PandoraPartyProject

シナリオ詳細

One cake War

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝の昼下がり
 鉄帝。その街の、昼下がり。
 正午を過ぎ、そろそろおやつの時間か、といった時間帯。この街でも人気の菓子店『シュネーツッカー』には、長蛇の列が形成されていた。多くは、主婦や、学生などの、婦女子たちである。
 彼女たちのお目当ては、シュネーレーゲンと名付けられたワンホールのケーキである。シュネーレーゲンは、今この街において人気絶頂のケーキで、みぞれ、の名の通り、白と透明の特殊なクリームによってデコレーションされた、見るだけでも楽しめるというものだ。味の方も申し分なく、こうして昼間から長蛇の列が形成されるほどの人気である。鉄帝とて、甘味は心休まるひと時を提供する大切なものだ。それに、糖分はすぐにエネルギーになるので効率がいい。取り過ぎなければだが。
 さておき。そんな行列のただなかに、八名のイレギュラーズ達が居た。休日を菓子店で過ごそう、と思ったわけでは勿論ない。これも立派な仕事である。

「娘とケンカをした……!!」
 イレギュラーズ達に依頼がある、と、彼らを呼び出したこわもての鉄帝軍将校の男は、開口一番にそう言った。太く、力強い眉は、この時愉快なほどに八の字に垂れていた。部下を叱責し鼓舞する力強い声は、今は子犬の鳴き声のように弱々しい。
 状況を説明すれば冒頭のセリフのひとこと通りで、つまり些細な事から、この将校は娘と口論になってしまったのだという。おとうさん嫌い! もう口きかない! と言われたかどうかは定かではないが、この鉄のような男のハートを動揺させるには充分な一言を、娘から聞かされたのだろう。
「それで、その……謝りたいのだが! 手土産がないというのも、機嫌を損ねるかな、と……!」
 その巨躯に見合わぬほど、探り探りで言葉を選びながら、将校の男は告げる。笑うなかれ。おとうさんは娘に弱いものである。
「皆には申し訳にないのだが……シュネーツッカーという菓子店に赴き、今人気のケーキ、シュネーレーゲンを確保してもらいたい! 私はこうして仕事から抜け出すことはできないし、部下に頼むわけにも……頼む! ケーキさえ確保してくれれば、その店で菓子を食べてもらっても構わない! 費用は私が全額負担する! この通りだ!」
 だんっ、と音を立てて、将校はテーブルを叩きつつ頭を思いっきり下げた。まぁ、お金がもらえて菓子も食べられるなら、悪くはあるまい。おとうさんのお願いを、聞いてやるのもいいだろう……。

