PandoraPartyProject

シナリオ詳細

天火の落ちた森。或いは、波及する火災…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●轟々たる火炎
 豊穣にある森林に、ある日1つの炎が落ちた。
 夜の闇に轟音を響かせ、赤の軌跡を牽くその様を見た人々は「星が天から落ちてきた」と口々に騒ぎ立てたという。

 降った炎の正体は、遠い地で生まれた1体の妖であった。
 名を天火というその妖は自我にさえ目覚めきってはいない、不安定な存在だ。
 けれど、自我は希薄であろうとその本質は“火妖”に違いない。
 轟々とうるさい音を鳴らしながら、森林を転がっているうちにすっかりと森は火炎に飲まれることになる。
 濛々たる黒煙。
 地を這い、天に吹き上がる業火。
 森の鳥はいずこかへ飛び立ち、獣たちも一目散に逃げ出した。
 さらに運の悪いことに、森の下方には大きな川と段々畑、そして人口300名ほどの集落がある。
 赤く染まる空を見上げ、村人たちは途方に暮れた。
 集落を捨て逃げ出せば、命だけは助かるだろう。
 けれど、家も畑も失えば、そう遠くないうちに餓えて死ぬことになるだろう。
 かといって、自分たちの力だけでは森の火災を鎮めることは叶わない。
 行くも地獄、退くも地獄、留まるも地獄。
 意気消沈する村人たちには、ただ山へ向け祈りを捧げるほかに道はなかった。

●濛々たる黒煙
「さて、仕事の時間だ。火炎の中へ駆け込む覚悟は出来ているか?」
 そう告げて『黒猫の』ショウ(p3n000005)は古びた地図を取り出した。
 地図に描かれているのは、火災が起きた森林とその周辺の地形だろうか。
 燃えている森林。
 その南方には段々畑。
 畑の下には集落があり、さらに集落のすぐ側を大きな河川が流れている。
 森林の規模は大きいが、幸いなことに既にそのほとんどが燃え尽きて鎮火しているらしい。
 問題となるのは、集落の住人をどうするか、そして森林の中にいるであろう“天火”をいかにするか、の2点であろう。
「森の中へ立ち入れば火炎による【業炎】や、黒煙による【窒息】の影響を受けることになる。また、天火との戦闘になれば【炎獄】や【業炎】【ショック】にも注意が必要だろうな」
 さて、とここでショウは天火についての説明をはじめた。
 天火自身が火種であるため、その周辺30~50メートルはどうやっても火が消えない。
 火が消えるとしたら、天火が自分の意思で火力を下げた時か、天火が命を失った時だけだ。
「生まれて間もない妖だからか、現在は本能の赴くまま悪意なく火炎をまき散らしている状態だ。逆に言えば、悪意を持って火炎を操れば森林1つの焼失では済まない可能性もある」
 どうにかして天火に声を届けることができるのなら、命まで奪わずに事は片付くかもしれない。
 もしも、機嫌を損ねでもすれば、その業火に焼かれることになるだろうが。
「少なくとも、放置というわけにはいかないだろうが……まぁ、任務の内容は鎮火と村人たちの安全確保だ。天火の処遇に関しては、そちらで話し合ってくれ」
 と、そう言って。
 ショウは一行を送り出す。

GMコメント

●ミッション
火災の鎮火、および住人たちの安全確保

●ターゲット
・天火(妖)×1
生まれたばかりの火の妖。
自我が希薄であり、本能の赴くままに火炎を振りまいている。
自身の周囲、半径30~50メートルほどに火炎をまき散らす性質を持つ。
火炎は天火自身の意思で収めることが可能。
移動の際、轟音を発するほか、飛行能力を備えている。

降る星:神遠範に中ダメージ、業炎、炎獄、ショック
 天火より放たれる火炎。

・集落の住人達×300名ほど
森林南部にある集落の住人たち。
現在、途方に暮れている。

●フィールド
炎に飲まれた森林。
及び、森林南部の集落。
位置関係としては下記のようになっている。

森林    河川
段々畑 河川
集落 河川
河川

※森林内では火災による【窒息】や、黒煙による【業炎】の状態異常に侵される場合があります。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 天火の落ちた森。或いは、波及する火災…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月13日 22時03分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
陰陽 秘巫(p3p008761)
神使
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華

