たのかと、雷華は無意識にごくりと唾を飲み込んだ。
そして雷華は使者を待たせると、一緒にヴァーミリオンを討伐してくれる仲間を募るのだった。
- <ヴァーリの裁決>炎纏いし紅蓮の虎完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月05日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●守るべきものを背に
全身に炎を纏う紅蓮の虎、『炎虎』ヴァーミリオンが周囲の街や村を滅ぼして自分の領地に迫っていると聞かされた『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)は、ヴァーミリオンを討伐するべく仲間を募り、被害があった街や村へと繋がる街道を進んでいた。
やがて、雷華達は向こうから複数の炎の精を従えてのしのしと街道を進んでくるヴァーミリオンを発見する。
「炎を纏う怪王種……あんなのが街に来たら、一日で灰にされそうだね……既に被害も出てるみたいだし、ここで止めないと。
ここから先はわたしの街……わたしの守るべき場所。災いの種は通せない」
「緑豊かな平原に、活気づく領地の人たち。そんなにも幸せの詰まった場所が燃え尽くされるのをただ見てるだけってのは、あまりにも忍びねぇ。
俺も領主の端くれだ、ひと働きさせてもらうぜ」
領主として自分の領地を、そこに住まう人々を守るべく意気込む雷華の肩を、『束縛は鋭く痛む』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)がポンと叩いた。
ベルナルドはスケッチの題材を探して、偶然雷華の領地を訪れていた。そこでヴァーミリオン襲来の報を聞き、雷華に協力することにした。ベルナルド自身も領主であるが、その目から見ても雷華の領地はいい場所だと感じる。なればこそ、ヴァーミリオンの炎に包ませたくはない。
それに領主同士、領地や領民を守りたい気持ちはわかると言うかのように、ベルナルドは雷華に軽く微笑みかけた。
「狭い場所なら炎で息苦しさも感じましょうが、広々としたこの道であれば迎撃にうってつけ」
『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)は、周囲を改めて確認するかのように、ぐるりと見回した。仮に戦場が屋内や洞窟であれば、炎による熱や煙がイレギュラーズ達を苦しめたことだろう。だが、そうでないことを喜んでばかりもいられない。
「しかし――後ろを見れば人家のある領地。突破されれば焼け野原になるは必定。
川は無いが、背水の心持ち。家々を焼かせるわけにはいきません」
「そうだよね。炎を纏った虎に、炎の精霊……わたしたちが来たからには、もう好きにさせないよ」
静かに、しかし確たる意志を胸に、牧が独り言ちると、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が同意しながら頷いた。
(火は私たちの生活にとって大事なものだけど、これらはその生活を脅かすだけじゃなく、平和に暮らす人たちの命を奪ったんだ……)
既に奪われてしまったものは、命も建物も品物ももう戻らない。だが、それ以上の被害は食い止められるはずだし、食い止めねばならなかった。そのためにも――。
「よし、がんばろう!」
そう言って、ルアナは自分自身を奮起させた。
「うーん、氷の鷹を倒したと思ったら、今度は炎の虎なんだね。あんまり温度差が酷いと身体を壊しちゃうよね。
もっとも身体を壊す前に、この虎の前だと燃えちゃうんだけど」
『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)は、以前にも別のイレギュラーズの領地を襲う魔物の討伐に参加したことがあった。その時の魔物と今回の魔物の、対照的な特徴に苦笑いを浮かべた。Я・E・Dを知る者であれば、身体を壊すというのは温度差に当てられて体調を崩すだけでなく、冷たいものを食べた後に熱いものを食べたらお腹を壊すことを指すのではと思ったことだろう。
