シナリオ詳細
<希譚>さよならの言葉<呪仔>
オープニング
●
――死にたくない。
死にたい。
死にたくない。
死にたい。
どうしてどうしてどうして、私はここに居るのですか。
苦しいです。
自分の子供に酷い事をしてたからでしょうか。
苛立つ感情のままに手を上げたからでしょうか。
あの時はそうするしかなかったのです。
自分でもどうしようもない怒りの衝動に突き動かされていました。
苦しいです。
けれど、私はこうして心を入れ替え、夫と共にこの地に来ました。
あの子の幸せを願って、森に入ったのです。
虐待をしたなどと後ろ指をさされる気持ちが分かりますか。
少し撲っただけ。少しないがしろにしただけ。仕方ないじゃありませんか。
周りは陰口を叩くだけで、何も助けてくれなかったのに。
どうして、こんな苦しみを受けなければならないのでしょうか。
苦しいです。苦しいです。助けてくれませんか。
希望ヶ浜の夜は冷たい風が吹いていた。
ひゅうひゅうと服の隙間から入って来る冷たさに身震いをする。
『真心の花』ハルジオン (p3n000173)は自分が生まれ落ちた街の明かりを眺めていた。
希望ヶ浜の聞いてはいけない話。本当にあった怖い話。
この街に古くから伝わる都市伝説を蒐集した一冊『希望ヶ浜 怪異譚』。そこには様々な都市伝説が書かれているという。その中に『石神地区の真性怪異』も含まれる。
土着信仰にフォーカスを当てて設計された地区であるが、利用者が減少した去夢鉄道石神線は廃線となり、人口流出に拍車を掛けている。そんな場所のお話。
最終電車も終わった深夜。来るはずの無い電車に乗れば異世界へと誘われる。
それを調査するためにイレギュラーズは編成を組み、数度に渡る接触を試みたのだ。
ダムの底に沈んだはずの来名戸村。そこへ足を踏み入れたイレギュラーズを『呼んだ』のは『真性怪異』なのだという。何とか逃げることが出来たが、彼等の中には背中へと視線を感じる者が増えたのだとか。
その一件を通し、『阿僧祇霊園石神支社』による『神の創造』へ触れることになったイレギュラーズ。
来名戸神へと嫁ぐ『花嫁人形』は狂気で支社内の人間を取り込み、人身御供の儀式を続けていた。
その結果、阿僧祇霊園の石神地区には『人であった怪異』が多数存在する。
●
「真性怪異――神様の神気に触れ、気が触れた者達は屍となった身体を揺らし、『お嬢さん』の婚姻の刻を待っている……」
ぷるぷると背筋を震わせるハルジオンは、話を聞いてくれていたイレギュラーズに向き直った。
阿僧祇霊園石神地区にて、『神様に認知された者』が突如として姿を消した。その行き先は来名戸村。
救出のために澄原病院に助けを求めた音呂木・ひよのは、病院側の澄原 晴陽から交換条件を持ちかけられたのだという。
夜妖退治のプロフェッショナルである希望ヶ浜学園に『阿僧祇の作り出した元・人間であった怪異』
――ゾンビ退治を願いたいというものだ。
「それが、皆にお願いしたいこと」
「ゾンビを倒せってことか」
「そう。でも、元人間っていう話」
阿僧祇に出向している澄原水夜子がもたらした情報によると、『屍』は元人間なのだという。
死体が無理矢理動いている状況はどうにかしなければならないだろう。
「パパとママを殺してほしい」
「……は?」
「あそこに居る。パパとママで間違いない」
ハルジオンは少しだけ寂しそうな表情でイレギュラーズに答えた。
経緯は分からないが、ハルジオンの両親は石神地区に足を踏み入れたらしい。
何を思っていたのか分からないが。
「きっと、苦しんでる。だから、殺して」
ハルジオンはイレギュラーズを見上げる。悲しみや寂しさが表情に浮かんでいた。
彼女は夜妖憑きとしてイレギュラーズに助けられたという話だ。
虐待を受けて逃げ出した所を、夜妖に魅入られたらしい。
両親に対しては怒りの感情は無いようだが。けれど、殺してとは物騒な物言いだ。
「そういうときは、眠らせてって言うもんだ」
「……お願い。パパとママを眠らせて」
今にも泣きそうな表情でハルジオンはイレギュラーズに縋る。
その頭をぽんぽんと撫でて、イレギュラーズは任せろとウィンクをした。
- <希譚>さよならの言葉<呪仔>完了
- GM名桜田ポーチュラカ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「……お願い。パパとママを眠らせて」
大きな瞳に涙を浮かべる『真心の花』ハルジオン (p3n000173)は『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)に縋り付く。
