PandoraPartyProject

シナリオ詳細

天使の囀り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『わたしはじごくから逃げだしたかった』
 ――あなたはまるで天使の様だわ。
 お母さまからそう言われ、わたしはとても誇らしかった。
 お母さまともお父さまとも違って、私の体は真っ白で目は赤いけど、二人ともそれを気にせずわたしをたいせつに育ててくれていた。
 ――おまえは天国から授かった、私達の宝物だ。
 そう言われる度に、嬉しさのあまり顔がにやけてしまったのをおぼえてる。

 だけど、今になってはこの身がうらめしい。
 ある日突然、わたしは見知らぬヒトに連れて行かれた。わたしのはねが「天使さまみたいにきれいだから」って。連れて行かれる間、ずっと目かくしをされていたから行き先や帰りみちは分からなかった。
 そして大きなおやしきで太った男のヒトと出会って、それから何をされたのかは――……おもいだしたくもない。
 何日か、何十日か、長い間がまんして、やっとあのおやしきから逃げ出せたんだ。
 逃げ出すために窓から飛びおりて、死にそうになったけど。それでも、天使さまがいる場所。教会へいけば、きっと助けてくれる。
 事実、目の前に居る神父さまは私の体についたいくつもの傷あとを心配そうに撫でて、「もう大丈夫だよ。キミはわたしたちが守るから」と優しく言ってくださった。
 ……よかった。わたしは、もうあの男のヒトにいじめられなくてすむんだ。

●『そこはまるで地獄でしたよ』
「ローレットの者が直々にわざわざ我が屋敷まで御苦労。なにぶん、この案件は慎重に対処せねばいけない。私自らがそちらに出向く訳には行かなかったのだよ」
『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)は、裕福そうにでっぷりと肥えた男性貴族と長いテーブルを挟んで対面していた。肉料理をメインとした豪勢な食事が二人では食べ切れないほどに並び、華奢なグラスにはそれに相応しい色鮮やかな飲み物が注がれている。
 対面の貴族は、世間では『道楽卿サイラス』と呼ばれている貴族だ。興行、遊戯などに強く関心がありそれらへの投資も積極的に行っている人物である。もっとも、裏の世界ではその『道楽』は”別の意味合い”を言い含められているが……。
 龍之介はそれを認知しながらも、言葉を選びながら慇懃無礼な態度で接した。
「いえ、そちらの事情は理解しております。しかし、その状況で新参者のぼく――いえ、私を指名するとは驚きました」
「確かに、傭兵に対しての人脈という意味では黒猫のショウや色彩の魔女の方が信頼出来る。しかし今回の件に限っては、君の様に新参者の方が世間の目にも留まらぬだろう」
 男性貴族の視線に胸が支える様な違和感を感じながらも、新米情報屋は顎に手を当てて納得した風を装った。そして目の前に並べられた料理に視線を向ける。仲介人である龍之介に対する選別か。道楽卿は趣味の一環として貴族にしては珍しく自ら料理を嗜むと聞く。これも彼が拵えたものだろうか。
「遠くから取り寄せた肉を使ってみたんだ。是非とも食べてくれたまえ」
 道楽卿に促された龍之介は一つ口に運んでみる。腐りかけの様な妙な味に顔を顰め、それ以上は口を付けずに依頼の件へと話題を移した。
「私の手元から一匹の鳥が逃げ出してしまってね。逃げ込んだ教会へ穏便な話し合いを打診するよりも、君達ローレットに頼んだ方が確実だと思って。奴らは信心深く、融通が利かなくていかん」
 その『鳥』は、海洋国家ネオ・フロンティアから連れて来られたという。いくらか値は張ったが、その鳥が持つ羽根はとても美しく、まるで天使の様に清らかな純白で天国に至る触り心地だと恍惚の表情で語る。
 …………無論、それらが意味するものはたとえこの幻想であってもあまり公にしていいものではない。場合によっては海洋、幻想の二国家を巻き込んだ外交問題にも発展しかねない。
「要は、その鳥が囀(さえず)る前に口を封じてしまえと?」
「あぁ、そうしてもらって構わぬ。しかし出来る事ならば、そうする前に連れて帰ってきてくれた方が好ましい。あの鳥は他に比べて使い心地がいいのでな。それに、天国から地獄へ叩き落とされた天使の囀りを聞くのもまた一興」
 ――外道め。
 龍之介は唾を吐き捨てたい衝動を胸の内に抑えながらも、皮肉混じりに返した。
「しかしその鳥は御自身で抱え込むと処理に困るでしょう」
「なに、囀りを聞き飽きてしまったらそれこそ手放してしまえば良い。幸い、それ以外に使い道はあるのだから」
 その言葉の意図を判断しかねた龍之介。返答に困った彼は、なんとなくグラスに口を付ける。

