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シナリオ詳細

希望ヶ浜道路情報局より、通行止めのお知らせ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある夜の通知
 2月1日の夜。午後6時23分。希望ヶ浜、どこにでもありふれた、ある繁華街の道。
 女子高生だろう、制服を着た少女が、aPhoneの画面を眺めながら、帰り道を急いでいた。
「こんな時間だよ、もー。竹先うっぜーの」
 ぶつぶつと文句を言いながら、SNSをチェックする。フレンドによる、他愛のない日常が、上から下へと滑っていく。
 ふと、通知音が鳴った。それは、SNSで彼女のアカウントへ連絡する投稿があったことの証で、彼女はいつも通りに通知欄を覗きに行く。
「……?」
 その画面を見て、彼女は小首をかしげた。そこにあったのは、以下のような投稿文章だった。

 アカウント:希望ヶ浜道路情報局
 人身事故による通行止めのお知らせ
 1日午後6時55分より、
 希望ヶ浜第274号道路ううべっべぇええええああばおうをおうううういいるいいいいい(4.2km)
 人身事故による通行止めを実施しています。

「……なんだこれ」
 彼女は眉をひそめた。訳が分からなかった。そもそも、こんなアカウントをフレンド登録した記憶がないから、自分のアカウントにこんな投稿が飛んでくること自体が謎だ。それに、他にもおかしなところはある。例えば、希望ヶ浜に第274号道路なんて幹線道路は存在しない。それに、時間も変だ。今は、6時40分……つまり、これは未来の事を言っている、という事になる。
 いたずらかな、と彼女は思った。それか、サイトのバグか。いずれにしても、まともに取り合うモノじゃない……と、aPhoneから顔をあげた時に。
 彼女は見知らぬ場所にいた。
 今まで確かに、繁華街にいた。にもかかわらず、今はだだっ広い道路の真ん中に立っていた。左右には家のようなものが見えるが――彼女からは確認できないが、その建物は四方を塀に囲まれていて、入ることができなかった――、明かりはついていない。人の気配も、まったく感じられなかった。
「え、え? なんで?」
 彼女は混乱したようにスマホを見つめる。ぽん、と通知音が鳴った。SNSの投稿だった。ぽん。ぽん。ぽんぽんぽんぽん。次々と通知音が鳴り響き、次々と彼女のアカウントに、何者かからの投稿が送信されていく。

 人身事故による通行止めのお知らせ
 人身事故による通行止めのお知らせ
 人身事故による通行止めのお知らせ
 人身事故事故時コジコジコジコジ湖
 じじじじじじじじい
 うぉおおええええええいいいいいべべべべべろおおおおをををををっを

 ひ、と彼女が悲鳴を上げた。思わず後ずさると、道路標識のポールに身体をぶつけてしまう。顔をあげた彼女は、その標識に書かれた文字を、確かに見た。

 希望ヶ浜第274号道路

 刹那――強烈な光が彼女を照らした。ぶおおおおおお。それがエンジンを唸らせて走ってきた乗用車だと気づいた瞬間。彼女はそれにひき潰されていた。
 ぐしゃり、と骨と肉が爆ぜる音が聞こえた。乗用車は彼女を引いたまま、近くにあった塀へとぶつかり、とまった。
 だらり、と彼女の腕が、道路に転がった。
 腕時計の示す数字は、6時55分だった。

「人身事故による通行止めのお知らせ。
 1日午後6時55分より、
 希望ヶ浜第274号道路ううべっべぇええええああばおうをおうううういいるいいいいい(4.2km)、
 人身事故による通行止めを実施しています」

