シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>黒き牡鹿、街へ
オープニング
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最初に目に入ったのは、巨大な角だった。
黒く大きな身体。首回りを覆う豪奢な鬣。逞しくもしなやかな四肢が大地を踏む度、その足元にパチパチと小さな閃光が走る。
元は同種であったと思われる鹿によく似た異形――魔獣を従え、『ソレ』は往く。
「それで、その魔獣たちはフィノイレーベンに向かっているんだね?」
「はっ」
巡回の警備兵からの伝令を受け取ったミケ・マルシュナーは、その眉間に深い皺を寄せて考え込んだ。
フィノイレーベン。芸術家の卵たちが集まる、少々先鋭的で粗削りな雰囲気はあるものの活気に満ちた街だ。集うのは若手ばかりで決して誰もが知るような有名人ではないが、手頃な価格で芸術と触れ合えるとあって娯楽を求める庶民や青田買いを目論む商人などそれなりに人々が集まる場所でもある。
しかしながら、街には魔獣の集団に対抗できるような力はない。はぐれ野獣や野盗、盗賊の類に備えた最低限の兵と、申し訳程度の城壁があるだけだ。
(そもそもだ、この領地にそんなモノに対処できる『誰か』『何か』なんて……)
幸いなことに彼の治める領地は小さいながらも安定し、荒事に巻き込まれることがなかった。
凶悪なモンスターなどの出現もなかったのだ――これまでは。
ミケ・マルシュナーはその黒い髪を乱暴にかき上げ、指示を出す。
「……急いでローレットに連絡を」
自分たちで対応できぬとなれば、対応できる者に頼むしかない。
「了解しました」
答えた伝令が早速部屋を出ていく。
「君らは住民の避難誘導を頼む。それから……できる限りでいい、迎撃態勢を整えてくれ」
残った兵にそう告げて、困ったように苦笑する。
「我々にできることなど限られているが、それでもできることはしなければね」
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あちこちで発生するモンスターの襲撃。その対応でいつにもまして騒がしいローレット。その一角で、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は集まったイレギュラーズに対し一枚の紙を差し出した。
「こちらは地方領主さんからの依頼なのです」
それは『領地に現れた魔獣を討伐して欲しい』という依頼だった。依頼主の名はミケ・マルシュナー。ユリーカによればバルツァーレク派に属する、少し風変りな人物らしい。
「領地に鹿に似た魔獣が多数現れたそうです」
身体に比して大きな角を持つ鹿の魔獣の群れと、それを従える鬣を持ったひと際大きな黒い鹿に似た魔獣。黒い鹿は帯電でもしているのか、動く度に身体のそこここから小さな雷を散らしているという。
もともと平穏な領地には最低限の兵力しかなく、現れた魔獣に対抗する術がない。魔獣たちはヒトが多く住まう街――フィノイレーベンに迫っている。
「今から行けば街の手前ギリギリのとこで魔獣と接触できるのです。急いで向かってほしいのです」
万一に備え街の住民の避難は始まっているものの、街そのものに被害が出ないに越したことはない。
「放っておいたらフィノイレーベンだけじゃなくて他の街にも被害が広がってしまうのです。立て続けに事件が起こっていて大変だとは思うのですがよろしくお願いするのです!」
ユリーカの言葉に頷いて、イレギュラーズは行動を開始した。
- <ヴァーリの裁決>黒き牡鹿、街へ完了
