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シナリオ詳細

<リーグルの唄>雛鳥たちに自由を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 奴隷とは、なんだろう?

 その種類は様々だ。
 とはいえ、基本は労働をさせるためのもの。
 要するに、ただの『商品』だ。
 ならば、性能が良いものが良いに決まっている。
 力が無いよりも強い者。
 見目麗しい者であればあるほど、付加価値は付くだろう。
 なら、力が無く弱く汚らしい子供なら?
 使い捨て商品だ。一言で言えば。
 それだけに、安い。
 売れた所で大した値段にならないだろう。
 だからこそ、仕入れコストは大事だ。
 タダに近ければ近いほど良い。
 ならば浚おう。
 それが一番安価な仕入れ。
 けれど親がいれば面倒だ。
 そうなれば仕入れ先はスラムの孤児。
 これは社会貢献だ。
 スラムは綺麗になる。売主である我々は儲かる。買い手は安く手に入る。
 素晴らしい。
 見込みがあれば、下請けの道具として貸し出すのも良いだろう。
 子供でも、掏りや盗みぐらいは出来る。
 そこで生き延びて大人になれば、そこから売るなりすれば良い。
 実に効率的だ。抜かりはない。
 とはいえ表に出し辛い商品ではある。
 売り時のタイミングは大事だ。
 だからこそファルベライズの動乱の影響で、『大奴隷市』が幻想で行われている今は好い機会である。
 急遽スラムで仕入れを行い、子供を檻に放り込んでいる。
 残念ながら、数は10人と少ない。
 なんてことだ。日々敬虔に生きている我々に神の恵みは少ないらしい。
 やれやれだ。
 これでは儲けを出すためにコストを削る必要がある。
 子供の餌?
 要らん。もったいない。
 売るまでに死ななければ良い。水でも飲ませておけば数日は持つ。
 檻に入れた子供の見張り?
 要らん。動く気力もなく横たわってるのだ。逃げる事など出来はしない。
 リターンが少ないならローコストで商品管理は商売の基本。
 我々に間違いはない――

