PandoraPartyProject

シナリオ詳細

愉快なギャングのワンショット

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「やあキミ。いい目をしているね。ギャングなんかやってみないか」
 ローレットに居たあなたは突然声をかけられた。声の主は整った容貌の男だが、どこか酷薄そうな感じがする。
「最近大量のゴールドが闇市へ流れこんでいるのを知っているだろう?」
 その話題はしっていた。ガラクタから銘入りの一級品までなんでもござれのラサのキャラバン。最近開かれたそれを目当てに、金策で血眼になるものも少なくないと言う。かくいうローレットでも支援金の名目で某情報屋っ娘が体をはってゴールドを支給した美談があったばかりだ。
「じつはというかなんというか、貴族の間でもその噂で持ちきりでね。何を買ったとか買ってないとか珍しいものを手に入れようとしているうちにはまってしまったやつもいるのさ。たとえば、今から話す街の領主とかね」
 そう言って男は薄い笑いを浮かべた。
「貴族の身分で闇市での買い物レースへ金をつぎ込む……好きにすればいい、個人の自由だ。たとえ国が崩壊の瀬戸際まで追い込まれていてもね。あの連中は自分の首に刃物が押し当てられていようと目先の欲望の方に気を取られる人種だからそれは仕方がない」
 だが、と彼は続ける。
「ある街の領主は自分の財産からでなく、領民から搾り取った税金で闇市を堪能しているんだ。つまり、民の財布を当てにして、自分の財布からは1ゴールドもださずにいる。領民がほんのすこしでもましな未来をめざしてためたわずかなへそくりすら追徴、追徴、追徴課税で根こそぎ持っていくんだ。相当な不満が溜まっている、放っておけば遠からず暴動が起きるだろうね。
 で、だ。
 領主は銀行の貸し金庫へしぼりとったゴールドを溜め込んでいるらしい。量かい? 荷馬車でいうと2台分くらいはあるんじゃないかな? キミ達にはこのゴールドを盗み出して領民へ返してやってほしい。返し方はキミ達に任せるよ。屋上からばらまいてもいいし、必要だと思うところへ寄付してもいい。誰がいくら絞られたのか、もう本人たちにもわからないのさ。そのくらい疲弊してしまっているんだあの街は」
 わずかな苦渋をにじませ、男は話を続ける。
「問題の銀行だが、凸型の形状をしていて、上のでっぱってるところが貸し金庫にあたる。上下左右を分厚い鉄板で覆われているから、素直に正面からのりこんで重役に鍵を出させるのがいちばん確実なんじゃないかな。
 ちなみに重役の部屋は右側だよ。警備員が4人ほどいて、まあキミ達の力量の半分以下かな。とはいえ油断すると袋叩きに合うから気をつけて。室内での戦闘になるだろうからあまりレンジの長い攻撃は難しいと思うよ」
 どうしてそこまで親切ぶって悪事をそそのかすのか。あなたは問うた。
「貴族ってのはややこしいのさ。領主が失墜すると有利になる者も居るってことで、それ以上の追求はなしにしてくれないか」
 そう男はにやりと笑った。

GMコメント

みどりです。
時刻は昼。銀行へ侵入するところからスタートします。

警備員は人間種が二人とブルーブラッドが二人です。
ブルーブラッドはHPや防御技術に優れ、素手で戦います。
人間種は平均的な能力値ですが拳銃を所持しています。

  • 愉快なギャングのワンショット完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月09日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ジェニー・ジェイミー(p3p000828)
謡う翼
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
リラ・アクィラ(p3p005099)
ネバーモア

リプレイ


「うまくいくかしら?」
「うまくいくよ。ぜ~~~ったい!」
 馬車が二台、木陰で身を休めている。パカダクラで多頭引きにしてある馬車の荷台には、からっぽの箱がたくさん積まれていた。
 その助手席で二人の娘が声を交わしている。
 ひとりは『ネバーモア』リラ・アクィラ(p3p005099)、もうひとりは『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)。ふたりそろって地図を広げ、逃走経路を確認している。
「これってボク達義賊になるってこと? いいね、やりがいあるね! 勧善懲悪完全掌握!」
「ええそうね。計画をきちんと立てたもの。きっとうまくいくわ」
 黒服で身を包んだ二人は、木陰のさきにわずかに見える銀行を見つめていた。