「あれ、もしかして、貴殿らは……」
 さて、そんなお父さんの切なる願いを思い出していたイレギュラーズ一行は、背後からふと声をかけられた。ふりかえってみれば、イレギュラーズのすぐ後ろに並んでいた、金髪の女性の姿に気づいた。
「やっぱり。ローレットの皆様ですね! 妹がお世話になっております!」
 にこやかに挨拶をする、『どてら』を着こんだ女性。それは、アンネリーゼ・フォン・ヴァイセンブルクだ。鉄帝軍人レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグの娘の一人であり、自身も鉄帝軍人として名高い女性である。
「皆様は……今日はお休みですか? 私は今日はたまたまお休みでして! 評判のケーキを買いに来た次第です!」
 イレギュラーズ達は、アンネリーゼへと事情を話す。アンネリーゼは、ははぁ、と唸ると、
「なるほど、彼の将校の。確か、お子さんはまだまだ幼い女の子だった記憶していますが。ふふ。そのお歳でお父様を負かすとは、将来が有望ですね」
 イレギュラーズ達は、アンネリーゼととりとめのない話をしながら、時間を過ごした。やがて列は進み。イレギュラーズ達は少しずつ、店舗入り口へと近づいでいく。とはいえ、行列は、未だ長い列を作っていた。次から次へと人がやってくるようだ。ケーキの人気のほどがうかがえる。やがて、イレギュラーズ達が扉の前へと到達したとき。
 ちりん、とベルの音を立てて、菓子店の扉が開いた。見れば、パティシエールの女性が、泡だて器を片手に、立っていた。この店の看板パティシエで、シュネーレーゲンの料理担当でもある。
「ケーキの材料、無いなった」
 ふんす、と鼻を鳴らして、女性は言った。
「残ったのは後1ホール。買えるのは、あと一組だけ」
 ざわ、とあたりがざわつく。どうやら、ケーキはイレギュラーズ達が購入する分で終わりのようである。
「あらら……残念です」
 少しだけ悲し気に、アンネリーゼが言う。申し訳ないが、此方も仕事だ。譲ってやるわけにはいかない。些かの同情の気持ちを抱きながら、店舗に入店しようとしたイレギュラーズ達……が、その足は次の言葉で、踏みとどまることになる。
「なので……今からケーキ争奪バトルロイヤルを始めるッ!!!」
 ざわ、と。
 人々がざわめく!
 は? と。
 イレギュラーズ達は脳裏に疑問符を浮かべた。
「この場にいる全員で! 戦って! 戦って! 戦って! 最後に残った一組にケーキを売るッ! 以上! 戦えッ!」
 ちりん、と。
 ベルの音を立てて、扉が閉まった。
 イレギュラーズ達は混乱していた――何を。急に何を。戦って、ケーキを買う権利を得る? そんな頭鉄帝な――。
「なるほど」
 と。アンネリーゼは頷いた。
「ならばこれは絶好のチャンスです! ローレットの皆さん! いかに皆さんとは言え、このアンネリーゼ、手加減はしません! シュネーレーゲンは私はいただきます!」
 どよ、と。婦女子の方々がざわめく! 途端にみなぎる、闘気の類! 婦女子の皆さんはやる気だ! そう、ここは鉄帝だ! 全員頭鉄帝なのだ!
 そして、アンネリーゼのセリフ……ローレット、というその言葉により、婦女子たちの敵意が一気にこちらへと向いたことに気づいた! そう、ローレットのイレギュラーズと言えば間違いなく実力者たち! ならばまず、厄介な彼らを全員で叩いてしまおう、と、婦女子の皆さんは本能的に理解した!
 ――期せずして訪れてしまった、まさかの戦いの時。ケーキを買いに来ただけなのに。しかし、この戦いに勝たなければ、依頼を達成することはできない。
 イレギュラーズ達は困惑しつつも、その手に武器をとり、鉄帝女子達を迎え撃つのだった――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ケーキを買いに行きましょう!

●成功条件
 シュネーレーゲンを確保する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 娘に謝る手土産の、ケーキを買ってきてほしい――。
 鉄帝軍将校の男に、そう依頼された皆さん。経費でお菓子も食べ放題、と向かった先で遭遇したのは、何故でしょうか、ケーキ争奪バトルロイヤルでした。
 この戦いに勝たなければ、皆さんは依頼を達成できません。こうなっては仕方ありません。並み居る女子たちを蹴散らし、話題のケーキ、『シュネーレーゲン』を確保しましょう!
 無事にシュネーレーゲンを確保できれば、後は戦いの疲れを、お菓子の食べ放題で癒すことができるでしょう。
 事件発生タイミングは午後3時。天候は晴れ。戦闘フィールドは鉄帝の街中です。周囲は明るく、充分に開けているものとします。

●エネミーデータ
 鉄帝女子軍団 ×14
  ケーキを買いに並んでいた、鉄帝女子の皆さんです。年齢層は幅広く、学生から主婦まで様々。
  一般人のため、イレギュラーズの皆さんほどの強さは持ち合わせていません。が、そこは鉄帝。皆様何かしらの格闘術や護身術は学んでおり、充分に敵対存在として機能するでしょう。
  主にカバンや素手で殴りかかってきたり、闘気の塊を投げつけてきたり、傷を癒したりします。
  数は多いですが、即席の同盟のため、連携や援護などが苦手という面があります。

