シナリオ詳細
あるオークの事件
オープニング
●オークの花嫁
暗い森林を、女が駆けていた。
薄衣のようなドレスは、女の体の形をくっきりと浮かび上がらせる。いわゆる豊満な体つきをした女性である。胸は大きく、腰は細く、尻は大きい。
細く白い足に靴はあらず、舗装されていない森を走る度に、少しずつ傷が増えていった。
「――あっ」
女がか細い声をあげ、倒れ伏した。
足に絡まる細い蔦。それを必死で外そうとするが、焦りに手が滑り、それもままならない。
がさり。
と――。
何かが草をかき分ける音が聞こえた。
女が、びくり、と顔をあげた。
「へはは、逃げられると思ったか」
下卑た笑みを浮かべ、豚のような顔をした亜人――オークが立っていた。
女は、このオークから逃げていたのだ。
悲鳴をあげる女に、オークが迫る――。
●オークの困りごと
「はいはい、こちら、亜種族交流仲立ち職員のトゥティモ・モノズッキさんです!」
と、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が言う。
その紹介に、眼鏡をかけた女性――トゥティモが頭を下げた。
亜種族交流仲立ち職員とは、人類に比較的友好的な亜種族集団との認識のすり合わせ……つまり、人類側の常識と社会制度を相手側に提示し、相手側の常識と社会制度を理解した上で、適切な交流を行う手伝いをする、通訳者みたいなものらしい。ちなみに公務員。
「で、こちらのイケメンオークさんが、噂のスーパースター、ジェロニモ・ヤマーモトさんです!」
と、ファーリナが紹介したのは、スーツをびしっと着こなした、一匹のオークである。
「どうも、ジェロニモです」
やたらイケボでオーク――ジェロニモが言う。
「えーが? って奴を知っていますか? 練達の方では割と普及しているらしいのですが」
映画。イレギュラーズの中にも、知っているものがいるかもしれない。
いわゆる劇場公開用の映像作品である。こちらの世界でも、練達の手により、ある程度の映像記録手段が――かなり大掛かりな装置が必要なため、いつでもどこでも録画ができる、とはいかないが――存在するようで、故郷の文化を懐かしんだ旅人などが、映画撮影の真似事などをしているらしい。
こうして作られた映画は基本的には練達内でのみ流通しているのだが、ごく一部が小規模ながら外国にも流通しているようで、それを視聴する施設なども、ある所にはあるそうだ。
「と言うわけで、知る人ぞ知る映画界のスーパースター、オーク役と言えばこのオーク! と言うのが、このジェロニモさんなのです」
ファーリナの言葉に、
「いやぁ、照れますな」
などとイケボでジェロニモが返す。
「私の最新作は、『オークの花嫁』と言う作品でして。美女を執拗に狙うオークの役などをやっております。いわゆるパニック・ホラーの類ですな……」
「それで、ジェロニモ氏なのですが」
と、トゥティモが声をあげる。
「実は、人類との共存を快く思わないオークたちから敵視されているのです。定期的にカミソリレターや不幸の手紙、それから架空請求の手紙が送られてくるなど、様々な嫌がらせが発生しています」
「お恥ずかしい事です」
と、ジェロニモ氏は頭に手をやった。
「全てのオークが人類と仲良くやっていければよいとは思いますが……そうは思わぬ同胞もいるのです」
「そしてついに、物理的な襲撃予告が届きました」
と、トゥティモは一通の手紙を差し出した。
「近日、ジェロニモ氏は幻想内の都市でファン交流イベントを行うのですが、そのイベントを中止せよ、と。さもなければ……」
なるほど、そこで実力行使を行うぞ、という事か。イレギュラーズ達が頷くのへ、トゥティモは、
「ジェロニモ氏は、人類とオークの友好の懸け橋。氏を失う事は、双方にとっての痛手です。そこで、皆さんには、イベント中、ジェロニモ氏のボディーガードをお願いしたいのです」
「どうか、よろしくお願い致します」
トゥティモの言葉に続いて、ジェロニモは頭を下げた。
「このイベントは、私にとっても、市民の皆様にとっても、大切な催し。是非とも成功させたいのです」
