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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>馬に蹴られようとも、止めねばならぬ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逆ナンからの領地デート
 静かな夜の湖畔を、二人の男女が並びながら歩いている。女は濡れるような黒髪を腰まで伸ばしている、やや冷たい印象を与えるものの整った顔立ちの美形だ。肢体は細身ではあるが胸や尻の肉付きはそこそこに良く、胸の双丘を押し当てて男の腕を取りつつ、にこりと微笑みかけている。女のそんな積極的な様子に、男の方も満更ではないようだ。
春の夜風はまだ肌寒いが、そのようなことは、二人には気にならない。そして、煌々と天に輝く満月は、二人を明るく照らし出していた。
「素敵な領地ね……連れてきてくれてありがとう、夏子」
「そう言ってもらえると、僕としては嬉しいね。君さえ良ければ、いつでも何度でもデートするよ。サーラ」
「嬉しいわ……でも、私は今、貴方との想い出が欲しいの。ねえ……抱きしめて、キスしてくれる?」
「もちろん、女性の頼みとあれば喜んで――」
 サーラという名の女は、男――コラバポス 夏子(p3p000808)――に抱擁を、そしてその先を強請る。そして、節操がないと言われるほど女性が好きで、誰とでも仲を深めたいと望む夏子が、目の前の据え膳を食わないはずがなかった。
(いやぁ、今日はツイているなぁ……まさか逆ナンからここまで一気に進むなんて)
 自身の幸運に感謝しつつ、夏子はサーラを抱きしめようとする。だがその瞬間、静寂を破る制止の声が響き渡った。
「待った! アンタの思いどおりにはさせないよ! 『くノ一』サーラ!」
 声の主は、ローレットの新人冒険者兼情報屋見習い、『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)だ。
「ユメーミルちゃん!? どうしてここに? もしかして、やっぱり僕とデートしてくれる気に?
 だったら、後で付き合ってあげるからね!」
「そんなわけがあるか! ……夏子、その女は、アンタを狙った刺客なんだよ!」
 想定内の夏子の反応に、ユメーミルは内心で頭を抱えて溜息を吐くも、すぐさま気を取り直し事実を夏子に告げる。
「無粋ねぇ……人の恋路を邪魔する人は、馬に蹴られて死ぬ宿命なのよ。
 私の“仕事”を邪魔した報いを受けなさい。出でよ、ナイトメア・ホース!」
 サーラはそれまで纏っていた夏子に媚びるような雰囲気をかなぐり捨てると、冷徹で酷薄な本性を露わにして、ユメーミル達との間に漆黒の巨馬を十体ばかり召喚した。その身体の至る所から、不気味な怨嗟の声が上がっている。
「バラされちゃったら、仕方ないわねぇ……そう言うわけで、死んでもらうわ?」
 美しくも見る者をゾッとさせる笑みを浮かべ、ペロリと舌なめずりをしながら、サーラは夏子を手にかけんと襲い掛かった。

●刺客が送られた舞台裏
 時は、しばし遡る。
「イレギュラーズめ……! 今こそ、報復してくれる……っ!」
 腐敗した幻想貴族であるロシーニ・クブッケ領主は、幾度か自らの目論見を台無しにされたことで、イレギュラーズ達を酷く恨んでいた。
 自領の劇場を奴隷オークションの会場として使わせる代わりに、奴隷商人から利を得ていた件では、夏子をはじめとするイレギュラーズ達に奴隷オークションを潰されてしまった。しかし、表では無関係であるロシーニ・クブッケ領主には歯噛みをすることしか出来なかったのだ。
 だが、イレギュラーズの領地が魔物に襲撃されると言う事件が頻発するに及び、ロシーニ・クブッケ領主はこれを報復の好機と見る。ローレットやイレギュラーズは、自領に出現した魔物の対処に手一杯のはずだ。ならば、この機に邪魔してくれたイレギュラーズの元に刺客を送り、屠ってやろう――。
 その判断の下、夏子に送られた刺客がサーラだったのだ。
「期待しておるぞ、『くノ一』サーラよ。憎きイレギュラーズを、どうか討ってきてくれ」
「任せてちょうだい。報酬をもらったからには、しっかりと仕事をしてくるわ」
 ロシーニ・クブッケ領主の言葉に余裕の表情で応じたサーラは、背を向けると手をひらひらとさせてその場を辞して、夏子の元へと向かっていった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回も<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。夏子さんに送られた刺客『くノ一』サーラを討伐して、夏子さんの救援を成功させて下さい。

