シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>カモミーユの剣
オープニング
●
大きな窓からは、春めいた陽光が差し込んでいた。
僅かに開けられた窓から爽やかな風が吹き、白のレースカーテンが波を打つ。
「良い天気だねぇ。日差しがあたたかくて、風も気持ちいいね」
「確かに。こんな日は執務も程々に、森林浴でもしたい程だ」
執務室の机に座り、書類に目を通しているのはリオン・カルセイン。
その向かいにあるソファで寛いでいるのはシャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)だった。
此処は幻想国のカルセイン領。
カルセインの子息であるリオンと、友人のシャルティエが共同で管理している領地だ。
緑豊かな土地は程よく田舎で住みやすい。ハーモニアであるリオンもこの場所が気に入っていた。
「失礼します」
執務室のドアが開き、トレーを持った少女が入って来る。
褐色の肌に灰色の耳と尻尾を持ったブルーブラッドのメイドだ。
シャルティエとリオンの前に置かれたカップに紅茶を注ぎ、御茶請けのクッキーを置いて行く。
部屋を出て行く少女の背を見つめるリオンの表情が険しくなった。
「どうしたんだい? 浮かない顔をしているようだけど」
「ああ。さっきの子なんだが最近雇い入れたメイドでな。名前はリルという」
リアンは一瞬言い淀むような間合いを入れて言葉を吐き出す。
「……本人は隠しているが、腕に傷跡がある。手袋をしていて見えないだろうが、おそらく奴隷であったのではないかと思ってな」
「奴隷か」
この所、幻想国で奴隷が大量に売られるという事件があった。
ラサで起きたファルベライズ遺跡の事件以降、混乱するブラックマーケットに見切りを付けて幻想貴族相手に商売をしようと目論んだ輩が居るのだろう。
そういった商人達のネットワークは瞬く間に全土に広まった。アンテナを素早くキャッチするのも商人としての腕が問われる所だだろう。各地から幻想国へと集まった奴隷達の大売り出しがあったのだ。
「気になるね」
「だが。あまり詮索するのもな。彼女が話しても良いと思えるまで此方からは聞かないでおこう」
「そうだね……」
シャルティエは透き通る紅茶の水面に揺れる自分の顔をじっと見つめていた。
――――
――
リアンの執務の邪魔をしないようにシャルティエは部屋を後にする。
ぐるりと屋敷を回り、異変が無いかを確かめるのも管理者の仕事だろう。
廊下には均等に窓の外から日差しが降り注いでいた。
それに気になることもある。
「ねぇ、何してるの?」
「わっ!? あ、えっと……」
屋敷の中を隈なく歩いていたのは、リルが気になっていたから。
「ああ。名前を名乗ってなかったね。僕はシャルティエ・F・クラリウスだ。一応、リアンと一緒にこの領地を管理しているんだよ」
「まぁ、ではご主人様ということですね。それは失礼いたしました。私はリル・ランパートと申します」
リルはシャルティエに向き直り、スカートの裾を少し摘まんで頭を下げた。
その挨拶は到底、奴隷とは思えない所作。何処かで高等な教育を受けた様に感じる。
「ふふ、リルか。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします。ご主人様」
「ご主人様はやめてよ。何だか照れてしまうよ。名前で呼んでくれると嬉しいな」
「畏まりました。では、シャルティエ様とお呼びしても宜しいでしょか」
「うん。それで構わない。……それでさリル。何か困った事があったら言ってほしい。力になるよ」
シャルティエの真っ直ぐなカモミーユの様な瞳の色。
優しく包み込んでくれる言葉にリルは僅かに眉を下げた。
「……はい」
移ろうリルの視線は、何処か思い詰めたようで。
シャルティエはそれ以上踏み入る事のないよう笑顔で手を振ってその場を去る。
その背をリルのコバルト・ブルーの瞳が何時までも見つめていた。
●
「すみませんっ! 皆さんに力を貸して欲しいです!」
ローレットの扉を開けて入って来たシャルティエは息も絶え絶えに叫んだ。
シャルティエの必死の表情に寛いで居たイレギュラーズも集まってくる。
