シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>夜明けと共に大空へ駆けよ
オープニング
●革命は夜明けと共に
街は燃え、人々の姿はない。
巨大な蛇や巨人や、黒い卵のようなものが町中を闊歩し、家屋や畑を執拗なまでに破壊している。
「これが、昨日まで人が住んでた町だなんてね」
ジェック・アーロン(p3p004755)たちは、空飛ぶ神翼獣ハイペリオンの背より、町の惨状を見下ろしていた。
情報屋の話によれば、その町はつい先日におきたウィツィロよりの古代獣復活のおりに襲撃をうけ、たちまちのうちに滅んでしまったという。
「領地のひとつも守れてこそ良妻賢母。婚活に有利というもの……」
戦装束に身を包んだ澄恋(p3p009412)がハイペリオンのうえで立ち上がる。
なびく髪が闘士のように踊った。
ハイペリオンははばたきを維持しながら、そのシンプルな顔で背へ視線をやる。
「今の私にできるのは、皆さんを町の上空まで運ぶことだけです。口惜しいですが……」
「大丈夫! きっと町を取り戻してくるからね!」
「ヤデッ!」
ハイペリオンの背を走るミスト(p3p007442)。
「ハイペリオン降下部隊、しゅつ! げき!」
両手を広げ翼を広げ、大空へと飛び出していく。
ハイペリオンの背より飛び、身構えるイレギュラーズたち。
それを見上げ、迎撃姿勢に入る災いの獣たち。
ぶつかり合う、その前に。
まずは……背景を語るべきだろうか。
●革命前夜
「私の名は神翼獣ハイペリオン。太陽の翼」
全長3mくらいの白くてもふもふしたひな鳥が、両手をバッて掲げたYの字ポーズでこう言った。
初めて見た人は一旦目か耳か相手を疑うところだが……。
「本当に伝説の神翼獣、なんだね……」
神翼庭園ウィツィロから現れたモンスター軍、通称『災いの獣』たちとの戦いの中で、封印の楔となっていたハイペリオンの力を吸収していたことや、彼らを倒したことで力を僅かながら取り戻し共に戦ってくれたこと。そんな事実が、ジェックたちに信用をもたらしていた。
神翼庭園ウィツィロは、伝説の空島アーカーシュより欠け落ちたとされ大地である。
古くは勇者王の冒険の一端として語られ、災いの獣たちとの戦いも歴史書の一部に残っていた。
「勇者王が冒険を終え、この大地に国を作ろうとした折。わたしは一度封印した古代獣たちがその先何百年と抑え続けられるように、自らを楔としてこの土地で封印の眠りにつきました。
しかし永久の封印を維持するために、永劫の彼方で戦い続けた結果……逆に古代獣たちに力を奪われ続ける形となってしまいました。
スラン・ロウの封印が解かれたことは、むしろ私の力がすべて食われ尽くされる前に解放されるという意味で、よいきっかけだったのかもしれません」
巨大なひな鳥ハイペリオンは首を振り、そのシンプルな顔で微笑んだ。
「力は奪われ、このようにシンプルで可愛らしい姿をとるのが精一杯です。古代の記憶も散逸し、古代獣に関する知識がわずかに残る程度となってしまいました。
ですが、意志ある限り剣をとり、ひとは戦うことができる。それが勇者というもの……」
ハイペリオンはイレギュラーズたちを背に乗せると、大空へと飛び上がった。
「かつては封印するしかなかった古代獣たちですが、今こうして結集した力があるならば、今度は完全に倒すことも不可能ではありません。
さあ、共に戦いましょう。大地より這い出た災いの獣たちを打倒し、人々の手に大地を取り戻すのです!」
●そして伝説は幕を開ける
スリサイド。それはウィツィロから大量の古代獣が現れたその夜のうちに滅んでしまった町のひとつだ。
幻想首都からも遠く離れ、山々に囲まれ、そして偶然にもウィツィロに近かったことで軍事力もさしてもたなかったこの町が滅んでしまったのは必然と言えるだろう。
大半の古代獣は町を滅ぼしたあとは別の土地へと移動していったが、人類の痕跡は徹底的に駆除したいという考えなのか棍棒によって建物を残らず粉砕しようとする巨人や、家畜という家畜を撃ち殺す有翼獅子型古代獣、土を毒によって汚染し二度と作物がつくれないように変えてしまおうとする大蛇型古代獣などが駐留しているようだ。
ハイペリオンの直感によるなら、この大地にもまた別の古代獣が眠っており、すべての敵を倒しきった後に別の土地へ逃れようとするだろうとも言われている。
イレギュラーズたちはすぐさま強襲チームを組み、ハイペリオンと共にスリサイドへと強襲。山に囲まれた土地ゆえに、上空からの降下作戦を開始した。
いざ伝説の幕開け。
走れ、大空へと。
- <ヴァーリの裁決>夜明けと共に大空へ駆けよ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月06日 22時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●黒き炎に消ゆ
それがつい数日前まで人々の暮らしていた場所だとするには、あまりに荒れすぎていた。
田畑は燃え、家畜は徹底的に殺され、井戸は埋まり用水路はせき止められ家屋という家屋の屋根が吹き飛んでいた。
廃墟と呼ぶにも生ぬるい、文明崩壊の有様がそこにはあった。
「ひでぇ。みんな燃やしちまったのか?