リプレイ

●業火鎮圧イレギュラーズ
 炎が空を染め上げる。
 まるで太陽が落ちて来たかと錯覚するほどの赤。
 迫る炎を茫然と眺める村人たちの瞳には、深い絶望と諦めの色が浮かんでいる。
 村を捨てれば、命は助かる。
 それは間違いない。
 しかし、その後は?
 逃げた先で、金も物資も住む家もないままどうやって暮らせば良いというのだ。
 飢えて、苦しみ抜いて死ぬぐらいならこの場で村と運命を共にするのが良いのではないか。そんな想いを抱かずにはいられない。
 空を朱に染めるほどの山火事を、消火する術など彼らには無いのだから。
「……もう、駄目かも分らんなぁ」
 1人。
 老いた男はそう呟いて、ふらりと前へ歩み出た。
 自慢の畑が燃える様を、その目で見たくはないのだ。
 だから彼は、自分から炎の中に身を投じ、村に先んじて命を捨てるつもりでいるのだ。
 けれど、しかし……。
「おい! 何しようってんだ爺さん!」
そんな彼の前に巨躯の鬼種『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)が立ちはだかった。
「誰だ、あんた……村の者じゃないようだが。放っておいてくれないか? 儂は嫌なんじゃ。畑や村が燃える様なんて、見たくない」
 掠れた声で老爺は告げる。
 そんな彼の肩を掴み、命は叫んだ。【スピーカーボム】で強化されたその声は、村全体に響き渡ったことだろう。
「諦めんな! 今、己れの仲間の神使たちが消火に当たってる。村は焼かせねぇから、今は逃げてくれ!」
 必死に避難を告げる命の言葉だが、諦めの境地にある村人たちの心を動かすにはまだ足りない。

 命の叫びは、村全体に響き渡った。
 段々畑の隅に立つ『背負い歩む者』金枝 繁茂(p3p008917)の耳にも当然、その声はしかと届いている。
「たった1人に重大な役目を背負わせて心苦しいが」
 あいつも豊穣の鬼っ子だ、必ず守り導くだろう。
 そう思えばこそ、繁茂は己の役目に集中できるのだ。
 褐色の肌には熱波のせいか、びっしりと汗が浮いている。その金の髪を紅蓮の炎に躍らせながら、繁茂は腰を低く落とす。
 巨腕が隆起し、その身に膨大な魔力が滾った。
 迫る火炎を消火するべく、繁茂は魔力を練り上げる。

 一方、そのころ森の中。
 残る6名は火炎の中をひた進む。
「……うわ、これはひどい。森がほぼ全焼じゃないか」
 額に浮いた汗を拭って『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)はそう呟いた。【火炎無効】を有しているとはいったものの、熱いものは熱いのだ。
「ですが、この火事に、悪気がないと言うのなら……穏便に終わらせたいですよ、ね」
 煙を吸い込まないよう口元を手で押さえながら『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)は言った。海種である彼女には、この熱気は些かきついか。
 ふぅ、と吐いた呼気は熱い。
「だな、妖だからといって、何でもかんでも殺しゃいいってわけじゃねえ。俺達なら住民だけじゃなく天火も救えるさ」
「とはいえ、長居したい環境じゃないし……早く、大人しくしてくれると良いんだけどね」『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)と『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)もフェリシアと思いを同じくする者だ。
 無益な殺生を行うことなく、ことが片付くのならそれが一番に決まっている。
 ましてや、火災の元凶となった天火という妖は、つい最近この世に生まれたばかりという。善も悪もなく、ただ炎の妖だから火炎を撒き散らしているだけ。
 ならば、誰が天火に善や悪を教えるのか。
「コャー。まあ、炎系の業界の中では、よくある話と言えばそれまでなのだけれども」
それは、天火と同じく炎を操る存在である『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が最適だろう。
「ちなみに、深緑で同じことするとまず生きては帰れないと噂されておりますのよ」
 何て、嘘か真か。
 少なくとも、深緑の地で
 一行の接近に気が付いたのか。
 焼け焦げた森の奥、炎がごうと勢いを増した。
 紅蓮の中に見える人影。それがきっと天火だろう。
「黒煙も業火も、傷も痛みも、妾(わたし)の敵やあらへんの。やから、ほぅら、妾(わたし)達と遊びまひょ?」
 地を這うように迫る火炎の前に身を晒し『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)はそう告げた。

●災害怒涛エマージェンシー
 段々畑の片隅。
 流れる河川の縁に立ち、繁茂は腕を天へと掲げる。
「炎の勢いが増したな。天火と遭遇したか……いや、俺が気にすることではないな。俺は、俺の成すべき事を為す」
 繁茂の頭上に形成される水流は、彼の魔力で召喚したものだ。
 それは河川の水を吸い上げながら、次第にその規模を増していく。
「ふっ!」
 畑へ迫る火の手へ向けて、繁茂は水流を解き放つ。
 地面を削り、森へと迫る大津波が火炎を掻き消し白い蒸気を噴き上げた。