●成功条件
 『くノ一』サーラの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 夏子さんの領地『思い出湖』です。時間は深夜、天候は晴れ。
 穏やかな湖があり、昼であれば樹々や花々で風光明媚な光景が楽しめたことでしょう。
 サーラ含めて皆さんがいるのは湖畔の平地ですが、側には湖や林があります。
 暗視やそれに類するスキル・アイテムが無い場合、命中・回避に若干の不利な修正を受けます。

●初期配置
 夏子さんとサーラが至近。そこから10メートル離れてナイトメア・ホースが応援のイレギュラーズを遮るように横列に展開。さらにそこから10メートル離れてユメーミルや応援のイレギュラーズとなります。

●『くノ一』サーラ
 ロシーニ・クブッケ領主に雇われた、夏子さんへの刺客です。
 女を武器に手広く依頼を受けては潜入や暗殺をこなして回っており、豊穣で依頼を受けた際に『くノ一』と呼ばれるようになりました。
 能力傾向は高命中高回避、高EXAで一撃の威力よりも手数に重きを置くタイプです。一方、防御技術は皆無で、生命力もそれほど高くはありません。
 目的が夏子さんの暗殺であることから、夏子さん以外からの【怒り】は効きにくくなっています。

・攻撃手段など
 致命の手刀 物至単 【必殺】【弱点】【災厄】【致命】【出血】【流血】
  いわゆる必殺の一撃です。AP消費が激しいため、そう何度もは使えません。
  また、この攻撃を使うターンは、何度EXA判定に成功していてもそれは全て無視され、攻撃はこの1回のみに制限されます。
 手刀 物至単 【邪道】【鬼道】【出血】
 手裏剣 物遠単 【邪道】
 爆炎術 神中範 【火炎】【業炎】
 轟雷術 神超域 【痺れ】【ショック】
 マーク、ブロック不可
 【怒り】耐性(高:夏子さん除く)
 
●ナイトメア・ホース ✕10
 サーラが召喚した漆黒の巨馬です。サーラによる犠牲者の怨霊から構成されています。そのため、サーラが死亡すれば消滅します。
 元来霊体ですが、実体を持てるレベルで濃縮されているため、物理攻撃は普通に効きます。また、神気閃光や聖剣等の聖なる属性を持つと判断される攻撃は、ナイトメア・ホースには【防無】として働く上、追加ダメージを与えます。
 能力傾向は高攻撃力高生命力のいわゆるパワー型です。

・攻撃手段など
 蹴り 物至単 【邪道】
 足踏み 物至範 【識別】【変幻】【鬼道】【崩れ】
  地面に蹄を叩き付けて衝撃波を発生させます
 突進 物超貫 【移】【弱点】【飛】
 巨体(マーク、ブロックには二人が必要です)
 精神無効

●同行NPC:『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)
 ローレットの新人冒険者兼情報屋見習いです。
 ロシーニ・クブッケ領主から刺客としてサーラが放たれた事を知り、夏子さん以外の皆さんを集めて救援に駆けつけました。
 夏子さんとは過去にデートに誘われたりそのデートを賭けた模擬戦で何やかんやあったりしましたが、今回はそれは脇に置いています。
 レールガン装備の火力役と大盾装備のタンク役の何れかを行うことが可能で、どちらの装備でどう戦うかは皆さんの指示に従います。
 特に指示が無ければ、後方からレールガンで火力支援を行います。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>馬に蹴られようとも、止めねばならぬ完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

サポートNPC一覧(1人)

ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)
夢見る非モテ

リプレイ

●暗殺者よりも、速く
 『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)への刺客であることを暴露された『くノ一』サーラが、救援のイレギュラーズを遮る壁とするためにナイトメア・ホース十体を召喚し壁としてから夏子を手にかけようとした刹那、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)と『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)はほぼ同時に動いていた。
「夏子さん、いつかきっとハニトラに引っかかるとは思ってたよ! まあ、その、宿屋とかで無くて良かった!!」
 風牙は来るべきものが来たと思いつつも、夏子が未だ無事であることに胸を撫で下ろしていた。風牙の言うとおり、宿に入りでもしていたらこうして救援に駆けつけることも出来なかっただろう。
「ああもう、ウラーー!! どけよウマども!! くたばれ暗殺者ーー!!」
 だが、安堵した自分が気恥ずかしくなったのか、風牙はそれを誤魔化すように大声で叫ぶ。そして気を練ってナイトメア・ホースの列の中心目掛けて放ち、爆発させた。飛散した気はナイトメア・ホース数体に付着すると、その内部の気を滅茶苦茶にかき乱す。風牙の気を受けたナイトメア・ホースは、ぐったりと力が抜けた様子を見せた。
「今だ行け! 夏子さんを頼む!!」
 風牙が叫ぶと同時に、利香(p3p001254)が動いていた。
(何だか愉快な事になってますね? 相変わらずあの人は女運が低い様で……。
 このまま眺めて居たい所ですけど、イレギュラーズの暗殺をする勢力なんてロクでもないですし、やっつけちゃいましょうか!)
 この状況を楽しんでいるような笑みを浮かべながら、利香はナイトメア・ホースの頭を飛び越え、あっという間に夏子の側へと至る。

「ユメーミルさんの恋路を応援し隊隊長のモカ・ビアンキーニだぁ! 観念してユメーミルさんの愛のお縄につけぇい夏子ー!
 ……そしてユメーミルさんの恋路を邪魔する暗殺者(あなた)は、私に蹴られて死ぬ宿命なのだ!」
「いやちょっと待っておくれいつそんな隊が出来たんだいと言うか恋路を応援してくれるのはありがたいがアタシは別に夏子を愛してるとかそんなんじゃなくてだねぇ」
 次いでナイトメア・ホースへと駆け出した『Meteora Barista』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の叫びに、『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)はどうしてそんな誤解をされているのかと困惑しながら早口でツッコミを入れた。そもそもデートしようと言い寄ってきたのは夏子の方だし、そのデートを賭けての模擬戦で誘惑されるままに他の女とイチャイチャしているのを見せつけられたのだから、ユメーミルにとっては夏子を愛するも何もない結果に終わったのだ。
 そのユメーミルのツッコミがモカの耳に届いたかどうかは不明だが、モカはスピードを緩めることなくナイトメア・ホースの一体に迫り、速度を乗せて威力を大きく増した蹴りを叩き付ける。のみならず、数体の残像を発生させて最初の一撃を受けたナイトメア・ホースを袋叩きにすると、最後にはその周囲のナイトメア・ホースにまで蜂が舞う如き連打を仕掛けていった。

