シナリオ詳細
仲良し家族の【えんじ】かた
オープニング
●だれでもない君だから
その依頼書は、一見すると簡単な内容に見えた。
依頼内容:スライム20匹の討伐
難易度:Easy
場所:見晴らしのいい草原
天気:晴れ。心地のよい陽気
混沌を訪れたての初心者から、サクサクと仕事の数をこなしたいベテランまで。
誰でも引き受けやすそうな条件が並び、誰でも名乗りをあげられるような物だ。
だからこそーー袖擦りあったこの5人は、運命が引き合わせた"家族"なのかもしれない。
●パラブルファミリー
境界図書館、会議室。
「失礼。集まっていた事に気付かなかった」
手元のじょうろをテーブルに置き、『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)は集まった特異運命座標へ振り向いた。
改めて依頼の内容を説明しようと言う黄沙羅。彼女が懐から取り出したのは、これから向かう予定の草原だがーー事前の情報通り、見渡しのいい平原。
転じて、見渡しが"よすぎる"平原。
「今回討伐してもらうスライムは力が弱い。代わりにとても臆病で、見ての通り……隠れるのがひたすら上手い」
だが、と自慢の中折れ帽の鍔を弄りながら、真顔のまま黄沙羅は続ける。
「このスライムを炙り出す方法がある。彼らはとても卑屈な性格のようでね。
仲の良さそうな家族を見つけると、ひがんで草むらから襲いかかって来るらしいんだ」
つまりは、こうだ。
偶然が引き寄せたこの面子で、仲良し家族を装いスライム達を駆逐する。
「現場には僕も向かうから、家族の輪に混ざる。特にこだわりは無いので配役は適当に決めておいて欲しい。
それでは頼んだよ、えぇと……おかーさん達」
子沢山ならまだ分かるものの、親沢山とは何事だ。
よく見ればこの黄沙羅という女性、先程まで何かに水をやっていたようだが……彼女の背後に置かれているプランターには『あたり』と書かれたアイスの棒が3本ほど突き刺さっている。
「嗚呼、この植木鉢が気になる?
『あたり』が出ればもう1本、と聞いたから早速2本目が生えてくるように育てているんだ」
美味しいのが収穫できるといいな、なんて黄沙羅は至って本気の様子。
さっそく出来た不思議な家族に、特異運命座標達は困惑しながら顔を見合わせてしまったとか。
- 仲良し家族の【えんじ】かた完了
- NM名芳董
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年03月17日 21時55分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「家族って、なに」
「絆だよ」
「きずな?」
「そう。きっかけは血だったり、そうじゃない事もあるけど――どんな時も助け合える、魔法の絆さ」
馬車がガタンと大きく揺れ、黄沙羅は目を覚ました。
「よく眠ってたよ。陸路は苦手?」
彼女に目をくれる事もなく、隣の席で手綱を握り馬車を操る『神は許さなくても私が許そう』白夜 希(p3p009099)が問う。
「案内人は世界を越えて移動できるから、乗り物に乗らないかもって」
「確かに馬車は初めてかな。こんなに揺れるなら植木鉢を図書館に置いて来るべきだった」
依頼説明から数時間後。アイスの『あたり』棒はすくすく育ちーー『たたり』棒に進化していた。
「ねえお姉ちゃん、そういう不吉な物を育てるのやめてくれない?!
友達とかからお姉ちゃんがあんな事してたとか、こんな事してたとか聞かされるたび、まじ恥ずかしいんだけどさ???」
「グラオ・クローネの時の返事が聞きたいな。妹は私の事、好きだよね?」
「祟りで脅すな、抱きつくな! いま運転中なんだからー!」
反抗期の妹とマイペースな姉。三人寄らずとも女二人で充分に姦しい。ぎゃあぎゃあ運転席で揉める姉妹の背中に影が落ちる。
「希さん、そろそろ目的地です。馬車を止めてもらえますか?」
「分かったけど、お母さん。ひとついい?」
「はい、何でしょうか」
お母さんと呼ばれた『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は、不思議そうに首を傾げた。
正直なところ、彼女は家族との思い出が希薄である。丁寧に記憶を手繰ってみても、蘇るのは肉親としての温かい交流などではなく――神の力を扱える道具として、利用し利用されての化かし合い。
あの頃は参考にならないと理解した上で、子供の模範になる母親を演じているつもりだが。
「礼儀正しすぎ。お母さんと娘の関係なんだから、もっと砕けていいんじゃない?」
「えっ。普通のご家庭では敬語を使わない?」
「レアケースだと思う」
「そうなんですか、勉強になります。ええと……」
「ふふ。反抗期の妹が早速きびしくやっておるのう」
戸惑う母とズバズバ言う妹。そのやり取りさえも味があると、見守る『神仕紺龙』葛籠 檻(p3p009493)の目は穏やかだ。
「まあ肩に力を入れる必要などあるまい。……スライムが来ようがきまいが、家族というのはそれで計るようなものではないであろうし。演じた結果がどうであれ、ピクニックを是非に楽しもうではないか!」
「いや、それじゃ困る。依頼を引き受けたからには一匹でも多く倒すべきだろう?」
鋭い一言に周囲の視線が『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)へと集まる。普段の彼の姿を知る者からすれば、このやる気は異常だ。戸惑う家族達に黄沙羅がヒソヒソ、依頼前の彼の様子を耳打ちする。
――家族ごっこだぁ!? 何で俺がそんな茶番に付き合わにゃならんのかねぇ。
一見暇そうに見えるかもしれないが、こう見えて暇を潰すのに忙しいんだ。他を当たってく……なに? 倒したスライムはゼリーになる?
