シナリオ詳細
ノルダインの番犬
オープニング
●峡湾
ホワイト・アウト。
降り積もった雪が、視界の全てを覆い尽くしていった。辺り一面は白一色で、目立つ目印はここにはない。
それは、ひどく遠近感を狂わせるものだ。
ノルダインとハイエスタ、二つの民族が入り交じる境界。
ここら一帯は、平地に見えても深く大地が裂けた箇所がある。
そこに落ちれば真っ逆さま……命はないだろう。
8頭の狼が引く犬ぞりが、疾風のように悪天候の大地を駆けていた。狼たちは鋭く、人には出来ない判断力で巧みに亀裂を避ける。
しかし、今は……状況が違った。
「……まずいな……」
びゅうびゅうと吹き付けるような音がする。
不気味な吹雪の奥から、奇妙な声が響き渡っている。その”何か”に、狼たちが反応している。
この吹雪の向こうに潜む何かがいた。
そりを引き、リーダーとして先頭を走るベルカとストレルカはさすがに熟練していたけれども、後ろの狼たちが、敵と戦う耐えられていない。気を散らして速度を落としている。
裂け目を避けたところで、吹雪が一層強まった。
「アイス! ジュビリー! 気にするな!」
ラグナルは何度も制止したが、狼は興奮して遠吠えを繰り返している。
ついには綱を引きちぎると、勢い勇んで影を追っていってしまった。
「ああ。やっぱり、俺には群れのリーダーは無理だな……。向いてねぇよ。まったく。前の主人と比べられる身にもなって欲しいねぇ……。
っと、こりゃあ、冬将軍だ……」
ほかの狼たちも次々と魔物を追っていってしまい、残ったのは2頭だけだ。
身を寄せ合い、吹雪が止むのを待っていると、ふと、ベルカが何かに気がついたような仕草をした。
ここらは休戦地帯とはいえ、ハイエスタとの民との仲は良いとは言えない。
万が一のことを考え、弓を持ち、いつでも引き絞れるようにしながら彼らを見た。
そこにいたのは、……ノーザン・キングスではないようだった。
「んん? あれは……どの連中だ?」
ノルダインでもなければ、ハイエスタでも、シルヴァンスでもなさそうだ。
イレギュラーズだ。
……ラグナルの心配をよそに、ベルカは透き通った瞳で彼らを見ている。
くんくんと嗅ぐような仕草をすると、唸らずに伏せ、前足で地面を蹴る。ストレルカも促すように、ただ見ているだけだった。
「ん? ……あいつらを頼れって? そうか。ストレルカもそう思うのか?
ああ。俺……人を見る目はないけど、お前たちのことは信用してるよ。お前たちはホントに人をよく見てるもんな。
……っていうか、珍しいよな。ベルカが、唸りもしないなんてさ。そんなに信用できるのか?」
●可聴域の外から
『――――』
もしも聴覚が優れているならば、人の聴覚を超えた呼び声が聞こえただろう。
それは、犬笛の音だ。
そのあと、イレギュラーズたちの前に現れたのは、巨大な犬、いや……二頭の狼たち。
そして、ノルダインの青年だった。
「あ~っ、待て待て、待ってくれ! その狼はな……敵じゃないんだ!」
黒髪の青年は、ぱっと両手をあげて戦闘の意思がないことを示す。
「俺はラグナル。ラグナル・アイデ。
ここで、狼を飼っている一族さ。で、用があってハイエスタまで行こうとしてたんだけど、この通り、仲間とはぐれてしまってな……。フロスト・フット・ノッカーってしってるか?」
ちょうど、それはローレットに出ていた討伐依頼と合致する。
「ああ、それなら話は早い!
