シナリオ詳細
再現性東京2010:うぇ~い、彼氏君見てる~?w
オープニング
●君の彼女さんはもう……人間じゃないんだ……
すまない……俺も手を尽くしたんだがどうしようもなかったんだ……
君の彼女さんが寄生型の夜妖に憑り付かれて暫く。
俺の病院で治療活動を続けてきたが……ついに今日、彼女の意識は完全に夜妖に……
人間ではなくなってしまった。
今は地下になんとか閉じ込めているが、もうすぐバリケードが突破される。
そうしたら彼女さんはきっと君を殺しに行くだろう……彼女さんは最期まで君の名を呼び続けていた。きっとその執着が君の下へと……
だが、させる訳にはいかない。
今から刺し違えてでも彼女を止めるつもりだ――けれど万が一がある。君は逃げるんだ。
もしも彼女さんが外に出ればきっと惨事が始まる。
この件は忘れて……どこか遠くで生きるんだ。
きっとそれを――『彼女さん』も望んでいるから。
●
「夜妖憑き……ていう言葉を知っているかな?
再現性東京の、特に希望ヶ浜内によく出没する怪異の事で――人や物に憑りつくのさ」
他国で言えば寄生型の魔物というのがイメージに近いだろうかとギルオス・ホリス(p3n000016)は言う。希望ヶ浜内で夜妖憑き問題が起きた際は、専門家として『祓い屋』という者達が活動しているのだが、今宵はイレギュラーズ達に話が回ってきた訳だ。
夜妖憑きは先述した様に人や物に憑依し暴れまわる者達。
その性質は様々であり、大人しくさせれば夜妖の支配から解放される事もあるのだが……
「今回はもう駄目らしくてね……とある人物に憑依した夜妖を取り除く事がどうしても出来なくて、ついに意識が完全に乗っ取られたらしいんだ。異形化した人物は治療施設を半壊させるぐらいには暴れ回るらしく、専門家の力が必要らしい」
「という事は……もう殺すしかない、と?」
「残念だけどそういう事だね」
目標は再現性東京内における小さな病院施設だ。
地上部分は一般的な病状の患者を診て、地下は夜妖絡みなど……『裏』の事情の治療などを担当していた場所らしい。件の夜妖憑きの人物も地下に運ばれ治療を試みられていたらしいが、ついぞ叶わず。
「地下から這いずり出て来ようとして来たのをなんとか現場の院長が食い止めたんだけど、目標はまだ生きている。負った傷を癒そうとしているみたいだね……現場は騒動で封鎖されているから、他の一般人の類は気にしないでいい」
が、注意点もあるという。
まず地下の電気設備は死んでいる。その為、灯りは必要だ。或いは暗闇を見通す手段か……
そして目標は件の夜妖憑きだけではないという事。どうもその『夜妖憑き』は殺した相手に更に伝播する力を持っている様で、暴れた際の犠牲者を数名、自身の配下の様にしているらしい。地下の見え辛い空間で複数の者達が襲ってくる可能性は常の注意を必要とするだろう――数は元凶の夜妖憑きを含めて10名程度。
だが付け入る隙もある。夜妖憑きは暴れた際に医者側の抵抗によって傷を負ったのだ。
その傷はそれなりに深く、まだ完治していないと思われる……
なるべく早くに発見できれば有利な状態で戦闘を始める事も出来るだろう――と。
「案外、思ったよりは情報があるな……? 地下で暴れたんだろ?」
「うん、実はね……この夜妖憑きが暴れた時、同時に映像がある人物に送られていたんだ。その時の映像から敵の属性などの情報が推察できたんだよ」
「映像?」
ビデオレターとでも言うのかな、とギルオスは紡いで。
「実は元凶の夜妖憑きは女性に憑依してたんだけど、彼女には結婚を約束していた相手がいたらしいんだ……彼は常に院長から情報を受け取っていたらしくてね。そして――これは『彼』からの依頼でもあるんだ」
もう人間ではない彼女を、終わらせてほしいと。
闘病に苦しんだ彼女を――どうか楽にしてほしいのだと。
- 再現性東京2010:うぇ~い、彼氏君見てる~?w完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
――もう救いようがない、か。
「専門家が言うんだ。間違いないんだろう、な」
依頼の病院。その扉を開きながら『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は言葉を零す様に。嘘でも間違いでもないのだろう……ああ、世の中そんなものだと分かっている。