 その一味は忽然と現れた。昼下がりの銀行、振込や預貯金の順番を待つ客がちらほらいる、そんな平和な場所へ。そろいの黒服、目深にかぶった帽子、目元まで隠す黒マスク。ギャング姿で身を固めた集団が現れようとは、誰が思っていただろう。
「動くな! …全員…その場から離れるな」
 石動 グヴァラ 凱(p3p001051)が狼のように吠える。威圧された一般人がびくりと体をすくめた。
『三面六臂』の九鬼 我那覇(p3p001256)がずいと足を踏み入れ、その異形を見せつける。近くにいた客が恐慌に駆られ、あたふたと後ろへさがっていく。
 ギャングだ、ギャングが乗り込んできたぞ。潮騒のように囁きと驚きが広がっていく。
 パリッと静電気の音が響き、銀行の中を稲光とともに轟音がつんざいた。焦げた書類が舞い、変形したペンがインク壺ごと吹き飛ぶ。間近に居た行員が腰を抜かしてへたれこんだ。
 胸元にマグノリアの花を挿した『信風の』ラデリ・マグノリア(p3p001706)がにやりと笑ってみせる。
「次は威嚇じゃない。当てに行くからな」
 ここへきてようやく現実にぶちあたったのか、人々はしんと静まり返った。驚きで体が動かない人々を相手に、『断章の死音』ジェニー・ジェイミー(p3p000828)が優雅な歩みで前に出る。
「さあ、頭の後ろに手を組んで、壁向いて並びな。言うことを聞いてくれれば、五体満足に帰れるさ。そう、私達が用のあるのは貸し金庫だけ。……貴族サマの抗争ごときで人死にが出るのは、気に食わないわ」
「反撃、とか、無謀だから、言う事聞いて、ね。こっちも、無辜の人を巻き込みたく、ない、よ」
『孤兎』コゼット(p3p002755)も油断なく言い添える。
 場にそぐわぬほど典雅な一礼をしたのは『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)。
「おとなしくしていただければ、危害は加えません。『金』という名の人々の未来を、返して頂きます」
 はっきりとそう言い切るリゲル。黒服たちが悪質な集団ではないと知れたらしく、行員までも素直に壁を向いて並ぶ。きっと貸し金庫の事情に通じており、やるせなさを感じていたのだろう。盗み出してくれるなら領主も面目をなくす、ざまあみろとでも思っているのだ。彼らもまた自分たちの薄い財布から未来を搾り取られた身なのだから。
 そんな雰囲気を感じ取り、ジェニーは貸し金庫へ目をやった。奥の扉の向こうに隠れたゴールドの山。そこまで集めるまでいったいどれほどの苦しみが積み重ねられてきたのか。
「あれもこれも欲しいのは分かるけど、運が悪かったね。ギャングより、わたしたちの方がタチが悪いわ。多分。……ったく。裏がある仕事じゃなきゃ、もっとよかったのに」
 依頼の成功を確信し、微笑するジェニー。
 背後を守るためにジェニーを残して一味は重役の部屋を目指した。四人の警備員が彼らを迎えた。獣種と人間種がそれぞれコンビを組んでいる。
「何者だ! それ以上近づけば発砲する!」
「あえて言うなら、うん、義賊、よ」
 コゼットが鋭く平手で宙を切り裂いた。そこからもくもくと緑色の霧が立ち上る。扇状に広がっていくそれは大毒霧。前へ出ていた獣種がもろに吸い込み、咳をくりかえす。
 リゲルが剣を正面にかまえた。毒霧を割って進み出ると、朗らかな声で名乗りを上げる。
「警備員殿、任務ご苦労です。突然ですが、休憩は如何ですか? 心地よい眠りをご提供しましょう! 私の名はリゲル=アークライト。光輝の使い手にして義賊なる者!」
「なんだと、ふざけるな!」
「貴様からのしてやる!」
 怒りに血を上らせた警備員の攻撃がリゲルに集中する。だがリゲルは倒れない。不動の壁となって彼らの前に立ちふさがる。彼自身のタフさにくわえ、後方に下がっていたラデリがこまめに回復をしているのだ。まさに最強の盾。警備員たちが次々発砲し、獣種の爪が肌を切り裂いても、リゲルはみじろぎひとつしない。
(これが騎士ってやつか。頼れるやつだ。守りはリゲルに任せれば万全だな)
 彼のタフさに敬意を表し、ラデリは短く口笛を吹く。
「そろそろこちらの手番かな……?」
 凱が両手をクロスさせる。石のタイルがはられた床の一部が不意に毒々しい紫に染まった。まるで水たまり程度の沼ができたかのようだ。それがぼこりと膨らみ、形をなして死骸が召喚され凱の盾になる。
「……立ち塞がる者はすべて俺の敵だ!」
 獣種の脇腹へ、脚甲を使ったシールドバッシュ。弱点を狙われた獣種、大きく体勢を崩した。だがそこは獣種、タフさには定評があり、すぐに立ち直る。だが反撃の矛先はリゲルへ向いたまま。攻撃を一身に浴びるリゲルと彼を支えるラデリのコンビが凱たちの安全を確保している。
「…なかなかやるな…ただのおぼっちゃんかと思っていたぜ」
「今日だけは騎士であることを忘れ義賊として働くと決めたんだ」
「その気概、我輩も大いに参考にするである」
 耐性強化魔術を自らへ施し、我那覇が戦場へ出た。体勢を低くして走り、勢いをつけてジャンプ。飛び蹴りを人間種へ。
「ぐああっ!」
 みぞおちへ強烈な蹴り。体をくの字に折り曲げ、人間種が吐瀉物を吐き出した。すえたようなつんとした臭いが鼻に刺さる。我那覇はさらにアッパーで黙らせ、胸を強打し追撃する。人間種が苦し紛れにはなった弾丸は明後日の方角へ飛んでいった。三面六臂の異形を持つ我那覇だったが、一連の動きはまるで踊っているかのようになめらかだった。無駄な動きの削ぎ落とされた格闘術は時に舞踊に似ると言う。それは我那覇が普段から険しい修業の道を歩んでいることの示唆にほかならない。
 ジャブでの牽制から後ろ回し蹴り、すばやく鋭い一撃に人間種は白目をむいて気絶した。
「ふむ、あと三人であるな」
 コゼットがふうわりと前に出た。かと思うと影のようにするりと獣種の背後をとった。
「ここを、ね。通してほしい、の。それだけ」
 言うなりコゼットは獣種の背中へ手刀を打ち込んだ。皮膚が裂け、血が飛び散る。
「言う事聞いて、くれないと、こっちもひどいこと、しなきゃいけなくなる、よ」
 儚げな少女とは思えないほどの獰猛さで手刀を振るう。黒いうさみみがぴんとつっぱり、彼女の戦意を示している。鋭い手刀は撃ち込まれるほどに速くなる。身長差を感じさせない攻撃のラッシュ。高速の攻撃に獣種の体がぐらりと傾いた。その機を逃さずコゼットは盆の窪を狙って一閃。
「……グオオ」
 たまらず獣種は意識を手放した。ずんと音を立てて床へ横たわる。
 凱が残った獣種へ脚甲を浴びせる。胸板へ食い込んだそれに獣種は数歩ずり下がるが、一声吠えて気合を入れると彼へ迫ってきた。鋭利な爪が凱を襲うが、死骸盾がそれを防ぐ。
「残念だったな……」
 どろどろと溶けていく死骸盾を貫通し、凱が一撃を叩き込む。
 我那覇が加勢し、獣種へ拳を叩き込んだ。ローキックの連打で後退させ、獣種の動きを封じていく。しだいに動きが萎縮していく獣種。どこからくるか読めない我那覇の攻撃によって、見えない檻へ囚われてしまっているのだ。
「まだやるであるか。コゼット殿の言う通り、我輩たちは貸し金庫に用があるだけなのである。人々から吸い上げられたゴールドを奪い返し、この町へ返却したいだけなのである。そのためには重役の持つ鍵が必要なのである。であるからして、他の人々と同じようにしてくれれば、これ以上の危害は加えないのである」
 とうとうと語る我那覇。獣種と人間種は目で相談している。やがて人間種が拳銃を捨てた。放り出されたそれが硬い音を立てて床の上を転がり、すべっていく。ラデリがその拳銃を足で踏み、止めた。
「どういう風の吹き回しだ?」
 ラデルの問いに獣種と人間種はバツの悪そうな笑みを浮かべた。
「簡単な話だ。つまり、自分のことしか考えない領主と義賊のイレギュラーズ。どっちを信用するかってことだ」
「あの貸し金庫にはオレたちの自由やささやかな夢が詰まってるんだ。頼んだぜイレギュラーズ」
 そういうと二人は背を向けて壁を向いて並んだ。
「降参するのですね。大丈夫、あとは俺たちに任せてくれ」
 リゲルが微笑み、剣をさやへ戻した。

