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シナリオ詳細

<Rw Nw Prt M Hrw>死者は蘇生(かえ)らず/生者は帰還(かえ)らず

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死者は這い出て
 ファルベライズ遺跡群。その中核たるクリスタル遺跡。
 美しき水晶で彩られたその遺跡は、色宝の影響を受け、領域ごとに様々な姿を見せる。
 例えばこの領域――そこには、ラサのどこにでもある様な、石やテントで作られた建物が並び買う、小さな町のような様相を呈していた。
 どこにでもあるような/故にどこにもない、郷愁さえ覚えるような、ラサの街の光景。
 ファルベライズ遺跡制圧のため、斥候として突入したラサ傭兵部隊は、その光景に確かな驚きを覚えていた。遺跡自体は地下に存在する。だが、空には抜けるような青空が広がり、乾いた風が、まるで地上のごとく頬を撫でる。
「クソ、警戒を怠るなよ! 何が起こるかわからん……!」
 傭兵隊長の男が声を上げる。傭兵たちは武器を構え、周囲をにらみつけた。
 ふと――石造りの建物の中から、誰かが現れた。
 女のように、みえた。
 長い髪。膨らんだ胸。しかしその顔は、黒く、泥のようにぐずぐずと崩れ、何者かとも判然としない。
 誰にも見えず、誰にでも見える女であった。
 故に。
 誰かが呟いてしまった。
「エリン……か?」
 死した、男の妻の名であった。
「ッ! 馬鹿野郎ッ!!」
 傭兵隊長が叫ぶのへ、男は思わず、口を己が手でふさいだ。しかしもはや遅い。名を呼ばれれば、そのように振る舞う。それが目の前の怪物――『ホルスの子供達』の特性だ。
 ずるずると、女の顔が『エリン』の物へと変わっていく。日に焼けた褐色の肌。黒く長い髪。口元のほくろ。零れそうな、大きな眼。
「あ、な、た」
 『エリン』が笑う――同時に、物陰から無数の『ホルスの子供達』が現れた。皆一様に、誰かの顔をしていた。

●領域制圧作戦
 ファルベライズ遺跡入り口。ラサ陣営のテントに、イレギュラーズ達は集められていた。
「皆さんお疲れ様です! ファルベライズを巡る戦いも佳境ですね! という訳でお仕事です!」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、イレギュラーズ達の周りをパタパタと飛び回りつつ、そう言った。
 ファーリナの言う通り、ファルベライズを巡る戦いも佳境に入った。イレギュラーズ達による遺跡の調査により、発見された最奥、大精霊ファルベリヒトの祠。
 そこには『ファルベリヒト』と呼ばれるモノが存在していたが、しかしその精神は狂気に陥っていた。
 その精神状態に呼応してか、最奥付近に潜む『ホルスの子供達』もまた狂気状態に陥っており、普段より凶暴性、戦闘能力は向上しているように見えた。
 また、生き残った大鴉盗賊団も最奥へと侵入し、ファルベリヒトの奪取を目論んでいた。大鴉盗賊団がファルベリヒトと接触した場合、どのような事態が発生するかは計り知れない。そうでなくても、ファルベリヒトの暴走が続けば、狂気に陥った『ホルスの子供達』が地上へとなだれ込む可能性もあるのだ。
 イレギュラーズ達はこれらを制し、ファルベリヒトを止める。それが、本作戦の最終目的であった。
「さて、皆さんが行うのは、最奥で戦う仲間達への支援にあたります。最奥近辺のエリアを制圧し、退路や安全を確保するわけですね」
 ファーリナが言う。遺跡には未だ、多くの敵性存在が在る。これらを排除し、仲間達の退路や、最奥への増援の可能性を排除してほしいわけだ。
「皆さんが向かうのは、『存在しない街』と仮称されたエリアです。此処は、ラサの街を模したような光景が広がっていて、内部にホルスの子供達が潜伏しているようです。ホルスの子供達を全部倒して、この領域を制圧してほしいわけですね~」
 それと、とファーリナは言うと、
「ここには、ラサの傭兵部隊の方たちが斥候として先に向っていたのですが、連絡が途絶えてしまったようです。最悪の可能性が想定されていますが、もし、生存者がいるのならば。彼らを救ってあげて欲しいのです」
 とはいえ、そこは依頼の達成条件ではない。依頼の達成条件は、あくまでエリアの制圧。斥候部隊の救出は、依頼の達成条件には含まれていない。
 とはいえ。救えるものなら、救ってやりたい。それは、ファーリナも、イレギュラーズ達も、想いを同じくするところだろう。
「こんな所ですかねー。では、皆さん、お気をつけて! しっかり働いて、がっぽり儲けましょう!」
 そう言って、ファーリナはイレギュラーズ達を送りだした。

