魔法少女マジカ★マギカ

オープニング

●いつものわたし、いつものたたかい

「イーッ！」「ヒーッ！」「ニーッ！」

　あ！　全身黒タイツの不審人物達が、清楚そうなサラサラ黒髪ロング&セーラー服のかわいい女の子に襲いかかっているぞ！
危な〜いっ！

『りりこ！　今こそ変身するニョロ！』
「うん、わかったよニョーちゃん！」

　りりこは平ための胸元からコンパクトを取り出すと、それをパカ、と開いて。

「マジカル・マジカル・マジネダヤス！」

　一度そう唱えれば、りりこは体中が光に包まれ、全くその表情も見えなくなる。
光のシルエットは緩かな曲線を描き、ふわっ、とセーラー服のスカートを、大きく膨らませ。
セーラー服の、袖口が、大きく広がり。
履き古したローファーが、ピカピカの革靴に生まれ変わり。
胸元のスカーフが、真っ赤な大きなリボンに変じ。
平たい胸が、ちみっとだけ大きくなる。
そして最後に、光が弾け、シャキンとポントー構えれば。

「ツジギリリコ、参上ッ！」

　さあ行け、ツジギリリコ！　今こそ悪を根絶やすのだっ！
いざ必殺の！　

「えーいっ！」
「イヤーッ！」「グアーッ！」「ギョエー！」

　たった一閃の斬撃が、彼女を囲っていたもの全てを薙ぎ払い、虚無へと還していく。
芸術的なまでにまったく無駄のない、一太刀。

『やったニョロ、りりこ〜！』
「うん、でもまだまだだよニョーちゃん。わたし達の戦いはまだ続くんだからっ！」

　彼女の言葉通り、気づけばまた、先刻のした怪人の仲間達が、周囲を取り囲んでいる。
そう、彼女達の戦いはまだまだ続くのだっ！

●魔法少女製造ライン、フル稼働せよ

「……う、うーん……」

　マチネは、風邪を引いた時に何か悪い夢を見たレベルで魘されている。
頑張れ。ここで心折れている場合じゃないぞ。

「うん、えっとね……すごく簡単に言うと……悪の軍団が、世界征服を目論んでるらしくって。今も、その世界の住人が、頑張って戦ってるみたいなんだけど。」

　しかし如何せん、とにかく数が多い。
このままでは、魔法少女の奮戦虚しく、敵の数で圧倒されてしまうかもしれない。
故に今こそ、イレギュラーズの助力が必要なのだ。

マチネの説明を聞き、いざ赴こうとする背中に、こんな言葉が投げかけられた。

「あ、あと皆。今から行く所は、皆『十代前半くらいの女の子』の姿になっちゃうから……その、頑張って、ね……」

マジで？

---

第1章

第1章 第1節

　混沌たる戦場にまず現れたのは、ノルン・アレストだ。

　長いお耳は、悪者の笑い声を、決して聞き流しはしない。
魔法少女よ、今こそその力を見せるのだ！

「変身っ！」

　そう叫ぶと、光のうさうさがおしくらまんじゅうのように集まり、彼女（正確には彼は男子だが、今日は魔法少女なので敢えてこう呼ぼう）の身を包み込む。

ぴょこんとゆれるうさ耳に、ふわっとマントを靡かせて。
繊細なボディが際立つ、ふわふわスカートレオタード。
ほんのり黒の網タイツで、ちょこっとへっちさを見せつける。
最後に兎の王の座す、魔法のステッキを構えたら。