「と言うわけですので、これが今回のお仕事です!」
と、ファーリナが声をあげる。
「いやぁ、種族間交流っていいですね! お金にもなりますし。と言うわけで、皆さんしっかり働いて、がっぽり稼ぎましょう!」
ファーリナの言葉を受けながら、イレギュラーズ達は警備プランを練りだしたのであった。
- あるオークの事件完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年06月08日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●オークのパレード
その日、幻想のとある小都市は、過去最大と言ってもいい人出を記録していた。
大通りには露店が並び、多くの人々――いわゆる人類種のみならず、オークやゴブリンなどの、ある程度の知能と社会性を持った種族、いわゆる亜種族たちの姿も見える。
元々、亜種族に対しては友好的な思想を持つ人々の多い街である。そう言った関係から、オークの映画スターがイベントを開けることになったわけではあったが、それでも、ここまでの人出を、当のオーク……ジェロニモ・ヤマーモトは予想していなかっただろう。
と、言うのも、これが『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の手腕と言った所か。町の有力者や、いわゆる顔役達への根回しの結果である。
襲撃犯へのカウンターの為、中央広場での『仕切り』の権利を自分達が得るための説得であったが、相手はこのイベントに『金の匂い』を嗅ぎ付けた。そうなれば、一枚噛ませろ、と言う者は出てくる。
寛治達の今回の目的は、イベント興業の売り上げではなかったので、そういった点では身軽である。あっという間に全体の主導権を握り、広場での自由は確保した。
ついでに街中の出店計画にも案を出してやって恩を売り、その結果、中央広場のイベントスペース設置の作業員も借り受けることができた。
結果、顔役・裏表同士の衝突などもなく、実にスムーズに『街のイベント運営』が行われた。これは完全に説得の副産物であったが、寛治のプロデュースがクリティカルに効いたため、と言える。元より暗い話題のはびこる昨今、楽しめるなら楽しみたい。イベントがあれば人が来る。人がいればさらに人を呼ぶ。
さて、そんな人々のごった返した通路の真ん中を、手を振り歩くのがジェロニモである。彼が視線を向ける、その都度歓声が飛ぶ。群衆は、ファン、今知った人、知らない人、と色々いたが、概ねジェロニモ氏には好意的なようである。平和な街なのだ。
「いやはや……これには驚きましたね」
すごいイケボ(イケメンボイス)で、苦笑交じりにジェロニモが呟く。その声を聴いたのは、彼を護衛する二人のボディ・ガード。『任侠』亘理 義弘(p3p000398)と、『爆走爆炎爆砕流』ガーグムド(p3p001606)である。
「おいおい、スターってのはどっしり構えるもんだぜ……安心しな、警護は万全だ」
義弘がそう言い、
「我らが守る限り、貴様は安泰である! 胸をはれ、胸を!」
がはは、と笑いそうな勢いでガーグムドが続ける。
さて、そんなパレードの上空にて警戒飛行を行うのが、『宵の狩人』サーシャ・O・エンフィールド(p3p000129)だ。狩人、狩猟者であるサーシャは、狩猟術について長けている。今回の襲撃犯は、弓による狙撃を攻撃の手段としているため、その狩猟知識は、狙撃に適した場所の発見などに役に立つだろう。
事前調査により、ある程度の狙撃ポイントの目星をつけていたサーシャは、『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)にその地点を報告。自身は上空から、スウェンは地上から、襲撃犯の特定を行っていた。
スウェンも勿論、事前調査にて、ある程度の建物の絞り込みはしている。例えば、風向き。狙撃には風が大きく影響する。とりわけ、風に振られやすい矢は、その影響を大きく受ける。続いて、建物。狙撃に適した高い場所、そして逃走しやすい、裏通りに出入り口が面していたり、複数の出入り口がある建物が望ましい。