刻んで冷やすと美味しく食べられるか。スライムをそのまま食べるとかだったら御免だが、きちんと調理されるなら話は別だな。
ちょうど暇していたところだ、俺も同行してやろう。
「つまり、出してたのはやる気じゃなくて食い気――っ!?」
呆れ気味に返していた希が突然目を見開き、手綱を引いた。車内に悲鳴が大きく揺れ、馬車が横へ振れる。
「おぉ。驚いて口からビームが出るところであった」
「お兄ちゃんなんて特殊な技能もってんの……」
檻の面白スキルはさておき、急停車の理由を希が指差す。路上を横切り、ぴょんぴょこ草むらに消えていく丸い影。今日の標的、スライムだ!
●
「それでは当初の予定通り、ピクニックをしてスライムさんに仲良し家族をアピールしていきましょう!」
未来の旦那様と温かい家庭を作りたいーーその予行演習も兼ね、睦月は今回の依頼に参加していた。まずは皆の価値観で家族について知っていこうと意見を促す。
「具体的に何をすれば家族っぽく見えると思いますか?」
「俺が手本を見せよう。……檻、こっちへ来い」
「小生が?」
言われるがまま檻が座ると、世界は彼へ手を伸ばし――
「よーしよしよしよし、よーしよしよしよし」
わしゃわしゃわしゃわしゃ!
「ふふっ、ふふふ! 爷爷(そふ)殿、くすぐったいぞ。これでは孫というよりペットでは?」
「ふぉっふぉっふぉ、まさかそんなはずないじゃろ。そもそも儂より長生きしとる奴がなんで儂の孫何ぞやっておるんじゃか」
「仕方ない。次は私が――」
「希や、何か言ったかえ? ところでおやつはまだかのう」
「おじーちゃん……お菓子はさっき食べたでしょう。ボケてるんじゃないの?」
「ボケとらん! 儂はまだボケとらん!人をボケ扱いしおって!」
これでは仲良し家族というより、ただの家族漫才である。
「檻さんの思う仲よし家族ってどんな物なんですか?」
「……ふむ。難しい問いかけだ。小生は修行の旅に出て幾年か、今やこちらに来て帰る事もできぬ身であるし、
家族が一番大事にしていたものは小生のような子ではなかったから」
「……!」
――僕と同じだ。
睦月は思わず目を見開く。家族の中で、ひとりきり。
ただ頭を撫でて欲しい、褒めて欲しい。そんな小さな願いさえも叶う奇跡はどこにも無く。
「あにいもうとといったものもおらぬ。ふふ、きょうだいなどというものでさえ物語の上に存在する関係しか知らぬのが小生よ。きさら殿はどうだろうか?」
唐突に話を振られると、黄沙羅は何か言いかけた後に顔を俯かせた。その様子を咎める事なく檻は続ける。
「話しづらいような話を打ち明けるのも兄妹っぽい雰囲気ではなかろうか。ゆえに小生も、今からひとつ秘密を打ち明けてみせよう」
「檻の秘密?」
「小生はな。本当は――龍なんだぞ!」
「「それは知ってる」」
「エッ、知ってるか。しょうがないな! ははは!」
息の合った家族のツッコミに笑い出す檻。結局ヒミツは秘密たらしめる物ではなかったが、黄沙羅の心をほぐすには十分。少しの間を置き、彼女はぽつりと零した。
「兄はいるよ。一人だったのに再会したら二人に増えていて驚いたけど」
「兄弟が突然増えるパターンなんてあるんですね。僕の知らない家族のカタチだ」
「睦月、これは普通の家庭じゃねぇと思うから参考にしない方がいいぞ」
メモしようとする睦月を世界が半眼で止めた。兄らしき境界案内人は心当たりがあるが、仲良しには見えないからだ。
「久しぶりに会ったら、どういう接し方をしたらいいか分からなくなってね。今回の依頼を参考にしようと思ったんだ」
「であれば妹役の白夜殿に助言を請うてみるのも良いかもしれぬな。
もっとも――野暮用を片付けてから、という事になりそうだが」
檻の呟きを契機に各方面へ身構える家族。ハイセンスで知覚した標的を檻が細やかに伝達し、残りの仲間が対処にあたる――息のあった連携だ。
みるみるうちに気絶したスライムがレジャーシートの上へと積み上がり、黄沙羅は目を丸くした。
「魔法の絆……本当に、あるんだな」
●
「このぷるっぷるの食感! 舌の上で踊る様な口溶け! 捕りたてじゃないとこうはいかないよな」
スライム討伐が落ち着いてから昼食の準備まで、それほど時間はかからなかった。祖父役も忘れてスライムゼリーをつつく世界に、おかわりどうぞと睦月が紙皿を持って来る。