それどころか辛うじて生き残ってた家畜や作物も……」
翼をたたみ、巨大化したハイペリオンの背からその風景を眺める『蒼穹の翼』青燕(p3p009554)。
「酷い……どうしてこんな……」
同じく見下ろす『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)たちに、ハイペリオンはちらりと目を動かした。
「天空より来た古代獣たちは、地上文明の悉くを強く嫌っています。家の庭にできたアリの巣を埋めるように、庭木についた卵を壊すように、彼らは人類をその痕跡に至るまで嫌悪しているのです」
「もしこの魔物達があちこちの領地に広がったら……」
マリアたちは他の町が、まして自分たちの町がこのスリサイドの町のようになるさまを想像した。
「これ以上こんな惨状を作らせはしない!」
「ああ、その通りだ。この町だって、もっと早く駆け付けて救ってやりたかったな……」
『Immortalizer』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)はハイペリオンに腰掛けるようにして、黒い翼をひろげていく。
ひとはすべてを一度に救うことは出来ない。それがたとえ勇者であっても。
伝説に、絵本や演劇に出てくる存在が本当に現れた時には驚いたが、そんな気分でばかりもいられないということか。
そんな一方で。
「わっふー! ハイペリオン様の背に乗って飛べるなんてさいっこぉ☆
ずっともふもふしていたいけど、今はできることをやらなきゃね!」
ハイペリオンの背に抱きついて頬ずりする『トリヤデ一番槍』ミスト(p3p007442)。
晴れた日の空ということもあってこのまま眠れそうなくらい心地がよかったが、そうできるのは一仕事終えてからだ。
「今みたいな騒動が落ち着いたらハイペリオン様もまったりできるかな?」
「そうかもしれません。大地の子らよ、私も平穏を望んでいます」
「大丈夫、アタシ達が取り戻してあげる。平穏も、町の未来もね」
語るハイペリオンに、『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)はそっとその頭を撫でることで返した。
「だから一緒に戦おう。頼りにしてるよ、ハイペリオン」
「うーん、これは良い手触りの鳥さんだね。A+級だと言っても過言では無いよ」
と、ミスト同様頬ずりしていた『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)も仲間の覚悟にハッと顔をあげた。
「わかりました。私も力の限り戦いましょう。我が名はハイペリオン――」
「「太陽の翼!」」
Я・E・Dも一緒に腕をY字に掲げ、空へと飛び立った。
「誰かの背に乗って飛ぶってこんな感じなんだな」
日頃から自分の翼で飛び回っていた『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、まるで海の上を船でゆくかのような感覚にどこかワクワクしていた。
それと同時にちょっと恐れ多いらしい。いちおう神様だし。
「話に聞くには、あなた方も遠い『青』の先で神々と酒を飲み交わしたとか」
「あれは特別……でもないのか? 神霊だもんな」
「いやぁ、生身で空を飛ぶってちょっと憧れてたんだけどよ……風が冷たいな!
