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シナリオ詳細

あの葉が散った時、俺は――

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●最後の葉
「俺は――きっと死ぬんだろうな」
「…………何を言ってんだよお前は」
 病院の一室。三階の窓から見えるそこには、大樹があった。
 その木は夏ならば雄々しいばかりの葉が広がるのだが――冬は逆に一つ残らず散ってしまう。
 今の所はあと一つ。あと一つだけ葉が残っているのだが。
「明日手術なんだろ? そんな弱気な事言うなよ」
「いや分かるんだよ。あの葉がもし散ったら俺は……その時点で駄目になると思う」
 彼は、この病室の住人ジョニーは手術を控えた病人だ。
 見舞いに来ている親友が言った通り、明日にその手術を控えている身である。心臓が悪いとの事で難しい手術だそうだが……ようやくその難病を治し得る技術を持った医師が明日、この病院に到着する予定だ。が、そうだと言うのにジョニーの顔色は随分優れない。
「何日か前もそうだったろ? ほら、俺がさ。葉が散ったと勘違いしたら途端に体調悪くなって、意識も朦朧として大騒ぎに成った事があったじゃないか」
「お、おぉそんな事もあったなぁ……」
「結局今もくっ付いているから錯覚だったんだろうけど……でもなぁ。あの時は確かに散っていたような……」
「い、いいから寝とけ。なっ? もうすぐ夜になる。体力を温存しとけ。なっ!」
 どうやら彼はジンクスを持っているようだ。あるいは何か本でも読んだ影響か。
 あの最後の葉が落ちた時……自らも死んでしまう、などと。
 本来なら馬鹿な事を、と笑い飛ばす所だが。散ったと感じて体調が急激に悪化した日があったのは事実であり、その事を考えると簡単に笑って流すのも憚られ……というか、うん、実は本当の所を言うと……

 ――あの葉っぱ。実はこの前千切れた時からボンドで止めてるだけなんだよなぁ。

●最後の葉(ボンド止め)
「え? えっ? なんだって? ごめんもう一回お願い」
「皆さんには本日のお昼まであのボンドで止めた最後の葉っぱさんを密かに死守してほしいのです!」
 待ってください皆さん帰らないでください! と先回りして説明を続けるのはユリーカ・ユリカ(p3n00002)だ。
 曰く。あの葉が大樹に付き続けている事に生の希望を見出している患者がいる。
 絶対に散らせる訳にはいかないのでどうしても人手が欲しい。
「――という訳でローレットに依頼が来たのです!! これは人命に関わるとても重大な依頼です!」
「いや見えない病室に移動させればいいだけだろ!!」
「見えている事に意味があるそうなんです! その方向性は却下です!」
 絶対に帰らせない、とばかりに両手を広げて威嚇のポーズ。
 現在は朝早くも早く。もうすぐ日の出の時間帯だろうか。逆に言うと日も出ていない時間帯から呼びされた面々がいるという事だ。ありがとうございます! ありがとうございます! とユーリカは絶ッッッ対帰らせる気はない言動を繰り返す。
「本日の天候は快晴の予定! 風の強さは不明です! 何度かだったら、もし葉が散っても依頼主さんが患者のジョニーさんの意識を逸らす事を手伝ってくれるそうですからご安心を!!」
「いやいやいやいやご安心をって」
「むしろ気を付けるべきはこの周辺に出没する動物なのです! 別に資料は用意しているので詳しくはそちらをご覧いただきたいのですが……とても! とっても恐ろしい動物たちがいるみたいで――」
 と、その時だ。ユーリカの鼻先に何かが舞い落ちて来た。
 真っすぐではない不規則な動きで。擬音で言うならば『ひらひら』と。
「あれ? これって――」
 さっき言ってた大樹の葉じゃね?

 やばい!! 取れたぞ早く戻せ戻せ!!

GMコメント

プラシーボって馬鹿に出来ないんですよ!!
茶零四です。よろしくお願いします!