スウェンはギアチェンジを行い、さらに反応を研ぎ澄ませた。得意の足で建物を、路地を駆けまわり、襲撃犯を探す。
スウェンは映画と言う物を知らなかったが、その出演者の気持ちには、深く共感していた。争いの絶えない世界の中で、それでも友好を主張する。その在り方を強くリスペクトしていたし、それ故に、このイベントを成功に導きたい気持ちは強い。
いくつかの建物をチェックした時である。スウェンは目星をつけた建物の屋上に、動く何かを見つけた。すぐさま階段を駆け上がり、屋上に躍り出る。
果たして、そこに居たのは1人のオークである。その手にした物はクロスボウか。オークは突如現れたスウェンに、驚きの表情を向け、
「なんだ、お前――」
「見つけたッス!」
声をあげると同時に、屋上を駆けた。慌てて逃げ出そうと身をひるがえしたオークの眼前、屋上に一本の矢が突き刺さった。
サーシャの矢である。
慌てて矢の射られた方向へ視線をやるオークは、こちらをキッ、と睨むサーシャと目が合った。同時に、スウェンがオークへと追いついた。その足から放たれた鋭い蹴りの一撃がオークへと直撃。オークは倒れ、その意識を手放す。
スウェンはオークが気絶しただけであることを確認すると、サーシャに向かって、拳を突き出した。親指を立てて、鎮圧の成功と援護の礼を告げるのへ、サーシャはにっこりと頷いて、同様に親指を立てて拳を突き出した。
(……上手いねぇ、流石だ)
その様子を見ながら、いつでも飛び出せるように準備をしていた義弘が、その警戒を解いた。
そのような攻防を誰にも気づかせぬまま、パレードはつつがなく終わりを迎えたのである。
●中央広場のサイン会
「サイン&握手会はこちら! お並びの方だけが参加できます!」
と、列の先頭で声を張り上げるのは、寛治である。事前に設営を完了したサイン&握手会場には、ロープや杭、いわゆる三角コーンなどにより待機列が形成されている。ジェロニモは義弘とガーグムドががっちりとわきを固め、また簡易ながらブースも設営されており、例えば集まった群衆の影に隠れて襲撃する、と言う事はもはや不可能だろう。
加えて、念には念を、と簡易ながら持ち物チェックもされている。
「みんなが気持ち良くジェロニモさんと交流できるように、ご協力をお願いしまーす!」
と、ニコニコ笑顔で声をあげ――しかしその目は不審者を見逃さず。『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が、チェックを行う。殆んどの人は協力的だ。シャルレィスの人柄もあったのだろう、非協力的な人でも趣旨を説明すれば、やむなし、と協力してくれたし、そうでない人は列から去って行った。
コスプレや自前の武器を持つ客からは、一時的にその武器を預かって、安全を確保する。
仮にそのチェックを素通りできたとしても、ガーグムドが目を光らせている。迂闊に懐に手を突っ込もうものなら、即座にその手をひねり上げられる――懐からハンカチが出てきたりもするが、そういう場合は、ガーグムドは丁寧に謝罪した。
「うむ! 我の勘違いであった! 許せよ!」
と言った具合に。当然、文句など返ってくるはずもない。
全体的に見れば、完成された近代的なアイドル握手会システムであり、ここ本当に異世界か? と首をかしげたくなるのだが、様々な世界出身の人間が集うイレギュラーズである。これくらいは朝飯前だったのかもしれない。
大元の襲撃犯の作戦が、「群衆に紛れての襲撃」であったため、この時点で8割がた襲撃は防いだようなものである。
とは言え、追い詰められた襲撃犯の暴発もあり得る以上、警戒を怠るわけにはいかない。
『断絶の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は、周囲を警戒し、不審者の割り出しを行っていたし、『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)も、パレード時点より、不審者の情報を探り、周囲を警戒していた。アンナの情報収集方法はこうである。まず、『顔を隠していたり、どこかこそこそした様子のオークはいなかったか?』と尋ねて回る。不審に思われるかもしれないが、そこは織り込み済み。