●夏子とタイムとサーラ
(ない、ない……そんなのってないよォ!)
 逆ナンパされていい雰囲気になっている相手、『くノ一』サーラが刺客だと知らされた『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)の心には、涙雨が降っていた。
 だが、その事実にいつまでも打ちひしがれていても仕方ない。いくら女性が相手だとは言え、さすがに殺されてやるわけにはいかなかった。
 身体が、すぐに戦闘に適応出来るように身構える。それに応じて夏子の心の中の雨も止んだ、のはいいのだが。
「くノ一とか出会った事ないし、一度デートしてみたいよ。って事で、罪償っちゃお? あたい手伝うから!」
「……なっ!?」
 手刀で夏子の胸を貫こうとしていたサーラだったが、思わぬ言葉にその動きが止まる。女好きだとは聞いていたが、まさか刺客だと知ってなおデートしたいだとか、手伝うから罪を償おうなどと言われるなどとは、サーラも予想だにしていなかった。
「くっ、何を言い出すかと思えば!」
「恋愛沙汰に手出しはしない主義ですが……夏子さんはやらせませんし、嘘付きにはお仕置きです!」
 気を取り直してサーラが必殺の手刀で夏子を貫かんとするが、利香が盾となって間に入り、腕でガードして手刀を逸らす。手刀は利香の肩に突き刺さったが、利香は平然と、そして堂々と、サーラに向けて言い放った。
「いくら恥ずかしいからって、照れ隠しに暴力はよくない。君も馬もまとめて、僕が受け止めてあげるよ」
「こ、こいつ……正気!? それとも、余程その女の守りを信じてるとでも!?」
「僕としても女性に守ってもらうのは気が進まないけどね。
 助けに来て貰っといて我儘も言うのもアレだし、利香ちゃんなら大丈夫でしょ」
 夏子が自分だけでなくナイトメア・ホースの敵意まで引き寄せたことにサーラは驚くが、夏子は平然と答えた。
 ナイトメア・ホースは夏子に寄ってたかって蹄で蹴りかかったり、大地を踏みしめて衝撃波を発生させたりして攻撃するが、それらは全て利香が盾となって受け止める。
(あちこちで騒ぎが起きてて夏子さんの所ももしかしてと思っていたけど、よりによってハニトラで暗殺?
 いつも誰とでもデートしたいなんて言ってるから……でもって見事に引っかかってるし。
 それでもデートしたいなんて……もう、もうっ! んもう~~~っ!)
 女癖の悪さを知りつつも夏子に淡い想いを寄せる『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は、夏子に刺客として女暗殺者が差し向けられたと聞いて、その身を案じつつも胸の中に言い様のない何かが渦巻くのを感じずにはいられなかった。それでも夏子の元にたどり着いてひとまずは安堵した、のだが。
(この状態で更に馬まで引き付けるの……? ええっ、本気で……?)
 夏子がナイトメア・ホースの敵意まで引き寄せたことに、タイムは驚愕を禁じ得ない。だが、思うところはあれどもタイムはナイトメア・ホースを掻き分けるようにして夏子へと接近すると、不可侵の聖なる守りを夏子に降ろした。

●ナイトメア・ホースへの攻勢
「モテモテの夏子さんが羨ましいですね。私もあやかりたいものです」
 この状況で夏子をそう評する『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の言は、冷静なビジネスマンらしき口調も相まって、何処まで本気かは判然としない。だが、少なくともサーラの思いどおりに夏子を暗殺させる気が無いのは、夏子を取り巻くサーラやナイトメア・ホースへの鋭い視線から明らかに見て取れた。
「ご安心ください夏子さん。今回は、当てませんから」
「そうして欲しいよ」
 寛治の言葉に、夏子は苦笑せざるを得ない。『前回』たる模擬戦では、寛治はファンドの案件を成立させるために夏子を背中から討ったのだから。だが、夏子に告げたとおり、今回は夏子や周囲の味方には全く当てることなく、寛治は鋼の雨をサーラとナイトメア・ホースのみに降り注がせる。如何にかサーラは直撃を避けたものの、ナイトメア・ホースはその巨体を何カ所も深く穿たれた。
(全く男ってチョロいですよね……相手が可愛ければころっと騙されちゃうんですから……。
 騙された奴が悪い……とは言え、このままバッサリいかれてしまうのも困りますしねー)
 夏子がサーラの手管に引っかかったことに、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は呆れ混じりに内心で嘆息した。だが、如何に騙される方に問題があったとしても、同胞たるイレギュラーズを暗殺されたりするわけにはいかない。
「仕方ないから加勢しますよ! 今こそいつぞやの庇われた借りを返す時!」
 寛治に続いて、しにゃこも夏子の周囲めがけて鋼の雨を降らせていく。寛治の鋼の雨に続いて間髪入れず降り注いだ鋼の雨は、サーラとナイトメア・ホースをさらに傷つけていった。やはり直撃を避けているサーラと違い、ナイトメア・ホースは鋼の雨に身体をさらに深々と穿たれ、傷ついていく。
(……なるほど。わたくしも新参者ではありますが、敵も味方も、夏子さんに人が寄ってくる理由が分かった気がします。
 少しだけ、ね。或いは分かった気がするだけかもしれませんけれど)
 夏子を取り巻く敵味方の様子を眺めながら、『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は穏やかに微笑んだ。
(はっきりしているのは、馬に蹴られるのは恋を邪魔するが故ではないという事でしょうか。
 取り合えず恋路の果てが享年二十三歳にならないようにだけは、確実にお手伝い致しましょう……ええ。
 下心が多い方には暗い運命が待ち受けているでしょう……と、下心では敵以外も巻き込みそうですね、今回は。
 邪心とでもいうべきでしょうか……余り変わらない気もしましたけれど)
 そして夏子の方へと駆け寄りながら、マグタレーナは掌に漆黒の闇の月を浮かべる。闇の月が放つ黒い光が、サーラとナイトメア・ホースを昏く照らしてその運命を狂わせていく。その中でも最初にモカに攻撃されたナイトメア・ホースが、力尽きて消滅した。

