シナリオ詳細
【コレクトル】香毒蒐集館
完了
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オープニング
●Poison Perfumer
気がつけば眠っていた。
見覚えのない屋敷だ。おまけに酷く古い。
窓は重いカーテンによって閉じられ、今が昼か夜かも分からない。
光源は蝋燭だけ。壁際に並んだ鍵付棚の中には、大小様々な小瓶が納められていた。
「あら、起きたのね」
軋んだ音をたて部屋に入ってきたのは黒い夜会用のドレスを着た女だった。身体つきや仕草から察するに老婦人のようだ。
「アナタは迷い子かしら。それとも自分から危険に飛びこんできたの? どちらにせよ命があって良かったわ」
ようやく、自分が応接セットのソファの上に寝かされていたのだと気がついた。
「水よりもお茶の方が良かった? 誰かをもてなすなんて久しぶりで、やり方を忘れてしまったわ」
老婦人の顔があるべき場所には何もない。
詰襟から覗く首の断面はレースのチョーカーで隠されていた。
「ようこそ、誰かさん。ワタシの蒐集品の中にいないと言うことは、きっとアナタ、外の世界から来たのね」
ここからが本題だけど、と首の無い老婦人は困ったように身体を傾げた。
「すぐに元の世界に帰してあげたいけれど、この屋敷はワタシの蒐集箱。一度入ったら代価を払うまでは出られないのよ。アナタ、毒はお持ちかしら?」
●Lost Words
「タイトルが消えてしまった本があるんです」
困った様子で境界案内人は言った。
「ほとんどのページが開かなくて、何が起こっているかも分かりません。あの、危険を承知でお願いします。この世界に何があったのか、調べてはくれませんか?」
本の題名は『コレクトル』。
大多数がそう呼んでいるだけで、正式な名では無い。
この世界では執着こそが正しさであり、力であるそうだ。
中でも突出して力が強い者は『コレクター』と呼ばれ、自分の蒐集箱の中に閉じこもっている。
彼らの蒐集箱から出る方法はただ一つ。
求める物を与えれば良い。
「唯一開いたのは毒で香水を作るコレクターのページでした。行けば、恐らく対価に毒を求められるでしょう。植物の毒、生き物の毒、加工した毒。心の毒。言葉の毒。怠慢、傲慢、色欲の毒。毒と付くものなら何でも構わないようです。どうか気をつけて行ってきてくださいね」
- 【コレクトル】香毒蒐集館完了
- NM名駒米
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年03月12日 19時30分
- 章数1章
- 総採用数8人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
【ラベル】イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
・Recipe“Pledge yarn”
甘く優しい生贄林檎
夜霧の夢毒
子羊を誘う幽世
「毒は……あの、貴女のお眼鏡に適うものって、ありますか?」
イーハトーヴは問いかけた。
「どうせなら、貴女に喜んでもらえるものを渡して帰りたいなって……何で怒ってるの、オフィーリア?」
老婦人が危険な空気を纏っても、だってテックも困ってたじゃない、と弱々しく続ける琥珀糖の瞳は警戒を知らぬまま。
なので、膝の上に抱えたうさぎのぬいぐるみが青年の分まで無言の威嚇を続けている。
そんなやり取りなど露知らず。
「そうだ、貴女のこと、なんてお呼びしたらいいですか?」
困惑顔が謝罪を告げれば、遂に笑い声が落とされた。
「どうぞ、レディ・ネヴァンと。脅してごめんなさいね、ウサギさん。彼ったらあまりにも無防備で心配になってしまったものだから」
テーブル上には林檎色で満たされた兎の小瓶が置かれている。
「アナタにはとても魅力的な毒がありますよ。薄めたら薬になりそうな、そんな毒がね。でも少し貰いすぎてしまったかしら」
瞼を這う眠気の中でイーハトーヴは言葉を紡ぐ。
「物知りな貴女に、教えてもらいたいことがあって。この世界に、俺達の存在以外に何か異変って起こっていないかな?」
「そうね、可笑しな事と言えば」
