【マジ★マギ】今日はいわゆる、日常回？

オープニング

●いつものわたし、平和な一時

「いってきまーすっ！」

　そう言って、セーラー服の少女が一人家を飛び出した。彼女の名前は『辻木りりこ』。ごくごく普通の中学生だ。
ここは『夢野町』。一部の旅人が思い描く『地球』の姿……或いは、練達で言う所の希望ヶ浜にあたる、そのぐらいの町並みが広がる。

　しかし、つい今し方りりこが飛び出した家、その二階の窓から、突然何かが飛んでくる。
形はおたまじゃくしに似ているが、それが、ぽす、っとりりこの頭に着地する。

「ムギュッ！」
「りりこヒドいニョロー！　ボクを置いてかないでって言ってるニョロよ〜！」
「もーっニョーちゃん、勝手に動いちゃ駄目って言ったでしょ？　パパとママに見られたらどうするの！？」

おたまじゃくしを大きくして、かわいい目を付けたような珍妙な生物の名は『ニョーちゃん』。
なぜこれが、りりこを追いかけてきたのかといえば。

「だってりりこ、ボクが居なきゃ変身出来ないニョロよ？　学校に行く途中で何かあったらどうするニョロ！」
「も〜、大丈夫だってば、怪人とボスのジャアークは、この前やっつけられたんでしょ？　それじゃ、当分は大丈夫だよ」
「甘いニョロりりこ、『魔法少女』は、いつ何時でも、戦える心構えをするべきである」

『魔法少女』。少女達の憧れ。お姉さん達の黒歴史。大人達がリビドーを注ぐ存在。
辻木りりこは、何を隠そう、その『魔法少女』の一人なのだ……けれど。

「そうは言っても、ニョーちゃんのセンサーが反応してないんだから、今日は大丈夫だよ〜！　さっ、早く学校行こっ！」
「やれやれニョロ……」

ともかく、魔法少女たる彼女の、普通の少女としての一日が始まろうとしていた。

●レッツ、日常回！（※ただし全員女子になるものとする）

「そっか、この前は、ずうっとドタバタしちゃってたからね」

境界案内人は、うんうんと静かに頷き……しかし、不安げな表情を覗かせる。

「でも、なんだろう……この、引っかかる感じ。……ねえ、イレギュラーズ。遊びながらでもいいから、この世界の様子、ちょっと見てきてくれる？」

境界案内人がそう言うのなら。そうやって、現地へと足を運ぼうとした、その時。

「あ、あと、あの『お約束』は健在みたいだから……一応、覚悟、決めて行って」

マジで？

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第2章

第2章 第1節

　夢野中学校で、放課後のチャイムが鳴り響く頃。
ショッピングモール『DREAM』では、『小悪魔系アイドルキューティン』による単独ライブが開催されていた。

「みんな〜！！　今日はアタイのライブに来てくれてありがとう、地獄の底まで付き合ってね〜！」
「わー！！！！」
「キューティンちゃ〜ん！！！」

　なかなか見られない生のアイドルの姿に、沸き立つ町民達。
しかし、キューティンの代表曲『ずっとズット一緒だヨ★』のイントロが流れると共に、魔法少女たる貴方の勘は告げる。

このライブ、何かがおかしい。

　その予兆どおり、キューティンの歌を聞いている街の人々は、徐々にその瞳を虚ろにし、見るからに正気をなくしている。
おかしいのは、ライブ会場にいる人ばかりではない。

自宅に居たはずの町の主婦や、職員室に詰めていた教師でさえ、そこを飛び出し、彼女の歌が聞こえる方へと歩き出してしまう。

「りりこ、怪人の反応があるニョロ〜！」
「えっ……本当だ、DREAMの方で何か起こってるみたい！　急がなきゃ！」

　貴方はショッピングモールへと駆けていくりりこの後を追いかけただろうか。
それとも、悪魔のライブが始まってしまった、その現場に居合わせたのだろうか。

　いずれにせよ、この事態を引き起こしているのは、間違いなくあの『キューティン』と名乗るアイドルに間違いないだろう。

　だが、彼女と戦う以前に、洗脳された町の人々が、彼女の盾になる可能性は否定できない。
幸い、魔法少女としての力……もとい、イレギュラーズとしてのスキルは、今もその身に備わっている。

　例えば、町の人達を説き伏せ、彼女の元に向かうのを止めさせるか。
そもそも、ライブ会場までたどり着けないように、道を塞いでしまうか。
はたまた、キューティン以上のカリスマ性で、町民のを味方につけてしまうか。
あるいは、説得（物理）で正気に戻すか。

