シナリオ詳細
汀線のカルセル
オープニング
●『汀鳥』
――鳥の鳴く声がする。
カムイグラとの貿易航路を開拓し、安全確認を行う海洋王国の船は違和感にその場に一時停止した。
またも、鳥の鳴く声がする。
フェデリアの静寂を裂き、鳴き声と共に突如として立つ荒波は何らかの意志を持つかの如く襲い来る。
船一つを丸呑みしてしまうその波濤、突如として晴天に荒れ狂った水は僅かながら魔術の気配を感じさせる。天空を仰げば、空へと溶ける蒼が見えた。
青き翼は水の気配を纏い、羽ばたき一つで水泡が空より降注ぐ。
その名をカルセル。水牢を作りだし船を水底へと誘う怪鳥――
●コンテュール家からの依頼
「ご機嫌よう。丁度皆さんの噂をしていましたの」
そう微笑んだのは海洋王国貴族派筆頭コンテュール家のカヌレ・ジェラート・コンテュール (p3n000127)である。兄とそっくりなかんばせに柔和な笑みを浮かべた彼女の傍らでは得意の水芸を披露している『貴族派筆頭』ソルベ・ジェラート・コンテュール (p3n000075)が立っている。
「ああ、ご機嫌よう。相変わらず忙しくされているようで……。
皆さんの休暇となれば、と思って居たのですが――まあ、都合の良いようには行きませんね」
折角ならば、休暇をリッツパークで楽しんではどうかとイレギュラーズを呼び出したというソルベだが、どうにも見過ごせぬ一件があるのだとソルベは困ったような笑みを浮かべる。
「滅海龍リヴァイアサンを『封印』した海域、フェデリアでの海路の安全を確認しながら、豊穣郷カムイグラに使者を送り貿易を活性化させる計画が海洋王国に出ているのですが……どうにも、航海の喧噪に釣られて狂王種(ブルータイラント)が出てきてしまったようです。
アクエリアの総督府では日々、そうした残党の討伐を行っていますが、フェデリアはまだまだ全域を把握できているわけでもありません。
そこで、皆さんに対応をお願いしたい……のですが、突然のお願いとなってしまい申し訳ありません」
非常に申し訳なさそうな素振りを見せるソルベ。カヌレも折角だからとイレギュラーズとの茶会を楽しみにしていたのだろう、残念そうな表情を隠せずに居る。
「ラサでの一件は聞き及んでいましたの。ですから、皆さんとのんびり茶会をと思っていたのですけれど……どうにも間の悪い狂王種ですこと!」
拗ねたカヌレは唇を尖らせる。貴族である二人にとって海洋王国が豊穣郷カムイグラと貿易を確立させることは最優先事項だ。カムイグラは動乱後、復興作業に追われていたこともあり海洋王国は霞帝の名代として応じる中務卿との話し合いを幾度か重ねてきた。
海に関してならば海洋の方が詳しい――故に、海洋側が貿易船を出す事になったのだが、航路の安全が保証されなくては貿易にも差し障る。
折角の機ではあるが、貿易海路に狂王種が出現したとなれば其方を優先せざるを得ないと言うとだろう。
「現在、カムイグラに私共の使者を送っています。彼等の航路になるであろうフェデリアの海域で発見されている狂王種は貿易船を狙って襲ってくることが推測されます。
そこで、特異運命座標の皆さんにはカムイグラから貿易船に随伴し、フェデリアで狂王種を撃退して欲しいのです」
「で、其の儘、リッツパークまで戻ってきて頂ければティータイムが楽しめるという事ですわね?」
「……カヌレ」
「違いますの?」
瞳を輝かせ、カムイグラ土産を夢に見る妹にソルベは渋い顔をした。どうにも、甘やかして育ててしまった年の離れた妹は、一度言い出せば聞かないところがある。
「いけませんの?」なんて問われれば「良いですよ」としか返せない兄なのだ。
「まあ、一先ずは貿易船の護衛を優先して頂けませんか?
