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シナリオ詳細

遠洋海域の一角獣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海の一角獣
 船体を揺らす波が心地よく揺らぐ。
 肌を擽る波風は穏やかな一方、張り付くような痛みさえ帯びている。
 冬の海風を身体で感じながら、彼らはある物を探していた。
「船長! 魚影を確認! サイズを見るに奴かと思われます!」
 望遠鏡を覗き込んでいた船員が声を上げる。
「気づかれてるか!」
 船長らしき飛行種の男が叫ぶ。
「いいえ! 気づかれてないようです!」
 再び望遠鏡を覗き見た男が声を張り上げた。
「よし、撤退するぞ! 面舵一杯!」
 船が旋回を始めていく。
 その最中、指示を与えながらも船長は思考の整理をしていた。
「ふーむ……本当にあ奴ならば、イレギュラーズへと要請が必要だが」
 言いながら魚影を確認したという方角に視線を向ける。
 ――その時だった。
 水面に何かが突き出した。
 巨大なソレはそのまま飛沫を連れて跳び上がり、放物線を描きながら海の中へと帰っていく。
 水柱をあげ、水面を叩くそれの頭頂部には、禍々しい一本角があるのを、船長は確かに認めた。
「やはり、奴ではないか――!」
「せ、船長! 大変です!」
「なんだ! まさかこっちに向かってくるのか!?」
「そのまさかです! 魚影が急速に近づいてきます!」
「ちぃっ――総員、全力で漕げ!! 急ぎアクエリアへと撤退するのだ!」
「いえっさー!」
 船員達の鬼気迫る声が響き渡る。

 火事場の馬鹿力とばかりに最速をたたき出しながら、船が進み始めて数分。
「せ、船長――」
「どうしたァ!」
 声を張り上げたのは、望遠鏡を見ていた船員――ではなく、右舷にいる船員。
 声のする方へ顔を向けながら叫んだ船長は、そのままあんぐりと口を開けた。
 見えるはずの水平線は見えなかった。
 あるのは水をはじく黒。
 陽光を反射させる水滴を弾く――黒。
 そして――こちらを見据える、くるりとした丸い巨大な宝玉。

 ――否。それが宝玉であるものか。

「げぇ!?」
 ソレは意識を感じさせぬ。ただ、こちらを見据える生き物の眼――
 綺麗な球体はぎょろりと船内に走り。
「しょ、衝撃に――」
 言い終わる前に、船体が揺れた。
「うおぉ!?」
 みしり、みしり。船体が軋む。
 どこかから、べきりと音が鳴った。
「そ、総員! 離脱するぞ! 海種は飛行種と抱き合え、飛べええええ」
 叫ぶとほとんど同時に、船長は近くにいた一人の海種を抱え上げて空へと舞い上がった。
 みしり、みしりと音を立てて、大切な船(あいぼう)が真っ二つに割れていく。
 船(あいぼう)がフェデリアの藻屑へと消えていく。
 意識が遠くなりそうだった。
 走馬灯のように、航海の記憶がフラッシュバックする。
 損害の金額に気が遠くなる。
「全員、飛べ飛べ飛べ! あらん限り飛んで逃げろ!」
 散らばり、飛行する船員達に告げながら、船長は翼をはためかせた。
 その背後――水柱が走り、真っ黒な口が覗く。
「ぎゃああああ」
 全力疾走で何とか逃れたその下で、水しぶきが音を立て、水面が波となって揺らめいた。


「お集まりいただきありがとうございます。
 狂王種(ブルータイラント)のこと、御存知の方も多いでしょう。
 ご存じでなくとも、すごい強いモンスターと考えていただければよろしいかと思います。
 ともあれ、それが姿を見せました」
 ローレットに訪れた君達にそう言ったアナイス(p3n000154)は直ぐに資料を君達の方へと手渡していく。
「カムイグラへと至る中継地点としての開拓は進められていますが、未だ完全な解明は出来ていないわけです。
 未だ危険な海域に現れる凶暴な怪物……今回皆様に討伐をお願いしたい相手は――そいつです」
 示された資料には、大きな怪物の姿が記されていた。推定で10mほどはあろうか。
「鯨……?」
「ええ、額に一本、角が生えていることを除けば殆ど鯨と等しいと思われます。
 この巨体を用いて体当たりを仕掛けることで船を破砕し、投げ出された船員を丸々飲み込む――こともあるそうです。
 今回の被害者の方々は、飛行種の皆さんで何とか飛んで逃げたようですが……」
 そんな化け物がいるのでは、おちおち航行などしていられない。
 そのため、早期に討伐する必要があるという。
「小舟が貸し出されますが、相手は水生動物です。
 飛行、水中での行動が出来なければ至近距離、近距離の近接戦闘は難しいと思われます。
 難しい相手になるでしょう。よろしくお願いします」
 そう言うと、アナイスは資料を纏めなおしていく。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 すごい久しぶりの海洋依頼ですね。

