PandoraPartyProject

シナリオ詳細

袋小路のスぺーライオン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●行き止り
 ――畜生!

 男は地に這い蹲って無数の砂を食んだ。掌にこびり付く泥など気にすることはない。苛立ちと共に湧き上がったのは後悔であった。
 それは甘い誘惑。辛酸を舐める男にとっての蜘蛛の糸。理も非もなく理も非もなく、挑んだ只の情動。
 眼瞼を叩いた雨粒は無惨な末路であったと男を笑うようだった。

 遡り、男が落魄れた切欠は単純な事であった。事業の失敗。実に良く在る話である。
 連名で始めた貴族向けの商売は軌道に乗る事などなかった。結果論だけで言えば多額の借金を負う事となる。
 その責任を只の一人で背負うことと為ったのは仲間達による裏切りであったのかも知れない。
 負債だけが残された男は酷く狼狽し、禁じられた商いにも手を染めた。幼子を売り払い、薬剤を販売し続けた。
 それを、ローレットが摘発したのだ。禁で有ることは知っていた。己が悪人で在る事さえ……。

 それでも生きていく為には他人を蹴落としてでも仕方が無いとさえ感じていたのだ。
 故に、男の八つ当たりである。ローレットを誘き出し偽の依頼を使用して彼等に苦汁を舐めさせる。
 奴等も仕事で此方を摘発しただけだ。正義感なんて飾った下らない物で只の一人の人生を狂わせたことを思い知らせてやるしかないのだ――!

●贋作introduction
 依頼の内容は『幻想スラムにて、子供達を拐かす奴隷商人がいる』という旨であった。時間指定や現場指定がやけに詳細であると情報やが渋い顔をしたのが印象的だ。
 それは匿名での依頼書であったらしい。故に、裏があるのではないかと疑って掛るのは道理。暗澹とした道にぽつりぽつりと灯りが飾られる。それでも、不明瞭な道程は踏み込むことを怖れるような。

 ――スラムの子供達が拐かされていく。幾人も売り払われているらしい。

 それは倫理に反する行いだと声を上げる物も居た。同時に、幼いならば生きて行けぬからと其れを是とする物も居る。
 悪人であるからと仕事で『それ』を熟すことをイレギュラーズは傭兵として拒絶することは少ないだろう。
 雨催いの空を眺むるは依頼書を握った者達だった。
 ひたひたと近づく足音の数は多い。

「――居たぞ!」

 鋭い男の声音と共にイレギュラーズを取り囲んだのは15人の男達だった。其れ等は皆、イレギュラーズが請け負った依頼で何らかの不利益を得た者達だ。
 奴隷商を商いとしていた者は職を失い、日常的に殺しを働いていた者は己のルーティンが抜け落ちた。其れ等は倫理に、道理に反せども男達にとっては日常であったのだと声高に。
「あいつらを捕えろ。殺したって良い! ローレットに復讐だ!」
 男達の眸にはぎらりとした色彩が宿っていた。自棄となったその気配は何処までも乱暴だ。冴えた銀月を照り返したナイフの切っ先がイレギュラーズを指し示す。
 その行いが下らないことで在る事など論を俟たない。誰が見たって抵抗することは当たり前のことだった。

 ――生きる為に人を殺すの?
 ――生きる為なら仕方が無いの?

 そんな疑問が首を擡げたとしても。反撃しなければ首を掻ききられて命の終が訪れるから。戦うしか、ないのだと――

GMコメント

日下部あやめです。少し変則的な。

●成功条件
 商人15名の捕縛または殺害

●商人達 *15名
 彼等は奴隷商人や殺人鬼、盗賊です。全員がローレットが受けた依頼によって何らかの不利益を被ったと考えています。
 悪人で在る事は確かで在り、悪事を咎められたっ結果の八つ当たりです。
 それでも、燻る想いを堪えきれないのだとローレットのイレギュラーズに偽の依頼を発しました。
 彼等は放置していれば悪事を繰り返しローレットへと牙を剥くことでしょう。
 捕縛または殺害をお願いします。何方を選んでも構いません。