老婦人は夢見るように口を開いた。
「首が無くなってしまったわ」
成否
成功
第1章 第2節
【ラベル】秋宮・史之(p3p002233)
・Recipe“Deep obsession”
海水晶の愛檻
蜃気楼の哀毒
冬色の逢戀をひと匙
「はじめましてだね御婦人。気に入ってもらえるかはわからないけれど身の上話を一つしようか」
そう言って微笑む青年にはどこか陰があった。
結論から言えば老婦人は青年の話に満足した。
その証拠に、机には白地に緋色を挿した香水瓶が置かれている。
薄く笑う。幸せな虚ろと海色の憧憬からは、色欲の入り混じった爽やかな香りがしていた。
「一種のマリッジブルーかしら」
爪の先で突いた瓶の蓋は美しい人魚の形をしていた。
「俺は混沌へ呼ばれ、海洋の女王陛下へ恋をした。でも今になって思えばそれは憧れが姿を変えたものに過ぎなかったのかもしれない」
未来の花婿は幸せだと告解した。
「俺はその方を追いかけて、追いかけて、命をかける覚悟だったけれど、結局こうして無為に生き延びている。いまでも女王陛下へは忠節を誓い敬っているとも」
けれども、結婚を約束した。
相手は初恋の人。
ああ、なんて幸せなんだろう。
でも。
「女王への想いは消せなかった?」
「女々しい? そうかもね。でもこれが本音なんだ」
幸せだ。
幸せだけど。
一目惚れだった。
「どうしようもできないんだ」
大切なあの方への思いは、今もここに。
「自分でもどうしていいかわからないよ」
子供のように泣く代わり、壊れたように史之は笑った。
成否
成功
第1章 第3節
【ラベル】ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
・Recipe “la fée de la forêt ”
灰色の無垢
空飛ぶ妖精の金砂
混沌世界の白鹿角
「毒から香水をお作りになるって、テックから聞いたわ」
「ええ、そうよ。アナタは何を払ってくれるのかしら」
コレクターは値踏みをするような、じっとりとした見えない視線をポシェティケトに向けた。
かつて狩人たちから受けた物と同じ視線に、礼儀正しくソファに座っていた鹿は白い枝角にそっと指を当てる。
「たとえばこの、ツノはどう? もうすぐ生え変わりそうでぐらぐらなの。それから砂妖精クララの、よぶんな砂」
「良いお話」
瓶の中で楽しげに渦を巻く金砂を前に、老婦人は嬉しそうに指を組んだ。
「アナタたちは身軽に、ワタシには二つの毒が。少し貰いすぎてしまうわね。何かお望みはあるかしら、お嬢さん」
「なら、あなたのお話を聞かせてくださいな。あなたの作られるもの、大好きなもののお話、聞きたいわ」
「ええ喜んで」
朝靄のように漂う森の香り。彼女たちの中心にいるのは、森で採れる美しい毒の実や危険で清楚な花の話だ。
「アナタ、別のコレクターについて知りたがっていたわね。遊びに行くなら標本か稀覯本の蒐集箱になさい。剥製にだけは近づかないで」
すっかり打ち解けた様子で老婦人は続けた。
「アナタがあの女の家に飾られるだなんて、考えただけで寒気がしますからね」
成否
成功
第1章 第4節
【デザイナー】ルブラット・メルクライン(p3p009557)
・Secret Recipe“ konas+α”
「おや、貴方も毒を愛好しているのかね? せっかく出会えた同好の士だ。お近づきの印にこれを受け取ってくれ」
顔の無い黒と白が対峙する。
二人を挟む机をチェス盤に見立てるなら、亡霊のような指が運ぶ薬瓶は、さながらチェックメイトを狙う駒だろうか。
「カインの刻印ね。面白い調合だわ」
主人は貢物を手に取った。
自己紹介代わりの遊戯は見事、ルブラットに軍配が上がったようだ。
「コニウムの他には毒草を少々。私の故郷のものだ。おそらく唯一無二の品だろう」
「この透明度。アナタ、良い処刑人になれるわ」
答える代わりにルブラットは肩をすくめた。
「私からすれば、形を持たぬものから毒を作り出せることの方が驚きだ。いやはや、素晴らしい技術だ。称賛に値するとも。このまま毒談義と洒落こみたい所だが、残念ながら今回の歓談は時間制限付きでね。
