PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪を背負って、正義を行く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●豊穣郷の辺境にて
 豊穣(カムイグラ)。動乱の果てに平穏を取り戻したはずのこの地ではあったが、かつての悪しき血脈は、絶えることなく潜伏を続けていた。そしてここ、辺境の領地、『水上領』でも、悪は蠢き、そして栄えていたのである。

 未明、街の川にて死体が上がった。
 獄人(ゼノポルタ)の男である。何者かによる刃傷沙汰であることは判明したが、領主配下の奉行たちの動きは重く、下手人の足取りはようとしてつかめなかった。
 男は街の食堂を営んでおり、その土地は、領主による再開発予定の一角となっていたらしい。しかし、男は最後まで抵抗し、再開発は難航――そんな状況での、殺人であった。
 さて、件の食堂に、鬼人種(ゼノポルタ)の青年の影があった。人呼んで、『青き影の越天楽』と言った。
 越天楽は酒で唇を湿らせつつ、街の様相を思い返していた。
 全体的に、活気と言うものを感じられない。とりわけ、獄人(ゼノポルタ)の表情は、皆一様に暗い。
 前述したとおり、動乱の果てに、豊穣の地は変革を果たした。獄人差別は撤廃され、平等名の元に国民は一丸となった……はずである。
(にしちゃあ、妙じゃねぇか。この雰囲気は、先の政治の時と大して変わっちゃいねぇぞ……)
 越天楽は思う。此処ではまるで、獄人差別が未だ根強く残っているかのようだ。
 もちろん、御触れが出たからと言って、すぐさま人々の思考から差別の根をなくすことができるとは言わない。だが、それを差し引いても、この状況は異常に過ぎる。
(この店の娘っ子もそうだ……親が殺されたにしちゃぁ、随分と、諦めきった顔してるじゃねぇか。もうちょっと感情的になるもんだぜ? 泣きもしねぇ、喚きもしねぇ……まるで、逆らえない何かに押し付けられてるみてぇだ)
 店は、諦観に包まれていた。客はおらず、店主を失った女将と娘は、諦めの表情で、無気力に、呆けているように見えた。
(この街は妙だ……こりゃあ、もう少し調べてみる必要があるな……)
 越天楽は徳利を空にし、小銭をちゃぶ台に置いてから立ち上がった――。

「で、でるわでるわ。悪行の大名行列って奴よ」
 後日。カムイグラに居を構えるローレットの出張所に、越天楽、そしてサンディ・カルタ (p3p000438)やシルヴェストル=ロラン (p3p008123)をはじめとする、神使(イレギュラーズ)達の姿があった。
 座敷の上に置かれたちゃぶ台、その上に並べらた無数の文書。それらは、『水上領』の領主、水上浄五郎の悪徳を如実に示したものであった。
「はぁ、ゼノポルタ向けの過剰な重税に始まり、土地の強制的な徴収、資産の没収。うわ、仕舞には口封じに、女まで攫って売ったか」
 悪徳には見慣れたところもあったサンディであったが、この悪行の羅列には、流石に眉をひそめざるを得ない。
 水上浄五郎の悪行は、前天香家の政に端を発したものであったという。そして天香家が身を引き、帝が改めて政をとった今となっても、その苛烈な悪行は鳴りを潜める様子はない。
「まぁ、お上が変わったって言っても、今はまだ満足に動けてないんだろうなぁ。おかげで、京(みやこ)から遠い水上領みたいな所じゃ、やりたい放題ってわけだ」
「しかし……いくら何でもやり過ぎじゃないかい? これじゃ京(みやこ)から沙汰が下っても仕方ないだろう?」
 シルヴェストルの問いに、越天楽は笑った。
「ああ、くだるだろうなぁ。だが、それもすぐにじゃない。さっきも言ったが、お上も何かと忙しい時期で、すぐには動けない。その間に、証拠は消し去って、後は知らぬ存ぜぬになるだろうさ」
 なるほどな、とイレギュラーズ達は思っただろう。要するに……これは最後の大収穫なのだ。搾れるだけ搾り取って、後は知らんぷりを決め込む。
「もちろん、お前等はそんな悪党を見過ごせないよなぁ? 神使殿?」
 にやり、と越天楽はわらった。越天楽は持ち込んできたのは、この水上浄五郎の住まい、水上邸への討ち入りである。
 だが――一つ、問題はある。この依頼は、豊穣の公式な依頼ではない。つまり、今回の神使の立場は、公儀の使者ではない、言ってしまえば暴徒と同じ、という事になるのだ。
「つまり……世間的には、良い評判は得られない、という事だね」
「あくまで非合法な討ち入りだからな。気にするか?」
 越天楽の言葉に、サンディは肩をすくめた。
「まさか。こちとら天下のサンディ様だぜ? それに、バカは死ななきゃ治らねぇってもんな。こいつにもようやく死に時が来たってわけだ」
 とん、と、サンディはちゃぶ台の上に並べられた資料を指さした。そこには、領主、水上浄五郎の似顔絵があった。
「そうだね。よくある話だよ。事故だと思って潔く死んでもらえると、手間が掛からなくて嬉しい」
 シルヴェストルは静かに頷く。
「おうおう、頼りになるぜ」
 越天楽はしみじみと頷いた。此処に集まった、他のイレギュラーズ達も、想いを同じくするところだろう。
 たとえ、暴徒の汚名を着る事となったとしても。
 己が信念のもとに、正義を執行するだけだ。
「うし、じゃぁ、決まりだな! 水上邸までは俺が案内するし、もちろん俺も討ち入りには同行する。よろしくたのむぜ!」
 そう言って、越天楽はにんまりと笑うのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、イレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により発生した事件になります。