●オーダー
・『遠洋の一角獣』ヴィズールの討伐。


●フィールドデータ
 フェデリア海域の一角。一面の水面が広がる海洋です。
 飛行、水中行動無しでは中距離レンジ以上でなければ攻撃が難しくなります。
 やろうと思えば貸し出された小舟を無理やり突貫させて至近も可能ではありますが、割と最終手段になります。

●エネミーデータ
・『遠洋の一角獣』ヴィズール
 額に一本の角を生やした鯨のような狂王種です。
 ジャン=バティスト・ヴィズールなる海洋の軍人が初めて遭遇して名付けたとないとか。
 その巨体からくる船への体当たりにより船舶を破砕あるいは転覆させ、投げ出された人々を喰らっていました。
 その他、一本角自体も凶悪な武器となるでしょう。

<スキル>
アイスホーン:一本角に魔力を収束させて突貫し、相手を凍てつかせます。
神遠貫 威力中 【万能】【移】【氷結】

トライデントスマッシュ:一本角から三本の巨大な氷柱を生みだて放射します。
神遠単 威力中 【万能】【スプラッシュ3】

●その他
 皆さんは海洋王国から小舟を5艘ずつ貸し出してもらえます。
 無理矢理に壊してしまっても評価が下がったりはしません。
 思いっきり使い捨ててやりましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 遠洋海域の一角獣完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
デボレア・ウォーカー(p3p007395)
海に出た山師
山神・ゆたか(p3p009265)
山神様
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 遠洋を行く船影があった。
 複数の小舟を連れて海上を疾走するそれらの旗艦に相当する船に、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)は乗っていた。
「成程、随分と“哀歌を謡う”獣だ。余程多くの者達に破滅をもたらしてきたのだろう」
 R.R.は姿を見せるソレを眺めながら言うと、近くにある小舟に飛び乗った。
(あの戦いの後も、狂王種の脅威は未だ去らず、か)
 その姿を見るや空を舞った『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は眼下に姿を見せた鯨――ヴィズールを見下ろしていた。
「知恵ある個体なら召喚獣としての使役も一興かとは思ったが……。
 ……ま、どのみち狂王種を使役なぞ、要らん風評になりかねんか」
 真上を飛ぶレイヴンのことを、ヴィズールは未だ気づいていないようだった。
(どでかい鯨ってだけでも厄介だってのに、角まで生えてるとはねぇ)
 私船『蒼海龍王』に乗って旗艦に続いていた『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は望遠鏡越しに空へ伸びる一角を見てとめた。
「俺としちゃぁ航海の邪魔をしねぇなら放っておいてやってもよかったんだが……船を壊しにくるんなら、そういう訳にもいかねぇわな。
 ちっとでも早く航路を確保して、カムイグラとの縁を安定させる。
 ……それでようやく、大号令で死んじまったやつらも、大事なモンを失ったやつらも――俺も、報われるってやつだ」
 ふぅ、と煙を吐いて、珍しく格好つけた十夜だった。
「……それにしても、一人につき5艘も出してくれるとは太っ腹だねぇ」
 ぽつりとつぶやくのは旗艦の周囲にある小舟の数だ。
 それだけ、航路に存在されると困る相手――ということなのだろうか。
「おーおー、角クジラ、倒せば有名人だな!」
 望遠鏡で遥かな一本角を確かめた『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は『紅鷹丸』を停船させる準備をしつつ、もう一方で鯨の形状をした敵に思いを馳せる。
(クジラ肉って美味しいんだよな)
 じゅるりと涎が零れそうになるのを堪えながら羽ばたいた。
「俺は秋宮史之。覚えても覚えなくてもいいよヴィズール、そんな頭はないだろうし、おまえはここで終わるんだから」
 鯨の真正面へと立ちふさがった『浮草』秋宮・史之(p3p002233)は打刀を構える。
『ブォォォォ』
 声――ではない。呼吸のように大口を開けた大鯨が史之を視認する。
「わたしの領地の近くで暴れさせたりしないんだから!」
 そういう『海に出た山師』デボレア・ウォーカー(p3p007395)の額がきらりと陽光を弾いて輝いた。
 小舟を一艘、一緒に引き連れるようにしながら自分は空を舞い、徐々にヴィズールの方へと滑っていく。
 持ち前の高い反応速度も、今だけは押さえている。
 あまり早くても突出しすぎてしまう。
「でっかいなーでもーだから歯ごたえ十分やー」
 そんなデボレアの近くを進みながら、『山神様』山神・ゆたか(p3p009265)は珍しそうにそれを見つめていた。
「ヴィズール……立派な一本角を生やした巨大鯨か」
 敵を見ながらそう言葉に漏らす『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)はその実、巨大生物が持つ特有の力強さには少なからず惹かれるものがあった。
「……だが、今回の相手は狂王種と呼ばれるほど凶暴なモンスター。心して討伐に臨まなくては」
 借りた5艘のうちの1つに乗りながら、真っすぐに進んでいく。


