PandoraPartyProject

シナリオ詳細

世界を回せ。或いは、儲けて何が悪いのだ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界の真理
 生まれは貧しい農村だった。
 痩せた土地で汗水垂らして必死に育てた作物を、一口囓って不味いと告げたお貴族様は、家族の前に食い掛けのそれを投げ捨て踏んだ。
 土に塗れて、ぐちゃぐちゃになった野菜1つ。
 それは、自分と妹の1日分の食料に相当するものだった。
 踏んで潰した野菜の代価に、安い貨幣を放って寄越す。
 父と母は、ありがとうございます、と地に頭をこすりつけるようにして謝辞を述べた。
 その貨幣1枚で、家族4人が3日は餓えずに済むのだ。自分と妹だけならば1週間は生きていける。
 父や母はプライドなんて投げ捨てて、自分と妹を生かしてくれようとしたのだろう。
 彼はそれが嫌だった。
 幼い自分が、金のない自分が、家族に守られるしかない非力な己の身が恨めしかった。
 だから彼は村を出た。
 家族に腹一杯の食事を食わせてやるために。
 新しい衣服を、好きなだけ着せてやるために。
 隙間風の吹き込まない、綺麗な家に住まわせてやるために。
 寝る間も惜しんで金を稼いだ。
 頭を下げて、学び、働き、小さな小さな商会を立ち上げた。
 村を出て5年。
 商人としては駆け出しだが、極貧に喘いでいた頃からすれば格段に良い暮らしが出来るようになった。
 荷馬車に食料と衣服を満載し、彼は5年ぶりに故郷へ帰る。
 家族の笑顔のために。
 町に家を買った。商会の拠点だ。
 そこに家族を住まわせよう。妹にいい服を着せて、化粧もさせて、裕福な嫁ぎ先も探してやろう。
 金を得たことで、やっと自分の人生は始まったのだと、そう確信していた。
 意気揚々と村に帰郷した彼は、自身の家を訪れ、そして……。
「あぁ、アンタか。アンタの家族なぁ……つい先月、盗賊にみぃんな、殺されちまった。食い詰めてよぉ、盗賊になった連中がよぉ、飯ぃ探してここに来たんだ」
 食い物なんて、不味い野菜しかねぇのになぁ、と。
 そういった老爺の身体は骨と皮で出来ていた。
 誰も居ない家には少しの食料と、安い酒が用意されていた。
 帰省する自分に振る舞うつもりだったのだろう。
 家族が用意してくれたそれを、彼は泣きながらむさぼった。
 塩が効きすぎだ、なんて。
 そんな彼の零した言葉に、返事をくれる家族はいない。

 金だ。
 この世界は金が全てだ。
 金を持っている者こそが勝者だ。
 餓えないし、住処を失うことも無い。
 己に足りない武力など、食い詰めた傭兵や盗賊を雇えば補える。
 だから自分は、多くの金を集めよう。
 自分の命を守るため。
 守りたい家族はもういない。
 ならば、せめて。
 彼らの分まで贅沢をしよう。
 彼らの分まで長生きをしよう。
 それが商人、パンタローネの始まりだった。