毒も香水も、性質上、他者が関与してこそより魅力を発揮するものだと、少なくとも私はそう認識している。どうだね、他のコレクター達と会ったことはあるのか?」
ルブラットの言葉は真摯だが、毒と他者を交差させる小さな黒さを持っていた。
「最近なら犯罪蒐集家と絵画蒐集家に。コレクターなのに外界と関わりたがる変わり者だからアナタも歓迎されますよ」
そう言った主人は楽しげに笑った。
成否
成功
第1章 第5節
【ラベル】ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
・Recipe “Himself”
「老人の昔話を聞きたいだなんて変わった人ね」
最初に変人扱いされた意趣返しか。そう前置きをしてから主人は語りはじめた。
ジョシュアは『毒の要素を持つ精霊』である。
それを聞いた主人は、喜びを隠しきれずに声をあげた。表面上の冷静さは保ったままだが、弾んだ声は明らかに饒舌だ。
生まれた時から常に毒に魅了されていた事。
成長してから調香を学び、常に毒を纏いたいと願った事。
「随分と長い年月、毒に恋をしているわ。だからアナタはワタシにとっての理想。コレクションになってくれるなら大切にしますよ?」
ちょこんとソファに座り、老人の話に耳を傾けていたジョシュアの姿は、小柄な体躯と相まってまるで美しい人形のようだ。
あどけない顔が苦笑する。蒐集箱の中身として勧誘されるのはこれで何度目だろうか。
避けられる事には慣れているが、自分を厭わない相手には慣れていない。ぎこちなく首を横に振る。
「あなたの求める物はお渡しできるかと。ただ、僕自身という訳にはいかないので……髪の毛か血液辺りでもよろしいでしょうか?」
「失恋の想い出にはそのくらいが丁度良いでしょう」
黒いドレスが、芝居がかった様子で扇を拡げる。
「生きるのに飽きたらワタシの所にいらっしゃい。大切にしてあげますから」
冗談か本気か分からない温度で主人は笑った。
成否
成功
第1章 第6節
・きときとの一葉詩
「鹿のお嬢さん。残念だけど、アナタはまだ稀覯本の蒐集箱には入れないわ。でも」
老婦人の言葉を、黒いベル・フラワーがジリリとけたたましく遮った。
『ネヴァーンッ、この精霊たちは君の友人? 小生の本を勝手に動かすなと伝えてよう!!』
鈴花から女性の声が飛び出した。
差し出された黒い夕顔の花弁と蔓を受け取り、ポシェティケトはもしもしと小さく唇を動かす。
「こんにちは。アナタが稀覯本のコレクター?」
『そうだよ、鈴の声を持つ人。この精霊は君の差し金だったり……する?』
「お邪魔をしてしまったならごめんなさい。みなさんと調べ物をしていたの。この世界の執着のこと。アナタのこと。それから剥製の蒐集箱のこと」
『勉強熱心だねー。いいよ、いいよ。最近の剥製には小生も困っていたからね。君の声から採った詩を対価に教えちゃう! ねえ、名前は?』
ポシェティケトの名を聞いた時、稀覯本のコレクターは明らかに驚いた様子であった。
『毒香水のお婆ちゃん、そういえば新聞読まないヒトだったね……。ポポちゃん、コレクターの力の強さは蒐集品の数や珍しさに直結してるっていうのは聞いた?』
花びらを落とすように首をふる。
『小生たちは世界の均衡を保ちながら蒐集を続けるんだけど、剥製は違うの。傲慢で貪欲。社交性も罪悪感も欠如した、最強最悪のストーカー。もし本当に世界が変になってるとしたら、あの女の仕業だよ。きっと』
成否
成功
第1章 第7節
・迷夢の毒香
目覚めは泡がはじけるように訪れた。
「ご、ごめんなさい! 俺、寝ちゃってたかな……?」
編み棒を動かしながら老婦人は肩をすくめた。
見覚えのないパッチワークキルトが膝にかけられている。恐らくそれが答えなのだろうと察したイーハトーヴは頬を染め、卓上に置かれた林檎色に気がついた。
「俺の毒、もしかしてこの小瓶の中ですか?」
「そうよ。迂闊に触ると現実に戻れなくなります」
イーハトーヴは伸ばしかけていた指をピャッと引っ込めた。
ネヴァンは編み目を数えようと首元から老眼鏡を取り出し、頭が無かったと元の位置に戻した。
「もしかして貴女の首も蒐集されてしまったとか、そういうことって、あり得るのかな?」