 そう判断して、奴隷商人は子供達を檻に入れたまま放置していた。

「……」
 言葉もなく、目に光も無く。
 子供達は檻の中に押し込まれていた。
 檻の中には水瓶が置いてあり、口に出来るのはそれだけ。
 浚われる前から空腹な子供達は、動くための力などない。
「……」 
 涙を流すことも嘆くこともなく、ただただ横たわり前を見ている。
 何かを見たいわけではなく、それしか出来ないからだ。
 そういうものだと、檻の中に居る子供達は分かっている。
 自分達は邪魔者で、追い立てられて逃げ出して、ここにいる。
 そういうものだ。否応なしに、子供達は実感していた。
 その理解のまま、子供達は終わる。
 売り払われて使い潰され、ごみとして捨てられる。
 誰の助けも無ければ、ではあったが――
「元気だしな」
 幸運が、子供達には訪れた。
「……」
 声を掛けられた子供の1人が視線を向ける。
 そこにいたのは2人の大人。
 どういう訳か、仮面を着けている。
 1人は左腕が銀色の義手。もう1人は、仮面を着けているのに華やかな気配を滲ませていた。
「口開けてみ」
「……」
 わけが分からず、けれど逆らう気力も無くて口を開ける。
 すると、カコン、と硬い物が歯に当たりながら口に入って来る。
 甘い。
「……っ」
 子供は驚いて目を丸くする。
 こんなの、食べたことない。
「どうした? 飴玉、食べるの初めてか」
 優しい声。口の中で少しずつ溶けていく飴玉よりも、その声の方が甘いように子供は感じた。
「……」
 子供は無言のまま、ゆっくりと体を起こす。
 ぽん、と。檻越しに手を頭に乗せられ撫でられた。
 驚いて。けれど嫌じゃなくて。
 じっと子供は、飴をくれた仮面の男を見詰める。
 すると苦笑するような気配がした後、仮面の男は言った。
「飴、まだあるから。他の子達も起こしてやりな」
 魔法のように唐突に、男は袋を取り出すと口を開ける。
 中には色とりどりの飴が沢山入っていた。
「……きれい」
 夢見るような声で子供は呟く。
「欲しいか?」
 男の言葉に、子供は何度も頷く。
 すると男は飴玉ひとつを取り出して、子供の小さな掌に載せてやる。
 宝物のように見詰める子供に、男は言った。
「お前も、ここに居る他の子達も逃がしてやる。だから、みんなにこの飴玉を食べさせておいてくれ。これを食べたら元気が出るから」
 そう言うと男は飴玉の入った袋を檻越しに渡し、受け取った子供は他の子供達に飴玉を渡していった。
 それを見詰めている男に、もう1人の男が言った。
「余計なこと考えるなよ」
「いいじゃねぇか」
「よくねぇよ。俺達がここに来た目的は何だ」
「ここの奴隷商人が溜め込んでる金と帳簿に顧客帳を盗むことだろ?」
 この2人、泥棒である。
 街から少し離れた郊外にある古ぼけた屋敷に侵入していた。
 何人か見張りは居たのだが気付かれることなく潜り込み、盗む前の下調べをしている所で、屋敷の地下に捉えられた子供達を見つけたのだ。
「放っておけねぇじゃねぇか」
「だからってどうすんだ。金やら盗みつつ子供達逃がすのは無理だぞ」
「ひひっ、そこは人を使うんだよ」
 小さく笑いながら男は応える。
「ローレットに頼みに行こうぜ。あそこは依頼をすりゃ、大抵のことはしてくれるって言うじゃねぇか」
「そんなことして、ボスが許してくれるか?」
「大丈夫だろ。最近、ボスも使い始めたって言ってたし。それにボス、何かあるかもしれないから飴玉持って行けって言ってたからな」
「どういうこった?」
「滋養強壮の効果があるんだってさ、あの飴。なんか知んねぇけど、けったいな植物から作ったらしいけどよ。あれを食べさせときゃ、逃げ出す元気ぐらい湧いて出るだろ」
「……やれやれだ。じゃ、あれか。俺達は盗みに。その間にイレギュラーズ達に子供を連れ出して貰うってことか」
「そういうこと。まぁ、なんか知んねぇけど、ここ最近、奴隷達を助けるために派手に動いてるらしいじゃねぇか。ついでに乗っかって貰おうぜ」
「そう巧く行きゃいいけどな」
「無理なら、子供達だけ掻っ攫おうぜ」
「……分かったよ」
 軽くため息をついて男は頷いた。


「郊外にある古い屋敷に捕らわれた子供達を助け出して欲しいのです」
 招集されたイレギュラーズに向けて、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼の詳細を説明してくれる。
「奴隷として売るために集められた子供達らしいのです。放っておけないので救出して欲しいと頼まれたのです」
 ユリーカの話を聞いてイレギュラーズから質問が。
 依頼人が、なぜそこに子供達が居るのかを知っていたのか? についてだった。
「それは話してくれなかったのです」
 話を聞くと、屋敷内部の見取り図や、子供達が捕えられている牢屋の合鍵も持っていたらしく、それを使って助けて欲しいとのことだった。
「助けたあとは、子供達は面倒を見るので連れて行くらしいのです」
 とにかく、捕らわれた子供達を助け出し、依頼人に渡せば良いということだった。
 そして条件はもうひとつ。
「屋敷に居る人達は奴隷商人だから捕まえて突き出して欲しいそうです。でも殺さないで欲しいとも言っていたのです」
 話を聞いたイレギュラーズ達は、胡散臭い物を感じながらも現場に向かうのだった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
五本目のシナリオになります。奴隷解放関連のシナリオが出せるので、この波に乗らねば! ということで出させていただきました。

そして以下が、今回の詳細説明になります。

●成功条件
 地下牢に囚われた子供達を解放して逃がしてやる。 

●時間帯
 深夜2時。
 この時間帯が、見張りが一番気が緩んでいる時間帯になります。
 外は星明りぐらいの明るさしかないので、気付かれずに屋敷に近付くことは出来ます。