事の発端は数十分前。
カルセイン領に魔物が現われたというのだ。
「それってあれじゃない? この所、幻想の各地で領土が襲われてる事件があるでしょう?」
ヒールを鳴らし『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が身を乗り出す。
奴隷商人達が奴隷を売りさばく裏で別の事件も発生していた。
王家のレガリアを封印する結界に何者かが侵入し、それを知らせる鐘が鳴り響いたというのだ。
調査の為に古廟スラン・ロウ、神翼庭園ウィツィロへ向かったイレギュラーズも居る。
更には古廟の近くに存在するギストールの街が何者かに破壊尽くされたというのだ。
それからというもの幻想各地の領地に魔物が現われ、助けを求める貴族が後を絶たない。
イレギュラーズの領地も例外では無い。
「自分達で応戦しようにも、人手が足りなくて。お願いします。力を貸してください!」
頭を下げるシャルティエの肩をイレギュラーズが優しく叩く。
「もちろんだ。俺達は同じローレットの仲間だぜ!」
向けられる笑顔にシャルティエは胸を撫で下ろした。
藁にも縋る思いで駆け込んでくる依頼者は、きっとこんな気持ちだったのだろう。
そして、イレギュラーズの何と心強いことか。
「……僕の事もそんな風に、思ってくれてる人がいるのかな」
シャルティエが救って来た人々は、きっと希望を見出しただろう。
胸に刻まれた辛く苦しい記憶はシャルティエを未だ蝕むけれど。
それでも、手を差し伸べるべき人が居るのは確かなのだ。
辛い記憶を抱えたままでもいい。迷っても良い。
けれど、その記憶があるからこそ、シャルティエは『前を見失わない』のだから。
――――
――
「リル……? 何で」
シャルティエの目は大きく見開かれる。
カルセイン領地に攻めてきた魔物の中に『リル・ランパート』の姿があったからだ。
彼女の表情は硬く。思い詰めるようなもので。
何が起こっているのかシャルティエには、まるで分からなかった。
- <ヴァーリの裁決>カモミーユの剣完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月29日 22時11分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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快晴の空と相対して、迫り来る魔物の群れは黒く尾を引いているようだった。
「鳥……魔獣……精霊……片っ端から……? それとも、何かを探して……?」
カルセイン領に攻め入ってきた魔物の群れを『夜を歩む』アムル・ウル・アラム(p3p009613)の瞳が捉える。炎を纏うフレイムハウンド、空を舞うベノムバード、砂嵐を起こすアースエレメント。
その中に一つだけ毛色の違うものが混ざっていた。
ぐっと唇を噛みしめる『不退転』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は黄金の瞳を魔物の群れに向ける。黒い色彩の魔物の中、銀灰の髪が見えたのだ。
「リル……どうして」
見覚えのある褐色の肌とメイド服。ぴんと立てられた狼の耳。リル・ランパートの姿があった。
「あの群れの中に、件の奴隷がいるのだな」
「うん。あれは間違いないリルだ」
『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)の声にシャルティエは応える。
「怪物を倒すだけなら単純でいいのですが――あまり得手では無いとはいえ――敵陣にある知己の顔、動揺するのも仕方のないことです」
シャルティエの気持ちに寄り添うように『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は頷いた。
「なぜ、そんなところにいるのか疑問ではあるが……」
ルーチェは顎に指を置いて視線を逸らした。
シャルティエの領地を襲う魔物が居て、その中にメイドであるリルが居る。
「これじゃあまるで……」
頭に浮かんだ自分の考えを否定するようにシャルティエは頭を振った。