 一方、そのころ集落の中央。
 1人の老人を伴って、命が村人たちの前に立つ。
「あんたが村長か。なんつーか、今回の件はたまたま運の悪いことが重なっちまっただけなんだよ。だから、己れたちが出張ったわけなんだが……せっかく鎮火しても村人に犠牲が出ちゃ意味がねぇだろ? 頼むから、アンタからも言ってくれよ。今は逃げる時なんだってよ」
 村の中央で言葉を交わす命と村長。
 そんな2人のやり取りを、村人たちは不安げな瞳で遠目に見ていた。
「しかしな……あの規模の火事を鎮火できるとは思えん。村から逃げたところで、ほかに行くあてもないのだ」
「だからって、死ぬよりはマシだろうが!」
「……ここで死んだ方が、楽ではないか?」
 そう言って村長は、集まった村人たちへ視線を巡らす。
 恐れ、怯え、困惑、絶望と様々な感情が浮いている。
 命の見立てでは、村長の言う通り村と命運を共にしようと思っている者と、そうでない者とが半々といったところだろうか。
 命の言葉を受け、希望を取り戻しかけている者も確かにいる。
 けれど、後一手。
 後一手だけ、何かが足りない。

 天火の前にニアが迫った。
 地面が振るえるほどの轟音。顔を顰めたニアは、身体の前に立てを翳す。
 吹き荒れた業火。そして、衝撃がニアの腕を痺れさせた。
 僅かに盾を斜めに傾け、業火を背後へと受け流す。それと同時に右腕に持った短刀を鋭く突きだせば、天火は僅かに怯んだのが分かった。
「手応えあり……ほら、こっちよ!」
 天火へ【怒り】を付与したニアは、転がるようにその場を退避。寸前まで彼女の居た位置を、業火の奔流が通り過ぎた。
 後退していくニアを追って、天火がそちらへ視線を向けた。
「ニアはんだけじゃなく、妾(わたし)の方も見てぇな」
 直後、業火の中を突っ切って秘巫が天火の背後へ迫る。
 ゆっくりと伸ばされたその手を、天火は振り返り様に殴打。打ち払いをかけるが、それでも秘巫は笑っていた。
 秘巫には【火炎】系統の状態異常は効かない。
 生半可な攻撃で、秘巫が倒れることもない。
 だからこその盾役。
 だからこその余裕。
「前にも後ろにも行かせへんよ?  森にいる内はええけんど畑に飛び火でもしたら大変やもの」
 にぃ、と口角を吊り上げて。
 秘巫は蠱惑的な笑みを浮かべた。

 ニアと秘巫が天火を抑えている隙に、残る4人は天火を囲むよう布陣を完成させた。
「さて……少々、暴走気味のようだし、手荒なやり方で悪いが、天火には少し落ち着いてもらおう」
 真っ先に攻撃に移ったのはイズマである。
 アサルトブーケを振りかざし真横から天火へ肉薄。魔力を纏った武器を一閃させ、天火の纏う炎を掻き消す。
「っ⁉」
 ごう、と。
 カウンター気味に吹き荒れた火炎が、イズマの顔面を焼く。
 顔を抑えたイズマは後退。煙を吸い込まないよう口に巻いていた布が、その一瞬で消し炭と化した。
 イズマの頬を汗が伝う。
 熱気によるものか。それとも、それは冷や汗だっただろうか。
 後方へ倒れ込みながら、イズマは武器を頭上へ向けて振り上げた。火炎が掻き消えると、そこには1発の弾丸があった。
 火炎に紛れるように放たれた弾丸は、ジェイクの放ったものである。
 まっすぐに疾るそれを回避しようにも、ニアと秘巫に挟まれた天火にそれは不可能だ。
 ならば、と。
 天火は空気を震わせ、上空へと跳んだ。
 吹き荒れる業火に煽られたニア、秘巫が姿勢を崩す。
 けれど、しかし……。
「暴れる子どもを、まず大人しくさせないと説得も難しそうかしらね」
 なんて、囁くような声。
 胡桃の喚んだ稲妻が、飛んだ天火の身を貫いた。
 感電し、撃ち落とされた天火の胸部をジェイクの弾丸が貫通。
「火を収めて俺達の話を聞け!」
 地面に倒れる天火へ向けて、ジェイクはそう言葉を投げた。