●戦闘場所
 郊外にある古びた屋敷。
 周囲には幾つか空き家があり、人気からは離れています。

 正面玄関から入れます。
 見張りが1人就いています。
 声を上げられると屋敷の中の人間に気付かれます。
 見張りは、それほど強くは無いです。

 屋敷の中に侵入すると、1階部分から地下室に向かうことが出来ます。
 屋敷の中の1階には、奴隷商人の部下が15人ほどいます。
 10人ほど大部屋で起きていますが、残りは仮眠を取ってます。
 大部屋の位置も、仮眠部屋の位置も、見取り図で分かります。

 見取り図を貰っているので、子供達の捕らわれている地下牢まで、静かに移動できれば気付かれずに移動できます。
 屋敷の外に居る見張りに声を出された場合は、無理です。

 屋敷は2階もありますが、そちらには来ないよう、依頼人から指示を受けています。

●敵

 奴隷商人の部下。
 大部屋で起きているのか10人。仮眠室で仮眠を取っているのが5人。
 そこそこの強さ。近接武器と飛び道具の両方を持っています。
 依頼人は、殺さず捕縛して突き出して欲しいと要望しています。

●流れ

 今回の流れは以下のようになります。

1 屋敷に侵入
2 子供達の救出
3 1階部分の奴隷商人達の捕縛
4 子供達を依頼人に渡す

 になります。
 2と3については、先に捕縛してから子供達の救出に向かう、でも構いません。
 子供達の救出に関しては、シナリオ開始時には子供達は寝ています。
 檻の中に居ますが、開けるための合い鍵は依頼人から渡されています。
 
 今回の成功条件は、あくまでも子供達の救出です。
 それが達成できていれば、失敗にはなりません。

●依頼人
 男性2人。
 PCが子供達を救出すると、2階から降りてきて子供達を受けとりに来ます。
 2人とも仮面を着けているので顔を知ることは出来ません。
 2人の内1人は、左腕が義手です。

●情報精度

 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。

 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <リーグルの唄>雛鳥たちに自由を完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
シラス(p3p004421)
超える者
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
羽田 アオイ(p3p009423)
ヒーロー見習い
鈴木 太郎(p3p009482)
KBH臨時放送視聴者
アムル・ウル・アラム(p3p009613)
夜を歩む

リプレイ

「子どもをねぇ、奴隷にね」
 現場に向かいながら『若木』秋宮・史之(p3p002233)は呟く。
「誰かに隷属するのは幸福なことだけれど、それは本人が自分の意志でそうしているからであって、むりやりはよくないよなあ」
 捕らわれた子供達が自分の意志で望んでいる訳がない。
(誰ひとり傷ひとつ付けずに救い出してみせる)
 決意を秘めながら同時に思う。
(依頼人があやしいんだよね……)
 それは同行している『鳶指』シラス(p3p004421)も思っている。
(めちゃくちゃに胡散臭いぞ! なんだこの依頼は?)
 けれど依頼を完遂する気は十分にある。
(スラムの孤児達が捕まってるのは間違いない事実だ。ここは諸々に目をつむって依頼の達成に集中するとしよう)
 意識を切り替える間に、目的地である古びた屋敷が見えてきた。
 そこからのイレギュラーズ達の動きは速い。
 即座に惹き付けと不意打ちに分かれた。
(まずは確認しないと)
 先行して『闘技戦姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が状況把握。
 ねずみのカットに屋敷内部の確認をして貰い、同時にエコーロケーション。
 得た情報を仲間と共有。
 事前準備は隙が無い。
 そして惹き付け班が動く。
(まずは見張りが邪魔ですね。対処しましょう)
 馬車を連れた『ここに称号を記入』鈴木 太郎(p3p009482)が仲間と共に近付く。
「誰だ、テメェ」
「おっと、あんまり大きい声は出すもんじゃないですよ」
 声を上げようとする見張りに、機先を制して太郎が呼び掛ける。
「貴方の分け前が減っちゃいますから」
「……なに言ってんだ」
 警戒しつつも声を潜める見張りに、獲物が掛かったとばかりに畳み掛ける。
「単刀直入に。ここに賄賂があります。これを差し上げますので屋敷の中に入れてください」
 金の匂いをさせた所で、仲間が馬車から出て来る。
「こんばんは、良い夜ですね」
 親しげに『ヒーロー見習い』羽田 アオイ(p3p009423)が声を掛ける。
「一緒に夜を楽しみませんか?」
 アオイは言いくるめを使って見張りの気を引こうとする。
 失敗したらいけないと緊張しているせいか心拍は上がり、ギフトの効果でやや女の子っぽくなっていた。
「少し、お話しましょう」
 アオイとしては、単に不意打ちをし易くするために声を掛けているだけだが、見張りは勘違いする。
「……そいつも差し入れってことか?」
 気のせいか、好色めいた視線を向ける。
 そこにミルヴィも馬車から現れると、さらに好色めいた視線が強まった。
「一晩、泊まらせてくれないカナ?」
 ギフトも使い色仕掛け。
 この時点で完全に見張りは勘違いした。
「一晩で良いのかぁ?」
 近づいてくる見張りに、わざとミルヴィは肢体を見せつけるように振る舞い――
 見張りの鼻が伸び切った所に奇襲が入った。
「……今!」
 シラスの合図で、皆は一斉攻撃。
 まずは一番近くに居たミルヴィがメナス・ルーヤ。
 そこから流れるような動きで『never miss you』ゼファー(p3p007625)がSweetBloomを使い、立て続けにシラスが追撃。
 この時点で見張りの意識は飛んでいたが、確認する術がないので不意打ちは続く。
 仲間への誤射に気をつけながら『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)は、暗視をつけて確実に狙撃。
 さらに止めとばかりに史之が斥力発生で確実に気絶させる。
 死なないよう気をつけていたので死んではいないが、実質オーバーキル状態だった。
 倒れた見張りをアムル・ウル・アラム(p3p009613)が、物陰に引きずり込んで隠し拘束。
 万が一の事態も確実に潰した所で、次は屋敷への侵入ミッション。