●サーラの意地
 敵意を煽られて夏子に集った時点で、ナイトメア・ホースの命運は決まったと言っていい。地を這うが如き姿勢から繰り出される風牙の槍が、残像を生み出しつつ襲い掛かるモカの襲撃が、天から寛治としにゃこが降り注がせる鋼の雨が、マグダレーナの掌に浮かぶ闇の月の光が、次々と夏子の周囲にいるナイトメア・ホースを深く傷つけ、消滅させていった。
 その間、利香は集中的にサーラとナイトメア・ホースからの攻撃を受け続け、またナイトメア・ホースに接近戦を挑んでいた風牙、モカもサーラやナイトメア・ホースからの範囲攻撃を希にではあるが受けることになった。だが、タイムの治癒魔術と天使の救いの如き歌とを使い分けて癒やしによって、傷は負えどもそれが深手にまでは至らない。

 やがてナイトメア・ホースは全滅し、残るはサーラのみとなった。サーラはナイトメア・ホースへの攻撃に巻き込まれる形でイレギュラーズ達の攻撃をその身に受けており、身体の至る所に傷を負っている。
「俺の領地では、女性殺害なんて絶対阻止なワケ。嫌な思い出、誰も望んでないからね。頼むよ、皆」
「……馬鹿にして! 私はお前の命を狙っているのよ! 殺すか、殺されるかしかないわ!」
 念を押すように夏子が仲間達に訴えかけると、サーラは激昂した。裏社会で刺客として生きてきた自分が、標的を仕留め損ねるだけでなく、その標的が自分を殺さないように仲間に頼んでいるのだ。屈辱に感じないはずがなかった。
「逃げるなら今のうちですよ! 負けたら夏子さんにあーんなことやこんなことされる可能性もありますよ!」
「……なっ!」
 人聞きの悪いことをいいながら、しにゃこが黒き大顎を召喚してサーラへと飛ばす。実際の所、夏子は女好きで節操はないが、嫌がる女性を無理矢理手籠めにするようなことはしない。だが、サーラはそこまでは夏子を知らないが故に、動揺を見せた。その隙に、大顎の牙がサーラの肩口を捉え、牙を深く突き立てる。
「そうなのですね……でしたら、確かに逃げた方がいいかもしれません」
「この……っ!」
 夏子の人格をよく知らないのは、サーラだけではなくマグダレーナも同じだった。マグダレーナの言葉は本心から放たれただけに、よりサーラを惑わせる。その間に創り出された小型のゴーレムが、サーラに駆け寄って殴りかかった。ゴーレムの殴打に、サーラはたまらず体勢を崩す。
「……とは言え、逃がすわけにもいかねえんだよな。また夏子さんを襲わないとも限らないし」
「そうですね。雇い主についても、聞かせてもらわないといけません」
「……ぐ、うえっ」
 そこに風牙と利香が畳みかける。風牙は一度後退してから瞬時にサーラとの間合いを詰め、その勢いのままに『烙地彗天』の石突きでサーラの鳩尾を突く。鋭い突きに身体をくの字に曲げて悶えているサーラのこめかみに、雷を宿した利香の拳が叩き付けられた。
 それでもまだ、サーラは夏子の暗殺を諦めていないとばかりに立ち続ける。
「これ以上戦っても仕方ないのは、自分でもわかっているだろう? もう、止めないか?」
「お断りよ……!」
 モカは戦闘の中止をサーラに持ちかけるが、サーラは首を横に振る。ならばやむを得ないとモカは分身すら発生するほどの速度で動き、サーラを翻弄した。幾度もの殴打が、襲撃がサーラを襲ったが、サーラは残る体力と気力を振り絞ってその場に立ち続ける。
 全ては、最後の渾身の一撃を夏子に浴びせるために――。