あったかフワフワもふもふっとした乗り心地でなけりゃ凍え死んでたぜ!」
『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は彼なりのマイペースで帽子をおさえ、風に身を低くしている。
「自力で空飛んでるやつはいつもこうなのか?」
「いや、今日は微風なくらいだな」
「マジかよ」
「旦那様との恋に毎日落ちてるのでだいびんぐなど朝飯前! ……の筈ですが」
謎の座禅ポーズでふわふわしていた『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)。へっくしとくしゃみをしてハイペリオンの背に落ちた。
「花粉マジ許すまじ! 化粧の崩れた恨みを思い知れ!」
「そこ?」
「ハイぺリオンと共に戦えるとは、当代のハンマーマンと呼ばれている者として光栄だァッッッッッ!!!!!」
『ハンマーマン』ハロルド(p3p004465)が両目かっぴらいて、手にした使用済みハンマーをぽいっとどこかへ放り投げた。
「初代ハンマーマンはそのハンマーで勇者を助けたという。当代の勇者が誰になるのかは分からんがァァァァ!? 俺も当代のハンマーマンとしてハンマーで勇者を助けるとしよう!!!!」
両腕を開いでのけぞり、ゲハハハハと大口をあけて笑うハロルド。
「どうしちゃったんだこいつ」
「多分スキルパッチ直後でテンションが天元突破したんだと思います」
「行くぞォ皆! トリヤデさんは持ったか!?」
「ヤデェ!」
両手にトリヤデさんを握ると、ハロルドはPARTY TIME! とか叫びながら跳躍。紐付きハンマーを回転させ地上めがけてブンと振り込むと何故かその勢いで飛行していった。
●フライハイ
「じゃ、行ってくるから。ちょっとそこで待っててね」
ジェックは飛行石を握り込むと、ハイペリオンの背から勢いよく飛び出した。
風を突き抜け、暴風が髪を吹き上げていく。
自由落下の速度と耳元であばれる風の歌声を聞きながら、ジェックはライフルを構える。
ハイペリオンの姿をみとめていた獅子型古代獣ケンロクエンが翼をはばたかせながら円を描くように上昇。身体からはえた巨大な松植物の針葉を硬化させ自由落下中のジェックめがけて機関銃の如く乱射しはじめた。
「させるかオラァ!」
ハンマーの振りを変えてカーブし、ジェックとの間に割り込みをかけるハロルド。
聖剣から放った光で壁を作り、ニードルガトリングを無理矢理防御した。
「ハイぺリオンの力、返してもらうぞ!」
そのままつっこみ体当たりをかけるハロルド。一方ジェックは自由落下中であるにも関わらず身体をひねり、アクロバティックな姿勢からケンロクエンのボディをスナイプした。
「変な敵だよね、けど……鳥さん(ハイペリオン)を狙われたら危ないから、早めに消えてね」
衝突し、回転しながら飛んでいくハロルドと交替するようにЯ・E・Dが割り込み、両手をかざしてルーンシールドを展開。
さらなる射撃をことごとく空中で停止させる。
「ムゥ、勇者の子らよ――どうやら雑兵ではないようだな」
ニードルガトリングが通用しないことを察し、顔をしかめるケンロクエン。
ならばと直接食らいつき、Я・E・Dのシールドを無理矢理破壊し始めた。
シールドのかけ直しや至近距離からの魔術砲撃によって凌ぐЯ・E・D。
が、そうしている間にも巨大な『翼ある蛇』アーヴァンクγが背後より迫る。
「レッドさん、危ない!」
ハイペリオンが声をあげた――が、その横を三人の英雄たちが急降下をかけ追い抜いていった。
「いっくよー、トリヤデさん!」
「「ヤデッ!?」」
両手にトリヤデさんを握ったミストは翼をするどく畳み、アーヴァンクγの頭部めがけて垂直落下。
両手からボッと炎を吹き上げさせるとくるんと宙返り。両手(とトリヤデ)を組み合わせたファイアハンマーをアーヴァンクγめがけてたたき込む。
「焼いても食べないけど焼き蛇になぁれ☆」
と同時に真横につくカイトとマリア。
「空は俺の領域だぜ!」
「これは中々にスリルがあるね! さぁ! 行こう!」
カイトは翼から吹き上げた炎を急制動によって前方に押しだし、炎の竜巻を作ってアーヴァンクγを閉じ込めていく。