 何者かの声が、冷たく辺りに響いた。

●破滅誘うSNS・トーク
「ふむ……三上、君の危惧が的中した様だぞ」
 『練達の科学者』クロエ=クローズ(p3n000162) は、希望ヶ浜学園の化学準備室で分厚いファイルを開きながら、目の前に座る三上 華 (p3p006388)へと告げる。
「やっぱり、神隠し……か」
 神隠し。ある日突然、人が忽然と姿を消してしまう現象の、総称である。その原因には様々なものがあるが、こと希望ヶ浜においては、夜妖(ヨル)という超常的な存在が裏にいることは多い。
 華が危惧、調査していたのは、ここ最近頻発しているある噂だった。ある日突然、SNSに、『希望ヶ浜道路情報局』なるアカウントから、事故による道路通行止めを告げる、異常な投稿が発信される。それを受け取った者は、存在しないはずの事故現場に連れていかれ、そこで事故の犠牲者になるのだ、と言う。
「神隠しと呼ぶには些か血なまぐさいか。ワタシたちが調査した限り、件の投稿を受け取った者は……そう、そのページだ。E6タイプの異界。どうもここに引きずり込まれてしまうらしい」
 クロエによれば、この異界は通常、『どこまで行っても終わりが見えない道』や『ループする道』のような怪談において引きずり込まれるタイプの異界であるそうだ。調査済みの異界で、ある程度の道筋は解明されているが、今回のような現象が起きたのは初めてだという。
「おそらく、新たに発生した夜妖が、既存の異界を利用して活動しているのだろう」
「利用し合う、か。夜妖にそんな性質があるのか?」
 華の言葉に、クロエはふむ、と唸って首をかしげた。
「夜妖については、まだまだ分からないことばかりだ……この夜妖だけがそうなのかもしれないし、他にもそう言う性質の奴がいるのかもしれない……なんにせよ、この夜妖を討伐しなければ、犠牲者は増えるばかりだろう」
 クロエの言葉に、華は頷いた。
「ああ。任せてくれ、クロエさん。この異界に乗り込んで、元凶を狩る……それがオレたちの仕事だろう?」
「調査済みとは言え、目的地は異界だ……くれぐれも気を付けてくれよ?」
 クロエは信頼半分、心配半分の視線を向けた。どちらも、クロエの本心なのだろう。イレギュラーズ達がこの事件を解決してくれると、心から信頼している。同時に、この件でもしもが起こってしまう可能性を、心から心配している。
 そんな心境が理解できたから、華は力強く、頷いて返した。
「ありがとう。だが、オレ達なら大丈夫だ。吉報を待っていてくれ」
 そう言って、華は資料を閉じ、立ち上がった――。

●敵地へ
 翌日。
「ここがそうか……」
 華をはじめとするイレギュラーズ達が降り立ったのは、件のE6タイプの異界である。そこは、『道』だけで構成された世界で、渡された地図を見れば、複雑に、様々な経路で道同士がつながり、世界を作り上げている。
 ――君たちのaPhoneに、追跡アプリを搭載した。
 クロエの言葉を思い出し、華はaPhoneの画面を見つめた。
 ――件の、希望ヶ浜道路情報局の投稿があり次第、その発信元を追跡するアプリだ。その情報を利用して、この異界に潜む『元凶』を見つけ出し、討伐するんだ。
 追跡アプリを起動する。デジタル・コンシェルジュの黒ウサギ(これはクロエの趣味らしい)が地図の上に現れて、辺りを見回すポーズをとった。この黒ウサギが、元凶の居場所を指示してくれるのだろう。
「……よし、行こうか」
 華はそう言って、仲間達へと声をかけた。仲間達が頷く――同時に。
 ぽん、とaPhoneの通知音が鳴った。
 画面をのぞき込めば、そこには、SNSから、投稿があったことの通知がなされていた。

 アカウント:希望ヶ浜道路情報局
 人身事故による通行止めのお知らせ

 始まった、と華は思った。
 異界でのハンティング。そして、戦いの幕が、今この通知音を合図に、上がったのだ、と――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落うううぇえっくぉおおらららららいべぶべいいいいいを。

●成功条件
 『元凶』の撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 偽りの情報を流し、それを現実にするかのように、人を異界へと引きずり込み殺害する夜妖(ヨル)が発見されました。
 皆さんは、この異界に乗り込み、元凶たる夜妖を撃破してください。
 異界はシンプルな『道』だけで構成された世界ですが、時折皆さんのaPhoneに「通行止めのお知らせ」が着信し、そこに書かれていたことが現実となって発生します。例えば、人身事故。落石事故。獣害事故。崩落事故……様々なあり得ぬ事故が、皆さんを襲うでしょう。
 シンプルに言ってしまうと、異界と言うダンジョン探索中に発生する、夜妖によるトラップ発動、という事になります。
 細心の注意を払い、異界(ダンジョン)を踏破し、元凶を討伐しましょう!

