シナリオ詳細
蒼天下の影
オープニング
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黒影 鬼灯 (p3p007949)はポップコーンと共に練達の番組を見ていた。
何のことはない。偶々練達に依頼で訪れたら、約束の時まで時間があったのでそれまで暇を潰そうと思っていただけの話である。特に確たる何かを視聴しようと考えていた訳ではなく、ただ純粋に暇を潰す為だけの――
しかし。
「な、なんだこれは……!」
鬼灯は衝撃を受けた。
画面の中で動いているは忍者姿のアンドロイド達。
彼らが参加者を追いかけまわしている。一定のルールの下で、統制をもって。
捕まった者は牢屋っぽい場所に入れられて……
その番組の名は――
『以上、今週のTOSOTYUだったにゃ~♪ 来週もまた見てにゃ~♪』
●
「――という訳で模した訓練を暦で行いたいと思っている」
豊穣。暦の拠点へと戻った鬼灯は早速に内部訓練であの手法を取り入れようとしていた。
番組自体はコミカルというか……所謂バラエティ的な内容であった。
著名人らしき者達が逃げ隠れながら追跡者の手に落ちぬようにしつつ目的を達成する。
しかし視方を変えればこれは訓練となる。忍者集団である『暦』にとっては隠密といった類は日々高める必要があるものだし……伴って追跡、逃走、行いながらの戦闘と言った面も纏めて行えると思えば一石二鳥だ。
「ふむ。しかし頭領、具体的にはどのように?」
「うん。まずは水無月達は追跡側の役を担ってもらう。君達は本気で我々を追いかければ良い……水無月を司令塔として、他の面々は地上から追跡というような形だな。そして重要なのは追われる側であるが――武器は『最初』は無しだ」
「武器は無し?」
頭領たる鬼灯に問うたのは水無月。鷹であり相棒でもあるナナシを連れている暦の一人だ――彼と共にいる符を持ちし神無月は、鬼灯の返答に首を傾げて。
大前提としてこれはただ逃げるだけの訓練ではない。
逃げながらも追手を排除する事を目的としたものだ。しかしながら、最初から武器を逃亡側が持っているのでは単なる戦闘訓練とどう違うというのか――という話になってしまう。
故に捻りを付けよう。
鬼灯を含め逃亡側は最初は一切の武器を持たない。訓練場所のどこかに隠されているが故に、それを探し当てるのだ。無論、追手の暦達から潜みながらだ。追手側は武器を所持しており全力で来るが故に武器なしでは抗うのは厳しいだろう。
「一方で追う側である我々も、頭領達が武器を仕入れれば数的に不利になると……」
「そういう事だな。追う側が勝利したければ、逃亡側を一人でも多く武器を手に入れる前に見つける必要がある。一方で逃げる側も……一刻も早く武器を見つけねばジリ貧だ。或いは武器を見つけることが出来ても残存数が少なければ――結局同じ事」
「わぁ成程ねぇ。結構面白そうじゃない?」
次いで巨大な盾を持つ卯月、銃を肩に担いでいる霜月もまた訓練の内容を把握。
偶には趣向を変えてこういった事を行ってみるのも面白いものだ。追手側は高所からの偵察が可能な水無月を指示役として、卯月、霜月、神無月は逃走者達を追っていく。
戦闘自体は訓練の範疇で本気で行うが、あくまでも『訓練』であるので当然殺しは無しである。
戦闘不能となった時点で互いに戦線からは離脱するとしよう。
「舞台は近くに廃城があってな。なんらかの戦があった際に滅びて、そのまま放置されている場所らしい。範囲内はその城と、城下町とする――まぁ城下町や城と言っても小規模だし、丁度良いだろう」
一般人もいないしな、と鬼灯は述べて。
追手側は暦四人。逃げる側は鬼灯と、彼が連れてきたイレギュラーズの面々。
『どっちが勝つのかしら。楽しみね、鬼灯君!』
鬼灯の腕に収まる嫁殿の声を聞きながら、来たる訓練の開始に――備えていた。
- 蒼天下の影完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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うーん実にいい天気だと『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)は背筋を伸ばしていた。