実際、その異称のとおり悪食であるЯ・E・Dは、ヴァーミリオンを討伐したらその肉を食べるつもりでいた。
「はら、まぁ……随分と怒りっぽそな魔物やんな。熱苦しくてかなわんわぁ」
「ホント、あっちぃよなぁおい。傷が焼けて血が止まりそうだ」
ヴァーミリオンと炎の精が発する熱が熱くてたまらないとばかりに、『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)は扇子を取り出してパタパタと自身を仰ぐ。『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)は秘巫に応じながら、包帯の上から右腕にある決して癒えることのない傷を掌で押さえた。
「まぁ、いい。仲間の領地のピンチだ。助けない道理はないだろう?」
「そや、ねぇ。気張りましょか」
しかし、仲間の領地を守るためにはこの程度の熱さに負けていられないと言わんばかりにヲルトが尋ねれば、秘巫もこくりと頷いた。
(極論、領地のピンチなど、どうでもいいのです。より多く、深い闇をたたえた悲劇を観たい。私の歩みを後押しするのは常に悲劇です)
流石に空気を読んで口に出したりこそしないものの、『観劇家』クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)がヴァーミリオン討伐に参加した動機は他の仲間とは大きく違っていた。悲劇が大好きなクロサイトは、イレギュラーズに討伐されるというヴァーミリオンにとっての悲劇を観察するために雷華に応じたのだ。
「――ここで、潰すよ」
雷華は後ろを振り返ると、自分の領地を守るために集まってくれた仲間達を見る。そして決然とした声で告げると、仲間達は深く頷いた。
●炎の精を引き剥がして
「お前の炎より、オレの血の方が熱くなってるだろうさ。さぁ、やろうか。オレだけじゃない、オレ達が相手だ」
最初に動いたのは、ヲルトだった。全身の血が滾るように熱くなっているのを感じながら、ヴァーミリオンの前に立ちはだかり自由に動けないように移動を阻害する。さらに、右手の傷に通しているカテーテルから己の血を飛ばし、ヴァーミリオンに浴びせかけた。
「血液を撒くんだ。ようは水分、広義の上での水だろう。あんたにとっちゃあ、気分のいいもんじゃねぇだろ」
ヲルトの血を浴びたヴァーミリオンは、ギロリと敵意の宿った視線をヲルトに向けると炎のブレス、突進、爪、牙とあらん限りの手段を使ってヲルトを攻撃する。
「あんたが何を持っていようと問題ない。全て避けきってやるよ。悔しかったらオレを狙うんだな。ほらここだ。当ててみろ」
だがヲルトはその全てをヒラリと躱すと、さらにヴァーミリオンの敵意を煽るべく、トン、トンと親指で自分の胸を叩いて挑発を仕掛けた。
(みんながヴァーミリオンと戦う間、わたしは精霊達を抑える……この結界があれば、出来るはず)
雷華は神秘の力を遮断する結界を展開すると、ヴァーミリオン達の右側へと駆け出した。そして炎の精の半分を狙い、敢えて目立つ動作で斬った。炎の精の実体は希薄であるため手応えは感じられなかったが、雷華の狙いどおり、斬られた炎の精は雷華に明らかな敵意を向ける。
(倒しきるんは難しゅうても、耐えるんやったらお手のもんやわ)
一方、秘巫はヴァーミリオン達の左側へと駆け出すと、残る炎の精の半分に向けて妖艶な笑みを向ける。見た者を幽世へと誘う笑みに、炎の精は声にこそ出さないがざわついた雰囲気に包まれて、秘巫に敵意を抱く。
雷華と秘巫が盾となって炎の精を抑え、その間に他のイレギュラーズ達がヴァーミリオンを撃破する、と言うのがイレギュラーズ達の戦術だった。盾となった雷華と秘巫には炎の精の攻撃が集中したが、炎の精は雷華の展開した結界を破ることは出来ず、また秘巫も思うように傷つけることは出来なかった。二人の身体に引火した炎は、装備に装着した魔石の護りによって無効化されている。
(奴さえ片付ければ終わりでしょう。二人が耐えている間に、勝負をきめなければなりません)