 ……すると、龍之介は道楽卿が言わんとする事を理解した。龍之介は驚きのあまり目を見開き、胃から込み上げるものを堪え切れず嗚咽を漏らしながら嘔吐してしまう。
 道楽卿サイラスはローレットの新米情報屋――年端も行かぬ少年の粗相に対して不快そうに表情を顰めるでもなく、むしろ楽しげに卑しい笑みを浮かべた。
「よかったじゃないか。何か吐き出したかった様子だったから心配していたのだが、胸に支えていたものが取れた様で何よりだ」

GMコメント

 GMの稗田 ケロ子です。今回のシナリオに対して私の個人的な言葉は、多く語りません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

■成功条件
1.「教会に逃げ込んだ『鳥』の殺害、もしくは捕縛」
2.「道楽卿サイラスに繋がる証拠があれば、それらは隠滅する事」

NPC一覧:
道楽卿サイラス:
 世間では道楽卿と呼ばれる人物。表向きは良くも悪くも道楽に耽った貴族。裏では口に憚られる事をいくらかやっている模様。
 貴族の中ではある程度の実力はあるものの、今回の件が公になると強引に揉み消せるとまではいかない様でローレットギルドに依頼した模様。
 なお対面した龍之介曰く、「自分が今まで出会った幻想貴族の中でも最大級の外道」。
『鳥』:
 11歳。飛べない様にへし折られた純白の羽根が目印。

 ……動物の鳥の事ではなく、『飛行種(スカイウェザー)』の少女である。
 この対象の情報は「彼女については詳しく聞かない方がいいと思います。知らない方が、貴方達にとってもやり易いでしょう」と必要最低限の提供しかされていません。目印から見間違える事はないとは思われます。

エネミー情報:
神父:
 その地域にある教会の神父。この幻想において神職はそれなりの立場。
 職業柄か正義感が非常に強く、少女の引き渡しにはまず応じないと言い切れます。
 少女が逃げ込んだ時間からの経過から考えて、既に何があったか聞き出して道楽卿サイラスを告発する準備を整えようとしている可能性が高いです。
 戦う力はありませんが、強引な手段に出ようとすれば彼は真っ先に教会を守護する兵士に頼る事でしょう。
兵士:
 教会を守護する警備兵。入り口、礼拝堂に2人ずつ。神父の護衛を務める者が常に一人。12時間毎に交代。
 なお神父の護衛を務める者はかなりの手練かつ信仰心、忠誠心も厚い。
 その他の兵士は実力やその他も並程度ですが、その場から逃げられて応援を呼ばれたりする事がもっとも厄介かもしれません。

  • 天使の囀り完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月05日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
アイン ウォーカー(p3p001050)
時計塔の記録係
エリク・チャペック(p3p001595)
へっぽこタンク
アグライア=O=フォーティス(p3p002314)
砂漠の光
Λουκᾶς(p3p004591)
おうさま
ステラ(p3p005106)
未来へ
音所 輪華(p3p005154)
死神使い
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜

リプレイ

●8時30分
 粉のように白く降り注がれる朝の陽ざし。
 小さな子供――『おうさま』Λουκᾶς(p3p004591) ――が一人で礼拝にやってきた。
「入ってもよろしいですか」
 派手な衣服に対して目は行くが、それに見合った振る舞いも感じる。おそらくはやんごとなき御方が礼拝にやって来たのでしょう。――間違いありません。
 警備兵はそう思い、此処で一悶着を起こして訴えられるのは御免だと迷いもなく中に入る事を促した。
 Λουκᾶς……ルカが教会の中へ入れば、そこは礼拝堂である。
 周囲を見回してみれば、礼拝堂の左右の奥迫ったところに扉が二つ見当たる。それを警備する様に兵士が二人。事前情報通りだ。
「どうかしたか?」
 周囲を見回すルカに対して、警備兵の一人が怪訝そうに問うて来る。
「今日は何だか物々しいですね、何かあったんですか?」
 ルカは無知に振る舞い、質問に質問で返す。
「……キミが知る必要は無い。さぁ、礼拝が終わったら帰るんだ」
 別段疑われずに済んだ様だが、そうあしらわれてしまった。もっとも、その態度から奥には何かあるのだろうというのもルカにも察せる。
 それ以上食い下がるのも疑われるだけだろうと、ルカは手早く祈りの仕草をしてから一度退散する事にした。