「小癪なっ! 我が翼がそう容易く折れるものですか!」
「なら、勝負だよ!」
竜巻の中に一緒に飛び込んだマリアは空中にしいた磁力レールで螺旋を描きながら幾度もアーヴァンクγとぶつかり、垂直方向にシザーズマニューバをかけていく。
一方竜巻の外では、降下姿勢に入ったハイペリオンの頭上にフレイが身をかがめ、翼を鋭く構えて離陸。
地上から次々に上昇してきた小さい蛇型眷属たちめがけて漆黒の光線を次々に発射していく。
時折回転をかけ、踊るように指先から繰り出していく光に小型眷属たちが破壊されては墜落していく。
「お前らのやってること、全部空は見てるからな。――空は、俺の味方だ」
同じく青燕もハイペリオンから離陸し、腰のベルトから抜いたブルーの二丁サブマシンガンを眼下へと構えた。
「くらえっ!」
撃ちまくった弾丸が、迫る蛇の群れを次々に撃墜。
ほとんどの個体を寄せ付けることなくうちはらっていく。
が、そんな彼めがけてケンロクエンが狙いを変更。牙をむき出しにして青燕の頭へと食らいつ――。
「飛ばねぇ松はただの松ッ!」
――くかと思われた瞬間、真上からY字のポーズで振ってきた澄恋がケンロクエンの頭部を踏みつけにして無理矢理軌道を変更。
そのまま両足で蹴りつけて後方宙返りをかけ、丸くなった姿勢で回転しながら自由降下していった。
「くうっ、脆弱な地上生命ごときが――!」
「ひゃっほー! スカイダイブだぜー!」
舌打ちし、軌道を整え……ようとした所でブライアンに蹴りつけられた。
ブライアンは笑いながら降下。みるみる地面が近づいていくるが、どうやら恐怖はないらしい。
ミストの召喚してくれた2mほどのトリヤデさんが地面をヘッドスライディング。その背にぽっふんとクッションされた。
「着地を他人任せにしていいってのはマジで楽だな! サンキュートリヤデさん!」
「ヤデ……ッ!」
うつ伏せのままビッと手をあげるトリヤデさん。
すぐに仲間達が地上へと集結し、飛行できるものはホバリングをかけ、簡易飛行能力を使える者は落下ブレーキをかけ最後はストンと大地に着地した。
それを迎え撃つのはダメージをうけ墜落状態となったケンロクエンとアーヴァンクγ。
自己再生能力で翼を整え羽ばたき直すと、崩れた家屋や焼けた野原をはさんでイレギュラーズたちとにらみ合った。
立ち上がり、ファイティングポーズをとるブライアン。全身から緑色の炎が燃え上がり、闘志のように右腕へと集まっていった。
着地し服装をぱたぱた整えた澄恋も、両手をかざして指を小指から順に波打つように握り込みゴキゴキと鳴らす。
やや離れた家屋の、崩れた壁の上にストンと着地していたジェックはその場に身をかがめライフルの射撃姿勢へ。
纏っていた炎を祓ったカイトとミストは翼でホバリングしながらブライアンたちの頭上で止まった。
「もうひと頑張りだ。連中、空でボコられたせいで高高度へは逃げない」
Я・E・Dとフレイ、そして青燕も翼を畳んでたかたかと地上を小走りに進むかたちで体制を整え、仲間達に並んでいく。
ハイペリオンもゆっくりと着地した所で、近くの家屋をぶち抜いてテセラヘカトンが飛び出してきた。
「調子に乗るなよ脆弱矮小なる人類どもが! てめぇら一人乗らず根絶や――ゴッフ!?」
「うるせえオラァ!」
降下を更に加速させたハロルドが拳と膝を叩きつける形でテセラヘカトンの頭部へ着地。もとい着弾。
派手に転倒したテセラヘカトンから飛び退くと、仲間達に合流した。
拳をグッと出してきたフレイに自分の拳をあわせ、そこへマリアがしゅるしゅると螺旋を描くかたちで地上へと合流。
パチッとフィンガースナップをかけた指に赤い電流を放電させ、古代獣たちへと身構えた。
「さあ、もう一勝負だ! これ以上みんなの町を壊させない!」
「やってみろ脆弱矮小人類ど――グオ!?」
起き上がり、目を見開いて吼えるテセラヘカトン――の顎に超高速で突っ込んだマリアの電撃蹴りが炸裂した。
勝負はもう、始まっているのだ。
●大地はだれのもの
顔を潰され、仰向けに沈むテセラヘカトン。
その上に立つマリアに、砂混じりの風が吹いた。
羽織ったコートと赤い髪をなびかせ、ついっと顎を上げてみせる。