■依頼達成条件
 あらゆる障害を排除し、お昼頃まで大樹の葉(ボンド止め)を密かに死守してください。


■場所
 とある病院前。時間帯は朝~昼。天候は快晴。
 葉自体は、ジョニーの病室がある三階とほぼ同じ高さにありますのでそこそこの高さがあります。
 とはいえ、だからこそ一階部分で多少騒いでも三階には声が届きにくいでしょう。


■敵(?)情報■
■外道畜生・第一の魔――『雀』
 今の時期とってもモフモフな雀。最近意中の雌に振られた。
 好物はとある病院の前にある大樹の一つだけ残った葉についているボンド部分。
 ありふれた好物ですね。え、そんな訳ない? 知らん。

■万人滅殺・第二の魔――『猫』
 人(のハート)をノックアウトしてきたかの様なオーラを放つ猫。
 必殺の「ねこぱんち」は保健所職員タナカさんを二回返り討ちにしている。とてもかわいい。
 病院前の大樹の一つだけ残った葉の辺りが縄張りらしい。ピンポイントすぎる? 知らん。

■地獄の番犬・第三の魔――『ケルベロス』
 わんちゃん大好き貴族、フレデリック卿の飼っている三つ首の仔犬。
 本日なんと飼い主の使用人部屋着替え覗き事件が発覚。メイド長に正座させられ叱られている間に脱走完遂。待望のお外へ。
 フレデリック卿が甘やかしてほいほいお菓子を与えている為、ちょっとふっくらしている。

 右の子:周りの生物に対し敵対的。よく噛んでくる。(甘噛み)
 中の子:火を噴くのが得意な子。結構遠くまで射程がある。(褒めて褒めてー!)
 左の子:みんなだいすき――!! あそんであそんで――!!(尻尾ぶんぶん!)


■ジョニー
 ちょっと精神的に脆い所がある患者。手術に対する不安からでしょう。多分。
 基本的に朝起きてからはずっと外を眺めています。

■その他
 もし依頼の最中に葉が散っても何度かだったら依頼主がカバーに入ってくれます。
 なので完璧にミスなく行おうとする必要はありません。

 また、もしかしたらこういうトラブルが起きるのでは……?
 という事がプレイングに書かれていれば極力描写として反映いたします。


 あっ、最後に。ギャグ色の強いシナリオだと油断していませんか?
 雀ちゃんはついに思いの通じる番を見つけたと思ったら寝取られるし。
 タナカさんは今朝方ついに三回やられて犯人目下逃走中だし。
 フレデリック卿は奥様にも事が露見してこの世の終わりかの如き顔をしているし。

 このシナリオは真面目なんです!! 信じて?

  • あの葉が散った時、俺は――完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月30日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
銀城 黒羽(p3p000505)
狗尾草 み猫(p3p001077)
暖かな腕
Bernhard=Altern(p3p001754)
天秤の観測者
那美端・成練(p3p001788)
ヤマヒニアラズ
夕凪 こるり(p3p002005)
秋呼鳥
ハウザー(p3p002546)
賢智の魔王
カシャ=ヤスオカ(p3p004243)
カイカと一緒