フロスト・フットは、吹雪に紛れて人を迷わせる、毛深い魔物だ。
俺の狼が6匹、魔物に驚いて逃げ出しちまってさ。もし良ければ、探すのを手伝ってくれるとありがたいんだけどな。
もし見つけてくれたら礼はするし。帰りはそりに乗せてやるからさっ、どうだ? ……頼むっ! この通りだ」
- ノルダインの番犬完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月11日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●凍える大地
ラグナルに出会うよりも前。
『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は気配を察知し、顔をしかめていた。
「……ったく、キーキーうるせぇ笛使ってんじゃねぇよ」
獅子の耳は犬笛の音をよく拾う。
しかし、イライラの原因はそれだけではない。
「ははは、どうぞよろしくな」
ラグナルの態度は、友好的ではある。けれど――油断のならない奴だとルナは思う。
(気にくわねぇ。あぁ、気にくわねぇな……。
群れのボスたるこの男が、若いのを御しきれずに勝手を許して飄々としているのも気にくわねぇが。
口ではあぁいいつつも、こっちを警戒していやがるその目。
熟練の2匹の狼がボスと認めるこの男)
そして、吹雪の向こうにいるのであろう狼たちもまたルナを苛立たせる要因だった。
(そのボスの顔に泥を塗る、群れを乱す若い奴ら。
……噛み殺してやろうか……?)
喉元から小さな唸り声が漏れた。
狼の二頭は、畏怖を込めてルナを見つめていた。
狼たちは、ルナが強き者であると理解している。
またその怒りが自分たちに向いていないことも、本能で分かっている。
「何か音が聞こえると思ったら……幽霊の泣き声とかじゃなくてよかったわ」
『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)もまた、人よりも鋭い感覚で世界を見つめていた。不思議なことに、ふわりと香る芳香は、狼たちにとって嫌なものではないらしい。
(本来なら嫌がるんだがな、強い匂いは……)
もしかすると狼たちはこの匂いをたどってきたのだろうか?
ラグナルには分からなかったが、ゆるりとほほ笑むジルは、当たり前のように手を差し伸べる。
「アタシはジルーシャ・グレイよ、どうぞよろしくね」
(やっぱりこいつら、見る目あるんだよなあ)
「狼探し、もちろん手伝うわ。
アンタの大切なお友達なんでしょう?
アタシ達に任せて頂戴な♪」
「しかし狼ども、魔物に立ち向かってくたぁガッツあるな」
怪人H――『Heavy arms』耀 英司(p3p009524)は、寄ってきた狼の首筋を撫でる。その奇妙な風体を、狼たちは気にもとめない。
「おお。なかなか人懐っこいんじゃないか?」
「はは……、おかしいなあ。俺はほんとに、触らせてもらえるまで10年くらいかかったんだけどなあ……?」
「さ、早く見つけて加勢してやろう」
「雪原で鬼ごっこなんてコドモの頃を思い出すね! こけて雪塗れになるまでがセットだよ!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は雪道には慣れたもので、ひょいひょいと先へ進んでいった。犬たちもそれに従って、ざくざくと雪を踏みしめている。
「さ、寒いー!
うぅ……天義の北の方も寒いけどここはレベルが違うよ……」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は両手をすりあわせ、ほうと白い息を吐いた。
「早く終わらせて温かい飲み物を飲みたい!」
「やはりこんな時は外装パーツで対策デスよ」
『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)の鬼灯の燈會が、凍土の国の金曜日……ホルダーベルトにくっついて揺れる。
「身支度もしっかり整えるのが、冒険の基本デス!」
「……ノルダイン……だね」