 其れなりに腕が立つ盗賊と、商人達です。戦闘スタイルの配分は前線タイプが多く一人で何でもこなせる器用貧乏な者が多く居ます。
 彼等は「生きる為なら人を殺したって、売り払っても良い」「生きる為なら仕方ない」とそう言います。
 結果は捕縛か殺害ですが、その言葉をどう捉えるのかは皆さん次第です。

●裏通り
 現場情報です。幻想王国のスラム、その裏通り。人通りは少ないですが、筋を曲がれば家を失った者達の生活スペースと為っているようです。
 そうした事件は良く在ることだと誰も目にもとめません。シナリオ開始時点でイレギュラーズは商人達に囲まれた状況となります。
 冴えた月が明るく照らしますが、其れでも視界は良好とは言えません。裏通りは其れなりのスペースはあるようです。
 情報屋が疑って掛っていたために、「襲撃がある可能性」を見越して準備が出来ていたという状況です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 (不測の事態が起きた後となります)

どうぞ、宜しくお願いします。

  • 袋小路のスぺーライオン完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)
翼より殺意を込めて

リプレイ


 暗澹たるその路に、炉端に蒲公英一つ咲きやしない。人工灯さえ存在せぬその道に冴え冴えとした月の光が降注ぐ。
 揺らがせたカンテラ一つ、手にした『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は静かに息を飲んだ。この様な場所には似合わぬ白銀の髪に陶器のようにつるりとした肌の娘は迫り来る雑踏へと耳を欹てる。
「月が綺麗だな?」
 唇が奏でるには余りに詩的が過ぎるとでも言うように。『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は目を伏せる。
 ロマンスには遠く、その地に感じられる気配は余りにも悍ましい。周囲を包む影へと何の感慨も浮かべぬ『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)は詰らない演劇でも見て居るかのようであった。
「――『生きるために他者を蹴落とす、食い物にする』……一概に否定はできませんが、彼らは他者を食い物にした結果他者に蹴落とされ、他者の恩情で生きながらえただけでしょう。
 一度失敗した『他者を蹴落とす事』に拘り、失敗の原因ローレットを避けもせず、利用するほど割り切ることも出来ない。無様にも程がありますが、そこはまあ、どうでも」
 躍るその言葉に月が光を返した。煌めくナイフの切っ先への一瞥は、憐憫に他ならない。
「商人、盗賊、殺人鬼……恨み辛みでのぼせているとはいえ、凡そ、他者と組んで命を懸けるなど、出来そうにない連中ばかり。それでやられるほど、容易い相手と思ったのなら、あまりに愚か、だ」
 溜息を吐いたエクスマリアに周囲を取り囲んだ商人が僅かな苛立ちを滲ませた。其れでも彼等が余裕をそのかんばせに貼りつけているのは自身らの優位を疑わないからに他ならぬのだろう。
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は周囲をぐるりと取り囲んだ悪漢等を見てもさして感情が動くことは無かった。人に恨まれ刃を向けられようとも、それは『特異運命座標』と呼ばれギルド・ローレットに所属している以上はそれは避けられないことなのだと認識していた。
 だが、その刃の前で散る心算は存在して居なかった。此処で斃されるわけには行かず、成すべき事が残っていると強く認識する。
「おやまあ、誰からも恨みを買わずに済むとは思ってはいやしませんでしたが……なるほどなるほど、逆恨み」
 小さく笑みを零したのは『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)。白磁の肌に被さった射干玉の髪がその表情を隠す。
 偽物の依頼を提示して、ローレットのイレギュラーズをこの場に呼び出した理由は逆恨みに他ならない。彼女が相手に何かをしたわけではなく、相手からすればローレットはローレット。其処に区別は無いのだ。それでも、誰かに恨まれるような行いは積み重ねた。それが傭兵と呼ばれる存在だからだ。
「いえ、良いのでごぜーますよ? それで本人達が良いというならば……。
 ただ、この方々がどうなろうとも、わっちとしてはどうでも良い事。くふふ、この場に立った以上はねえ?」
 くすくすと小さく笑い続けるエマの傍らで肩を竦めた『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は「やれやれ」と溜息を吐いた。
「可能性があるとは聞いてはいたが、実際に嵌められたってのは良い気分じゃねぇな。ま、こんな事もあるのが世の常だろう。さっさと蹴散らすぞ」
 ウォーミングアップをするようにぐうっと腕を伸ばす。夜色の短刃が月を返せば悪漢達は「数はこっちが上だぞ」と小さく笑った。
「だから?」と『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は問うた。
「――『一応』、聞いても良いかしら? 『幻想スラムにて、子供達を拐かす奴隷商人がいる』って?」
 シャルロットの問い掛けに商人達が笑い続ける。路地の裏に響いたその声に表情の色さえ変えずシャルロットは彼等を軽く一瞥して目を伏せた。
「ふぅん? 騙したのね。復讐、まぁローレットは顔も広いし、恨みある輩もいるにはいるんでしょうね。
 ……だから言えることは一つね。稼業にしても復讐にしても、『運がなかった』わね」
 どういう意味だ、と男は叫んだ。
「あらまあ、感傷的な泣き言が小悪党の鼠どもから聞こえてきますこと! 生憎わたくしには慈悲の心はあっても、悪行に対する甘さはないわ。
 むしろ、噛みついてくるならば噛みつき返してあげる。それはそうとこの国の上層部は何をやっているのかしらねぇ。民草を貧困から犯罪に走らせて王も貴族もなくてよ、全く」
 小さく首を傾いだのは『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)。虫さえ殺せぬような顔をしてころころと笑った娘は妖艶に、熱情を讃えた敵を捉える麗しき攻の構えを取る。
「殺せ」
 男の冷えた声が――飛び込んだ。