「すまねえな。俺にはよ、ハルちゃんの痛みの数分の一も感じてやる事ができねえ。
でも、その願いを叶えてやる事はできる」
出会った時は真っ黒だったハルジオンの髪は、今は真っ白になって長く伸びた。
金森真心という殻から逃げ出したい心の現われが、少女を御伽噺のお姫様みたいな容姿に変えてしまったのだろう。その頭をぽんぽんと撫でる。
「……任せろ、ハルちゃん。
優しいハルちゃんの代わりに、俺が嫌な思い出ごとあいつらを眠らせてやるからよ」
千尋の声かけに『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)も頷いた。
「……わかり、ました。ハルジオンさまの、ご両親……それにその周りにいる亡者たち。
きちんと、眠れるように。何より、ハルジオンさまの、ために」
メイメイがハルジオンの涙をハンカチで拭う。
その光景を見ながら『両手にふわもこ』アルム・カンフローレル(p3p007874)はシャイネンナハトの出来事を思い出していた。何故か商店の大売り出しに巻き込まれミニスカサンタで生足を披露する羽目になったのだが。その時にハルジオンも見かけた気がするのだ。あの時は嬉しそうに笑っていた少女が今は随分と悲しそうな顔をしているではないか。
「俺はこの世界に来る前の記憶がないから、辛さも悲しみも完全には分かってあげられないかもだけど……
ほんの僅かでも、ハルジオン君の気持ちを癒やすことが出来ればと思って。
さ、みんなが来たからもう大丈夫。俺たちがなんとかするよ」
メイメイとアムルは、ハルジオンとそのまま手を繋ぎ、石神地区にある村。小さな祠の前へ向かうのだ。
暗く足場の悪い山道を抜けて。
小さな村へと辿り着いたイレギュラーズ。
『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は小さな足を泥だらけにして付いてくるハルジオンを横目で見る。
両親を殺してほしいと言ったハルジオン。
その言葉を発するに至った覚悟があるのなら、それで十分だと舞花は進行方向へと向き直った。
「心配は無用。後は私達の仕事です」
短い言葉の中に込められた気遣いにハルジオンは「ありがとう」と感謝を述べる。
「人は何を以て愛というのでしょう……」
木々の揺れる音と共に『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)の小さな呟きが耳に届いた。
子が親から受ける絶対的な愛など何処にも存在して居ない。
愛さえ受けずに育ったというならば、終がこれとは余りに残酷だとしきみは息を吐く。
溢れているはずの『愛』は、しきみにとって届かぬもの。奇跡といっていいだろう。
自身に降り注ぐアイは無く。それは何処まで行っても他人のものだった。
ハルジオンはどうであっただろうか。
「其れでも」
唯一に出会えるならば藻掻くのは間違いではない。
もう、両親という枷がハルジオンを捕まえる事がないように。
村の小さな祠が見えてくる。
「あそこにハルジオンのおとうさんとおかあさんが……」
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は目を凝らして小さな祠を凝視した。
「うん……居るよ。あの、ベージュのコートを着てるのがママ。黒っぽいジャンパーを着てるのがパパ」
うごうごと蠢くゾンビの中にハルジオンの両親を見つける。
「何か思うところ、はあるのかな」
「……どうかな。ぐるぐるしてる」
道は分かれてしまったけど、何処かで生きて居ると思って居た両親が死んでしまったということ。
それがゾンビになったということ。今から倒しに行かねばならないということ。
どれ一つ取っても「どうして?」という言葉しか出てこない。
「だって……パパとママとの生活が『普通』だったから。叩かれたら痛かったし怒られたら怖かった。
でも、それが当たり前だった。他のお家を知らなかったわけじゃないけど。私の家はそうだった。
あの日逃げ出したのは……パパとママが喧嘩しててお腹がすいて『近所の目』があるから玄関で待ってたらまたママが噂されてるってあとで怒るって思ったから、で……」
昨年の夏に起こった夜妖憑きの事件。そこで保護された『金森真心』という少女は虐待を受けているという事情から両親から引き離されたのだ。