●エネミーデータ
 ここでは、トラップの発動によって遭遇するかもしれないエネミーを紹介いたします。

 ケモノ
  シカやイノシシのような、獣害事件により発生する敵です。
  もちろん、ただの獣ではなく、夜妖の一種です。油断は禁物です。
  主に物理属性の近接攻撃を仕掛けてきます。移動しまわる習性があるので、しっかりブロックして足を止めましょう。

 亡霊
  事故現場に現れる亡霊。恐らく、夜妖の被害者たちでしょう。
  被害者ではありますが、既に正気を失って悪霊と化しています。速やかに滅してあげるのがせめてもの救いです。
  主に神秘属性の、遠距離攻撃を仕掛けてきます。何らかのBSを搭載している可能性が高いので、注意しましょう。

 元凶の夜妖 ×1
  これはPL情報になりますが、元凶の夜妖とは戦闘になります。
  巨大な空を飛ぶ口のような外見をして、常に事故情報をぶつぶつと呟いています。
  主に神秘属性の攻撃を行ってきます。様々な不吉な事故情報=BSを口ずさみ、皆さんを『呪殺』せんと目論むでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。

  • 希望ヶ浜道路情報局より、通行止めのお知らせ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
三上 華(p3p006388)
半人半鬼の神隠し
※参加確定済み※
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
影縫・纏(p3p009426)
全国大会優勝
水鏡・藍良(p3p009579)
其は水に映りし影なり

リプレイ

●2月24日 午後1時24分 希望ヶ浜第576道路
 人身事故による通行止めのお知らせ。
 aPhoneへの通知。それは夜妖(ヨル)からのメッセージだった。
「……来たな」
 『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)が呟く。情報によれば、『通行止めのお知らせ』は、夜妖が被害者を異界へと引きずり込む合図であるという。とはいえ、現状、イレギュラーズ達はすでに異界へと侵入している。となれば、この通知は攻撃の合図と言っていいだろう。
「読み上げ機能を設定しておく。聞き逃さないように注意してくれ」
 華の言葉に、仲間達が頷く。超常現象の予兆、と見れば恐ろしくも不気味な通知だが、イレギュラーズ達は、この通知を逆探知する形で、『元凶の夜妖』の居場所を探るのだ。
 華の言う通りに、aPhoneの読み上げ機能が起動する。女性のような機械音声が、淡々と事故通知を読み上げるさまは、少しばかりの肌寒さを感じさせた。

 人身事故による通行止めのお知らせ。
 24日午後1時30分より、
 希望ヶ浜第576号道路みいいいいいいいいべっべいえおううおうおうおぉお(4.2km)、
 人身事故による通行止めを実施しています。