●世界をまわせ
「さて……まどろっこしい話は無しにしよう。時は金なりとも言うしな」
 薄暗い酒場の片隅。
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)を前にして、高価なワインなど嗜みながらパンタローネはそう告げた。
 ところは海洋。
 港街の一角にある、金持ち御用達のバーである。
「普段であれば商隊規模で移動するし、護衛に盗賊など雇ったりもするのだがね。生憎と今回は1人旅だ。まぁ、他の大口取引に商隊や護衛をまわす必要があったからな」
「それにしたって商売をするのにたった1人とは。それほど荒事に慣れている風には見えないが?」
 じろり、と睨むようにパンタローネを一瞥し、ショウは紅茶を口へと運んだ。
 そんなショウに苦笑を返し、パンタローネは懐から1本の葉巻を取り出す。
「実のところな、今の儂は休暇中……この地にはバカンスで訪れたのだよ。まぁ、ついでに一儲けしようと幾らかの商品も運んできたがね」
 商隊を率いていては、休暇も十分に楽しめない。
 そういった理由もあって、今回パンタローネは単独で行動しているという。
「運んできた荷は全て良い値で裁けたからな。思ったよりも金が増えたので、帰りに幾らか品を買い付けて帰ろうと思っているのだが……さて、ここで1つ、困ったことがある」
「困ったことか。身から出た錆なのではないかな、ご老人?」
「ふむ。そういう見方も出来るかも知れないが、どちらかと言えば逆恨みの類だな」
 曰く、海洋で行われたとあるオークションにてパンタローネは目玉の品を競り落としたのだという。
 目玉というだけあって、それを狙う者は多かった。
 その中には、港街を縄張りとするギャングの頭目もいたらしい。
「競りに負けたことを恨んで、命を狙われていると?」
「そんなところだ。品物はオークション会場で厳重に保管されている。しかし、会場や、その周辺の市場にはギャングどもが大勢いてな」
 結果としてパンタローネは品物を回収に行けない状態となっていた。
「市場で買い物もしたかったのだがね。というわけで、腕の立つ護衛を雇いたいのだよ。あぁ、それと目利きも出来ればなおいいな。拠点は砂漠の方なので、海洋の品には詳しく無いのだ」
「護衛に、目利きか。さて……どうしたものかな。この町に住む荒くれ者を雇うのでは駄目なのか?」
「ふむ……難しいだろうな。ギャングどもの子飼いに“ヘルヴォル”という女傭兵がいるのだが、そいつがかなりの実力者でな。なんでも【神無】や【ブレイク】【必殺】の能力を持った大槌を得物としているらしい」
 そのほかにも、超遠距離からの射撃を得意とする狙撃手や、人混みに紛れての【毒】殺を得意とする暗殺者、こちらの位置を補足し【不運】を付与する観測者などが大勢、市場に放たれている。
「少なくとも15名、或いは、それ以上か……。あぁ、依頼内容は儂が買い付けと品物の回収を終えて乗船するまでの間の護衛だ。あまり目立ちたくはないのでな、供回りは3人までとさせてもらおう」
 

GMコメント

●ミッション
パンタローネの護衛を完遂する

●ターゲット
・ヘルヴォル
港のギャングに雇われている女傭兵、用心棒。
実力者であるようだが、性格や容姿、種族は不明。
【神無】を付与するアイテムと、武器として鉄槌を所持している模様。

巻刈:物至範に大ダメージ、ブレイク、必殺
 独楽のように回転しながら放つ殴打。
 本人曰く速さ×遠心力×重量=破壊力とのこと。

・ギャング構成員×15~
市場の各所に紛れたギャング構成員。
背格好、年齢ともにバラバラ。
狙撃平、暗殺者、観測者の3役で構成されている。

狙撃:物超遠単に中ダメージの狙撃
毒殺:神至単に小ダメージ、毒
監視:神中単に小ダメージ、不運

・パンタローネ
護衛対象。
砂漠の国に拠点を持つ強欲な老商人。
護身用の武器として拳銃を持っているが、射撃の腕には期待できない。
バカンスついでに商売や買い付けを行っているうち、港のギャングの恨みを買った。
身柄を狙われているが、本人は海洋の名物などを買い付けて国に帰還したいらしい。
買い物、オークション会場での品物受け取り、乗船までの間、彼を護衛することが今回の任務の内容となる。
※市場での買い物→オークション会場での品物回収→乗船、というスケジュールを予定している模様。

●フィールド
海洋の港街。
パンタローネの泊まっている宿から市場、オークション会場、港までの間。
市場や港は通行人が大勢。
オークション会場周辺には警備員が見回りや検問を行っている。
宿から市場を抜けてオークション会場までは1キロほど。
オークション会場から港までは400メートルほど。
位置関係はおよそ以下のようになっている。

       宿

       市場  
      
港      オークション会場 

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 世界を回せ。或いは、儲けて何が悪いのだ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
天翔鉱龍
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
カンティ=ビショップ(p3p009441)
鑑定司教