 ここからは今まで以上に時間との戦いだが、イレギュラーズ達の動きは素早かった。

 目指す場所は屋敷奥の大部屋と、手前の仮眠室。そして子供達が捕らわれている地下。
 大部屋では、10人が酒を飲みながら博打をしており、仮眠室では5人が寝ているのを、ミルヴィの偵察で確認している。
 情報面で有利な中、大部屋へはミルヴィとゼファー、そしてクルルが向かう。
 仮眠室は史之とシラスが担当。
 地下の子供達にアオイが向かい、太郎が壁役として通路で待機。
 さらにアムルが、全体の動きを見て仲間に警戒を告げられるよう、どの場所にも行けるような位置で配置に就いた。
(一斉に行くよ)
 気付かれないよう、大部屋の扉前に就いたゼファーは、ハンドサインで連絡。
 それに仮眠室のシラスが頷き、残りの仲間も応え、一気に踏み込んだ。
「ローレットだ! 大人しくしな!」
 ゼファーは扉を勢い良く蹴り開けると、名乗り口上で狙いを引き付けた。
 奇襲を受けた相手は反応が遅れる。
 そこにクルルが追撃。
 ゼファーの先制に合せ、泣き叫ぶマンドレイク。
 絶叫が上がり悶え苦しむ相手に、クルルは投降を呼びかける。
「命が惜しかったら武器を捨てて両手を挙げて降参してね、そうすれば命までは取らないよ」
「っざけんな!」
 クルルの忠告を無視し、血走った眼差しで相手は襲い掛かろうとする。
 そこにミルヴィが跳び込む。
 しなやかな肢体を存分に動かし、舞うように斬り裂いていく。
 斬り裂かれ動きが鈍った所に、クルルが離れた位置から射撃。
 堪らず横手に逃げようとするが、先回りしていたゼファーに叩きのめされた。
 それでも人数が多いため、部屋から逃げ出そうとする者もいたが、そこにアムルが立ちはだかる。
「逃がさない」
 Andanteで動きを鈍らせ、ソニックエッジで間合いに跳び込み斬り裂いていった。