「……、ううん。まだ、僕は何も分からない……まだ何も知らないんだ。リルの事を何も」
親しくしていたリルが領地を襲っている何て考えたくも無い。知らないうちから『敵』だと決めつけるなんて出来るはずも無い。だって、あんなにも儚げで優しげな眼差しを持つのだ。
苦しげな表情を浮かべるシャルティエの肩に『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の手が置かれる。
「彼女が……魔物と共に居る、という事は。この魔物の襲撃は。何かしら、誰かしらの意図の下に行われている……という事になりますね」
「え? そうなのかい?」
思いも寄らないリースリットの言葉にシャルティエは顔を上げた。
「厳密な内情は測りかねますが、シャルティエさんから聞いていた彼女の表情や行動から言って、そう考える方が妥当かと思います」
誰かに従わされているだけだという可能性。
「それなら、聞かなくちゃ。リルが何故こうしてるのか……どうしてあんな顔をしているのか」
自らの意志があったのか。それとも何らかの制約が掛けられているのか。
何も分からないからこそ知らなくてはならない。
「わからないけれど、今、出来る事をしないと」
「そうだな。今は奴隷の救出もそうであるが、魔物も討伐する必要もあるからな。巻き込まぬよう注意して倒さないとな」
シャルティエの言葉にアルムとルーチェが頷いた。
レガリアを封印する結界に「何者かが侵入した」という情報も気になる所だと『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)はブルーグリーンの瞳を隣に居る『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)に向ける。
「そうねぇ。奴隷市に魔物の襲来、御伽噺みたいな古廟に神鳥。……幻想に、何が起こってるのかしら?」
「まだ、情報が不十分ですね。歯がゆい気もしますが……」
何かをしなければ取り返しの付かない事になるのではないか。
今までだって、救えなかった命もあった。全部が救える訳じゃ無いと分かってはいるけれど。
それでも、手を伸ばせるのなら助けたいと思うのだ。
「あのサーカスの時とは違うけれど、何か起こりそうな感じがして……けどとにかく、まずは目の前の街を守らないと!」
アーリアの声に『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は戦場となる領地を見遣る。
住民は避難をしているようだが、このまま魔物をのさばらせればいつ被害が出てもおかしくない。
「なにやら複雑そうな事情も見受けれるようですが、まずは領地領民を守るのが先決ですね」
「ええ。領地の被害を広げないためにも、今は目の前の敵を殲滅しなければですね」
視線の先に見える魔物はどんどん此方へ近づいて来ているのだ。ラクリマは精神を落ち着かせる為に深呼吸をする。
「魔物相手でしたら人間よりは気分的にはやりやすい、遠慮なく手加減なしでやらせていただきましょう」
「くふふ。そうですね。手加減なしで戦えるのはいいことです。話はそれをしながら聞かせて頂くことにしましょうか」
四音は何処からともなく一冊の本を取り出す。
今回の物語も楽しめそうだと胸に抱き、視線をアーリアへと向けた。
「それに、何度もお仕事で私達を守ってくれたシャルティエくんの瞳を曇らせるわけにいかないわ。
彼の真っ直ぐな金の瞳、美味しいエールみたいで素敵じゃない? ふふ」
「ええ。ええ。曇らせる訳には行きませんね。こんな所で曇ってしまっては勿体ない」
魔物の群れが近づくにつれ、地響きが足下を伝ってくる。
「ともあれ、先ずは魔物に対処せねばなりません。私がフレイムハウンドを抑え、他の皆でそれ以外の魔物の処理からしていただきます」
リースリットは赤い瞳をシャルティエに向ける。
「……皆さん、どうかご協力を……! 行きますッ!」
剣の柄を握りしめシャルティエは仲間に進軍の合図を送った。
●
先陣を切る翼。
アルムの空刃が戦場を駆け抜け火蓋が切られる。