取り巻きの炎の精がヴァーミリオンから離れたのを狙い、牧はヴァーミリオンへと駆けた。その速度を威力と為して、牧は『破秀滅吉』を振るう。避けようとしたヴァーミリオンの胴体に、縦にザックリと大きな傷が刻まれた。
「思う存分、やれそうだな……行くぞ! アイツを倒すんだ!」
戦場が街道だけに通りすがりの旅人などがいないかと周囲を見回したベルナルドは、それらしき人影が皆無であることを確認して、ヴァーミリオンとの戦闘に集中出来そうだと安堵した。そして戦いの熱狂を味方の心に呼び起こして鼓舞すると、毒の魔石を生成し、ヴァーミリオンへと放つ。
魔石はヴァーミリオンの胴体に命中すると、その周囲の組織を毒でじわじわと蝕んでいった。
「そうだね。人が居ないのは戦いやすくて助かる。さあ、思い切りぶん殴らせてもらうよ」
Я・E・Dは物理的な力を遮断する結界を展開すると、ヴァーミリオンとの距離を詰め、その頭部の横側に魔力を宿した拳を全力で叩き付けた。バキッ! と言う音と共に、ヴァーミリオンの顔は横を向く。Я・E・Dは拳の感触から、ヴァーミリオンの頭蓋をいくらか砕いた手応えを感じていた。
「もしかしたら、あなたは普通にご飯を食べに来ただけなのかもしれないけれど。
人間の都合かもしれないけど……この地で生きる人たちにとって、あなたは『外敵』なんだ」
ヴァーミリオンに対してすまなそうに告げるルアナだが、それでもヴァーミリオンを討たねばならないと氷の刃を放つ。刃はヴァーミリオンに命中すると、纏っている凍気をその全身に拡げてヴァーミリオンを氷に包まんとするが、氷が拡がろうとする側からヴァーミリオンの炎が溶かしていく。ジュウ、と音を立てて拡がろうとする氷もろとも氷の刃が蒸発したが、ヴァーミリオンは一段と苦しげな様子でもがいた。
「嗚呼、悲しい……とても残念ですよ炎虎。
貴方がどんなにもがき苦しんでも、どんな嘆きを吐き出しているか、疎通の力がない私には知り得ない」
そんなヴァーミリオンの様子に、クロサイトは幸福感と悔しさを感じていた。幸福感はヴァーミリオンがもがき苦しむ様を目の当たりにしていることに、悔しさはクロサイトが言うようにヴァーミリオンの苦痛の嘆きが理解出来ないことに起因する。
「だからこそ、惨たらしく死んでください――貴方の悲劇を、分かりやすく観察する事ができるように」
病んだ笑みを浮かべながら、クロサイトは自身の神秘的な力を扱う能力を覚醒させる。そして、絶対零度の凍気をもたらす魔術を放った。凍気はヴァーミリオンの身体を覆い尽くして氷像とせんとするが、ヴァーミリオンが纏う炎によって溶かされて水蒸気となる。
ルアナとクロサイトの立て続けの凍気による攻撃は、ヴァーミリオンを氷漬けにすることは出来なかったが、明らかにヴァーミリオンに消耗を強いた。ヴァーミリオンの呼吸は苦しげで荒いものになっており、その身体を纏う炎は弱くなっていた。
●炎、消ゆ
ヴァーミリオン自身の攻撃はヲルトが引き付けて回避し、炎の精の攻撃は雷華と秘巫が受け止めると言うイレギュラーズの戦術は、概ね上手く行ったと言っていい。
概ね、と言うのは凍気を以て攻撃してくる中でも特に強かにダメージを与えてくるルアナへの敵意がヲルトへの敵意を時々上回り、ヴァーミリオンがその場から炎のブレスで狙うなり一度後ろに跳びすさりヲルトを振り切ってからルアナへと向かうなりしたからだ。だが、この事態はイレギュラーズ達も警戒していた。
その都度ベルナルドがヴァーミリオンの敵意を煽って攻撃を引き寄せ、秘巫が盾となってヴァーミリオンの攻撃を受け止める。その間にヲルトが改めてヴァーミリオンの敵意を煽り自身に攻撃を引き付けたため、ルアナは浅くはない傷を受けこそしたものの、倒れずにはすんだ。
そのヲルト自身も、さすがにヴァーミリオンの連続攻撃を全て避けきることは出来なかった。戦闘が進むにつれて、次第に傷が増えていく。だが、傷を負ってからの方が本領だと、ヲルトはさらに奮い立った。
一方で、牧の放つ毒霧、ベルナルドの魔弾、Я・E・Dの魔力を宿した拳、そしてヲルトの足音を聞く者を凍てつかせる亡者の行進、ルアナの氷の刃、クロサイトの絶対零度の凍気の魔術が、ヴァーミリオンの生命力を大きく削り取っていた。