「いいお天気! 追いかけっことっても楽しそうなのだわ!」
「ああそうだね。天候も穏やかで何よりだ……さぁ舞台の幕を上げようか」
腕に抱く章殿もご機嫌な様でなによりだ――
しかし一応訓練の枠組みである故に気は抜けない。
それに追いかけてくるのは暦の面々だ……彼らの実力はよく分かっている。
もしも手を抜けば彼らはすぐさまこちらの位置を捉えるだろう、と。
「いつも頼りになる連中とやりあったらどうなるか……意外と考える物だよね。思わぬ機会が巡ってきたもんだ」
同様に『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)にとってもこれは貴重な機会であった。暦、というかその頭領である鬼灯とは幾らか付き合いがあるが……暦そのものの実力をこうして間近に見る事が出来るとは。
「いつもとは違って、楽しそう且つ難しそうな内容……ですが訓練とはいえ、勝負ですし絶対に勝ってみせます! 手加減なんてしませんよー!」
「練達のテレビに影響されて、なんて鬼灯さん、案外テレビっ子なんだね?」
更に『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)も意気揚々と。『澱の森の仔』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は微笑み携え章殿と戯れている鬼灯に視線を送っている。ふふ、まぁなんでもいいよ。僕も楽しいのは好きさ。
ルフナがそうして思考していれば――時間だ。
暦は配置につき、イレギュラーズ達は街を駆け抜ける。
暦達が動き始めるまで時間がない。されど『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)には高鳴る鼓動が確かにあった。
「んふふ、噂に聞く暦の皆さんとは一度お会いしてみたかったんですよね……それに噂のTOSOTYUを模しているなんて、うんうんこれは楽しい訓練になりそうかなっ!」
彼は飛翔する。青空に昇る様に、風を感じて。
地上の障害物を活用するならまだしも、その様に飛ぶのは――発見されるという意味では明らかに悪手だったと言えるだろう。
だが。
「誰かが一肌脱ぐ必要があるのよ――ね、ハンスくん?」
そうではないのだと『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)達は分かっている。先程地上で目配せしただけで、その意図は誰にも分かっていたのだ。
一肌、って……ああ、なるほど。そういう事です――?
それなら……よし、ちょっぴり張り切っちゃいましょうか!
そう言って快諾してくれた彼はあえてあのような高度を取っているのだ。
目立つ事を厭わず一気に武器の所在を探す為に。
「どっかに纏まって置いてんのか? とーにかくさっさと探してみねーとな!
それにしても……へへ、あのナナシってヤツ、まさか同族とはな!」
こりゃいいとこ見せたいもんだぜ! と、『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は思わぬ同族との出会いに気分を高揚させていた。同族を前にして下手は打てないと――ハンスと同様にカイトも飛翔し、しかし彼は上ではなく下へ。
垂直落下して城下町の影へ。建物に潜って鷹の姿へと。
「おっと、やっぱりいやがったな――なぁお前さんら、最近忍者――黒っぽいおっきい人来なかったか? 顔も隠してる感じの、もしくはふつーのニンゲン……あ゛? 餌だぁ? ……パンくずいる?」
そして管理されていない、廃棄されている街だからこそ鼠など小動物は多くいるだろうと踏んでいて――確かにいるのだが、くっ、こいつら逞しいぜ……! こっそりパンくずを与えながら、動物達と意志を交わして。
「……お兄ちゃんたちが相手なら手加減なんて必要ないよね」
同時。別の家に潜むのは『Felicia』逢華(p3p008367)だ。
そろそろ暦の者達も動き出した頃だろうか? 一度見つかれば中々振り切るというのは難しいだろう……それに万一戦闘となれば一人では凌ぎ切れないと彼女は踏んでいる。故に基本は隠れる事を。
全力で行こう。これでも暦直属部隊神無月班所属兼元暗殺者。
「――小さいのは、結構色々出来て有利なんだよ」
影こそ己の生きる場所。