『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)が見据えるのは、鉄帝の地。
この世界で。この大地で。この雪の中で――この出会いが、彼女の道となるのなら。マリアは進むだろう。
どんなに過酷な場所へでも。
「ヴィーザル地方の魔物退治では色んな人と会いますね」
エステル(p3p007981)は雪を踏む。懐かしむような仕草でもあり、何も知らぬようでもある。目を離したら消えてしまいそうだ、とラグナルは思った。
くるりと振り向く。
「何かの縁というと、騎士の縁? でしょうか」
「おいおい、俺は騎士なんて柄じゃないさ」
「馬ではなく狼ぞりに乗る騎士、楽しそうです」
「まあ、……楽しみにしててくれよ?」
●狼の行方
ジルはゆっくりと精霊の竪琴を奏ではじめた。狼たちはそれに聞き惚れているようだ。
「うん、アリガト。こっちね」
精霊と心を通わせ、助力を得る。どうも強力な術士らしい、と思ったが、実際のところ、かつての世界では香術師と呼ばれていた。
「再びの吹雪で足跡が消えてしまわないよう、急いで急いで! 行かなければデスね!」
リュカシスは仲間を気にしつつ、ずんずんと道を進んでいく。
サクラは足跡を確かめていたかと思えば、遠くの音にぱっと顔をあげる。
「あ、こっち」
やはり。イレギュラーズたちには……狼の声が聞こえている。
「驚いて逃げたと言っていましたが……逃げた魔物を追った感じでしょうか?」
エステルは雪道に微かに残る足跡を眺めて、狼に尋ねる。
「向かった方向はわかりますか?」
狼たちは先導するようにゆっくり歩き出した。
「ラグナル様も当然来ますよね? こういうのは、お互いの信頼が大事ですし」
「あはは……もちろんさ。いや、ビビってなんかないぞ?」
エステルは深く追求せずに頷いた。
そのまま空を舞い、小さなクレバスを飛び越えた。
「おわっ……」
あまりに当たり前のような動作で、イレギュラーズたちはすいすいと先へ進む。
「あ、クレバスだね。危ない危ないっと。止まるなんて流石!」
……落ちかけたなどと言えるものか。
「しかし、寒いなこのままじゃシャーベットにでもなりそうだな」
英司は肩をすくめる。遠回りするにはきつそうなクレバスが目の前にあった。
「あ、このアシアトは、分かりづらいけど……ノッカーだね!」
わかるのか、と言うように狼たちはイグナートを見上げる。
「うん、分かるよ! ケモノの気配を見つけるのはトクイなんだ」
ノッカーの性質から、晴れている間はどこかに隠れているはずだった。狼たちはすっかりイグナートを信頼できる仲間と思っているようだ。
「……」
ルナの懐には太陽石のかけらがある。
砂漠のぬくもりを思い出させるようなそれは人肌程度のあたたかさだが、それでもこの場所では役に立つ。
狼の数は六頭。……まだ近くに居るモノと、はぐれているものがいる。近くに居るモノはある程度わきまえている。命令違反はいただけないにしろ、自分で処理できる範疇なのだろう。問題は奥の若造か。
「ここじゃ俺よりもてめぇらの方が鼻が利くだろう。で、どうだよ」
ベルカが答える。
不意に、一足先を行くルナは、仲間たちとクレバスを超えようとしているラグナルを見据える。聞こえないほどの声で、狼に尋ねる。
「……おめぇらはよ、その男をボスと認めてんのか? そいつは、それに足る野郎なのか?」
ラグナルを嫌っているわけではないようだが、いまいち物足りないというような様子だ。
「……でも、仲は悪くないみたいね?」
ジルがくすりと笑った。
不意に風が吹き、大地がたわんだ。
それよりも前に、野生の勘でイグナートが警告をしていた。
「ここ、アシバが悪い! 気をつけて!」
ロープを結った英司は、素早く滑落を避けた。
「わわっと、っと、大丈夫?」
イグナートはジェットパックを用いて飛び上がる。
「ノープログレム。このためのロープだ! ファイトー、一発!」
「せーのっ!」
鉄火仙流。足場にすらならないような小さな岩を足場に、身を翻したイグナートが引っ張り上げる方に加わる。
(おいおい、ホントどうなってんだ?)