●成功条件
 水上浄五郎を誅殺する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『豊穣(カムイグラ)』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●状況
 政権過渡期の隙をつき、徹底的な悪政をとり続ける悪党、水上浄五郎。彼を放置していては、民がさらに苦しむことにもなりますし、公式の裁きを待っていては、証拠を隠滅され逃げられる可能性もあります。
 そこで、皆さんには、この悪党の屋敷に乗り込み、罰を下していただきたいのです。
 もちろん、これは公儀にもたらされた依頼ではありません。世間的に、皆さんにつくものは悪名。
 しかし、水上に苦しめられたもの達からは、感謝の想いを抱かれるはずです。
 作戦決行時刻は夜。作戦領域は『水上邸』となります。
 水上邸は一階建ての広大な和風建築の屋敷です。
 最奥に水上浄五郎が立てこもっており、内部には多くの『用心棒』や『忍』が配置されています。

●エネミーデータ
 『用心棒』 ×???
  刀で武装した、一般的な用心棒です。時代劇で悪党が「であえであえ!」っていうと沢山出てくるタイプの敵です。
  主に近接レンジの物理攻撃を仕掛けてきます。一体一体の戦闘能力は高くはないですが、総数が多いので注意してください。

 『忍』 ×???
  手裏剣や暗器で武装した、カムイグラの忍者です。
  用心棒の隙を埋めるように、遠距離レンジの物理攻撃を仕掛けてきます。その暗器には様々な薬が塗られていて、BSの付与を得意とします。

 『水上浄五郎』 ×1
  『水上領』を悪徳のままに支配する、いわゆる悪代官、悪領主の類です。
  自身もそこそこ剣術を学んでおり、刀による水上流抜刀術を得意とします。出血系統のBSに注意してください。
  彼の誅殺が作戦成功条件です。確実に首を獲りましょう。

●味方NPC
 青き影の越天楽
  スピード重視の軽装ファイターです。
  そのほか、『隠形の印』と呼ばれる術式を使用し、皆さんを様々な形でサポートするバッファーとしても活躍します。

●おまけ
 もしこの場で領主水上浄五郎を殺したとしても、京からすぐに代わりの、善良な領主が派遣されてきます。
 ので、領民たちの今後等の憂いはありません。存分に暴れて、悪を罰してください。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 悪を背負って、正義を行く完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー
※参加確定済み※
此平 扇(p3p008430)
糸無紙鳶
玄緯・玄丁(p3p008717)
蔵人
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き