リプレイ

●巡り、巡る
 海洋。
 とある港の街の露店通りを、1人の老爺が歩いていた。
 蓄えた顎髭。質素だが、良い素材で編まれた衣服。
 一見すると単なる老爺のようにしか見えないが、ある程度の目利きが出来る者ならば、彼……パンタローネが只者でないことに気づくだろう。
 しかし、残念ながら物見塔の頂から、パンタローネを狙うその男には、そこまでの“目”は備わっていなかった。
 なるほど確かに彼は目が良い。その狙撃の腕は、彼の所属するギャング組織においても上位にある。だが、それだけだ。
 物事の本質を見抜く目と、そして異変に気付く勘に欠けていた。
「ボスは何だってあの爺さんを殺せなんざ言い出したのか。護衛も弱っちそうだし、楽な仕事だぜ」
 なんて、独り言ちて彼はスコープを覗き込む。
 瞬間、パキリと音がして彼の構えたライフルの銃身がへし折れた。
「……あ?」
「しばらくおとなしくしてくれるかな。なら殺さないよ」
 女の声だ。
気づけば、彼の隣には1人の女性が立っていた。褐色肌に黒い髪。長身痩躯のその女の名は『Stella Cadente』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。
「な、何も……」
「おやすみ」
 誰何の言葉は途中で途切れ、彼は意識を失った。

 露店通りの片隅で、パンタローネは小さな木箱を手に取った。
 一見すると何ら変哲のない木の箱だ。大した値段も付いていない。
「だぁから、幾ら装飾が豪華だからと言って、これは高すぎじゃないかって言ってるんですよ!」
「適正価格だ。値切りに応じる気はねぇぞ!」
「そこを何とか値切れないですかね! せめて半額でどうです?」
「値切るにしたって程があるだろ!!」
 帰れ帰れと腕を振る店主の男を『心臓もさもさらしいわ!?』ヨハン=レーム(p3p001117)は、いーと歯を剥き出して威嚇した。
「すまんな店主。迷惑料代わりに、こちらの箱を買っていこう。少々多いが、釣りはとっておいてくれ」
「……そのボロ箱か。ちと多く貰いすぎな気がしますが、いいんですかい?」
「構わんよ」
 と、そう言ってパンタローネは買った木箱を『鑑定司教』カンティ=ビショップ(p3p009441)へと渡し、踵を返した。
 元より悪く見える目つきをより一層凶悪に細め、カンティはくっくと笑いをこらえて肩を揺らした。
「……それでも随分、安いぐらいなのだからな」
「うふふ。流石はパンタローネさん。これを買うとは目が利きますね。個人的には目利き役のつもりでしたけど、私必要ありました?」
「儂は確かに目が利くがね。スキルなどという超常のそれに裏打ちされたものではなく、単なる勘と経験に過ぎない。万が一にも、良い品を見逃してはもったいないだろう?」
「鑑定眼とギフトのおかげで大抵の品物の価値はわかりますからね。大いに役に立ってみせましょう。あ、ほら、あれなんてどうです? 相場よりも安く売っていますよ?」
「……ふむ。悪くないな」
「商売の基本は安く仕入れて、ですよねパンタローネさん!」
「然り。良いところの育ちかと思ったが……なかなかどうして商人気質だな。ヨハン」
「ええ、ええ、正しい……実に正しい、金こそが力です。金があれば残飯を漁ることも、溝鼠のように野垂れ死ぬ事もないのだから。金をむしり取る技術さえあれば、喰われる側から喰う側になれるのだから」
 深く肯く聖職者風の女性が1人。『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)の“心の底から真にそう思っていますよ”といった風な表情を見て、パンタローネは「狸め」と楽しそうに呟いた。
「本当にそう思っているのかね?」
「……ふふ、なんて。ええ、ええ……この世はお金ではなく愛で回るべきなのです」
「……どちらが本心なのやら分からんな」
 と、そう呟いてパンタローネは肩を竦めた。

 パンタローネ一行を横目に見つつアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、目の前の女性に言葉を投げた。
 ところは薄暗い路地裏。アーマデルは影に溶けるようにして、壁に背を預け立っていた。
「パンタローネの買った品が必要なのでな。悪いが、ークション会場を出るまでは手を出さないでもらえないか?」
「あ? アタシはパンタローネの野郎を殺れりゃそれでいいんだ。何で待つ必要があるんだよ?」
「無駄な騒ぎを起こしたいのか?」
「……そうなりゃ、殺れる数も増えらぁな」
 鉄槌を担いだ長身の女性だ。パンタローネの暗殺任務を受けた女傭兵。名をヘルヴォルと言う。
 彼女が指を鳴らすと同時、路地の前後から黒服たちが姿を現す。
 パンタローネ暗殺のために遣わされたギャングの構成員たちだ。
 彼らにその場を任せると、ヘルヴォルは駆け足でその場を立ち去って行った。
「とはいえ、街中じゃ存分に暴れられねぇ。船着き場の方に行っておくかね」
 なんて呟いて、港へ向かうヘルヴォルが、空高くから自身を見下ろす『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)の視線に気づくことはなかった。