何もかもにハッピーエンドが訪れる訳ではなく。
ありふれた事象としてこのような不幸も、ある。
「……割り切れちゃいるけど、億劫になるのは仕方ねえよ」
なぁ師匠――
瞼を閉じて虚空に呟く。再び世界をその眼に映した時には、迷いも躊躇もありはしないが。
……見つけた、件の地下への入り口だ。この先に――目標がいる。
「大切な人に一目会うことも叶わず。人として終わることも、赦されず。
どうして……その様な最期を迎えなければ、ならなかったのでしょうか。
他に何か道は……なかったのでしょうか」
「……マリア達に出来る、のは、疾く、務めを果たす事、のみだ」
暗闇を見通す目で血かを見据えながら『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は思わず呟かざるを得ない。彼女が何をしたというのか……どうして斯様な結末が、と……
それでも出来る事はもう討つことのみと『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は思考する。カボチャ型のランタンを翳し光源として――思い返すは病院の地図だ。これは事前に入手する事が出来た故に頭の中に瞬間的に記憶しておいた。
後はどこにゾンビ達が潜んでいる事か……あり得そうな場所を警戒しながら進む。
「彼女様に引導を。残された彼氏様の為にも、それが一番で御座いましょう」
「さて、問題は妖精があちらに見られていないかということですが……かといって灯りを無しにする訳にもいかず。なんとももどかしい次第ですね」
『宙狐』庚(p3p007370)は、光は周囲の者らの力を頼りにしながら己は周囲に霊魂が漂っていないかと――感応した者達から情報を得んと周囲を見る。同時にウルリカ(p3p007777)は『妖精』……それは光源代わりとなるユニットの事だが、妖精が逆にこちらを見る目印になっていないかと懸念する。
暗闇の中の光は目立つものだ。特に、潜んでいる者にとっては。
「彼女さんはどこでしょう? 病室、それとも……持ち物があった場所?」
こういう手合いは思い出の品とかに執着するものだと小説では読みましたが、実際どうなのだろうか。外に出れば彼氏の下へと往くと、たしかビデオレターでは推察されていた故、あながち間違いではないかと思考して……
その時、音がした。
何かが動くような音だ。これは……
「夜の病院ってマジ怖いよね、何か出そうでさぁ――って、はは。
マジで『何か』が出てくるのは勘弁してほしいよね」
『Adam』眞田(p3p008414)が見た先。
そこに居たのはゾンビの様な状態になった者達であった。
正確には夜妖。件の『彼女』に殺された者達が成り果てた、犠牲者。
「ああ……ねえ帰っていい? 女の子相手らしいから来たんだけ……やっぱだめ? そうだよね、ウソウソ。ちゃーんとやるよ。ま、こいつらを片さないと女の子に会う事もできないしね」
故に向かう。本来であれば『彼女さん』の方を優先したかったが……彼女よりも先に夜妖が出てきたのならば仕方ない。哀れな犠牲者たちは押しのけて――会いに行くとしよう。
「なるべくならこういう人達との遭遇は避けたいけど、仕方ないわね。
避けられないなら――押し通るだけだわ!」
故に『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)も意思を定めて敵を見据える。彼女もまたカボチャのランタンと、ファミリアーにより使役した動物にカンテラを持たせて光源確保。
往く。『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)も進み敵と相対し。
この悪夢を――終わらせる為に。
●
目の前に現れたゾンビの夜妖は一体。
止む無く交戦はするも、その間に探るのは『彼女』の位置だった。エクスマリアは優れし嗅覚にてまずはその眼前のゾンビの匂いを覚えんとする。
「ここには、あと、異なる夜妖である『彼女』しか、いない。嗅ぎ分ける事が、出来れば……」
それは捜索の役に立つ故に。地下である為か酷い死臭が籠っているが、しかし違う臭いあらば目立つものだ。
同時、彼女は瞳に魔術を込める。それは二人の友から学んだ波濤魔術と自身の瞳術の複合術式。視線を媒介とし『合わせ』る事によって対象の物質・精神両面から揺るがす攻性呪法だ――耐えられようか、生まれたての夜妖程度が。友らと結晶たるこの一撃を。
「もう一度立ち上がられても困ります。これが寝酒です――遠慮せずに、どうぞ」
次いでウルリカも爆弾を投じる様にゾンビ達へ一撃を。
仲間を巻き込む心配もなければ全力だ。必ず殺す勢いで仕留めに掛る。
歪なる生に良き眠りをと、寝酒にて誘う様に。
その身諸共――粉砕せん。
「悪いね。でも……彼氏さんの為にも心を鬼にしないといけないから、さ」
更に駄目押しが如く眞田の音色がゾンビ達の身体を振るわせ弾けさせる。
死体であろうと音楽を感じる事は出来るのだ――
本命の『彼女さん』を前に邪魔させる訳にはいかず。
「ふむ。近くにはおらぬ様ですね……やはり奥の方で御座いましょうか」
「待って。この先……動いてない夜妖もいるみたい。ゆっくり動いてやり過ごしましょう」
直後、霊魂からの情報を得つつ周囲を窺う庚。同時に、メリーが皆を手で制した。
敵がこちらに気付いていないと分かるのは、彼女の敵意を探る探知に引っ掛かりがないからだ。ゾンビ達の様な思考能力が恐らく薄いであろう者達に、敵意を上手く誤魔化す術があるとは思えない。
よって、わざわざ刺激させぬ様に進むのだ。最優先目標は変わらず『彼女』なのだから。
「……見てください。足跡、血の跡……この先に続いています。
やはり隠れているのでしょうかね。傷が癒えるまで……」
慎重に進んだ先。暗視の目に映る床の光景にアッシュは指を這わせていた。
何かが引き摺る様に進んだ跡が残っていたのだ。
ゾンビ達が殺害後暫くした後に誕生したのであれば……これは『彼女』のモノだと考えるのが妥当だろうか。まるで彷徨う様にあちらこちらへと右往左往している……これは、傷を癒す為と思ったが、むしろ……
「……或いは、此処を出たいと願った跡でしょうか」
血は乾いていた。あまりのんびりとはしていられなさそうだ。
彼女が万全へと至れば思わぬ苦戦をするかもしれないから。
往く。道中で再びゾンビの夜妖に会えば可能な限り即殺を心掛けて。耐久に無駄に優れる彼らは面倒ではあるが、少数であればさほど負傷する事もなく制圧できる故、戦闘自体は問題なかった。
ただ刻一刻と進む時計の針だけが気がかりで……
「――ここか。一番奥の部屋って言うのは」
その時、風牙が見つけたのは『手術室』と書かれた部屋だ。
情報によればここが一番奥であり、大きい部屋であるという……
ここまで『彼女』がいそうな気配はなかった。隅々まで徹底的に探した訳ではないが――しかし。
「やぁこんばんは! おっと彼女さんに夜妖もか~まぁいるっちゃいるよね」
眞田が扉を開ければすぐに確認することが出来た。
――『彼女』だ。ゾンビ達とは異なる風貌が、すぐさま目標であると悟らせる。
ここも電気系統が死んでいる、が。眞田の優れし五感は確実に『彼女』を捉えていたのだ。
もう人ではなくなった人物の気配を。
ただ本能のままに暴走する――夜妖を。
「一、二、三……と。まぁライブするにはそこそこ多い方かもしれないけど、聞いていってよ」
彼女さんを元気づける為に来たのだと。もうその耳が音色を捉えるか分からないが。
最後に聞いて行ってよ。俺こう見えてドラムやってんの。
「ロック好き? 一緒にノってくれると――嬉しいんだけどなぁ」
返答はない。
代わりに、威嚇するような金切り声を挙げて――飛び掛かってきた。
●
手術室の内部には複数のゾンビもいた。白衣を身に着けている様な様子から……元々はここの病院の職員だったのだろうか。
「やれ、なんとも切ない事ですな……既に死せる骸となってしまったのであれば、解放致しましょう」
このカノエめが、と紡ぐは簡易なる封印の一手。
それは動きを阻害する為のもの。確実に当てる為の撃に繋げる為に――庚は施す。
全ての後に必殺の終わりを齎そう。今度こそ不殺で必殺の狐さんなのだからと。
「会いたい人がいたんだろうな――でも、会わせてやるわけにはいかないんだ。
この病院から出す訳にも……いかない」
歯を食いしばり風牙は往く。高めた気をゾンビの夜妖諸共巻き込んで彼女へと穿つのだ。
中心点に投擲。爆散、その勢いは衝撃波となりて周囲にも襲い。
『――!!』
「ハハッ、元気だね彼女さん。そうだよ、やっぱり女の子は元気でなくっちゃ」
次いで叫び声を挙げた彼女に眞田が紡ぐは己が旋律だ。
圧倒的眼力が彼女を見据え、奏でる音が身を削り魂を削る。痛みが走る度に感じる物だ。
ああ――これが『生きている』って事だと。
どうだい彼女さん、君も感じているかい? 自分が今痛いって、生きてるって。
「そして、私達は貴女に死を届けにきました」
直後。痛みを訴える彼女へ接近するのはウルリカだ。
蒼き彗星が如く超速度にて。光に至る刃にて――その身を削る。
切り裂き、彼女の目をしっかりと見据えながら。
「不条理であろうとも……しかしこれ以外の道はないのです」
次いで今度は脇腹に抉り込ませるような一撃を。防御を掻い潜る一閃を彼女に。
さすれば溢れ出る血。それは呪い染みた彼女の怒り。
どうして私がこんな事に――なぜ――どうして――
「そういう、想いを抱いているのかも、しれないな……心は混沌と、している」
同時に彼女の心を読もうとしたのはエクスマリアだ。心を読むリーディングの術――彼女であった化物の脳裏にあったのは絶大なる嘆きと悲しみ、そして怒り……
言語化出来ない奔流だ。彼女の正気はない。狂気に呑まれ、確かに怪物と化していて。
「こう、なってしまった、とはいえ――愛するがゆえに、恋人を殺して欲しい、というのは、どんな気分なのだろう、な」
思うは依頼人の心情。化け物とは言え、彼女は確かに人だったのだ。
殺してくれと、紡ぐそれだけにもどれだけの葛藤があったのだろうか。
察しはすれど……しかし……
「一言でも、いい。どんな言葉でも、残したい思いは、拾っていく。何か、あるか」
自らに出来るのはこの程度だと。
瞳からの撃を紡ぎながら――エクスマリアは深奥に沈む『彼女』の残滓へと語り掛ける。
たった一言でも。たった欠片でも、依頼人に届ける事が出来れば……
『ガ、ァ――■■■ァアアア――!!』
されど儚い願いを掻き消すかのように彼女の暴走は圧を増す。
血反吐を吐き散らしながら全てを恨むかのように。ゾンビの夜妖と共に掛ける攻勢は凄まじく、彼女を抑えんとするゼフィラをも吹き飛ばして。吠え続けるのだ。
やはり、彼女を放っておけばやがて周囲を巻き込み危険を齎そう。
「だが、諦めんぞ、さぁ、海の奥底であろうと、引っ張り上げて、やる」
それでもエクスマリアは語り掛ける。彼女の回復を封じる術を講じながら。
たった一滴の意志であろうと掬えるかもしれないのだ。
今際の際に至るまで――諦めぬ理由にはならぬから。
「全く、治療に専念してるって事は多少知性があるのかと思ったけど……どっちかというと動物の本能に近い行動だったみたいね。まぁ人間みたいな知性で逃げ隠れされても困る所だったし、構わないけれど!」
そして同時にメリーは臆さない。踏み止まり、邪気を払う光にて敵の身を焼く。
彼女の暴走は激しいが、しかし『彼女』の下へ辿り着く事を優先していた為か――彼女の傷は完全には癒えていないのが功を奏した。動きはどことなく鈍く、鋭さを欠いている。膂力はあれどなんとも動きづらそうにしており。
「悲劇の最期は変えられない、此の不条理の定め……それでも、終わらせうる慈悲の道はあります」
直後、魔術を紡ぐのはアッシュだ。
混戦の状況に至る手術室――であればとメリー同様に敵のみを穿つ術を仕掛けよう。
地を這う雷撃であれば。蛇がごとくのたうつ術であれば可能なのだから。
だから。
「せめて安らかに」
もう貴方は誰も殺さなくていい。
「罪無き貴女が、安寧の眠りを得られますよう――祈っております」
射出した。
手術室を弾き回る雷の一閃。夜妖を灼く一撃が、全てを穿って。
『ゴ、ガ、ァ、ギィィィ!!』
「苦しいかい? そうか、そうだよね……安心しな。もう終わるよ」
更に眞田も続く。先程の激しい調べから、スローなリズムへと移行していた彼だが。
「……苦しかったなら、せめて最後は楽しく、ね」
再度のロックを。これは君を送る調律。これは君だけに送る――今宵の一時だと。
「ごめんな。あんたの想いと、思い出だけは、きっと届けるから。眠ってくれ」
そして弱り切った『彼女』へと風牙が突っ込んだ。
遠間から一瞬で間合いを詰めたその超速度に『彼女』は反応できていない。懐へと入られれば反射的に腕を振るって弾かんとするが――それよりも早く、勢いを破壊力に転換して風牙が打ち込む。
気を。誘爆させることで更なるダメージを与える内部への浸透を。
『彼女』が膝をつく。それ故に、ウルリカは。
「最後に何かありますか?」
問いつつ放つ必滅の一撃。
末期には正気に戻るかと――トドメの前にはそれでも尋ね。
「…………ぁ、ぁあり、がっが、と……ぉ……」
微かに聞こえた声。それは掠れる程の、風が靡けば消え失せる程の小さな声。
それでも確かに聞こえたとウルリカは頷き。
「――おやすみなさいませ」
慈悲たる一撃を彼女へと炸裂させた。
●
残るゾンビも一体ずつ殲滅するイレギュラーズ。
『彼女』と比べれば大したことはない。脅威がなくなれば、後は、と。
「せめて――何か、彼女の生きた証を回収できれば良いのですが」
「ああ。形見でもあれば依頼人経由で彼氏さんに渡してもらおう。
……せめて何か形に残るものがあればな」
ウルリカの提案に風牙は同調し、何かないかと捜索を開始する。
救いが無くても、せめて少しでも良き道を作れれば――それに越したことはないのだ。
指輪、衣服……夜妖の影響がないかだけ確認する必要はあるが、問題なければと。
「手遅れの恋人に死を、と頼んだ方の気持ちは、頼んだ方にしか分からない事でしょうが……せめて一助になれば幸いですね」
ウルリカの感情の動きは――鈍い。
それは彼女にとって元来のものだ。彼女の出生そのものが人間ではない故に、感情というものをあまり理解出来ていない。概念としてそういうものがある――とは分かっているが。
ただ。ぼんやりとした靄であろうと全く介さないという訳でもない。
回収を試みようとしたのも……もしかすればその一端かもしれず。
「――彼女様、おりますか?」
そして庚もまた別のアプローチを。
それは先程討った彼女の霊魂があればとする記録。
もう掻き消えてしまったかもしれない。それでも、もしかしたら在るかもしれず。
「遺す言葉はございますか? 私、ええ。こうケモナーの着ぐるみ(の人)で御座いますが――お人に言葉を伝える事になんら問題は御座いませんので」
問う。「彼氏さん」に遺す言葉を。
ビデオレターなどではない、彼女さん自身の伝言を。
自らが伝える事が出来れば――少しでも幸いであろうとかと。
天に昇る彼女に、静かに静かに問うていた……
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
彼女は止められて――きっと救われた事でしょう。
愛する者を手に掛ける事はなく……
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
地下の夜妖憑きを全滅させる事。
●戦場
とある病院の地下です。ここに務めていた者は夜妖の存在も知っていた様でした。
窓の類がないだけで、作りはほとんど上の階と変わり在りません。
後述する夜妖憑きの暴走によって非常に散乱としています。また、電気系統の故障が発生し、一切の灯りがありません。何かしらの照明手段を誰かが持っていた方がいいでしょう。
いくつかの通路と、小部屋が多くあります。
最奥には一番大きい部屋がありここに『彼女さん』がいると思われますが、確定はしていません。
●『彼女さん』
元々は一般人だったのですが、夜妖に憑りつかれて以降段々と正気を失い、最終的には完全に魔物化して暴走状態へと陥りました。辛うじて人の形を保っているように見えますが、まるで腫瘍の様に肥大化している各部が存在し、手遅れな様子が伺えます。
優れたHP、防技、EXFがあり、撒き散らす血反吐には『毒』『猛毒』『窒息』『苦鳴』のいずれかをランダムに付与する能力があります。(抵抗判定は入ります)
ただし本人が暴れた際の病院側の決死の抵抗により些か傷を負っている様です。
今現在はその傷の治癒に専念しています。
彼女の発見に時間がかかると彼女が万全の状態となってしまうでしょう。
●夜妖×10
『彼女さん』に殺害された者達が、新たに夜妖と成ってしまったようです。
まるでゾンビの様な状態で襲い掛かってきます。
HPやEXFに優れる反面、反応・AP・防技はそこまででも無いようです。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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