「ええ、コレクター蒐集家だなんて最悪の響きですけれどね。ワタシの首を欲しがる剥、蒐集家にも心当たりがあるわ」
「だったら見つけなきゃ!」
「……アナタ、他人のために危険に飛び込むの?」
呆れたように、そしてどこか同情的にネヴァンは言った。
「だって首が無いと困るでしょう。すぐにでも探しに行きたいけど、この蒐集箱の外に出るのって難しいのかな?」
「コレクターの住む蒐集箱は人間界の裏に、実在しないシャボン玉の如く存在するモノ。だから外に出る事も、招かれない限り入る事も難しい。けれど」
けれど。
その言葉の先に潜む光の道を、橙の瞳がじっと見つめる。
「人間界と自分の蒐集箱を繋げている間だけ門ができるわ」
成否
成功
第1章 第8節
「稀覯本のお姉さま、ワタシのことをご存知なの?」
『小生は図録も蒐集するからね。こんど海の底に遊びにきてよ!』
あらまあとポシェティケトは目をぱちくりさせた。愛らしい驚きの声は世界の狭さに対するもので、同時にこの偶然を歓迎するようでもあった。
絆の糸は縁を織り為し、ささやかに結びつき、次の出会いを生み出していく。
「色々と教えてくださってありがとうございます。お姉さまのお名前も、伺って良いかしら」
『これは失礼。小生はローバー・メール・ロワ。しがない童話作家であり偉大なる稀覯本蒐集家さ』
「それから毒香水のネヴァーンお姉さま」
座りなおした白銀の鹿は背筋をのばす。
「ご挨拶をしてなくて、ごめんなさい。ワタシは鹿のポシェティケト。こちらは砂妖精のクララシュシュルカ」
ぺこりと頭を下げた優しい二人のつむじに主人は笑う。
「ワタシのことはレディ・ネヴァンと。稀覯本の呼び方は忘れて」
「あの」
ポシェティケトは小さく声をあげ、しょんぼりとした眉と一緒にこてんと首を傾げた。
「お姉さまが頭をお持ちでないのは世界が変になったせいなのかしら。鹿とクララが力を合わせてどうにか力になれたら良いのだけれど」
「アナタが気にする事ではありません。既に角を貰いました。それで充分です」
『ネヴァンたら照れてるー。でも危ない奴にポポちゃんを近づけたくないって気持ちは分かるよ。剥製って気づかない内に首を獲っていっちゃうんだもん』
成否
成功
第1章 第9節
【調査報告】
イレギュラーズによる境界世界『コレクトル(仮称)』調査の結果、以下の項目が開放されました。
異常原因に【剥製蒐集家】が追加されました。
該当世界における【不殺】効果の消滅を確認しました。
状態異常【首無し】が確認されました。
状態異常【名無し】が確認されました。
渡航可能エリアが解放されます。
『海』『孤島』『???』『???』
イレギュラーズへの友好度が規定値を越えた為、コレクトル異変調査に協力者が追加されました。
今後、以下の『蒐集箱』へは自由渡航が可能となります。
【毒香蒐集家】レディ・ネヴァン
【稀覯本蒐集家】ラ・メール・ロワ
累積戦功点より蒐集家が追加されます。
【絵画蒐集家】パルナスム博士
累積友好度より蒐集家が追加されます。
【犯罪蒐集家】レイディアンステンパーテッドハイモデルフラバーマーチングバンド家
渡航可能エリアに『人間界』が追加解放されました。
以上で第一次報告を終了します。
お疲れ様でした。
NMコメント
こんにちは、駒米と申します。
時々、香水瓶だけ欲しくなります。
このライブノベル(ラリー)は一章完結予定です。
● 仮称世界『コレクトル』
・コレクターと呼ばれる者たちが存在している世界。
・蒐集箱と呼ばれる閉鎖エリアに一度入ると主人が求めた物を渡すまで出られない。
・???
●目標
1.仮称世界『コレクトル』についての情報を集める。
2.『老婦人の蒐集箱』からの脱出。
【A】自分から毒を差し出す。
【B】老婦人に任せる(アドリブ多め)
●プレイング例
【A】
自分の世界がおかしいというのに呑気なものだ。危機感は頭と一緒にどこかにやってしまったんですか。……毒舌ってこんなかんじ?
【B】
いきなり毒って言われても分からないし、好きに持ってって良いよー!
あっ、お茶を淹れるの得意だから後で淹れてあげるね!
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