リプレイ

●月下の討ち入り
 月が輝いていた。街は、その苦しみに静けさを保っていたが、まるでその埋め合わせをするかのように、煌々と、美しく輝いている。
 その下に、水上邸はある。悪徳藩主、水上浄五郎の邸宅である。入り口の門扉の前には、二名のサムライが立っていて、門番をしている。
 それを遠くから眺めながら、越天楽はにぃ、と笑った。
「討ち入りには絶好の日和だ。お月様も道を照らしてくれてらぁ。で、どうする?」
 派手に暴れるかい? そう尋ねる越天楽に、『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)は、うーん、と唸りつつ、言った。
「それもいいけどな。今夜はちょっとスマートに行くか」
 懐から取り出したのは、『極楽印の祝酒』。豊穣でも飲まれる美酒である。「なるほどね」と越天楽は笑った。
「立場は最大限利用させてもらおうぜ? ほら、俺たちって、神使様だしさ?」
 サンディは些か悪そうな笑みを浮かべる。仲間達は、その意図に頷いて返した。サンディを筆頭に、ゆっくりと門へと向かう。
「誰か?」
 名を尋ねる声を、門番は上げた。その手を刀の柄にやり、いつでも抜刀できる態勢である。
「神使だ。この度は、水上浄五郎殿に、祝い酒の献上に参った」
 覚えている限りのそれらしい豊穣しぐさを演じつつ、サンディは手にした酒を見せつけた。
「もちろん、日ごろ激務に追われているであろう貴殿らにも、ささやかながら一本、お渡ししたい」
 ストレートな賄賂の申し出である。とはいえ、相手は悪徳集団。その手のものは貰いなれているのか、特に警戒することもなく、
「おお、これはかたじけない」
 悪びれもせずに、門番は酒をあっさりと受け取る。思った以上に腐ってるなぁ、と、イレギュラーズ達は思ったかもしれない。
「水上様への献上品はどうなさる? 直接お会いするなら、しばし確認のお時間をいただくが……」
「是非、直接にご挨拶願いたい」
 サンディは恭しく頭を下げつつ、言った。門番は、「ではしばし待たれよ」と、酒を懐に、門の奥へと消えていく。
(……ダメだったら、どうするの? イタズラしちゃう?)
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p00923)が小声で尋ねるのへ、答えたのは『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)である。
(そうだね。ここで盛大にパーティを開くことになるだろうね)
(わぁい☆ さっき新しいお友達もできたから、参加者はバッチリね! 食べ物屋さんで、さっきの門番(ひと)に斬られたんだって♪ こわーい♡)
 マリカが言う『お友達』とは、街で噂になっていた、切り殺されたという定食屋の店主の霊魂の事だろう。なるほど、さっきの門番が下手人か。
(水上とやらは馬鹿だね。悪い事がしたいのなら、こんな風にやるべきでは無いよ。
 長続きさせたいなら、もっと分からないようにしておかないと)
 胸中でそうぼやきつつ、シルヴェストルは門番の返事を待つ。やがて門番が戻り、
「水上さまがお会いになるそうだ。ついて参られよ」
 と、中へと促した。これは上々。神使達は頷くと、門番の男に連れられ、邸内へと入り込んだ。

