PandoraPartyProject

シナリオ詳細

恋を楽しむ、それ故に!

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎甘く香る、想い籠る

 恋は人を変える。そんなもんは夢物語だと思っていた。俺には関係の無い世界のことなんだ、と——

「おや、でー君。今日は早いね?生憎だけど、まだなんの準備もできていないんだ」
「た、たまたま暇だったから、寄ってみただけだ。気にすんな、は……は、飯作先輩」

 ——そう考えてる奴ほどドツボにハマるんだなんて、聞いてない。できることなら知りたくもなかったんだ、本当に。意識した途端、名前もまともに呼べなくなるとかこっぱずかしすぎんだろ!
 放課後の家庭科室にふたりきり。ばたばたと走る壁一枚向こうの気配を敏感に感じ取っちまう背中が情けなくて泣きそうだ。

「もうすぐバレンタインだからね、みんな浮き足立っているのかな」

 追加で目の前からも爆弾が投げ込まれて、それに結局なんと答えたもんか。俺の頭は突如始まった走馬灯上映会でまるで使い物にならなかった。


 繰り返されるのは、職員室呼び出しで昼休みを潰されたあの日。空腹に耐えかねて心底不機嫌な俺に、他のヤツらのように怯えることなく「おやつで良ければ」と焼き菓子を手渡してくれた、天使のようなこの先輩との出会いのシーンだ。
 あぁそうだ、それからは廊下ですれ違う度に差し入れをくれるようになったんだった。俺なんかを気にかけてくれるのが嬉しくて、今では先輩の所属する調理研究部に自分から顔を出している。それが許される関係になった、とは思う。いつの間にか抱えちまったこの気持ちの名前を自覚した時、素直に認めたくないと悩むくらいには。
 友人と呼んでいいかも聞けないまま、その先を求めても先輩は受け入れてくれるだろうか。気持ちだけじゃ、言葉だけじゃ冗談だと笑われてしまうかもしれない。それなら——俺の何を差し出せば本気だと伝えられるんだ?



⚫︎チョコだったりクッキーだったりケーキだったり

 キミキミ。そう、キミ。ちょっといいカナ。本棚と本棚の間からにんまり笑顔が手招く。それは初対面よりも、幾分か彼の為人を知る者の方が身構えたくなる類いのものだった。
「ちょっとお菓子の作り方を教えて欲しくて……あぁ、オレは食べる専門☆ ヘルプはこっちの彼だよ」
 文庫本を指し、もう巻き込む気満々の小さな案内人は続ける。
「バレンタインっていう、グラオ・クローネに似た行事があってね。彼はその日に、正確にはその次の日なんだけど、一世一代の大告白をしようと決心したワケだ。でもお菓子作りはゼロから始めるみたいで……不安じゃない?」
 独学で5日間。物になればいいが、全くの未経験となればかなりの博打と言えるだろう。それなら何もお菓子に拘らなくても良いのでは、と思うかも知れないが、そこには彼なりの美学があるとのこと。
「片思いの相手が料理研究部の部長さんなんだってサ! だから胃袋を掴むとまではいかなくても、その子に認めてもらえなきゃ筋を通したとは言えないって、まぁ張り切っちゃってるワケだ」
 青春だねぇ、体育会系だねぇ、と落とした視線が文章をなぞっていく。面白がる色を隠しもせずに。
「結果がどう転がっても、それはそういう恋物語ってコトで気楽に楽しんできたらいいよ。大丈夫、人死になんて出やしない」
 『ご都合主義』が守ってくれるから。そう付け加えて送り出す間際。
「そうそう。実はこの本、なんか虫食いに遭って相手の子の情報が穴だらけだからさ、イイ感じに補完してちょーだいナ☆」

NMコメント

どうも、氷雀です。
バレンタインに告白したい!お菓子を作る!教えろください!
要約するとそういうシナリオになります。
なお、今年は休日ですので、告白日は15日になります。
学生さんだもの。
やれることの例と重要事項は下部に記載がありますのでご一読ください。


⚫︎世界
所謂、現代世界によく似たところ。
やや学生の比率が高く、青春や恋愛的なイベントが起きやすい他、それらがなんとなく上手く回るように『ご都合主義』が作用しているのが特徴。
雰囲気を知りたい方は、ラリー開始時点ではOPのみですが、LN『冬を楽しむ、そのために!』をどうぞ。
別の学校が舞台ですので、特に読まなくても問題はありません。


