PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>移桜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●花
 うつろひたる桜は白き残雪に触れることはなく、真白の花を咲かすことであろう。
 天心を受け止め優雅に伸びた枝先一つ、目を伏せて芽吹きを待つ早春に、梅の花が小さく笑う。
 茂る木々は春の訪れを喜び、吹いた寒々しい風に別れを告げる。それが桜ノ杜――穏やかに過ごす人々の声高らかな場所。
 花色衣を身に纏う領主は愛しき人と仕事に出かけたであろうか。
 ならば、と領内を護る人々はこぼれること無きように花の手入れを行い続ける。
 目覚めるような緑に、躍った朝露の光一つ。名残の月に憂うこと無きよう、春を待つ。
 友禅のように艶やかな景色を見るが為。

 そこに舞吹雪く、大輪の如く。思いの色に塗れたのは見上げるほどの巨躯、狼と称される存在。
 だが、それを普通の狼であるとは認識できなかった、濡れる桜色に、その周囲を踊るのは精霊の淡き光。
 四つ足で練り歩いた獣は牙を剥きだして地を蹴った。躍る砂埃が立ち上る、そして――

●introduction
「珠緒さんの領地へ行かないと」
 忙しなく声を発っし支度を調えるのは藤野 蛍(p3p003861)であった。イレギュラーズの領地が襲われるという事件が連発している。
 その中の一つ、桜咲 珠緒(p3p004426)の領地が怪王種によって襲われたというのだ。
 桜ノ杜――珠緒の領地であるその場所では領民達が統率が取れた避難を行った。だが、未だ斃されることのないモンスターは領地を蹂躙線と立っているのだ。
「状況をお聞きしても良いでしょうか」と珠緒は情報屋へと問い掛けた。

 これはローレットのイレギュラーズの中では公然となってきた極秘情報――
 王家のレガリアの一つが眠る『古廟スラン・ロウ』の結界に何者かが侵入し、レガリアが奪われたという。
 更には伝説の神鳥が眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれた。
 それと同時に、幻想各地に多くの魔物が出現し始めた。どうやら『鳥』に関わる魔物、『巨人』に関わる魔物が多いらしい。中には怪王種(アロンゲノム)化した物も居る。その中でも特に被害が大きかったのはスラン・ロウに程近い位置に存在するギストールの町。
 それらと話題であった奴隷販売が合わさって、事態は混迷を極めていると言っても良い。
 無数の糸が捻り合った現状で、イレギュラーズの持つ領地が脅かされるというのはこの一件に含まれることなのだろう。

「――と、言うわけで、珠緒さんの領地にも……って事なんだけどさ。直ぐに向かって欲しい」
「勿論」
 蛍は頷いた。領民達は避難を済ませているようだが、それでもモンスターを放置すればその火種は広がり大きく被害を生むことになるだろう。
 美しき春の訪れのような獣。華々しい桜を思わせたその狼は巨躯で地を駆け辺りを紅に染める可能性とてある。
「行かねばなりません。それで、誰かの命が救えるならば」
「ええ。恐ろしい事だわ。そんな厄介者のモンスター、放置して居られるわけないでしょう!」
 珠緒と蛍に情報屋は頷いた。
 英雄と呼ばれた特異運命座標は、何の力も持たぬその地に住まう人々を救う手を、そっと伸ばして欲しいのだ。
 それが誰かの笑みに繋がると信じて――

GMコメント

日下部あやめです。宜しくお願い致します。

●成功条件
 魔物の討伐

●桜ノ杜
 幻想周辺、街へは徒歩圏内程度の立地。木々の合間に建てられた庵では、穏やかに過ごす旅人らの声。
 ――そんな穏やかな場所です。桜咲 珠緒(p3p004426)さんの領地です。
 珠緒さんの恋人である藤野 蛍(p3p003861)の事も領民達は懇意にしているようです。

●モンスター:セレジェイラ
 美しい桜色のモンスター。巨大なオオカミです。怪王種(アロンゲノム)化してます。狂っていて、意思の疎通は不可。
 神秘的な気配を纏わせており、元は何かを司る精霊であったかのようです。
 最後に残ったのは美しい花を好む――という、その性質だけのようです。
 とても俊敏に動き回り、前衛アタッカーを思わせます。

●モンスター:花弁 10体
 セレジェイラの周囲を舞踊っている花弁。精霊。セレジェイラの狂気に触れて狂化して襲い掛かってきます。
 魔法を使用しての攻撃を得意としているようです。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <ヴァーリの裁決>移桜完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ


 白雪の如く、はらりはらりと散る花は。風の囁きに誘われるようにして舞い落ちる。
 友禅を描いたその花景色を眺めて感嘆の息を吐き出した『虎風迅雷』ソア(p3p007025)は陽の色を宿した瞳を細め笑んだ。
「わぁ……きれー!」
 移ろう桜は春の象徴。その地の領主たる桜色の娘、『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)は「お気に召したのでしたら光栄です」と微笑んだ。花を愛でる時間も惜しいほどに、情報を手繰り寄せた。
 桜ノ杜に住まう者達の避難は済んでいるそうだ。穏やかに日々を過ごす民へと花ではなく、血の色を回せる光景など見せたくはない。それは珠緒だけではない『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)とて同じ考えであった。
「ここに怪王種が……」
 唇が、小さく戦慄いた。此の地は珠緒の大切な場所で、此処を安住の地としてくれる優しい領民がいて――そして、『かけがえのない家』で。そう思えばこそ、蛍は魔物の到来を赦すことが出来なかった。
「ほう……これは、なじみ深い光景じゃの。良い趣味をしておるわ」
 うっとりとした笑みを浮かべて『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)は破顔した。袖口で口元隠した鬼の娘は柔らかな白髪をふわりと揺らす。
 春の馨りで肺を満たして。『闘技戦姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は眉をひそめる。美しい桜、物見遊山にはぴったりであるこの場所に「綺麗な領地だね……」と笑みを零すのも束の間――聞こえた獣の唸る声に溜息さえも重く響いて。
「こんな所を襲うだなんて、こいつらは一体何なの!? 勇者王の遺産だか知んないけどアタシが全部片づける!」
 その手にしたのは二刀。魔力を込められた黄昏が茜の色に輝いた。音の響きを逃すことなく、珠緒の大切な領民が逃げ遅れてやしないかと探し求めた。
 念には念を。そう願ったミルヴィの眼前に土を踏み締める音が一つ。それは気性の荒い獣で有ることを顕わす様に喉の奥から息を吐き出した『アロンゲノム』と呼ばれた変異生物。
「オオカミのアロンゲノムとはやりがいがありそうだね! ハデに暴れて行こうか!」
 美しい桜花の中で『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が構えを取った。花を好むその獣の名はセレジェイラ。
 舞踊る花弁の如く可憐な色彩を身に宿した巨大な獣。春の気配を纏わせて、イレギュラーズを睨め付けるその瞳は嫌悪の色に染まり行く。此の地を、穢すこと勿れと告げるかのような姿はまるで『聖獣』だと『薄桃花の想い』節樹 トウカ(p3p008730)は切なげに眉寄せた。
(――狂暴化してなければ、『怪王種』でさえなければ……共存の出来る聖獣って言葉が似合ったんだろうな。
 元に戻す方法を探す時間もないし、避難が済んでるとはいえ、領地が荒らされたら直すのが大変だしな。……躊躇わずも、慈悲を持って楽にしてやらなきゃな)
 その獣が花を愛で、慈しみ。そうして日々を尊んでくれたならば。そう思えばトウカは唇を噛んだ。毒花が戦に使われることもある。それでも、花は誰かの心を潤して幸福を与えるものだから。花に込めた想いさえ血で汚れる前に――散らして見せようとセレジェイラへと向き直った。
 地を蹴った。獣の声を聞きながら『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は己が手によく馴染んだ聖刀をしかと握り直した。
「綺麗な姿だな……」
 当たり前のように、唇から滑り出した感想に。セレジェイラが『討伐対象』となる前を想像する。
 花を愛でる優しい精霊。美しい花々を愛し、心優しく人々の営みを守っている。そんな、そんな心優しき精霊が『滅び』の声を聞けば狂い続ける。
 因果を歪める。己の手が及ばぬ所で狂った其れを、淘汰せねばならないことが酷く――もどかしい。