「海を行く人の安全を少しでも守ってあげるんだから!」
 そう覚悟にも似た宣誓を告げて、デボレアは自らに加護を降ろす。
 不滅の概念により形作られた加護はその身を覆う美しき光となる。
 そのまま身を晒すように胸を張ってゆたかの前に立ちあがる。
「さーて、お前さんの見たこと無い空《世界》を見せてやるぜ。もうお前は『俺』から逃げられないぜ」
 空を走り抜けたカイトは文字通り跳びこむようにしてヴィズールの眼前に踊りこみ、その周囲を旋回するよう飛翔する。
 宝玉のような凶獣の双眸を翻弄する。
 その独特な動きはやがてあり得ざる緋色を幻視させ、のたうち回るようにヴィズールが海に潜り込む。
 ――かと思えば、そのままカイトの真下から柱が打ちあがるように食らいつかんと口を開けた。
 ヴィズールが漆黒の大口を以って、カイトを飲み込――んだかに見えた。
「へへっ、何見てるんだ?」
 意思を感じさせぬ鯨の瞳が見開かれた――気がした。
 注意は引けていない。やや抵抗力が高いのだろうか。
「神聖なる女王陛下の海を荒らすなんて許さないよ」
 打刀を構え――疾走。強かにふるう剣閃は意図的な捌き方でヴィズールの視線を引く。
 そのまま挑発的にヴィズールの目元を蹴り飛ばして、史之は後方目掛けて飛んだ。
『ォォォォ』
 それに続くように、ヴィズールの身体が旋回していく。
 ゆたかは拳を握り締めると共にその手に神聖を帯びる。
 収束した魔力は鮮やかに輝き、巨体の横腹めがけて真っすぐに撃ち込まれた。
 横殴りの一撃にヴィズールの身体が微かに揺れる。
 イズマは小舟を走らせヴィズールの横腹にめがけて剣を構えた。
「もう少しつける、兄ちゃん、いけ!」
 操舵の船員からの言葉を聞いて、頷くのとほぼ同時、船体がヴィズールに殆ど肉薄した。
「――いける!」
 船体から助走をつけ跳躍――巨体へ体当たりするように閃かせた剣が強かにヴィズールの身体に傷を付ける。
 僅かに、クジラの肉がひり付いたようにピクリと動くのが見えた。
「今度はあんたが滅ぶべき番だ。多くの命を喰らってきた分の、その報いを俺達が受けさせてやる」
 R.R.は小舟をヴィズールが射程外にならない程度に進めながらも、距離を開け続けていた。
 収束させる滅びの魔力が、マスケット銃に収束する。
 可視化した魔力が包帯と共に風に靡く。
 充足した魔力を帯びた銃口を、静かにヴィズールに向ける。
「破滅よ……滅びを知れ」