周りの大人が冷静な目で、少女に説いた状況。第三者の視点は自分が『普通』ではない場所に居たのだと思い知らされる事になる。両親から離れて良かったと周りが言うものだから。そうなのだろうとハルジオンは自分を納得させた。自分は恥ずべき場所に居たのだと両親の事に蓋をした。
「でも、死んでほしかったわけじゃ……」
ハルジオンの目に浮かぶ涙をリュコスは服の裾で拭う。
「フリック。墓守 死者 遺族 心 護ル 安寧 護ル」
地面を踏みならし『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)はハルジオンの心に寄り添う。
墓守たるフリックは無理矢理ゾンビにされてしまった魂にこそ向けられるのだ。
そこには眠りを妨げし者の怒りはあれど、死者に対しての怒りはない。
「怒ル 千尋達 担ウ フリック 怒ラナイ 担ウ」
ハルジオンの為に怒ってやることも大事で。死者の安寧の為に怒らないことも大事なのだとフリークライは考えているのだろう。
「ドンナ親デアレ 責メラレルバカリ 聞ク 子ドモ 辛イ アル 死者 鞭打ツコトナシ
ダカラ 祈リ以テ 戦ウ 死ネバ ミンナ 花。ミンナ 星。ミンナ 命」
ハルジオンの両親だけではない。今から倒しに行くのは他の誰かにとっての『ハルジオンの両親』なのだろう。誰かの大切な人。好きだった人。家族。子供。
だから、フリークライは彼等にも再び安寧の眠りを与えるのだと思っていた。
●
メイメイの使役する鳥がカンテラを加えイレギュラーズを照らす。
人間の気配にゾンビ達が集まりだした。
「……待って、なにここ、雰囲気ありすぎて怖いなぁ……!」
アルムがプルプル震えながら仲間を見回すと、メイメイが同じように耳を下げている。
「こわい、けれど、わたしは……立ち向かい、ます」
しかしメイメイはこんなに小さな身体で勇気を振り絞っているのだ。アルムが怖じ気づくわけにはいかないだろう。
「俺もしっかりしなきゃ! 怖いけど。何たって俺は討たれ弱いからね!」
けれど、今日は頑張らねばならない理由がある。小さな少女の為に身体を張る時なのだ。
「悪いけど、ハルジオン君のためにも倒させて貰うよ……!」
アルムのかけ声と共に、千尋が走り出す。ハルジオンの両親の元へ駆け抜ける。
「今日の俺は、ちょっとマジだぜ。 オラッ! 光れしにゃこ!」
「えいやぁ!」
千尋の背後で『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)がキラリと輝いた。
「自分でもなんでか解らないですけど耳が光ります! 美少女だからなんでもできちゃう! すごい!」
戦場を照らすしにゃこの光。火に入る夏の虫の如く戦場に次々と現われるゾンビ達。
「うぅ~ん」
しにゃこはハルジオンの両親に向けて言葉を投げかける。
「しにゃも親心はよく解らない派なので大変だったねーとか気の利いた事は言えないんですけどね!
少なくとも貴方達が安らかにお眠りにならないとハルちゃんが前に進みづらくなると思うので
しにゃ頑張っちゃいますよ!」
戦場にしにゃこの声が響き渡った。
「私達が敵を受け持つので、ハルジオンは距離を置いて回復に専念して」
「うん」
舞花の指示に真剣な表情で頷くハルジオン。
「……とはいえ、敵が何処から来るかもわからない状況。辺りのゾンビが集まるまでは誰かの傍に」
「うん。しにゃの傍から離れないように!」
まだ全部のゾンビが現われたわけではない。ハルジオンを後方に下げれば、その後ろから襲われる可能性もあるのだ。舞花としにゃこは近づいて来る足音に振り返る。
「ここはぼくに任せて」
後方に現われたゾンビに一早く反応したリュコスが敵に牙を突き立てた。
リュコスの攻撃を食らいながらも動じないゾンビ。リュコスをそのまま殴り付ける。
「倒さなきゃいけないわけだけどもともと人間だった人が相手ってのはなんかやりづらい……」
目の前のゾンビはまだ死んだばかりなのか、普通の人間と変わらない見た目をしていた。
「でも石神地区で死んじゃった結果こうなってるってことは、まだ魂が『あの場所』に捕まってるってことだよね。あそこはとても怖い……」
怖気がリュコスの背を駆け上がっていく。
「多分こんな姿になってずっといていい場所じゃない……だから「助ける」ね」
ゾンビの魂を救う為にリュコスは爪を立てた。
――――
――
「ン。フリック 癒ヤス。ミンナ 支エル」
ゾンビの魂を引きつけている舞花を光が包み込む。
フリークライの癒やしの息吹が舞花の傷を消していった。
多くの敵を舞花が引きつけ、千尋がハルジオンの両親と対峙する。
重点的に癒やさなければならないのはこの二人だ。