「aPhoneの管理は任せるよ。ボクにはその板の使い方はよくわからない」
 『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が鼻を鳴らした。どうやら本当に、電子機器についてはからっきしのようで、華の手元のaPhoneを胡乱気な瞳で見つめていた。
「もちろん、今回どういう役目を持っているのかは理解している。つまりマッピングの魔術と、サーチの魔術の複合だ。ふん、だったら魔術でいいじゃないか。なんでわざわざ機械なんてもので再現する? 魔術を学ぶのが嫌なのか? 子供でも習得できる初歩の初歩だと思うがね。これだから最近の――」
 ぐしゃり。
 そこまで言った瞬間。セレマは突如飛び込んできた巨大なトラックに、側面から退きつぶされた。ばん、とその身体がトラックの重量に耐え切れぬように爆ぜ、辺りに血しぶきを散らせる。
「ひ、ひぃぃっ!?」
 思わず悲鳴をあげるのは、『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)である。目の前で突如発生した惨事に、たまらず血の気が引く音が聞こえた。こんな異界を、トラックが走っているわけがない。つまり、これこそが『通行止めのお知らせ』の攻撃による効果であり、被害者をもたらす『事故』の発露である。
「……ふん。単純な物理的攻撃など、警戒するにも値しないね」
 だが、セレマは何事もなかったかのように、トラックの傍に立っていた。避けたのではない。確実にひかれていた。ひかれたうえで、無傷で立っているのだ。理屈や原理を理解しようとするなかれ。セレマとは『傷つかない美少年であるのだから』『絶対に傷つかない』のである。
「ひ、ひぃ……心臓に悪いわ、セレマさん……!」
 激しく脈動する胸を抑えながら、奈々美が言う。セレマは目を細めて、口を結んだ。
「慣れてくれ、としか言いようがないね。それより、今の攻撃でサーチは始まったんだろう?」
 サーチ、つまり敵の夜妖の探知である。今回は、aPhoneの探知プログラムにより、敵の攻撃通知を起点に、送信場所の逆探知を行う、と言システムが組まれている。デジタルコンシェルジュの黒兎が、aPhoneの画面でその小さな腕をパタパタと振った。地図の上で、行くべき道を指さす。
「こっちだ……行こう」
 華の言葉に、仲間達は頷いた。一行の行く先には広い一般道のような景色が広がっていて、道の両側には『入り口のない建物』が設置されている。此処は「道」だけが続く異界。建物などは、ただの背景でしかないのだ。
「ふ、ふふ……感じるわ、この世界に、邪悪の気配を……! 人々の生活を止める悪しき夜妖……このパープルハートが……退かしますっ……!」
 しゅっ、とポーズを決めて、奈々美は声をあげた。きょとん、と華がそれを見つめる。
「……な、なによ……言ってみたかっただけよ……」
 少し顔を赤らめながら、奈々美がそう言うのへ、
「いや……いいと思うよ」
 華はそう言って頷いた。
 さて、一行は、『道の異界』へと一歩を踏み出す。この奥に潜む元凶を見つけ出し、都市伝説に終わりをもたらせるのだ。