GMコメント

 お世話になっております、洗井落雲です。
 ファルベライズ遺跡の、『存在しない街』と呼ばれるエリア。
 ここを制圧し、他部隊への支援としてください。

●成功条件
 すべての『ホルスの子供達』の撃破

●サブ目標
 斥候部隊を見つけ出し、救出する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 ファルベライズ遺跡、中枢付近に『存在しない街』と呼ばれるエリアが発見されました。
 そこは、ラサによくある街、のような景色を投影したエリアになっています。恐らく、色宝の力でしょう。
 そこには複数体の『ホルスの子供達』が存在しており、内部を徘徊しています。
 皆さんはこのエリアに侵入し、すべての『ホルスの子供達』を撃破、このエリアを制圧してください。
 なお、内部にはラサから派遣された、斥候部隊の傭兵たちが存在しています。
 彼らは全滅しかけていますが、もし余裕があれば助けてあげてください。
 作戦エリアは遺跡内部ですが、色宝の力で青空の街が広がっています。
 街を駆け回り、敵を見つけ、倒していく流れになるかと思われます。

●エネミーデータ
 ホルスの子供達 10~最大30体
  様々な人間に擬態した、錬金術によって生み出された怪物です。
  情報によれば、少なくとも10体のホルスの子供達が確認されています。何体いるかは不明です。(PL情報ですが、30体は絶対に超えないです)
  全員が狂気状態に陥っており、戦闘能力も高めになっています。近距離攻撃タイプが6、遠距離攻撃タイプが4、確認されているだけで存在します。
  正面から無策で突撃しても数の暴力でやられる可能性が高いです。
  エリアが街を模していることを利用し、遊撃したり、塹壕を設置して分断してみたりすると良いと思われます。

●味方NPC
 ラサ傭兵部隊 8名
  ラサから派遣された、斥候部隊です。現在はエリア内部で孤立しており、そう遠くない時間で全滅することが予想されます。
  首尾よく救出できれば、イレギュラーズ達よりは弱い味方NPCとして運用することは可能です。
  近距離攻撃タイプが4名、遠距離攻撃タイプが3名、ヒーラーが1名、の構成です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • <Rw Nw Prt M Hrw>死者は蘇生(かえ)らず/生者は帰還(かえ)らず完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月22日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートC
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
観音打 至東(p3p008495)
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