イレギュラーズよ、魔法少女としての無限の可能性を、ここで示すのだ！

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第2章 第2節

　今まさに下校しようとしていたバクは、職員室から虚ろな目をした教師が、ふらり、ふらりと歩き出し。外で部活動をしていた生徒や、その顧問までもが、何処かへと向かおうとする姿を目撃した。

　ふと、視界に入ったのは、校庭の演説台。あそこなら、きっと目立つ。
マイクのスイッチをオン。そして、叫ぶ。

「聞けぇい！　これより語るは只の説法なり。しかして阿呆の汝らを覚醒すには十分な物であろう！」

　学校に居た者達の視線が、一斉に彼女の方へと向けられる。しかし、まだ向いただけ。それでも、言葉を届ける事を、諦めはしない。

「行くな、この場に留まれぇい！　汝らは皆、他に為すべき事があろう。何処ぞに足を運ぶは何故か？　己の職を放棄して向かう程の物か！」

堂々と語るバクの姿に、一人、また一人と、瞳に理性を取り戻していく。

「目覚めるのだ、皆の者！　何とも知れぬ魔性に折れてはならぬ！」

　少女の姿だろうと関係ない。バクのカリスマ性、そして真摯に語りかける姿に、校内にいたもの全てが、正気を取り戻した。

「あれ、あたし……学校終わったら『DREAM』に行こうと思ってて……あれ？」
「なんで俺、大事な大会の前なのに……こんなにキューティンちゃんのライブに行きたかったんだろう……」
「『DREAM』に、『キューティン』とな」

　ここの者を止めたとて、諸悪の根源を叩かねば、きっと同じ事が繰り返される。バクも急ぎ、現場へと走り出すのだった。

成否

成功

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第2章 第3節

　『DREAM』の駐車場には既に多くの人が集まり、モール内へ入ろうとしている。人々のただならぬ様子に事件の香りを感じ、流れを追ってきたのは雨紅だ。
モールからは、微かながらも邪悪な気配を感じさせる歌声が聞こえてくる。当然、これを放置する事などできない。

　彼女は考える。自動ドアを封鎖してしまえば、今駐車場に居る人間は足止めできるかもしれない。しかしそれでは、既に中に居る人達の避難に支障が出かねない。
　ふと、指先がポケットに入ったミュージックプレイヤーに触れる。そうだ、これを使えば！
雨紅は再生ボタンを押すと共に音量をMAXに設定。
二胡の音色をバックに、ゆらり、その身を揺らし始める。
洗脳された生気のない目でも、動く物や音に反応せずには居られない。モールの出入り口付近で、人々の多くが足を止めた。

　取り出すは愛用の槍、それをぐるりと回しては、曲に合わせて大地を踏みしめる。そう、これは彼女の得意とする演目の『舞踏』。時に槍をアスファルトに突き立て、その勢いで宙を舞い。時に槍を軸に回りながら、その脚線美を見せつける。
彼女が仮面の下で、きゅっと口を引き結び、真剣に舞を続けている事は、誰しもに伝わる事だろう。
　最後に、仕上げとばかりに、穂先を天へと突き上げた後。観客に向けて、深々と一礼をする。

　舞が終わる事には、雨紅に向けて、悪魔の歌を掻き消さんばかりの称賛の拍手と歓声が響いていた。

成否

成功

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第2章 第4節

　クレープで心と小腹を満たしていたノルンもまた、イベント会場の異変に気づいていた。
ステージ前を埋め尽くさんばかりの観客、そしてポップで可愛らしい少女の歌声……に反して、明らかに歓声が少ない。

　少しでも全体像を見渡そうとモールの2階から見下ろしてみれば、ライブに集った町の人が、虚ろな目でキューティンを見つめ、彼女もまた妖しい含み笑いでそれを見ているではないか！

ノルンは考える。今、町の人々の目は、ステージに釘付け。単に『その歌を聞くな』と言っても聞こえないし、キューティンに洗脳された人々に排除されかねないだろう。ならば。
ノルンは手摺に手を駆け、兎のように軽やかに飛び越え……ステージに向けて勢いよく飛び降りた。

「ボ、ボクの歌を聞けーっ……！！」

空より舞い降りた天使と見紛うばかりの純粋な歌声は、悪魔のアイドルの歌を押していく。

「な、なんだあの子は」
「キューティンちゃんもいい……けど……」
「な……なんてカワイイ子なんだ……がんばれーっ！！」

　力無くキューティンの歌に飲まれていた人々の注意が少しずつノルンへと向き、彼女へと向けた応援が、更に歌の力を増幅させていく。

「な、何をーッ！」

　キューティンも場を盛返そうと声を張るが、ムキになっただけの大声では、人々を救わんとする祈りには敵わない。やがて人々を悪夢に誘おうとしていた呪詛の歌は、全く聞こえなくなった。

成否

成功