「おやつもいいですけど、お弁当も凄いですよ! 希が作った四段弁当が美味しすぎて、お母さんの立つ瀬なしですけど……」
「料理も良い家庭のつくり方も、これから覚えてゆけば良いではないか。伸び代があるというのは悪い事ではなかろう?」
「ありがとうございます、檻さん。じゃあ早速、花嫁修業に……あーん」
「いや、それは未来の旦那殿にだけしておくべきだと思うぞ?」
頑張る方向性はちゃんと示してあげるべきか。クスクス笑う檻の真横を、姉妹がどたばた走り去る。
「僕の帽子ー!」
「いいじゃん少し借りたって、減るものじゃないし」
お姉ちゃんが持ってて自分が持ってないものは自分も欲しくなるから借りたいし、使ってみたい。意地悪に見えてもこれは妹なりの愛情だ。
黄沙羅の帽子をかぶりつつ、希は話を続ける。
「一生懸命でストレートなのは嫌いじゃないから。もう少し好きになれそうな所見せてもらえないかなー……」
「何の話だい?」
「グラオ・クローネのお返事の話」
「……精進するよ。今回はいいものを見せて貰ったからね」
ぽよぽよん、すりすり。
「うわっ!」
睦月の足元に一匹のスライムが飛びつき、甘える様に擦り寄ってくる。
「随分と懐いてるな。睦月を母親だと思いこんでるんじゃないか?」
世界の何気ない一言に、睦月は少し考え込んだ。
「前から疑問に思っていたんですが、この子達はどうして家族に引き寄せられるんだろうって。
もしもそれが羨ましさからだとしたら……他人事には思えなくて。このまま家族に迎え入れては駄目でしょうか?」
「母上の判断なら、小生は構わぬ!」
「そうじゃのう。いざって時は非常食に出来るじゃろうし」
「おじーちゃん、お菓子はさっき食べたでしょう?」
「魔物とも絆を結ぶというのかい? 本当に面白いな、この一家は」
こうして五人と一匹、新たな仲間を迎え入れて新生した大家族は、日が暮れるまでピクニックを楽しんだ。
人の絆は脆い。信頼を失うのは容易く、血の繋がりを呪縛と疎む時もあるだろう。
けれど絆は手を差し伸べ続ける限り、失われる事がない。どんなに傷ついても、辛くても――助け合える人がいるのはいいものだ。
(最後の二行は消しておくか……他人に見られるのは恥ずかしい)
書き上げた報告書を手に取り、黄沙羅は自室の席を立った。後に残されたのは一枚の写真。
仲良さそうに笑顔を向ける、五人と一匹の写真だ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
どんな家族が出来上がるのか、楽しみですね!
●世界説明
剣と魔法の王道世界。無辜なる混沌の幻想周囲と雰囲気は近いです。レンガ造りの西洋風の街があり、そこから伸びる街道の先に今回の戦いの舞台、見晴らしのいい草原があります。
●目標
スライム20匹の討伐
●敵(必要であれば)
スライム
力も弱く初心者向けの戦闘力。その代わりにステルス能力がひたすら高い。
身を隠す術に長けているが、仲の良さそうな家族を見ると集団で襲いかかる。
水子の成れの果てだの幽霊の一種だのとこの世界では言われている。
倒した後に刻んで冷やすとおいしいゼリーになる。
●その他登場人物
『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
謎多き女性の境界案内人。男装の麗人で、白い中折れ帽と白いジャケットがトレードマーク。
ポーカーフェイスの奥底には何か秘めた思いがあるようで、今回の依頼に前向きなのですが、あまり家族という存在に馴染みがなかったようです。
初対面の特異運命座標に自分のパンツを渡そうとしたり、他の境界案内人の依頼に飛び入り捕縛対象を奪おうとしたり、奇行が目立つと噂されています。
●その他
この依頼の情報制度はCです。依頼の内容に嘘はありませんが、隠された意図があるようです。
家族構成をどうするか、どうやってスライム達に仲の良さをアピールするかが今回の依頼のポイントとなるでしょう。
説明は以上となります。それでは、よい旅路を!
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