出現する狂王種はどこぞよりか姿を現す巨大な鳥であるそうです。
確か、通り名は――『汀鳥』カルセル。魔術で水を駆使した攻撃を行い船を沈めてしまうと言われています」
淡々と説明するソルベの傍らで「貿易船にはカムイグラの特産品も乗っているそうなのです」とカヌレは力説し続ける。
「嘗ては、此の海域で数多の船を沈めたと言われる巨大な怪鳥です。どうか、気をつけて下さいね」
「ええ、無事に帰ってこないと承知しませんから!」
- 汀線のカルセル完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
フェデリアに吹く風は穏やかで――つい一年ほど前にはこの海域に立ち入る者が居るなどと『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)も考えやしなかっただろう。『暁の剣姫』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)にとっても、海ががらりと表情を変えたことには驚かずには居られない。
「…………ここが荒れ狂う絶望の青だった事を知ってるとちょっと複雑ダネ。んーっ、凄く綺麗……こんなトコで冒険だなんて最高だねっ♪」
忙しなく過ぎ去った年月は荒波の如く攫われてゆく。此の平穏を経て、新天地と称された豊穣郷カムイグラに訪れたことを思えば、自身の転機が其処にもあったと『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は溶けて、嵌められ、紆余曲折を経て平時に戻った右目を確かめるように瞼に触れた。
「さて! 豊穣への航路を邪魔するとは即ち遮那くんの邪魔をするのと同じ事! 見逃すことは出来ませんね!
加えて元婚約者と元義妹の頼みとあらばなおさら! ばっちり解決して差し上げますよ!」
元婚約者と称すればカヌレ・ジェラート・コンテュールから「何を仰っているのです」とクレームが飛んできそうなものだとルル家は小さく笑う。海洋貴族の中でも筆頭に位置するコンテュール家、その代表たるソルベ・ジェラート・コンテュールは相変わらず忙しそうだ。彼自身も豊穣郷との貿易の為に一役買っているのだろうかと思えば鳥貴族も案外頑張り屋な物だと縁は小さく笑みを零した。
「カムイグラに足を運んだのは片手で数える程度だが、夏祭りの屋台に珍しい酒が揃ってたんでな。
あれがそのうち海洋でも仕入れられるとなりゃぁ、気合を入れんわけにはいかねぇさ」
「カムイグラとの交易の試金石だな。ならば、余計な邪魔が入らぬようにするのは、務めだろう。カヌレ嬢の茶会があるなら、尚の事、気合が入る仕事だな」
此の後、是非茶会をと。誘うカヌレのことを思えばそれを無碍にするのも何とも心地が悪い。『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)がやる気を溢れさせる傍らでうねうねと揺れ動くくらーけんに指示を送っていたのは『Sensitivity』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)。一見すれば海の生き物だが、それは小型船の代わりにイレギュラーズ達をフェデリアの静寂へと運んでくれるのだそうだ。
「私も最近海洋で領地経営始めたからカムイグラとの貿易が始まるのは大歓迎よ。特産品の販路も広がるしね。というわけで、お邪魔なカルセルにはご退場願いましょうか」
カルセル――それはフェデリア海域で発見された狂王種の名であるらしい。水の気配を纏う怪鳥と利くだけで『煌希の拳』郷田 貴道(p3p000401)は拳を打ち合わせてやる気を漲らせる。
「狂王種か、相手にするのは久しぶりじゃねえか? さあて、大捕物といこうか、HAHAHA!
いやいや、デカイ敵は好きだぜ、なんたって派手だからな。派手なのは良いことだ、なんたってミーが好きだからな!
