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シナリオ詳細

森の襲撃者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔物の襲撃

 幻想王国西方の村と村を繋ぐ街道で、商人を乗せた馬車が襲われる事件が発生した。
 この事件は奇跡的に逃げ延びた従者の証言によって発覚した。幼いころに両親を亡くした彼は今回の事件で犠牲となった商人に拾われ、実の息子同然に育てられてきた。商人の元には同じような境遇の子どもが何人もかくまわれており、従者の彼はその後継ぎとなることを期待されていた。本人もそれに答えるべく昼も夜もなく働いていた。
 従者によれば馬車を襲ったのはコボルトの群れだという。町で用心棒を募って現場に戻って見ると、身包みを剥がされた商人の遺体がその場に放置されていた。馬車は粉々に砕かれて残骸しか残っておらず、交易用の荷物はすべて持ち去られていた。
 従者は自分がこれまでに与えられた給金をすべて抱えてローレットに依頼を出した。主人の敵討ちのため、そして安全な交易のため、魔物を退治して欲しいと。

●従者の思い

「どれだけ退治しても、魔物による被害はなくならないものですね」
 集まったイレギュラーズに向けて『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はため息まじりに呟いた。
 多種多様な種族が生息する幻想王国において、魔物による事件は日常茶飯事である。ローレットに持ち込まれる依頼としてはごくありふれたものに過ぎないとわかってはいても、後を絶たない被害報告に気が滅入る思いだった。
「コボルトは街道を進む商人さんの馬車を狙ったみたいです。この街道はほとんどが見渡しのいい平原を通るのですが、道中で数キロほど木々に囲まれた森の中を進むことになります。コボルトたちが襲ってきたのはまさにこのタイミングなのです」
 コボルトの数は従者が確認できただけで十体。中でも大柄の一体は斧を持ち厚手の鎧を着込むなど、歴戦の戦士を思わせる格好をしていたという。それがコボルトたちのリーダーのように見えたと従者は語った。
 襲撃の際、森の中から突如として矢の雨が降ってきたということから、他にも仲間が居ることは間違いない。ユリーカはこれまで扱った事件の傾向から全体数を十五、六と推測した。
「このコボルトたちを退治してほしい、というのが今回の依頼なのですが、さらに依頼者さんから要望が出てます。主人を殺したコボルトが退治されるところを自分の目で確認したいということです。ようは自分も連れてってほしいってことですね。できる限りの協力もしてくれるようです」
 コボルトをおびき寄せるための馬車は従者が用意する手はずになっている。さらに望まれるのであれば御者として馬車を走らせると申し出た。
「森の中で矢を放たれたということですから、今回も同じように先制攻撃を仕掛けてくる可能性が高いです。十分に気をつけてください。あ、もちろん商人の馬車を装うんですから、いかめしい感じにするのはダメですよ」
 よろしくお願いしますと最後に頭を下げ、ユリーカはイレギュラーズを送り出した。

GMコメント

 はじめまして。
 GMとして活動させていただくことになりましたアーティと申します。
 どうぞよろしくお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●成功条件
 コボルトリーダーの討伐。
 配下のコボルトを逃しても失敗にはなりません。

●フィールド
 森の中の街道。
 何かが隠れるにはうってつけです。
 罠などは特に仕掛けられていません。

●エネミー
・コボルトリーダー
 コボルトを率いるリーダーです。
 斧と鎧を身に付けており、戦闘力は高めです。
 仲間に号令をかけることで士気高揚とターゲット集中を図ります。

・コボルトファイター×9
 棍棒を持ったコボルトたちです。
 とても知能が低く号令が無ければ目の前の敵を殴るくらいしかできません。
 コボルトリーダーが倒されると怒り狂ってパワーアップします。

・コボルトアーチャー×5
 ボウガンを持ったコボルトたちです。
 ファイターよりは賢く、身の安全を確保しながら攻撃します。
 戦闘開始時は森の中に潜んでいます。
 コボルトリーダーが倒されると逃走します。

  • 森の襲撃者完了
  • GM名アーティ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
糸色 月夜(p3p009451)
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ホロウ・ゴースト(p3p009523)
幽霊少女
矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)
忠義はかくあるべし
八剱 真優(p3p009539)
忠義はかくあるべし
アムル・ウル・アラム(p3p009613)
夜を歩む