 行動するならば、全てはシンプルである方が美しい。書の教えを指先なぞればそれは桜色の剣へと変貌した。
 護りの意志を胸に抱いて艶然壮絶に舞踊る桜吹雪の結界へと飛び込むセレジェイラを捕まえた。
「……ただ敵を倒せばそれでいいってわけじゃない。
 この穏やかな領地と、そこに住まう人達の生活を――笑顔を穢されずに守れてこそ、初めて『勝利』って言えるんだ。
 それが、領主たる珠緒さんの傍らに寄り添うボクの責務で……覚悟よ!」
 保護の結界を張り巡らせる。美しさを感じるその巨体の牙が剥き出しに、蛍の下へと飛び込んだ。
 後方には珠緒が。彼女を、そして彼女の愛するこの土地を護る為ならばその牙さえ恐ろしくはない。
「ええ、珠緒と蛍さんの二人でセレジェイラを抑えましょう。吹雪く花は皆さんに――……参ります」
 静かな声音と共に神秘を帯びた血潮は武装へ変化する。盾であった桜花は刃になりて藤花と歩む事を止めることはしない。
 己の纏う花にも似た美しき獣。その姿を一度見遣れば珠緒もトウカと同じ感想を抱いた。嗚呼、その獣は狂ってさえ居なければ此の地の安寧の傍にあった事だろう――『怪王種』と呼ばれたならば、もう二度とは有り得ない。
(大丈夫です。怪王種との相対は初であれども、怖れることも臆することもありません。珠緒の前には、蛍さんがいるのですから)
 祈るように、願うように。此の地を傷付けないことを願った二人の声に応えるように。
「天義の聖騎士、サクラ! さぁ、かかっておいで!」
 神信じる御国の光あれと、小さな身には大きすぎる正義を成すが為の血統、そのしるべ。己の使命を背に少女は――『サクラ』の名を持つ娘は舞い散る花々を、『桜』の精霊を呼び寄せた。
 セレジェイラも花弁の精霊も、正気であったならば人を傷付ける事を厭うただろう。花を愛でる彼等が、人を悪戯に傷付ける事など想像も付かないから。
(私に出来るのは、せめて――これ以上彼等に人を傷付けさせないことだけだ!)
 舞踊る花々をその双眸へと映し、舞う。花よりも尚軽やかに。散るよりも尚美しく。
 地を蹴って飛ぶ。集まる花へと振り上げた舞踏の構え。天才的な舞踏を披露するミルヴィは儚き幻の如く、花々を翻弄し続ける。
「きれい」
 小さく呟くソアの声音に「そうだね」とミルヴィは囁いた。セレジェイラ、蛍の下へと飛び込んだ巨躯の狼。
「ねえ、セレジェイラは元は精霊だったのね? 悲しいなあ、お友達になれたかも知れないのに……。
 滅びのアークがどういう物なのかボクには分からない。けれどこんなことを引き起こすならやっぱり許せないよ」
 ばちり、ばちり。音を立てて弾けて。武装に頼る事無いその掌に雷を纏う。守護は虎と言うには余りに華奢な少女の身体を包み込み、獣の如くその脚へと力を宿した。
「――今すぐに元いた場所に還してあげる」
 飛び込んだ。光が、躍る。時間さえも置き去りにした鋭き雷。
「ひとつ!」
 掌で地面を叩けば、僅かにへこんだ土が掌に攫われるように跳ねる。花弁の精霊へと飛び込んだ雷の光弾。
 追いかけるのは赤酸漿。トウカの眼の如き、鮮やかなる色。赤く色付く果実が如く、散らす花は余りに無残。
(……狂化してなければ今も平和に暮らしていたんだろうな。
 お前らに恨みは無い、でも……ここで倒さなきゃ……いずれは誰かが恨みを持つ……ごめんな、助けられなくて)
 苦心するように、心を伝える桃の花。誰かが助かる代わりに犠牲になった命を忘れたくはないから。
 鬼の身体に刻まれた勇猛果敢なる決意が青年を突き動かして。花弁より躍った風を木刀で叩き落として構えを返す。
「ふむ……わしゃ、一番の新参。無理をしてさっさと退場など余りに似合わぬ」
 構えたのは朧月夜。刀身に至るまで、美しき色を湛え、花へと飛び込んだ。切れ味の鋭き刃が花弁を掠め、躍る。
 身を展示白妙姫は小さく笑った。サクラの許へと集う花々のげにも美しい様を眺めて雷の気配を纏わせて。
「案外皆好き好きに打ち破っていくかもしれんな、かっかっか。花は美しいものよの?」
 ひらり、白き衣が揺れ動く。白妙姫とその名を名乗った鬼の娘は膂力がなくとも、勝機を引き寄せるためにと戦場にて立っていた。
 目弾きに飾られた朱色の瞳を細め笑って。乙女の剣の傍らに勢いよく飛び込んだ乱撃はイグナート。
「オオカミを倒したら正気に戻るかもシレナイ! トドメを刺さなければ、きっと!」
 そう希うように、肉体を硬くする気功術に息を吐く。
 サクラに集うた花々が周囲巻き込むように吹き荒れた魔力の気配を弾く攻防一体の構えを取ってイグナートは静かに息を吐いた。
「散るだけならキレイなのにね、ヒトをキズ付けたらお終いだよ!」
「そうだね。屹度、綺麗な景色を愛していたかっただけなのに――……ごめんね!」
 同じ乱撃を。花々を更に散らすように、サクラは言葉を飲み込んだ。桜の色に囲まれた美しい景色の中に、躍る華。
 セレジェイラ、屹度好んだその景色に牙を剥きだし苛立つように。其れは、どれ程に悲しいことであろうかと――