- GM名乾ねこ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月29日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「最近の幻想国どうなってんの!? あちこちの領地の対処に駆り出されてるんだけど!」
魔獣に襲われようとしている街――フィノイレーベンを目指す道中、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が誰にともなく突っ込んだ。
「確かに……少々多すぎますね」
同意する『正剣』セレーネ=フォン=シルヴァラント(p3p009331)の耳にも幻想における今現在の情勢は届いている。
各地で続くモンスターの襲撃。こんなことが続くとなれば、今のような対処療法では埒が明かなくなるかもしれない。
「あー、もう! どっかに煽動してるやつとかいたりするんじゃないの?」
今にも頭を抱え込みそうなルアナの発言に、『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が口を開いた。
「スラン・ロウや、ウィツィロでも、異変があったと、聞く」
古廟スラン・ロウには何者かが侵入し、神翼庭園ウィツィロでは封印されていた古代の獣が蘇ったのだとか。
「今度の魔獣は、ウィツィロから来たのだと、マリアは、思う」
ほぼ同時に起こった二つの事件。たまたまなのか、あるいは何者かの意図が介在しているのか今はまだわからぬまま。
とはいえ、自分たちがやるべきことは変わらない。
「何処までお力添え出来るか解りませんが──為せる事もあるでしょう」
セレーネの言葉に頷いて、街を、ヒトを守るため――イレギュラーズが往く。
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街道を外れた草地。あちこちに生えた木を避け茂みを飛び越え、時には藪を突っ切り最短距離で魔獣を追う。
(できるだけ城壁に着く前に止めないと、兵の命や最悪住民も……)
少しでも早くと倒木をすり抜け宙を飛ぶ『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の脳裏を過るのは、かつて己が体験した別離の悲しみ。
(兵士だって領民だって、誰にでも大切な人が、待ってる人がいる)
今なお涙零れる、最愛の息子との別れ。自分が息子に、梨尾に感じさせてしまった悲しみ……。
(あんな悲しみは誰も知らなくていいんだ……だから、力を貸してくれ梨尾!)
早く、少しでも早く。
「――いた!」
イレギュラーズの視線が、ついに鹿魔獣の群れを捕らえた。
迫るイレギュラーズに気付いているのかいないのか、群れは真っすぐ城壁を……その先にある街を目指し移動を続けている。
「なんとか間に合ったのかしら」
セレーネの呟きに『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が頷く。
「そのようですね。ですが、猶予はありません」
「可能な限り迅速に、ですね」
返すセレーネ。再び頷くルーキスの脇を『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が並走し始めた。
「乗れ、ルーキス!」
「では失礼します」
ルーキスは騎乗スキルをフル活用。走る速度を落とさぬままルナの背に飛び乗り、即座に態勢を整える。
「奴らをど真ん中からブチ抜いて前に出るぜ」
自らに騎乗したルーキスに宣言するルナ。
「自分の事にはお構い無く。思いっきり飛ばして下さい」
その返事を聞いたルナが「ハッ!」と小さく鼻で笑った。
「俺だって乗る側の心得は理解してんだ、アンタはただしっかり掴まってりゃいんだよ」
「お願いします」
気を悪くする風でもなくルーキスが答えると、ルナの身体が一気に加速した。そのスピード思わず目を見張るルーキス。