 アンネリーゼ・フォン・ヴァイセンブルク ×1
  ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)さんの関係者さま。鉄帝軍人であり、その実力は確か。まだまだ発展途上ながら、その戦闘能力は無視できるものではありません。
  鉄帝女子軍団の皆さんに比べれば、頭一つも二つも抜けて強敵です。物理攻撃をメインに行い、手にしたハルバードの威力は脅威的。
  ……ですが、【肝心な時に『しか』役に立たない】というジンクスを抱えているようで、少々ファンブルの値が高めです。今回は模擬戦のようなものなので、アンネリーゼに幸運の女神は微笑んでくれないかもしれません……。

●このシナリオのみの特殊ルール
 このシナリオにおいては、敵味方共に『HP0による死亡判定が発生しません』。
 不殺を使わなくても誰も死にません。鉄帝女子の攻撃は、皆さんの命を奪うほどではありませんし、アンネリーゼやイレギュラーズの皆さんは、適切に手加減を行っているものとして判定されます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングをお待ちしております。

  • One cake War完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月23日 22時03分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ

●ケーキ、奪い合う
「なんだこれ」
 『号令者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)は、土煙舞う戦場(メインストリート)のど真ん中で、些かハイライトの消えかけた目をしぱしぱとまばたきした。ハイデマリーの背後では、言うまでもなく鉄帝女子軍団の皆さんが、最後のケーキを手にするべく、ローレットのイレギュラーズへと襲い掛かっていた。
「ローレットのイレギュラーズよ! 先にみんなでやっつけましょう!」
 なるほど、一般婦女子でも戦術眼は持ち合わせているようである。女子は強いのだ。
「なんだこの仕事」
 ハイデマリーはもう一度呟いた。仕事。そう、仕事である。鉄帝軍、将官から極秘の仕事と言われ、緊張しつつ向ってみたら、「娘と仲直りするためにケーキを買ってきてくれ」とか言われた。なんだこれ……なんで……いや、考えるのを止めよう、将官命令だ。
「ローレットとバレちゃったらしょうがないね!」
 とりゃぁ、と準備万端、構えをとるのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)である。隣には『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が立っていて、静かに構えをとる。
「ケーキを買いに来ただけなのにこの展開! うんうんこれも鉄帝だねって感じ。さて、イグナートくん、まずは一緒に皆を抑えようか!」
「リョウカイ! 全員倒してケーキはオレたちが頂く! 悪いけれどまた次の日に並んでね!」
 とうっ、と飛び出す二人。鉄帝婦女子の皆さんの群れに飛び込む姿は、傍から見ればバーゲンセール会場に向かうがごとしだが、実際に飛び交うのは拳と闘気である。
「さてお立合い。ローレットの『業壊掌』、イグナートとはオレの事だよ。遠からんモノは音に聴け、近くばよって目にもミよ、ってね! 運動したいならオレがアイテになるよ!」
 堂々たる名乗り口上、引き寄せられた鉄帝婦女子の皆さんの、カバンが、拳が、キックが! イグナートへと迫りくる!
 イグナートは、振るわれるそれらの打撃を、次々とその手でいなし、受け止めていく。
「なるほど、流石鉄帝の人。身体能力はバツグンだね!」
 でも、とにやりと笑い、
「このままケーキを手に入れるんじゃ体重が気になるんじゃないかな! 下腹とかダイジョウブかい?」
「大丈夫! 今日ケーキをお腹いっぱい食べるために、ダイエットしてきたんだから!」
 鉄帝女子校生が、教科書のつまったカバンを振り下ろす。ちょっとした鈍器のようなその一撃。イグナートは腕をかざして受け止める。その言葉を聞いていた焔が、うーん、と頷いた。
「努力してきたんだねぇ……でも、ケーキはボクたちのもの! ケーキが欲しかったらボクたちを倒してからにしてもらうよ!」
 焔の名乗りに、鉄帝女子達が反応して飛び掛かる。焔は手にした槍を使って、それぞれの攻撃をしのいで見せる。
 一方、攻撃に転ずるイレギュラーズ達もいる。例えば『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)などは、その手にかざした闇の月の光で以って、鉄帝女子の皆さんを撃ち抜いていた。
「ふふ。ケーキのために、必死で戦う娘たちの姿も。娘のためにケーキを求める父の姿も。とてもいじらしい……とは言いませんが」
 マグタレーナはくすり、とその手を天へと掲げる。輝きをます闇の月。不吉の光が、鉄帝女子たちを押して圧する。
「しかし、甘いものを食べたい気持ちはわかります。ですが、お譲りするわけにはまいりません」
 強くなる、闇の月の光が、鉄帝女子達を貫く。不運。災厄。そう言ったものが、鉄帝女子達の身をじわじわと蝕む。