リプレイ

●街道を進む

 抜けるような青空の下、陸地を繋ぐ街道を一台の幌馬車が走る。
 御者を務めるのは矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)と『曇り知らずの高気圧龍姫』八剱 真優(p3p009539)である。御者ひとりとわずかな荷物を置くだけの窮屈な場所ではあるが、二人は自然な距離感を保っていた。
 馬車の中では敵討ちの同行を申し出た依頼者の少年、クリスが膝を抱えて荷物に紛れ込んでいる。身を守るすべを持たない少年にアムル・ウル・アラム(p3p009613)は申し訳程度の防具を見繕った。
「ちょっと心もとないかもしれないけど、これにマントをはおって、後は、腕も」
 重量を最優先に革製の腕甲を選ぶ。小柄な依頼者が不自由なく身に着けられるものと言えばこれが精一杯だった。
 本人が防御を固めることは難しいと判断した『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は見せかけの交易品として用意していた硬質の盾を幌に結びつける。固定が難しく攻撃を防ぐほどの効果は期待できなかったが、副次的な被害を防ぐ程度の強度は得られた。
「あくまで気休めだよ。流れ矢くらいは防げるかも知れない、程度のね」
 カインは荷物の中で眠っていたアーベントロート・キャットをそっと抱き上げる。
 猫が同行していることにすら気づいていなかったクリスは驚きの声を上げた。
「びっくりしたよね。その子みたいに、戦闘中はじっと息を潜めてるんだよ」
 不安に震えながら猫を抱き締める姿にディアナ・クラッセン(p3p007179)は人知れずため息をついた。
「敵討ちを実際に見たいだなんて、本気なの?」
「申し訳ないと思っています。みなさんのお邪魔になることは、重々」
 弱々しく紡がれる言葉に対し、ディアナは取り繕うように自分の言葉を重ねる。
「邪魔だって話じゃなくて、ほら、楽しい場所では絶対ないわけだから、心配はするじゃない?」
「俺も同意見だよ。気持ちは良く理解できる。ただ、これだけ周到に準備をしてもまだみんなが心配するくらい危険な場所に行くんだって、その認識だけは忘れないでほしい」
 外に目を向けた『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)が念押しする。
 街道はまもなく森に差し掛かろうとしている。襲われたのはちょうど中間辺りだという話だったが、今回も同じ場所で矢をつがえているとは限らない。馬車の中は否が応でも緊迫感に包まれた。
 大願を前にして震えを押さえられない依頼者を糸色 月夜(p3p009451)があざ笑う。
「どうしたラッキーボーイ。一度死にかけながらまた死地に向かおうってんだ。当ッ然、覚悟があってのことだよなァ?」
「も、もちろんです。あのお優しい旦那様をあいつらは」
「威勢は結構。上物と認めてやるよ。だったらもう少し堂々としてろ。テメェよりその猫のほうがよっぽど大物だな」
 少年の腕に抱かれた猫はのんびりとあくびを上げていた。
「そう構えないで。だぁいじょうぶ。私達がついてるから!」
 距離を挟んで向かい合う二人の間に割って入った『幽霊少女』ホロウ・ゴースト(p3p009523)が緊張を消し飛ばすようなあっけらかんとした声を上げる。
「戦いはどーんと任せて、貴方自身が望んだもの、敵討ちの瞬間をゼッタイに見逃さないでね」
 場違いなほど明るい言葉に押されるようにクリスは首を縦に振った。
 馬車内の喧騒にちらりと目を向けた景護は改めて御者台から見える森の様子に気を配る。そよ風が木々を撫で、鳥がさえずり、心地よい陽の光が差し込む。ともすれば依頼のために馬車を走らせていることを忘れてしまいそうになるほど穏やかな日和である。
 遠からず訪れる戦いの時を前に、イレギュラーズの思いは様々であった。
「神使とは人材の幅が広い。価値観も様々だ」
 独り言ちた景護は共に御者台に座る主人に視線を送る。
 真優は森の入り口に立ったときから周囲の敵愾心を探っていた。むき出しの敵意に触れることは精神的な不安も大きく、その頬には薄っすらと汗がにじみ出ている。
「真優様、お疲れではありませんか」
「いいえ景護。むしろ私の気力は充実しています。クリス様の類まれなる決意と本懐を叶えることこそ、神使としての務めとなりましょう」
 特に強い意気込みを見せる真優は凛とした態度で答えた。
 馬車がさらに奥へと進み、ちょうど中頃に差し掛かった辺りで、真優が目を見開いた。視線に気づいた景護は馬車と馬を繋ぐ紐に手を伸ばした。
 同じタイミングで馬車内の月夜が腰を上げる。彼のエネミーサーチは街道を挟んだ森の中に潜む敵の存在を感知していた。
「無駄口はそこまでだ。クソッタレどもの襲撃に備えろ」
 一斉に立ち上がったイレギュラーズは自らの背で依頼者を囲む。
 その刹那、咆哮が響き渡った。放たれた矢は幌を破り、イレギュラーズの身に迫る。初撃は馬車そのものを狙った射撃であったため、かすり傷に過ぎなかった。
 御者台の景護は主人の身を庇いながらも手綱を離し、馬を自由にさせる。森の中を駆け出していく馬体には目もくれず、最前線に降り立った。
 ボウガンによる射撃を合図に次々と魔物が姿を現す。犬に酷似した獰猛な二足歩行の魔物、コボルトはぎゃあぎゃあと喚き散らしながら獲物に向けて襲い掛かった。
「来るがいい。この矢矧鎮綱景護、容易には崩せぬと知れ!」