助ける必要すらない。
クレバスを超えたところで、小休憩だ。
英司はコンロで沸かしたお湯を配る。
「大したもんじゃないが、あったまるだろ?」
「おっ、用意がいいなあ」
「あったまるー」
サクラはコップを両手で持って少しずつ口に運ぶ。
「しかし、魔物か……。
この世界に来て、実際に戦うのは初めてだな」
「ええ……慣れているように見えたけどなあ?」
「悪意を持った相手をぶっちめるのは慣れてるが、生存を理由に人を襲うタイプのやつはちょっとやりづれぇ」
「そればっかりは狩人の掟って奴だなあ……死ぬわけにもいかないさ」
「まぁ、この世に善も悪もねぇ。今更ためらうことでもねぇな」
「けど、自分で危ない道を避けるだなんて、狼って頭がいいんデスね!」
リュカシスの表情に疲れは見えない。むしろ、とても楽しそうだ。
「狼なら通れるけど人は通らない方が良い場所とか、やっぱりあるんデスか?」
「あー、そうだなあ。こいつら……ベルカとストレルカは賢いから人にも気遣ってくれるんだけどな、若いのは……いや」
ラグナルは少しだけ表情を曇らせる。自分が狼を制御しきれていないことへの態度か。
(……まず、そんな態度で、群れが率いられるとでも思ってるのか……)
ルカのいらだちは募る。
「狼との仲良くなり方、嫌われない接し方も! お名前も教えてください!」
「……そういう態度が好かれるのかもな? ええと、こっちがベルカで、あっちがストレルカ。それで……あの吹雪の奥で吠えてるのが、えーっと、アイスとジュビリー」
「良い名前ね」
ジルが何度も名前を繰り返して頷いた。
「自信を持てよ、ほら。狼二頭が着いてるだろ? もう行こう、って言ってるんじゃねぇか」
英司がぽんと背を押した。
「……ありがとうよ」
●ノッカーを追う
はぐれた狼たちはそれぞれに敵を追い回しているようだ。後れをとった一匹がいた。
それが一番の問題だった。
だから、ルナはほかの敵を仲間に任せて、雪原を駆けて吠えた。
吹雪の奥の声に、腕を振り上げたノッカーは立ち止まる。
ソニックエッジ。衝撃波がノッカーを襲う。吹き飛ばされた一体の前に獅子が立ち塞がる。
「俺ァ特異運命座標としちゃぁまだまだ新参者だがよ。後ろに控えてる連中は、俺ほどか弱くもなければ、優しくもねぇぜ?」
ルナは名乗りを上げ、再び姿を消す。ノッカーたちはそれを追った。だが、闇雲な攻撃はルナにかすり傷を付けることすらできない。雪に潜んだ一体ですら、ルナの不意を突くことはできなかった。
「カム!」
閃光。
鋭い命令の後に、エステルのチェインライトニングが、まばゆくあたりを照らした。狼たちは耳を伏せ、じりじりと後退する。エステルは息を吸い、戦線の維持に集中する。
「ケガしてんのか!? 止まれ! アイスっ! はやくこっちに……!」
焦り、叫んだラグナルの前に、ふわりと芳香が香った。
「アイス、ジュビリー、こっちへいらっしゃい。……フフ、そう、いい子ね」
ジルの声。
狼たちは、どうして素直に従うのだろうか?
その理由はすぐにわかる。安心させるような声。緊張を伝えさせない声。張り詰めた局面で、それを選ぶ。だから狼はジルの声を聞いた。イレギュラーズたちには従うのだ。
「ここは私達に任せて!」
凜としたサクラの声が響き渡った。ルナが下がり、背を預ける。
光あれ。
聖刀【禍斬・華】が天を貫く。
ああ、とラグナルはその光を見てなんとなく思った。
天義の、光だ。
遠くてなじみのない国だが、その勇猛さは鉄帝のものとはどこか違っている。
「さぁ! キミ達の敵は私だよ! かかっておいで!」
吹雪の晴れ間のような、ロウライトの声。
その位置は、自分たちを庇うためのもの。そして仲間に次の一手を任せるための盾。
(サクラちゃんが引きつけてくれている今、アタシはやるべきことをやるわ)
ジルは敵に向き直る。狼を狙う魔物を、そっちじゃないと、引きつけてみせる。
「アタシの影。アタシの形。紫香に応えて、目を覚ましなさい。――さあ出番よ、《リドル》!」
ハウリングシャドウ。チャーチグリムが、ジルの影から飛び出した。雪にはっきりと落ちる黒い影。漆黒の毛並が怒りで逆立って揺れる。
死を告げる地獄の番犬。燃える瞳……ノッカーの喉笛を食いちぎる。
(……これが連携、か!)
