シナリオ詳細
暗黒魚を求めて
オープニング
●暗黒魚の影
暗い洞窟の何処かで、ザパンと音がする。
その音に、洞窟の中にいた獣型モンスターが反応して……水辺へと視線を向ける。
何かが居る。それは獣型モンスターの注意をひき殺意を呼び起こすには十分だったのだろう。
ザバン、と。何かが水の中から飛び出す音が聞こえて。
暗い洞窟を照らす鮮烈な電撃が獣型モンスターを貫く。
「ガッ……!?」
一撃で黒焦げにされた獣型モンスターは水の中に転がり降りて。
そして……二度と、浮かび上がることはない。
その後、ザバンという水音は途絶えて。
時折、小さな魚がパチャンと跳ねる可愛らしい音が響く。
この場所に何か異質なモノが潜んでいる事実を、暗闇の中に隠すように。
●暗黒魚狩りへの誘い
「暗黒魚と呼ばれる魚がいるです」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201) はそう言うと、テーブルに紙を広げていく。
それは、一見すると黒一色で描かれた魚の絵に見えた。
躍動感のある、ちょっと凶悪な牙の生えた魚の絵。
壁に飾っておくには背景の類が足りない気もしたが、まあまあの出来には思える。
……そんな事を思ってしまう程度には「ちょっとこれ現実にいる魚なの?」という感じの絵だ。
何しろ牙どころか角が生えているのだ。モンスターならともかく「魚」という触れ込みで紹介されるには少しばかりファンキーが過ぎる。
「複雑な条件が重なった場所に自然発生する魚で、基本的に洞窟の中の水域に住んでるです」
それも深い洞窟の奥底にしか住まないらしく、どういうわけか過去には遺跡の奥の水場での発見記録もあるという。
しかしその発見報告自体が非常にレアで、発見報告を受けて捕獲部隊が派遣されてもたいてい誰かが食べた後……というような、そんな魚なのだ。
「まあ、そんなこんなで味の記録も残ってないような魚です」
まず過ぎて記憶から消したのか、それとも旨すぎてライバルが増えるのを嫌ったのか。
分からない。分からないが……その謎に対する疑問は、チーサのギフトと合わさり、1つの依頼を生み出すに至ったのだ。
「……私の食材レーダーに暗黒魚が引っかかったです。しかも今が旬。こいつはやべー話です」
依頼人からのオーダーはただ1つ。
暗黒魚なる魚が本当に美味いのかどうか、確かめてきてほしい。
ただそれだけだ。
「依頼人は学者さんでして、暗黒魚のデータを求めてるらしいのです」
ウィンウィンってやつです、と。チーサは歯車を回すような謎のポーズをしながらそう語るのだった。
- 暗黒魚を求めて完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談3日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●巨大魚を追え
暗い洞窟の中を『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)たちは進む。
奥に水場があるせいなのか洞窟はジメジメと湿っており、時折ピチョンと水滴が垂れてくる。
「ナゾの古代魚を追え! って練達のコンテンツにありそうだよね? 大体ニセモノなんだけれど」
「でも、今回は本物なんだよね?」
「そうだね」
イグナートは、『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)の言葉に、チラリと『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)を見る。
今回の暗黒魚の件を依頼の形にまとめて持ってきた張本人であるが……ということは、本物であるのだろうとルアナは思う。
そこを疑わないからこそ、全員がこの場にいるのだから。
未知の巨大魚。そのワードは、好きな者にとってはたまらないワードであり、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)もワクワクを隠せてはいない。
「暗黒魚かぁー! 真っ黒なお魚さんだっけ? 角生えてるらしいって?ど んなお魚さんなのかわくわくするねー」
「味の判らない幻の魚ってワクワクするよね。上手く取れれば全員が食べるだけの量にはなるのかなぁ?」
「まあ、食べられるお魚なのかちょっと疑わしいんだけど」
冗談めかして言うルアナに、『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)も軽い笑みで返す。