●コボルトの襲撃

 気勢に怒りを覚えた三体のコボルトファイターが我先にと棍棒を掲げた。
 硬い棍棒で身体を打ち付けられながらも、景護は怯むことなく胴体を切り返す。思わぬ反撃にうろたえるコボルトの背後から二体目が跳び上がった。
 狙いは頭部への一撃。太陽を背にコボルトはニヤリと笑う。
 景護は軸足で地面を踏みしめ、身をよじる。狙いを外し地面を転がるコボルトを太刀で払い除けた。
 続けざまに三体目が走り寄る。その身が燃え上がり、怒声が憐れみを覚えるほどの悲鳴へと変わった。
「人のものに手を出したらお仕置き。当然よね?」
 景護の横で手のひらを突き出したディアナは得意げな笑みを見せた。
「景護さん、ここは任せていいのね」
「無論だ。この場の封殺は我が意であり主命。全て潰すまで、逃さぬ、通さぬ」
 鬼の咆哮がさらなる標的を呼び寄せる。
「こちらは景護と私が受け持ちます。ディアナ様は他を」
 真優が指し示した先では、鬼哮から逃れたコボルトにリーダーが指示を出している。
「ええ。あのリーダーが本格的に参戦してくる前にね」
 引き寄せられたコボルトの対処を託し、手近な一体を炎で焼き払った。
 前衛を突破した四体のコボルトは鬨の声を上げながら馬車に向けて突進する。
 我先にと走り出したイズマは敵陣の中心で機械式の魔道具を旋回させ、全員を一度に薙ぎ払った。
「あいにくだけど、返り討ちにさせてもらうよ」
 追撃はアーチャーによる射撃で阻止される。イズマと視線が合うと、素早い動きで木の陰に隠れた。
「遠くからチクチクと……ファイターも厄介だけど、まずはあいつらだな」
 馬車前の攻防を他の仲間に任せ、位置を把握したアーチャーへと標的を変えた。
 狙われていることに気づいたコボルトも背を向けて駆け出す。狩場で優劣を分けるものは地の利。同じ速度でも距離は少しずつ離されていく。
 十分に距離をとったところで巨木の枝に飛び移る。視線の先にはイズマ。あざ笑ったアーチャーが葉を隠れ蓑にボウガンを構えた。
 イズマも笑った。地の利は無くとも、優れた聴力で敵の居場所はすでに把握していた。勝ち誇った魔物の背後で、スカイウェザーの少年が刃を手にした姿も。
 音速の刃は容赦のない奇襲となった。声を上げて落下したコボルトはしたたか頭を打ち付けながらも、すぐに跳ね起きて逃走を図った。
「ダメだよ、そっちは……」
 アムルが呟くと同時にアーチャーは足を止める。何かに耐えるように両耳を押さえ、腹の底から声を吐き出した。
 血走った目で振り返ったアーチャーがボウガンを振り上げる。その足が標的にたどり着くことは無く、イズマの拳に打たれ、巨木に叩き付けられた。
「うん、まずは一体。次は……」
 別方向から放たれる二本の矢。アムルは空へ飛び、イズマは背後に跳んだ。
「どうやら、一息つく暇も無さそうだね」
 うなずいたアムルは先程のアーチャーを狂わせたときと同じように、小さな羽音を響かせた。