「ジェロニモさんのファンのオークさんだけど、お顔に自信がないみたいで……堂々と見に行けば良いって伝えにいきたいの」
上目遣いでそう言い訳すれば、信じない者はいまい。アンナの上目遣いは、非常に刺さるのだ。
そんなわけで、アンナやクロバは不審者情報を入手しては、そのつどメンバーへと情報を共有して回った。その為、不審者と思わしき人物への警戒度はますます上がっていく。
また、メンバーは列に割り込もうとする人物などへも、積極的に注意して回った。結果、列全体のモラルもあがり、自然、そう言った人物を排斥する流れが出来上がったわけである。
「ありがと、アンナさん、クロバさん。引き続きお願いね」
報告を受け取ったシャルレィスは、アンナとクロバに礼の言葉を告げた。
「いえ……そちらも大変そうね。交代する?」
心配げに告げるアンナ。握手会の列は未だ伸び続け、そう簡単に途切れそうにはない。元々のファン、今日この場で生まれたファン、物珍しさから、と様々な人々が列をなし続けているわけだ。
「ううん、大丈夫。それに、そっちも大変でしょ? タイミングを見て休んで」
と、シャルレィス。よし、と一息、笑顔に切り替えると、
「はーい、こちらで持ち物の検査を行っておりまーす! ご協力をお願いしまーす!」
と、再び列へと戻っていく。そんな後姿を見ながら、
「私達……ローレットやめても、イベント運営で食べていけそうね……」
と呟くアンナへ、
「やめてくれ……今日限りだ、こういうのは」
肩をすくめつつ返すクロバであった。
この時、襲撃は起こらず、サイン&握手会もまた、つつがなく終了した。
のちに捕縛された襲撃犯オークによれば、
「いや……あんだけ固められたら襲撃なんて無理っすよ……」
との事である。
無理である。
●劇場の決戦
「オラァ! ジェロニモォ! 出てこいや!」
と、露骨に悪漢オーラを出しつつ、五人のオークが小劇場へとなだれ込んだ。入り口からチケット売り場へ。そこからシアター内部へ続く扉を乱暴に開き、
「テメェジェロニモ! なんだあの広場の警備! マジで頭抱えたじゃねぇか!」
と、若干私情交じりの怒号をあげるオーク。そのオークの目に映った物は、観客を前に演説を行うジェロニモの姿――ではない。
「あ?」
思わず、素っ頓狂な声をあげる。ジェロニモの姿は、あった。舞台の上にひとり。だが、観客の姿はなく、薄暗い照明があたりを照らすのみ。ジェロニモの瞳はどこか悲しみを湛えていた。
「できれば、考え直してほしかったのですが……」
ジェロニモが、ポツリ、と呟いた。
「うるせぇ!」
だが、その言葉は届かない。
「何で客がいねぇのかはわからねぇが、好都合だ! やるぞ、おまえら!」
と、オークが叫ぶと、残り四人のオーク達は、声をあげて、武器を手にする。そして、そこから駆け出そうとし――そこで止まった。いや、止められた。
オーク達を出迎えたのは、スウェンの蹴りの一撃だ。まさに最速の一撃が、不意打ちに近い形で一匹のオークを襲う。
「ぶえっ!」
悲鳴をあげるオーク。それに続いたのは、シャルレィスだ。剣による一撃をお見舞いする。
「残念、ジェロニモさんには近づかせないよ!」
と、シャルレィス。アンナもオークの一人に近づきブロックを行い、
「ふぅ。なんというか、わかりやすい悪役で逆にホッとしてくるわ」
と、呟く。
「な、なんだ!? テメェら、イベントのスタッフじゃなかったのか!?」
慌てふためくオークへ、
「おう、スタッフさ。ただし、荒事専門のだ」
クロバが凄絶な笑みを浮かべながら言った。
「まったく、今日は色々とちまちました働きが多かったが……やっぱりこっちが本懐だ。抵抗するなら死ぬ気で来い。退くか諦めるなら命までは奪わないぜ。――強い奴がルールだ、アンタらも好きだろ、そういうの?」
自身の持つ刃、『黒陽刀・千狼哭夜』と『白陰刀・千理厄斬』を構え、笑いながらいう。