(……あちこちにいるねぇ。この警備の厚さが油断の理由かな?)
 『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)が小声でぼやいた。よく耳をすませば、あちこちから、人の気配や息遣いが感じられるだろう。護衛や配下の者達が、あちこちに配備されているのは確かなようだ。
(ま、何のスキルもない私に察知される程度じゃ、その実力もたかが知れているけれど。とはいえ、数だけ見れば厄介かな)
(それに、戦ってるうちに浄五郎に逃げられちまうのも避けたいな)
 『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)がひそひそと言った。大きな屋敷である。出入口は、正面のそれ一つだけではないだろう。
(……じゃ、やるか?)
 命の言葉に、仲間達は頷いた。命はこほん、と咳ばらいを一つすると、
「あー、厠を借りてぇ。場所はどこだ?」
「ふむ? この廊下を進んで右にござる……案内は要るか?」
 門番の男の言葉に、命は頭を振った。
「いや? 大丈夫だ。じゃあ、悪いが、ちぃとはなれるぜ。なに、『気にせず、先に始めちまっててくれ』」
 命は手を振りながら、廊下の奥へと消えていく……この時、門番の男は気づかなかっただろう。扇の姿も、同時に消えていたことに。
 さておき。一行はまた少し奥へ。恐らくは、謁見用の大広間へと通された。中には、護衛と思わしき数名のサムライたちが、待機していた。流石に私室やさらに奥という訳にはいかないらしいが、ここまで侵入できたのは上々といえただろう。
「ここで待たれよ。主はすぐに来られるであろう……ああ、そうだ。お主等の武器を、預からせてもらっても?」
 それは当然の行為だろう。如何に神使といえど武装したまま主に会わせるわけにはいくまい。となれば、この辺りが潮時であった。神使達は、己の武器に手を伸ばす。武装解除――と思わせておき。
「いいえ、お断りするよ」
 すとん、と。何かが走った。それが、『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)が引き抜いた刃であることに気づいた瞬間、門番の男の首が飛んだ。高速の居合術が、門番の男の首を斬り飛ばしていた。
 何が起きたのか――護衛のサムライたちの間にどよめきが走る。まだ事態を把握していない。ならばしょうがない。分からせてやるか。玄丁はすぅ、と息を吸い込んだ。
「さぁさぁ皆さんご観覧、お首を並べておいでませ? 皆々様の大嫌いな鬼人が、道理も知らぬお馬鹿な領主に刃を立てる!
 これから始まるは正義の謀反、貧民たちの下剋上! お集まりの皆さんは堂々首を上げて高いところからご覧あれ!」
 ぱん! と、手を叩いて見せた。まるで興業の前口上のような『宣戦布告』に、サムライたちはあっけにとられ――数秒。
「曲者! 曲者である!!」
 ようやく事態を理解したようで、叫んだ。どたばたと、あちこちから足音が聞こえる。
(……やっぱり、精霊種ばっかりか。斬るなら同族が良かったんだけどなぁ。ま、触らぬ神に祟りなし。今は黙って『正義の味方』を演じようか)
 玄丁は胸中でぼやきつつ、刃の柄へと手を伸ばす。居合の構え。斬りかかってきたサムライの刃を身をよじって避けると、刹那の間に繰り出された居合の刃で、その胴を横なぎに切り捨てた。
「ハッハー!! カチコミじゃオラァア!!」
 『Heavy arms』耀 英司(p3p009524)の手にした戦鎚がサムライの身体を強かに打ちのめした。人体急所を粉砕する一撃が、サムライの命もまとめて粉砕してみせる。遺体がフッ飛ばされて、障子戸を巻き込んで廊下に転がる。
「おうおう、浄五郎でてこいオラァ! テメェの命(タマ)、怪人さんが取りに来てやったぜ! 震えて待ってろ!」
 楽し気な調子で、英司は言った。これより行う殺人は、英司のエゴである。他の誰かのためではない、他の誰かのせいではない。他の誰かに責任を負わせるわけでもない。ただただ純粋な、これは己のための、己だけが責任を持つ殺人だ。
「シンプルに行こうぜ! 依頼だからぶっ潰す! 気に入らねぇからぶっ潰す! 世間がどう思おうが、今夜の俺達は悪党だ! 悪党らしくやらせてもらうぜ!」
 『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が、サムライを強かに殴りつける。顔面を殴りつけられたサムライが、そのまま意識を失って倒れた。部屋にいたサムライたちを制圧した神使達だったが、しかし周囲から敵の気配と足音は消えない。
「さぁて、どうする!? このままじゃじり貧だぜ?」
 ブライアンが言うのへ、答えたのはシルヴェストルだ。
「浄五郎がいるのは屋敷の最奥だ。それは間違いない。とにかく今は、最奥の浄五郎の部屋を目指して一気に進むべきだろうね」
 シルヴェストルの言葉に、仲間達は頷いた。
「なら、俺達は派手に動いて追手を引き付けるか!」
 ブライアンの言葉に、英司は頷く。
「おう、じゃあいっちょ派手にやろうか」
 そう言った瞬間、神使達の足元に、無数のクナイが突き刺さった。天井を突き破って現れたのは、数名のシノビ達である。また、同時に廊下から、何名かのサムライが現れた。全員が各々武器を持ち、殺気をみなぎらせている。
「まとめて地獄行きじゃワレェ!」
 英司は手にした戦槌を振るい、シノビ達へと殴り掛かった。激しく叩きつけられたシノビが、がふ、と息を言吐いてそのまま動かなくなる。一方、ブライアンはその拳を握りしめたままサムライたちへと接敵。振るわれる刃を紙一重で躱しながら、次々と拳を繰り出しノックアウトして行く!
「こっちは任せな! 浄五郎は任せるぜ!」
 ブライアンは笑ってみせた。
「ああ! じゃあ、本命狩りに行くか!」
 サンディは頷くと、仲間達と共に、屋敷の奥へと向かう。剣戟の音と、怒号が邸内にこだました。かくして静かな夜は殺陣の喧騒に包まれ、いよいよその熱を高めて行った。