そんなマリアに、建物の破壊をしていた周囲のテセラヘカトンたちが集まってくる。
「我ら巨人をたった一人倒した程度でいい気になるなよ、人間」
「貴様など握りつぶし食いちぎってくれる」
その辺の瓦礫をつかみ、四本の腕で放り投げてくる。
対して、マリアはかざした手から放った超磁力によって瓦礫をはねのけ、空中に引いたレールで高速移動しテセラヘカトンの腹部へと蹴りつけた。
ぴょんと飛び退き、仰向けにのぺーっとしていたトリヤデさんの上に着地。
「トリヤデ君クッションはすごいね。ふかふかだ」
「ヤデェ」
「それだけじゃないよ、今回の僕とトリヤデさんは……毒にも強い!」
ビッと両手でサムズアップするミストと、後ろでY字のポーズをとるトリヤデ――がいきなりアーヴァンクγにかっ攫われた。
「ヤデェ!?」
「あっ、こら! トリヤデさんをはなせ!」
噛みつかれて涙を流すトリヤデ。アーヴァンクγにしがみついてぽかぽか殴るミスト。
「離さないなら、こうだ!」
ミストは手刀をかざすとアーヴァンクγの首めがけて突き立てた。激しい熱をもった手刀が突き刺さり、肉を裂いて進んでいく。
それを振り払おうと首を左右に振るアーヴァンクγ。ミストとトリヤデさんは吹き飛ばされて地面をバウンドしていくが、それをフレイがキャッチ。アンドリリース。
青燕がその横を駆け抜け、アーヴァンクγを中心とした円周軌道を水平飛行しながらサブマシンガンを連射した。
「こっちだ、蛇! 撃ってこい!」
簡単に彼をとらえられないと判断したアーヴァンクγは毒のオーラを散布。
たちまち青燕は青紫色のオーラにとりこまれ、動きが鈍くなった所へアーヴァンクγは素早く食らいついた。
弱らせてからの一撃必殺。誰も逃れられはしない――かに、思われたが。
「オーラに毒があるのはもう知ってるんだよ。今の俺には効かねえ!」
青燕の胸にさがったペンダントには美しいエメラルドが輝き、毒の効果を打ち消していた。
そこへフレイが至近距離まで突っ込み、頭を押さえて零距離黒閃雷を乱射。黒き閃光が迸り、アーヴァンクγは痛みのあまり身体を暴れさせた。
「トドメだ」
「スゥーー……ハッ!?」
仰向けになったトリヤデさんのおなかに顔をつっこんで深呼吸していた澄恋ががばっと頭を起こし、乱れた前髪を整えた。
「ないすもふもふ! それでは行ってきます!」
「ヤデッ」
おそろいの角(アタッチメント)がついたトリヤデさんに敬礼すると、澄恋は暴れるアーヴァンクγへと助走をつけた。
「此奴の革剥いで財布でも作ってやりましょうか〜! いざ今シーズン二度目の――!」
ダンッ、と石畳を踏みつけ、跳躍。
打ち払おうと頭を振り込むアーヴァンクγへ斜めに回転した澄恋は、ムーンサルトブライダルキックをたたき込んだ。
たたき落とされる形になったアーヴァンクγが、地面に頭をバウンドさせ、そしてことりと動かなくなった。
「愛の炎で、毒に塗れた町の土をお清めです!」
一方こちらはブライアン。
殴りかかるテセラヘカトンの攻撃をかざした右腕で受け止めた。
緑の炎をまとった彼の腕がボッと大きく炎をゆらめかせ、吹き飛ばされそうになる身体を両足でふんばってこらえる。
土の地面に5メートルほどのラインを刻みつつも、ブライアンはガードした腕の下でニッと笑った。
「スデゴロの喧嘩は得意分野なんだが、家みたいなサイズの相手は初めてだぜ!」
ガードをとき、ぐっと拳を引き絞る構えをとる。
テセラヘカトンはすべての腕を広げて突撃をかけ、今度こそブライアンを粉砕するつもりだ。
ガードを捨てた彼を捨て身とみたのだろう。
半分は正しい。だが――。
「捨てた分がどこに向くかは、考えとけよデカブツ! ハッハァー!」
豪快に笑い、拳を突き出す。するとグリーンの炎が巨大な拳を形作り、突進してくるテセラヘカトンの顔面を粉砕した。
派手に転倒するテセラヘカトン。その上を光りを纏ったハロルドが突っ切っていった。
「ははははっ! おら、掛かって来いよ! HLRC委員長にしてウィツィロ開発局長! ハンマー工場の工場長と混沌ハンマー協会の会長を務め、なにより当代のハンマーマンたるこの俺の守りが! 貴様らごときに貫けるか!」