まあ、常識で言えば暗い場所で突如発生する類の巨大魚が美味しいはずがない。
「そこは問題ねーです。暗黒魚は巨大魚であり、大抵『食べられた後』に見つかってるです』
そんな事を言うチーサに喜びの表情を見せる仲間たちの中、冷静なうちの1人である『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)は「ふむ」と頷いてみせる。
「暗黒魚……私のいた地球では見たことがない魚だ」
アクセル自身、私は作れる料理があまり多くは無い。
しかしアクセルがいた国では魚料理は馴染みが深いし、学術的な興味はある。
闇医者ではあっても故郷で医者を生業としていたが故か、メジャーや筆記用具などの記録用の道具の準備もぬかりない。
「暗黒魚かぁ……! 美味しかったらヴァリューシャのお土産にしたいなぁ……」
「とらぁ……」
「うん、頑張ろうね。とらぁ君!」
この場に居ない『可愛い太陽』の事を考えながら、『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)はマスコットのとらぁ君と頷きあう。
マリアの目的としては、なんとか『可愛い太陽』にも暗黒魚を味わわせてあげることだ。
その為の準備は万全なつもりであり、その喜んだ表情を思わず思い浮かべてしまう。
しかし、そう簡単にいくものではない。何しろ、相手は知る人ぞ知る食材。
そして……。
「来るの! 敵なのよ!」
『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)の叫びに、全員が武器を取る。
「ウキ―!」
「ウキキー!」
「ウッキキー!」
猿の数は、総勢8匹ほどだろうか。何かしらの格闘技術を修めているとおぼしき動きをする猿たちに、胡桃のふぁいあすと〜むが放たれる。
「ウキ―!」
「ウキアー!」
炎の旋風にあっという間に燃やし尽くされてしまう猿たちに、放った胡桃自身がポカンとしてしまう。
「これは……胡桃さんが強いというヨリハ……」
「然程強くない、という認識の方が正しいだろうな。数を頼みに生き残ってきたのか、減っても大丈夫な程に多産なのかは断言できないが」
『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)の言葉をアクセルが引き取り、そう続ける。
本当はどうであるかは分からない。しかしアオゾラたちに分かるのは「どうやら数がいても敵ではない」という、その事実。
アクセル自身、戦闘で自分が回復役として活躍するような事態にはならなそうだと、不愛想な中に安堵を浮かべていた。
「まあ、でも……とらぁ君も強いけれど、危ないから念の為に後ろに下がっておくんだよ?」
「とらぁ……」
「どちらにせよ、方針は見つかりましたね」
とらぁ君に言い聞かせているマリアを見ながら、オリーブはチーサへと振り向く。
「ナコックさんに危険が及ばないようにするには……手を出される前に叩いてしまえば良いのです」
「ご配慮感謝なのです」
そう、マリアの言うとおりに此処では「手を出される前に叩いてしまえ」が一番効くだろう。
そして……それだけではない。
Я・E・Dとマリアの目は、すでに敵ではなく別の何かを見る目になっている。
どう活用できるか。それを考えているのが察せられる目だった。
「しかしまあ、中々面白い猿だったな」
「そう?」
「ああ、次もし一匹で来ることがあったら俺に任せてくれ」
イグナートにルアナが頷いた、その矢先。
「ウキ―!」
おあつらえ向きといった具合に猿が一体現れて何かの拳法らしきポーズをとってみせる。
「サルがカンフースタイルだって? ちょっと揉んでやろうじゃないか」
「ウキエー!」
「攻撃が軽い! オレ程度じゃ達人を名乗るのはおこがましいけれど、ちょっとケイコを付けてやろう!」
襲ってこなくなるならそれでよし。そう考えていたイグナートではあったのだが……。
「……逃げたね」
「逃げたな」
何度かの打ち合いの果てに逃げていく猿を見て、Я・E・Dとアクセルはそう呟く。
どうやら相互理解は難しかったようだが……仲間の猿と、どういう仲か熊まで引き連れてくる猿を見て、気持ちを即座に切り替えれる。
「熊は正面からぶっ飛ばす! そんでもって餌だ!」
叫ぶイグナートに、誰もが頷く。襲ってくるなら容赦はしない。
そしてその命も無駄にしない。全ては、暗黒魚のために。
その心は、出発前に胡桃の発した言葉が全てであるかもしれない。