リプレイ

●ちゅんちゅん
 来た。奴が来た。可愛くあどけない顔をしていやがるが決して騙されてはいけない。
 あの雀は危険なのです! とユーリカは言っていたが。
「本当、なんでしょうか。あまり動物さん達にも怪我はさせたくないのですが……」
『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)はやや懐疑的だ。依頼の関係上やむを得ない部分はあるかもしれないが、出来得る限り動物達は傷つけたくない。円満に解決できるのならばそれが一番なのだから。
「怪我、か……う、うん、そうだね……驚かせて、怪我、とか……させたく、ないね」
 そしてそのマナに同調するように『死と悲哀に寄り添う者』カシャ=ヤスオカ(p3p004243)もまた言葉を紡ぐ。と同時、空を指でなぞれば魔法陣が浮かび上がった。一瞬の間をおいて放たれるは――魔矢だ。
 簡易の術で創ったそれは一直線に。しかし狙うは雀ではない。威嚇が主目的なのだから。
 眼前を通った矢に雀が一瞬空で停止。焦る様に翼をはためかせて。
「おぉう、結構効果があるもんにゃねぇ。木を巻き込まんようにうちもやってみよかにゃ」
「いざとなったら当てても問題なかろう――加減はするから死にはしないだろうしな」
 多分。と呟いたのは『魔王』ハウザー(p3p002546)である。近場に置いてあったベンチに座り、持参した茶を飲んでいたが雀の姿が見えればやむなし。依頼開始か、と遠距離型の術式を起動させる。半ば強引に引き受けさせられた依頼だがそれはそれと。
 また『御猫街に彷徨ふ』狗尾草 み猫(p3p001077)も同様に。近くに『立入禁止』のテープを張り付け終えた彼女は、己も殺傷性の低い術を雀へと放っていく。全て木自体や雀……勿論の事、葉には当たらぬように注意は払って。
 次々に飛ぶ。魔矢が、術が。須らく雀を葉に接触させぬようにと。
「チュンッ!!」
 しかし雀とて退く訳にはいかない。愛しの雌を親友だと思っていた雄雀に寝取られて傷心気味ではあるが、だからこそ。二度目の退却は己の沽券に関わると葉を狙う。
 悲しみの涙を力に変えて。いざ己の餌を求めて――
「チュ、ンッ!?」
 と、そこへ。目の前にいきなり『鳥』が現れた。
 なんだあれは。明らかに形は『鳥』であるが、見た事のない奴だ。どこ中だテメェ!
「ハクヒ参號。そのまま威圧を。決して近付けさせないように」
 そして。その『鳥』へ命ずるは『ヤマヒニアラズ』那美端・成練(p3p001788)である。『鳥』の正体は彼が練達上位式をもって造り上げた元は書物である式神の一種だ。葉の付近を飛行し雀へと相対している。
「いや。参號ってアレさっき造ったばっかりの奴だろ。壱と弐はどこへ行ったんだよ」
「……ハクヒ壱號と弐号は……彼らは……くっ……」
 意味深に目を伏せる成練。いやいやどこへ行ったんだよと『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は突っ込むが、本当にどこへ行ったのだろうか。恐らくきっと壱と弐はシリーズシナリオ級の大長編の末にその姿を消したに違いないが、彼らの生き様は成練の心の中に刻まれている。無理に掘り返すのは止めておくとしよう……!
 とりあえず今は参號に視点を。空を見上げると、ガン付けなら負けねぇぞオラァ! と雀は完全に参號を己の敵としている。雀固有の嘴アタックを用いてハクヒ参號を撃滅するべく熾烈な戦闘の真っ最中だ。いかん破ける破ける。
「だ、駄目ですよ雀さん! 皆仲良く、皆仲良くです!」
 その時、マナは飛翼を用いて雀の傍へ。
 技能として。翼を持つ同じモノとして、礼儀作法が通じれば――と思いはしたが。あれは『公的な場』における立ち振る舞いや言動を行う事ができる技術の証だ。何事という訳ではないこの場においては残念ながら機能せず、故にマナは行動をもって雀へと向かう。
「争いはなにも産みません……! 落ち着いて、落ち着いてください、あと出来れば」
 もふもふさせてもらいたい……! それは心の中の声にして。
 手を伸ばす。優しく雀を包み込もうと、すれば掌に嘴アタック。いたっ、いたっい。
 負けるもんか……っ!
「――ッ!」
 意を決して包み込む。さすれば伝わる手の中にいる雀の温かさ。もふもふさ。もふも、もふもふ――!
「チュンッ!」
 しかしその感覚は一瞬のみ。滑り抜けるように雀脱出。彼は必死だ、なぜかというと。
 空腹。彼は空腹なのだ。ここに来た理由はそれなのだから。なぜか葉を食べようとすれば邪魔をする者らが現れるが、くそう。もはや何でもいい。なんでもいいから栄養としたい。
 と、そう願い飛んだ先に――林檎があった。
 なぜあるのか。そういう思考はどこぞへと吹き飛んだ。目の前にある食料に雀は飛び込んで。
「やった、引っかかったっす! ギルドから持ってきた甲斐があったっすよ――!」
 うぉおおお! と喜んでいるのは『天秤の観測者』Bernhard=Altern(p3p001754)である。果物に果たして引っかかるかどうか不安だったが、啄む様子を見て意味はあったと天に吠えて。
「――この調子でお昼まで葉っぱ、キープ出来るかなぁ」
『秋呼の青い鳥』夕凪 こるり(p3p002005)は揺れる葉を見ながら、呟いた。

●三階
「なぁ。なんか外に女の子がいる気がする。雀と戯れている姿が見えるんだが」
「ああ、そういう季節だからな」
 そういう季節なのか。ジョニー納得。ちょろい。
 あれぐらいならば特に何の問題もないだろう。葉が取れなければ幾らかはゴリ押せる。
 ローレットの皆さん――もう暫くお願いしますと。依頼者は心の中で呟いた。