「俺個人としては金が全てとは言わんけど、暴力が全てなのも違うんだよな。一番はロマン!冒険心! 海洋魂!」
 ヘルヴォルの行き先を『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)へと通達し、カイトは再び哨戒に戻った。
 周囲へ視線を巡らせながら空を舞い、知り合いを見つけては手を振った。
「よぉ、何やってんだカイト! なんぞ知らねぇが、今日はあんま目立つ真似すんなよ。物騒な連中がうろついてやがる」
 知り合いの1人がそう呼びかけた。
 物騒な連中とは、ともするとギャングに与する者たちだろうか。
「よぉ、そいつらどの辺で見かけたんだ?」

 人混みを空より見下ろす小さな影。
「てか金持ち僻んで逆恨みとか美しく無いよね。金持ってる人が使わないと経済は回らないというのに」
 白い肌に、額の角。
 空色の髪を潮風に揺らす彼女の名は『無窮なる鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)。
 パンタローネ一行を空より見守りながら、敵の位置を仲間たちへと伝達する役割を担う。
「あ、モカ。右前方、100メートルほど先に観測者がいるよ」
『あいよ。すぐに行って、倒してくるさ』
 ェクセレリァスの【ハイテレパス】があれば、言葉を介さずとも意志の疎通が可能であった。

 冷たい風が黒い髪をゆらりと揺らした。
 携えた刀を引き抜いて、縁は口元に笑みを浮かべた。
「ギャングに目をつけられちまうとは、運のねぇ旦那だ。連中はおっかないぜ。縄張りで好き勝手したが最後、どんな手を使ってでも「借り」を返しにくるだろうさ」
「……へぇ、カタギじゃなさそうだが、何者だ? えらく詳しいじゃないか。なんでだ?」
「さーて、どうしてだろうな」
 宙を泳ぐ蛇を街へと飛ばしながら、縁はにぃと頬を吊り上げ笑ってみせた。
 一筋縄ではいかない相手と気を引き締めたヘルヴォルは、鎚を持つ手に力を込める。

●金と悪縁は世を巡る
 踏み込んだ足が地面を砕く。
 手にした鎚を振りかぶり、ヘルヴォルは呼吸を止めて身体を捩じった。
 まるで独楽のような回転。地面に刺した足を軸としたその技は、触れる者すべてを撃ち砕く威力を秘めていた。
 本人曰く、速さ×遠心力×重量=破壊力。
 掠めただけで、縁の胸部が深く抉れた。
 飛び散る鮮血。響き渡るヘルヴォルの哄笑。
「得物を振り回しやすい開けた場所を選ぶ筈とは思っていたが、ちと見誤ったかね?」
 鞘の鳴る音。
 刀を抜く勢いのまま彼の放った抜き打ちが、ヘルヴォルの足元へと迫る。軸となる脚を傷つけてしまえば、この回転も止まるだろう。
 とはいえ、しかし……その程度の弱点はヘルヴォル自身も承知していた。
「あめぇ!」
 身体を大きく傾けて、ヘルヴォルは地面を撃ち砕く。飛び散る瓦礫が縁の身体を激しく打った。

 怨嗟の声が、暗がりに響く。
 狭い路地を埋め尽くすほどの、無数の剣閃。それを操るアーマデルは、冷静に左右へ視線を巡らせ、ギャングたちの攻撃を避ける。
 ナイフが彼の腹部を抉る。
「妙だ……」
 攻撃の精度が悪い。なぜ? アーマデルの疑問は、けれどすぐに解消した。
 路地の先、暗がりからこちらを窺う黒服の男と視線が合った。その瞳は、妖しく赤く光って見えた。
「……そろそろオークション会場に着いた頃か。敵がここに集中しているようなら好都合だが」
 やりづらいな、とそう呟いたその直後、アーマデルの背に刃が刺さった。
 一時的な撤退を視野に入れたアーマデルだが、そうするためには敵の数が聊か多い。
 多勢に無勢ともなれば、いずれ個が群に押しつぶされることは明白。
 けれど、しかし……。
「よぉ、何を様子見してるんだよ」
 上空より飛来した赤い影が、アーマデルを“視て”いた黒服を貫いた。その手に握るは三叉の槍だ。
 鷹に似た顔をした戦士……カイトである。
「こ、こいつら強ぇ。何者だ……?」
「おい。あれじゃねぇのか。《ワダツミ》の元幹部がこの辺を巡ってるとかって……」
「あぁ? ワダツミじゃねぇよ。『風読禽』のカイトだ。知らんならモグリの雑魚だな! 覚えておけ!」
 まぁ、俺はオメーらのことなんざ忘れるけどな。
 そう言ってカイトが放った緋色の羽根が、黒服の腹部を貫いた。
 