(獣種の方の背に乗るのは初めてですが、想像以上の速さですね)
ルナの能力が速さに特化していることもあるのだろう。鹿魔獣の群れとの距離はみるみる縮まり、並ぶ間もなく鹿魔獣たちを次々と追い越していく。
ほどなく、二人は魔獣の群れを抜けた。更に少しばかり進んだところで足を止め、後方へと向き直る。
まだ少し離れた街の城壁を背にした彼らの目に映るのは、迫ってくる鹿魔獣の群れ。そのすぐ後ろには低空飛行を続けるウェールと『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)が群れに接敵しようとする様子も見える。他の仲間も、そう間を置かず群れに追いつくに違いない。
ルナの背から降りたルーキスが、向かってくる魔獣の群れの中へと再び突撃した。
「街に到達する前に何としてでも排除します!」
青い目が見据えるのは群れの中心ともいえる大黒鹿。駆ける巨体とすれ違いざま、師の異名をそのまま名付けられた毒の刀技でその側部を斬りつける。
『ギャーン!!』
鹿特有の甲高い声が響いた。
「これ以上先へは行かせない……って、鹿に言葉は通じないですよね、多分」
自己解決したルーキスを睨みつけるようにして立ち止まった大黒鹿を、鹿魔獣たちが追い越していく。
一方ルナは、自身を飲み込まん勢いで迫ってくる鹿魔獣の群れを前に不敵な笑みを浮かべていた。
「草食動物風情が……魔獣になったところでてめぇら程度、俺の足についてこれるかな?」
言葉が理解できたわけではなかろうが、挑発めいたルナの名乗りに逆上した鹿魔獣たちが足を止めくるりと彼に向き直る。
怒りに囚われなかった鹿魔獣は更に進軍を続けようとする……が。
(武器を持ってる人が来ても街を優先するとは)
魔獣の群れを射程に収めたウェールの前に、焔で出来た狼と黒虎が現れていた。二匹は互いに連携しながらその進行方向にいる鹿魔獣に次々襲い掛かっていく。ウェールの攻撃により、更に数体がその足を止めた。
「起動せよ、起動せよ、八ツ頭の大蛇」
仕上げとばかりにレイヴンが召喚した多頭海蛇「ハイドロイド」の頭が放った高水圧弾が炸裂し、ついに全ての鹿魔獣が街への侵攻を止める。
鹿魔獣の群れから距離を取るレイヴンを、敵意に満ちた視線が追う。そんな中、レイヴンはルーキスと対峙する大黒鹿をちらりと見遣った。
彼の本命は大黒鹿――だが、今は。
「お前は後だ。だが、きっちり首と力をもらい受けに参上する」
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先行する面々のおかげで鹿魔獣たちの街への進軍はひとまず止まった。
大黒鹿の抑えをルーキスに任せたイレギュラーズは、鹿魔獣の排除にかかる。
(全く、封印するならば、アフターケアも、忘れぬ様にして欲しいもの、だ)
ウェールを狙う鹿魔獣たちの只中に飛び込んだエクスマリアの背に光翼が現れた。光翼の羽ばたきに舞い踊る光刃が、鹿魔獣たちの体を切り刻み群れに混乱を引き起こす。
「鹿と追いかけっことは、何とも締まらないものね」
一体に狙いを定めた『月輪』久留見 みるく(p3p007631)がぼそりと呟いた。
「──ま、人の命が掛かってるのだもの。あたしはあたしに出来ることをするだけ」
トン、と地を蹴り鹿魔獣との距離を一気に詰めたみるくが振るうのは、父から譲り受けた異世界の剣。後の先から先を撃つ斬撃が、敵をその場に縫い付ける。
『キャン!』
短い悲鳴を残し、鹿魔獣が地に伏せた。
保護結界の展開を終えたセレーネも、別の一体にアクセルビートを叩きこむ。
「鹿さんこちら!」
ルアナが放ったハンターの乱撃は複数の鹿魔獣を襲った。鹿魔獣の身体が鮮血に染まり、耐えきれなかった二体の身体が次々と地面に崩れ落ちる。
(街にも、領兵さんたちにも被害なんて出させないんだから!)