●にゃーお
 来た。今度は奴がここへ来た。保健所職員タナカさんを幾度となくノックアウトした。
「来たっすね、猫がッ……!」
 生唾飲み込むはBernhard。一歩一歩進んでくる猫の姿に、もしや食べられたりしないだろうかと種族的本能が警報を鳴らしている、が。これは受諾した依頼であると本能を抑え込み、猫へと向かえば。
 短い尻尾を前に出す。ふりふり。これで気を惹けないかと、後方。猫がいる方へ視線を向け、たら。
 猫が飛び掛かってきていた。
「わああああ――ッ!? く、くくく喰われるっす――!!」
「カ、カイカ……ッ!」
 Bernhardの叫びに、行って……! と助けを出したのはカシャだ。
 彼と猫の中間点。そこへ、体長30センチ程の白犬が飛び出した。
「ニャッ!?」
 彼女のギフトによる仮面を付けた白犬『カイカ』である。カシャの命には忠実に。猫の眼前へと飛び出して威嚇するかの如く、吠え上げる。さすれば猫も警戒。着地と同時にBernhardへ近寄る事はせず、逆に距離を取り警戒。
 猫と犬。それぞれが相対し、今ここに決戦が行われ――ッ!
「そ、そのまま、マーク、して……木に、近寄らせない、ように……」
 る、事は無いが。カシャはカイカへと指示を出して猫を見据える。一度でも木に登られれば厄介だ。左手に用意した秘密兵器・猫じゃらしを手に。ふりふり、必殺の猫ぱんちの身代わりとする。
「――ほう。猫は気紛れ故にどこから現れるかいまいち確信はなかったのだが」
 まさか真正面からくるとはな、とハウザーは言う。彼女はカシャの猫じゃらしに夢中になっている猫の背後にいつの間にやら回り込んでいて、
 ニャッ? とその気配を感じた猫が後ろを振り向いた――瞬間。
「ン、ニャ――ッ!?」
「ギ、ャハハハハ!! どうした、ぉい冷たいか!?」
 液体を降り注がせた。それは、彼女が先程まで飲んでいたお茶だ。
 いや、違う。お茶と言うのは正確ではない。あのお茶は――
「甘えてこようが猫ぱんちとやらを繰り出そうが俺様には通用せんわ。貴様はこのとっておきの『マタタビ茶』で酔い潰させてくれるわ! ほぉらほらまだまだあるぞこの程度で済むと思うなよッ――!」
 猫の叫び声を肴に。続けながら彼女の身を黄金のオーラが纏い始める。彼女のギフトである『世界帝の気迫』だ。ハイテンションであれば五感が冴え渡る、というモノであるが猫か。猫が主要因でそれが発動するのか。猫か! うん、猫なら仕方ないな!
「猫はん猫はん――これを一つ、御覧あれ」
 にゃあ。と最後に続けるは、み猫だ。マタタビ茶地獄、いや天国? で悶えている猫に続けざまに出されたのは、
 マタタビだった。
「――!!」
 二重でドーンっ! 痙攣するかの如く恍惚感に酔っている猫に、更なるマタタビ投入さる。
「あぁ知っているか? マタタビをな、猫に与えると猫科は大体酩酊状態となり、マタタビ踊りという反応を示す。これは成分であるマタタビラクトン・アクチニジンが主に作用する為だが、地を這う様な、じたばたとするその様は世間一般的にはとても可愛いらしいと評判だとかいう話だな――まぁ俺様にはそんなマタタビ踊りなんぞ効かんが」
「ハウザーはんハウザーはん――酔っとりませんかにゃあ?」
 猫を捕まえ肉球を連打しながらハウザーはやったら急に早口で言葉を繋ぐ。今の一呼吸だった気がする。
 ともあれ、み猫、カシャと共に猫を抑え込む。マタタビとマタタビと猫じゃらしとマタタビで。
「なんてひでぇ光景だ……いや、これも仕事だからいいがよ」
 有効ならば。と、黒羽は目を逸らしてどこぞへ呟く。猫はもう彼女達に任せておこう。猫の悲痛なのかそれとも歓喜なのかよく分からない叫びは未だ続いているが尊く犠牲になって頂く。
「ハクヒ参號、空で巡回を。雀もまだ警戒しておいてくださいね」
「葉っぱの辺りを縄張りにしているならジョニーさんとも知り合いだったり……するのかなあの猫」
 もしかしたら、そうかもですね。と成練はこるりへ言葉を紡ぐ。
 雀はまだ林檎に夢中だし、マナが見ている故大丈夫だとは思うが一応の警戒は必要だ。
 一方でこるりは猫でも雀でもなく葉っぱそのものに警戒を向けている。今の所はまだ問題ないようだが所詮ボンド止めの命だ。風が強く吹くなり、振動で取れてしまう可能性もゼロではない。
 弱めの風ですら大きく揺れている葉に、こるりは一抹の不安を覚えていた。