●アンダー・ザ・ブルースカイ
 蒼い、青い空を、鳥が飛ぶ。
 上天に広がる抜けるような青空。異常な事態だった。何故ならここは地下遺跡の内部であるのだから。
 青空の下に広がる世界も、また異常であった。そこは、ラサの一般的な家屋や建築物が立ち並ぶ、砂の上の一つの街の様相を呈していた。
 もちろん、浮かぶ景色は現存するどのラサの都市とも一致しない。しかし、何か郷愁のような思いが感じられたかもしれない。
 おそらくは、その想いすらも、トラップの一つなのだろう。感情に訴えかけ、『ホルスの子供達』を起動するための名を呼ばせる……訪れた者達はその罠にはまったか、徘徊するホルスの子供達は、皆一様に、誰かの顔をしていた。
 鳥が飛ぶ。鳥が飛ぶ。眼下の街を見据え。まばらに蠢く人影。皆穏やかな笑顔を浮かべ、日常を過ごしているように演じながら、その手に携えしは危険な凶器か。
「さらに東を捜索してくれ……マズいな、また少し、『音が大きくなった』……」
 『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)が声をあげた。『音』。それは、R.R.のギフトにより生じた雑音であり、その音は何らかの破滅を予兆する音であり、大きくなればなるほど、その破滅のカウントダウンは進んでいくという事であった。この場においての破滅とは、そう多くはあるまい。自分たちの全滅か、或いは、救助対象である、ラサ斥候部隊の壊滅か、である。
 『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)と『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)のファミリアーによる上空からの監視と共に、R.R.のギフトに寄るラサ斥候部隊の捜索は進んでいた。ファミリアとR.R.、この三つの目を駆使し、一行は『存在しない街』、その奥へと速足を進めていた。
「まったく、信じらんないね……なんで遺跡の中に、こんな町が出来上がってるのさ……!」
 ミルヴィが舌打ちする。複雑に入り組んだ建物と路地が、此方の目と足を鈍らせる。遺跡の探索に来たのに、都市攻めをやらせられるなど聞いていない。
「これも色宝の力なのでしょうか……」
 鶫が呟く。その答えは、イエスだろう。この非現実的ともいえる景色は、或いは、ホルスの子供達の元となった人々、その無意識が、色宝の力を借りて生み出したものなのかもしれない。それが、このどこかにあるようで、どこにもない街を生み出したのかもしれないと。
「まったく、とんでもないね……っと! 見つけた! このまま前方! 戦闘に入ってる!」
 ミルヴィが、建物の屋根の上で叫んだ。仲間達の間に、一気に緊張が走った。
「ルートは……問題ありません。このまま真っすぐ、敵の背をつけます!」
 鶫の言葉に、仲間達は頷いた。幻の砂塵を巻き上げて、路地を駆けだす。いくつかの建物の脇を駆け抜け、見つけたのは路地裏へと追い詰められつつある斥候部隊の姿。そこには、様々な誰かの顔をした泥人形たちがいた。皆一様に穏やかな顔をしているが、身にまとう雰囲気は、確かに狂気的な何かを醸し出している。
「まずは、派手に挨拶と行くか」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は、旧式のリボルバー銃を構えた。そしてその銃口を空へと向けると、一条の光が天へと放たれ、途端、上天にて爆散するように分散。光の雨を降り放つ。
 『逃さじの雨』――その名の通り、この光の雨から逃れられるものなど居まい。降り注ぐ光が、ホルスの子供達の手足を撃ち抜く。ばしゅ、と泥が焼けるような音がして、血飛沫の代わりに泥水が噴き出した。どうやらこの街にいる個体に、血のようなものは通っていないのか。いずれにせよ、ショッキングな光景は避けられたようです。
 ホルスの子供達が、ぐらり、と揺れるように此方へと顔を向けた。張り付いたような笑顔。日常を過ごす当たり前の人の顔。その表情が、戦場たるこの場所ではあまりにも異質すぎた。まさに狂気を体現するかのような状況に、息をのんだイレギュラーズ達もいたかもしれない。
「痛みも感じないか? 泥人形には勿体ない雨だったか」
 ヒュウ、と口笛を吹いて見せるヤツェク――その横を駆け抜ける、黒い巨大な影。『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は、突風のごとく駆け抜け、真正面に居たホルスの子供達の内一体に狙いを定めた。
「おうら、泥人形が! 道をあけろ!」
 手にした拳銃のグリップで、速度を乗せた打撃を食わる。パアン、と音を立てて、ホルスの子供達の頭部が、泥にはじけて粉砕された。ばじゃ、と身体が融けて地に落着する。目についた色宝の欠片――鈍く光る宝石のようだった――を、ルナは踏みつけ、粉砕する。
「おう、死にぞこないがいたぜ。いいしぶとさじゃねぇか」
 にぃ、と笑った。このような死地でも、何でもないとでもいうように。勇敢に笑って、壊滅しつつある斥候部隊に向けて、笑ってみせた。
 大丈夫だ。お前達は助ける、と――。
 そう伝えるように。
「あ、あんた達、ローレットの?」
 斥候部隊の男が声をあげるのへ、答えたのは一陣の風。男の前に突如現れた、一人の剣士。和風メイド服のすそが砂塵に翻る。きめ細やかな黒髪が、パラりと踊る。携えしは大小二振りの打ち刀。それがきらめいた瞬間、眼前に居たホルスの子供達(おんな)の首が高らかに跳ねた。
「然り」
 とん、と首が落着する。ドロリ、と溶けた泥の身体から色宝の欠片を見つけ出し、和風メイドは再度刃を煌かせた。宝の欠片が切り裂かれて散るのを見届けて、和風メイド――『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)はうんと頷く。
「ローレットのイレギュラーズにござるよ。此度はこのエリアの制圧任務を承ったが、まずは皆様方を助けに参った次第」
「いいのか? 俺達の命は依頼の成否の勘定に入ってないはず」
「そのような愛なき選択、私達がとろうはずもありません!」
 凛、とした声が響いた。同時に、極太の蛍光ピンクの光線が、ホルスの子供達を薙ぎ払う!
 次々と愛の名の下に吹っ飛んでいくホルスの子供達――そのハートの爆発の中に立つ、一人の魔法少女。
「空ろな悪を土に還す愛と正義の天光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!」
 ぴっ、と真顔でポーズを決める、『魔法少女インフィニティハートC』無限乃 愛(p3p004443)! その姿にあっけにとられた斥候部隊であったが、しかし愛のもたらした魔砲の威力は絶大であり、そしてその衝撃は間違いなく、絶望に沈みつつあった彼らのハートに火をつけたのである。死を待つだけの絶望に囚われていた彼らの瞳に、確かな希望の光がともり始めた。人々に希望の光を見せるのが魔法少女の役目であるならば、この時愛は、正しく魔法少女であったのだ。
「よし、どうやらまだ諦めてはいない様だな?」
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が、彼らに声をかけた。
「すまない、世話をかける……」
 斥候部隊の男の言葉にカイトは笑う。
「世話をかけられるうちが花だ。死んじまったら迷惑もかけられん。どっちがいいかは、言うまでもないな?」
 カイトの言葉に、男たちは頷く。
「よし、ここから全員で生きて帰るぞ。そのためには、俺達の指示に従って……いや、協力してほしい。まず、そっちの状況の確認だ。怪我している奴はいないか? 死にかけの奴は?」
 男たちは、首を振った。少し傷ついているものはいたが、それでも死には程遠い。イレギュラーズ達が、救出を最優先にした結果だろう。とはいえ、その分、敵陣深くに拙速に踏み込み過ぎたのと言う事実は否めない。まだ事態は、解決したわけではない。だが確かに、好転には向かっているはずだ。
「よし……ひとまずこの場は俺達に任せてくれ。その間、休息と回復に努める事。それから、間違っても、死者の名前は呼ぶな?」
「死んだ端からお涙頂戴で名前を呼びあってまた新しい土人形を作られたんじゃ、たまんねぇからな」
 ルナの声が響く。視線を移せば、ちょうど手にした銃で、ホルスの子供達の色宝(しんぞう)をぶち抜いている所だった。
「分かった……だが、舐めないでくれ。俺達だって、歴戦の傭兵なんだ。アンタらにおんぶ抱っこされるだけのガキじゃあない」
「ハッ、そんだけ悪態つけりゃ、十分だ。今は恨みつらみでもなんでもいい。気力で動け」
 にぃ、と笑い、再び砂塵を巻き上げて敵陣へと突撃していく。一方、仲間達の合間を縫うように、放たれた魔弾が次々と、ホルスの子供達の身体の一部を穿ち、吹き飛ばしていく。マスケット銃から魔力の硝煙をたなびかせ、R.R.は声をあげた。
「ミルヴィ、いったん下がる。援護を頼む」
「了解だよ!」
 すぅ、とミルヴィは息を吸い込んだ。その瞳が、黒と赤に鮮やかに染まる瞬間、身の内に湧き上がる黒い衝動に、ミルヴィはその身を明け渡した。
 殺意をそのまま刃にのせ、曲刀を振るう。茜色に輝くそれが、ホルスの子供達の身体を斜めに切り裂いた。ずるり、と滑る上/半身を、今度は横なぎに曲刀で斬り捨てる。ばん、と音を立てて、ホルスの子供達は泥に爆ぜた。
 ミルヴィの活躍を見届けつつ、R.R.は後方に控える斥候部隊の下へと駆け寄った。
「よし、全員無事だな……鶫、他の敵の動きは見えるか?」
「ええ……流石に戦闘音に気づかれましたね。少しずつ、此方へ向かってきています」
 鶫の言葉に、R.R.はふむ、と唸った。
「どうしますか? 場所を変えます?」
 愛の質問に、R.R.は頭を振った。
「いや……大人数で移動するのも危険だ。ここを拠点にしよう」
 そう言うと、男たちへと向き直る。
「ここに塹壕を作る。手伝ってくれ」
「塹壕?」
 男の言葉に、R.R.は頷いた。
「ああ。どうせ来るなら、存分に迎え撃ってやろうじゃないか」