「気になるのは偽依頼の方ですね。……他の敵対者が大量に依頼を出すと情報屋さんの調査が間に合わなくなりますし、あまり広まってほしい手段ではありません。彼らは残さず確保して、このアイデアをどこから得たかなどしっかり確認しないといけませんね。場合によってはギフトを使ってでも」
 静かな声音で瑠璃は此度の状況を憂うように溜息を吐いた。日時の指定、人気無い場所と余りにも情報が多すぎた『偽情報』が流れ続ければ仕事に差し支えることを悲しむかのようである。
「気になりますね」とルリはぱちりと瞬いた。自身の周囲を取り囲むように仲間が布陣するのを確認して後方へと隠れる。魔力変換術式を張り巡らせて、月の加護を受けた弓をゆっくりと構える。
「後で聞かせて貰えるでしょうか。『どうやってローレットに恨みある者が襲撃の示し合わせを行う事ができたのか』。
 ……屹度、発起人や仲介者がいるのでしょうけれども。それを聞き出すのは捕縛した後でも遅くはありませんし」
 ルリへと小さく頷いて、エマはクリュプトンと名の付いた神秘を渇望する杖に魔力を奔らせた。暗器の如く、隠し持っていた杖の先に渦巻いたのは悪意で作り上げられた殺傷の霧。
「盗賊や殺人鬼、商人も『仕事を邪魔された』と逆恨みでごぜーますか?」
 余りに戦いに不向きであろうとエマが横目で見遣れば商人達もナイフを握りしめ、イレギュラーズを狙っている。嗚呼、そうだ。彼等は『徒党を組んだ』のだ。ルリの言う通り、襲撃の示し合わせを行って頭数を揃えてイレギュラーズを叩きに来た。
 故に、商人達は自身らの商売を台無しにした者達へとその恨みをぶつけるために慣れぬナイフに殺意と呼ばれた身勝手さを乗せてきたのだ。
「罠は巧妙に張り巡らせないと、個の力に食い破られる。よく言われる罠回避論だけど、鉄帝辺りだと本当にやらかすらしいわね?」
 そう小さく微笑んだシャルロットは蒼白く妖気をたなびかせ、ハンターの如く乱撃を放った。ふわりと、躍った月色に、追い縋る紅色の眸。吸血鬼としての膂力を活かすように、跳ね上がった女の刃は重く、深く身体へと突き刺さる。
「ぐっ――!」
「自分を正当化する訳じゃねぇが、お前らよりは腐ってねぇ自信はあるぜ」
 少なくとも仕事としてやってきたことだとシュバルツは梟の護符を持って『目』を確保し絶望を切り拓くが如く闇にその刃を振りかざす。
 魔力注がれた刃が闇に瞬き、黒き軌跡を描けば殺人鬼が苛立ったように雄叫びを上げて突進した。余りにも、愚直な一撃。
 ゆっくりと瑠璃雛菊を構えたルーキスはその動きを見切った。相手が悪であることは理解していた。悪人であろうとも、殺す事は控えたい。――こんなにも、自身を傷付けるために真っ直ぐでも、だ。
 それが正義感や慈悲、そうした感情による物ではないことをルーキスは知っていた。崇高な聖職者などとは遠く、人間らしい感情が其処にはあった。
 殺人鬼は誰かを殺した。盗賊は誰かを殺した。生きていたかった誰かを奪って生き延びた。
 そんな、彼等を生かして罪を償わせる。誰かの分まで生きる為に。それが『エゴイズム』であろうとも。
「――命を奪う気は無い。出来れば、投降してくれ」
「そんなこと、出来るわけないだろうが! 俺達は、生きる為にこうしてるんだ! 此れしか道がないんだ!」