 跳ね回り、躍る様に。白妙姫が花弁と相対する中で、トウカも同じように刀を振るっていた。
 花へと掛けた言葉を尽くしても。届くかは分からない。
 蛍と珠緒がセレジェイラと相対を続ける中で、急がねばと急く心を静めながらもトウカは花弁に向き直った。
 小さな淡き光。それでも、命であった事には違いない。イグナートの下へと飛び込んだ光が弾かれる。
「ふたつ!」
 ソアの掛け声に頷いて、白妙姫が地を蹴った。叩き付けた刀が柔らかな土を沈ませる。それでも尚、少女は止らない。
 グルルルル――――
 揺さぶるのは狼の唸り声であった。眼前の花を傷付ける事を厭う仕草も見せず、苛立ちを込めたその声に珠緒は悲しげに眉をひそめて。
 大いなる天の使いよ、神の声音を響かせる救済がサクラを包みを込む。珠緒はぎゅう、とハイペリオンの羽根を握りしめた。
(ハイペリオンの羽根よ、光があるならば、示してくださいませ――)
 巨大な狼に祈るようにと声を重ねて。蛍と共にセレジェイラへと向き在った。
 舞う花弁、精霊は勢いを無くすように淡い光を落とし、消えゆく。
「ホタル、大丈夫!?」
「ええ。大丈夫――珠緒さんが付いているから!」
 イグナートへと余裕の笑みを返した蛍へと珠緒は大きく頷いた。奇天烈な日々に、奇天烈な能力に、そんな毎日を彩る彼女が側に居る。
 蛍は其れが力になると、決死の覚悟で狼を受け止めた。珠緒の盾となる、的の狂気を絡め取る楔となって花散らす。
 蛍の前に散ったのは彼女の桜吹雪とはまた別の花弁。それは一人の少女の記憶、触れる事のできる幻、いつかの約束の証。
「――推して参る!」
 地を蹴った。躍る様に飛び込んで苦難を破る光となりて。聖騎士たる神聖が刃に宿り飛び込んだ。疾く動くわけではない、効率的に動く剣姫たる所以。
 サクラの傍に躍った花は大きく美しく。『桜』に魅入られるセレジェイラが悪しき存在であることが何よりも苦しいとミルヴィは声潜めた。
「本当はアンタも花を好む穏やかな存在だったのかも知れない……けれど、止まれないならここでアタシがアンタを止める!」
 止らない。止ることが出来ない。ならば、己が止めてみせると黄昏と黎明を構えて攻防一体の構えを持ったミルヴィを包み込んだのは『IF』
 妖艶に笑み浮かべ、月をも切り裂くように剣振り上げる。