 ――刹那、滅びは放たれる。

 弾丸と化した破滅は海上を貫くように駆け抜け、ヴィズールへと炸裂する。
『ォォォォ』
 着弾と同時、ヴィズールがその巨体を空に舞いあげた。
「お前が鯨の亜種ということなら、呼吸口は前ではなく……」
 いつの間にかその身に召喚したのはかつての己。
 静かに、ただ断罪の対象としてヴィズールを見下ろすめは冷徹に。
 レイヴンはヴィズール――その背中、角のやや後ろ目掛けて一気に降下した。
 地面を蹴り飛ばすにも等しき急速な疾走は、確かに己のみを軋ませる。
 急速降下の末、思いっきりヴィズールの背中――鼻に変質した断罪を振り下ろす。
 迸る雷鳴、駆け巡るは雷光。
「そんじゃ、ここは頼むぜ!」
 頭上より降り注いだ雷霆を己が闘気に纏わせ、そう言い残した十夜は海中へ飛び込み、その下へと駆け抜ける。
 ヴィズールのひとかきが水圧となってその身を煽るが、それを振りほどいて、真っすぐに。
 その闘気の全てを刀へ収束させて振り抜くは海中より放たれる雷撃。
 槌の如く強かに打ち据えた剣閃を受けたヴィズールがその身を大きく揺らして海上へ――
 ジャンプの後に落ちてきた身体に打ち据えられるように、十夜は海中へ弾かれた。
 受けた攻撃を受け流す要領で、十夜は真っすぐにヴィズールの頭部目掛けて駆け抜けた。
 海中へ潜らんとしたヴィズールは苦しそうに再び海上へ顔を出した。

 背部を晒すその凶獣は、恐れるように史之の方へ走り続けていたかと思えば、その頭部に魔力を収束させた。
 収束する冷気をそのまま、史之めがけ、跳んだ。
 その目前、デボレアはその身を躍らせる。
 冷気に反射し、澄んだ陽光がさらにまばゆくデボレアの輝くおでこを照らし出す。
「輝くおでこは根性の証、どっちが最後まで立ってられるか勝負なんだから!」
 腹部を貫いた冷気と激痛など元もせず、導かれた輝きはヴィズールの双眸を焼いた。
 カイトは真っすぐに駆け抜ける。目指す先はヴィズールの頭部。
 大きく空へと舞い上がり、緋翼を散らす。
 燃え上がる炎を籠めて生み出すは火炎の旋風。
 真っすぐに放った炎熱の暴風はそこ目掛けて駆け抜ける。
 かのコン=モスカの秘伝書に記された著述に拠れば、ヴィズールにはその巨体に見合った頑健さ、抵抗能力、芯へ通りづらさへ帳尻を合わせるように『2箇所の弱点』がある。
 うちの一つは、先にレイヴンが一撃を叩き込んだ背中の鼻。もう一つは――堂々たる鋭さを見せる、その角だ。
 炸裂した熱風にヴィズールがのたうち、続けるように三叉蒼槍を真っすぐに頭部方向へ叩きこんだ。
「振動が頭に直接来てツライだろ!」
 にやりと笑えば、凶獣が跳ねようと動きを見せた。
 イズマはその瞬間、大きく跳躍してヴィズールの背中へと飛び乗った。
 揺らぐ巨体を駆け抜けながら剣へと魔力を籠めていく。
 収束する魔力はやがてそれだけで剣を描き出す。
 それを鼻部分目掛け、思いっきり叩きつけた。
 二度に渡る衝撃を受けたヴィズールがのたうち回る。
 水面へ落ちぬよう、そのまま剣を鼻へ突き立てた。
「よし、書かれてる通り、そこが弱点だな。手加減なんてしてやらないから――」
 闘気を静かに巡らせ、史之は奔る。
 苦し紛れか本能か揺らめく角を躱し、鼻の真上へ。
「――さっさと根の国へ落ちろ!」
 握りしめた打刀を叩きつけた。闘気より変じた雷がその鼻を強烈に痛めつける。
 ただでさえ弱点を穿つ鮮烈の一閃を撃ち込まれ、ヴィズールが吼える。
 轟く咆哮のような物をあげながら、史之を見失ったヴィズールが、そのまま狙いを定めたのはR.R.だった。
 接近するヴィズール目掛け、静かにR.R.は銃を構えていた。
「俺とあんたの、どちらの破滅が上か勝負だ……喰らい尽くしてやる!」
 収束する破滅を向けるは顔――正面からの一撃を外すことなどない。
 静かに引いた引き金は弾丸と化して真っすぐに突き進み、ヴィズールが近づいてくるのも相まって、強烈な衝撃となってその身体に浸透していく。
「その角、お前の力の結晶か。
 ――興味深い。その力、ワタシがもらい受ける」
 角へと魔力が収束しての攻撃は幾度かあった。
 レイヴンはそのさまを見下ろすと、ハイテレパスで船員達に指示を出した。
「命の危機を前に、生命活動が活発化するのは生物の常だが……」
 指示された船員達はぞれぞれ自分の船へと火をかけ、自動操縦に切り替えて別の船へ。
「――爆ぜろ」
 放たれた船はヴィズール目掛けて真っすぐに走る。
 計5艘の火船が、ヴィズールの身体に叩きつけられた。
 強撃ではない――だが、混乱の極みの敵には有効極まる。
 それを見下ろして、レイヴンは角へと大鎌を走らせた。
「そろそろ折れてくれんかね」
 飄々としたまま角へとへばり付いていた十夜は、既に罅のいった角めがけ、そのまま刀を振り下ろす。
 跳ねんとするヴィズールの動きに合わせて、むしろその勢いを利用した強打は、砕けつつあったその角へ、最後の一撃となって響き渡り――ヴィズールがバク転するように空へ跳んだ。
 ぼきりと折れた角は幾つにも砕けながら、割れていく。
 敵の瞳が怒りに揺れていた。