●2月24日 午後1時51分 希望ヶ浜第130山道
「獣害事故による通行止めのお知らせ――」
 イレギュラーズ達が、永く、永遠に続くかのような道路の果てにたどり着いたのは、山を下る山道だった。本来ならば景色と言うものは徐々に移り変わるわけであるが、しかし今は突如としてあたりの景色は全く違うモノに切り替わり、家屋のあった周囲は、突然木立が立ち並ぶ山林となっている。一般道が、進んだらいきなり山道になっていたわけだ。
「なるほど。山道だから獣害になるわけか。夜妖の生み出した怪異でなければ、良いジビエ素材と言った所だが」
 『Stella Cadente』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が周囲を警戒しながら言った。ふご、ふご、と言う荒い息が、周囲から聞こえてくる。がさ、がさ、と言う草木をかき分ける音が、徐々に近づいてくる。
「モカさん! 右の林からです」
 『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が叫んだ。モカは視線を向け、頷くと、
「これは猪だなぁ。豚肉とはまた違った味が楽しめる……うん、このような場じゃなければ。残念だ」
 苦笑しつつ、モカは跳躍した。同時に、巨大な猪がその空間を駆け抜ける。先ほどのトラックではないが、これもまた、凶暴にして巨大な猪である。これに体当りされれば、真っ当な人間であったら意識を保ってはいられまい。
「うるいいいいおおええっつおおおお、かっこ9キロメートルかっこ」
 猪の口から、意味不明な呻き声のような音が漏れた。『通行止めのお知らせ』の一文である。猪の喉を通して聞こえてくる、通行止めの案内。
「緊急速報です。130番山道にて魔法騎士のセララさん(14)がドーナツを食べました。とても美味しかった、と満足そうな笑顔でコメントしており、剣技がさらに冴え渡っています」
 そのアナウンスに負けじと、少しばかりかしこまった口調で声をあげるのは、『魔法騎士』セララ(p3p000273)だ。バッグから取り出したドーナツをパクりと齧り、その甘さに「うーん、今日のドーナツも最高!」と顔をほころばせる。もちろん、ただドーナツを齧ったわけではない。自身の力をブーストする、スキルの一環である。
「緊急速報です。セララさんが本日午後一時、山道で巨大な猪と遭遇しました。ですがセララさんは一歩も引きません。必殺のギガセララブレイクで――」
 猪が吠えた。よだれを拭き散らしながら、鼻息荒く突進。セララは跳躍、その鼻っ柱を蹴り上げると、さらに上空へ。
「一刀両断!」
 頂点から、一気に刃を振り下ろした! 斬! 大剣が猪の脳天へと振り下ろされ、その顔面を深く斬りつける! 猪は悶絶しながら転げまわり、すぐさま動かなくなった。
「――猪は真っ二つにされて退治されました! やったね、セララさん! 以上現場からお送りしました!」
 ブイ、とポーズを決めて見せる。同時に、どこからともなく、苛立たし気な『アナウンス』が届いた。