安心しな。その図体なら、ミーの獲物として不足はねえよ、HAHAHA!」
そう、落ちた影に。強く感じた水の気配。さざ波に混じる鳥の鳴き声が耳を劈いた。
「わーぉ、海ひっろーい! 空あっおーい! 鳥でっかーい! ………いや、ちょっとでかすぎじゃない? 私の知ってる鳥と違う」
影の大きさも然る事ながら、飛翔してきたその姿を見遣れば『幽霊少女』ホロウ・ゴースト(p3p009523)は思わずそうとしか言えなかった。
「いやぁ、アタシが寝ている間に、海にあんなのがいるなんて驚きだねえ。
とはいえ、我が物顔で人様に迷惑をかけるのは良くないね。悪いけどとっちめてお仕置きさね!」
からからと笑った『大海に浮かぶ月』アウレリア=ネモピレマ(p3p009214)はコンテュール家の使用人達が操舵を行う貿易船へと乗り込んだ。随伴するのは縁の私船『蒼海龍王』とAliceのくらーけんだ。
「さて、皆さん! カルセルが来たようですよ! レッツゴーくらーけん殿!」
ちょっぴり楽しそうだとくらーけんに乗り込んだルル家にAliceが「行きましょう」と頷いた。触手にそうっと掴まっていたホロウは「えっと、これを操舵……操舵? するね!」と頷いたのだった。
●
青空に臨んだのは雨の飛沫のように降り続ける水滴。まるで、海を映したかのような体を揺らがせたカルセルを見遣った縁は波を手に取るようにずんずんと進み続ける。
手にしたは『禍黒の将』が用いていた刀のレプリカ。弱さは強さ、弱さは罠――のんべんだらりとやる気を見せず日々を過ごした『男の皮』に欺されること勿れと囁くように水底漂う男の逆鱗は好き勝手に動き回ったカルセルに反撃を行うかの如く一撃放つ。
錨をモチーフにした腕輪はジョージの攻めを補強する。蒼白い妖気を放ったガントレットに包まれた拳をカルセルにぶつけるように殺気を放つ。湧き上がる闘志と共に、視線、立ち回り、動作、その圧が上空へと飛び回った怪鳥を包み込んだ。
「来るがいい。手土産には、丁度いい!」
堂々と告げたジョージと縁。惹きつけ役の二人の背中を見詰めながら貴道は肩を竦める。気性猛々しく荒ぶる闘争本能をいさめることはなく、疵だらけの拳に力を込めた貴道は溜息を漏らす。
「正直あまり趣味じゃねえんだが……たまにはいいか、今日はアウトボクシングでいくぜ!」
貿易船を護る様に立った貴道。庇うわけではない。護衛として、戦場を見極めるために敢て遠距離に立った彼はにいと唇を吊り上げる。
「もっともミーの拳は鳩に食らわせる豆鉄砲とは違って、爆撃みたいなもんだがな、HAHAHA!
大蛇が参るぜ、鳥野郎。トロトロ飛んでたら、蜂の巣にしちまうぞ!!」
あの巨躯では当てるのは易いか。貴道が放ったのは槍の如き拳圧による刺突の連打。多頭の蛇の如く逃す事は無いと縁とジョージの元へと降り立ったカルセルへと襲い行く。
その刺突が飛び込んでくるのを眺めながら航海浪漫を満喫するように白き踊り手の衣裳を揺らしたのはミルヴィ。手にしたのは白銀から鍛えた黄昏の実戦曲刀と黎明の名の儀礼曲刀。その二刀を手に、甲板を蹴ったミルヴィは惹きつける二人の傍らから踊る様に翼へ向けて刃を振るった。
気と魔眼はカルセルの纏う水の気配を吹き飛ばすが如く巻き込んでゆく。吹き荒れる剣と嵐の幻影の中にちらりと見えた痛みは実像のように翼へと叩き付けられてゆく。
「いい天気だけど、これ以上は見過ごせないよ!」
――ミルヴィという娘は殺生を厭う。だが、その痛みを背負ってでも、為し得なければならないものがあることを知っていた。この航路は命を賭けて勝ち取ったものだ。此処を脅かすというならば、覚悟を決めて本気を出すしかないのだと舞剣士は心に決める。
「青空を飛ぶのは気持ちよさそうだけどね。海も良いものさ」
神秘の杖に魔力を乗せてアウレリアは絶対的冷気を放つ。翼を凍り付けにせんという強い意志を担ったアウレリアは響く鳥の声を聞き続ける。
「さて、何て言ってるかはアタシには分からないけれどね。
体の回りに水を纏ってるんだって? 水を司るアタシの前でそんなことしてるのは命取りさね!」