「困った声がこの耳に聞こえる限り、ボ……私は必ず駆け付けます！　魔法少女マジカル☆ノリュン、参上です！」

　ふわっと桃色のオーブがノリュンの周りを舞う。
怪人達もそれを見逃さず、新たな魔法少女に飛びかかる！

「アーッ！」「イーッ！」「ウーッ！」
「ま……負けませんっ！　『うさうさ☆しんふぉにー』！」

　そう唱えてステッキを触れば、ふわふわもこもこの幸せの塊……即ち、兎が飛び跳ねる。
そしてうさたん達は、一直線に敵の懐にスポッと飛び込んだ。

「ウサタンカワイイ……」「モフモフサイコー……」「オンナノコモカワイイ……」

腕の中に伝わる確かな温もり。そして聖なる光が視界を埋め尽くす。
次の瞬間には、怪人は浄化され、消えていた。

「ボク……男の子……」

マジカル☆ノリュンは、最後にそう、漏らしたという。

成否

成功

---

第1章 第2節

　コツ、コツ、コツ。静かな靴音と共に、新たな魔法少女が現れる。

　濡羽の髪に、陶器のような白い肌。
つるりとしたシルクのような質感、どこか大陸風のエッセンスを感じさせる装いは、目にも鮮やかな紅色。
スパッツに包まれた脚さえも、造形の美しさを一層引き立てる。

　仮面の下の表情は見えないが、しかしその面持ちから、『彼女』もまた、正義に燃える魔法少女なのだと雄弁に語っている。
そう、彼女こそは。

「笑顔を奪う方々に、容赦はいたしません。魔法娘娘ユーホン、参ります」

　そう一礼すると、ユーホンこと雨紅は、手にした棍を怪人達に突き付ける。

「エーッ！？」「オーッ……」

　怪人達は飛び退くが、しかしこの程度では逃れられない。
すかさず怪人達を間合いに捉え、輪の中心に棍を突き立てたのなら。
今こそ彼女は、台風の目となる。

「紅巻風！」

　棍を軸として、靭やかな舞が、振り上げた脚が、嵐を巻き起こす。

「ホアターッ！」「ニャンニャーン！」

　明らかに射程外にいた敵でさえも、暴風雨に撃たれたが如く吹き飛ばされ、爆竹の如き勢いで爆発四散した。

「すごいですね、魔法少女の力って」

　今この場にいる彼女は、平素の姿に比べるとあまりにも小柄だ。
秘宝種。本来ならば、若返る事も老いる事も無い、永遠の存在。
この状況でなければ、この姿をもっと楽しみたかったのだが。
ともあれユーホンは、この後も味方の背を押す神風となることだろう。

成否

成功

---

第1章 第3節

　ゴーン……ゴーン……。
突如鳴り響く、荘厳で清廉な鐘の音に、怪人達は目を彷徨わせる。
これは戦場を清める福音。『祝福の鐘(ベルブライド)』。

　福音を連れてきたのは、純白の花嫁、否、魔法少女！
ヴェールに包まれたその表情は、この世の者と思えぬ程に儚げで。
サムシングブルーは、青い薔薇の花冠。
しかしその背は、大胆にも開かれ、背筋を晒し。
真っ白なガーターベルトが、無駄な肉のない華奢な形を主張する。

因みに衣装はプレゼントされたものらしい。良い仕事してますね。

一見すると戦士のようには見えない彼女だが、それでも堂々とこう名乗る。

「魔法の力で悪を導く、見えない何かとお友達！　スペクトルブライド、ここに参上だよ！」

ゴーン……ゴーン……リーン……ゴーン……。

　更に重ねて、鐘の音色が鳴り響く。この音を聞いた者は、皆。

「カーッ……」「キーッ……」「トウトイ……」

　祈るように手を組んだかと思えば、光に包まれ消えていく。
穢れた者共が、清らかなる花嫁に触れる事は許されない。

ところで。
スペクトルブライド、もといスペクターもまた、正体はオトコノコである。

「こ、こんなにスースーして……恥ずかしいよ……」

　キワッキワな境界でお御脚を晒す裾をぎゅうっと握りしめ、小さく声を震わせる。
ヴェールの奥の顔は、耳まで真っ赤に染まっている。

「しかも、僕男の子なのに……なんで女の子に……？」

だって、そういう世界だから……ねっ。

成否

成功

---

第1章 第4節

「嫌じゃ！　魔法少女になぞなりとうない！　嫌じゃあああああ！！！」

　頭を抱えて、純白フリフリシスター服の『少女』が叫ぶ。
修道服といえば清楚、貞淑なイメージだが、これはもう、スリットがえげつない。
太腿が顕わだし、見えそうで見えないし、危ない。