魔獣たちをキッと睨みつけるルアナ。
「あなたたちの相手は私だよ!」
ルアナの名乗りに気を取られた鹿魔獣に、ウェールの狼と黒虎が襲い掛かる。二匹の焔獣はそのまま射線上にいた大黒鹿にまで喰らいつき、深い焔と毒の傷を残していく。
『グゥゥウウ!』
攻撃に転じようとした鹿魔獣が、苦悶の声を上げて倒れ込んだ。身体を蝕む毒や炎、強いられる流血に耐えきれず、そのまま事切れる。
ウェールを取り巻いていた鹿魔獣は全て倒れた。さて次は――視線を走らせるみるく。
ルナを追いかける鹿魔獣のほうが数が多い。その機動力の高さ故袋叩きになるようなことはないが、それでも時折追いついて攻撃を仕掛けてくる魔獣はいる。
一方のレイヴンはその飛行高度を上げ、鹿魔獣たちの上空からハイドロイドの高水圧弾による攻撃を続けていた。
遠距離に対する攻撃手段を持たない鹿魔獣。攻撃の届かない位置まで高度を上げてしまえば、自身の能力が多少減衰したところで大きな問題はない。
「羊飼いの役にしては、羊が些か狂暴過ぎるか。牧羊犬では無いが……」
鹿魔獣を見下ろし呟くレイヴン。その脇では、召喚されたハイドロイドが高水圧弾を発射していた。
「ハ、相手が相手ではあるが、お前も間違っても犬とは呼べんな、ハイドロイド」
高水圧弾が着弾し、破裂する。巻き込まれた鹿魔獣は半数ほどか。
(攻撃の命中精度が落ちるのはまあ、玉に瑕ではあるな)
ともあれ、今の状況でレイヴンが攻撃を受ける心配はほぼない。
みるくをはじめとした仲間たちもそう判断したのだろう、ルナを追う鹿魔獣の排除を優先させたようだ。
エクスマリアの冷たく呪いを帯びた歌声が、ルナを追う鹿魔獣たちを魅了した。ウェールが放った前門虎狼が鹿魔獣に躍りかかる。
「もうっ、いい加減疲れたのよ! さっさと叩き斬られなさい!」
少々苛立たし気にしながらも月輪を振るい、鹿魔獣を斬り伏せるみるく。
ビートを刻むかのように加速するセレーネの剣技が、ファルカウの加護深き大剣を構えたルアナが繰り出す審判の一撃が、みるくの外三光が。エクスマリアやウェールの攻撃で傷ついた鹿魔獣たちを一体、また一体と仕留めていく。
ルナを追う鹿魔獣は減り、回避に専念していたルナ自身も反撃を開始した。レイヴンを追う鹿魔獣も、彼自身の召喚術や広範囲の攻撃に巻き込まれたりでかなりのダメージが蓄積しているはずだ。鹿魔獣の掃討は、まもなく完了するだろう。
「もうひと踏ん張りでしょうか、最後まで油断せずに参りましょう」
セレーネの言葉に、イレギュラーズが頷いた。
●
放たれた蹴りをすんでのところで躱し、側面へと回り込む。そのまま変幻邪剣の落首山茶花で大黒鹿の身体を斬りつける。
振り向いた大黒鹿の角がルーキスを襲い、浅くない傷を残す。
身を抉られるような痛みに、ルーキスが顔を顰めた。
極力正面や後方には立たないようにしてはいるのだが、如何せん相手の技の出が速く度々被弾してしまう。
「っ!」
踏み出した足がふらついた。思わず片膝をついたルーキスの耳に届くのは、神聖なる救いの音色――エクスマリアの天使の歌。
「大丈夫、か?」
「ええ、ありがとうございます」
立ち上がろうとするルーキスに、エクスマリアが手を差し出した。
「向こうは、もう少しで片が、つく。もう少しだけ、頑張って、くれ」
ルーキスに襲い掛かろうとした大黒鹿の胸元が、不意に切り裂かれた。
『ケーン!』
立ち上がり嘶く鹿魔獣。ルーキスの前に、四つ足の獅子の獣種が立っていた。
「ハッ! 随分やられたなルーキス!」
ルナの言葉に、ルーキスがほんの僅かに苦笑する。どうやら、鹿魔獣たちとの戦いは決着がついたらしい。
ウェールが生み出した焔の狼が大黒鹿目掛けて突進し、その身体を大きく揺らした。
「――その角、頂戴します!」
大黒鹿にできた隙。気力を振り絞ったルーキスの落首山茶花が巨大な角に放たれる。
ミシリ、と嫌な音がした。しかし、角を折るまでは至らない――が。
「宣告通り、その力もらい受ける――!」
地に舞い降りたレイヴンが大鎌に変わった得物を袈裟懸けに振り下ろす。
――キン!