本来なら。自分が狼を操れればできるかもしれない理想。
「ありがとうございます、サクラ様!」
リュカシスに食らいつくノッカーだったが、その攻撃はガチリと金属音を鳴らして防がれる。まるで、歯が立たない。
リュカシスのインビンシブルが、ノッカーをぐんとぶん投げた。
「フロスト・フット・ノッカー、白くてモフッと可愛いけれど……ここで倒させていただきますネ!」
プライドオブアイアン。目にも止まらぬ連撃は、単なる乱撃ではない。威力を保ったままにたたき込まれる、鉄の拳だ。
同じように腕に食らいつかれたイグナートだったが、ノッカーの牙が折れることになる。
「! イグナート様、流石ですね!」
「これぞ闇剄・鋼身。ナノカナ? いくよっ!」
雷吼拳。鉄騎の拳が、華麗に敵を打つ。そしてそれとクロスするようにリュカシスの一撃が一体のノッカーを倒す。互いに目線をくみ交わし、うなずき合った。後ろから迫るノッカーを、イグナートは華麗に飛ぶことで、リュカシスは真っ正面から受けることで受け流す。
冷たい吐息も、イグナートを止める理由にはならない。エゴールの呪腕は霜を振り切るほどに熱くなっている。
「! イグナート!」
ラグナルが叫んだ。
もう数歩下がれば後ろは崖だが、問題ない。分かっている。目の前に跳んだ。振り向きざまに、敵を突き落としたのはイグナートの方だ。
「運が悪かったな、お互いによ」
英司はただ、弱ったノッカーの急所に一撃を撃ち込んでやればよかった。恨みはない。それは、その通りだ。ノッカーはふらりと動かなくなった。
狼が吠える。
赤い雷。
マリアの紅雷・領域放電が走る。
こんなところで立ち止まっている場合では無いと告げている。
傷ついた身体が、不意に楽になる。
その芳香で助けを知る。
「大丈夫かしら?」
この香りがする場所は聖域だ。ジルのサンクチュアリの中においては!
だったら、戦える。
すでに、勝機はイレギュラーズの側にあった。ノッカーたちは怯え、逃げ出そうとしている。
サクラはその剣をまっすぐに構えると一気に両断する。巻き上げられた粉雪。その下からはゆっくりと砂地が現れる。
ジルを助ける精霊が、砂嵐を巻き起こす。
「っ! このっ!」
リュカシスは重い腕を持ち上げていた。
「唸れ全力攻撃のアイアンフォーマルハウト!」
どんな生き物も頭と目玉は弱点だ。頭部をかち割れば、もはや立ってはいられない。地面に大きなへこみが出来る。
砂嵐のさなか。
英司が逃げる一体を。
ルナは、静かに最後の一体を仕留めていた。
●犬ぞり
「……まあ、生存競争、だよなあ」
英司はふうと息を吐く。
「そうだ、魔獣の毛皮や爪など生活のお役に立ちますか? ……以前依頼で親しくなったハイエスタの方から毛皮の捌き方を教わりまして、ラグナル様が入り用でしたら倒した後に解体します」
「頼もしいな! 俺も狩人ではあるんだ。一緒にやるか」
吹雪を払うような、一吠え。
勇んでやってきた狼に、ルナは低い声で語り掛けた。
「おぅ、真っ先に獲物を見つけて満足か?
仕留めて手柄にしようってか?