まるで晴天の空に降る雨だ。アウレリアと貴道から離れた別ルートを辿り、くらーけんを操縦するホロウは緊張したように位置を定める。沈められないためにも戦況には目を配らなければならない。
異世界の魔陣が記したとされた魔術書を握りしめホロウは戦況を見極め、カルセルによる反撃に眩んだ動きを僅かに見せたジョージへと聖なる光による治癒を与え続ける。
「よーし、頑張っちゃうぞっ。そんで、後でいっぱい美味しいもの食べるんだ!」
「勿論、拙者の元義妹のティーパーティーはとびっきりのものですよ!」
成程、と小さく頷いたホロウはくらーけんの傍らから飛び出したルル家を見遣る。その触手の乗り心地は何だかんだで楽しくて。夢うつつの如き異能は無数の可能性から斬撃を放つ。
魔剣とその名を得たそれは術ではない。再現不能なる異能。不可避を掲げたそれは幸運なる少女の元から鋭く一撃として放たれる。
「さて、くらーけん殿、近づきすぎませんように!」
「いいの?」
「はい――拙者は斬らなくても、いずれの拙者は貴方を斬っております故」
まじまじとカルセルを眺めたルル家。ふと、顔を上げればその大きな青空の翼がばさりと音を立て水滴と氷の礫が落ち続ける。アウレリアが警戒したように睨み付け貴道が構えを整えその足に力を込める。
「何か来ます!」
ルル家の声と共に、縁とジョージ、ミルヴィの元へと降りたのは魔力の奔流。生み出された波濤は水牢の如く高い壁を作り上げた。
「水牢……あんな感じなのね。けれど、攻撃ばかりに夢中になってれば此方に対してがら空きよ?」
Aliceは小悪魔の笑みを浮かべる。滅海竜リヴァイアサンの鱗を利用したランジェリーに身を包み、くらーけんの触手にそっと触れたAliceはエナジーを循環させ、能率を高め続ける。
うっとりと微笑んだその蠱惑的な笑みの傍に存在するのは参謀たる力。『なかなか死なない』『かなりしぶとい』。故に前線で体を張る参謀はギャグ補正と戦略眼で生き延びる。生存優先的サバイバーは冷静沈着に高く昇った水牢を眺めて居た。
「無事?」
「……一応?」
内部から聞こえた縁の声に続きミルヴィが「此れ冷たい! びしょびしょになっちゃう!」と拗ねたような声が聞こえてAliceはくすりと小さく笑う。
「あら、透けちゃうわ?」
「……もうっ!」
清楚なんだからと唇を尖らせたミルヴィはまたも甲板を蹴り舞うように魔力の奔流たる水牢の奥に見えた翼へと多重残像の幻影による斬撃を放った。
「こんなに大きな的なんだから狙う箇所を一点集中っ!」
襲い来る巨大な波を受け止めて、その足に力を込めたジョージは海洋色覚等術の奥義によって水牢を壊すが如く破壊の渦へと巻き込んでゆく。荒れ狂う波濤――だが、それは『絶望の青』出会った頃と比べれば赤子のようだ。
「この程度で止まっていては、この海を渡ることなど出来はしない!」
そうだ。皆で此の海を越えてきた。腐り墜ちた目は、この船が『友好』を運ぶ国で正しい目として得ることが出来た。希望と、奇跡で得た命が『神威神楽(かれ)』の為になるならば。
「――行きますよ!」
跳ねた。カルセルのその背へと飛び付くように。ルル家に合わせ、縁はカルセルの体を惹きつける。
ざあ、と大きく波が立ったそれを一気に受け止めようとも海に適応した海種の男は怯むことはない。
「……やれやれ、こういう時は海種でよかったと思えるねぇ」
じりじりと、くらーけんの側へと惹きつける。攻撃に耐えながら、貿易船の貴道とアウレリアに、くらーけんのAliceとホロウに。そして自身の傍らで踊る様にカルセルへとダメージを蓄積するミルヴィに全てを託すように盾となる。
水に沈むのも困ってしまう。攻撃手ではないサポーターであるホロウは周囲をよく見回していた。もしも、あの鮮やかな海に落ちたらどうなってしまうだろうか。慣れない水中のことを思うとぞっと背筋に何かが走る気配がする。
「――――、」
波濤に、潮騒に、歌声を攫われないようにホロウはその声を響かせる。くらーけんを操船しながら、己の心を乱すものに抗い続ける。危機たる水牢――それに阻まれる仲間を救う為にホロウは懸命にカルセルを見遣った。
(……近づけば近づくほどに大きい……!)