●サーラ、降る
「……悪い事ぁ言わない。殺しの依頼をする奴より、僕につきなよ。
 安くセコい依頼で命を落としても、仕方ないじゃないか。僕は、君の命が惜しい」
「惜しいのは、私の命ではないのではなくて? ……仮に私の命が惜しいのなら、逃がして頂戴?」
 今にも倒れそうになりながらもなお自分の命を狙わんとするサーラに、夏子はゆっくりと語りかけた。サーラは夏子に応えつつ、呼吸を整えながら夏子の隙を伺う。
「皆にも来てもらってるから、そう言うわけにはいかないんだよねぇ……でも、逃げてもその後は如何するんだい?
 暗殺に失敗した刺客が、今までと同じように生きていけるとは到底思えないけど」
 そして夏子は、生活は保障するからここに住めば良い、無理に手籠めにすることはしない――たまにデートに応じてくれたら嬉しいけれど、と説いて、降参を促す。だが――。
(私にも、意地があるのよ! はいそうですか、なんてわけにはいかない!)
 機を見計らい、意を決してサーラが動いた。これまで幾多の標的を仕留めてきた必殺の手刀で、夏子を貫かんとする。
 しかし、サーラは見落としていた。夏子の盾とならんとすべく、駆け寄っていたタイムの存在を。
(夏子さんが傷つくのはいや――傷ついたまま笑いかけてくれるのだって、いや。
 わたしが女だから守ってくれるの? ならそんなの、クソくらえよ!)
 タイムは夏子とサーラの間に割って入り、サーラの手刀を肩で受け止める。
「わたしの目の前でやらせる訳ないでしょ、ばかっ! ――いい加減に、離れてっ!」
 最後の力を振り絞った必殺の手刀を標的でないタイムに受け止められて、呆然とするサーラ。タイムは肩からドクドクと紅い血が流れ落ちるのにも構わず、倒れそうになるのを堪えながら、サーラを後方へと弾き飛ばした。
(彼女の恋路を邪魔しては、それこそ馬に蹴られてしまうと見過ごしましたが……)
 タイムが夏子を庇うのは、戦術上は明らかに悪手だとわかっていたが、寛治は止めずに黙認していた。こうなるのも寛治の想定内ではあったが、それだけに内心で責任を感じるところはある。その責任を取る意味でも、寛治としてはもう戦闘を終結に導かねばならない。
「避けるのに自身がおありとか。では、この四五口径の銃弾はいかがですかね?
 私は夏子さんほど甘くはありません。ですが、夏子さんが生け捕りをご希望のようですから最後に訊きます。
 四五口径の銃弾をその身に受けて死ぬか、戦うのを止めて降参するか、どちらにしますか?」
「く――!」
 拳銃の銃口をサーラに向けて、寛治は冷徹な口調で問うた。逡巡するサーラに、寛治は声色を緩めてさらに語りかける。
「魔種でもない貴女がイレギュラーズ八人を相手にして、ここまで立ち回ったのです。
 暗殺は失敗したとは言え、決して恥ではないと思いますよ」
「……わかったわ。私の、負けよ……」
 少しの間押し黙っていたサーラだったが、何処か吹っ切れたように敗北を受入れ、両手を上げた。同時に、意識を喪ってその場に倒れ込んだ。

●刺客のその後
 倒れたサーラは、夏子の領内の医者に担ぎ込まれた。生きて戦闘を終えたとは言えサーラの傷は深かったが、養生するうちに次第に快方に向かっていった。その間に、イレギュラーズ達はサーラを刺客として送り込んだ依頼人について聞き出した。
 城塞都市ロシーニ・クブッケ領主――サーラの語った依頼人に、夏子と利香は心当たりがあった。

 その後、サーラは暗殺者から足を洗い、夏子の領地で暮らすことになった。
 夏子からのデートの誘いにサーラが応じたかどうかは――定かではない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって夏子さんは暗殺の危機を免れ、サーラは暗殺者から足を洗い夏子さんの領地で暮らしていくこととなりました。

 それでは、お疲れ様でした!

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