●シティ・アクション
 砂埃と優しい風が、ミルヴィの頬を撫でた。此処は誰かの心象風景の集合体。誰にとっても懐かしく、誰にとっても縁のない世界。ラサを拠点にしていたミルヴィにとっても、どこか郷愁の念を抱かずにはいられない、ありえない街。
「……ったくっ! 本当に趣味が悪いっ!」
 ミルヴィの視界の先には、誰かの顔をした泥人形の姿がある。もし誰かがよみがえるのだとしたら。偽りだとしても、それにすがってしまう、それに騙されてしまうモノもいるのは仕方のない事だ。もしかしたら自分だって――刹那、そう思って、頭を振った。ついでにその想いを振り払うように、声を張り上げた。
「ヤツェク! その通路の先だよ!」
「了解した。さて、『E-A』。お仕事の時間だ」
「私は教導用ユニットだったのだがね、ヤツェク君」
 練達上位式で式神へと変化させた『E-A』から嫌味を言われつつ、ヤツェクはひゅう、と口笛を鳴らした。ヤツェクが飛び出す。その通路の先には3体の泥人形が居て、此方の出現に驚きの色を見せ居てるように見えた。
 リボルバー銃から光線が放たれる。じゅう、と土を焼くにおいが漂い、泥人形の肩に穴が開いた。しかし泥人形は意に介するする様子もなく、此方へと走り寄ってくる。
「やれやれ、まるでゾンビだな」
 ヤツェクは駆けだす。目まぐるしく路地の風景が変わっていく、泥人形たちは、息を切らせることなく追いかけてきた。ヤツェクは路地を曲がり、路地裏へ。泥人形たちを充分に引き付けたの確認して、高く跳躍した。
「今です! 撃ちます!」
 愛の叫びが響いた。途端、愛の魔砲をはじめとする遠距離攻撃が一斉に、高らかに音をあげた。無数の銃弾が、魔力の砲撃が、路地裏へと現れた泥人業たちを激しく打ちのめしていく。やがてその身体を維持できなくなった泥人形は、次々と爆ぜ、消え居ていった。
「今ので何体目だ?」
 カイトが声をあげるのへ、R.R.が答えた。
「トータルで二十とちょっと、って所だ。そろそろ底が見えてきてほしい所だが……まだやれるか?」
「こちらは一応。ただ少し、斥候部隊の消耗がありますね」
 愛が答える。イレギュラーズ達は可能な限り斥候部隊のメンバーを着にかけていたが、それでも多少は、傷を負う者はいた。
「いや、大丈夫だ。このまま続けてもらってくれて構わない」
 斥候部隊の男が答えるのへ、愛は頷いた。
「今のうちに、息を整えてください……次の敵を釣って来るまで、どれくらいの余裕がありますか?」
「いえ……あまり余裕はなさそうです」
 愛の問いに答えたのは、鶫だった。
「今、ルナさんと至東さんが前線に出ていますが……どうにも残りの敵も結集し、一斉にこちらに向かってきているようです。最後の大攻勢、と言った所でしょうか」
「他に敵の姿はあるのか?」
「いいえ。恐らく、この襲撃で最後、かと」
 カイトの問いに、鶫が答える。
「という事は、これが最後の堪え時、という見方もできます」
 愛の言葉に、ヤツェクが頷いた。
「これに耐えればおれたちの勝ちだ。鶫、至東とルナへの連絡を頼むとしよう。これで最後だ、と」