くらーけん側へと近づいてくるカルセル。其れを見遣るAliceは小さく笑みを浮かべてエナジーの循環でダメージを軽減し続ける。
「食べても美味しくないわ?」
嘯くように囁いて。Aliceの肢体は『いーとみぃ』と囁くように。狂気に満ちたAliceの妄想世界はカルセルを捕えて放さない。
「いくぜ」と貴道はアウレリアに囁いた。アウレリアは小さく頷いて前線で敵を受け止めるジョージへと癒しを届ける。気休めでも、無いよりはましだとそう言い聞かせて。
「アタシはここで支えるだわさ」
アウレリアの背後から貿易船のクルーは不安げに貴道を見遣った。
「HAHAHA、いやいや気にするな、こっちの方が元々好みなのさ! さあ、バチバチやり合おうぜ。
貿易船なんかより強くて丈夫で、テメェの命を確実に脅かすもんがこっちにあるだろ?」
拳に力を込めて、笑みを浮かべて――貴道は好戦的に笑みを浮かべる。誘導役であったジョージが「此処だ!」と呼ぶ声に頷いて、貴道はカルセルへと一気にその拳を放った。
とん、と甲板を叩く音。ミルヴィは地を蹴って鮮やかな海を背にカルセルを切りつける。
「……殺生はしたくないけれど積極的にこの航路を襲うなら……アタシも本気を出す…!
ここは、アタシの大切な人と友達と仲間達が命を賭けて勝ち取った場所なんだ!」
そうだ、と縁は、ジョージは頷いた。此の海で散った命は無数存在して居て。海洋王国の悲願の涯――そして、神威神楽という新天地で出会った『沢山の人々』の想いを無碍にしてなる物かとルル家はカルセルへと食い下がる。
立ち上った波濤、それは壁の如く牢の如く、包み込む。その魔術の機微を察知してホロウは「来ます」と囁いた。
「――OK! 任せてよ」
たっぷりの笑みを浮かべて。ミルヴィは『可能性』をその身に間藤。至上の舞を踊る蛾如く。たった一人の少女の中に存在した妖剣に呑まれた未来。踊る様に切り裂いたその一撃にカルセルの体が揺らぐ。
「お茶会に遅刻しちゃうじゃない?」
Aliceが溜息を混じらせればジョージはそれではカヌレが悲しんでしまうと肩を竦めた。
縁が再度呼び寄せるように切りつける。水を受けても、怯むこと無き青年の背後から飛び込んだのは傷等だけの拳を叩き付ける一人。
「やっと降りてきやがったか鳥野郎! ここで落として、鶏団子になるまで殴り飛ばしてやるよ、HAHAHA!」
大地を思いっきり蹴った。貴道が叩き付けたその拳がカルセルを海面へと叩き付けてゆく。
其れに合わせ、放たれたのはルル家による『宇宙力』――その発揮。体が軋もうとも、それでも、目指す未来のためならば彼女は引くことはしない。
ざん、と音がした。
鈍い音だ。その音が聞こえたと同時、立ち上った波濤は掻き消えて『汀鳥』と呼ばれた怪鳥は深き静寂の中に沈んでいった。
「……お疲れ様」
暗い表情をぱあと明るくしたミルヴィにルル家とAliceは頷いた。様子を伺っていたクルー達へと「もう大丈夫さね」とアウレリアが安心させるように微笑む。
「ここまで出来たのは皆のお陰だよ!」
そう微笑んだアウレリアに貿易船に乗り込んでいた面々は大きく頷いた。英雄たるイレギュラーズにそう言って貰えただけで、全てが救われる気がしたのだ。
●
「カヌレ殿! お招き有難うございます!