ヴァーミリオンを守るべき炎の精は、敵意を雷華と秘巫に煽られて、意味の無い攻撃を繰り出すばっかりだった。何しろ、結界を敗れない雷華には傷一つ付けられないし、秘巫に至ってはヴァーミリオンからのものを含めていくら攻撃を受けても一向に倒れる気配を見せないのだ。
戦いが進むうちに、ヴァーミリオンは満身創痍にまで追い込まれた。無数の傷が身体に刻まれているのみならず、その身体を包む紅蓮の炎は今にも消え入りそうな程に弱々しくなっている。もう戦闘の趨勢は明らかであり、後はヴァーミリオンを仕留めるだけだ。
しかし、ヴァーミリオンとてここまで劣勢に陥れば、これ以上戦っても仕方ないのは理解出来る。一目散に、来た道を逃げ出そうとした。
「おっと……逃がさないよ。あなたはわたしが食べるんだから」
だが、逃亡の気配を察したЯ・E・Dがヴァーミリオンの後方を塞ぐ。前はヲルトに塞がれ、後ろはЯ・E・Dに塞がれたヴァーミリオンは、逃げようがなくなってしまった。
邪魔者は倒してこの場を突破せんと、ヴァーミリオンはЯ・E・Dにブレス、牙、爪で襲い掛かり、深手を負わせた。だが、それがヴァーミリオンの最後の攻撃となった。
「ええ、逃がしませんとも。これ以上の被害は出させません」
Я・E・Dに仕掛けたヴァーミリオンの後ろから、牧は『破滅秀吉』を袈裟に振るった。烟る波濤の先の如くぼやけて見える剣閃が、ヴァーミリオンの胴体に背から腹にまで至る傷を刻む。
「ああ……これで、終わらせる」
牧に続くように、銃を構えてヴァーミリオンを狙っていたベルナルドが、引金を静かに引く。狙い澄まして放たれた魔弾が、ヴァーミリオンの後頭部を直撃した。とうとうヴァーミリオンの身体からは炎が消え、今にも倒れそうなほどによたよたとよろける。
「一方的に殺したんだから……殺されるのも、仕方ないよね」
「嗚呼、嗚呼。貴方の悲劇も、クライマックスですね。幕は、私が引いてあげます」
ヴァーミリオンに止めを刺すべく、ルアナは氷の刃を放ち、クロサイトは絶対零度の凍気の魔術を放つ。氷の刃と凍気の魔術を同時に受けたヴァーミリオンは、今度こそ氷に覆われて息絶えた。同時に、ヴァーミリオンが使役していた炎の精はことごとく消滅した。
「ふふ……けっきょく、妾(わたし)のこと殺されへんかったね。おかしいなあ、うふふっ」
戦闘の間、攻撃を防ぐ結界も無しに炎の精に加えてヴァーミリオンからの攻撃も受け続けながら、秘巫は倒れることなく最後まで立ち続けた。炎の精が消滅した跡を眺めながら、秘巫は艶やかに笑った。
「みんな……どうも、ありがとう」
目前の炎の精が消滅したのを確認した雷華は、自分の領地を守るため共に戦ってくれた仲間達に、ぺこりと頭を深く下げた。
●戦後の一時
「……うーん、炎のお肉だと最初から焼き肉になってたりしないのかなぁ? これを調理しようとしたら、少し面倒だよね」
最初からヴァーミリオンを食う気満々だったЯ・E・Dは、雷華の領地に戻ると早速ヴァーミリオンの遺体を解体し、調理にかかる。ヴァーミリオンの肉は熱されてはいるものの、焼けてはおらず生だった。それどころか、いくら焼いても煮てもそれ以上熱が通ることはなく生だった。
「……ま、いっか」
生から変わらないなら仕方ないとばかりに、Я・E・Dはもぐもぐとヴァーミリオンの肉を食べていった。
(領地の強襲事件が続いている原因を探るにあたり、これが何かヒントになるといいのですけど……)
クロサイトは、Я・E・Dから譲り受けたヴァーミリオンの尾を眺めながら思案に耽る。
「なるほど……怪王種は、動物や植物、モンスターが反転して突然変異したようなものだと」
「うん、それに……怪王種自体が他のモンスターを怪王種へと突然変異させる性質を持つらしいよ」
豊穣生まれの牧にとって、怪王種は珍しい生物だった。だが、牧がイレギュラーズである以上、今後も頻繁に遭遇することになるだろう。故に、牧は戦闘中にヴァーミリオンを観察し、戦闘後には雷華に教わることで、怪王種についての理解を深めていった。
そして、知れば知るほど、今後の戦いで怪王種に遭遇する機会は増えるのだろうと実感した。