 そんな感傷的な泣き言に、可哀想とも口にすることはなくメルランヌは息を吐いた。レディの嗜みの如くすらりとした肢体を包むボディスーツ。
「わたくしは、生かしたいとは思っておりません。必要とあらば、命を奪う。生き残るかどうかさえ、運よ」
 消極的な不殺。運良く生き残っていれば積極的には命を取らぬと決めていた乙女は威風堂々と暗き翼を持つ女王としての威厳と高貴さで圧倒する構えを取って見せた。背の仲間達を庇い立て、躍る様に赤い裳裾と燃える靴を揺らせたメルランヌの頬を男達のナイフが掠める。
 赤い色、一つ散ったそれを眺めてから持ち上げた脚が男の身体を地へと叩き付けた。
「ふふ、わたくしの蹴りは高くつくわよ――ねえ、生きるためには仕方がない、なんて甘えたことは言いませんよ。
 依頼を受けたら暴漢が襲ってきたから返り討ちにした。ただそれだけです。其処に高尚な理由なんて添えるはずもない」
 流れるミルクティブラウンの髪先に誘われるナイフは掠めることはなく。カンテラ揺らがせて雷を降らせ続けるルリは小さく頷いた。
 偽の依頼を受け、襲い掛かってきた暴漢を返り討ちにする。其処にそれ以上の理由も無ければ、殺戮に対する気概があるわけでもない。
『襲われたから、返り討ちにした』『正当防衛』、その文字列だけど躍らせて、降る雷は余りにも無情に殺人鬼の身体を蝕んだ。
「――でも、俺たちゃ、そうするしかなかった! 恵まれてるお前等には。
 ローレットに所属する限りは英雄だなんだと讃えられる! 仕事を斡旋して貰って、普通に生きていける、生きる方法を選べるお前等には――!」
 分かるわけがない、と。
 男の刃がエマの胸へと突き刺さった。赤い血潮がどろりと漏れる。精霊達の心配そうな声を聞きながら「どうだか」と囁いた。
 手をナイフへと添える。瞬間に男の身体が吹き飛んだ。ノーモーション。魔力が突如として男を地へと叩き付ければエマへとルリの回復が届けられる。
「奴隷商人捕縛に商人護衛での盗賊撃破、殺人鬼のアジト破壊……貴族が政治で動けないからと、好き勝手してた貴方たちの対処に私たちが出向いたのは間違いないわね。今まではどうか知らないけどそれで不利益を被ったから、こうしているのでしょう?」
 シャルロットは男の言葉を続けるように膨張した黒き大顎を形作った魔力を放った。
「生きるために仕方ない稼業……うん、だったら稼業が邪魔されるのもこちらが生きるためよ、仕方ないわ」
 ――生きる為。仕事だから。
 自身らを正当化しての逆恨みならば、その言葉がよく似合うとでも言うようにシャルロットは力の限りで直死の一撃を叩き付けた。
「……積極的に、命を奪う気もない、が。殊更に、大事にしてやろうとも、思わない。
 火の粉を振り払った後で、まだ息があったら、然るべき対応とさせて貰う。投降は」
 静かな声だった。金の髪を靡かせた幼い少女。澄んだガラス玉のような眸はまじまじと男を覗き込む。波濤魔術の波が背より迫りくるその悍ましさを身に感じながら。
 氷雪の如く冷たくも美しい刀の切っ先はゆっくりと男の首に添えられた。
「――するかよ」
「……自分達の、自業自得で引き起こされた応報に、素直に従うことも、できないの、なら。
 慈悲も、容赦も、ついでに興味もなく、排除、する。数だけ揃えたところで、な。手早く済ませよう」