 教会の近辺にある墓地へやってきた『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)。
 技能によって霊魂との意思疎通を試みて教会の事を聞いてみると、手厚く葬ってくれた神父への賛美ばかり。時折此処から見える教会の女の子も、彼が保護したのだろうと賞賛を繰り返した。
 耳が痛そうな顔をしながら教会の方を見やるペッカート。此処から時折見えるという事は、成る程窓がある部屋に『鳥』は居るらしい。
「予想通りのいい子ちゃんだな。まったく、俺との相性最悪だぜ」
 それらしい情報を聞き出し終えると、彼は霊魂が漂っていた墓を躊躇いなく蹴飛ばす。怨嗟の声を喚き散らす霊魂を無視して、ペッカートはそのまま墓地から去っていった。

●14時00分
 日当たりの良い太陽が教会に降り注いでいる。風のない昼下がり。
 入り口を警備兵達は春の陽気に欠伸を漏らすが、礼拝客らしき者達が見えてちゃんと仕事をしている様に取り繕った。
「礼拝客さんかい」
 警備兵の問いかけに『特異運命座標』ステラ(p3p005106)は頷いた。
「えぇ、怪我をした兄の無事を祈りに」
 ステラの様子を伺う警備兵であるが、彼女の様子に不自然そうなところも見当たらない。
 同行者――『へっぽこタンク 』エリク・チャペック(p3p001595) ――を注意深く見てみたが、武器の類も持っては無さそうだ。
「兄の為にと殊勝な娘だ。通ってよし!」
 二人は警備兵へ向けて一礼する。教会へ入る際、エリクは警備兵に質問を投げた。
「ふと気になったのですが、入り口で警備している人はいつも同じ人に見えます。そんなわけないですよねぃ」
「ははは、そんな事は無いよ。あと2、3時間で交代だ」
 そんな風に軽く言葉を返す警備兵。エリクとステラは、その言葉を頭に刻み込みながら礼拝堂へ進んだ。
 中に入ると、祈りを捧げるミサの時間なのか。他の礼拝客と共に神父が居るのが見て取れる。
 傍らには他の警備兵とはまるで様相が違った兵士が控えている。白く彩られた鎧を着飾った装備。神父の傍に控えるという職務上、そんな風体である方が見栄えが良いのであろう。
 しかしその護衛の表情は堅苦しく、その鋭い眼光で礼拝客を監視している様にさえ思える。
「なんだか空気が重いように感じるのですが……何かあったのでしょうか?」
 ステラが礼拝客の一人に、世間話といった体で聞いてみた。祈りを捧げながらも礼拝客は言葉を返した。
「他の礼拝客が噂してたけど……なんでも大怪我した女の子が教会に逃げ込んで来たって話で。急いで奥に担ぎ込まれていったらしいよ」
 神父様はお優しいからそういうのは放っておけないんだろうね。そう神父を敬う様に付け加えてから、礼拝客は祈りに集中し始める。
 ステラがそれを尋ねている合間、もう一人礼拝客がやってきた。イレギュラーズの『砂漠の光』アグライア=O=フォーティス(p3p002314) その人である。
 彼女はエリクと共に外観と礼拝堂の内装を見比べ、どの程度余った空間があるか。それから何処に部屋が有り得るか考えてみた。しかしそれを見比べ終えた辺りで、刺すような悪寒がアグライアを襲う。神父の護衛が此方を注視していたのだ。
 これ以上の捜索はまずいと判断したアグライアは、仲間への合図代わりに一つ咳払いをしてから教会から退いた。
 ステラは護衛の様子を慎重に伺う。相変わらず堅苦しい顔をしていて、その心理は伺えぬ。ステラとエリクは不安に思いながらも、お互い間を開けてその場から立ち去っていった。
 