●三階
「なぁ。なんか黄色い粒子が昇ってきてるんだけど、下でなんかしてるのかな?」
「ああ。黄金の粒子が昇ってくるそういう季節だからな」
 そういう季節だっけ? そういう季節だよ。ジョニー納得。
 ……流石にちょっと不審がってきているかな。
 でもまだまだ大丈夫だろう、もうちょっとの辛抱だ。ローレットの皆さんお願いします。

●わんわんわん!(お外だ――!)
 来た。この文面も三回目である。奴が来た。
「ついに来やがったか。待ってたぜ」
 一早く気付いたのは黒羽だ。黒羽の注意は最初からこの犬――いや。
 ケルベロスに注がれていたのだ。雀と猫。それぞれの二匹と比べれば人懐っこい犬は危険性が低いように思える。しかし火は駄目だ。火が届けば葉は燃えてしまうだろう。
「本気でそうなったら修正不可だ。洒落にならねぇからな……そらよ」
 先んじて近付き、差し出すのは王衣の白兎だ。
 某御人が押し付けてきたぬいぐるみを右の子に与える。わあああ! と目を輝かせて即座に甘噛み。もぐもぐもぐもぐ――あっ。放そうとしない。
「思った以上にちっこいっすねこの子達。あ、それそれ果物っすよ――!」
 次いでBernhardが往く。雀の時同様に果物を準備。
 右は人形を噛んでいるから、左の子に与えてみようか。ケルベロスは犬と同じ果物耐性でいいのか迷うが、とりあえず苺を一つ。苺は犬も食べられる果物の一つで。
「ワ――ンッ!!」
 くれるの!? という表情でBernhardを見つめる。舌を出しながら呼吸激しく。その舌先に乗せてやれば一口で、ぺろり。奥歯で噛み締めならば喉の奥へと飲み込めば、猫に劣らぬ恍惚な表情。
 可愛い。とても可愛い、が、それはそれとして警戒すべき対象へと視線を。
 中の子。炎を吹くという最も注意しなければならない個体だ。
「わ、わっ……ホ、ホントに、ふっくらしてる……可愛い……」
 カシャだ。今は猫を抑えているが、どうしたものか。しかしケルベロスの子供なんて普通にいるのか……? ともあれ小型のボール玩具程度なら用意できている。それで注意が向いて遊んでくれれば良いが……
「あっ……カ、カイカ……」
 行っていいよ。と、カイカへ言葉を紡ぐ。
 それは命ではない。指示ではない。カイカへ、カイカの意思へ任せた投げかけだ。どうするかは自らで選べば良いと――そう、意図すれば。
「――」
 歩いた。ケルベロスの方へと。
 ゆっくりと進んでいく。面を付けているがゆえに表情は分からないが、それでも彼は進み。
「わんっ?」
 ケルベロスの前まで来た。面の先で、相手の鼻先をおそるおそると突けば。
「わんっ!」
 向こうの方からじゃれてきた。気が合ったのか。遊んでくれると向こうが思っただけなのかは分からないが。
 確かにその瞬間、彼らは意思を交えたのだ。
「……ふむ。これならば葉は守り切れそうですね」
 呟くは成練だ。ケルベロスは存外簡単に抑えられている。中の子に関しては勿論、火を吹かないかまだ警戒は必要だろうが。このまま遊んで、気を惹き続ければ大丈夫だろうと――
 思った、その瞬間。
「キ、ッケリキ――ッ!」
 こるりの声が、響き渡った。何の声なのか。思わず振り向いた者もいる。
 だがその言葉の意味は『この場』にいる者に伝えた声ではなかったのだ。目的は三階、依頼主とジョニーがいる部屋に向けたもので。
「んっ? 今なんか声が」
 三階のジョニーが気付いた頃。木に付いている葉に異変が起こっていた。
 風でなびいている葉。葉、が。取れかけて、取れかけて、取れかけて――
 取れ、
「ふんっ!」
 た、瞬間! 依頼主が無慈悲の全力ビンタでジョニーの頬を叩いて180度回転させる。窓とは逆方向へ。こるりの声は今にも取れそうな葉の状態に気付いたが故の叫びだったのだ。ジョニーの気を逸らしてほしい合言葉として決めていたその言葉。
 同時、こるりは跳ぶ。飛翼で跳躍し、そのまま葉の傍へ。
「警戒していた甲斐があった……! こんなこともあろうかと! 用意していたんです!」