アイデンティティの爆発したハロルドは無敵だった。群がるテセラヘカトン三体を相手にジグザグに飛行し、光りのハンマーを伴った聖剣で次々と殴り倒していく。
ハロルドが突っ切ったあとには、まるでバイクにでも跳ねられたかのような巨人たちが宙を舞う光景が残されるのだった。
「そこまでだ勇者の子らよ。所詮は大地に蔓延った虫に過ぎぬ事をおしえてやる!」
四肢を大地につけ、吼えるケンロクエン。
身体からはえた松植物が大きく広がり、束ねた針葉が巨大な槍となって発射さ――。
「ジェック!」
「――」
建物の影から狙っていたジェックがスナイプ。
槍の発射装置となっていた松植物の一部を的確に打ち抜き、炸裂弾頭がその機構を破壊した。
結果ケンロクエンの身体は部分的に大爆発を起こし、大きくよろめくことになる。
「貴様、よくも!」
もう一本の槍をジェックめがけて発射するが、射撃してすぐに位置をかえ走り出したジェックのはるか10メートル後方に打ち込まれるのみ。
そうしてできあがった巨大な隙を、カイトが逃すはずもない。
「行くぜテメェら覚悟しろよ!」
炎を纏い自らを巨大な炎の鳥へと変えたカイト。
彼の突撃を察し飛び退こうとしたケンロクエンだが、翼は先ほどの爆発で破壊されていた。
空中でよろめくように姿勢を崩したケンロクエンを、炎の巨鳥と化したカイトが貫いていく。
飛び抜けた後方で大爆発を起こしていくケンロクエン。カイトははるか高みへと上昇し、その姿を振り返るのだった。
●ブラックメアβ
倒した古代獣たちがかすむ霧のように消滅していき、それぞれ白い羽根だけがのこっていく。
「お、なんだこりゃ?」
それをつまみあげてみるブライアン。
手の中でフッとかすんで白い光の粒子となった羽根に驚いていると、ミストがハイペリオンを指さした。
「きっとハイペリオン様から奪った力の結晶じゃないかな。ほら見て」
避難したトリヤデさんたちと押しくら饅頭的に隅っこに隠れていたハイペリオンがもにゅんと表に出ると、光の粒子がハイペリオンへと集まっていく。
やがて巨大な卵の形をとって包み込み、それを割ってはるかに巨大な白鳥が現れた。
神々しい姿は絵本の挿絵にあるような『神翼獣ハイペリオン』のそれに近い。
「ありがとうございます。大地の子らよ」
「力を取り戻せたんだね」
見下ろすハイペリオンのおなかをスッと撫でるジェック。
しかし、うごめく黒い気配を鋭く察知し、ライフルをかまえて振り返る。
と同時に。大地が割れ黒く巨大な卵が出現。それを割って巨大な黒い鴉が空へと飛び立っていった。
「あれは……ブラックメア」
「力を持ち逃げするつもりです。皆さん、乗って!」
身をかがめ翼を広げるハイペリオン。ジェックたちは素早くその背にのると、ブラックメアを追って空へと飛び上がった。
青燕でも出したことのないような推進力で空へ舞い上がったハイペリオン。
山々が低く見えるほどの高さで、前方をゆくブラックメアβを目視した。
「すげえスピードだ。追いつけるかハイペリオン?」
「今の力ならば」
力を取り戻したといってもまだ弱いのか、ハイペリオンはシンプルな顔のまま翼をはばたかせる。
「古代獣と戦うことは難しいですが、皆さんをそばまで送り届けることはできます」
「それで充分だ! ジェック、やれるな!?」
「トーゼン」
ジェックはガスマスクの下で目を細めると、ハイペリオンの頭の上に寝そべる形でライフルを構えた。
風を追い抜き、加速を始めるハイペリオン。それでも振り落とされないのは空気の殻を作ってジェックたちを守っているからだろう。
みるみる距離を縮めていく。ブラックメアβはその様子に気付いたのか、身体から大量の黒い羽根を散らして分裂体を生成。鴉の群れがジェックたちめがけて襲いかかる。
「ジェックさん」
「大丈夫」
狙って、撃って、また狙う。その動作はおよそコンマ一秒の間に行われ群がる鴉たちはたちまちの内に破壊された。
「お前らがどこへ逃げたって空が全部見てる! 空がある限り俺はどこへだって飛べる! 逃がさねぇからな!」
青燕はハイペリオンの背を蹴って風を翼にとらえ、黒い爆弾と化した分裂体たちへサブマシンガンを撃ちまくった。