 大部屋は抑えられる。
 その間に、仮眠室を完全に制圧した。

「朝が来たよ、おしまいの朝がね」
 仮眠室に突撃すると同時に、史之が名乗り口上で引きつける。
「さあいい子は目を覚ましな」 
 大部屋には向かわせないよう、入り口で壁役を引き受ける。
「テメェ!」
 傷を受けながらも、反撃に動こうとした者も出て来る。
 だがシラスが次々に狩りとっていった。
 動きに無駄は無く、的確に急所を突き意識を落とす。
「何なんだテメェら!」
「お前らと似たようなもんだ」
 印象付けるように、わざとシラスは応える。
「欲しいのは金だ。死にたくなければ大人しくしてろ」
 子供達を助けに来たのがバレれば人質にされる可能性もあり得ると考え、強盗であるかのように振る舞っていた。
 シラスと史之の奇襲を、奴隷商人の部下は捌き切れない。
 叩きのめした所で、止めに史之が斥力発生。
 気絶させると、大部屋の援護をしていたアムルが駆け寄り言った。
「ここは僕が受け持つよ。大部屋の助けに行って」
 シラスと史之は頷き大部屋に。
 アムルが、仮眠室で気絶している相手を拘束している間、入り口を太郎が、ハイ・ウォールを発動させながら壁役に就く。
「不意打ちとかさせないので、そちらはお願いします」
 アムルは頷き、手早く拘束していった。

 奴隷商人達を拘束している間に、アオイが地下牢に囚われた子供達を起こす。

「起きて、助けに来たよ」
 依頼人から受け取っていた牢の鍵を使い開けると、寝ていた子供達を起こしていく。
 目を覚ました子供達は、どこか怯え警戒するような顔をしている。
「大丈夫、怖くないからね」
 子供達の恐怖が少しでも薄れるよう、優しく声を掛けながらアオイは子供達を起こしていった。

 子供達を逃がす準備も整っていく。
 それと同時に、奴隷商人の部下たちの制圧は完了しつつあった。

「何なんだテメェら!」
 追い詰められた奴隷商人の部下は怒声を上げる。
「何が目的だ!」
「せこせこ稼いでるアンタら小悪党なら、殴り込まれる心当たりなんてたんまりとあるでしょ?」
 呆れたように言うゼファーに、奴隷商人の部下は顔をひきつらせ叫ぼうとするが、クルルの一撃が黙らせる。
 舞い踊るマタンゴで毒を与え、毒を受けた相手は痛みで転げまわった。
「ひぃっ!」
 明らかな劣勢に逃げ出そうとする者もいるが逃さない。
「悪いけどー……一人も逃がさないよー!」
 確実に仕留めていく。
 叩きのめされ怯え恐慌状態になった相手に、ミルヴィは不殺を心がけながら確実に制圧する。
 そこにシラスと史之が援軍に駆け付けた。
 シラスに叩きのめされ、止めに史之が斥力発生を使い、全員が意識を狩りとられた。

 制圧完了。
 すでに拘束を終わらせたアムルが大部屋の仲間に連絡。
 大部屋の奴隷商人の部下も全て拘束すると、太郎が持って来ていた馬車に積み込む。
「ぎゅうぎゅうですけど、我慢して貰いましょう」
 テキパキと、仲間と共に馬車に詰め込む太郎。
 全てを終わらせ、捕えた奴隷商人の部下達が逃げ出せないのを確認してから、屋敷に戻り子供達を解放する。