 速乾の木工用ボンドを! と、こるりはどこからともなくそれを取り出す。用意していて良かったと心底安堵しながら――
「――あれ!? ふ、蓋が!! 蓋が固まって開かない!!?」
 しまったこの前使ってしまった時に漏れてしまっていたのか! 全力込めて蓋を開けようとするが固まっている! 新品を用意しておけば良かったと思ったが、もう遅い。依頼主の時間稼ぎも限度だ。ジョニーの顔が再び窓を向いて――
「そうはさせないっす――ッ!!」
 瞬間。あれはなんだ! 鳥か! UFOか!
 ――いやBernhardだ! 彼がコウモリとして翼を広げ、窓にくっ付いている。完全に外が見えない。
「わああああ――!? 窓に! 窓になんかいるぞ――!?」
「落ち着け! そういう季節だ!!」
 いや、流石にそんな訳ねーよ! と言う声が響いているが今の内だ。
 ついにこるりが蓋を開ける事に成功した。塗りたくって、事前に拾っていた似た様な葉をボンドにくっ付ける。それだけでは不十分と隠蔽工作を施し、ボンド跡を極力綺麗になる様にすれば、木から跳躍し離れる。
「間一髪だな……! 危ねぇ所だっ」
 た、と続けようとした黒羽は見た。中の子が、見て見て! という表情をしているのを。
 火を吹く。まずい、まさか今直した葉を狙っているのでは――
「さ、せるかよ!」
 足に力を籠める。二本の足は地に繋がっているかの如く、そして。
 吹かれた炎を、真正面から受け止める。胸元の辺りに直撃したそれは強い炎ではないものの熱さを確かに感じる。故に耐える。ギフトすら用いて剛毅の魂は痛みを超越し――
 ……依頼終わった後地獄かもなこれ!
 思考しつつも依頼を完遂する決意は揺らがない。炎に耐え、それでもケルベロスから離れず、むしろ頭を撫で首を書いてスキンシップを取る。もうついでに痩せていけお前、と言葉を繋ぎながら。
「火を吹いたり甘噛みしたり……この子のじゃれつきは半端じゃありませんにゃあ」
 面白、もとい大変そうだとみ猫が援軍として駆けつける。
 猫とは違いマタタビ云々だけでは難しそうだ。遊び倒してやるとしよう。黒羽のスキンシップに次いで彼らに構う。そぉれこっちだにゃと追いかけっこの姿勢を見せて、少しずつ木から離れていく。
「あっ、今度はねこさんのマタタビが切れて……!」
「まだまだ! マタタビ茶がこれだけと思ったかァ!」
 と、そうすれば今度は隙を見て逃げ出そうとした猫にマナが気付き、ハウザーが追加のマタタビ茶を猫に直接ぶち込んだ。黄金のオーラの輝きは留まる所を知らず、増大し続けている……!
「お昼まで、あともう少し……ハクヒ参號!」
 葉に警戒を! と成練は言葉を続ける。病の苦しみ、戦うという事。
 その意味を彼は知っている。病は気から、は決して嘘などではないのだから。
「この依頼は、成功させます……!」
 強い思いを皆が持っている。
「……そう、だね……病と、気持ちは……切り、離せない」
「笑い種であっても、ジョニーの兄さんにとってはシャレになれへん事やろうしにゃあ」
 語らねど『病』に繋がる過去を持つカシャも。うちらだけでも真剣に守ってやろうと語るみ猫も。
 そして――マナも同様だ。病弱な所があるというのは自身と同じであるからこそ。
 彼には是非とも、元気になってほしいから。例え見せかけの希望であろうと守り切る価値はある。
 奮戦する。あと少し。あと少しと。多様な障害をガードして。し続けて。

 そうしてかくして――時刻は昼を迎えるのだった。

 木にしっかりと葉を残して――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

茶零四です。お待たせ致しました。

……あれ、なんか綺麗に終わった!?
ジョニーの手術はきっと成功したでしょう。え、葉が最初と違くないって?
必要なのは「真実」ではなく「真実である」と思われる事なのです……!

お楽しみいただけたのなら幸いです。
ご参加どうも有難うございました。

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