 一方、そんな闇の月のスポットライトの中を、一人のプリマ・バレリーナが静かに舞ってみせる。
「ケーキの前の運動といきましょう。一曲いかが? 鉄帝らしく、激しく踊りましょう?」
 『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は、その義肢で鉄帝の石畳をかつん、とならし、その両手を広げ、軽やかに一礼。そのままの跳躍(ステップ)、舞踏(ステップ)。くるりとターン、唇より零れるのは、切望の青を謳う呪い歌。
 誰もが見ほれるそのプリマのバレエ。紡がれる呪い歌は、鉄帝女子達の胸に魅了のしこりを残す。
「ケーキもいいけど私の踊りもいいでしょう?」
 三日月のように笑む唇。鉄帝女子達の心をつかんだ舞は、次々と鉄帝女子達の胸を撃ち抜いていく。
「やれやれ。こうも乱戦になると、治療も大変だな」
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が嘆息しつつ、デイブレイクの輝きを味方へと降り注がせた。偉大なる夜明けを謳う輝きが、仲間達を守る防壁となる。
「だが……美味(あま)い物を食べる為だったら何でもやらせてもらうぜ」
 世界は周囲から魔力を取り込み、それを賦活の力と変化させた。賦活の光が仲間達を包み、その傷を癒していくのを確認し、世界は再び周囲から魔力を取り込む。休む間もないとはこのことだが、この先に『美味(あま)いもの』が待っているのだとしたら、今の苦労などは苦労の内にも入るまい。
「なんだこれ……」
 ハイデマリーは茫然と呟く。まだ脳が状況を受け入れていない。
「ケーキ、たのしみだよね……」
 と、しんみりというのは『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)である。
「勝ったらお菓子食べ放題……鉄帝ってすごい国なんだね。負けられない戦いが、此処にあるんだ……!」
 きりっ、とクルルはいうモノの、その口の端にわずかにじゅるりとよだれが光る。
「クルル殿、よだれ」
 ハイデマリーが言うのへ、
「わわっ」
 クルルはハンカチを取り出して口元を拭いた。えへへ、とごまかし笑い一つ。ほっぺをバシバシと叩いて、思考をお仕事モードへ。
「お仕事頑張ろうね! さぁ、行くよ! 叫べ、マンドレイクっ!」
 クルルの放つ矢、その風切り音は不吉なる魔力根の叫びにも似た。石畳に矢が突き刺さるや、爆発するように響き渡る叫びが、周囲を混乱のるつぼへと変えていく。
「よーし、頑張るぞー! ケーキ、ドーナツ、シュークリーム♪」
 次々と矢を放つクルルを見ながら、ハイデマリーはぎぎぎ、と首を動かした。うん、将官命令だ。仕事しよう。色々と諦めと折り合いをつけつつ、ハイデマリーは眼前にてハルバードを構える、己の姉を見やる。
「で、アンネリーゼ姉様はなにしてるでありますか?」
「えっ」
 アンネリーゼが、どきっ、とした表情を見せる。
「姉様のせいで女子軍団がこっちに矛を向けだしたし。ワタシたちが、これでもお仕事で来ていることは説明いたしましたよね?」
「うっ。そ、そうですね!」
「そのうえで――妹の邪魔をするでありますか? ほぉ?」
 びしっ、と冷たい視線を向けるハイデマリー。アンネリーゼは、うっ、とうめいて視線をそらし――そのまま何事もなかったかのように、真顔を見せた。
「マリー、これは試練です! 見事この姉を越え、ケーキを手にして見せなさい!」
 びしっ、と指さすアンネリーゼ。とりあえず、そう言う言い訳を思いついたらしい。ハイデマリーは、ほう、と目を細める。
「では、こちらも加減は致しませんよ、姉様」
 ジト目で武器を構えるハイデマリー……と、その瞬間、一つの影がくるり、と舞うようにハイデマリーの隣へと降り立ったのである。それは、『魔法騎士』セララ(p3p000273)であり、
「あっ! マリーのお姉さんだ! こんにちわ、マリーのお姉さん!」
 ぴょっ、と片手をあげて挨拶。アンネリーゼは、まぁ、と両手を合わせると、
「セララちゃん! セララちゃんですね! マリーと一緒に魔法少女をやっている!」
「うん、そうだよ!」
 二人同時に、にこにこと笑い合う。ハイデマリーは、えっ、という顔をした。魔法少女やってるの、アンネリーゼにもバレてるの? でも、父にも母にもバレているはずなので、もうしょうがないのかもしれない。
「ゆっくりお話ししたい所だけど……今日はボクたちもお仕事で来てるからね。今度、マリーのおうちに遊びに行くから、マリーの事や魔法少女についてお話ししながらお茶会しようね」
「はい、是非! 色々教えてくださいね!」
 にこり、と笑いながら、双方武器を構える。ハイデマリーも慌てて武器を構えなおした。
「今は、悪いけれどケーキ確保が任務だからね。ボクとマリーの力、見せてあげるっ!」
「まったく、妙な雰囲気でありますけれど」
 ハイデマリーは咳払い一つ。
「セララとのコンビネーション。如何に姉様と言えど、破れるものではないでありますよ」
「ふふ。強敵相手は望むところです。アンネリーゼ・フォン・ヴァイセンブルク、私の実力、お見せしましょう!」
 アンネリーゼが、ハルバードを振り上げ、突撃してくる。その重そうな獲物からは想像もつかぬような俊足! 二人は共に、迎撃の態勢をとった――!