クロスした両腕を大きく開くように水平撃ちし前方の爆弾を迎撃すると、側面から回り込んでくる分裂体へと射撃。フレイが背中合わせの位置に飛行し、黒閃雷の乱れ打ちによって反対側から迫る分裂体の群れを排除した。
「結構連続での戦闘で皆きつかろう。俺も含めて、誰も死なせはせん」
塵となって落ちていく分裂体。
「攻撃力はないから、守ることしかできないのが悔やまれるが」
「よく言うぜ」
表情を変えないフレイを振り向いて、青燕は小さく笑った。
そんな彼らへ、ブラックメアβは大量の羽根を弾幕にかえてハイペリオンへとまき散らしてきた。
きわめて回避の困難な弾幕。かりによけるなら大きなロスを生むだろう。その間に逃げ切られてしまうかもしれない。
「任せろ。ブライアン、手伝え」
フレイは風に身を低くしていたブライアンのそばに降り立つと、大きく腕を前に突き出して見せた。
その動きだけで多くを察したブライアンは、『おもしれえ』とつぶやいて同じよううに腕を突き出した。
「神鳥サンの援護は任せるぜ。俺らは、守りに専念だ!」
ブライアンの生み出したグリーンの炎が巨大な片翼を、フレイの放った黒い光りがもう一方の片翼を形作り、ハイペリオンを一時的に包み込む。
そうすることで弾幕のすべてを二人が受け止める形となった。
Я・E・Dと澄恋はハイペリオンの背中にしがみついてしばらくもふもふすーはーしていたが、今こそ出番とばかりに身体を起こす。
「鳥さん、横につけて。本体に攻撃するチャンスだ」
「承知しました」
弾幕に守られ飛行を維持したハイペリオン。さらなる加速をかけてブラックメアβの横に並ぶと、そのボディを思い切り叩きつけた。
体当たり――が狙いではない。衝突のタイミングを見計らって助走をつけたЯ・E・Dと澄恋。拳に魔力を集中させたЯ・E・Dのパンチと澄恋の乙女パンチがブラックメアβの背に突き刺さり、その肉体を大きく破断させていく。
血のように舞い散る羽根が白く変わり、ハイペリオンに吸い込まれていった。
「離れろ、矮小な人類どもめが!」
翼をまるめ身をよじるブラックメアβ。
ダメージを受けすぎたせいか高度をさげはじめ、海へと徐々に近づいていく。
気付けば山を越え眼下は広い海が広がっていた。
カイトが炎の竜巻を起こしブラックメアβを包み込む。
「逃がすかよ!」
「しつこい!」
ブラックメアはなんとか羽ばたきなおして墜落を阻止すると、弾幕をまとめて激しいビームにかえてハイペリオンめがけて発射した。
「ハンマーマンがいる限り、ハイぺリオンには指一本触れさせん!」
そこへ飛び込むハロルド。
クロスアームでビームを受けると、両腕を広げ身体を反らし獣のように吼えた。
迸る光りがブラックメアβのビームを破壊し、ガラスが砕けたように散らしていく。
その瞬間に、マリアとミストが炎と雷を纏ってブラックメアβへと突進。
「ハイペリオン様を傷つけようなんて、このカラスほんとぜったい許さないから!」
「これで、最後だよ!」
巨大な磁力のレールがまっすぐにひかれ、その上をマリアとミストが猛スピードで走って行く。
自らを巨大な弾丸へとかえた二人は赤い光りの弾頭に包まれ、ブラックメアβの体内を突き抜け反対側より飛び出した。
その瞬間。
「クソッ、もう少しで……この力をあの方に……!」
と、ブラックメアβが叫んだのが聞こえた。
『あの方』という単語に振り向くミストとマリア。
だがその時には、ブラックメアβは抱え込んだエネルギーを制御しきれずに爆発。
真っ白な光りの粒子となって散っていった。
「ハイペリオンさま、これで……!」
散ったそのむこうで飛んでいるハイペリオン。
……の姿が、3mくらいの巨大ひな鳥に戻っていた。
「「あっ――?」」
「「あっ――!」」
慌てて翼を広げるがちっちゃい翼で今まで出していたスピードを制御できるはずもなく。
「「あああああああああああああああああああ!?」」
思いっきり回転しながら、海上にぽつんとあった小島へと突っ込んでいった。
●力のゆくえ
「ぺきゅう……」
頭から地面にうまったハイペリオン。しばらくジタバタしたあと頭をひっこぬいた。