空を裂く竜の爪のような斬撃が走り、硬質な音と共に大黒鹿の角を斬り飛ばした。
『キャアァアア!』
甲高い声を上げる大黒鹿の視線をエクスマリアの深く青い瞳が捕らえ、その身体に魔力による連鎖破壊を発生させた。
続けざまにセレーネのアクセルビートに切り裂かれ、ルアナのリーガルブレイドに両断される大黒鹿。
「暴れる隙も与えない。本気で行くわよ。一刀のもとに斬り伏せられる覚悟はいいかしら」
文字通り暴れ出そうとする大黒鹿に肉薄し、みるくはその全力をもって上段に構えた月輪を振り下ろす。
刹那の間の釣瓶落とし――月光を思わせる刃に斬り伏せられ、大黒鹿はその動きをピタリと止めた。
その場に立ち尽くす大黒鹿と、得物を構えたまま様子を窺うイレギュラーズ。
どれくらいの間があったのだろうか。大黒鹿の身体がふらりと揺れた。そしてそのまま、地面に崩れ落ちていく――。
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「皆様、本当にありがとうございます!!」
戦闘を終え、一先ずフィノイレーベンへと入ったイレギュラーズを真っ先に出迎えたのは、城壁の側で彼らの戦いを見守っていた領兵たちだった。
「私たちだけじゃなくて、みんなもよく頑張ったよ!」
笑って答えるのはルアナ。
(勇者って、魔王を退治するだけじゃなくて困ってる人を勇気をもって助ける人の事だと思うし)
いざとなれば身を挺してでも街を守ろうとしていた領兵もまた、『勇者さん』で間違いないはずだ。
「ううん、きっともっとクールでスタイリッシュに戦えたはず」
自身の戦いぶりに納得がいかなかったのか、ほんの僅かに口をとがらせているのはみるくだ。
「でもいい経験になったわ。今後の課題にさせてもらうわね」
「街に、被害はない、か?」
微かに首を傾げたエクスマリアが念のためにと問いかける。
「ええ、皆様のおかげで街にも民にも傷一つなく」
その答えにエクスマリアがこくりと頷き、ウェールも安堵の表情を浮かべる。
誰も、悲しまずに済んだ――それがどれほど大切なことか。
脅威が去った後の和やかなひと時……と、不意にざわめきが起こった。
「やあ、君たちがこの街を救ってくれたイレギュラーズかい?」
気さくな雰囲気でイレギュラーズに話しかける黒髪の青年を見て、猟兵の一人が慌てたように声を上げる。
「領主さま?!」
「ああ、皆も大変だったろう。ご苦労様、しばらくはゆっくり休んでくれ」
領兵たちを労い、黒髪の青年は改めてイレギュラーズに向き直った。
「改めまして、私はミケ・マルシュナー。一応この地方の領主、ということになっている」
柔らかな笑みを浮かべ、自己紹介をする青年。どうやら彼はわざわざ現地に出向いて自ら避難の指揮に当たっていたらしい。
「今日は本当に助かったよ。なにせ我々ではどうしようもなかったからね……本当にありがとう」
深々と頭を下げ、礼を言う。
「『次世代の勇者を』という話を聞いた時は驚いたけれど、君たちのような存在なら確かにそう呼ばれるに相応しいのかもしれないね」
「勇者だぁ……?」
ルナが思い危機顔を顰めて見せた。
「……ハッ! 勘弁してくれよ。こちとら敵に背を向けてひたすら逃げ回ってるような臆病もんだぜ。」
魔獣と戦っていた他の連中はともかく――。
「そういうのは俺みたいな日陰者じゃなく、正面切って大立ち回りする太陽みてぇな連中に向かって言うもんだ」
「何も考えずただ逃げ回っていたわけではないだろう?」
自身の発言をやんわりと否定され、ルナは面白くなさそうにそっぽを向く。
(勇者かぁ)
仲間とミケ・マルシュナーの会話を聞きながら、ルアナはふと考える。
(私のいた世界、わたしがこっちに来ちゃってるけど今どうなってるんだろうなぁ……)
思いを馳せても知る術はない。ならば今できることを精一杯やるべきだろう。
「みんな、美味しいご飯でも食べに行こう!」