「助けに来ましたよ!!」
 太郎は明るく言うが、子供達は不安そうな表情を見せる。
 そこで太郎は持って来ていたおべんとうを差し出す。
「お腹空いてるでしょう? 食べて下さい」
 子供達は警戒していたが、空腹には勝てず手掴みで勢い良く食べる。
「喉につまらせちゃだめですよ」
 太郎に言われ、それでも変わらぬ勢いで食べる子供達。
 そんな子供達をひとりひとり、アムルは確認していった。
(居ない……)
 その事実に、安堵とも失望ともいえない感情が湧き立つ。
(居るわけがない、そう、思うけれど)
 それでも確認してしまうのは、兄と姉と慕う2人を想わずにはいられないから。
 助け出した子供達に、複雑な感情を抱くのはアムルだけではない。
「……うん。もう、大丈夫ですからね」
 お弁当を食べて、少し落ち着いたらしい子供達にゼファーは優しく声を掛ける。
 彼女にとっては、子供達は他人事ではない。
 自分もあり得たかもしれない、ひとつの結果だ。
 それだけに気になる。
「……依頼人は、まだかしら」
 警戒する様に呟く。
 子供達を助け出せれば受け取りに来ると聞いているが、まだ姿を見せない。
「屋敷の周囲には居ないみたい」
 ネズミのカットで周囲を確認していたミルヴィは、子供達に近付くと持って来ていたトルティーヤをあげる。
「まだお腹減ってるでしょ。みんなで分けて食べて」
 少しお腹が膨れて落ち着いた子供達は、ミルヴィの申し出に頷くとみんなで分けて食べていく。
 ミルヴィは、食べるのに夢中な子供達に微笑むと、怪我などないか確認し、打ち解けて貰うように優しく抱きしめる。
 子供達の食欲は旺盛で、あっという間に無くなった。
 そこに史之が、手作りのおにぎりを差し出す。
「歩ける? これから少し遠くへいってもらうけれど、大丈夫かな」
 史之を見上げ、こくこくと頷く子供達。そして――
「……ありがとう」
 ようやく礼を言えるほどの余裕が出来たのか、今までご飯を貰った相手も含めてお礼を言った。
 これに史之は笑顔で返すと、子供達を清潔な布で体を拭いてやり身ぎれいにしてあげる。
「うん、綺麗になった」
 すると、はにかむように子供達は笑顔を浮かべた。
 笑顔を浮かべる子供達に、シラスが声を掛ける。
「散々だったな、よく生き延びた。大したもんだぜ」
 スラムの孤児達である子供達に、他人事の気がしないシラスは、同情ではなく応援する様にローレットのことを教えた。
「この先で何か困ったらいつでも来いよ」
 シラスの言葉に、じっと見つめてくる子供達だった。

 そうして子供達が落ち着いた頃だった。
 二階の気配を探っていたシラスが仲間に呼び掛ける。

「……依頼人が来るみたいだ」
 シラスの呼び掛けに、皆は二階に通じる階段に視線を向ける。
 そこから降りてきたのは2人組。
 どちらも仮面を着け、身元を分からないようにしていた。
「二階でなにしてたんだ?」
 シラスの問い掛けに、左腕が銀色の義手の男は応えた。
「商人をとっ捕まえてたんだ。縛ってあるから、そっちも突き出してくれ」
「それだけか? 他に何かしてたんじゃないか? 二階には金目の物がありそうだしな」
 シラスが鎌を掛けると、義手の男はすっとぼける。 
「大したもんは無かったぜぇ。少なくとも、いま俺は何も持ってないだろ?」
「ファミリアとか使って、運ばせるとかは出来るよな」
 シラスの言葉に肩を竦める義手の男。
 すると彼の隣の男が言った。
「詮索は依頼内容に含めてない筈だけどな。別に、そちらの損になるような不義理はしてない。だから、あとは依頼通りにしてくれないか?」
 子供達を渡せ、と言外に告げる依頼人に、アオイが元気よく言った。
「この子達を渡す前に教えて。この子達を、どうする気なの」
 凜とまっすぐ。今は届かずとも、ヒーローへと繋がるように。
 子供達を護るように言った。
「この子達をどうする気なのか教えてくれないなら、渡せないよ」
「……関係ないだろ、アンタらには」
「関係なくても気になるよ」
 子供達を背に庇うようにしてクルルが、ぐいっと前に出る。
「奴隷として狙われがちな幻想種としては、そういう存在は捨て置き難いんだよネ」
 ぴしっと視線を向け続ける。
「だから、この手が届く限り助けるよ……少なくとも、そのつもり!」
 クルルの言葉に、子供達は驚いたようにパチパチと目を瞬かせる。
「助けるって……俺達が何かすると思ってんのか?」
「なら、どうするつもりなのか教えて」
 アオイが、クルルの言葉を引き継ぐように言った。
「もし自分たちの奴隷にしようとしてるのなら、懲らしめないといけなくなるからね」
 アオイの言葉に、一瞬間が空いたあと――
「……っ、ははっ、なんだなんだ。そういうこと気にしてたってわけだ!」
 義手の男は楽しそうに笑う。
 そして子供達の様子を見たあと、子供達に問い掛けた。
「腹減ってないか?」
 すると子供達は、ふるふると首を振り、一生懸命に言った。
「おなか、へってないよ」
「ごはん、くれたもん」
「みんな、いいひと、だよ」
 子供達の返事に、さらに義手の男は嬉しそうに笑った。
「はははっ! なんだよなんだよ、好いヤツらじゃねぇか、アンタら!」
 義手の男の様子に、隣りの男は頭痛を堪えるような声で言った。
「いい加減切り上げるぞ。とにかく、依頼を終わらせてくれ。その子達は俺達で引き取る。あとは外の奴らを突き出してくれれば良い。それで報酬は出る」
「報酬はいらないから顔を見せて欲しいな」
 史之が視線を向け言った。
「顔を隠すのは後ろめたいことがあるからじゃないの? ないなら堂々としていられるはずだよ。じゃないとこの奴隷たち、俺の領地へ引き取るよ」
「……こっちにはこっちの事情がある」
 苦い声で返す仮面の男に、ゼファーも言った。
「命を張った協力者に顔も見せられないのかしら、ねえ」
 この言葉に――
「そりゃそうだ」
「おいバカ!」
 隣の男が止める間もなく、義手の男は仮面を取って外す。
 仮面の下にあったのは、赤い目が特徴の稚気溢れる男だった。
「名前は勘弁してくれよ。そもそも今じゃ幾つも持ってるから、どれを応えりゃ良いのか分かんねぇんだ」
「……偽名か?」
 シラスの問い掛けに義手の男は応える。
「御名答。何しろ泥棒なんでね。名前は多いと便利なのさ」
「……お前どこまで喋ってんだバカ。そんなんだから片腕無くすんだぞ」
 義手の男の言葉を止め、隣りの男が言った。
「こいつの言う通り俺達は泥棒だ。けど誓って言うが、悪党からしか盗んでねぇ。盗んだ金も世の中が良くなるように回してるだけだ。その子達も、ちゃんと助ける。それに俺達の稼業には関わらせねぇ。だから渡してくれ」
「貴方達を信じろってこと?」
 刃物めいた鋭い声でゼファーが言った。
「もし、此の子達をロクでもないことに巻き込んだりしたら……容赦しないわ?」
「その時は好きにしてくれ」
 義手の男は視線を合わせ応えると、次いで子供達に言った。
「という訳だ。ちゃんとお前達が生きていけるようにする。だから、連いて来るか?」
 これに迷うような間を空けて、子供達は小さく頷いた。