 通行止めは……解除……されています……。

 元凶の夜妖の声だろう。相手もどうやら、此方の存在を疎ましく思い始めたらしい。そうだろう。必殺の狩場に引き込んだはずが、その尽くを突破されているのだ。
「ケガはありませんか、皆さん?」
 アッシュが尋ねる。
「ああ。君の警告のおかげで先に動けた。おかげでこの通りさ」
 モカが手をひらひらと振るのへ、アッシュは頷いて見せた。
「そう言っていただけると嬉しいです。しかし、相手は卑劣な手段をとる夜妖。今後も警戒は怠らずに行きましょう」
「りょうかーい!」
 ぴっ、とセララが片手をあげて返事をする。一方、aPhoneの黒兎が、また新たな地点を示した。山道を、あえて横、林の中を突っ切る様なルートだ。
「やれやれ、山歩きか。色々と準備をしてきてよかったよ」
「また獣の襲撃があるかもしれませんが……もとより敵地、危険は承知の上です。行きましょう、皆さん」
 アッシュの言葉に、仲間達は頷いた。
「それでは、セララさん達は、これより林の中を進みます!」
 セララのアナウンスと共に、一行は林の中を突っ切っていく――。

●2月24日 午後2時24分 希望ヶ浜第340道路
 次に到達したのは、巨大な霊園、つまり墓場の前を通る寂し気な道路だった。
「まさに、逢魔が時ってな。随分と雰囲気出てるじゃないか」
 『其は水に映りし影なり』水鏡・藍良(p3p009579)が言った。異界である、という事を差し引いても、不気味な空気が漂い、『今にも出そう』な雰囲気を醸し出している。もしこんな所に一般人が放り込まれたとしたら、さぞや心細いだろう。
「霊障による通行止めのお知らせ」
 ぽん、と音を立てて、aPhoneが合成音声をあげる。
「24日、午後2時30分。希望ヶ浜第340道路にて、くくくええええいれいれくおおお」
「霊障、と来たか。通行止めってついてりゃなんでもアリなのか? それともネタ切れかい?」
 皮肉気に笑う藍良――だが、突如としてあたりの空気が冷え冷えとしたものに代わるにつれ、その口の端から笑みが消える。
「どうやら……中々に気分の悪い相手が来たようだ」
 『全国大会優勝』影縫・纏(p3p009426)が、眉をひそめる。凍り付くような空気。その風に乗ってやってくる、苦しみとも呪詛とも聞こえる呻き声。
 霊園より這い出るようにやってきたのは、様々な死因で亡くなったことがうかがえるような、身体のあちこちに酷いけがを負った『亡霊』達の姿であった。
『家に……帰して……』
『……ここは……こわい……』
『通行止め……いやぁ……しにたく……ない……』
 口々に呟かれる言葉。イレギュラーズ達は察した。この亡霊たちは、『夜妖』によってこの異界に連れ去られ、そして殺された者たちのなれの果てなのだと。
「犠牲者たちも利用するとは……元凶の夜妖は、なるほど。外道と言っても差し支えない様だな」
「ああ……だが、犠牲者と言えこいつらはもう救えん……堕ちちまってる」
 ぎり、と藍良は奥歯をかみしめ、魔術杖を構えた。
「苦しみを断つ手伝い位はするさ」
 亡霊たちが生者への妬みと怨嗟の声をあげ、イレギュラーズ達へと雪崩かかる。暴風のように襲い来る怨嗟の念。神秘的なそれが、実際の圧力となって、イレギュラーズ達の身体を激しく打ち据える。
「行くぜ……当たるも八卦、当たらぬも八卦ってな」
 放つ、藍良の式符。呼び出された黒鴉が、冷たい空気を切り裂いて空を飛んだ。一直線に亡者たちの群れへと向けて、飛翔! 自らの身体を銃弾のように見立て、亡者たちの身体を貫く!
「おお……あ、ああ……」
 亡者たちが呻きをあげて消失していく。藍良は目をそらさなかった。それがせめて彼らの苦しみを分かち合う行為だと思ったからだった。
「せめて、早く、安らかに眠れるように……!」
 纏の放つ、聖なる術式。それは、温かな光となって、亡者の群れに降り注ぐ。常よりはずれし者達を清める聖なる光が、亡者たち身を焼いた。じじじ、とその身を光に焦がしながら、亡者たちが次々と消え失せていく。
「あ、あ……あり……がと……」
 消えるような声で、亡者たちは呟いた。光と、黒鴉。二つの安らぎをもたらす使者が、死者たちをあるべき場所へと送っていく。
 激闘は長く、しかし儚く。
 すべての亡霊たちが消え去った後には、悲しくも清浄な空気があたりに満ち満ちて居た。
「通行止めのぉおお、解除をぉぉおおお、おまえらぁぁあああ! なんなんだぁあああああ!」
 怒号が響いた。それが元凶の夜妖のいらだちの発露だと気づいた藍良は、ふん、と鼻を鳴らした。
「決まってるだろ。まじない屋だよ。お前を滅しに来た」
「ういいおおおあええうおうおううう!」
 夜妖が吠える。何度も、何度も、aPhoneから通知音が鳴った。意味不明な言葉の羅列が、通知画面に踊り狂う。事情を知らぬものが見たら、それは恐怖の具現だっただろう。だが、今、イレギュラーズ達は、この夜妖が追い詰められていることを知っている。つまりこれは、敵の悲鳴のようなものなのだ。
「苛立ちで状況が理解できない様だな。自分の居場所を自分で教えているようなものだ」
 aPhoneの画面では、黒兎がぴょんぴょんと跳ねて、ある一転を指示している。そこが、この夜妖の潜む地帯であることは、もはや明白だった。
「追い詰めたぞ。すぐに行く。首を洗って待っていな」
 藍良は虚空を向ってそう告げた。
 戦いの終わりが、近づいていた。