イキってんじゃねぇぞ若造。
てめぇの勝手がボスの、群れの名を汚し、潰すんだよ。
この場で噛み殺してやりてぇところだがよ……んなことすれば、俺が殺されっからな」
狼たちはじっと、ルナを見つめている。
「いいか。
誇りを持て。
そしてそれに恥じない戦士になれ」
「……?」
ラグナルは首を傾げた。
いつもよりも、狼たちが生き生きとした目をしている。何か言われたのだろうか。
「ありがとな」
ルナはふいと顔を逸らす。
「よしよし、たいしたケガはしてないみたいだな。ちょっとすりむいてはいるが、これからのパーティーには問題ないだろ?」
英司は犬たちを撫でる。
人の命令を聞いて、生き生きとする犬たちは懐かしい。そりに乗ることはなく、英司はその様子を見つめている。
(……)
かつての世界で助けた犬は、麻薬の運搬役をさせられていた。助けて、そのまま一緒にいたのだ。狼が一匹、遊ばないのかというようにやってきた。
枝をくわえている。愛犬と、その姿が重なった。
「おおお、よしよし。グッボーイだな」
エステルは手のひらをかざす。待て、の合図だ。狼たちはエステルのいう事をすっかり聞いている。
「はい、いい子ですね」
「よく出来たね! 手伝ってくれてありがとう」
サクラはぎゅうと首筋を撫でてやる。
「……おっそろしいお嬢ちゃんらだな」
「狼たちとわかり合うの、頑張ってください。なんとなく、貴方なら出来そうな気がします。ここで見捨てなかったのは大きなポイントですよね? 狼たちが、ラグナル様を頼れるリーダーと認める日もきっと……」
「アンタらにそう言ってもらえるなら、心強いよ」
「そういえば、ラグナル様はどこへ向かっていたのでしょうか?」
「ちょっと野暮用でね。ハイエスタとの交易話さ」
「うぅ……賢い狼さんだっていうのはよくわかったから頭では危なくないって思うんだけど……ちょっぴり怖いな……!」
ひるむサクラ。
「あんなに敵に勇敢に立ち向かったくせに? 乗ってみろよ、ほら」
「うわー! 思ったより速いよー! 力強いよー! わー! きゃー!」
「アイスサン! でしたね! 速い速い!!! ボクは狼と雪原と風とひとつになるんだ!!! ワーイ! 楽しい!」
リュカシスははしゃいで、両手を広げて風を受け止める。戦闘の後の体はあたたかく、ひんやりと湿った風が沈めていく。
「ひゃっほぅ! これは気持ちがイイね! 行けサブロクターンだ!」
そして、イグナートは頭から雪に突っ込む。
「だ、大丈夫デスかー!」
笑い声が上がる。
ルナは走る。ソリの横を走る。ぐいぐいと犬たちが速度を上げていく。
煽って速度を競るように。次第にソリはルナを抜き去って、ゆっくりと走っていく。
(地の利で負けるだろうが、群れが一体になり、若造が自信を持つ。それでいんだよ)
ルナはそれを見送っている。強くなれと手本を示す。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
狼の救出、ありがとうございました!
狼たちはイレギュラーズを認め、また、ラグナルも何か思うところがあるようです。
GMコメント
●目標
・フロスト・フット・ノッカーの討伐
・犬ぞりで思いっきり遊ぶ!
狼たちはフロスト・フット・ノッカーを追いかけて行っているので、討伐すればついでに探すことは容易でしょう。
●敵
・フロスト・フット・ノッカー×20体程度
白い体毛をもったイエティのような魔物です。雪に潜み敵をおびき寄せて襲います。
それほど強くはなく、臆病でもあります。吹雪が晴れているときは洞窟や穴など、身を隠せるような場所にいます。
痕跡をたどれば問題なく見つかるでしょう。もしくは、狼をたどると発見できます。
体力は高めですが、それほど強くはありません。
●味方NPC
『峡湾の番犬』ラグナル・アイデ
「俺はラグナル。よろしくな」
「しがない狼使いなんだが、逃げられてちゃそう名乗るのも気が引けるなあ」
狼の群れを率いている男です。ひょうひょうとしていて調子が良さそうなノルダインの戦士です。なんとなく警戒しているようなようすもありますが、狼がなついているので、イレギュラーズたちを信頼することに決めました。
・狼たち
言うことを聞かせるのは難しいのですが、イレギュラーズたちの指示を理解し、来い、待てなど、ある程度の指示には従うようすがあります。
●狼そり
スピードが出てとても楽しいです。坂道もぐいぐい走ります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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