そこへ、ブライアンを抱えたフレイとジェックを抱えた青燕が降り立つ。
「大丈夫? ハイペリオン」
「最後野球のボールみてーに突っ込んだぞ」
おりてみるとそこは色鮮やかな花々のさく園だった。
どうやら無人島のようで、まわりに建物らしい建物はない。
ぷるぷると頭をふったハイペリオンのあたまから七色の花びらが散った。
「なぜでしょう。途中までは力を取り戻せていたはずなのですが、急にこの姿(グローイングフォーム)に……」
マリアとミストに手をつかまれてぶら下がる形で花園へと着地する澄恋。
「なんだか、急に奪われたような雰囲気でしたね?」
「奪われた……か」
カイトはゆっくりと降下しながら、同じく腕組み姿勢でゆっくり降下してきたハロルドへちらりと振り向いた。
「やはり、古代獣か」
「おそらくは、な。俺たちのまだ知らない……古代獣たちを束ねる存在があるはずだ」
ブラックメアβの死に際の『あの方』という言い回しも気になる。
だが今は……。
「おつかれさま、鳥さん」
Я・E・Dがハイペリオンのそばに飛んでいき、頭をさすさすと撫でてやった。
それからしばらく。皆の体力が戻るまで花園に座って一休みすることにした。
奪われた力。古代獣。その謎はきっと、戦い続けることで解き明かされていくだろう。
今はこのお日様と潮風と花々と、白くふかふかしたハイペリオンにうもれていよう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――古代獣ブラックメアβを撃破しました
――ハイペリオンが短時間だけなら白鳥の姿(ライジングフォーム)になれるようになりました
GMコメント
■オーダー
神翼獣ハイペリオンの背にのって、滅びた町スリサイドへと強襲を仕掛けます。
このシナリオはおよそ三つのパートによって構成されています。
●降下パート
かなりの高高度からハイペリオンより降下。射撃や飛行戦闘によって迎撃をしかけてくる古代獣たちの攻撃をよけたり防御したり時には反撃によって破壊しながら目的地点へと降下します。
このとき飛行スキルがあれば降下中も自由に動き回ることが可能ですが、なくてもそれなりに戦うことができます。
また、着地時にはミストのギフト能力によってトリヤデさんを召喚しクッションとするので、落下ダメージはおこりません。
●地上戦パート
狙った位置に着地できたならいざ戦闘再開です。
敵となるのはウィツィロから出現した古代獣にくわえ、少数ながらスラン・ロウからやってきた固体も含まれています。
・テセラヘカトン×少数
腕を四つ持つ巨人です。格闘能力に優れ、一軒家程度の身長をもちます。
・ケンロクエン
身体から松の木がはえた有翼獅子です。
飛行能力をもち、魔術弾による遠距離攻撃を主体としますが、牙による一撃必殺的格闘攻撃を備えています。
・アーヴァンクγ
巨大な青緑色の蛇です。地中を泳ぐように移動し、時折地上へと飛び出しては空を数秒ほど泳いでから地中へ戻るという移動方法をとります。
牙やまき散らすオーラには毒があり、射程距離に関わらず戦っているだけで毒を受けるリスクが格段に高まります。
●エアチェイスパート
古代獣をある程度倒しきった段階で、的の隠し球になっていた古代獣ブラックメアβが出現。ハイペリオンから奪った力を持ち去る形で空へと逃げ去ります。
ここまでの戦いで古代獣を倒したことでハイペリオンは力を取り戻しているので、神鳥形態となったハイペリオンに乗って追跡、戦闘することができます。
このとき高高度戦闘ペナルティがかかりますが、もしここまでのパートで古代獣を沢山倒していた場合、その撃破数に応じてペナルティが軽減されます。(最大成果であった場合ペナルティがゼロになります)
ブラックメアβは魔術弾や爆弾、毒の霧や分裂体の古代獣などを放ってハイペリオンを打ち落とそうとしてきますが、これを防御、ないしは迎撃しながら接近。そしてブラックメアβを打ち落としましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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