気を張り続けていたであろう領兵たちに、ルアナが元気に声を掛けていく。
「少々よろしいですか?」
領民とイレギュラーズの交流? に目を細めていたミケ・マルシュナーにセレーネが声を掛けた。
「何か?」
「臨時でも構いませんから雇って下さいません?」
唐突な申し出に呆気に取られる彼に向け、セレーネは言葉を続ける。
「私、イレギュラーズですが自身の領地には興味が無いのです」
しかし、そういう方面での勉強がしてみたいのも事実。
「資料整理とかなら得意ですよ」
笑顔でアピールするセレーネに、ミケ・マルシュナーが少々困ったように呟く。
「と言われてもなぁ……」
――いつのまにやら街中に人影が戻っていた。
どこからともなく音楽が流れはじめ、工房らしき建物からはミノを振るうような音も聞こえてくる。
街への脅威がなくなるなり芸術活動が再開するのは、さすがに若手が集まる街と言ったところだろうか。
流れる音楽を聴きながら、ルーキスは思った。
芸術家の卵が集まる街、フィノイレーベン。
できれば、騒動のない時に来てゆっくり見て回りたいな――と。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
皆様の活躍で大黒鹿と鹿魔獣は討伐され、街も領兵も傷一つなく守られました。
ご参加、ありがとうございました。
ご縁がありましたらまたよろしくお願い致します。
GMコメント
乾ねこです。
幻想の地方領主ミケ・マルシュナーの領地内に現れた魔獣を討伐してください。
●成功条件
・全ての魔獣の討伐
●戦場
フィノイレーベンという名の小さな街の外、街道からは少し外れた平野部が戦場です。
街道から外れていることもあり整備されているとは言い難く、見通しが悪くなるほどではないものの大きな樹木や茂みがあちらこちらに存在しています。
街へ向かう魔獣たちに後方から迫ることになるため、戦闘開始時には魔獣たちの向こうに街の城壁を見る形になると思われます。
城壁付近には万が一に備え領兵たちが待機しています。数は多くなく戦力としてはあまり期待できませんが、魔獣が街に侵入しようとした場合には(体を張って)しばらくの間は足止めしてくれます。
●敵の情報
鹿の姿をした魔獣の群れが相手です。一体だけ、全身が黒く鬣を持った大きな個体が混ざっています。
魔獣は自分が攻撃や妨害を受けない限り街を目指しますが、攻撃や妨害を受けた後はそちらを排除することを優先します。
・鹿魔獣(十数体)
大きな角を持つ鹿によく似た魔獣です。
体当たりや角による突き刺し、強靭な足による蹴り飛ばしなどで攻撃してきます。
・大黒鹿(1体)
上記の鹿魔獣より一回り以上大きな、黒い体躯の鹿型の魔獣です。立派な角と鬣を持ち、どことなく荘厳な雰囲気を漂わせています。
見た目相応に体力があり、高い戦闘能力を持っています。体当たりや突き刺し、蹴り飛ばしといった攻撃の他、離れた相手に雷撃を落としたり、身体から放電することで自分の周囲の敵を攻撃したりします。
また、その場に存在するだけで他の鹿魔獣の能力を向上させる力があるようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
<読まなくてもいい人物紹介>
・ミケ・マルシュナー
幻想王国、バルツァーレク派に属する地方領主。領地そのものは小さいが内政に力を入れており全体的に裕福で安定した治政を布いている。
領主の仕事を「日々の生活で忙しい民の代わりに雑務をこなす使用人」などと平気で言い放つため、一部の特権階級にはすこぶる評判が悪い。
「民が潤えば自分も潤う」「民の不満が減れば自分が楽をできる」という割と自分勝手な理由から領地経営に励む勤勉な怠け者。
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