●2時30分
 草木も眠る丑三つ時。昼の警備兵と同様に、教会入り口を警護している二人は眠たげに欠伸を漏らしていた。
「まったく、夜の警備は堪える」
「そう言うな。あと少しで交代の時間だ」
 退屈そうに言い合う警備兵達だった。あまり仕事に対して前向きではないのが分かる。
 しかし何者かの集団が教会に近づいて来るのが視界に入り、思わず二人は身構えた。
 ……こんな夜更けに五人も? なんだ一体。
 警備兵はその集団が何者か歩み寄って確かめようとするが――突如ヘドロの様な玉虫色の塊が、片方の警備兵を顔面目掛けてぶちまけられた。
 液体を浴びせられた兵士は、ワケも分からないまま想像を絶する苦しみに体を蝕まれ、悲痛な表情を晒しながら身悶えする。
「あら、大当たり。モロに毒を食らって何秒生きていられるかしら?」
 背に半透明の骸骨、死神とでも呼ぼうか。それを仕えた女性は、愉快そうに瀕死の兵士を見下ろした。『死神使い』音所 輪華(p3p005154)だ。
「な……」
 それらを見てもう一人の兵士は咄嗟に警笛を鳴らそうとする。しかしその背後から何者かが容易く笛を弾き飛ばした。仲間の集団から外れて行動していた『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)が、ギフトの力を活用し音もなく忍び寄っていたのである。
 警備兵は驚き、咄嗟に声をあげようとするが訓練を積んだ兵士と同等以上とされるイレギュラーズが数人掛かりだ。そうなる前に取り押さえられてしまう。
 そうして、ペッカートは手に持ったダガーを見せびらかす様に翳してみせた。
 警備兵は助けを呼ぼうにも口元を押さえつけられ、もはやどうにも出来ない。先程まで眠たげだった表情は恐怖に満ちたものへと変わっていったのである。
「まるで悪魔や死神にでも出会った様なカオしてんじゃねーか。まァ、その通りだけどよ」
 ペッカートは何の躊躇いもなく、警備兵の喉笛にダガーを押し当て感触を味わう様にゆっくりと横に引いた。

●2時33分
 ――前略。この様に突然な手紙をどうかお許し下さい。
 道楽卿についての以前より噂になっていた火急の用件で御座います。彼の元より、海洋より連れ去られたという少女が駆け込んで参りました。
 その様子から彼女が何らかの暴行を受けているという事は明白であり、もしも彼女の言う事が真実ならば、それを放置しておく事は海洋との友好に亀裂を生む一因にもなりかねません。
 最悪の事態を避ける為に、この少女の保護を願い出ます。どうか、ご懸命な判断を――神父ロレンスより

 神父は何某かに宛てたの手紙を一筆したため、それを簡易的な鍵が付いた棚へと収めた。棚の中には道楽卿の疑わしき部分や『鳥』から聞き取った事などを事細かに書き纏めたものが、敷き詰められていた。
「彼女は?」
 傍に仕える護衛の兵士に向き直り、別の部屋に居る『鳥』の様態を確認する。
「安静にしております。傷の方も、大事に至りはないかと」
 神父は、それを聞いて安堵した様に息をつく。大きな峠を過ぎた気持ちであったのであろう。反して、護衛は苦い顔をした。
「彼女を此処で休ませている猶予などあるのでしょうか。先刻の集まりにも、祈り以外が目的と思しき者が混ざっていたと昼に担当した者が仰っていましたが」
 神父は護衛の苦言に対して、不愉快そうになるでもなくゆっくり首を振った。
「確かに、警戒しておくに越した事はありません」
 そう言ったのち、穏やかに柔和な笑みを浮かべる。
「しかしこの幻想において信仰というものは少なからず侵さざるべき存在だと認識されています。彼女の傷が癒えてからでも遅くはないでしょう」
 神父はいくらなんでも道楽卿が然るべき手順を踏まず強引な手段に出る訳がない。そう信じて――悪く言えば高を括っていた。
 護衛の方はそれ以上の苦言を呈するでもなければ、日和った事も考えられず、常に気を張らずを得なかった。

