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シナリオ詳細

再現性東京2010:報いは呪いとなりて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●堕ちる為の階段を上ろう
 再現性東京という場所がある。
 それは練達の一区画に存在しており、さらにその一区画にて希望ヶ浜と呼ばれる場所がある。
 希望ヶ浜学園はその場所に存在する学園だ。
 高等部にて一人の女生徒――高月 夏美が屋上に向かっていた。
 背中までの長い髪が彼女の顔を隠す事で陰気さを強調する。
 彼女には生きる気力が無かった。
 一ヶ月ほど前から始まった陰湿な嫌がらせ。
 始まりは、急なひそひそ話。次第に広がり、いつしか彼女は孤立させられていた。
 原因は同じ図書委員として活動する男子生徒と話していた事らしい。業務内容の確認をしていただけだというのに。だが、内容など些末な事なのだ。少なくとも、面白くないと感じた者にとっては。
 それがエスカレートするまでに時間はかからなかった。
 教科書が隠される。
 椅子に画鋲が蒔かれる。
 体育着を破かれる。
 机に油性ペンで落書きをされる。
 靴を隠される。
 ――――などなど、数え上げればキリが無い。
 言い返す気力は最初の頃はあったし、椅子に関しては証拠の写真を撮った上で窓から投げ捨ててやったりもした。
 しかし、それでも嫌がらせはやまず、エスカレートした挙げ句、ついには人的被害を受けるにまで至った。
 違和感の残る腹部をさすりながら、階段を上っていく。
 扉を開ければ、広がる青空とフェンス。
 それを乗り越え、へりへと降り立つ少女。
 今は授業中の時間だ。そして、少女の在籍しているクラスも。
 そのクラスのちょうど真ん中に見えるような位置は予め計算してある。あとはここから飛び降りるだけだ。
 この時間、誰が外を見ているのかも知っている。
 だから、見せつけてやろう。自分の死に様を。
 笑いざまを。
 そして、前のめりに倒れるようにして、彼女は落ちた。


「自殺未遂した女生徒の呪い……ねえ」
 『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)は、制服姿となって学園にやってきていた。相変わらずスカートを穿いているし、その下にはスパッツを穿いている。
 カフェ・ローレットに持ち込まれた「高月 夏美という生徒の呪いをどうにかしてほしい」という依頼を受けて、ここに来ている。
 ほむらの目の前には、怯えた様子の女生徒が二名。
 彼女達が言うには、女生徒――――高月 夏美が飛び降りによる自殺未遂をしたのは二週間前の事。
 病院に運び込まれてから数日後より、異変が起きたという。
 曰く、誰も居ない階段で足の鍵を切られ、転がり落ちて重傷を負った。
 曰く、誰も側に居ないのに、腹部に衝撃があって肋骨が折れた。
 曰く、誰も居ない廊下で何かに、壁に頭をぶつけて昏睡状態になった。
 極めつけは、目撃者であった別の生徒による証言。
「何か黒いもやが見えた!」
 そんな事が校内で続けざまに起こり、こうしてほむら達が調査に来たという訳だ。
 事件をよくよく調べてみると、いずれも「足・腹部・頭」のいずれかへと怪我を負わせている。現在病院で昏睡中だという自殺未遂の女生徒も腕と頭を怪我しているそうだが、腹部への繋がりは無い。
 嫌な予感がして、『呪い』と呼ばれるに足る理由を尋ねれば、出るわ出るわ女生徒への嫌がらせの数々。
 挙げ句、女生徒への人的被害も生じているというのだから、救いようがない。そしておそらくは、その腹部が人的被害に通じている。人的被害の内容は口には出せないような代物なので、推測でしかないが。
 いじめの首謀者である生徒は女子で、彼女だけがまだ無事だという。
 この二週間で起きた事は全て彼女の友人達だ。親しい者達が次々と病院送りにされている今、残るのは自分だけだと怯えているらしい。
「自業自得すぎて何とも言えないですね」
 溜息を零す。
 証言や内容を聞くに、おそらくは夜妖だろう。暴力に訴えての行動からの推測だが。
 残るのがその女生徒だというのならば、護衛をした方がいいはずだ。
 そう考えるほむら達の前で女生徒二人の内片方が突如鳴ったaPhoneからの通知音に反応して電話に出る。
「もしもし?」
『助けて! 追われてるの!』
「えっ、どういう事?!」
『わからないの! 変な黒いもやが、私を追いかけてきてっ! なんだか分からないけど、嫌なモノだってのは、なんとなくわかるの!』
 聞こえてくる声からして、件の女生徒か。確認すると、大当たりだった。
「今どこに居るんですか!?」
『四階よ! 色んな教室を出たり入ったりしてなんとか逃げてるの!』
 今ほむら達が居るのは二階だ。急いで駆け上がればなんとか間に合うだろう。
 戦う際、女生徒には少々眠ってもらう必要はあるが、その辺はどうにかするしかない。
「そのまま四階で逃げ続けてください!」
 電話口の向こうにそう告げて、手近な階段を駆け上がっていく。