「全部は倒しきれなかったとしても、できるだけ長く引き付ける」
 イズマも胸を張り、もう一方のアーチャーに向けて声を張り上げる。
「さあ来い! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」
 無数の矢が飛び交う戦場を二人は互いを気遣いながら駆け巡る。
 しかし二人が引き付けたアーチャーは三体。馬車の進行方向から見て西側に潜んでいた個体のみである。
 東に潜んでいた残る二体は、依然変わらず馬車前で奮闘するイレギュラーズに狙いを定めていた。
「ホントにもう、鬱陶しいわね!」
 ディアナは苛立ち紛れに自身を狙ったアーチャーを狙い撃つ。
 直撃ながらも致命傷には至らず、素早く物陰に隠れた。
「あの場所なら私に任せてっ!」
 ホロウが手のひらに漆黒の月を作り出す。
「そこで安心してるんだったらお生憎様だよ。障害物なんか関係なく、照らしてあげるから」
 小さな月は黒く輝きながら空に浮かび上がる。
 太い幹の裏から苦しみにうめく声が響いた。不利を察したコボルトはとっさに走り出すが、木の根に足を取られて転倒した。
 もがくアーチャーの首に締め付けられたようなアザが浮かぶ。その姿を見据えるホロウはアザと同じ形に指を動かしていた。
「さんざん痛めつけてくれちゃったから、あなたで英気を養わせてもらうね」
 野性味の溢れたコボルトの身体が急速にやつれていく。
 すべてを吸いつくされた後には声も上げられなくなり、ゆっくりと地面に倒れ伏した。
「ごちそう様でした、っと。ありがとう、美味しくなかったよ」
 ぺろりと唇を舐めたホロウは自分を狙ってきたもう一体のアーチャーをめがけて地面を蹴った。
 アーチャーによる脅威が逸らされたことで馬車前に陣取るイレギュラーズはファイターの迎撃に集中できるようになった。
 多数のコボルトを相手に奮闘しているのはカインと月夜である。カインが閃光を放って複数体を巻き込み、弱った個体に月夜がとどめを刺す。馬車を背にしながらもすでに三体を仕留めていた。
 戦況が変わったのはリーダーが動き出してからだった。先に倒れた部下の死体を持ち上げ、馬車に向けて投げ付ける。車輪が砕けてひっくり返る馬車からクリスが転がり落ちた。
 すぐに二人は依頼者を庇う位置に立つ。交易品に囲まれたクリスに月夜が振り返った。
「余計な真似はするんじゃねぇぞ。たまたま俺の後ろにある荷物を蹴り飛ばすほど暇じゃねぇが、足手まといを追い掛けてやるほどお人好しでもねぇからな」
 返事を待たずに前に向き直り、飛び掛かってきた最後のファイターを飛ぶ斬撃で始末した。
 コボルトリーダーは大ぶりの斧を肩に担いだまま戦場を見渡す。この場に残るイレギュラーズは五人。二体を相手に奮闘している景護を一度見やった後、睨みを効かせているカインに狙いを定めた。
「ここで終わらせる。主人を失った彼に、前に進んでもらうためにも!」
 カインも魔術書を手に首魁の叫びに呼応した。