 コゼットが扉を開くと、窓から重役の尻が突き出ていた。逃げようとしたが、そのままはさまってしまったらしい。
「まったく手のかかる!」
 ラデリとリゲルが引っ張り出してやると、ふとっちょの重役は尻から床に落ちて悲鳴をあげた。痛みと、それからイレギュラーズに囲まれている恐怖の悲鳴だ。
 リゲルが剣の切っ先を重役へつきつける。
「享楽はご自身の責任とお金で享受されるべきでしょう。不当に集められたお金は不当に奪われても仕方ありません。ご理解頂けますね?」
「し、しかし私は領主様から鍵を預かっているだけで……」
 ――ゴガン!
 凱が壁を殴りつける。重役は真っ青になって震えだした。
「時間が惜しい。鍵は貴様ごと回収する」
「汝の都合など知ったことではないのである。鍵はどこにあるのであるか。まずはそれを教えるのである」
 我那覇が三つの顔をずいと近づけると重役はネズミのように縮こまった。
「闇市は、自分のお金で、できる範囲で、やらなきゃ、だめ」
 コゼットが重役のつま先をぎゅっとふんづけた。重役は飛び上がると、やけになったかのように机の一番上の引き出しを開けた。小箱を開けると巨大な貸し金庫の心臓たる重厚感あふれる鍵が鎮座していた。
「うん、いいこ。よくできまし、た」
 我那覇が重役を拘束し、ラデリが鍵を手に取る。そしてリゲルが窓から顔を出し、大きく手を降った。