今こそ培ってきた技術の見せ所だ――お兄ちゃんたちに、是非とも挑んでみるとしよう。
●
「さて。頭領ら……どこへいる事か」
城にいるは水無月。鷹のナナシと共に――眼下を見据える。
が、真っ先に視界に入ったのはハンスの姿だろう。むしろあれは此方に見られる為の動き……確実に陽動だ。
しかし放ってもおけない。あのように全力で武器の探索に専念している者を見逃せばそれこそイレギュラーズ達が隠されている武器を見つける時が早まろう――故に。
「撃ち落とすよ……悪いねッ!」
水無月の伝達、により霜月の射撃が放たれる。
更にはナナシもハンスの下へ。その動きを捉えて強襲せん――
空を舞うハンスはなるべく直撃を避ける様に飛びまわる――霜月の射撃は正確であり、一撃躱そうと、二撃目が予測してたかのように当ててくる。躱した先に既に弾が飛んでいるのだ。
――だがやられっぱなしな訳ではない。ナナシによる牽制に邪気を払う光を放ちて――
「お手柔らかに、お願いしますっ!」
態勢を立て直すのだ。
持ち堪えてみせよう。自らが長く留まるほどに――他の者の危険がなくなるのだから!
「ふぅ、ハンス君が持ち堪えてくれている内に探したい所だね……っと」
上空の激戦。一瞬視線を送ったのはルフナである。
だがその時――感じた。元来より過敏な感覚が、近くに何者かの気配がある、と。
味方ではない。となれば暦の者か。
音、動き……それらから、追跡者から潜むような気配が見受けられない。え、匂い? いくら顔が良くても成人男性の集団の匂いを探ろうとするのは、ちょっと~。
「ふぅ、ふぅ……流石に私では急いで、とはいきませんね……」
ともあれ様子を見ていればそれは卯月であった。
大盾を持つ彼はそう素早い動きは出来ない。移動にだけ全力で割り振ってなんとか……という感じか。ここに来たのはルフナの気配を察したのか? それとも偶然か――?
偶然ならやり過ごせる、が。
上空でハンスが奮闘しているのだ、悠長に時間はかけていられない。
故に――先手必勝でルフナは跳び出した。ギリギリまで引き付けた上で、物陰から一閃。
「おっとッ!」
それは質量を持った光。電磁波であり、衝撃波と成って敵を打ちのめすあんよの輝き。んっ、あんよ……?
「ふっ、理屈は分からないけど僕の膝からは衝撃波出るのさ――驚いたかい?」
「如何なる原理なんですかイヤそれホントに!」
ともあれそれは卯月の目を塞いだ。攻撃そのものは彼による盾により防がれたが――一瞬の隙に別の物陰に移ったルフナはそのまま移動。当然卯月は追いかける、が一瞬でも稼いだ時間はルフナに味方するものであり、卯月の手は一歩届かず……
「むっ、あちらでも音がしたな……上空は水無月とナナシ、それから霜月の射撃がある様だし……卯月か神無月か?」
その気配を察したのは鬼灯だ。卯月ならよいが、神無月だとまずい……
神無月は式神の使役に長けている。彼の捜索網に掛ると、振り切るのが面倒だ。もしも武器を手に入れたのなら――まず倒すべきは神無月だと思う程で。
隠密を重視して動いている故、近くに彼がいてもそう簡単には見つからぬだろうが……念の為にと更に忍び足。一切の音を立てぬ様に立ち回る。
ふっ、あの番組でも実際どう見つからぬかが重要であった。
ハンターなる者に見つかった者は容易には逃げられず……阿鼻叫喚の悲鳴が参加者から挙がっていたか。
――TOSOTYU、あれ結構見てて好きなのよねぇ。
「特に放送回を重ねる度にあの鬼畜な指令を出す、うら――あっ何故か悪寒が!」
同じような思考をしていたのはアーリアだった。にゃ? 何かよんだにゃ? と何故か幻聴が聞こえてきた気がする……うう、気のせい気のせい! それよりも。
「さ、そろそろ私も動きましょうかね。ハンス君を誘ったんだし……私も一肌脱がなきゃ」
言うは彼女も――太陽の下へ出る意思。
魔女の嗜みたる小動物を操る術を駆使して探索に参加させ、手頃な廃材も見つけた。
飛ぶ。飛行の力を宿して、彼女もまた空へ。
準備は整ったのだから――そして、こうして飛んでいればナナシに見つかるは必然で。
「はぁい水無月さん、私達と遊ばない?」
それはさながら誘惑。箒が如き廃材の上で足を組んで、ウインク一つ。
女っ気がない(であろう)暦達をからかえないかと。え、ハンス君は男の子……? こんなに可愛いんだから、性別とか関係ないわよね……?