⚫︎主な登場人物
とある高校の先輩と後輩。
参加PCの方々は『ご都合主義』により、友人・クラスメイト・友人の友人・教師など違和感のないレベルでそこそこの関係性からのスタートです。
ただし役職被りも「マンモス校なんだな!」と許容していきますので、その点はご留意くださいませ。

男D…愛称:でー君/本名:泥谷(ひじや)
強面ヤンキーだけど恋は奥手で純情系。高一。
今回の主人公枠。手先は不器用ではない。
朝のHR開始まで+休祝日の家庭科室を貸切にするなど、やる気は十分以上にあります。
『ご都合主義』により、高級食材やレアな器具も準備があります。存分にやっちゃってください。

?E…愛称:いー××/本名:飯作(はんさく)
料理とお菓子が大好きな×××系先輩。高二。
料理研究部部長。放課後の家庭科室はこの部で使用しています。
容姿性別に関する部分がバグったような状態ですが、『ご都合主義』によるものか、誰も違和感を覚えていません。


⚫︎やれること
メインはお菓子の作り方で、何を教えるか、どのように教えるか、です。
それ以外にも包み方や渡し方、想いの伝え方に始まり、恋話を展開してみたり、あらゆる方向からでー君の恋への手助けをしていただければと思います。
失敗作を食べる覚悟がおありでしたら味見役も歓迎します。


★重要★先輩性別決定投票
プレイング冒頭に【男】【女】のどちらかのタグを入れて投票してください。
14日の募集〆で集計し、得票数が多い方の性別でエンディングを迎えます。
万が一、同数だった場合は、一人称僕の性別不明になります。よろしくお願いします。

  • 恋を楽しむ、それ故に!完了
  • NM名氷雀
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月07日 21時15分
  • 章数1章
  • 総採用数2人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

アウレウス(p3p009222)
金色の煙霞

「ささ、アニキ。まずはどんなのが作りたいか、作戦会議開始っす!」
 でー君をアニキと慕う【舎弟(友達)】として、『金色の煙霞』アウレウス(p3p009222)はレシピ本を携えて馳せ参じた。基本をおさえて、余裕があればそこから応用、という方針でどの本も超初心者向けだ。
 初心者が奇を衒うとまぁロクなことにならないんで、と心の中だけで呟き、でー君の反応を見ればその顔は真剣を通り越して険しい。一世一代の告白なのだから当然だ。
 ここでアウレウスはぐっと堪える。今の自分は彼の恋には気づかず、初めてのお菓子作りに助太刀する舎弟だ。核心に触れるにはまだ早い。
「どれもうまそーっすね!」
「そりゃそうなんだが……いざ作るとなるとさっぱりだな」
「アニキ! お貸し……じゃなくてお菓子作りは一に計量、二に計量っす! 先人の教えは守っていけば楽勝っすよ!」
 先人の教え——レシピを叩いて笑ってみせる、舎弟を自称する友人の方がでー君には頼もしく見えた。
「あ、オレはこの超お手軽クッキーなんかがオススメっすね。なんと薄力粉と砂糖とマーガリンだけで作れちゃうんす!」
 薄力粉って小麦粉のことっすよ、と補足するアウレウス。アレンジで自分らしさも出せることなど、慣れてからのステップアップ計画を伝えることも忘れない。少しでも先のビジョンが見えたなら。
「まだ時間もあるんで、とりあえず試しに作ってみてもいいんじゃないっすか?」

成否

成功


第1章 第2節

Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福

「お菓子作りは、えっと、僕も教えられるレベルじゃないから……まずは一緒に練習かな!」
 恋に悩める男子と聞いてやって来た【同級生】の『おはようの祝福』Meer=See=Februar(p3p007819)。エプロンを汚して切磋琢磨しながら考えるのは迫る本番のことだ。
 筋を通したいという気持ちもわかるが、お菓子だけが完璧であっても意味は無い。真剣に取り組む彼を見れば込められた想いが本物なのは確かだ。問題はそれが相手は伝わるかどうか。
「お菓子だけじゃなくて、心も受け取ってもらいたいもんねっ」
 密かに決心するMeerの次なる作戦は?