「もうこのような格好は女装の時のみで十分じゃ！　闘うならば真っ当な格好もでよいであろう！？」

そう、正確にはこのバクも少年……であるどころか、実はお爺であったりするのだが、それはそれ。

「シスターヤッター！！」「ヘッチダァーッ！」

　下卑た笑い声で飛びかかる怪人達は、間違いなく悪であろう。ならば、ここは魔法少女の出番だ！

「悪に墜ちたならば救いあげるのみ。ハクメイ、参上致す！」

　凛とそう名乗ると共に、長杖を大地に突き立てれば、今こそ『セイクリッドパワー』が迸る。
杖を起点として、光の柱が天より次々降りてくる。

「カーッ！」「キーッ！」「クーッ！」

　天罰の如く光に打たれた怪人は、影一つも残さず消えていく。
このエリアの敵全てを倒し、後は誰も居ない事を確かめると、ハクメイは大きく溜息を吐いた。

「……あぁぁぁ、まっこと旅人で良かったわい」

　そう、幾ら世界を救うためとはいえ。
まかり間違ってイレギュラーズに、知人に、友人にでもこの姿を見られたら、きっと、正気を保てまい。
魔法少女が身バレを恐れるのは、こういう事だったのか。
バクはまた、新たな知見を得たのであった。

成否

成功

---

第1章 第5節

　アオゾラが憧れるのは、練達テレビで見たような、キラキラかわいい魔法少女。
しかし、この身は呪われている。それを示すように、彼女の肌は常人の比ではないくらいに、青い。

　その姿はまるで、深い深い海に沈んだ人魚姫。
長く尾を引く、黒のマーメイドドレス。
頭上のティアラも、ブラックダイヤのグロテスクな輝きを前に、銀が褪せているような気さえしてくる。
結局、呪いからは逃れられないのか。それでも彼女は、その力を解き放つのだ。

「怨み憎しみを呪いの糧に、呪法少女マジカル・フルーフ、八代先まで呪ってアゲル」

　決め台詞とともに彼女は、右腕を高々と突き上げる。
魔法少女、ならぬ呪法少女の放つダークムーン。

「ケーッ！」「コーッ！」「サーッ！」

　ドス黒い月に照らし出された怪人は、次々と滅びを迎える。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
人智を越えた『ナニカ』に呪われ、祟られ、狂わされたかのように。壊れ、呑まれ、消えていく。

やがて、月の光を浴びるのは、マジカル・フルーフただ一人となってしまった。

「うぅ、こんなの全然魔法少女っぽくないデス……」

　思ってたのと違うとばかりに、彼女はがっくり、肩を落とす。
魔法少女に光あれば、闇もまたある。
つまり闇属性の魔法少女も、アリよりの大アリなのだ。
だから元気を出して、マジカル・フルーフ。

成否

成功

---

第1章 第6節

　既に多くの怪人が散ったにも関わらず、怪人の黒さ故か、未だに絢爛可憐な魔法少女達の戦場は、暗雲が立ち込めたかのように重たい。そこにもまた、一筋の陽光が差し込む。

　頭には、緑のリボンに飾られた、ちょこんとカチューシャ、とんがり帽。
胴から太ももにかけては、ノースリーブのワンピース。腰の大きなリボンと、スカートのフリルが、より一層可憐さを感じさせる。
丈の短いフリルソックスとリボンシューズも、魔法少女の特権だ。
最後に、緑の宝石がきらめく、魔法のステッキを構えたなら。

「シャイニー・ラブリー・ナチュラリー！　木漏れ日の魔法少女リディアただいま参上！」

その言葉とともに、より一層、暖かな日差しが怪人達の頭上を埋め尽くす。

「シィー……」「スゥー……」「セハーッ……」

　黒タイツの口元は見えないが、それでも怪人達が、大きく深呼吸し、木漏れ陽に癒やされ、清められているのは明らかだ。

「モリノアタタカミ……」「ヒザシノヌクモリ……」「ヒカゲモノニハマブシスギル……」

大きく両手を広げて、怪人達が陽射しを全身で受け止めたなら。
影は薄く、身体が透けて、やがて溶けるように消えていく。
『ひだまりのシャインイエロー』。リディアの魔法は、戦わずして敵の戦意を溶かし、静寂をもたらしていく。