 ――本当はアンタも花を好む穏やかな存在だったのかも。

 その言葉を繰り返してソアはさあと血の引く音を聞いた。本来ならば心優しい存在だった。そう認識していたのに――『滅びのアーク』の気配を感じて。
(精霊たちは肉腫に変わったり、怪王種に変わったり近頃になって急に変だよ。
 これまでこんなことずっと無かった。ざんげさんの言う世界のお終いが本当にやって来てるのかな。怖い……)
 世界が終焉に近付いています。
 終焉に抗う為に、可能性を宿して戦え、と。そんな漠然とした使命に直面したかのような違和感にソアの身体は包まれた。
 分岐する可能性を眼前に、何度だって雷の守護と共にソアは奔った。牙を剥きだしたセレジェイラに蛍が小さく息を飲む。
 凶暴性を増して、傷付ける事にばかり特化した精霊。花を愛する筈だった『狂った』存在にソアは末恐ろしさを感じながら食らい付いた。
「……逃さないよ!」
 恨みもなければ、畏れもなくて。ソアに続いて白妙姫が跳躍し刀を叩き付ける。
 華奢な身体では重たい一撃も放てぬと自己分析を重ね、無理を行わぬようにと足運びも気を配る。
 白妙姫が舞うように後退すれば、トウカが入れ替わるように木刀を振り上げた。
「美しいものよの、花は散り際が美しい」
「……ああ、けど――まだ散るには早かったんだ……!」
 因果を歪めて、愛でるべき花を害するその獣。桜の色を身に纏うそれは『散る』にはまだまだ遠いはずだった。
 悔しげなトウカの声を遮った狼の遠吠えが鋭く大地を揺るがせた。
 響いた、声に。身体がびりびりと震えた気がしてイグナートは口角を上げ、笑った。
「キレイな姿だね。出来れば狂う前のアンタと戦ってみたかったな! そっちの方がゼッタイに面白かった! 惜しいね!」
 もしも、があったなら。そう笑うように苦難を越えて、飛び込んだ。
 虎爪の構えから繰り出したのは掌打。手首を旋回させて突き込めば、その勢いの儘にセレジェイラへと爪先を抉り込む。
 ばちりばちり、音を立てた気が狼の身の内へと流れ込む。
 ぐぐ、と呻いた狼が牙を剥き出せば蛍がば、と両手を広げ威嚇するように声荒げる。
「一番綺麗な花――珠緒さんには、指一本触れさせないわよ!」
 美しい花。愛しい花。其れを害されては堪らない。射干玉の髪を揺らがせた少女の声に応えるようにミルヴィの刃が飛び込んだ。
「こっちだよ!」
 ぐるりと身体を回転させる。ミルヴィの背の向こうから顔を出したソアの雷が大地を揺さぶるように音を立てセレジェイラへと飛び込んだ。
 怖い。
 怖い、けど――
「……けど、倒さなくっちゃもっと怖くなる!」
 此の地を訪れたのは美しい花が見たかったから。正気を失ってもなおも、美しいものを愛する気持ちを抱いていた。
 怪王種についてはまだ、分からないことばかり。けれど、その心を違えていないなら。
 サクラは地を踏み締めて剣を振り上げた。聖なる光よ、神よ。そして美しき花よ――どうか、魂を導き給えと願いを込めて。
「――これは貴方に送る手向けの花……。美しき花に看取られて眠りなさい」


 ざあざあ、と。音を立てた葉擦れにゆっくりと顔を上げれば、視界を奪う花の色。その向こうより覗いた旭日はなおも明るく。
 春を祝福するかのようだとトウカは感じていた。剣を握る必要も、戦に駆り立てる必要も無くなった今、零れた桜が掌にひとつ、舞い落ちて。
「……今度、植木鉢で花でも育てるかね。他者の領地に墓を建てるのは無理だろうし。
 かといって遠いうちの領地に作っても意味がねえし……桜色の花に冥福を祈るぐらいなら、誰にも迷惑をかけないよな」
 小さく笑ったトウカは精霊の姿をまじまじと見下ろした。倒れ伏せたその狼は、その姿を大地に溶かすように静かに消えゆく。
 此れにて一件落着であると白妙姫はほう、と息を吐いた。戦場での傷は痛めど経験の証たれ。王国より褒章として渡されるメダルは如何したものかと唇尖らせ思案して。
「……ボク達、護れたかな? ボク達の帰るべき場所と、人々の笑顔を」
 震える声でそう呟いた蛍へと珠緒は小さく頷いた。白い指先を絡め取り、ぎゅうと握れば暖かい。生きている、それに安心を抱いて。
「ええ、ええ」
 何度も繰り返し頷かれるその声に、ほうと小さく息を吐いた。
 消える、と呟くイグナートにサクラは小さく頷いた。見上げれば、風に煽られ花が散る。儚く踊る花弁は天心に愛される事も忘れたように大地へと揺らぎ落ちて。
「せめて――」
 唇を震わせた。
 四季が移ろい姿を変えて。春がまた訪れたときに命が芽吹くように、花の精霊としてセレジェイラが戻ってくることを切に願って。
「穏やかなはずの精霊がどうしてこんな事になってしまうの……。
 勇者王の遺産なんてものがあったから、ううん……何よりこの事件の解決を誓うよ!」
 淡く消えてゆく狼へとヘリクリフサの華を添えて、ミルヴィは思い出の込められたアンティークギターを引き鳴らした。弔いになれば、と奏でるその音色を聞きながらソアはゆっくりと歩き出す。
「きれいだね」
 ――屹度、友達になれた精霊に。
 微笑むように囁いて。歩む一歩は楽しげに。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

藤野 蛍(p3p003861)[重傷]
比翼連理・護

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 美しい花を護りきることが出来てほっとしております。
 MVPはセレジェイラにとっての最愛の景色を見せて下さった貴方へ。

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