空中を翔るアルムの身体はベノムバードを捉え、苛烈なる黒翼の刃が音速を超えた。
ベノムバードが攻撃を躱すよりも速く空を切るアルムの刃。
「ギ……ッ!」
小さな悲鳴と共にアガットの赤が蒼穹の青へと舞い散る。
アルムの刃はベノムバード一体を地面へと叩き落とした。
落ちてくる鳥を風を舞う妖精がひらりと交わす。それは風花の光を纏うリースリットだ。
燕が地面すれすれを飛ぶようにフレイムハウンドへと肉薄する。
掌に渦巻く焔がリースリットの腕に絡みついた。己が身を蝕む焔を魔法剣に変えてフレイムハウンドの巨体に叩きつける。ジリジリと焼けるタンパク質の匂い。
フレイムハウンドに敢えて焔をぶつける意味。それは、リースリットの方が『上』であると挑発するようなものだ。炎の獣は歯を剥き出しにして雄叫びを上げる。怒りに満ちた炎が燃え上がった。
「僕は、このカルセイン領の主シャルティエ・F・クラリウスだ! 領民たちに手出しはさせない! 掛かってこい! 魔物ども!」
シャルティエは最前線で剣を掲げ魔物の注目を集める。本能的にイレギュラーズの中で倒すべき相手はシャルティエなのだと悟った魔物は彼に狙いを定めた。
本来ならば、魔物の群れの奥にいるリルの元へ直ぐさま駆けて行きたい。
されど、魔物の数が多い今は話す事すら儘ならないだろう。仲間を見捨てて自分だけリルの元へ走る事は出来ない。だから、先ずは敵の数を減らすのが先決。
「……リル。必ず、すぐにそっちへ行くから……!」
シャルティエの声にリルは息を飲むように視線を上げた。
「さぁ、いらっしゃいなぁ」
アーリアは手を広げアースエレメントを引き寄せる。
シャルティエへと怒りを向けていない敵を自身に集めるためだ。
上空に旋回するベノムバードとて例外ではない。
アーリア目がけて急降下してくるベノムバード。
「ん、もう! おいたが過ぎるわよぉ」
毒の爪がアーリアの白い肌に食い込む。されど、彼女には毒は回らない。
「こんな程度の毒じゃ、私は酔わせられないわぁ」
「私は治療の得意な方ですが。攻撃もできない訳ではありません――」
四音の声に呼応するように戦場を黒き閃光が覆う。
激しく瞬く光の中に黒い腕が生えてアースエレメントをなぎ払った。
アースエレメントの表面に亀裂が入る。
「共に協力して敵を打倒しましょう。勿論、傷ついた方が居れば治療しますので安心してくださいね」
「待って。今、何使ったんですか?」
ラクリマが恐る恐る四音に問いかければカーマインの瞳を僅かに逸らす。
「神気閃光です」
「????」
大凡ラクリマの知る神気閃光では無い黒き影。いけない。それ以上いけないと本能が告げている。
気を取り直しブルーグリーンの瞳をアースエレメントへ向けるラクリマ。
フレイムハウンドを引きつけているリースリットに視線を流せば、今のところ上手く立ち回っているように見えた。ならば、四音の攻撃に重ね、敵を一体でも多く倒す方が良いだろう。
亀裂の入ったアースエレメントへ氷晶のタクトを振るう。
賛美の生け贄と祈りの歌はラクリマの周りに木霊した。紡がれる旋律は蒼き魔法陣を作り上げる。
蒼穹の空に溶けるように飛来する蒼剣はアースエレメントの亀裂に突き刺さった。
「まだ、終わりませんよ」
ラクリマはタクトをもう一振りする。戦場は蒼剣の光で埋め尽くされた。
亀裂に突き刺さった剣の柄を更に別の剣先が叩く。
奥へ押し込まれていく蒼剣はアースエレメントの核を割り、状態を保てなくなった精霊は真っ二つに地面へと転がった。
ラクリマの影から現われたルーチェが口を開く。
口の中で収縮した光が膨大な威力を伴って放たれた。
空気を震わす程の閃光が戦場を駆け抜け、アースエレメントを貫く。
フレイムハウンドを相手取るリースリットを援護する瑠璃。
黒い棺で敵を包み、苦痛を与えるのだ。
瑠璃は眼鏡の奥から魔物の奥に居るリルを見つめる。
「私のギフトですべて知ることも出来ますが……」
彼女のギフトは屍の声を聞けるというものである。情報を得るためには『死体』でなければならない。
つまり、リル・ランパートが死んで居れば情報を得る事が出来るのだ。
されど、それは不可逆的でもある。
「取り返しがつかないという点では不便なものでもあります。話し合うことができるなら、その方がきっと良いでしょうね」