『な、何者――ぐわッ!?』

 突如礼拝堂の方から聞こえる断末魔。それは内部を警備していた兵士達のもの。
 神父はその声に一瞬狼狽(うろた)えた。だが護衛の者は即座に剣を抜いて扉を開け放ち、礼拝堂の方向で何があったか確認する。
 礼拝堂の守備を破り、自分たちが居る部屋へ真っ直ぐ向かって来る者が数人。
「やぁ、ご苦労さまです。鳥はどちらに?」
 出会うなり慇懃無礼に神父と護衛の二人に問いかけるルカ。
「な、なんて事を……」
 その場から見える兵士の死体を目にし、神父は唖然とする。
「あぁ、その顔が楽しみだったんだ。どうだい、神父サマ。お前さんが鳥を拾ったせいでこいつらは死んだんだ」
 煽り立てる様に神父を挑発するペッカート。その言葉を聞いて口を堅く結んでいた護衛も、イレギュラーズへ向けて言い放った。
「道楽卿の者か!」
「その通り。私の名はエリク。覚える必要はありません。誰かに伝えることは出来ませんからねぃ」
 エリクは剣と盾を意気揚々に構え、護衛の言葉に応える。イレギュラーズ達の振る舞いは元より、護衛にとっても神父が後ろに控えているのだから退くわけにはいかなかった。
 彼は神父を裏口へ逃がす為にイレギュラーズ達へ向けて突進する様に大きく踏み込み、抜身の剣を一閃に横薙ぎする。
「ならばこの場を切り抜け、その名を白日のもとに晒してやろう!」
 そう語る彼が神父を逃がす為に捨て身である事は、誰の目にも明らかである。神父はその意図を察し、ハッとした顔をして助けを呼ぶ為に裏口の方へと駆けていく。
「神父様が!」
 アグライアは彼が逃げるのを止めようとするも、護衛がそれを阻まんと立ち塞がる。
 輪華が死神を使って遠距離の術式を放ち、それが神父へ当たるも彼は重傷を負いながらも裏口の方へと逃げて行った。
 護衛は横目にそれを確認し終えると改めてイレギュラーズへと鋭い視線を向け、剣を構え直すのであった。

「駄目なんだよ、人の可愛い小鳥を捕まえたら。悪い人たちは成敗するね」
 裏口へ辿り着いた神父ロレンス。しかしその表情は先程よりも深い絶望に満ちていた。
「駄目なんだよ、鳥かごから勝手にいなくなったら、ご主人様が心配するよね!」
 逃げ切ったと思った裏口に待ち構えていたのは二人の闖入者――もとい、イレギュラーズ。
 昼に礼拝に来ていた者も混じっているではないか。そう驚きの顔で神父から視線を注がれるステラ。
「現実って理不尽だから。ごめんね」
 絶望に震える神父へ詰め寄る『時計塔の記録係』アイン ウォーカー(p3p001050)。
「駄目なんだよ、神父ともあろう方が人のものを盗るなんて! この悪魔悪魔悪魔!」
 神父は恐怖に震えながらも抵抗とばかりに、その場にあったぶどう酒の瓶を彼女に対して投げつけた。
「あ、悪魔とはお前達の事だ……!」
 投げつけられた瓶をアインは容易く切り払うが、中身のぶどう酒が飛び散ってアインの衣服を紅く汚した。
「駄目なんだよ、僕のお洋服を汚したら――」
 衣服が汚れたアインは筆舌しがたい表情を神父へ向け、そのまま手に持った大剣を振りかざす。
 ……神よ、どうかあの少女だけは助けたまえ。
 神父ロレンスが最期に祈った事は、そんな事であった。