「来たわ、合図よ!」
「イヤッッホオウ! ボクたちの出番だね!」
 リラとヒィロは一斉に馬車を走らせた。あっという間に銀行の入り口へ横付ける。彼女たちがまず荷台へ積んだのは、気絶した重役だった。
「人質だね、わかったよ! 重役さんも大変だね。災難だけど、恨むなら領主様か神様にしといてね……」
「追手がくるかも知れないもの。人質は大事よね」
 ゴールドの詰まった袋を運んできたラデリに、ヒィロが話しかける。
「ねえねえ、ボクタチも貸し金庫の中が見てみたいよ」
「ああ。ついでに積み込みも手伝ってくれ。すごい量だ。こいつはかなわん」
 期待で胸を膨らませ、息せき切ってヒィロとリラは貸し金庫へ急いだ。そこにあったのはまさに黄金郷(エル・ドラド)。そこかしこに箱が積まれ、袋からはゴールドがあふれて床まで金色に輝いている。場所が場所ならドラゴンの寝床と勘違いしそうな空間だった。
「うわあすごい! これ全部運ぶの?」
「そうよ。当然じゃない。一枚一枚すべてが街の人のものなのだから」
「わかった、ボクがんばるよ!」
 ヒィロとリラはせっせとゴールドをかき集め始めた。
 では、と先置きして我那覇が外へ出ていった。警備と人質の見張りをするつもりでいるらしい。
 ヒィロは手近にあった袋を持ち上げてみた。重い。ずっしりと手応えのある感触。これが全部人々から奪われたものなんて……。そう思うとうれしくなるはずの重みが、かなしみの代弁のように思えてきた。
「よーし、ボクばりばり運ぶよー!」
 両手に袋を抱え込み、えっちらおっちら来た道をたどる。すると銀行の中に居た人々が皆こちらを向いているのが見えた。
(もしや一斉攻撃……!?)
 一般人相手でも不意を打たれれば危うい。重いゴールド袋を担いだ今の状態では反撃もままならないからだ。背筋をひやりとしたものが滑り落ちる。
 だがヒィロたちを迎えたのは暖かな拍手だった。
「よくやったイレギュラーズ!」
「最高よ! 悪徳領主をこらしめてくれて!」
「これからも応援するぜ!」
 町の人達の祝福を受けながらヒィロたちは前へ進んだ。胸を張って堂々と。
「なんだか最初に思ってたのと違うな。義賊か……まあ、たまには悪くない」
 ラデリがぼそりとうそぶく。
「善も悪も評価者次第。見ている人はきちんと居るってことだね」
 リゲルが快活に笑う。
「とはいえ警邏に連絡が行ったかもしれないわ。さあさ急いで、銀行強盗一味に時間は味方してくれないわ。それに私ね、実はね、御者台に座るのなんて初めてなの。ここまではこれたから安心と思いたいのだけど……」
 リラが眉を曇らせる。たしかにあまりのんびりしていては面倒な事態になりかねない。銀行員たちは味方してくれているが、警邏が相手となるとまた話は別だ。
 一味は一丸となってゴールドを馬車へ運び込んだ。重いものを持って行ったり来たりするのは、ある意味戦闘よりも厳しかったと言えよう。すべてのゴールドを積み終え、貸し金庫を金貨一枚ないすっからかんにして、黒服たちは自分たちも馬車へ乗り込んだ。
「手綱さばきは拙いかも知れないけれど、がんばるわ。なんだかちょっぴりわくわくするわね? …さ、馬車引く可愛い子達。あなた達のご主人様のためにも少しだけ言うことを聞いて頂戴な」
 ヒヒンと愛馬がいななき、パカダクラがそれに追従する。猛スピードで走り去る馬車二台。警邏が駆けつけたときには、既に銀行はもぬけのから。事情を聞こうにもその場にいる誰もが非協力的で、似顔絵一枚作ることができない有様だった。こうして真っ昼間に行われた大胆な犯行は、見事に成功を収めたのだった。