義妹ではなくなってしまいましたが、拙者にとって大切なお友達である事には変わりありませんからね!」
微笑んだルル家を見詰めてからカヌレは意地悪そうな笑みを浮かべる。彼女のその微笑みに気付いたミルヴィとアウレリアは顔を見合わせた。
「知らないうちにお兄様が振られていたみたいでして! 気付いたら私も義妹でなくなって居ましたのよ」
どう思います? と問い掛けるカヌレの意地悪そうに微笑む顔にジョージは小さく笑みを零す。カヌレの笑みを見られるだけで十分な報酬だと認識している彼は楽しげに微笑んだ彼女が安堵したような雰囲気で在る事に気付く――カルセルによる被害が減ったこと、貿易船が無事であったこと、何よりイレギュラーズが無事に帰ってきたことが彼女にとっては何より嬉しい事だったのだろう。
「さて、驚いたな?」
「ええ、驚きましたわ。……ルル家様は『関係上』距離が空いた埋め合わせにまたショッピングに付き合って下さいませ?」
拗ねたように唇を尖らせたカヌレにルル家は喜んでと頷いた。彼女は何だかんだで寂しく感じていたのだろう。さて、と気を取り直したようにイレギュラーズへと向き直ったカヌレは「皆さん茶会を楽しんで下さいませ」と笑みを零した。
美味しいものを楽しみにしていたというホロウにはカヌレがオススメするスイーツの各種を。席に着いたAliceに「どのお茶に致します?」とカヌレはホストとしてそそくさと歩き回る。
「何にせよ貿易船が護れて良かったぜ!」
「ああ。これだけ働いたんだ、いい品が入った時はちっとばかり融通してくれたりしねぇかい?」
貴道の傍らで小さく笑った縁に対してカヌレは「一度だけならよろしくてよ」と揶揄うように小さく笑ったのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。航路をきちっと整えて事故ができるだけ少なくなることを目指しましょう!
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
『汀鳥』カルセルの撃破
●『汀鳥』カルセル
フェデリアに存在する狂王種。怪鳥と呼ぶに相応しき巨大な体を持ちます。
水の気配が強く、その青い体からは常に雨のように水が滴り続けます。
魔術を駆使し、船を水底へと誘う波濤の水牢を作り出すことからその名が付いたそうです。
基本的には神秘攻撃が中心。BSも豊富です。回避能力は低く、巨大で攻撃力が高いことが取り柄です。
●フェデリアの海域
カムイグラより出発し、海洋王国へ向かう途中。嘗ては此の海域にリヴァイアサンが存在しました(現在は封印されています)。
静寂の青の名にふさわしい雰囲気です。海洋王国の貿易船に随伴(小型船の貸し出しも可、貿易船に乗ることも可能です)し、『汀鳥』の出現に備えて下さい。
貿易船の乗組員の大半はコンテュール家が派遣した者です。操船はある程度は長けています(ただ、図体がでかい船ですので、攻撃を細かく避けて!などの指示には従えないでしょう)
●カヌレ様
貴族派筆頭ソルベ・ジェラート・コンテュールの実妹。カヌレ・ジェラート・コンテュール。
好奇心旺盛で兄そっくりな顔をしていますが海種とギスらない海洋王国のムードメーカー。貴族達の中では通称『緩衝材』
何時も冒険譚を聞かせてくれるイレギュラーズの事が大好きすぎて、仕事を頼んだ割に心配為ています。無事に帰ってきたらお茶会を一緒にしたいそうです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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