「……もう、あんまり煽っちゃダメですよ? あぁでも……お相手してくれるなら嬉しいです」
「――やれ、破廉恥な事だ!」
水無月は頭を振って二人へ攻撃を。ええい暦たる者、誘惑などには……!
「……さて。中々時間を稼がれている気がしますね。これ以上は宜しくないかと」
一方で最後の暦たる神無月は上空のハンスやアーリアには目もくれず地上を駆ける。
飛ばす式神。怪しき影を見かけ次第向かうのだが――成程、向こうもこちらが式神を用いると分かっているのか早々に姿を捉えさせないようだ。このまま武器を見つけさせるのはまずい。負傷が目立ち始めているアーリア達はいいとしても……それでも数の上では。
イレギュラーズ捜索の為にと足の遅い卯月を置いて先行したが――これ以上は『万が一』を考えて再び合流するべきだろうか――と、思考したその時。
「おっと。それ以上進まれると困るね……仕方ない、出るとしようか」
神無月の歩みを止めるべく跳び出したのは行人だ。
探索に重きを置いていた彼だが――ハンス達が目立つ立ち回りをするのであれば共同歩調をと。なにより、自らの本文は装備が無くてもある程度出来る所にあるのだと。精霊達に協力を求めて、鞄なりなんなりを探していたが……神無月の姿も見えれば別。
「おや、自ら姿を現して頂けるとは光栄の限り。行人さん、良しなにお願いいたします」
「さて。こういう時はお手柔らかに、ていう場面かな?」
激突。捜索に出していた式神の幾つかを呼び戻して行人への攻撃と成すのだ。
無手とはいえ片手間には出来ぬと。それを分かっている行人もまた、防御を固めて耐える形だ。
――これは集団戦。
「俺の役目は見つからないようにしている仲間達が更に見つかりにくくする事、さ」
式神が行人の腕に張り付き、炸裂するも――それは致命に至らぬ。
耐えるだけならば幾らでもやりようはあるのだとばかりに――そして。
「――神無月お兄ちゃん」
その、背後で声がした。
直後に即、声の下へ式神を飛ばしたのは神無月の成せる業か。
ほぼ反射。しかし、その声には確かに覚えがあって。
「今、声をかけたのは『見て』欲しかったからだよ――だから」
それは逢華の声。式神が爆破の力を伴って再び炸裂する、も。彼女は爆風の中を突き抜け。
「全力で行くよ」
その手に抱きし武器と意志を――神無月へと魅せた。
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見つけたのは朝顔であった。武器が手元にない……という状況は不安で焦りそうになったが。
「落ち着いて……折角、アーリア先輩やパンス先輩が暦さん達を引き付けてくれてる……今がチャンスなんだから……!」
神無月の式神やナナシの目視に気付かれぬ様に陰から影へと移動し、忍び足。
心臓の鼓動が煩く感じる程に自らの存在を静寂の中へ。
探す。探した。必ずこの近くにある筈だと――そして。
「お待たせしました! これより隠岐奈 朝顔、戦闘に入ります!」
今こそ本領を発揮する場だと、武器を見つけて彼女は日の光の下へと躍り出た。
直後にはカイトも合流。動物達からの情報も得ながらない場所を潰して辿り着いて。