●ケーキ、手にする
「まったく、次から次へと容赦がないな!」
 世界がたまらずぼやく。次々と襲い来る鉄帝女子軍団。その攻撃は留まるところを知らず、イレギュラーズ達を確実に傷つけていく。
「イグナートさん、焔さん、まだ耐えられるか?」
「そうだね! とはいえ、ゲンカイは近いかもだよ!」
「皆ケーキにかける執念が強いよ!」
 パンドラをすり減らしつつ、二人は攻撃を受け止め続ける。怒涛の女子の波の迫力は、歴戦のイレギュラーズ達と言えど、流石に危機を感じるほどであった。
「女子ってのは怖いな! 兎に角こっちも全力で支える……だが、何か決め手が欲しいな」
 世界の言葉に、答えたのはクルルである。
「じゃあ、こう言うのはどうかな!」
 マンドレイクの矢をうち放つ。その悲鳴が女子達を惑乱させ、
「皆、わたし達を倒し所で、どうせ後で戦わないといけないんだしー……今の内に弱らせたりしておいた方が良くない?」
 と、毒を吹き込む。一瞬、ざわっとした空気が、女子達の間に走った。
「なるほど。では、わたくしも」
 にこり、と笑いつつ、マグタレーナは口を開いた。
「此処でわたくし達を退けたとしても、残るケーキはただ一つ。という事を思い出してみては?」
 どよどよ、と女子達の間に走る。元より、即席の同盟。それに、イレギュラーズ達の手により、様々に心を乱されるような手段をとられていては……。
「私たちを倒した後のことを考えているかしら? 隣にいる誰かも敵なのよ。気をつけなさい?」
 くすくすと笑うヴィリス。
「ボクたちを倒してもケーキを手に入れるにはその後で他の皆も倒さなきゃいけないんでしょ?」
 にっこりと笑って、焔が言う。
「それなのに今こんなに全力で戦って、それでも他の皆を倒せる余力があるってことだもんね、流石鉄帝の人だね!」
 その言葉をきっかけに、広がり始める不信の芽。始まりは、些細な衝突だった。女子同士が、戦闘中に、不幸にも肩をぶつけてしまう。
「あ、ごめん」
 其れ迄であれば、些細な誤解だと気づいただろう。本来なれば、単なる偶然と片付いただろう。
 だが、今や不信の種は撒かれ、それは根付いた。そしてそれは確かに芽吹く。
「え? いや、今のわざとでしょ」
「違うって、なんでそんな因縁つけてくんの?」
「最後に総どり狙ってるんでしょ!」
「はぁ! そっちこそ今のうちにこっち潰そうって言うの!?」
 一度始まればキリはない。広がった不信は次々と伝播していく。もちろん、イレギュラーズ達の作戦あってのことだが、ふと気が付けば、先ほどまでとは違う形での乱闘が始まっていた。もはや敵も味方もない、ただひたすらに、目につく相手を攻撃し、ダウンさせる。まさに乱闘。ケーキ屋の前のメインストリートが、この時すさまじい殺伐とした光景を描いていた。
「……女子って怖いな……」
 それとも、これが甘いものの魔力だろうか。世界がぼんやりと告げるのへ、
「うーん、鉄帝だしね!」
 焔は全部鉄帝のせいだよって事にした。鉄帝女子達の攻撃はまさに無差別になっており、当然、流れ弾のような形でイレギュラーズ達へと迫る。現に、女子のはなった闘気の弾丸のが此方へと飛来するが、イグナートがその腕を払って弾き飛ばす。
「やれやれ、ラクにはなったけど気は抜けないよ」
「うーん、思った以上に凄い事になってるね!」