 オークション会場から港へ向かう道すがら、ヨハンは空を見上げて呟く。
「荒事は嫌ですねぇ。仕掛けてくるとしたら警備の薄い所ですが……狙撃が怖いですねぇ」
「そのために雇ったのだから、しっかりと務めてもらわねば困るぞ」
「分かっています。ギャングなんかには抜かせませんよ」
 そういってヨハンは書物を開いた。その手はミトンに包まれている。
 瞬間、ヨハンを中心に展開された燐光が、仲間たちの身体を包む。
 【オールハンデッド】。名もなき兵士を英雄にさえ変えてみせるそのスキルによって、強化された【命中】があれば、敵を迎え討つのもスムーズに行えるだろう。
「目が良くなったような気がするな。ところで、そのミトンだが……」
「『くるみ亭』のミトンです。あげませんよ」
「……そうか」
 言葉を交わしつつ、進む一行。
 ふと、ライが足を止め首を傾げた。
「どうかしましたか?」
 そう問うたのはカンティだ。
 ライは進路の先、港に建てられた管理小屋を指さして、眉間に皺を寄せる。
「ああいう奴らは大抵洗ってねぇ犬の匂いか、それを誤魔化すどぎつい香水の悪臭がするんですよ」
「あぁ、敵さんですか……私にとっての本番は市場の方ですからね。この場はお任せしてもいいですか?」
 買った品を山を抱えたカンティは、嫌そうな顔をしてヨハンの背後に身を隠す。
 回復の支援を行う程度は可能であるが、元々カンティは戦闘を前提としてこの場に来ていないのだ。
 依頼書はしっかりと読もう。さもなきゃ知らずに死地に飛び込むことになる。
 とはいえ、しかし……。
「えぇ、えぇ、神の御心のままに……モカさんやェクセレリァスさんがすぐに来てくれるそうですよ」
 そう言ってライは自身の眼前に魔力を集中。
 空気の弾ける音が響いて、放たれるのは大口径の魔力弾。まっすぐに跳んだその弾丸は、小屋のガラスを撃ち砕いた。
 敵襲とみて飛び出してくる男たち。手にした銃をこちらへ向ける狙撃手がパンタローネに狙いをつける。彼を庇うべくヨハンが腕を広げて前に跳び出すが……。
「ここでなら民間人を巻き込む心配はない。そして、敵には容赦も加減も必要なし」
 上空より放たれた矢が、狙撃手の腕を貫いた。
 ェクセレリァスの存在に気付いた黒服たちが、頭上へ視線を向けた。
 狙撃手の構えた銃口が、ェクセレリァスを捉えるが……。
「いいの、こっちだけ見てて?」
「……あぁ?」
 ェクセレリァスの問いかけに、黒服たちは疑問を抱いた。
 遅い。
 あまりにも対応が遅すぎる。
「昔を思い出すな。組織の一員だった頃は、組織の要人の護衛も、敵対組織要人の狙撃もやったものだ」
 そんな様だから、モカの接近にも気づかないのだ。
 蹴刀を浴び、意識を失う男が1人。
 突如現れたモカに驚き、乱れた陣形。降り注ぐ矢を浴び、倒れる観測者。
 突き出されたナイフを手で払い、モカは男の喉を打つ。
 ステップ。
 土埃が舞い、モカの姿が掻き消える。
 短い悲鳴。意識を失い倒れる仲間。
 何が起きているのかなんて、誰にもきっと理解できない。
 高速で移動するモカの動きを捉えられる者はその場にいなかった。

「……今のうちに港へ向かいましょう」
「賛成。私もヨハンさんの意見に賛成です」
「それが神の導きとあれば……」
 パンタローネの護衛をしながら港へ向かう3人は、もはや戦闘の様子を一瞥さえしていない。モカとェクセレリァスに後を任せておけばいいと、信頼を置いた結果だろうか。