 天火が起き上がるまでの僅かな間に、フェリシアは静かに歌を紡いだ。
 その声が響き渡ると同時、魔力の燐光が降り注ぐ。
 それは、傷を癒す癒しの歌。
「あなたとお話がしたいから、わたし達はここに来ています。叩いたり、怒ったりしたいのではなくて……怖い思いをさせて、ごめんなさい」
 敵意も顕わな天火へ向けて、フェリシアは謝罪の言葉を口にした。
 果たして、生まれたばかりの天火へ彼女の声は届いただろうか。
 否。
 きっと、今の天火にはフェリシアの声など聞こえていない。
 その証拠に、天火は拳を頭上に振り上げ、力任せにそれを地面に叩きつけた。

 火山の噴火とも見間違うほどの大爆発。
 熱風と火炎が吹き荒れる中、天火へ向けて秘巫は腕を伸ばす。
 それ以上、天火が暴れないよう肌が焼けるのも構わずに天火の腕を掴んだのだ。焼けた鉄を握ったかのような熱と傷み。
 冷や汗を流し、頬を引き攣らせながら秘巫は笑う。
「他に目移りせんといてぇな。妾(わたし)が相手、したるさかいな」
 天火の身体を自身の傍へと引き寄せながら、そんなことを囁いた。

 天火の起こした大爆発が、木っ端や倒木を吹き飛ばす。
 爆炎によって加速のついたそれを、ニアは盾で受け止める。
「お、重っ⁉」
 ドガン、と。
 衝撃がニアの身体を貫いた。
 小柄な彼女はそれだけで地面に押し倒される。全身を痣だらけにしながら、燃える木や岩と共にニアは地面を転がった。
「これは、話をするなら一度落ち着かせてから、だね。」
 飛び起きた彼女は、盾を構えてただまっすぐに天火へ向かって駆けていく。

 大爆発により弾き飛ばされた木や岩が、段々畑へと迫る。
「ぬ……森林や段々畑を保護していきたいが」
 と、そう呟いて繁茂は迫る木や岩を見た。
 炎に包まれ、勢いのついた木や岩をこのまま放置してしまえば、やがて畑を焼くだろう。
「消火を考えるとAPは温存しておきたいな」
 【ダイダルウェイブ】を使えば、岩や木を止めることはできる。
 しかし、その後はどうだ?
 迫る火炎を消さない限り、結局畑は燃え尽きる。【保護結界】を行使しているとはいえ、その半径は50メートル。畑全体をカバーするには狭すぎる。
「いや、やるべきことは1つか」
 村や畑の被害を抑える。
 そのために繁茂はここに来たのだ。
 ならばこそ、ここで体を張ることに何のためらいがあるだろう。
 地面に足を突き立てた繁茂は、その太い腕を大きく広げた。彼はその身を盾として、巨岩や燃え木を食い止めるつもりなのだ。
「ぬ、ぉぉお‼!」
 肌が焼けることも構わず、繁茂はその巨体を使って燃える岩を受け止めた。
「ぐ、しまった」
 けれど、1人でカバーできる範囲には限界があった。
 燃える木を畑から逸らすことには成功したが、それはまっすぐ村へ向かって転がっていった。

 空気を震わす大爆音。
 諦めたように頭を振って、村長は「無理じゃ」と、そう呟いた。
「無理じゃねぇよ。無闇に物を燃やしちゃいけねぇってわかりゃ大人しくなるし、逆に丁重に接すれば村の守り神みたいにもなってくれると思うぜ」
「守り神だと? 山火事を起こすような妖をか?」
「豊かな生活に、火は欠かせねぇだろ? それに、どうしても手に負えなくなったらまた己れたちに連絡してくれりゃいいから、あの妖に機会をやっちゃくれねぇか?」
「しかし、な……お前らは所詮余所者だ。余所者を信じて、これ以上村人たちに苦しめなどとは……」
「言えねぇか。だったら……」
 これ以上、言葉で伝えられることはない。
 ならば、行動で示すしかない。
「まぁ、見てろ。上っ面だけでものを言ってるわけじゃねぇってところを見せてやるよ」
 なんて、言って。
 命は村人たちに背を向け歩き始めた。
 どこへ行くのか?
 決まっている。
 村を守りに行くのだ。村人たちを護るのだ。
 ゴロゴロと音を立てて転がって来る燃える木を受け止めるべく、命はその身を盾とする。