 虹を思わせたなびいた。殺めることの無き力をその身に宿しながら瑠璃は男達を眺めて居た。
 積極的に命を奪うつもりはない。戦意喪失するならば、其れで構わない。もしも自身の一撃が最後となるならば生き残り強請る事もできるだろうか。
 瑠璃にとって逆恨みなど関係なく、誰がそのアイデアを出したかであった。黒幕が存在するというならば、それを尋問する必要もあるか。
 頻発して居るわけでもないならば、屹度――屹度、『ローレットの今まで』が彼等にそうさせたのかも知れない。ローレットは誰からの仕事も承けると知られているからだ。
「……まあ、生き残ってくれるか分かりませんが」
 死に物狂いで襲い来る。男達の攻撃を受けながらエマは、シャルロットは傷付きながらも敵を見据える。
(戦う気概は認めてあげましょう。けれど、彼等は運が無いわ。私達は不殺の手段を万全に用意している訳じゃない。運が悪ければ――)

 ――死ぬわよ。

 囁く言葉にルーキスは唇を噛んだ。そうだ、自身らの戦いで人が死ぬ。生きる為なら人を殺して良いと告げる誰かにノーと声を大にするように。
 イレギュラーズとなった自分の力が『悲劇を防ぐ』為のものであると認識していたから。それを綺麗事だと言われようとも、肯定することは出来ないとルーキスは殺人鬼の前へと躍り出た。
「お前だって、誰かを殺すんだ。
 生きる為に、大切な人を護る為に、そうやって理由を付けて正当化して殺すんだ」
 その言葉に身体全てが心臓になったように高鳴る音を聞いた。苦しいほどの気配。それを遮るようにメルランヌが躍り蹴撃を放つ。
 高貴なる女王は冴え渡った魔的な勘で、男の動きを見据えるように。
「だからどうしたと言うのです。『返り討ちにした』『仕事であった』……ただそれだけです。
 日常茶飯事。あなた方のやっていることは復讐ではなく所詮八つ当たり。手段も間違えていれば、目的も間違えているのよ。
 ……それも勝者の言い分だというならば、まあ、いいのだけど。お好きになさい」
 今から誰かを殺す側であるならば。メルランヌはそれも勝者の戯言として受け取られても構わぬと言った。
 エクスマリアはその通りだと目を伏せる。周囲に、人の影はない。静かな空間で「此の儘なら死ぬぞ」という声だけが響く。
「マリアは、別に何方でも良い。死のうが生きようが、其れに沿った然るべき対応をするだけだ」
「ああ。生きる為に人殺しをしても良いって言うんなら、自分が同じ事されたって文句ねぇよなぁ?」
 シュバルツが距離を詰める。積極的な殺害を求めるわけでは無くとも、傷が致命傷になる事だって在る。其れを救う為の手立てを誰も取ろうとはしなかった。
 癒し手として陣営の内部に居るルリも、眩む雲を躍らせる瑠璃も。何方も、その動向を見ているだけだ。
「――我が刃は無慈悲にて、せめてその命が繋がることを祈れ……黒顎魔王」
 吸血鬼は、人の命になど気を配ることは無かった。お祈りは相手に委ねた。ただ、力の限り振り絞った其れが――『最後』にならないように。