●巡って巡って、世界を回す
 港の空に暗雲が覆う。
 それを見上げたモカとェクセレリァスは、顔を見合わせ肩を竦めた。
 街を駆けるアーマデルとカイトの2人は、それを視認し足を止める。
 港ではヘルヴォルと縁が交戦中のはずだが……。
「何です、あれ? 雷雲? 何で急に……」
「縁さんですかね。巻き込まれたくないですし、一旦、止まりましょうか」
「……神もそう言っています。そんな気がします」
 カンティ、ヨハン、ライもまた顔を見合わせ、パンタローネを引き留める。
 何事だ? と、パンタローネが首を傾げた、その直後……。
 轟音と共に、空が光って、落雷が地面を激しく揺らした。

 折れた腕をだらんと下げて、縁は荒く息を吐く。
 全身に負った無数の打撲。
 皮膚が引き裂け、抉れた箇所も散見される。
「あんまりやり過ぎて、自棄を起こさせねぇようにしねぇと……と思ってたんだが」
「アタシが自棄なんぞ起こすかよ。心は熱く、頭はいつも冷静に、だ」
 相対するヘルヴォルも無傷ではない。
 全身には幾つもの裂傷。とくに深く斬られた額からは、夥しい量の血が流れその顔を朱に濡らしていた。
 互いに重症。
 体力も限界に近い。
 ならば、次が最後の一撃となるだろうか。
 ヘルヴォルは低く鎚を構え、腰を捩じった。
 一方、縁は刀を頭上へと掲げ、その口元に笑みを浮かべる。
「こいつは先達からの餞別だ。上には上がいるってな」
 黒雲に蓄えられた膨大な紫電が、縁の刀へと落下した。
 轟音。
 地面の揺れるほどの衝撃。
 駆けだしたのは双方同時。
 下段から上方へ向け、ヘルヴォルは鎚を振り上げる。
 上段より下方へ向け、縁は刀を一閃させた。
 質量でいうのなら、有利なのは鎚だろう。
 折った。
 ヘルヴォルにはその確信があった。
 けれど、しかし……。
 サクリ、と。
 熱したフォークでバターを切断するかのように、あっさりとヘルヴォルの鎚は切断された。
「な……ぁ!?」
 ピタリ、とヘルヴォルの眼前で紫電を纏った刀が停止し、前髪を数本斬って落とした。
 武器を失ったヘルヴォルは、その場にペタリと座り込み、ただ茫然と縁を見上げることしかできない。

「なんだ、もう終わったのか?  速さ×高さ×鋭さ=最強の俺が相手してやろうと思ったんだが」
「まだ残ってるかもしれない。油断するなよ。例えば私がもし狙撃を命じられた場合、どこに潜むか……」
 ヘルヴォルを見下ろすカイトを諫め、モカは周囲に警戒を飛ばす。
 カイトの手には三叉の槍。
 それを一瞥し、ヘルヴォルは悔し気に歯を食いしばった。
 ここでヘルヴォルが暴れたとして、すぐに鎮圧されるのが落ちだ。彼女は交戦的ではあるが、とはいえ所詮は雇われの身。
 任務とはいえ、命まで賭ける筋合いはない。
 チラと頭上へ視線を向ければ、そこには上空を旋回しているェクセレリァスの姿がある。
 ェクセレリァスに見守られながら、パンタローネたちは買った荷物を船に次々運び込んでいく。
「とはいえ、後は出航を待つばかりだろう?」
 潮風に暴れるフードを手で押さえ、アーマデルはそう呟く。
 出航を待つばかり、とそう口では言いつつも彼の手は剣の柄を掴んだままである。

「この度は世話になったな。特にそこの……カンティと言ったか。もしも興味があるのなら、ラサにあるパンタローネ商会を訪れるといい」
 好待遇で雇ってやろう。
 そう言ってパンタローネは目を細める。
 良い買い物が出来たのだろう。
 にぃ、と口角を吊り上げて、パンタローネは嬉しそうに笑うのだった。

成否

成功

MVP

カンティ=ビショップ(p3p009441)
鑑定司教

状態異常

十夜 縁(p3p000099)[重傷]
幻蒼海龍

あとがき

お疲れ様です。
パンタローネは無事買い物を終え、国へ帰っていきました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
また縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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