「フリック 癒ヤス。ミンナ 護ル」
フリークライは的確に戦場を把握していた。この村に入ってから耳元で聞こえる変な声や気配も、全て無視して目の前のゾンビ達を眠らせる事に専念するのだ。
メイメイの影から黒い犬が飛び出してゾンビへと食らいつく。
「はやく……眠らせてあげないと」
長引けば長引くほど、ゾンビたちもハルジオンも辛くなるだろう。
だからメイメイは力の限り魔法の力で敵を打ち払っていく。
しきみの掌に火焔の大扇が燃え上がった。
舞花に群れるゾンビを焼き払うため、彼女に背を預け掌を左から右へ流す。
扇が開くように朱い焔が吹き荒れゾンビを焼いた。ボロボロと朽ちていくゾンビ達。
「……噛まれたら俺もゾンビになっちゃう、ってことはないよね?」
アムルは近づいて来たゾンビのむき出しの歯に背筋を凍らせる。先ほどから耳元で何かが喋っているようなきもするが。
「聞こえない!! 変な声なんて聞こえないし背中に気配なんて感じないよぉ……!」
それを掻き消すように自分の声を張り上げる。
「はぁ……」
ゾンビ達の数が減って来たとアルムは息を吐いた。
戦場を見渡せば千尋が鎌を構えた母親の懐へと入り込んでいた。
あえて敵の間合いの中へ飛び込むことで戦いを有利にしているのだろう。
千尋の背には闘志――怒気がありありと浮かんでいた。
「ハルジオンの両親は「いい人」じゃなかったみたい」
リュコスはゾンビになってしまったハルジオンの両親を見つめる。
「自分の子どもを傷つけるなんてぼくには考えられない……ぼくはぼくの親の顔がわからないから親がいるってことはとてもすてきなことだと思ってた」
リュコスにとって親というものは神聖なものだった。無償の愛を注いでくれて、微笑んでくれる。
決して撲ったりしないし、少しは怒られるかもしれないけど、それはリュコスを思って言ってくれる事なんだって。そこには愛が溢れているんだって。キラキラとした願いに似たもの。
「だけど親がみんないい人ってわけじゃないのは……とてもいやなこと」
それは認めたくないものだ。リュコスにとって都合の悪いもの。
「でも眠らせてあげたい、って言ってるから……がんばるしかないね」
リュコスの求める『親』では無いモノだと蓋をして。
ハルジオンの為だと言い聞かせて。リュコスは駆け出す。
「話せますか? 苦しいなら、聞きませう。仕方ないですよ、手を上げるのも、苛立つのも
人間は簡単には母になれない、当たり前です」
しきみは千尋と共に母親の前に対峙する。
「それでも、貴女は懸命に母だった。旦那様も、貴女を護るためにそうしたのでせう
褒められることはなくとも、その心を護る事は大切ですから」
メイメイはしきみが語りかける言葉を聞いていた。母親は何かを言いたげに唇を動かす。
ハルジオンの両親が何を想い、この場にいるのかを見極めるためにメイメイは彼等を見つめた。
狂気に囚われているにしろ、伝わる事があるのなら。心に留めておこうと。
ハルジオンに対する想いは残っているのか、とメイメイは唇を震わせる。
「苦しかったですよね。辛かった、ですよね」
話しを聞いただけのメイメイでさえ、胸が締め付けられるのだ。
ままならない社会の歪みに心が乱されてしまう。でも。
「ずっと、ずっと、ハルジオンさまも、そう思っていたのです、よ」
戦場に打撃音が響く――
千尋の拳はハルジオンの母親を地面に叩きつけた。
怒りに満ちた拳。感情が溢れ出す。
「狂うことも、逃げることもできなかったハルちゃんに! きちんと! 頭下げて! 謝りやがれ!
そっちのテメーもだ鉈野郎!」
昂ぶる怒りで唇が震える。息が上手く出来なくて千尋は拳で口元を拭った。
真心花という夜妖に簡単に身体を明け渡してしまう程、全てを諦めていた少女の為に。
千尋は戦場に響き渡る声で叫んだ。
「お前等の為に悲しんでくれてるハルちゃんを、これ以上苦しめるんじゃねえ!」
重なるアムルの神気は戦場を包み込む。
「もう少しだよ。早く、眠らせてあげないとね」
アルムの攻撃は周りのゾンビ達をなぎ払いハルジオンの両親を残すだけとなった。
「こっちは大丈夫」
ハルジオンが保護された経緯を鑑みれば、両親を憎んでも仕方の無いことだと思うのに。
それでも両親の安らぎを願う少女は、良い子なのだと舞花は思った。
彼等がゾンビになってしまったのは『自業自得』だというのに。
「死んで尚も苦しみ続ける事を、貴方達の娘は望んでいない。
――今こそ、その苦しみから解き放って差し上げましょう」
戦場を閃く紫電の太刀。
「ねえ、貴女はハルジオンさんを――いえ、真心さんを、愛していたの?
それを、伝えてあげて欲しいのです」
しきみはハルジオンを指し示す。
「真心……」
きっと母親には、様変わりしてしまったハルジオンが自分の子供だと分からなかったのだろう。
しかし、白い髪から元に戻った『真心』に手を伸ばす。
「ぁ……ごめん、ね」
既に戦う力は失われているけれど。殺し切らねば永遠の眠りは訪れない。
「これから、ご両親は倒されるでしょう。見て気分のいいものではありませんが、見るというならば止めません。どうしますか? 貴女が決めて下さい、見ないというのは悪いことではないのですから」
「……一緒に。居る」
ハルジオンは庇ってくれているしきみの腕をしっかりと掴む。
「可愛い女の子は全員幸せになるべきなんですよ! ハルちゃんはしにゃが責任を持って幸せにします!
っていうとなんかプロポーズっぽくてアレですけど」
しにゃこが父親を羽交い締めにしながら叫んだ。抗うように振るわれる攻撃もフリークライの回復で気にならない。
「こんな不幸が霞むほどの幸運をお届けします!しにゃだけじゃなくて皆さんもいますしね!
だからご安心してお眠りください、お父様、お母様!」
しにゃこはメイメイへと合図を送る。それに頷くメイメイは黒犬の牙を突き立てた。
「……おやすみ、なさい。さようなら」
それを目を背けること無く見つめるハルジオン。
「――愛して……いたわ」
母親の掠れた声がハルジオンの耳に届く。
「真心、ごめん、ね」
「ママ……っ!」
何もかも上手くいかなくて、破綻して終わりを迎えてしまったけれど。
それでも、子供へ向ける愛が確かに存在していた。
●
何も動くものが無くなった祠の前。
フリークライとしきみの手で埋葬される両親をハルジオンは無言で見つめている。
「真心さん、どうかご両親の分まで誰かを愛してあげて下さい……屹度、それが、彼女たちにとってのさいわいです」
しきみの声に「愛」と小さくハルジオンが呟いた。
髪に付けた『ハルジオン』の花を両親の胸元に置く少女。
ハルジオンの心の痛みが分かるようだとメイメイは唇を噛んだ。
どう声を掛けていいか分からない。けれど、と首を振る。
ただ、寄り添ってあげたい。元気づけてあげたいのだと、小さな肩を抱きしめた。
同じようにアルムもハルジオンの頭を撫でる。
「ハルちゃん……泣くなら泣いちまってもいいし、一人になりたきゃ俺達は向こうへ行ってるよ。
だけどな、忘れないでくれ。俺はハルちゃんの味方だぜ」
千尋の言葉にハルジオンは、ぼろりと涙を零した。
悲しい時は悲しいと泣いていいのだと、イレギュラーズは教えてくれた。
誰かを愛していいのだと教えてくれた。
涙を流しながら縋るハルジオンを、千尋は強く強く抱きしめた。
笑いもしなかった。泣きもしなかった。
空っぽの少女の内側にきちんと感情があったのだと、千尋は薄らと目に涙を浮かべたのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
無事にハルジオンの両親を眠らせることができました。
MVPは彼女の為に怒ってくれた方にお送りします。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
桜田ポーチュラカです。
ゾンビになったハルジオンの両親を眠らせてあげてください。
■依頼達成条件
ゾンビの撃退
■フィールド
夜です。田舎の村にある小さな祠の前。
どこからともなくゾンビが現れます。
■敵
・ハルジオンの母親
子供を虐待していたという事実を周りに誹謗中傷されおかしくなってしまいました。
突然、石神地区へ行くと言いだし夫と共にこの地へきました。
狂気を振りまき襲いかかってきます。
鎌を振り回しています。とても強力な個体のようです。攻撃力が高いでしょう。タフです。
・ハルジオンの父親
妻がおかしくなったので、山につれて行き殺しました。
殺した帰りに、足を滑らせて自分も死んでしまいました。
狂気を振りまき襲いかかってきます。
妻を殺した時に使った鉈を持っています。とても強力な個体のようです。
素早い動きです。攻撃力が高いです。
・ゾンビ×30
そのあたりに居るゾンビです。
耐久性はそこそこ。腐りかけていたり、最近死んだばかりの者だったり。
生きて居る者に襲いかかってきます。
■NPC『真心の花』ハルジオン(p3n000173)
イレギュラーズなので一般人よりはタフです。
簡単な戦闘が出来き、簡単な回復が使えます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
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