 ルーキスの不殺の刃が、最後になる事を、小さく願って。
「……甘いっていう事ぐらい、自分でも良く分かっている。それでも、彼らが生きることで得られる可能性を捨てたくは無い」
 ――まるで、正義にかぶれた英雄気取りだなんて、言われようとも。
 その歩みを止めたくは無いと、青年は目を伏せて。

「ったく、お前らに殺す程の価値なんてねぇよ。善人ぶって、今からでも改心しろなんて甘いこと俺は言わねぇ。
 ……だが、俺らの邪魔するっていうなら、その度に相手になってやるさ」
 シュバルツが溜息を吐いたその隣で、エクスマリアは捕縛の縄をぎゅう、と握る。
「待ち受けるのは、法に則った処罰だ。マリアたちが、断罪するわけじゃない」
 静かな声音。感情のいろを乗せないその声に続いて、瑠璃は「確認させて頂いても?」と問うた。
「命乞いが聞きたいわけではありません。まずは偽依頼がどなたの発案か、教えて頂けますか?」
「……其処に転がってる、アイツだよ。商人の……アイツが言ったんだ」
 捕縛された男は苦々しく、言った。地に転がった男はエマが感じたとおりに『この場には似付かわしくない』存在であった。戦闘にも向かない、直ぐにその命の終を迎えてしまいそうな弱々しい商人。
「――俺達なら、死に物狂いでお前等の誰か一人ぐらい殺せるって」
 苦しいその言葉に瑠璃は「そうですか」と声を紡いだ。「発起人は死んだのですね」とルリが問えば男達は項垂れる。
「ええ、それならば仕方がありません。先程は手荒な行為をしてごめんなさいね?
 けれど、二回目、三回目と繰り返されたくはなかったの。仕事になりませんもの。……貴方達だってよく分かったでしょう?」
 メルランヌは微笑んだ。甘やかすように、その魅力を駆使した翼の女王はうっとりと目を細め項垂れた男の頭を撫でる。
 欲しがった未来や答えを与えてやれるわけではない。在るのは歴然とした力の差と、命の終わりだけだからだ。
「――畜生」
 誰ぞが言った。
 その声に、エクスマリアは「恨み言は、聞いてやろう」と囁いた。幾つもの、そうした言葉を浴びせられた身体は、毒にでも蝕まれ何時しか痛みを忘れるように。
 畜生――畜生。
 繰り返された其れにシュバルツは「また、挑めば良い。それで死んだらそこで終わりだ。繰り返して、進む道を見つけりゃいい」と言った。
 甘言は、優しい毒のようだとルーキスは感じていた.其れを飲み干したとき、自分が辿り着くのは殺すか殺されるか。
 唯の其れだけであることを、感じながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

エマ・ウィートラント(p3p005065)[重傷]
Enigma
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 どんな場所だって、逆恨みはあるのでしょうね。

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