「くそっ、なめんじゃねぇぞ!」
オークの叫びに、クロバは笑った。
「そう来なくっちゃな」
クロバが、その刃を煌かせる。一人のオークを斬りつけ、
「ジェロニモ、一旦下がってくれ」
義弘が舞台袖へジェロニモを誘導し、
「ここまでたくらみを阻止してきたのですから……最後まで、やり遂げるのです!」
サーシャがその矢を放つ。
「貴様ら、丸腰の相手に暴力とはいかんな! 我がその性根を叩き直してやろう!」
バトルアックスを振り回し、ガーグムドが叫んだ。
オーク達も慌てて応戦する。しかし、所詮は悪漢。疲労は蓄積しているとはいえ、ほぼ万全の状態のイレギュラーズ達の敵ではない。
スウェンの蹴りで片膝をついたオークに、シャルレィスの拳が突き刺さる。げふ、と息を吐いて、オークが意識を手放した。
寛治も鮮やかな拳闘を見せ、アンナの追撃の蹴りが突き刺さり、オークが沈黙。
「ちっ、もう少し楽しませてくれよ」
言いつつ、クロバが刀でオークを薙ぎ払い、
「まぁ、こういう場だ。あまり血は流さないようにな」
と、義弘が別のオークを殴りつける。
サーシャもまた別のオークへ一撃を与え、
「むう! 最初の勢いはどうした、貴様ら!」
「痛い! ギブギブ!」
と、組技を決めるガーグムドへ、オークが泣きながらギブアップ。
もはや半泣き状態のオーク達だが、それでも攻撃を諦めるつもりはない様だ。必死の反撃も、しかしイレギュラーズへ届く事はない。
残ったもう一人のオークもイレギュラーズ達の攻撃により気絶。残る一人へ、クロバは刃を突きつけた。
「別に命まではとらねぇさ。だが、必要があれば殺す――アンタは、どうしたい?」
その言葉に、最後のオークは降伏。
オーク達の襲撃事件は、こうして幕を閉じ、イレギュラーズ達は、要人警護を完遂したのであった。
●祭りの後
「で、貴様ら。何故このオークを毛嫌いしているのだ?」
劇場にて襲撃してきた五人のオーク。それから、パレード、そして広場で襲撃をもくろんだ三人のオーク。計八人の拘束されたオークを前に、ガーグムドが言った。
「けっ。決まってんだろ。人間と仲良くするなんて軟弱者は、オークの面汚しだ!」
オークの一人の言葉に、その他のオーク達もそうだそうだ、と声をあげた。
「嘆かわしい! 良いか、対立するより、友情を育む方がよほど難しいのだ! それは軟弱とは程遠い精神が無ければ達成できんのだぞ!」
ガーグムドが一喝する。その言葉に、静かに義弘が続けた。
「……お前さんがたのそれ、本音か?」
ふぅ、と息を吐き、
「言っちまえ。別に恥ずかしくはない。お前さんら、『羨ましかったんだ』ろう?」
言った。オークが言葉を詰まらせる。
「なるほど……羨望、嫉妬……そう言った物が根底にあったのね」
アンナの言葉に、オーク達は俯いた。
単純な話だ。要するに、ちやほやされるジェロニモが、羨ましかったのだろう。しかも、基本的には毛嫌いされる他種族にすら、だ。だが、表立ってそういう事もできず、くすぶっていた……。
「そもそも、不幸の手紙だの小さい事をやってたお前さんたちだ。今回はたまたま暴発しちまっただけだろう」
義弘が肩をすくめる。オーク達は何も言わない。図星のようだ。
「妬むな拗ねるな、とは言わないけれど、それで貴方達の可能性を狭めるのは良くないわよ」
と、アンナ。
「……ふむ。いい方法がございますよ?」
声をあげたのは、寛治である。彼は、にっこりと笑った。
さて、それから少しして。こちらは本来の劇場である。大画面には、ヒロインの女性を襲うジェロニモの姿が写っている。両者の鬼気迫る演技は、これが芝居であるという事を忘れさるほどの勢いがあった。
「へぇ……これが映画。凄いッスね」
小声で、スウェンが声をあげた。映画の技術もさることながら、二人の俳優の演技にも感心しているのだろう。
「いつでも芝居が見られるとは……練達もやるものだな」
こういった場でのマナーは、ちゃんと弁えているのだろう。ガーグムドもまた、小声で言った。
「ほんと、凄いよね……こう、思わず、助けに飛び出したくなっちゃう」
シャルレィスの言葉に、