「同じ魔法少女のピンチには、手を貸すべきですから」

やはり現役の魔法少女は、格が違った。

成否

成功

---

第1章 第7節

「妙な所に来ちゃったなあ……。でも、ノワールくんが居てくれるなら心強いよ」
「さっき教えたとおりにやれば大丈夫よ、トストさん。とりあえず今は、あいつらをなんとかしなきゃ」

　そうやって語り合うのは、ノワール、トストのコンビだ。
まずは自分が手本をと、ノワールが一歩先んじる。

「変身！」

　手にした黒のグリモワールを開けば、光輝く文字が踊り、彼女を囲む。
『希望』『未来』『可能性』、それらが、彼女に力を与えてくれる。
そうして文字が吸い込まれるように消えたなら、戦闘準備は万端だ。

「魔法少女まじかる☆のわーるちゃん参上！　悪い子にはお仕置きしちゃうんだから！」

　決め台詞と共に吹く風が、彼女の銀髪を、黒を貴重としたロリータ服を揺らした。

「おお、流石先輩！」

　自分も引いては居られない。トストも覚悟を決め、『まじかる☆のわーるちゃん』に並び立つ。トストよ、今こそ『まじかる★とすと』となり、悪を蹴散らすのだ！

「変身っ！」

　そう叫ぶと、トストをパクンと、花の蕾が覆い隠してしまう。
しかし、すぐさま光と共に、魔法の花が開いたなら。
ノワールとよく似たロリータ服でありながら、お胸がちょっとよろしい感じの魔法少女が、姿を現した。

「恨みの感情、悪いオーラは、草木の力で浄化してみせる……まじかるとすと、参上っ！　だっ！」

そう叫び終わると共に、ふわり、風に花弁が舞った。

「……うう、服がひらひらして落ち着かない……」
「気になるかもしれないけど前を見て、トストさん！　敵が来るわ！」

「ソーッ！」「ターッ！」「チーッ！」
「わわっ！？」

　慌ててトストが愛用の杖で怪人の攻撃を弾き、ノワールはひらりと軽やかに身を躱す。
そう、如何に恥ずかしくても、世界の敵は待ってはくれない。
今もまた、悪よ栄えよとばかりに飛びかかる！
無論、ノワールはそんな事を許さない。

「慣れないトストさんを狙ったつもりでしょうけど、そうはいかないわ。『ブラン・ダン・ノワール』！」

　一度そう唱えたなら、ノワールの影が彼女の背丈の何倍にも大きく伸び、怪人の手足に絡みつき、ギリギリと締め上げていく。

「なるほど、じゃあおれも！『エバーグリーン』！」

　愛用の杖で地面を叩いたなら、先の攻防の間に蒔かれた種が、急激にその芽を伸ばす。

「大いなる大地の肥やしになってしまえー！」

　怪人達は藻掻くが、ノワールの拘束は協力で、脱する隙を与えない。
小さな芽はみるみる育ち、動けぬ怪人達を、天高くへと突き上げる！
キラーン、怪人達は星となり。トストはほっと、息をついた。

「怪人達、なんだって世界征服なんか目指すんだろう。ノワールくんもああいうのと戦ってたのかい？」
「私の世界とはちょっと事情が違うけれど……長くなるからこの話はやめましょう。ほら、あっちにもいるわ」

　元々は二人共男子であっても（！）今は魔法少女。戦いはまだまだ続く。
彼（女）等は、次なる敵の方へと駆けていくのだった。

成否

成功

---

第1章 第8節

　続々現れる怪人などものともしないスピードで新たな魔法少女が現れ、敵を倒していく。これなら、この闇が晴れる日もそう遠くないだろう……と、誰もが思ったその時。

『何を小娘共に手間取っているのだ……』

鼓膜のみならず、今立つ大地をも震わすような、低い声が当たりに響き渡る。その声の主を確かめてみれば……。