 凶獣が海の中へ落ちていく。角が砕けた時点でヴィズールの傷はかなり深かったのか、巨体を除く主要攻撃手段でもある角を奪われた鯨は、イレギュラーズの連撃になすすべなく倒れた。
 最後の一撃に大きく揺らいだその身体は水面に巨大な飛沫を上げ、波を叩き起こして海中――暗く底の見えぬ水底へと落ちていく。
 R.R.は宙に向けて号砲を放つ。
 轟音と共に、船を微かに揺らす砲撃はR.R.なりの哀悼の意思表示であった。
「狂王種の脅威はここに去った。亡き者たちの霊魂よ、ここに鎮まりたまえ」
 風にさらわれる言の葉が、水面へ溶けていく。
「うぅ……失敗したな……」
 カイトは水底へ消えていったヴィズールのことに微かな後悔を持っていた。
「海の底に行ったら食べられねえや……」
 鯨の遺体が沈むかどうかは体内のガスやら肺の中の空気やらが関係してくるらしい。
 遠洋で仕留めたヴィズールを水底から引っ張り出して晩餐にするのは難しい。
「持ち帰ってパーティしたかったんだから」
 可愛らしいお腹の音を立てしまったのはデボレアである。
 幸い、戦闘の中で砕けたヴィズールの角の一部は「何かに使えそうな気がする」と回収してある。
 同じように砕けた角の一部を回収したレイヴンはそれをくるりと回して眺め、視線を水底に向けた。
「ふん、確かにその力、もらい受けたぞ」
 届くことのない言葉を見下ろした先に告げながら。
 十夜は愛船の様子を確かめていた。
「この感じなら修繕費はそんな無くてよさそうだ」
 戦闘で新しくついた気がするかすり傷の類を一通り見終えて、思わず安堵する。
「お疲れさま。あなたたちのおかげで勝てたよ」
 貸し出された小舟の舵取りをしている船員達に声をかけたのは史之だった。
 小舟の者達から雄叫びが聞こえてきた。
「海水は錆びやすいからな……ちゃんとふき取っておこう……」
 なんてことを言いながら、水から這い上がったイズマは全身の水気を丹念に拭っている。
 特に入念にするのは右腕と両脚。機械化した部分だ。
 基本的に錆びはしないはずだが――海に行った後で髪を洗わなかったら爆発するのと同じぐらいの嫌な感じは残りかねないのだ。

 ――ちなみに、この後イレギュラーズは船員達の奢りで鯨を食べてから解散したという。

成否

成功

MVP

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼

状態異常

デボレア・ウォーカー(p3p007395)[重傷]
海に出た山師
山神・ゆたか(p3p009265)[重傷]
山神様

あとがき

凶悪な個体への進化が新たな弱点を生んだ哀れさというべきでしょうか。お見事でした。
MVPは5艘の使い方が面白かったレイヴンさんへ。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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