いざとなれば、自分がその役を買って出ようと瑠璃は心に留める。
個人の尊厳に関わる部分は伏せておくにしても、背後関係は誰かの為になるのだから。
――――
――
アースエレメントの数を減らし、魔物の勢いが減って来た。
「シャルティエくん、ほら!」
アーリアはシャルティエに声を掛ける。この場は任せて先に行けと拳を握った。
「……ありがとうございます、アーリアさん! ……行ってきます!」
駆け抜けていくシャルティエの背を見つめ微笑むアーリア。
「一度言ってみたかったのよねぇ……だから」
アーリアはシャルティエへと追い縋るアースエレメントの行く手を阻む。
「だめよぉ、よそ見しないでこっち見て」
若き騎士の背を押して。アーリアは敵を相手取る。だってそれが『大人』の役目なのだから。
アーリアに迫る魔物の群れ。彼女の背を守るのは瑠璃だ。
蒼穹の空に虹雲が立籠める。決して命を奪う事は無い眩術なれど。痛みは確実に敵の体を蝕む。
アースエレメントの身体が痺れを帯びて動きが鈍っていた。
瑠璃が命を奪わなくとも。仲間が確実に仕留めれば勝利となる。
ラクリマの歌声が戦場に響き、蒼剣が穿たれた――
リースリットは自身の身体に刻まれる傷を一瞥し、直ぐさまフレイムハウンドに視線を移す。
強敵二体を相手取るリースリットの額に汗が浮かんでいた。
彼女が居なければ炎の獣を抑えておくことは困難だったかもしれない。
けれど彼女は的確に自分の力量を把握し、仲間を信頼している。
回避が間に合わず傷とて、四音の黒き腕に包まれれば元通りになるのだ。
「さて、私の本来の役目は皆さんの命を癒し守ること。あなた方の戦いを終わりのその時まで支え続けてみせます。存分に戦ってくださいね? ふふふ」
肌の上を滑って行く黒い腕は禍々しいけれど。
瞬く間に再生していく傷は四音の実力が本物だと表していた。
リースリットは魔物の群れを一瞥する。
魔物の種類から明らかに群れとしての関連が伺えないのだ。
「火の魔犬に、毒の鳥に、土の精霊……これらが纏まって行動するなんて自然にはまず有り得ないし、自然でなくとも普通は無いでしょう」
「確かにそうですね」
リースリットの声に瑠璃は頷く。
「明確に、何者かに使役され支配され駒として動いているとしか思えない。……もしそうであるのなら『彼女』も同様に使役されている可能性が高い」
「成程。誰かに命令されてこの領地を襲っている、と」
フレイムハウンドの一撃を交わしながらリースリットは言葉を続ける。
「自分の意思か、意に添わずかはわからないけれど。下手に連れ戻そうとするのも危険かもしれない」
焔剣はフレイムハウンドの胴を貫き、リースリットの肌に返り血を降らせた。
「どんな立場で、どんな気持ちで、そこにいるのかは……わからない、けれど。彼女を、案じる人がいて。きっと皆、疑いたくない」
アルムはシャルティエの後ろ姿を見つめる。
「だから……本意ではない、か……気持ちが揺らいでいる、のかな」
「シャルティエさんがうまく事情を聞き出せれば良いのだけれど」
イレギュラーズはリルの元へ向かうシャルティエに想いを託した。
●
「リル!」
「……シャルティエ様」
目の前に迫るシャルティエにリルの身体が強張った。
「君に聞きたい事があるんだ。一つは、何故魔物と一緒にいるのか。そして……僕に何か助けられる事はないか」
シャルティエはリルの前に立ち、優しい瞳で彼女を見つめる。
「……ごめんなさいっ」
視線を落としエプロンを鷲づかみにするリル。
「リル、本当に魔物と襲撃をしてきたのなら、雇われたのも偵察の為だったのかもしれない。でもそれなら、あんな表情をする理由は無い筈なんだ」
彼女の意志であるならば、屋敷でシャルティエに見せた憂う表情などしないはずなのだ。
「もし望んでいない行動なら……必ず助けなきゃいけない。
リルは僕とリオンの従者で。僕も、力になるって言ったんだから」
シャルティエの言葉に首を振るリル。思い詰めるよな表情。
「初対面の方ばかりでしょうけど。少なくとも貴女が困っているなら助けたいと思う優しい方達ばかりです。躊躇わずに事情を話してみるのも手かと思いますよ?」