●呪いという名の体を借りて
 『ソレ』は少女の姿をして浮かんでいた。周りを黒いもやが覆い、彼女に取り憑いているのが分かる。
 その両腕は膨れ上がり、筋力に特化しているのが見て取れた。
 腹部は妊婦のように膨らんでおり、彼女の長い髪は宙を漂うように揺れている。
 足は見えない。生き霊の類のように思えた。それが夜妖と融合したのか、あるいは夜妖から力を借りたのか。
「許さない……」
 唇から紡ぐのは呪詛のように繰り返される言葉。
「許さない……」
 それは少女の姿をしたモノ。
 『呪い』に擬態し、人に害をなす。そういった存在であった。
 その存在が今狙っているのは、自分へ嫌がらせをしてきた主犯の女生徒。
「許さない……」
 この恨み、晴らさずにしてなんとしよう。
 その想いだけが、『ソレ』を動かしていた。

GMコメント

 初めての再現性東京となります。よろしくお願いします。
 なんか降りてきたので、つい。
 救いのないような人間を書くのは楽しいですね!

●達成条件
・被害女性の生存
・「怨念坊(夜妖)」と「高月 夏美(生き霊)」の撃破
(オプションA)被害女性の無傷生存
(オプションB)高月 夏美の不殺フィニッシュ
(オプションC)オプションB達成後に夜妖を撃破する
※オプションB・C未達成の場合高月 夏美の無事な生還は保証できません

●敵
 自殺未遂した女生徒の怨念と生き霊が夜妖と混ざったモノです。夜妖憑きと呼ばれます。

・高月 夏美(生き霊)
 怨念のみで動いており、夜妖の力を借りて人に害を与えている。
 足の無い生き霊であるが、イレギュラーズから物体攻撃を与える事は可能。
 本体が昏睡状態な事もあり、HPと耐久力は低め。
 長い髪と膨れ上がった腕で攻撃をする。
 邪魔をするイレギュラーズにも積極的に攻撃をしかけてきます。
 かまいたち(髪):神近範、【出血】【不運】
 怪力の腕(腕):物至単、【ブレイク】【体勢不利】
 怨念の力で動いている為、【魅了】【怒り】に耐性がある。

・怨念坊(夜妖)
 高月 夏美の怨念に惹かれて力を貸している夜妖。
 彼女から離れた時、陰気に満ちた幼児(少年)の姿になる。
 少年の姿だが、夏美に力を貸していただけあり、腕力は強く、HPも高い。耐久力は人並。
 風起こし:神近範、【足止】【崩れ】
 掌底波:物近単、【体勢不利】【麻痺】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 再現性東京2010:報いは呪いとなりて完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
糸色 月夜(p3p009451)
小鳥遊 美凪(p3p009589)
裏表のない素敵な人

リプレイ

●君に情けを
 教師も生徒も廊下を走る。誰かに注意されたとしても、関わってはいられない程に時間が惜しい。
 『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)は、先を走る者達についていくのが精一杯で、軽口などたたける余裕は無かった。
 今イレギュラーズが居るのは二階。件の場所は四階。階段を見つけた彼らは急ぎ、駆け上がる。中には一段飛びをして駆けていく者も居る。
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、今回の事件の背景について思慮する。彼女はここでは教師として行動していた。故に、背景に思うところが無くもない。
(担任ではないとは言え、この学園でこんな事件が起きているのを見過ごしていたとは……)
 いじめ等という言葉で済ませられるような事態ではない。
 唇を軽く噛み、彼女は決意する。教師としてのけじめをつけなければ、と。
 彼女とは対照的に、『テスト対策中』糸色 月夜(p3p009451)は胸中で毒づいていた。主に、先程聞いた、高月 夏美へ行なわれた嫌がらせの数々について。
(男絡みで特定個人を攻撃すンのも、当てつけのように態々見えるところで自殺図るのも、くだらねェ……)
 階段を上がりきれば、そこは四階。
 だが、四階と言っても広い。『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)が耳をそばだて、敵の位置を『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)が探る。
「あちらです!」
「あっちだよ!」
 物を動かすような音や走る音、それから少女の喚く声。それらが聞こえてきた方向を指で示し、同時にメイもそちらを指差す。瑠璃とメイが先頭となって走り、後をついていく。
 見えてきたいくつもの教室。そこから一人の女生徒が飛び出てきた。
 少しくすんだ茶色の、ウェーブがかったセミロングボブの少女は、イレギュラーズの姿を見つけると、助けを求めにやってきた。
「助けて!」
 辿り着いた彼女をほむらが受け止める。
 彼女の背後、教室のドアがある場所から姿を覗かせたのは、黒いもやに包まれた、一人の女生徒の姿。それに足は無く、腕は異様に発達し、腹部は妊婦のように膨らんでいる。本来なら艶めく長い黒髪が、ゆらゆらと空中で揺れていた。
「彼女が、高月 夏美ですか?」
 ほむらが助けを求めてきた女生徒に問う。彼女は必死に首を縦に振る。
 足が無く、幽霊かと思われた。しかし、本体は病院で昏睡状態のまま。つまり、アレは生き霊の類いであり、それに夜妖<ヨル>が憑いていると推測された。
「あの子の形……それに今までの被害者のお腹の不審な傷……考えたくもないけれど……なんて酷い事を……ッ!」
 吼えるは、『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)。彼女に気圧されてか、女生徒の顔が若干引き気味だ。
 激昂する彼女と異なり、『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)は冷静に相手を見つめていた。
(自分に利があるんだろうけど、この夜妖はタカツキちゃんの想いを汲んでるのよね)
 復讐したいという願いに夜妖が応えたのならば、そういう事なのだろう。
 行為自体は褒められたものではないが、自分も依頼で悪事に荷担した経験があるだけに、夜妖や彼女を責めるつもりは毛頭無い。
 女生徒と近付いてくる夜妖憑きの間にメイと月夜が割り込む。
 まだ十二歳という少女のメイにとっては、生き霊の想いも、事件の背景の痛ましさも、胸が苦しくなる思いだ。
(このまま夏美さんが怨みのままに動いたら、きっとご自身も壊れちゃうのですよ!
 だからこの方をこんな形で、夏美さんに傷つけさせたくないのですよ)
 優しい少女は彼女の体を慮り、対峙する。
 月夜は、振り返って女生徒へと声をかける。
「よォ幸運!
 他のお友達は身体に傷が入ったようだがテメェは五体満足だ。
 ラッキーガール、運も実力の内。
 助けてやるよ、オマエは成るべくして無事なンだからよ」
 彼女が主犯だとか通常倫理観では悪に分類されるらしいとか、そういった事は彼には関係なかった。
 自分も褒められるような吸血鬼ではない。だから、彼女を守るなら、自分のような悪で丁度良いのだ。
 彼の思惑は分からないが、『神は許さなくても私が許そう』白夜 希(p3p009099)は自分の信念に基づいて、同じく彼女へ守る事を宣言する。
「貴方には傷一つつけない。けどね、そうするのは、貴方は永遠に加害者のままでいてもらう為だから」
 かけた眼鏡の奥に見えるはずの目が見えないのは、影になっているからだろうか。
 何も言葉を発しない女生徒へそれ以上声をかける事はせず、前方へと視線を移す。
 『裏表のない素敵な人』小鳥遊 美凪(p3p009589)は、胸中で独りごちる。
(何とも救いのない話ですねえ)
 しかし、自殺未遂した理由は理解出来ないし、彼女がその選択をした事は別に構わない。なんなら、主犯とされるこの女生徒に関しても別にどうとも思わない。
 美凪が許せないのは、高月 夏美の想いを利用した夜妖だ。
 倒さねばならない、と強く思った。
 瑠璃は胸中で彼女に同情する。
(己を殺して死に損なって、復讐心を夜妖に利用されているというのはあまりに不憫。――本当、逃げ出したってよかったでしょうに)
 けれど、それが出来ないのが高月 夏美という少女だったのだろう。
 本当の意味で被害者と呼べるのは彼女一人で、それが胸を痛くする。
 だからこそ、助けねば。

●彼女を救い、守るために
 まずは夜妖と彼女を引き離さなければ。
 瑠璃は生き霊部分を識別しようとしたがそれは叶わず。
 女生徒と月夜、ほむらに向けてあっちへ行くように、美凪が手を振る。
「ほら、邪魔だからあっち行ってなさい。私達の給料減らす気ですか」
 ほむらと月夜に連れられて、少し後方へと移動する女生徒。
 それを他の仲間達も確認した所で、ミルヴィがゼフィラへ一つ頼む。
 ゼフィラが用意をする間に、希が結界を展開する。これで半径五十メートルの結界が出来上がった。
 ミルヴィへと注意が向かぬように、夕子が高月 夏美こと夜妖憑きへと声をかける。
「あんたがタカツキちゃん? あーしも高槻なんだ、よろっ!」
 だが、返答は無い。
 彼女の後ろから女性が現れる。それは女生徒の姿。しかし、本物は後方に居る。
 ミルヴィがゼフィラに頼んだ幻影だ。あえて彼女の姿をとり、その上でミルヴィは口を開いた。
「調子に乗りすぎー、何勘違いしてんの? ブッサイクが本当の化け物になっちゃって……アハハッ。
 産婦人科にさっさと行けば? ぁー…アンタはもう行っても無駄か」
「…………許さない……!!」
 侮辱の言葉に反応し、一気に殺気が膨れ上がる。しかし、それはミルヴィの狙いであった。
 ミルヴィへと接近しようとするのを、夕子が一気に距離を詰め、壁になる事で阻止する。
「んふふ、にーがさない。こっちこっち! 高槻 夕子、夏美っちのハート射止めちゃうよ!」
 そう言ってウインクしてみせた後に投げキッスを一つ。彼女が放つ色香が夜妖憑きへと届いたようだ。
 怒りの矛先は彼女へと向き、そして攻撃の手が伸びる。
 異様に膨れ上がった腕が、彼女の体へと上から力を込めて振り下ろされた。
 夕子はそれを受け止め、仲間の攻撃が通るように夜妖憑きをマークする事に徹する。
 まず最初に彼女へ一撃を食らわせたのはメイだった。羊のおんぶぬいぐるみバッグにしか見えないそれで、相手を殺さないで済むように攻撃する。
 夕子が注意を引きつけ、メイが攻撃するその中に、ミルヴィも参戦する。繰り出される腕や風の刃を受ける事もあったが、それはゼフィラが展開させてくれた聖域によって癒やされた。出血や体勢が崩れたりする様子があれば、彼女の号令によって立て直される。
 ゼフィラだけに癒やす負担をかけるわけにはいかないと、瑠璃も治療に加わった。
 最中、突如夜妖憑きの頭上に虚空が生まれ、そこから黒い光の塊が降りてきた。彼女へと落とされる。
 光の主は希。彼女が放った魔女の霜槌だ。
 気付いた夜妖憑きが身をひねり、かろうじて頭からの氷漬けを避けたが、足下は床と一つにさせられた。身動きが出来なくなるが、氷から逃れようと足掻いてみせる。
 しかし、それを阻止したのは美凪だ。彼女はオーラで作られたロープを夜妖憑きへと巻き付かせ、それ以上の動きを封じる。同時にその夜妖憑きの体に痺れを与え、行動を阻害した。
「はいはい、叩いて埃を出しましょうね」
 ロープなどは相手の命を奪うに至らない。だが、それで十分だった。
「くそっ!」
 彼女の口から、彼女ではない声がして、その体から何かが出てきた。氷漬けとなった本体は、メイの不殺の一撃で少しずつ姿を薄れさせていく。
 消えていく姿をミルヴィが抱きしめる。
「悔しいよね……未来を、大切なものを穢されたんだ……後はゆっくり休んで…………」
 せめて取り戻せない傷が取り戻せるように願う。果たしてそれは叶ったか。光に包まれて消えた彼女の結果はわからない。
 そして、彼女の代わりにその場に現れたのは、少年。おそらくは、ソレが夜妖なのか。
 Tシャツに短パンといったどこにでもいるような姿の少年だが、雰囲気は陰気であった。何かを恨みがましく見つめるようにイレギュラーズへと視線を送る。
 それを離れた所から見ていた月夜が立ち上がった。彼と意思疎通を試みようとした。
「テメェは腹に逸物抱えた餓鬼か、それとも生まれる前に死んだか?」
 もし彼が死者の霊魂であれば、応える事もあったろう。しかし、応えなかった。チッと舌打ちする。
「油断せずに。姿形なんて有って無いような物かも知れませんし、実は子供オヤジだったりするかも?」
 美凪の冗談まじりの言葉に、後ろでほむらの「その発想はなかったかなぁ」と呟く声が聞こえた気がした。
 少年が両腕を広げ、風を起こす。範囲内に居た数名が転がっていく。
「僕の名は怨念坊。オヤジじゃない。
 はぁ……折角、相性の良い体と巡り会えたと思ったのに……」
 陰気な視線を動かして、イレギュラーズを見る。その視線は女生徒を捉えていた。
「どいてよ。そいつに復讐するのが彼女の望みなんだ」
「残念ですが、それは出来ない相談です」
 瑠璃が答えた後、希の影から伸びた触手が後方より現れて少年の脇腹を掠める。
 邪魔されている事が腹立たしいか、その触手の効果か、彼の怒気が強まった。
 瑠璃の発動した魔眼が少年を呪い、縛る。
「人の怨みを利用して、許せないのですよ!」
「おしりぺんぺんで済むと思うな。落とし前だ、成仏も出来ないくらい粉々になりな」
 接近したメイの一撃は、速度を威力に変えるもの。至近距離から食らい、後方に下がる怨念坊。
 前に進もうとする彼の動きを、美凪のロープが不規則に動いて阻害する。
 メイに続き、ミルヴィが接近して一撃を当てる。
「アタシは本気で怒ってる……ここで、殺す。悲しんで泣いてる心を利用……するなアァ!!!」
 重い一撃を受けて更に下がる怨念坊。
「利害の一致だよ。僕は誰かに復讐したかった。彼女は復讐する力が欲しかった。だからこそ、僕は彼女の願いを叶える事にしたんだ」
 そう答える彼へと、夕子が近付く。
「怨念坊、だったっけ。個人的にはアンタみたいなの、嫌いじゃないわ。悪い子同士、一緒につるんで見たかったわ」
 その言葉に、眉がぴくりと上がる。
「でも残念。お仕事なんで、バイバイ!」
 防御を破壊へと変換。その威力を至近距離で受けて、怨念坊の体が吹き飛ぶ。
 彼が何かしようとする度に、イレギュラーズの連携がそれを阻む。
 少しずつ傷を増やしていく少年の姿は痛ましく映ったが、容赦はしない。
 そして少年は希の一撃により氷漬けとなり、その体を氷ごと壊された。氷の中で、少年の体が消えていくのが見えた。

●たとえ彼女を罰したとしても
 対峙していた者は全て消えた。
 ひとまずは、これで終わりだ。
 仲間の誰かが言った。高月 夏美の居る病院に行こう、と。
 数日後、未だ彼女が眠る病院の前に、希を除くイレギュラーズと女生徒がやってきた。希は都合をつけて一人で来るそうだ。
 女生徒は記憶操作によりあの日の戦いを覚えていないが、「彼女に代わって復讐しに来た者に襲われそうになったところを助けた。その時のショックで気絶して、記憶も無いのだろう」という事で納得してもらっている。
 あの事件後、彼女は今周りから孤立しているらしい。それもそうだ。彼女の周りにだけ被害が起きているのに、彼女だけが無事なのだ。周りからどう思われるかなど明白。
 高月 夏美はまだ昏睡状態だという。病室へ向かう道中、女生徒が足を止めた。
 彼女の手は震えていた。今の孤立した自分とかつての彼女を重ねて何か思うところがあったか。
 女生徒の手を、メイが取り、見上げる。
「今回の事件の原因はご自身にあるの分かってますよね?」
 こくん、と頷きが一つ。
「……今までのこと、ちゃんとごめんなさいして、その後もずっと行動で示していかないとダメなのですよ!」
「っ……!」
「悪いことしたら、後で悪いことが自分にも反ってくると、メイのお母さんはいつも言ってたのですよ。その分、ちゃんと良いことして還していかないとダメなのですよ」
 年下の、それも十二歳の少女に言われて、女生徒がもう一度頷く。
「メイよりもずっとお姉さんなのですから、しっかりしてほしいのですよ!」
 健気な声は、時として人の胸を打つ。
 女生徒の目から零れる涙を見て、メイは優しく手を握ったまま彼女を引っ張っていく。
 嗚咽が聞こえてくる中で、瑠璃は溜息を胸中でのみ零す。
(悪なした者とて罪ありき者とて幸福になる権利は認められるべきです。しかし、それも行為に対する反省あってのもの)
 今の彼女ならば、向き合ってもらえるだろう。
 ミルヴィも口を出さず、ぐっと拳を握りしめる。
(こいつを力で罰したら、私達は同じ存在だ。何より高月さんにしかその権利は、ない)
 いつか目覚める彼女はどう選択するのだろうか。
 個室の病室の前に到着する。ネームプレートも確認し、ノックする。返事は無い。
 ドアを開ける。そこには少女が一人横たわっていた。彼女の周りには機械が取り付けられ、怪我している腕と足もギプスを嵌めて固定されている。
 室内に入るのは教師としてのゼフィラと、女生徒のみ。他の面々はドア前で待機だ。
 まだ目覚めぬ彼女の横に立ち、ゼフィラが口を開く。
「今回の件、気付けなくて申し訳ない」
「ごめんなさい……あなたをこんなにさせてしまってごめんなさい……。
 何をしても許されないかもしれないけれど、償うわ……。どうやるのかは、これから話し合うけれど……必ず償うから……!」
「私にも責任がある。キミが目覚めるまでにも、目覚めた後にでも、出来る事をさせてもらう。償わせてくれ」
 二人が頭を下げる。
 その様子をこっそり見ていた仲間達は、ドアの前で知らず溜息を零していた。
「一応、今のは録音しておきました。彼女が目覚めた時にも伝わるようにしておきます」
「そうね。今の彼女なら自分がどんな事をしたのか心身共に理解出来るでしょう。
 後の事は当人達にお任せしますよ」
 ほむらのアシストに対し、美凪もとりあえずは納得した、という様子で頷く。
 出てきた二人の内、女生徒の前に月夜が立つ。
 顔を上げた彼女に、月夜は静かに、諭すように言う。
「俺はオマエらとは他人だが、同じ学校の生徒でもある。
 明日も登校しろよ。テメェらがこれからどうするか近くで見ててやる」
「……はい」
 頷く女生徒へ、月夜は一つ溜息をつくと、「とりあえず、今度見舞いに来る時は花でも用意しとけ」とだけ言って、踵を返す。
 その後を追うようにしてついていく女生徒とイレギュラーズ。
 一番後ろ、彼らからかなり離れた場所で、夕子は今まで操作していたaPhoneの画面を暗くした。
 彼女は怨念坊について調べていた。噂や、元となった伝承などを探そうとしたが、それらしきものにはヒットしなかった。どうやって彼女が接触したのかは謎のままだ。偶然の可能性もあるだろうが。
「繰り返すけど、嫌いじゃないわアンタみたいなの」
 怨念坊の事を思い出して、呟く。
「だからオヤスミ。闇は表に出ちゃダメなのよ」
 そして、彼女は仲間達へと追いつこうと歩き出した。

 後日、希は一人、彼女の病室を訪れていた。
 傍らには花瓶に入れられた一輪の花がある。
 未だに眠り続ける彼女へ届くかは分からないが、語りかけてみる。
「貴方は選ぶことができる。復讐に限度はない。気が済むまでやっていいもの……それが私の持論。
 でも神様はあんなの許しはしない。イジメ仲間からきっと酷い仕打ちを受ける……彼女だけは被害者じゃないから……」
 事実、現に彼女は孤立している。
「……貴方は許してあげられないかな?
 痛みも、悲しみも、絶望も知っている貴方は……きっと神様なんかより優しい人になれるはずだから……」
 後半の言葉は願い。されど、それを叶えてくれるかどうかは彼女次第だ。
 持ってきた手紙を、飛ばされないように花瓶で押さえてテーブルに置く。
「それでも復讐をお望みなら、カフェ・ローレットにご依頼を……」
 呟き、希は病室を後にする。
 彼女が出た後、少女の指がぴくりと動き、瞼が震えた。
 そして、黒の双眸を世界に見せた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆様のおかげで高月夏美の本体は無事。そして、主犯とされる少女も無事となりました。
彼女達が今後どうなるのかは、いつか機会があれば。

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