「はい。鬼気迫るって言うか、本当に、ちょっと怖いのです……」
サーシャが返した。
劇場の背後の壁へ背を持たれさせながら、クロバもまた、画面を見つめていた。「どうにも落ち着いて見れる性分じゃない」との事で、座席に座る事を遠慮したのである。その足元では、縛られた襲撃犯のオーク達が、画面を食い入るように見つめていた。それを見て、クロバはなんとなくであったが、映画と、その俳優が持つ力を見せられたような気持になっていた。
「なるほどね。死神にゃ難しい世界だ。だが、まぁ応援くらいはするけどさ」
そう言って、ニヤリと笑いつつ。クロバは画面を見つめていた。
その舞台裏で――。
「では、よろしくお願い致します」
寛治はジェロニモ、そしてそのマネージャーや映画のプロデューサーらと会話をしていた。
それは、次の映画についてであったり、いずれ繋がるであろう世界への人脈づくりであったり、今回捕まえたオーク達を、俳優見習いとしてプロダクションへ引き受けさせるお願いであったりした。
それらの件について、ジェロニモ達は大いに快諾。いずれ、寛治プロデュースによるオーク達の映画が誕生するのかもしれない。
が、それはまた別の話である。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様のおかげで、イベントは大成功となりました。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
オークのスーパースター、ジェロニモさんを守りましょう。
●成功条件
イベントの間中、ジェロニモ・ヤマーモトを守り切る。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
皆様には、ファン交流イベントにボディーガードとして参加してもらい、ジェロニモ氏を敵の手から守っていただきます。
ちなみに、敵オークの情報セキュリティはダメダメだったため、襲撃計画は全てこちらが把握しています。
計画から、以下の襲撃ポイントが割り出されています。
襲撃ポイント1 街の大通り
街の入り口から広場にかけてを、ジェロニモ氏は歩いて移動します。
周囲には2階建て程度の高さの建物が多く建っており、この建物のどこかから弓矢による狙撃を試みるようです。
移動しながら、ある程度の人員を割いて犯人を捜したり、或いは何らかの手段で事前に狙撃に適した建物などを調査しておければ、狙撃自体を食い止めることができるかもしれません。
もちろん、狙撃が防げなかった場合は、身体を張って凶弾からジェロニモ氏を守ってもらうことになります。
襲撃犯は、1人です。
襲撃ポイント2 街の広場
街の広場では、サインや握手などを求めて、多くの人達がごった返しています。
敵は、この人達に紛れ込んで、近接攻撃を仕掛けるようです。
ある程度の人員を割いて犯人を捜したり、或いは何らかの手段で怪しい人物を割り出すことができれば、襲撃前に犯人を確保できるでしょう。
もちろん、襲撃が防げなかった場合は、身体を張って凶刃からジェロニモ氏を守ってもらうことになります。
襲撃犯は、2人です
襲撃ポイント3 劇場内部
ジェロニモ氏が舞台挨拶を行う、小劇場内部です。この段階までジェロニモ氏が無事だった場合、敵オークは5人の悪漢オークを差し向け、実力行使を行います。
ですが、こちらは既に襲撃作戦の全容を知っています。劇場はもぬけの殻。つまり、まんまとおびき出された5人の悪漢オークを、ここでボコボコにしてやればいいわけです。
此処では犯人探しをする必要はありません。待っていれば相手はやってきます。遠慮はいりません。ボコボコにしてください。
●敵データ
狙撃犯オーク
狙撃 物遠単
悪漢オーク(襲撃ポイント2) ×2
近接攻撃 物至単
悪漢オーク(襲撃ポイント3) ×5
近接攻撃 物近単
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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