「コイバナしよ!」
 準備はお菓子作りだけじゃないよ、とラッピングの本と共に休憩を申し出たMeerが続けた言葉には、流石のでー君も面食らってしまった。
「ねぇ、でーくんはどんな気持ちを伝えたいの? 好き! とか、愛してる! とか」
 君はどんな恋をしてるのかな。踏み出した、勇気ある君の物語をどうか聞かせて欲しい。
「聞くだけだと平等じゃないから僕も話すよ。内緒話だからこっそり、ね?」
 ——だって、僕も恋をしているから。口に出すとやっぱり照れ臭くて笑ってしまった。
「ここでダメならきっと本番でも言えないから……いーさんとどうなりたいのか、言葉にするお手伝いさせてほしいなっ」
 試作品を摘みながら始まった恋する男子達(?)のお茶会は、花開くように少しずつ弾んでいくのだった。

成否

成功


第1章 第3節

 脇目も振らず、単純なクッキーを焼き続けた成果は上々だった。【舎弟(友達)】の勧めで手慣れて来た頃合いに加えていったアレンジも、見栄えのする出来に貢献している。
 円型はころんと丁寧に整えられており、型抜きを使った花型もシンプルに可愛らしい。四角い生地の中央を型抜きをして、そこへ飴を置いて焼いたものは溶けて固まり、ガラス窓のようにキラキラしている。ココアを混ぜて渦巻きや市松、マーブルなどの模様を描いたものもあれば、粉チーズや全粒粉で違った風味を味わえるものも作った。
「クッキーっつっても、レシピひとつでここまでやれるってんだからすごいもんだな」
 ただ食べる側だったでー君は今、お菓子作りの奥深さに心底感心していた。
 【同級生】と一緒に選んだ箱に詰めたそれらはたくさん焼いた中から見繕った最高傑作だが、とても自分が作ったものだとは思えないほど立派に『お菓子』をしている。違いが分からなくなるまでたっぷり味見もしたから、ハズレもないはずだ。ここまでやったからには、不良だなんだと避けられる男が持つには少々愛らしすぎるハート柄のラッピングも、もう気にならない。あとは——

「言葉、だな」

 ——目を逸らさず、伝えること。じっくり聞いてもらってはっきりとした気持ちの形を、これに乗せて届けるだけだ。失礼します、と扉越しに掛ける声に緊張が出ようが後には引けなかった。
「おやおや、今日はまた一段と。改まってどうしたんだい?」
 三角巾を結んでいた手を下ろし、真っ直ぐに問う視線は見透かすようで居心地が悪い。違う。見透かされんのが怖いだけだ。
「先輩、まずはこれを」
 知らず体の後ろに隠しちまった贈り物を差し出せば、それはまん丸になる。今日という日に渡される意味を理解したんだろうな。
「初心者なりに頑張って焼いた……ので、食べてもらえると嬉しい、です」
 優しい先輩のことだ、受取拒否はしないでくれると信じている。どうにも畏るのは、この後のことを考えるからだ。まだ驚いた顔から戻らないうちに追い討ちをかけんのも申し訳ないが、部活が始まる前の僅かな時間に躊躇っている余裕は無い。
「ずっと……多分、初めて焼き菓子をもらったあの日から、先輩のことが気になって気になって仕方なかった」
 くしゃり、とクッキーの包装を強く掴む音がいやに響く。
「俺なんかに構ってくれるヤツ他にいなかったし、珍しくて変な人だと思ったし、面倒だなとか、餌付けされてるみたいで癪だなと思ったこともある……けど」
 気持ちは、包み隠さずに差し出す。
「家庭科室の前通る度に思い出したり、今日はなにくれんだろって当たり前に考えてる自分がいたり、廊下でつい探しちまったりして、気づいた」
 ありったけを聞いて欲しいから。
「好きだ。好きなんだ、飯作先輩。ただの先輩としてじゃなく、友達としてでもなく」
 信じてると言いながら、気持ち悪いと跳ね除けられる覚悟はしていた。遮ることなく、逃げもしないで最後まで聞いてくれただけでも嬉しかった。
「急にこんなこと言い出して驚いたろ? ただ、その……変なもんは入ってないんで、俺の本気、食べて決めてくれ」
 返事は急がない。なんだったらいつも通りのままでも、今までのことが無かったみたいに他人のように扱われても文句は言わない。
「クッキーの感想くらいは、聞きたいけどな」
 俺にしては真面目に頑張ったんだ、と笑い話のように付け加えても、先輩は手の中の包みをじっと見つめたまま黙り込んでいた。流石に居た堪れない。きっとそれは先輩も同じだろう。ちらりと壁の時計に視線を逃せば、ガヤガヤと放課後の音が戻ってくる。潮時か。
「……俺は謝らねえからな。部活、頑張れよ」
 後悔は無い。どの口が言う、と叱られそうな台詞を残して俺は家庭科室を後にした。

PAGETOPPAGEBOTTOM