 鋼の脚が天火の脛を蹴り飛ばす。
 義足より伝わる熱がイズマの体力をじりじりと奪うが、それでも彼は動きを止めない。
 これ以上、炎が燃え広がることがないように。
 天火が火炎を発する度に、彼はそれを搔き消した。
「抑えるんだ。ここで……天火を抑えて、村人と天火が共生できる道を探すために」
 熱に浮かされ意識は朦朧としている。
 けれど、問題ない。
 心に決めた目的さえ見失わなければ、まだ戦い続けられる。

『ごぁっ!!』
 空気が震えるほどの大音。
 それは天火の怒号であった。
「コヤン!」
 吹き荒れた業火が、胡桃の上半身を飲み込んだ。炎に包まれ、胡桃の身体は地面を転がる。
 【火炎無効】こそもつものの、ダメージまでは無効にできない。
「す、すぐに治療しますから」
 と、口元を押さえたフェリシアが胡桃へ駆け寄る。
 彼女を中心に吹き荒れた燐光が、胡桃の身体に降り注ぐ。治療を行うフェリシアを護るべく、ジェイクが彼女の前に立った。
「ジェイクさんにもソリッド・シナジーをお渡ししますね」
「おう、助かるぜ」
 付与を受けたジェイクは、構えた銃口を天火の眉間へと向ける。
「そろそろだ。準備しとけよ」
 と、そんな言葉を胡桃に投げた。
 立ち上がり、姿勢を低くする胡桃。
 疾走の準備が整ったのを確認し、ジェイクはトリガーを引き絞る。
 乾いた銃声。
 放たれた弾丸は、火炎の隙間を縫うようにして天火へ迫る。
 咄嗟に回避に移る天火だが、前方をニアに、後方を秘巫に塞がれていてはそれも叶わない。
 飛行しようにも、腕を秘巫に掴まれている状態ではそれも叶わない。
 ジェイクの放った弾丸は、吸い込まれるように天火の額へ命中。
 さらに、よろけた天火の眼前には、疾駆していた胡桃の姿。
 吐き出される火炎をものともせずに伸ばされた胡桃の腕が、天火の肩をがっしと掴んだ。
 体ごとぶつかるようにして、胡桃は天火を押し倒す。
 もがく天火の喉に手を振れ、胡桃は告げた。
「そなたが生きたいと願うのなら、燃やす以外のことを学ぶ必要があるの」
 淡々と。
 囁くように彼女は告げる。

●天火の選択
「ひとの営みを知り、寄り添い、愛すること。それはそなたにとって、世界を知ること、喜ばしいことになるとわたしは思うの」
「あぁ、一節では火が人間に文明をもたらしたって話だ。村人にはお前を大事にしてもらえるようする」
 約束だ。
 そう告げてジェイクは銃をしまった。
 見れば、他の者たちも既に武器を下ろしている。
 戦意を無くしたイレギュラーズたちを一瞥し、天火もまた火炎の勢いを僅かに弱める。
 その様子を見て、フェリシアはほっと吐息を一つ。
「よかった。怖い思いをさせて、ごめんなさい。わたし達は、炎の中だと満足にお話しもできません、から」
 フェリシアが腕を掲げると、淡い燐光が飛び散った。
 暖かな光が、天火の傷を癒す。
 傷を癒されたことで、天火は冷静さを取り戻したのだろう。その様子を見て、ニアは満足そうに笑った。
「君のことを村人に話すよ。森は、こんな風になってっしまったけど……燃え尽きた森には土壌が残っている。すぐに新しい生命が育つから、大丈夫」
 と、そういってイズマは天火の前に松明を差し向ける。
 ほんの数瞬、天火はイズマと松明とを見比べていたが、やがて天火はその身を火炎に変えて松明に宿る。
 ごう、と明るく燃える炎。
 それこそが天火の本性なのだろう。

 全身に火傷を負い、たったまま気絶しかけている繁茂を連れて一行は村へと戻った。
 岩を受け止めたことと、限界ギリギリまでスキルを行使し続けた結果であろう。その甲斐あってか、畑は無事だ。
 山火事が鎮火したのを見て取ったのか、命に連れられ避難していた村人たちが集まって来る。
「折角の縁やもの。村に受け入れられるとええなぁ」
 天火のことを村人たちへと説明しているジェイクを見ながら、秘巫はそう呟いた。

成否

成功

MVP

陰陽 秘巫(p3p008761)
神使

状態異常

金枝 繁茂(p3p008917)[重傷]
善悪の彼岸
型破 命(p3p009483)[重傷]
金剛不壊の華

あとがき

お疲れ様です。
お待たせしました、無事に火災は鎮火されました。
依頼は成功です。
村人たちや家屋、畑にも被害はありません。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM