シナリオ詳細
甘く溺れるチョコレート・ホテル ~ロベリアのグラオ・クローネ2021~
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●甘美な毒は過ぎ去って
「……おかしい」
廊下を歩きながら『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)は疑心暗鬼になりながら図書館の廊下を歩いていた。
もうじきあの日――グラオ・クローネがやって来る。
去年はお世話になっている特異運命座標にチョコレートを貰い楽しい祝いの雰囲気を味わったと同時に、地獄のような体験もした。
同僚の『境界案内人』ロベリア・カーネイジが毒入りチョコを配ってまわり、少しでも被害を減らそうと赤斗は奔走したのである。
「まるで嵐の前の静けさだ。今年もきっと、彼女が恐ろしいチョコを用意してるに違いねぇ」
「ねぇ。その"彼女"というのは誰のこと?」
頭の中で噂をすれば、当人のご登場である。背筋にいやな汗が流れるのを感じつつ、赤斗は誤魔化すように咳払いをした。
「あー、ロベリア。今日は休暇じゃないのか?」
「えぇ。異世界で今年のグラオ・クローネの準備をして来たところよ」
――やっぱり、何かこさえて来やがった! しかも今年は異世界まで巻き込んで!!
「いいかロベリア。去年は少しの騒ぎで済んだが、今年は毒入りチョコをを配ろうなんて――」
「何を言ってるの? 配らないわよ」
さらりと真顔で返すロベリア。これには流石に赤斗も面食らう。
「じゃあ準備したって言ったのは嘘か?」
「配るのを止めたのよ。だって去年、みんなの迷惑だからお菓子作りは止めてよねってハッキリ言う子もいたもの」
ロベリア・カーネイジは歪な愛を持つ女だが、特異運命座標には協力的である。彼ら彼女らが望む事で、己の意志に反しないのであればアッサリと受け入れるのだ。
「けれど、折角のお祝いに何も思い出が無いのは寂しいでしょう?
だから今年は、特異運命座標に"なって貰う"事にしたのよ――チョコレートに」
●ようこそ、チョコレート・ホテルへ!
まどろみの縁から意識が浮上する。目を開ければ眼前には見知らぬ天井があり、見回してみればどうやら、洋風ホテルの客室で。
「ここは何処だ? 俺はさっきまで、ロベリアと話していて、その後……どうしたんだったか」
疑問は尽きないが、何だか妙な胸騒ぎがする。赤斗は急いでここから立ち去ろうと客室の外に一歩踏み出し――「カチッ☆」という古典的なスイッチの音を聞いた。
「うわあああぁぁーーーー!!!」
それから先の事はもう、細かくは覚えていない。
チョコレートの洪水に押し流され、漂着した先でチョコレートのスライムに捕まり、逃げ切ったと思えばまた驚異が迫り――十重二十重に巡らされた難易度辛口のチョコレート・トラップが、休む間もなく赤斗を襲う!
「ううぅ……何なんだ……。こういう汚れ役は蒼矢の仕事だろ……」
チョコレートの満たされた沼で身動きが取れなくなっている赤斗を、触手うごめくチョコレート・モンスターが引っ張り上げる。
そいつの飼い主は勿論――皆さんご存じ、ロベリア・カーネイジだ。
「あら。もう抵抗しないの? あっさりチョコまみれになったわねぇ」
「やっぱりお前さんの仕業かロベリア。特異運命座標にチョコレートになってもらうっていうのは、もしかして……」
「そうよ。チョコレートになった特異運命座標を私が味わう事にしたの」
「思考回路が完全にオッサン入ってんじゃねーk……うぶごぶおぶっ!?」
触手にぽーいと投げ飛ばされ頭からチョコレートに突っ込んだ赤斗をよそに、ロベリアは鼻歌混じりに廊下を歩く。
「さて。まずは偽の依頼を図書館に貼り出しましょうか。サプライズは大事よね」
- 甘く溺れるチョコレート・ホテル ~ロベリアのグラオ・クローネ2021~完了
- NM名芳董
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月08日 17時00分
- 章数1章
- 総採用数19人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
「おいアンタ、大丈夫か?」
声の方へ振り向けば、甘い香りが頬を過ぎる。聞けばこのチョコまみれの御人、境界案内人の赤斗というのだとか。彼曰く、此処にはわたしを脱がせて来ようとする悪辣な魔物達が潜んでいるのだとか。つまり、それは――嗚呼!
「魔物はわたしに気があるということですね?」
「えっ、いや確かに全く無いとは言いきれんが――」
「まあまあ、なんて大胆な方なのでしょう♡」
鋼のメンタルあってこそのブライド系美少女。怯えるどころか嬉しそうな澄恋の様子に、流石の赤斗も開いた口が塞がらない。
「襲われちまうんだぞ。怖くねぇのか?」
「求められることは嫌いではありませんからね、積極的うぇるかむです!♡」
さてさて、そんな訳で始まりました魔物探し。ひとぉつ、ふたぁつ、お部屋をまわって。
「旦那様つくーろー♪ どあを開けてー♪」
――べちゃっ!
「!? ……ぷはっ!」
「澄恋! 怪我は無――」
「あ゛あ゛あ゛わたしの白無垢(ウン百万GOLD相当)がちょこまみれにィ゛!!」
何とまぁ、先刻までの上機嫌が嘘のよう! 怒り狂う姿はまさに修羅か羅刹か。
「誰ですか扉に溶けた大量のちょこの罠仕掛けやがった輩はァ!
黒板消しじゃないんですから!!
こういうのは脱がされたあとに適量のちょこを垂らすとかじゃないんですか!?」
許せねぇ…覚えてろよ……。
毒づく澄恋を見守りながら赤斗は思う。あの白無垢――茶色の次は赤に染まるぞと。
成否
成功
第1章 第2節
だまされただまされただまされただまされただまされた!!
「なによ、チョコレートホテルって聞いたからきっとチョコが食べ放題なんだと思ったのに何よこれ!?」
ラッキーガールと呼ばれる程の強運の持ち主とて、全ての危機を躱しきる事は難しい。
例えば――目の前に迫るチョコまみれのゴーレムとか。おまけにこいつ、京の服を脱がせる気満々である。
「こんっのスケベめ、蹴りっ蹴りっ蹴りっ!!!」
ゲシゲシと容赦なく蹴り払い、怯んだ隙にまた逃げて。一度撒いてみたものの、騒ぎすぎたか廊下の前後にチョコゴーレムが出る出る出る出る!
「いつの間にか増えてるし! こうなったら力の限り暴れてやるからな!」
両手両足に光が帯びる。膨れ上がる力を感じ取り、ゴーレム達が怯んだ――刹那。
「ぶっ飛べぶっ飛べぶっ飛べぇえ!!」
縦横無尽、無差別に乱れ飛ぶ衝撃波!
魔物を砕き、生き残った一体には鋭く足が振り下ろされる。
「剥げるものなら剥いでみろ、こいつがアタシの自慢の生足だあ!!!」
ガコーン! ……べちゃっ!
「あっ」
原材料がチョコレートなら、足で砕けば汚れてしまうのは必然で。
「うう……チョコに汚された……」
こっちは真っ二つにされたんですがー……と言いたげなゴーレムの視線に気づかず、京は廊下を駆け抜ける。
「おぼえてろよー、アタシのパワーが戻ったらこんなもんじゃないんだからなー!
チリも残さないんだからな、ばーかばーーか!!!」
成否
成功
第1章 第3節
「チョコレートホテルでお菓子食べ放題、悪くないね。と、思ってたんだけど……」
「心配してついて来たらKONOZAMAだ!」
迫り来るチョコレートの軍隊ガニを一閃し、史之は睦月の手を引いた。
「変な罠は沢山あるし、やたらカニが追って来るしで訳が分からないよ! とにかく外に出よう。俺から離れないでね、カンちゃん」
「はーい」
話を振られた睦月は返事を返すが、実のところ困ってはいない。
(お化け屋敷みたいで楽しいし、しーちゃんが恰好いいし……僕得な世界だよね!)
長い廊下をひたすら進み、階段を見ては駆け下りて、出口まであとどれ程だろうと史之が考え始めたその時。
「ドラマティックな逃避行に溺れる2人」
「違う!!」
「えー。合ってる事にしようよ、しーちゃん」
2人の前へ立ちはだかったのは、普段味方である筈のロベリアだ。
「ロベリアさん、何が起きてるの? そのラスボスの風貌は何事なの」
「私はただ、背中を押しただけ。彼ら――『身のほじり方が雑で食べ残しが結構あるまま捨てられた蟹』の怨念たちのね!」
何という事でしょう。グラオ・クローネの蟹パーティーがこんな事態を招くなんて!
「そんな馬鹿な、あの時は確か、食べきれなかった身も綺麗に使うつもりで、カニ雑炊に再利用までちゃんとしたのに――」
史之に一瞬、動揺が走る。されどその一瞬は付け入れられる隙になった。追いついたチョコガニが鋏を開くと、そこからチョコレートの触手が覗く!
「しーちゃん!」
「――ッ!」
ビシュッ! と蛇のように伸び、史之へまとわりつく触手たち。
「やめろ、脱がすな!まとめてぶった斬るぞ!」
彼の抵抗を気にする事なく、触手は服の上からずるずると史之の身体を這いずりまわり――より深くを探ろうとベルトへと伸びる。打刀『忠節』を手にした腕は、振り下ろす事は困難で。
しかしその状況も史之の策た。
(うう、体中べとべとしてきもちわるい。でも、カンちゃんのためなら仕方ない……)
端くれとはいえ武家の矜持。睦月を守るためならば己が犠牲になる事も厭わない。
(もし、このまま俺がやられたら……ロベリアさんの玩具にされるのか……玩具……待てよ?)
「ひょっとしてロベリアさんって俺より年上? 付き合ってください、年上の彼女、常時募集中です!」
「なんでロベリアさんを口説いてるのしーちゃん!?」
「俺、料理も家事も上手いほうだと思うから悪くない物件ですよ!」
「……なんて史之は言ってるわよ、睦月」
「しーちゃん、僕の幼馴染だよねえ? 僕本家だよ?神様だよ?僕が一番だよねえ?
――彼女なんか作ってる暇ないよねえ?」
「あっちゃ!?」
ばしゃーん!
睦月が爽やかな笑顔と共に殺気めいた圧を込め、熱々のホワイトチョコレートを史之へぶっかける。面白そうだとロベリアまで加勢しはじめ、現場は史之の悲鳴が響く地獄と化した。
「せめて普通のチョコにして! 白は……白は絵的にまずいからーー!」
成否
成功
第1章 第4節
「ううん……? 何だ此処?」
意識が現実へと引き戻されるうち、青燕は事の成り行きを想い出す。依頼で境界へ渡った筈だが、請け負った内容と周囲の景色が一致しない。
「もしかして拉致られた系? でも、まあ縛られたりとかしてねぇし何とかなるだろ!」
そこでふと、他にも困ってる人が居るのではと思い至る。試しに人助けセンサーで探りを入れてみると――感じ取れたのは声なき悲鳴。
「待ってろ、すぐ助けに行く!」
広げられる大翼。狭い室内では十全に飛べないが――助けを求める声がある限り、青燕は決して諦めない!
(息が、できな……)
チョコスライムに取り込まれ、溺れかけていた境界案内人の蒼矢。彼が伸ばした手を青燕が握り、力づくで引き上げる。
「しっかりしろ!」
「ぷは! た、助かった!」
弱った蒼矢を抱え、逃走を図る青燕。追っ手は追撃の手を緩めず、雨のようにチョコ弾が降る。
「危ねっ! チョコの敵とか聞いてね――」
べちゃっ!
「あぁっ! 大丈夫かい?」
「大した事ねぇ。甘いだけだ。甘くて、香りが強くて……」
顔面に直撃したチョコを拭ったまでは良かったが、頬がほんのりと赤く染まる様に蒼矢は思わずギョッとした。
(青燕の身体が熱い。ひょっとして今の弾、媚や――)
「はっ、わかったこれ洋酒入りだな!?」
「そうだね洋酒だね! 青燕くらい引き締まった身体の若い子に欲望ぶつけられたらオジサン壊れちゃうから……ちょ、待っ……アッ―!」
成否
成功
第1章 第5節
洞窟の外は美味しいものが沢山だ。前に異世界で味わった蜂蜜の池は格別だった。
だから『異世界でチョコレート食べ放題』の依頼だって、美味しい出会いがあるはずで。
「ちょっこれーと、チョコレート♪
……と楽しみに来てみたらなんだこれ!?」
「騙されたんだよ、俺もトストも」
魔物から逃れようとトストが逃げ込んだ客室には偶然にも先客がいた。
「君は確か、境界案内人の……」
「赤斗だ。気にせず先へ行ってくれ」
「構わないけど、君は独りで逃げられるの?」
「不可能だろうな。ただ、俺は境界案内人だ。特異運命座標を支えるのが仕事なのに、足手纏いってのは良くないだろう」
でも、とトストが口を開きかけた時だった。突然天井に穴が開き、ドウと勢いよく茶色い液体が降って来る!
「ッ!?」
「水攻めならぬチョコ責め!?」
チョコを外へ逃すべく赤斗がドアノブに手をかける。しかし扉は水圧で全く動かない。
(くそっ、このままじゃ溺れ――)
チョコの水位が身長を越える。息が出来ず意識が遠のき、もう駄目かと彼が諦めかけたその時――ぐい、と身体が引き上げられた。
「……ぷはぁっ!」
「固まる前に抜け出せてよかった……」
赤斗を助け出したのは勿論トスト。彼はギフトでチョコの中を泳ぎ、なんとチョコ責めのチョコが注がれた穴から上の部屋へ脱出したのだ!
「借りができたな」
「気にしないで。それにしても……チョコは美味しいのに、こうなっちゃうとたまらないや」
成否
成功
第1章 第6節
アルシィは戸惑いを隠せない。
境界案内人に泣きつかれ、真剣に引き受けたライブノベルの初依頼が……まさか偽の依頼だなんて!
「何なのここ……? ボクどうしてこんなところに……」
薄暗い見知らぬ客室。仄かに嫌な予感を覚え、彼女はこの場からの脱出を試みる。
(さっきから変な地鳴りがするけど、依頼内容の『魔物の討伐』とは関係ないよね?)
余計な事を考えつつ廊下へ出たのは失敗だった。
ドドドド!!
「音がどんどん近づいて……ッ!? うわぁ!」
地鳴りの様な低い音――その正体はチョコの洪水だったのだ!
廊下を出るなり巻き込まれ、抵抗する間もなく押し流されるアルシィ。
「――ッ!」
苦しさから逃れようとがむしゃらに伸ばした手は、何者かに掴まれて――間一髪と安堵の溜息をつく暇もなく、新たな責め苦が彼女を襲う。
「ゃ、なにこれ……っ」
彼女を助けたのはチョコの触手だ。おまけにその魔物は見知った人物が従えている。
「楽しそうね、勇者様」
「君は……」
「境界案内人のロベリアよ。依頼を受けてくれたお礼をしに来たの」
離してとアルシィが拒んでも、触手は知らぬ存ぜぬと服を剥ぎ、媚薬を含んだチョコを絡めて――。
「ゃ、そこだけは……! ボク、男だったかもしれないのに……」
「それなら私が女の子にしてアゲル」
「ひっ、ゃめ……あぁあぁんっ♡」
(ボクがチョコを食べてるのか、チョコがボクを食べてるのか。
――もう、どっちでもいいや……)
成否
成功
第1章 第7節
「そうか、あいつらは蟹パの時の怨霊か。事の発端は分かったが……」
「何? 赤斗さん」
「なんで俺まで巻き込んだ?」
答えは『そこに居合わせたから』だが、分かれ道で史之から離れず並走してくれるのが何とも真面目な赤斗らしい。
行く先の罠を刀で斬り払いつつ、史之は深いため息をついた。面倒事の種は蟹に加えてもう一つ。
「待てー!」
「待てと言われて待つ奴はいない!」
「それでも待つの! 絶対逃がさないから!」
子犬の様にきゃんきゃん吠えながらチョコレート銃を乱射してくる睦月である。
こちらも同様に『そこに居合わせたから』巻き込まれた人物がひとり。
「蒼矢さんもっと狙って!」
「えぇ、いいのかなぁ」
「勿論だよ! 僕から逃げるなんて絶対許さない。あと僕の目の前でよりによって女の人を口説いてたのも許さない許さない許さない。万死に値する!」
「睦月がそこまで怒る事をしたなら、まぁ」
「いいと思うか? あァ?」
赤斗に凄まれ固まる蒼矢。二人のパワーバランスが伺える瞬間だ。
それにしても、と史之は考える。
赤斗と蒼矢がどうかはさておき――史之も睦月もレベルの高い特異運命座標だ。互いにそれなりに体力がある上、先行する史之が行く先で罠を壊して走るものだから、当分収拾がつきそうにない。
(罠を残しておけば追手がひっかかるかもしれないけれど、カンちゃんがケガするのは……あれな気分だし)
「こうなったらあの作戦で行こう」
「史之、何か手があるのか?」
「名付けて――『動く壁作戦』!」
「ただの身代わりじゃねぇか!?」
「大丈夫。若干熱くて絵面が悲惨になるだけだよ」
赤斗さんがね、と付け加えられて今度は壁役が深いため息をつく。
「他に解決の糸口があるだろう。史之が素直に睦月への気持ちを伝えればいい」
「んーカンちゃんのことは幼馴染だし神様だから大事に思ってますけどぉ……それはそれとして俺はカノジョが欲しくて」
仕事とプライベートの分別をつけたい、という史之の主張に赤斗は一定納得していた。
主を守るのは仕事だが、共に過ごす時間が増えるほどにプライベートとの境界は曖昧になる。
例えば愛を囁くとして。それは仕事として主の心を守るためか、個人として好きだからなのか。
一方で睦月の悩みはシンプルだが根深い。
好きな人は独り占めにしたい。しかしどれだけ想っても、己の身体は男でも女でもないままだ。
「しーちゃんが僕を大事にしてくれるのは僕が神様だからで、もしもが起きてしまったら僕は普通の人になっちゃうから。
そうしたらしーちゃんから見向きもされなくなるのかなあ」
考えるだけで目頭が熱くなる。やがて睦月の頬を大粒の涙がこぼれ、うわあーんと泣き声があがった。
「ええー、泣くなよカンちゃん! それは反そ――」
「睦月」
動揺する史之。彼と睦月の間に蒼矢が突然割って入る。そしてハンカチを差し出しながらこう言うのだ。
「史之よりさぁ、僕と付き合わない?」
成否
成功
第1章 第8節
……そうか。カンちゃんに恋人ができれば俺の悩みも解決するのか。
これを機に、幼馴染だからってずるずる続けてきた主従関係も清算しよう。
俺はカンちゃんから離れたい。傍にいるだけで苦痛だから。
なのに……この釈然としない気持ちは何だろう。
「蒼矢さん、ぎゅってして」
「勿論、いいよ」
笑顔で応じ、蒼矢は包むように睦月を抱きしめた。優しい感触。それ以上の変化はない。
(体が変わらない。蒼矢さんは僕の運命の人じゃないんだ。……それに、やっぱり蒼矢さんはしーちゃんじゃない)
蒼矢からの告白を聞いた後も睦月の心は揺らがなかった。
「蒼矢さんは優しいね。こんな、どっちつかずの僕のために」
けれど、と睦月が唇を動かすのと史之が蒼矢へ声をかけるのはほぼ同時。
「ひとつ聞いてもいい、蒼矢さん?」
「何だい史之」
「寒櫻院様のためなら命を捧げることも厭わない?」
史之の真剣な眼差しが蒼矢とかち合う。しかし蒼矢はゆっくりと首を横に振った。
「……できないなら、悪いけど認めるわけにはいかないよ」
「過保護だねぇ」
「過保護で結構」
己の側に引き寄せて庇うように立つ史之。その横顔を睦月は頬を染めて見つめている。
ぞっこんだなぁとその様子を微笑ましく思いながら、蒼矢は肩を竦めてみせた。
「僕はね、史之。睦月の事は大切に思っているけど、神様としてのお勤めの大切さは分からない。
人としても神様としても睦月のいい所を知っていて、どっちも守ってあげられるのは君くらいだと思うけどな」
(でも、しーちゃんは僕から離れたいんだよね)
睦月はそれを自覚していた。海洋の女王様が一番で、なのにずっと我慢して己に従い続けてきたのだと。……それでも、嬉しかった。
涙が後から後からとめどなく零れる。睦月は歪な思いのまま、史之の方へと手を伸ばした。
「ねぇ」
「なに?」
「僕は、しーちゃんにぎゅってされたい。他の誰にでもない、しーちゃんに」
「……抱っこね、はいはい。何回もしてきただろ?」
掻き乱される史之の心。手を伸ばし、睦月をしっかりと抱きしめる。
「これが最後でいいね」
(どうせ、何も変わらないよ。……ほら、『いつもどおり』だ)
史之が抱きしめても、蒼矢の時と同じ様に奇跡は起こらず、何も変化は起こらない。ひたすらに低い体温が伝わるだけで。
(運命の相手になることが叶わないなら、ただ忠を尽くすだけの機械になりたいよ俺は……)
「えへへ、あったかいね」
史之の気持ちを知ってか知らずか、睦月は涙で濡れた顔のまま幸せそうに笑う。
「そういえば言ってなかったね」
――愛してるよ、しーちゃん。
囁きは甘く史之の耳を掠め――睦月の身体が崩れ落ちた。
「えっ、ちょっとカンちゃん!?」
「あれ、なんか頭が、体が熱い。ふわふわする……」
告白したからかな、なんて睦月は笑うが、史之が額を重ねてみれば酷い熱だ。
(あぁもう、こんな状態じゃ……やっぱり心配になるじゃないか!!)
成否
成功
第1章 第9節
「この罠はこう仕掛けるのか? ロベリアのやつ、雑な説明書を寄越したな」
あちこちで阿鼻叫喚の悲鳴があがっている頃、希はステルスとギフトを駆使して気配を消し、ある人物を尾行していた。境界案内人の黄沙羅である。
(こいつ怪しい……さては一枚噛んでるね?)
「この液体を400ccか。ビーカーを忘れたな」
(なるほど、あのチョコレートを食べるとヤバイ、と……。
戦闘力はどの程度のものだろう……。殺すのもマズイよね……よし)
作業に集中している黄沙羅の背後へ、希が呼び出した死神の魔手が伸びる。
目には目を歯には歯を、触手には触手を!
(【万能、怒り、足止め、飛】……自分の仕込んだチョコレートに突っ込んで自爆しろ!)
「こんなにアッサリ魔物という物は出来るんだな。それにしても疲れ……はにゃぅっ!?」
よほど不足の事態だったのだろう。気が抜ける声と同時、ばっしゃーん! と派手な音がした。
「よしこれで罠は増えない、一件落着――っ!?」
身体じゅうチョコ塗れになりながら黄沙羅が半泣きで希の腕を掴む。
「いつも君はそうだ。僕の邪魔をして……そんなに僕が嫌いなら、好きになるまで抱き潰してやる!」
「!? 怒りながらおかしくなってる!?」
……もごもご。口にチョコを突っ込まれ咀嚼すると、成程。おかしな薬品で気分がやたらと高揚する。
「もうこうなったら……せめて道連れに……骨を切らせて骨を断つ」
「希、僕を好きになってよぉ!」
成否
成功
第1章 第10節
「ほう……妾を異世界に招待しておきながらこのような所業…ロべリアめ、余程お仕置きされたいと見える」
瑠璃が目を覚ますと、そこは既にチョコレートの触手まみれの罠部屋だった。差し詰めこれは『日頃のお返し』という奴だろう。
「よいぞ、疾く抗ってみせよ。もしかしたら妾も屈するかもしれんしよなァ?」
(そろそろ瑠璃は罠にはまった頃かしら?)
犯人は必ず現場に戻る、とはよく言ったものだ。
部屋の様子を伺おうとして、ロベリアは中へ引きずり込まれた。
「きゃあぁ!?」
足を掴み、這う触手は――ロベリアがけしかけた筈の魔物である。
「まさか乗っ取られるなんて……」
「妾とて黙ってやられる訳にはいかぬわ。さあ、お返しだ……甘美な快楽の海に沈むがよい!」
展開される吸精結界にロベリアの身体がビクンと跳ねる。チョコに濡れ、快感の波に蕩けながらも聖女は抗おうと首を振り。
「ひぃ、っぐ♡ ……お断り、よ……! 今日は私が食べる番、なんだからぁっ♡」
「クハハ! 妾は甘い物は好きでな……チョコを貪るのもまた一興よな?」
欲望に塗れた貪り合いはやはり瑠璃の方が一枚上手だが、ロベリアもまた、芯まで身を委ねようとはしない。気を失い眠る聖女の髪を撫で、瑠璃は笑う。
「なあ、ロべリアよ……妾との戯れは愉しかったかェ? 汝はもっと欲に身を任せても良いのだぞ?」
その歪みも愉悦として快楽に身を任せ……堕ちてゆく…嗚呼、まさしく甘美な味よな?
成否
成功
第1章 第11節
「……やっぱりね…こんな事だと思ったわ」
ロベリアの依頼だ。チョコレート食べ放題なんて美味しい話――絶対裏があると決まってたのに!
すでに何度か罠にかかり、チョコ塗れになりながらシオンは溜息をつく。
「HAHAHA! いやー!まさかボク達がこんなにチョコ塗れになるなんて……これってアレかな?」
突然、セキトからヒナゲシが降りる。シオンの手を取り間近に寄って。
「『バレンタインのプレゼントはチョコなボクDAZE♡』ってでもやればいいのかな! タハ―!テンション上がる―!」
「ちょっ、無駄にときめいちゃったじゃない、この馬鹿親!」
常識人は自分だけだと思っていたのにと頭を抱えるシオンへ、追い打ちのようにロベリアが呟く。
「愛し合う二人の乙女」
「だZE!」
「違う!!」
肯定と否定が同時に返り、悪戯な聖女はクスクスと笑った。弄りはともかく"アレ"を渡すなら今がチャンスだ。シオンは荷物を漁り、突き出すようにある物を差し出す。
「ハァ……疲れた…さっさと用事済ませるわよ。ハイ、ロべリアさん」
「ボクからも、グラオ・クローネのチョコをドーン!」
義理チョコと念を押すシオンのチョコレートは手の込んだ手作り品で、ヒナゲシからのチョコレートはとにかく派手だ。無駄に装飾過多なハート型チョコは見る度に目を楽しませてくれる。
「シオン、ヒナゲシ。……ありがとう!」
花のように笑い、2人を抱き寄せて頬へ優しく口づける。その時の優しさだけは聖女の名に相応しく、甘いお返しにシオンは少し驚いた。
「よかった。てっきり『私達をチョコ塗れにして食べる(意味深)』をされるのかと……」
「シオンみたいに純粋な子は、少しずつ味見して堕とした方が可愛いもの」
「その気持ちめっちゃ分かるZEー!」
「可愛くないし、分からなくていいからね!? そもそも、いつもお世話になってるお礼なだけで他意はないんだから――きゃあ!?」
ツンとして言い訳を早口で語るシオン。彼女の首根っこを突然掴み、セキトの上に乗せたのは言わずもがなヒナゲシだ。
「よーし、この勢いで蒼矢君や赤斗君、黄沙羅ちゃんにも(無理やり)チョコを食わせるぜ!
ボクはやるぜ!チョーやるぜー! ……という訳で、セキトGO!」
ホテルの廊下を疾風のように駆けるセキト。暴走のスイッチが入ったヒナゲシは、もうシオンでは止められない!
「最後に言い残しとくけど! べ、別に、いつもお世話になってるお礼なだけで他意はないんだからね! 他の境界案内人達にもあげるし、何なら馬鹿親達にもあげたんだから……勘違いしないでよねーー!」
「カッカッカ! いやぁ元気で何よりだ。ヒナゲシ、シオン! 後で俺達もお祝いなー!」
2人と一頭が消えていった方へボーンは声を投げかけて、さてとロベリアに向き直る。待っていた彼女は、何故かムッとしてご機嫌斜めだ。
「おいおい、どうしたよロベリアちゃん。何かマズった事でもあったか?」
「低級な魔物だからって、魔王の力で全てあしらって来たのね」
ボーンの身体はチョコの染みひとつすら付いていない。それでかと彼は合点がいって、骨の頬をカリカリと掻いた。
「態々俺を骨チョコにして美味しく召し上がろうとしてくれるのは嬉しいんだが……先にこっちの用事をすまさせて欲しいと思ってな」
「用事?」
「いつもありがとうな、ロべリアちゃん。これは俺からの気持ちだ、受け取ってくれ」
取り出されたチョコレートクッキーを受け取ると、ロベリアは目を瞬かせる。
「ボーンが作ってくれたの?」
「シオンに教えて貰いながらな。クッキーは苦手だったかい?」
「あのね、ボーン。クッキーを贈るのって『友達でいよう』っていう意味なのよ」
つまり遠巻きにお断りのサインなのである。しまった、と硬直するボーンの前に、今度は小さな小箱が取り出された。
「今年もくれるって思ってたから、私も準備しておいたの。ボーンにはマカロン。ヒナゲシさんとシオンさんにもチョコがあるのに、渡しそびれたから……後で渡しておいて」
毒は入れ忘れたわ、と素っ気なくそっぽを向くロベリアは、よくよく見れば耳が微かに赤い。
「因みにロベリアちゃん、マカロンを贈る意味は――」
「それより! 今年も"もうひとつ"くれるんでしょう?」
楽しみにしていたとせっ突かれ、ボーンはヴァイオリンを現わした。
聖女が歌い、魔王が奏でる。二人の旋律は出会った頃より甘く、深く――。
成否
成功
第1章 第12節
「中ボスって雑務が多いんですねぇ?」
遭遇者との対戦に罠の設置、魔物の生産――黄沙羅は律儀に全てをこなしていた。理由はロベリアと取引をするためというのもあるが、もう一つ。
「強い特異運命座標とのコネが欲しい。戦場の管理者であれば、その判断が効率よく下せるからね」
「クヒヒ! いいですねぇ、とても狡猾です!」
「そう言うあやめは、退屈してない?」
手伝ってくれる分には嬉しいが、彼女にメリットがあるとも思えず黄沙羅が問うてみると、あやめは調子よく理由を語り出す。
「17さんはうちの奴隷、すなわち家族ですからね! 家族がお世話になってる方をお手伝いする事は人の世の摂理ですよ、ええ」
「お待ちください、あやめ様」
凛とした声がその場に響いた。先程まで2人の会話を聞き流し、魔物の調教に勤しんでいた筈の17が振り向く。
「確かに私は貴女の奴隷ですが、それは貴方のお兄様に多大な借りがあるからですわ。決して家族ではありませ――ッ、あぁっ!」
反論は最後まで紡げる事はなく。鋭い痛みに17がぐらつき、その腰を黄沙羅が抱き寄せる。振り下ろしたばかりの長鞭の柄で17の顎を上に向かせ、黄沙羅は嗤う。
「主人の発言に水を差すなんて、君も偉くなったものだ」
「それは、っ……ぁ」
「お仕置きが必要だね」
名目は『お仕置き』だが、これは黄沙羅なりの労いだ。17が吐く吐息は甘く、身体をまさぐられ喘ぐ様をあやめは楽しそうに観賞し――。
「あー、そろそろ話してもいいか?」
赤斗は半眼になりながら3人へと声をかけた。
「し、神郷 赤斗!? いつの間に!」
「アホか! 最初から居たわ!なぁ、あやめ。ここで見た事は秘密にしとくから、鎖を解いてくれよ」
赤斗の首には赤い首輪。そこからリードの様に繋がる鎖はあやめがしっかり握っている。
「嫌ですよぉ、廊下に落ちてた赤斗さんを拾ったのは私なんですから! クヒヒッ!首輪、最高に似合ってます!ハイって奴ですよ!」
「――せ」
黄沙羅の声が聞き取れず、思わず3人が視線を向ける。
「そのゴミを殺せ、17」
「ご命令とあらば」
「待てぃ! 殺意高い恥じらい方するくらいならひと目の付かない所でやれよ!」
正論なのが余計に黄沙羅の羞恥を誘う。17が首を落とそうと刃を振り降ろした時――その貴族は現れた。
「オーホッホッホ! 蒼矢様、私が居ればもう大丈夫ですわ!」
「俺、赤斗なんですけど」
高笑いと共に現れたガーベラは、えっと思わず赤斗の顔を見る。
「蒼矢様にそっくりですわ!?」