「なんと、記録にも残らないほど貴重なおさかな。美味しい可能性が高いのなら、もう洞窟の底だろうと進むしかないのよ」
そう、進むしかない。
そこに、美味があるのならば。
●捕まえろ、暗黒魚
「此処が……暗黒魚がいるかもしれない水場か」
かなり深さはありそうだと、アクセルは投網を準備しながらそんな事を思う。
あくまで自分の用意してきたものは各自が用意してきた複数の作戦の中の1つでしかない。
何しろ、捕獲方法など確立されているはずもないのだから。
「暗黒魚ですか。妙な魚ですね。自然発生するという時点で不思議が一杯です。精霊の一種なのでしょうか」
「うーん。精霊さんだったらちょっと食べにくそうだよねえ、気持ち的に……」
釣り上げを狙っているらしいオリーブ同様に釣り竿を用意していたルアナが僅かに苦笑する。
しかしまあ、精霊ではなく魚であろうことは確実だ。
「えっと、多分この辺にいるんだよね」
「此処以外に水場もなさそうですシネ」
ルアナにアオゾラもそう答え、釣り糸を投げる。
暗黒魚を捕まえる為に選んだ手段は様々だが、やはりオーソドックスな釣りを選んだ者は多い。
多いが……用意した餌も様々だ。
「おじさまが持たせてくれたお弁当に入ってたお肉をつけてみよう。おいしいよー?」
そんなルアナのほっこりするような餌。
「というわけで、道中の猿と熊は引きずって来たよ。釣り竿の糸に猿を括りつけて投げこめば食いついてくれるかも」
「さぁ! とらぁ君! 一緒に魚を釣ろうね!」
「とらぁ……」
Я・E・Dやマリアのように、道中で狩ったモンスターたちを餌にする者もいる。
かと思えば、アオゾラのようにその辺に居た虫を餌にする者もいる。
「前見た絵本の話だと、きつねが尻尾を水に漬けて釣りをするけど、水面が凍って身動きが取れなくなりました、というのがあったのよね」
「やるんですか?」
「わたしは当然そういう事はしないので。ちゃんとつりざおと餌を持ってきたの」
ちょっと興味があったらしいオリーブにふるふると首を横に振って、胡桃は釣り竿を取り出す。
「見事にふぃっしゅを決めてみせるの」
すでに気合は十分。釣れた暗黒魚を仕留める為にイグナートも待機している、まさに鉄壁の布陣である。
「チーサさんは離れててね。料理の準備をしてくれてると嬉しいな」
「任せるです。準備はバッチリにしておくのです」
言いながらまな板などの準備をしていくチーサにЯ・E・Dは頷き、水場へと視線を向ける。
どうやら普通の魚らしい波紋はあるが、暗黒魚と思われるものは今はない。
「おお、釣れ……普通の魚だ!?」
何やら普通の魚を釣ってしまったらしいマリアではあるが、魚は魚だ。
手早くチーサの手で刺身にされていくが……肝心の暗黒魚が釣れてはいない。
「……おさかなさん、まだかなぁ」
呟くルアナが、ちょっと餌を変えてみたりしつつ……のんびりとした時間が過ぎていく。
「素潜りで殴りに行った方がいいのかな……?」
「ならお手伝いを。わたし泳げるもん!」
ポツリと呟かれたイグナートの言葉にルアナが食いついたその時。
「む!? こ、これは!」
マリアの竿に、何かがヒットする。
油断すればマリアごと引きずり込まれそうな激しい勢いの引きに、その場の全員がマリアを支えるために駆け寄って。
「うわぁ!? でっかいね!? ふふ! 私に電撃は効かないよ!」
どばあん、と。凄まじい音を立てて水の上へと引きずり出された暗黒魚に、マリアが叫ぶ。
巨大な、黒々とした身体。額に生えた巨大な角。
そこから放たれた電撃にマリアが「ぐぬっ」と声をあげるが……その時にはもう、イグナートが飛び出している。
逃がさんとばかりに繰り出された雷吼拳は……その後のとどめを待つ必要すらなく、暗黒魚を絶命させたのだ。
「ふー。何とか捕まえられたね。後は美味しく食べるだけ……。ごめんね。残さずちゃんと食べるから」
ルアナの言葉通り。いよいよ待ちかねた調理、そして実食の時間である。
●暗黒魚、実食
「中々面白い魚だったな……」
スケッチに各種測定を終えたアクセルの目の前にあるのは塩焼きと……トマト缶と野菜と一緒に煮込んだスープだ。
主張の強いトマトはトマト缶になることで、主に煮込み料理に強い影響を与える存在になるが……塩焼きにした時に出てくる油を見るに、それに負ける程淡白な味ではない事を予想させる。
「……ああ、旨いな」
暗黒魚の刺身。最初こそ抵抗があったものの、今となってはアクセルにも然程の抵抗はない。
コリコリとした食感と、確かな味。それの素晴らしさが、アクセルにも理解できる。