「はれ、まぁ……これは……」
「ああ、酷え……」
目の前の惨状に、秘巫が呆然としてつぶやく。ヲルトも、顔をしかめた。
(雷華の領地がこうならなくてすんだのは良かったが……)
ベルナルドも、何とも言えないような表情になる。
イレギュラーズ達は一度雷華の領地に戻って一息ついた後、ヴァーミリオンの被害に遭った場所に訪れていたのだ。
やがて、いつまでも呆然としてはいられないと、一行は簡単にではあるが焼け跡を片付けたりヴァーミリオンに焼かれたり食われたりした人々の遺体を弔った。
(本当の勇者がいれば、こんな悲しみも減るのかな……)
被害者達の冥福を祈る中で、ルアナはそんなことを考える。折しも、幻想では『ブレイブメダリオン』の所持数によって次世代の勇者が決まることになっていた。次世代の勇者が本物の勇者たりうるか、そして次世代の勇者によってルアナが悲しむような事件が経るかどうかは――今は誰にもわからない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。
MVPは、攻撃が盾役から逸れた時のことを想定し、炎の精の半分を引き受けながらもなお味方の盾となった秘巫さんにお送りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回も<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。雷華さんの領地に迫らんとしている怪王種『炎虎』ヴァーミリオンを討伐し、雷華さんの領民と領地を守って下さい。
●成功条件
『炎虎』ヴァーミリオンの討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
雷華さんの領地に続く街道です。時間は昼、天候は晴れ。
地形は平坦で、足場、視界等による戦闘へのペナルティーはありません。
●『炎虎』ヴァーミリオン ×1
雷華さんの領地を襲撃している、炎を纏った虎の怪王種です。
攻撃力が特に高く、その他の能力もEXA含めてバランス良く高くなっています。
・攻撃手段/特殊能力(※爪以外の攻撃は1ターン1回まで)
牙 物超単 【弱点】【移】【火炎】【業炎】【炎獄】
爪 物超単 【移】【追撃】【火炎】【業炎】
ファイアブレス 神超貫 【万能】【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】
体当たり 物超貫 【邪道】【移】【火炎】【業炎】
【反】
火炎無効(※1)
弱点(※2)
※1:【火炎】【業炎】【炎獄】属性を持つ攻撃、あるいはフレーバー含めて火属性と判断される攻撃は、物理神秘問わずヴァーミリオンに一切ダメージを与えられません。また、BS【火炎】【業炎】【炎獄】はヴァーミリオンに対しては無効となります。
※2:【凍結】【氷結】【氷漬】属性を持つ攻撃、あるいはフレーバー含めて水属性、氷属性とされる攻撃は、ヴァーミリオンに対しては【防無】扱いとなる上、追加でダメージを与えます。
また、BS【凍結】【氷結】【氷漬】は無効とはなりますが、さらに追加でヴァーミリオンにダメージを与えます。
●フレイムスピリット ✕8
ヴァーミリオンに使役されている炎の精霊です。実体が希薄であるため、物理ダメージは半減されます(例外あり)。
攻撃力が最も高く、その他の能力はバランス寄りとなっています。
ヴァーミリオンが撃破されれば消滅します。
・攻撃手段など
ファイアボール・近(通常攻撃) 神近範
【鬼道】【火炎】【業炎】
ファイアボール・遠(通常攻撃) 神超範
【鬼道】【火炎】【業炎】
飛行
【反】
物理ダメージ半減(【凍結】【氷結】【氷漬】属性を持つ攻撃、フレーバー含めて水、氷属性と判断される攻撃を除く)
火炎無効 ヴァーミリオンと同じです。
弱点 ヴァーミリオンと同じです。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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