「はっはー、これで最後にござるか!」
 至東とルナが街路を走る。後方から放たれた魔力の炎が至東の足元に着弾。火の粉と砂塵を散らした。
「そいつは良かった。正直息切れが近い!」
 ルナは至東より先を走っていた。スピードの差である。とはいえ、後方の至東を気遣う事は忘れない。
 鶫のファミリアーが、二人と並走して飛んでいた。このまま釣って来るように。そのように伝えて、上空へと消え去る。
「いやぁ! 提案した身なれど、これは重労働でござったな! 過去の拙者に考え直せ、って言いたい!」
「けど作戦はハマってる! もう一息だ……!」
 放たれる、泥人形の魔術。爆発が、至東の肌を炙る。二人は這う這うの体で、『拠点』のある路地へと滑り込む。
「来ました! 攻撃、開始してください! これで最後です! その空虚なハート(心臓)に愛を刻み、土に還って頂きましょう!」
 愛の号令に従い、仲間達が一斉に攻撃を開始する。さく裂する攻撃の合間を縫って、至東とルナは反転。
「偵察ももう充分でござるよ! 仕上げと参ろう!」
「了解しました! 攻撃、開始します! 全員で生きて帰りますよ!」
 屋根の上に登っていた鶫が、魔力銃にグレネード弾を装填した。ポン、と言う音共に放たれたグレネード弾が泥人形に直撃し、内部に呪詛の爆発を巻き起こす。さく裂する呪所が、泥人形を内部化は汚損した。ぐちゃりと音を立てて、泥人形が融けていく。
 イレギュラーズ達の一斉攻撃が、泥人形たちを確実に仕留めていく。イレギュラーズ達も相応に疲弊していたが、間近に見えた勝利の旗に、士気は墜ちることなく高まっていた。
 前衛を務めるイレギュラーズ達が壁となり、突撃してくる泥人形たちと最後の交戦に入る。ミルヴィの曲刀が泥人形の首を跳ね飛ばし、後方から放たれたヤツェクの銃撃が、その胴体を色宝ごとくりぬいた。
「さぁて、こうなれば、後は乱れ撃つだけだな!」
「大雑把な事だ。君好みの事態ではないか?」
 ヤツェクに対して、E-Aがぼやく。ヤツェクは苦笑などを浮かべつつ、真正面の泥人形の頭をぶち抜いた。
「狂った程度で強くなれたと思うなよ。
 破滅よ、滅びを知れ」
 R.R.の放つ『破滅』は、砲撃となって現れた。朽ち果てたマスケット銃より放たれた剛撃の『破滅』は、最後に立ちはだかった泥人形の胴体に巨大な風穴をブチ開ける。
 どう、と泥人形が地に倒れた。そのまま、ぐちゃ、と泥水のように溶けて消えていく。
 激しい息遣いだけが、辺りに響いていた。やがて息が整い、その街に静寂が訪れる――。
「……勝ったのか?」
 斥候部隊の男が、声をあげた。
「はい。作戦は完了です」
 愛はそう言って、頷いた。途端、斥候部隊の男たちが、歓声を上げた。それは、イレギュラーズ達の戦いを称える声であり、同時に命を拾ったことに対する歓喜の声でもあった。イレギュラーズ達は、その歓声に応じるように、緊張を解いた。中々に負荷の強い戦いではあったが、何とか全員、生き延びることができたのだった。