●復讐の果てに

 最後の一振りが獣の喉を斬り裂く。
 コボルトファイターは断末魔を上げて崩れ落ちた。
 鬼の形相で仁王立ちする景護の姿はまさに鬼神の出で立ちだった。執拗なまでに鬼哮を叩きつけることで敵を引き付け、防御と反撃に徹する。その執念はファイターの半数近くを返り討ちにするという戦果として実を結んだ。
「見事でした景護。貴方の働き、誇りに思います」
「真優様のお力があればこその結果です」
 敵に囲まれる中、真優は攻撃も防御も考えずにただ傷ついた景護の身体を癒すことだけに務めていた。時にはコボルトと視線を交わし、自らを狙うよう誘導する仕草も見せた。
 それでも数多の攻撃を受け続けた景護の傷は深い。一歩踏み出すこともできずに膝が崩れ、地面に片膝をついた。
 真優は景護に駆け寄り、さらなる治療を施した。
「貴方はここに。皆様のお手伝いは私が」
「真優様の参られる場所が、この景護の居場所です」
 痛みに耐えながらも、真優に付き従って仲間の元へ歩みを進めた。
 二人の視線の先では、今まさにカインが一回り大きなコボルトと対峙していた。相手は手をかざすカインを警戒することもなく、大股に距離を詰める。放たれた閃光は確かに衝撃を与えたものの、たじろぐ様子は見せなかった。
「さすがリーダーってわけか。こいつは手こずりそうだ」
 振り下ろされた斧がカインの肩口から胴体を斬り裂く。
 痛みに顔を歪めながらも、怯まずノーモーションの衝術を放った。
 吹き飛ばされ、樹木に衝突したコボルトは威嚇するような咆哮を上げながら前かがみになり、突進の姿勢を取る。
 突き出した首を目掛けて刃が振り下ろされた。
 想定外の攻撃にコボルトリーダーは声を漏らす。その背後に立っていたのはイズマとアムルだった。
「臆病な部下たちはもう居ないよ。後はお前だけだ」
 自分のほうに向けられた顔を渾身の力で殴り付ける。
 身をよじったコボルトにアムルが至近距離まで近付いた。
「リーダーさえ倒せれば、終わり。だから……容赦しない」
 のんびりとした口調からは想像もつかない、目にも留まらぬ速さで刃を振るう。
 コボルトはよろけながらも反撃を繰り出すが、斧を持つ腕を焼かれて勢いを削がれた。
「そう、貴方だけは逃さないわ。二度と同じ悲劇を繰り返さないためにもね」
 最前線に躍り出たディアナは確実な勝利のために敵の退路を断った。
「だけとは言っても、こっちも終わってるから。後は親玉を倒せば完全勝利だよっ」
 東側での仕事を終えたホロウも加勢し、景気づけにと生命力を奪い取った。
 いかな多くのコボルトを従える軍団長といえど、数の優位を失えば徐々に追い詰められていく。度重なる攻撃によってコボルトリーダーは目に見えて疲弊していった。
 斧の重量にすら振り回される有様になったところを見計らって、月夜はずっと自分の背後に庇っていたクリスを見やる。
「今なら、テメェ自身で果たせるかも知れねぇぜ」
 コボルトの返り血に彩られたチェーンソーを差し出す。
 一瞬は手を伸ばしかけたものの、クリスは震えたまま動かなくなった。
「見てるだけでイイのか? アイツはお前の大事なものを奪った。その復讐のために何もかもを差し出した。だったらテメェの手でケリをつけるのが一番スカッとするんじゃねぇのか?」
 やはりクリスは動かない。うつむいたまま猫を抱き締めるばかりだった。
 月夜は鼻を鳴らし、チェーンソーを引き上げた。
「今日この場で起きたことを胸に刻みつけろ。それがお前の覚悟の結果だ」
 威勢良く声を上げた月夜は血しぶきと共に斬撃を飛ばした。
 利き腕が動かなくなったコボルトはついに斧を手放してうずくまる。その真正面に立ったイズマは依頼者に向けて片手を上げてみせた。
「君が望んだ依頼だ。ちゃんと見届けてくれよ」
 コボルトリーダーは血反吐を撒き散らしながらも立ち上がり、イズマの倍はあろうかという拳を突き出す。
 イズマは下がらず既のところでかわし、反撃の拳を打ち込んだ。
 巨体が宙を浮き、地面に沈む。罪無き商人の命を奪った悪漢が起き上がってくることは二度と無かった。
「これでまた、安全な交易ができるようになるといいな」
 大きく息を吐いたイズマは仕事を終えた達成感に満ちた表情で街道の先を見つめた。

 脅威が去った街道で依頼者の少年は倒れた魔物たちを恐る恐る覗き込む。
 たとえ悪しき魔物と言えどその死骸はむごたらしい。依頼を受けたイレギュラーズにも無傷の者はない。目的を果たしながらも、無力な少年の顔色は青ざめていた。
「割り切れない思いは、あるかもしれません」
 声も上げられずにうなだれる少年の傍に真優はそっと寄り添う。
「どうか叶いますなら、残されたご家族とともに、亡くなられた方のご意思を継いで歩み始めてください」
 クリスの瞳から涙がこぼれ落ちる。
 穏やかな太陽の光はいつまでも優しく彼らを包み込んでいた。

成否

成功

MVP

矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)
忠義はかくあるべし

状態異常

矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)[重傷]
忠義はかくあるべし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
皆様のご活躍によりコボルトたちは残らず退治されました。

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