●誅殺の夜
「あっははは♪ うらめしや~♪ お菓子をくれても悪戯するぞっ♡」
 廊下に詰めかけたサムライたちを、マリカの放った白い霧が包み込む。いや、それは白い亡霊たちであった。亡霊たちにその身体を掴まれたサムライたちは、生命力を吸い取られ、次々とと枯死していく。
「はっやーい、死んぢゃうのはっやーい♪ もっと楽しませてよぉ、ざぁ~こ♡」
 くすくすと笑うマリカ。ネクロマンサーたるマリカの死霊術が、次々と自身の『お友達』を増やしていく一方、玄丁は現れるサムライたちを、その居合術で次々と斬り捨てていく。とはいえ、最前線に立つ玄丁も無傷とは言わない。反撃の刃が玄丁の身体を傷つけるが、しかしその顔に浮かぶのは殺し合いの愉悦。返り血に染まったその顔が、愉快重畳と三日月を描く。
「ひっ、こ、こいつ……!」
 その様に、サムライたちも怯えた表情を見せる。されど玄丁は意に介した風にもなく、
「そんなに怯えないでくださいよ、僕にだって人の心はあるんですよぉ? ……なんて」
 笑いながら、サムライ衆を斬り捨てた。
「で、その浄五郎のおぢさんってどこにいるの?」
 マリカの問いに、サンディは答えた。
「越天楽の情報によりゃあ、この先だ!」
 一行は走る。襖を蹴飛ばし、障子は切り裂き。畳を踏みしめ、廊下を駆け。敵を斬り、敵を斬り、敵を斬り、敵を斬った。やがて屋敷の最奥へとたどり着く。そこは、ひと際意匠の凝った部屋であった。豊穣の様式美か、華美という訳ではないが、しかし他の部屋に比べれば、明らかに金のかかっている作りである。
「な、なんだ貴様らは……!?」
 その部屋の最奥で、男が叫んだ。間違いない。水上浄五郎である。
「伝わってなかったかい? 神使の一行だよ」
 シルヴェストルが言う。浄五郎は忌々し気に舌打ちをした。
「なんの真似だ……まさか、正義の味方気取りではあるまいな!」
「へぇ、悪い事をしている自覚はあったんだね。でも、愚かだ。やるならもっと上手くやるんだね。そうじゃないから、僕らみたいなのが来る」
 シルヴェストルが言った。同時、後方からサムライたちが駆け寄ってくる。
「そいつらを殺せ! あとは任せる!」
 浄五郎は叫び、部屋から飛び出した。追わなければ! だが、敵の数が多い。この包囲を突破できるか……!? 仲間達がじり、と部屋内に押し込められる――が、包囲の外から声が響くと、突如としてサムライたちが次々と地に叩きつけられていった!
「おおっと、宴会には間に合ったか? 二名追加で頼む!」
 戦槌を肩に担ぎ、英司が手を振ってみせた。隣にはブライアンがいて、拳でサムライの顔面を殴りつけている。
「なんだ、ここも本会場じゃないのかよ。じゃあまた足止めか?」
 ブライアンが尋ねるのへ、
「そうなる、すまん!」
 サンディが叫んだ。
「おうおう、良いって事さ。今日はしっかり露払いのお仕事と行こう」
 英司がいて、戦槌を振り回す。包囲に風穴があいて、離脱の目が見えてきた。
「ここは任せな……って、これ言うの2回目か? まぁ、とにかく、行け!」
 ブライアンが笑って言った。シルヴェストルは頷いて、
「追うよ、サンディ!」
「ああ、ここは任せられるか!?」
 サンディの言葉に、マリカと玄丁が頷いた。
「はぁ~い☆ ここでイタズラしてるね♪」
「可能な限り此処で斬り捨てるよ。本命は任せた」
 サンディとシルヴェストルは4人を残して、走り出した。正面に、必死に逃げる浄五郎を捉える。内部に潜んでいた護衛のほとんどが、すでに神使たちと交戦しているのだろうか。新たに敵がやってくることは無く、二人は純粋に浄五郎を追う事に注力できた。
「この先は……裏口かな?」
「だろうな! そこから逃げる気だ!」
 二人はやがて、屋敷の裏手、小さな勝手口に到着する。そこでは、ガチャガチャと扉を開こうとする浄五郎の姿があったが、どうやら扉は開かないらしい。
「な、何故だ! 何故あかない!?」
 必死の形相で叫ぶ浄五郎へ、答えたのはサンディでもシルヴェストルでもなかった。
「――そりゃあな。出入口はつぶさせてもらったからよ」
 闇より現れた二つの影。それは、屋敷に到着後、すぐに分かれたはずの命と扇である。つまり、こういう事。二人は屋敷到着後に別行動をとり、裏口の類をすべて潰して回っていたのである。
「逃げられると思った? 水上さん。まぁ、悪ーい事をしてるとね。もっと悪ーい人たちが来るんだ。私たちみたいなのがね」
 ひ、と浄五郎は悲鳴を上げつつ、腰に差していた刀を抜き放った。些か震えてはいるが、その構えは綺麗なものである。そこそこの剣術を嗜んでいるというのは事実なのだろう。
「追い詰めたぞ、浄五郎」
 サンディが言った。
「こういう時は……年貢の納め時って言うんだったな?」
 サンディの言葉に、シルヴェストルが続く。
「そうだね。でも、払ってもらうのは税金じゃなくて、キミの命だよ、浄五郎」
「うう、ううう」
 浄五郎は唸った。じわり、とその額に脂汗が浮く。
「何故、何故だ……何故……」
 ぶつぶつと呟く。それは現実逃避の一環か。刹那、扇が動いた。気配を消しての奇襲。浄五郎は対応できない。ナックルナイフが、月光を受けて輝いた。ひ、と悲鳴を上げて、身をよじる。それは本能的なものだったか。扇のナイフが浄五郎の右腕を薙いだ。ぱあ、と鮮血があふれ出した。
 ひい、と浄五郎は悲鳴を上げた。手にした刀を振るう。扇が構えたナイフと接触して、きぃん、と甲高い音を立てた。
 命が駆けた。その手にした刃を振るい、仕掛ける格闘戦。斬撃が、浄五郎の手にした刀と交錯する。ばき、と音を立てて、浄五郎の刀が砕けた。
 あっ、と浄五郎が声をあげた。途端、振るわれた魔力の奔流が、浄五郎を壁へと叩きつけた。シルヴェストルの魔術である。その手を掲げたまま、
「サンディ」
 シルヴェストルが声をあげた――同時に、飛来した矢が、どす、と、浄五郎の心の臓を貫いた。飛来した矢の元を見れば、弓を構えたサンディの姿があった。
 ごふ、と、浄五郎は血を吐いた。激痛が、その身体を駆け巡っていたであろう。だがそれも、僅かな時間のうちに感じなくなったはずだ。浄五郎はくらり、とうなだれると、壁にその身を貼り着かせたまま、絶命していた。
「――これにて誅殺、完了だな」
 サンディが言った。屋敷は今は静まり返り、その静けさが、戦いは終わったのだと告げていた。