魔物の群れを倒した四音達はシャルティエとリルの元へ集まってくる。
「それとも言えない事情が有るとか」
四音の言葉にビクリと肩を振るわせるリル。
「人質あるいは監視とか色々有りますね」
――きっとその方が面白い話しの種になるだろう。あらあら、こんな事を考えるなんていけないわ。くふ、くふふふ。
こてりと首を斜めに傾けた四音が目を細めた。
「彼女は何かを受け継ぐもの、とか……?」
アムルは小さく呟き、リルへと言葉を投げる。
「リルさん。あなたは……このあと、どうするの?」
このままでは何処かへ去ってしまいそうなのだ。向かう先は彼女のが望むものなのか。アムルは疑問を投げかける。
「もしも……道を逸れたいと思うなら、いまはその分岐のひとつだと、思う」
何をすべきではなく、リル自身がどうしたいのかをアムルは知りたいのだと語りかけた。
リルの唇が震える。
「……ごめんなさいっ、私は、あの方を裏切れない」
最低な場所から救い出してくれた恩。主人の為になると聞かされて此処までやってきた。
けれど、潜り込んだ先でも皆優しくて。自分がしている事に疑問が募っていく。
リルの空を写した瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
カルセイン領に被害をもたらすという目的は果たせなかった。
このまま帰還すれば、叱責を受けるだろう。
されど、リルの所有権は彼女を買った者が握っている。裏切る事は出来ないのだ。
「シャルティエ様……、ごめんなさいっ」
「リル……ッ!」
空色の瞳から零れる涙。咄嗟に手を伸ばしたシャルティエの指がリルの髪に触れた。
流れていく灰色の髪の先。灰色狼の姿になったリルは地を蹴る。
「待って……!」
シャルティエは森の中へ走り去っていくリルを追いかけた。
されど、狼の俊足は縦横無尽に森を駆け、とうとう見失ってしまった。
「くそっ!」
拳を木の幹に打ち付けたシャルティエは、リルが消えて行った方向をずっと見つめて居た。
――――
――
「……あれは。アーリアの言ってた子かな。いっちょ探ってみますか」
街に戻ってきた褐色の灰色狼の少女を追いかけて。
キッチュ・コリンズがツバメの羽根を広げた。
リルが目指す先は――
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。如何だったでしょうか。
無事にカルセイン領の魔物は撃退されました。
リルの行方を追う手がかりを掴んだ方にMVPを送ります。
GMコメント
もみじです。シャルティエさんの領地を助けてあげてください。
●目的
・魔物の討伐
・リルの様子を探る
●ロケーション
幻想国カルセイン領。
領地の東側から攻めてきた魔物が進軍しています。
領民は避難していますが、衛兵に負傷者が出ています。
魔物の群れの中には何故かリル・ランパートの姿があります。
●敵
○フレイムハウンド×2
炎を司る魔獣です。強力な固体です。
二体は連携して攻撃を仕掛けてくるでしょう。
火炎系のBS攻撃を持ちます。
○ベノムバード×4
毒の羽根を戦場に降り注ぎ、急降下して鉤爪で攻撃します。
空中に居る時はよく狙い、撃ち落としてしまいましょう。
そこそこの強さです。毒系のBS攻撃を持ちます。
○アースエレメント×10
瘴気を纏った精霊です。そこそこの強さです。
神秘攻撃を仕掛けてきます。遠距離攻撃もあります。
○リル・ランパート
カルセイン家に最近雇われたメイド。
魔物の群れの中に居ます。魔物は彼女を攻撃しません。
目的や能力等は不明です。
話しかければ受け答えしてくれる可能性はあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●EXプレイングについて
リル・ランパート及び消息不明の奴隷の行動を指定するEXプレイングにつきましては、受付対象外とさせていただきます。あらかじめご容赦の程をお願いいたします。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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