「よーし、これが手に入ればこっちのもんだよなぁ……覚悟しとけ! 焼き鳥にしてやらぁ!」
――空を飛ぶ。
隠れる為に自ら禁じた……本来己が生きる世界。
全身に風を感じて彼は舞う。目指すはナナシの下、その背後を取る様に追随し。
「ナナシ! こちらへ来い――後ろだッ!」
それを寸前で止めたのが水無月の刃であった。
ナナシは倒させぬとばかりに介入する。槍と刃、交わる音は幾つもの金属音。
「へへん、その程度か! 飛ぶ鳥落とせない様じゃ忍者とは言えないぞ、っとッ!!」
しかし早い。カイトの速度は群を抜いており――数多の攻撃すら躱し得る。
その上で紡ぐは炎纏いし一閃だ。
防御に集中を齎しつつ立ち回れば、かの飛翔を止める事過たず。
「……ふむ、武器が行き渡りつつありますか、これは困りましたね」
更に逢華に相対していた神無月は危機感を感じる。あの気配は武器ありきの者だと。
そもそも逢華が装備している時点でもはや後は時間の問題、か。
「神無月お兄ちゃんでも、アーリアさん達も加わったらじり貧、だよ」
「ええ――かもしれませんね、しかし」
こちらも一人ではありませんので、と水無月は逢華の一閃を避けもせずに紡ぐ――
それは援軍があったからだ。横から割って入る様に来たのは、卯月。
「遅い! 速く来るように言ったでしょう何をしていたのですか、このお馬鹿さんが!!」
「ひぃ~! あ、ちょ、まだ訓練中ですから! 後で――!!」
しかし援軍に来た卯月に平手一閃。おぉ水無月さん……
ともあれこれで神無月を落とすのはそう容易くは無くなった。防御に優れる卯月と、支援に優れる神無月の組み合わせ――成程盤石だ。
「素晴らしいな。だが、組み合わせの展開もまた――予測できるモノだ」
されどそこへ紡がれるは巨大な手裏剣。魔糸により紡がれし、それは。
「さぁ、暦たるその実力存分に見せてくれ」
「クッ――頭領!」
鬼灯の撃であった。無限の紋章による身体の向上は彼に更なる活力を齎していて。
「ありゃりゃ。一歩遅かった、かな? まぁ――やれるだけやってみようかなッ!」
その様子をある建物の窓から見ていた霜月は、引き金を絞り上げた。
それは天へ。アーリアとハンスには引き付けの故もあってか、もうほとんど戦う力は残っていない。流石に無手の状態で暦からの攻撃を耐え続けるのは厳しかったか――けれど。
「嫌がらせは得意なのよぉ、もう暫く付き合ってねぇ……!」
「後は――よろしくお願いします!」
それでも最後まで死力をとアーリアとハンスは立ち回る。
射撃の連射。遠方からの援護が活路を切り拓くのだと暦も諦めぬ。
訓練であろうと手を抜くような未熟者はこの場にいないのだから。
「さぁ。それじゃあ一気に追い詰めて行こうか……ふっ。布面積が減る代わりに防御力が上がる――攻守回を兼ね備えたフル装備の僕を舐めてたら痛い目を見るよ? まぁヒーラー出しやる事は変わらないんだけど」
理屈や原理は混沌世界に聞いてくれ、と言うはルフナだ。しかし確かに言う通り、武器が手に入ったはいいのだが改めて身に着けるとこう……冷静に鑑みても部屋着よりも布面積が少ない。その姿は拘束衣(ボンデージ)であり、こう……見るべき場所に戸惑いますね!