 おおむねこの地獄を作り出した、魔力根の金切り声の張本人であるクルルが、他人事のように言う。ケーキのためなら多少のあれやこれやは許されるのだ!
「ふふ、素敵な舞に魅了されてしまうのは仕方のない事よね? ああ、皆頑張ってほしいわ」
 張本人その2であるヴィリスも、くすくすと笑いながら告げる。
「ですが、このまま見ているわけにもいきません」
 マグタレーナが言いながら、お菓子のような疑似生命を生み出す。
「さぁ、お菓子までもう少し。皆さんも、頑張りましょうね?」
 マグダレーナが放った疑似生命が、乱闘中の鉄帝女子達の群れへと向かって走っていく。それを合図にしたように、イレギュラーズ達の総攻撃は開始された。
 一方、鉄帝女子がその数を減らしたことで、セララとハイデマリーは、アンネリーゼとの闘いをメインに移していた。
「セララ!」
 ハイデマリーが放つ銃弾が、アンネリーゼの手元を狙う。寸分たがわずハルバードを打ち据え、アンネリーゼはその体勢を崩した。
「おっけー、マリー!」
 間髪入れず、セララが跳躍。体勢を崩したアンネリーゼへと襲い来る。敵を十字に斬りさく聖剣の一撃。アンネリーゼは無理矢理に体をひねり、その斬撃を回避し――DOTERAの切れ端が宙を舞った!
「ああっ、私のDOTERAが!」
 悲鳴をあげるアンネリーゼを、
「というか! 外に出る時はしっかり正装をなさってください、姉様!」
 ハイデマリーがしかった。アンネリーゼは「えぇ……」と唸りつつ、
「でも、これ凄く着心地がいいんですよ! 最近まだまだ寒いですし。ホントはJA-JIも着てこようかと思ったのですけれど、流石にお付きのものに止められました!」
「ナイス我が家の付き人!」
 ハイデマリーの銃が射撃音を高らかに歌う。放たれた銃弾は、しかしアンネリーゼの振るうハルバードによって防がれ、届かない!
「むむ、さすがマリーのお姉さん! 一筋縄じゃ行かないね!」
「そうですよ! もっと褒めてください!」
 むふー、と得意げに鼻を鳴らすアンネリーゼ。とはいえ、アンネリーゼにも幸運の女神はなかなか微笑んではくれない様だ。アンネリーゼの振るうハルバードは、インパクトのたびに周辺の石畳を粉砕していた。していたが、中々セララとハイデマリーを捉えるには至らない。『肝心な時に『しか』役に立たない』と言われるジンクスが、ここでもいかんなく発揮されていた。
 とはいえ、この攻撃を避け続けるのも、イレギュラーズ達の心身共に疲労が蓄積する。早めに無力化するに限るのだ。
「セララ、姉様はやはり脅威です……此処は一気に決めるでありますよ」
「うん! いくよ、マリー! ギガセララ――」
 セララが駆ける。
「ゴルトレーヴェ!」
 同時に放たれる、ハイデマリーの金獅子の銃弾! 冷静に、冷徹に、放たれる銃弾が、アンネリーゼを狙う!
「ふふ、いくら合体技とは言え、そう簡単には……って、あれっ?」
 身を避けようとしたアンネリーゼが、その足を自身で破壊した石畳の破片に引っ掛けた! 致命的なまでの絶対失敗(ファンブル)! 放たれた模擬弾が、アンネリーゼの胸を叩く!
「んきゃっ!?」
 可愛らしい悲鳴を上げてのけぞったアンネリーゼ、その無防備な体に叩き込まれるのは、天雷を受けて輝くセララの聖剣! 叩き込まれたみねうちの斬撃が、アンネリーゼの身体を走る!
「う、うーん……」
 その瞳をくるくると回し、アンネリーゼがぶっ倒れた。それが、戦いの終わりの合図でもあった――。