●2時35分
 護衛は神父がどうなったかど知る暇もなく、イレギュラーズを食い止める為に戦いを続けている。
 シェリーが連撃の合間に死角へと潜り込み、鎧の隙間目掛けてその刃を刺突した。相手も剣を薙ぎ、それを振り払う。
「……まだ子供と見るが、何故あの外道に従う!!」
 護衛は血を垂らしながらもシェリーをへ向けてそう問いかけるが、彼女は無駄口を叩くつもりもないとばかりに見つめ返した。代わりにペッカートが口を開く。
「しいて言えば。俺はカミサマが大嫌いなんだ」
 護衛はペッカートに目を向け、彼を見下す様に「悪魔め」と罵る言葉を吐き捨てる。
 ペッカートは、ニヒルな笑みを浮かべながら言い返した。
「そうかい。でも俺は神の遣いは好きだぜ? なんたって不完全。殺せば死ぬだろ?」
 それを言い終えると同時に、ペッカートは魔弾を撃ち込む。護衛は咄嗟にそれを剣で斬り捨てるも、間合いに入っていたエリクが抑え込む様に剣同士を重ねた。
「手練と言えども、さすがにこの数には勝てないですねぃ」
「ぐっ!!」
 相手も剣を引いて対応しようとするが、櫛状の剣に武器を絡め取られて手間取ってしまう。
 後ろで控えていた輪華はその隙を見逃さず、彼女の死神は無防備になった相手へ向けて術式の狙いを定めた。
「教会では神に背いた者は火刑、だったかしら。助かりたかったら神サマに祈ってみる事ね」
 相手はそれを認識し、剣を手放してでもそれを防ごうとするも間に合う事は無く、彼の体は地獄の業火に包まれた様に火だるまとなる。
 ――神は、この世に居ないのか!
 出血で体力を失っていた彼は火炎をかき消す事も出来ず、神を恨む様な慟哭を残しながら燃えてゆく。
「……『神はこの世に居ない』? いるわよ、ここに。『死神』が」
 輪華は血液混じりの咳をこぼしながら、何処か自嘲気味にそう言った。

●2時40分
 下の階から兵士さんのひめいが聞こえて目がさめた。きっと、あの屋敷から誰かが追いかけてきたに違いない。
 また窓から飛び降りて逃げてしまおうか。
 ……うぅん、今のわたしは飛べないし、また足をくじいてしまうに違いない。
 そうなれば簡単にあの人達に追いつかれてしまう。けれど、ここに隠れていれば安全だって神父さまが言っていたもの。
 足音がまっすぐこっちに向かっているのはきっと気のせい。
「ここですか?」
「墓地のうるさい魂や、輪華の話からも違いねぇ」
 扉の目の前でそんな事を言い合ってるのは、きっと当てずっぽうだ。

「貴方の態度次第で、彼女の扱いも兵士さん達の扱いも変わるのですよ? 生殺与奪を握っているのは此方なのですから」
「鳥籠に戻りますか? それとも此処で皆さんの後を追いますか? 僕は王様なので、貴方の意思を尊重しましょう」
 そんな風に扉越しに私に呼びかけているのは、きっとやみくもにやっているだけ。

「……おとなしく着いて来てくれませんかねぃ。手荒な真似はあまりしたくないですから」
 かぎを閉めたはずの扉が開いてしまったのは、きっと何かの見間違い。

「さあ、帰ろう? 君のあるべき場所へ。愛でられるのも楽しいよ」
「さあ小鳥ちゃん、死神が迎えに来たわ。地獄からね」
 死神やあくまみたいな人たちがやってきて、神父さまが”頭をかかえられている”ように見えるのは、きっとこれは夢に違いない。

「……あなたは何も悪くない、ただ運が悪かった」
 知らないおねえさんが、悲しそうな顔でわたしになぐさめの言葉をかけてくれたのは、きっと――……

●3時00分
 深夜、こんな時間にもかかわらず街は騒然となった。その地域にある教会で火災が起きたのである。
 この時間帯に教会に居たはずの神父や兵士達が近隣に助けを呼んで来なかった事もあり、その火災はひどく長引いた。
 神父や兵士達は黒焦げの死体になって発見され、何があったのかは詳しい事までは明確に分からない。
 彼らは道楽卿に暗殺されてしまったのではないかと神父を慕っていた人達は口々に言う。
 しかしそれらを証明するものはすべて燃え――あるいは強奪され――てしまい、それらは推測に過ぎなかった。

 そして、神父に匿われていたという噂の少女の死体は最後まで見つからなかった。
 その少女が道楽卿の暗殺者か。はたまた暗殺者に連れ去られたのか。
 何にしても人々にとって気のいい話ではなく、証明が出来る手立てもないまま事は終わる。
 ……どちらにしろ、その少女は地獄へ堕ちるのであろう。
 人々は、他人事の様にそんな事を語り合うだけだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 GMの稗田ケロ子です。悪依頼、お疲れ様でした。
 鳥の囀りは他の有力貴族に漏れる事もなく、今回の件は終える事が出来ました。
 道楽卿も手元に戻るものが戻って満足の様です。
 何かが起こらない限りは、道楽卿の屋敷にて天使の囀りが止む事はないでしょう。決して……。

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