(この常識的な反応、見た目は派手だがマトモな部類の人間と見た)
兎も角、求められたからには助けずには居られまい。身構えたガーベラへ、中ボス手伝いのあやめが不吉な笑みを見せる。
「さあさあ、媚薬入りチョコ触手さん! 出番ですよ!やっちゃってください!」
「うわあぁっ」
触手にもみくちゃにされる赤斗。襲ってきた触手を払いのける17とあやめ。
「あやめ様、この触手……味方に加害してばかりですわ」
「おっと。首輪に反応するように躾たんでした!」
敵が自滅している隙に、ガーベラはまず赤斗を助けようと触手に挑む。盾で己を庇いつつ、邪魔な触手を切り払う。
「……うう、私の盾がチョコ塗れに。チョコレートの魔物だなんて、全く難儀な物ですわ」
「チョコ汚れなんて気にしている暇がありますの? 貴方の盾は今から――貴方の血で汚れるのですから」
横合いから斬りつけられ、剣で受け止めるガーベラ。競り合う相手もまた同じ剣、ドラグヴァンディル。
「アハッ! ここであったが百年目ですわね、ガーベラ!」
「17と呼ばれてる貴女! 貴女に聞きたい事は色々あります」
「私は生憎、貴方の断末魔以外を聞く気にはなれませんの。さあさあ! このような場であれども絶望を始めましょう!」
対話を望むが、それ以前に負けたくない。ガーベラは挑発にのり、17と本気の斬り合いをはじめる。
そんな2人を見つめるあやめは、さてはて困った。どちらが勝っても首輪付きの赤斗は殺されるか、攫われてしまうのだから。
「ガーベラさん、黄沙羅さん。はいドーゾ!」
「どうぞって何を……ッ!?」
目にもとまらぬ早業でガーベラと黄沙羅にあやめが首輪を取り付ける。すると触手は場の全員を襲うべく、どんどこ増殖し始めた!
「何なんですのコレー!?」
そこから先は地獄絵図だったが――争いはうやむやになり、赤斗は命を取り留めたとか。
成否
成功
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
『ロベリアのグラオ・クローネ2021』開催です。チョコが作れないならチョコになってもらえばいいじゃない!!
●目標
チョコレート・ホテルを楽しむ(?)
●概要
ロベリアからごくごく普通の依頼を頼まれたつもりで異世界へ飛んだ貴方。
しかし目を覚ましてみると、そこは依頼と無関係なホテルの一室。そう……ロベリアに偽の依頼をつかまされ、罠とモンスター蠢くチョコレート・ホテルに飛ばされてしまったのです!
●異世界『チョコレート・ホテル』
その名の通りチョコレートの香り立ち込める怪しい雰囲気の洋風ホテルです。
十重二十重の罠とモンスターが迷い込んでしまった者をもてなします。
罠もモンスターも基本的に特異運命座標を死に至らしめるような攻撃はしません。
変わりにやたら脱がせようとしたり、溶けたチョコレートでずぶ濡れにしようとしてきます。やばい。
どさくさに紛れてへっちな薬の混ざったチョコレートもまぎれ込んでしまったそうです。やばい。
●書式
一行目:同行タグ(無い場合は空白)
二行目:本文
●登場人物
以下の人物はプレイングに記載すれば登場します。一行目に名前を記載した場合は同行者としてガッツリ絡みます。
『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
このチョコレート・ホテルのオーナー。特異運命座標がチョコまみれで気力を失った頃にどこからともなく現れて、美味しくいただこうと思っています。
『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
ロベリアの同僚。哀れにもチョコレート・ホテルの第一被害者になってしまいました。
すでにかなりチョコまみれで、半裸になるまでひん剥かれた状態でホテルから脱出しようと彷徨っています。
『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
赤斗によく似た顔の境界案内人。ロベリアにまんまと騙されてホテルに放り込まれました。
泣きながらチョコレート達から逃げ回っています。
『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
ホテルの雇われ中ボス。ロベリアとある条件で取引をし、モンスターをけしかけたり罠の再設置をしています。
●その他
桃色すぎるプレイングの時はよきにマスタリングする可能性があります。
このお話は一章完結ですが、代わりに何度参加しても問題ありません。
それでは、素敵なグラオ・クローネを!
Tweet