●2月24日 午後3時00分 希望ヶ浜第666道路
 数多の『通行止め』を潜り抜け、イレギュラーズ達が最期にたどり着いたのは巨大な産業道路のど真ん中だった。そして、その中心に、何か巨大な影がうごめいているのが見える。
「見つけた……アレが、そうか」
 華が言った。それは、巨大な『唇』だった。どういう原理か、宙を踊っている。
「通行止めのおしらせ。通行止めのお知らせ。通行止めのお知らせ」
 ぶつぶつと、ぶつぶつと、それを呟いている『唇』。これが元凶の夜妖であることは、間違いないだろう。
「さて、妖精の輪(フェアリー・リング)の世界の探索は興味深いが、ここでお終いとしよう」
 ぱん、とセレマが手を叩いた。『唇』が――もし目が合ったならば、此方を睥睨してたのだろう――セレマの方を向いた。
「うおおううええいいえいいえい」
 呻くように、吐き出す。怨。周囲に不吉な空気が満ちて、ねばつくような空気が、身体にまとわりつく。
「一応、聞いておく」
 華が言った。
「なぜこんな事をした。なぜ神隠しを利用した」
「人身事故……崩落事故……落石事故……事故事故事故事故事故事故事故ぶぶえええいべえうべべべ!」
 『唇』が吠える! 吐き出される様々な事故のお知らせが、不吉な情報となってイレギュラーズ達の身体へと圧し掛かった!
「ひいっ、も、問答無用みたい……! こ、こいつが元凶……なの、ね……確かにこ、怖いけど……なんだかケモノとか亡霊よりかはマシかも……」
 奈々美が声をあげるのへ、仲間達は頷く。同時に、一斉に散開した。各々武器を携え、
「一気に仕留めよう」
 と、華。
「奴の攻撃はボクが抑えよう」
 美少年は微笑む――。
「キミに目がなくとも、ボクからは目は離せまい。さぁ、次はなんだい? 火事か、それとも洪水か?
 たとえ大嵐の中でもボクの美しさが曇ることはないぞ」
「もののんぐれうぃいいべべべべ!」
 吐き出される呪詛は、しかし美少年の髪の毛一本を散らすことすらできない。美少年を傷つけることはできない。たとえ呪いであったとしても、夜妖であったとしても、それは同様だ。
「あなたが呪いを吐き出すのなら、私も呪いであなたを穿ちましょう」
 アッシュがその手を掲げた。現れた黒いキューブが解き放たれ、『唇』を飲み込む!
「此処で果てて頂きます。貴方が齎した呪い、其の全てを永遠に亡きものに」
 アッシュの黒いキューブが、『唇』に無数の呪いを生みつけた! 苦痛に『唇』が呻く中、
「さぁ、ついにイレギュラーズ達の決戦の時です! セララさん、必殺のギガセララブレイクで敵を狙います!」
 セララのアナウンスが響く中、必殺のギガセララブレイクが、『唇』を狙う。『唇』は身をよじる様に回避を試みるが、しかしその口の端を綺麗に切り飛ばされた。『唇』が痛みにパクパクと開閉する。
「痛いかい? だが、お前に襲われた子たちは、もっと怖く、痛かったんだ」
 モカがその鋭い脚で、回し蹴りを見舞った! 直撃した『唇』が、回転しながらフッ飛ばされ、
「生憎、穢れとは昔から付き合いが長いんでな。俺とお前、どっちがより不吉かな?」
 藍良の放つ黒鴉が、『唇』へと追撃をお見舞いする。鴉の体当りに『唇』は地に叩きつけられ、大地をこする。
「事故、事故、事故事故事故ぉおおおお」
 悲鳴にも似た『唇』の呪詛が響き渡る。だが、今更この程度の攻撃で、イレギュラーズ達の攻勢が緩むことは無い!
「お前の『おしらせ』もここまでだ。もう黙れ」
 纏の放つ魔術の弾丸が、『唇』へと突き刺さる。血液のような液体を噴出して、『唇』がのけぞった。
「ふ、ふひひ……こ、ここまで追いつめれば……もう、怖くなんかないわ……!」
 奈々美の放った追撃の『紫のハート』が『唇』をハート型に穿った。もはや呟くことすらままならぬ『唇』に、華は接敵する。
「都市伝説はお終いだ。……もう、通行止めの知らせが流れることは無い」
 妖刀に暗黒をまとわせ、華は『唇』を斬り上げた。真っ二つに切り裂かれた『唇』が断末魔の声をあげ――。

 気が付いた時、一同は希望ヶ浜の繁華街に居た。人の気配を感じられる。此処は正常な世界だった。
 元凶の夜妖の討伐に、成功したのだ。夜妖を失った異界は、イレギュラーズ達を捕え続けることができず、外へと吐き出したのだろう。
 aPhoneの画面を見つめる。
 そこには、もう、通行止めのお知らせは、送られては来なかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、夜妖は祓われました。
 もう、通行止めのお知らせが届くことは――
 あれ? なんでしょう、スマホに通知が。
 ……『通行止めのお知らせ?』

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