「わぁ、これがシュネーレーゲン……綺麗なケーキだねぇ。透明な……氷みたいな……でも、クリームもふわふわで。食べてみたいなぁ……」
 目の前で作られていくシュネーレーゲンを見ながら、クルルは感嘆の声をあげていた。
 戦い終わった後の店内には、イレギュラーズ達と、アンネリーゼ。そしてたくさんの鉄帝女子達が、お菓子を楽しんでいる。
 提案したのは、イレギュラーズ達だ。どうせ費用で落ちる経費である。であれば、皆にお菓子を奢っても罰は当たるまい。たぶん。
「やはり、お菓子はみんなで食べてこそ……ではありませんか?」
 マグタレーナが言うのへ、鉄帝女子達が口々にお礼の言葉を述べる。
「ふふ、こういうのはやっぱり楽しいわ」
 紅茶とチーズケーキを堪能しながら、ダンス(たたかい)の疲労を癒すヴィリス。
「ねぇねぇ、よかったらみんなで分け合おうよ!」
 焔はと言えば、鉄帝女子達の間に混ざって、色々なお菓子をシェアし合っているらしい。何とも賑やかな事だ。
「オレは2ホールくらい食べられそうだよ! 随分と動き回ったからね!」
 言葉通りに、沢山のケーキやお菓子をテーブルの上に並べて手を合わせているのは、イグナートだ。
「うう、シュネーレーゲン、食べたかったです……」
 と、ぼやくアンネリーゼへ、
「もう、今日はスイーツバイキングという事で我慢なさってください、姉様」
「そうそう、全制覇目指そうよ!」
 ハイデマリーとセララが、笑ってそう言う。
 様々な声が上がる客席を眺めつつ、世界は目当てのケーキをお盆にのせてもらいながら、苦笑した。
「ああ、俺のは皆とは別会計にしてやってくれ。費用で落ちるとはいえ、これじゃあ……」
 ケーキ屋のレジ打ちは、笑って頷いた。
 とはいえ。これじゃあ焼け石に水かもなぁ。
 世界はそんな事を思いつつ、目の前のケーキに集中することにした。シンプルな、イチゴのショートケーキ。それを口に含んでみれば、世界の今日の疲れなど、すべて吹っ飛ぶような思いがしたのだった。

成否

成功

MVP

クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、お父さんは娘と無事仲直りできたそうです。
 ……すこし、いや、かなり懐が軽くなったそうですが。これも、必要経費の内ですよね?

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