「命に感謝して……いただきます……」
「とらぁ……」
マリアが用意したのは暗黒魚のしゃぶしゃぶに暗黒魚大根、それに照り焼きだ。
刺身を味見してすぐに自分の知っている魚と同様の何かだと気付いたが故の調理であり……すでに何人かが食べながら頷いているのが見える。
「ふふっ! やっぱり獲れたてを調理するのが最高に美味しいね!」
「揚げたのも美味しいの」
もぐもぐとフォークを動かしながら食べる胡桃は火を通したものが好みのようで、マリアの用意したメニューもフォークが進むようだった。
「余り美味しそうに見えませんでしたが、中々美味しいものデスネ」
「……うん、新鮮だから身にプリプリした弾力があって油のノリも良いね」
アオゾラにЯ・E・Dも頷き、刺身を口に運んでいく。
醤油とワサビとマヨネーズ。準備は完璧で、急な味変にも対応可能だ。
「わたしは油の強い腹身の部分の方が好きかなぁ」
用意されていく料理を食べていくЯ・E・Dだが、その中々のスピードをもってしても暗黒魚の量にはまだまだ余裕がある。
「それじゃオレは生でもらおうかな! オールドワンに耐性があるのはこんなときのタメさ!」
「任せるです」
イグナートのリクエストに応えて用意された刺身。
Я・E・Dの用意した醤油だけではなく、ネギ、臭み消しに香草類、牛乳、チーズまで用意している。
しかもチーサが手に入れづらいかもしれない各地の特殊なものを……という気の遣い方だ。
これは実にチーサの琴線に触れたらしく、調理速度が微妙にあがっている。
「旨ければ毒があっても食べる! あとで回復すればオッケーだからね!」
「そうですね。まあ、あとでオーストレームさんの診断を受けるべきでしょう。何かあってからでは遅いですからね」
「いや、問題はなさそうだ。普通の魚だ」
オリーブを安心させるようにアクセルは答え、再び料理に舌鼓を打つ。
「本当に美味しいなあ……皆の料理も最高だよ!」
「野菜と一緒に煮つけても味が身に沁み込んで良い感じだね。焼き物は皮と一緒に食べるとパリパリしてて良いと思う、でも皮はちょっと固めだから玄人向きだね」
ニコニコと微笑むマリアに、批評家じみた事を言うЯ・E・D。
「頭は兜焼きが良いな。角と牙がちょっと邪魔だけど、わたしは面白い食感で好きだよ」
「まあ、作れと言うなら作るですが……」
ちょっと凶悪そうな面構えの暗黒魚の頭部を調理し始めるチーサだが、ともかく……どうやら、マリアの所望するお土産も含めて綺麗に片づけることができそうだ。
そして、その感想は……無邪気に笑うルアナの感想が、一番ぴったりであるだろう。
「ふへへ、美味しい!」
幸せそうなその笑顔。
ただそれだけでも、この場に来た甲斐があると思わせるような……そんな、満面の笑みだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
コングラチュレーション!
暗黒魚を美味しく頂きました。
それではまた次のシナリオでお会いできれば幸いです!
GMコメント
暗く深く複雑な洞窟の奥底に居る暗黒魚を捕まえて食べるシナリオです。
戦闘そのものよりも探索、捕獲、実食などにプレイングを割くと幸せになれる可能性があります。
敵データは以下の通りですが、余程油断しない限りは平気です。
・猿型モンスター×たくさん
カンフーじみた動きをします。動きが素早く、弱い相手を見極めるのに長けています。
・熊型モンスター×最大5体。
パワータイプ。真正面から牙と爪を使って襲ってきます。
・暗黒魚×1匹
最奥の水の中に潜む魚。ブリみたいな味がするようです。
水の中では自由自在に動き牙での噛みつきに角攻撃、水の外に出ると強烈な電撃攻撃を放ちます。
全長2M程の大きさです。
暗黒魚の捕獲方法は自由です。
釣ってもよし、素潜りで挑んでも良し。
見事捕まえた後は、暗黒魚パーティです。
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)が同行しております。
戦闘力はほぼゼロ(一般人レベル)なので、すんごい足手纏いです。
暗黒魚をお刺身にしてくれる程度の調理技能はあります。
なお、チーサの「食材レーダー」は自動発動につき、このシナリオ中に再度発動する可能性は非常に低いです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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