「おう、こいつが浄五郎か。まぁ、悪そうな顔してるぜ。カマシてやったぜクソザコ野郎! 来世でまたな! ってな!」
 『くたばりやがれ』のジェスチャーをかましつつ、ブライアンが言った。その無礼な態度には、浄五郎は激高しただろうが、しかし今は物言わぬ骸である。
「うーん、『お友達』にしようかなー、とか思ってたけど。顔キモいしパス☆」
 マリカは浄五郎を見やりつつ、ケタケタと笑った。
「あー、たまにはこういうヤクザシネマの真似事もいいもんだ」
 くぅ、と伸びをする英司。スーツについた埃をパンパンと叩き、しかし返り血はどうしようもないのでクリーニングしないとな、等とぼんやりと考えている。
「さて、どうする? このままここで役人が来るまで待機……なんてことはしないだろう?」
 英司の言葉に、仲間達は頷いた。
「そうだね。私達はあくまで『討ち入り集団』だからね。お上と関わっちゃあならないだろう」
 扇が言った。イレギュラーズ達は、あくまで今回、非合法な存在なのだ。
「じゃあ、さっさと逃げようか。この場合は裏口から逃げるべきだろうけど……裏口、開く?」
 玄丁が小首をかしげるのへ、命が声をあげた。
「ん? んー、あー、まぁ、なんだ。多分大丈夫だろ。ちっと待ってろ、開くようにするから」
 その様子に、玄丁は肩をすくめた。
「シルヴェストル、怪我はないか?」
 サンディが尋ねるのへ、シルヴェストルは頷いた。
「ああ、このくらいはね。たかが血が流れる位さ」
 ……それからしばらくして、裏口を開放した一行は、夜の闇へと姿を消した。
 後日。水上領の領主が、暴徒により殺害される、との知らせが豊穣を飛び回った。
 多くのモノは、その凶行に身を震わせていたが、ごく一部のものだけが、その行為の真意に気づき、人知れず感謝の念を抱いていたのだという。

成否

成功

MVP

型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 悪しき名を背負い、されど一部の民草たちは、皆さんの行動を心から称賛してくれているでしょう。

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