●幕間
 ……勝利の感慨に身を浸らせる仲間達をしり目に、至東は拠点から路地へと移動する。そのまま、視線を地に落とした。
 そこには、原形をとどめたままのホルスの子供達が転がっていた。ぺろり、と至東は唇を舐めて湿らせた。それからしばし、瞳をつむっていたが、やがて意を決したように、声をあげた。
「……獅子郎どの」
 今はここに居ない誰かを呼ぶ、至東の声に、ホルスの子供達は反応した。泥人形の姿が、徐々に、徐々に、変わっていく。
 至東の瞳に、昏い何かが浮かんでいた。他の誰にも見せぬような、至東の姿であった。
 ぐちゃり、ぐちゃり、と、泥人形のが変形していく。それが見慣れた姿に近づくにつれて、至東の瞳も、表情も、昏く、変わっていく。
 ――が。変わり切る直前に、泥人形はぐちゃり、と溶けた。ダメージを受け過ぎたそのホルスの子供達は、もう一度生まれるだけの力を失っていた。色宝の欠片が砕けて、泥に溶ける。至東は息を吐いた。
「……見なかったことにしておいてあげる」
 背後から、声がかかった。腕を組んでいたミルヴィが、そこには居た。
「かたじけない」
 至東はいつもの様子で肩をすくめると、笑ってみせた。

成否

成功

MVP

観音打 至東(p3p008495)

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、当エリアは無力化されました。
 また、斥候部隊も無事に帰還し、隊員たちは皆さんに心からの感謝と尊敬の念を抱いています。

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