「「乾杯!」」
 馬車を手頃な洞窟へ隠し、イレギュラーズたちは変装を解いて食堂で勝利を祝っていた。
 はい、おきゃくさま、すぐおうかがいします。おまちくださいませー……。店内には熱気がこもり、皆我が事に夢中で少々声を潜めればじゅうぶん内緒話ができた。彼らは盗んだゴールドの使いみちについて目下相談中なのだった。サラダをほうばりながリゲルが言う。
「俺は教会へ寄付するよ。教会といっても数軒あるし、なんといっても福祉の中心だからね。俺たちは特異運命座標(救世主)だ。その責務を忘れないようにしないとな」
「そうなんだ。ボクはどうしようかなー。ただ同然の家賃でアパートを貸しているところがあったからそこの大家さんにしようかな」
 ヒィロも桃ジュースを味わいながら意見する。ジェニーがシチューをさじですくった。
「わたしも……教会ね。特に行き場のない人のために炊き出しをしているようなところ、わたしもお世話になったことがあるからね」
「私も教会にするつもり。情報収集を手伝っていただいたしね。あの人達なら使途は皆にとってより良きようにとりはからってくれるわ。ギャングとの約束でも守ってくれる方たちですもの」
 ウインクひとつこぼしてリラはころころ笑う。
 ラデリがワインをつぐ。
「ギャング、か。……そういう依頼だとわかっていても、悪役は慣れなかったな。今回のように町の人々が味方してくれることもめったにないだろうし……まあいい、早く終わらせよう。俺は孤児院と、さびれた商店街へ寄付するつもりだ。復興の資金にしてもらえればうれしい」
 しかし、とラデリは黙考する。闇市というのは恐ろしいな。下手な貴族が狂うと、街一つそのものが疲弊するとは。相棒の財布も握っておくべきだろうか、と。
「あたし、は、恵まれない子どもの、青空教室へ寄付する、よ」
 もくもくとパンケーキをつついていたコゼットがそう言う。
「吾輩は病院であるな。施設が充実すれば救える人が増えるのである。費用対効果が高いのである」
 三つの顔それぞれに食事をしながらの我那覇。隣で凱がコップを置いた。
「寄進先については決まったな。こういうのはバラけている方がいい。余り纏まった金が強盗から直に湧いたとなれば領主に目を付けられかねんからな。あとは、ある程度時間を置くとより安全だろう」
 そうだねとヒィロが引き継ぐ。
「これで少しでも領民の人たちに笑顔と明るい未来が戻るといいね……」
 
 数日後。
 さまざまな福祉施設へ大量のゴールド袋が投げ込まれた。
 一枚のメッセージカードを添えて。

「幸運なイレギュラーをあなたに
 正しく使ってくれることを望む
        黒服の義賊より」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでした
皆さんは民衆からの厚い信頼を得ることができました
それにしても闇市は怖いところですね
またのご利用をお待ちしています

PAGETOPPAGEBOTTOM