 そして依頼は完了する。
 奴隷商人達は生きて突き出すことにし、子供達は依頼人に渡した。
 けれど――

(最後まで確認しないと)
 ミルヴィはネズミのカットを子供達に同行させており、依頼人達の動向を把握していた。
 もし何かあればすぐに跳び出して子供達を助け出すため、後日彼らの元に向かい――
「……ぇ」
 そこで以前見た顔が居て驚く。
「あの人って……」
 それは少し前、鉄帝での依頼人の1人。
 メイド姿の彼女が子供達と一緒にお店に入った所で追い駆けようとすると――
「この子、お返ししますね」
 壮年の紳士に見える人物にネズミのカットを渡された。
「……どうして?」
「うちの子ですから、あの2人」
 そう言うと彼は頭を下げ、続ける。
「あの子供達を気に掛けてくれたんですね。ありがとうございます。安心してください。ちゃんと、生きていけるようにしますから」
 礼を言うと子供達の入っていった店に行く。
 慌てて後を追うが、その時には皆の姿は消えていたのだった。

成否

成功

MVP

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした! 皆さまのお蔭で、子供達は無事助け出されました!
今回の結果で子供達は、ある人物に預けられて生活することになります。

そして今回のシナリオに就いて少し。

今回は依頼人の2人は、最初の想定では仮面を外さない予定でした。
ですが皆さまのプレイングのお蔭で外すことになりました。
皆さまのプレイングのお蔭で、お話が広がっております。ありがとうございます。

そしてラストの部分に関しても、想定外になりましたが入れています。

そんな感じに、いただいたプレイングによって想定外になっても進めていきたいと思います。
それによりもたらされた結末から、また新規にシナリオを作っていく予定です。
皆さまと共に、物語を作っていきたいと思っています。

最後に重ねまして、皆さまお疲れ様でした! ご参加いただき、ありがとうございました!

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