さりとて戦闘となれば変わりなし。
天使の歌声を紡ぐ彼の治癒術が皆へと行き渡って――それが暦を追い詰めるのだ。イレギュラーズ達が万全となればそれだけでも。卯月が治癒の様な事は出来るが、一人では追いつけぬ。
やがて倒れゆく暦の面々。イレギュラーズの戦力が比較的集中した神無月や卯月の方から始まり、奮戦していた水無月、そして霜月も見つかり……
「――よし、これまで!」
詰みとなった段階で鬼灯が止めた。
勝者はイレギュラーズ側。囮となった者達が見事に時間を稼ぐことが出来たのが勝敗を分けたか――もしも囮の者達が早めに脱落していたら、まだ分からなかったかもしれない。
しかし勝敗云々はこれぐらいで……それよりも!
「さ、運動の後と言ったらアレよねアレあれ! そう! お酒よぉ――!!」
「うむ。終わったら宴会、これは基本だな……! はっ、睦月には内緒だぞ!」
「それ、多分睦月お兄ちゃんにまたバレるような……?」
逢華の視線が鬼灯に向けられるも、それでもアーリアの提案は魅力的なモノがあった。
彼女はいつでも飲んでいるような気はするが……まぁそれはそれと言う事で。
折角の機会なのだ。飲んで騒いで何が悪い! え、悪いですか睦月さん、あ、その……えっと……
「本日は有難うございました! こういう訓練もいいものですね……って、え?
宴会ですか? あっ! ジュースで良いなら付き合いたいです!」
「ナナシー。ナナシ触ってみても良いか? かっこかわいいよなーイケメンだし」
朝顔も同調し、カイトも戦が終われば同族たるナナシの下へと。
これは戦いでもなく憎しみ合っていた訳でもないのだ。当然訓練が終われば和気藹々と……
その中を縫って鬼灯の下へと訪れたのは行人であり。
「――暦、頼もしいじゃないか。鬼灯」
「否。まだまださ」
今日は来てくれて感謝する――
暦の訓練に付き合ってくれた友人への感謝の言葉を、蒼天の下で紡いでいた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
暦の訓練の一幕、今回は某テレビ番組的な要素のある内容でした。
一風変わった、しかし確かな訓練。これもまた一つの経験となったのではと願って。
ありがとうございました!
GMコメント
リクエストありがとうございます!
●依頼達成条件
暦全員の戦闘不能
※訓練なので殺さない事。当然暦達も殺しには来ません。
●ルール
・シナリオ開始後30秒(3ターン)経過後に暦達は動き始めます。
・皆さんは武器の類を(携行品含め)最初は所持していないものとされます。戦場のどこかに隠されていますので、見つけた後はフル装備となります。(隠されてる場所は追手の暦も知りません)
・スキルの類は武器を手に入れる前から使用してもOKです。
・本シナリオでは【探索】を重視するか【隠密】を重視するかが重要と成ります。
・武器の【探索】だけに専念すると割と早い段階で自らの武器を見つけることが出来ますが、暦に発見される可能性も高くなります。【隠密】に専念すると見つかる確率は減りますが、武器の入手は遠のいてしまうでしょう。
・例:【探索】10【隠密】0で探します!(例なのでこういう書き方必須ではありません)
ってすると多分水無月が速攻で見つけて味方に連絡します。
●フィールド
豊穣の地に存在するとある廃城と、その城下町です。
規模的には小規模です。村~街の中間程度の広さと言えるでしょう。なんらかの理由により滅びた後、民などは去ってしまったようで一般人の類はいません。よって、存分に暴れまわっても特になんの問題もありません。
時刻は昼。水無月は城の天守閣に。他のメンバーは城の城門からスタートします。
●『暦』戦力
●水無月
偵察や諜報、味方との伝達係など司令塔として優れる暦の一員。
戦闘の際は痺れ粉などを撒き散らしたりしながら小刀による近接戦を行う模様。
五感が優れている人物でもあり最初は相棒たる鷹と共に偵察に専念します。
鷹の名前はナナシ。ナナシが名前だよ。名無しじゃないよ。
ギフトの効果によりナナシとは水無月限定で、明確に言語会話が可能。
●神無月
所持してる特殊な術札による独自の術を行使する暦の一人。
お札による式神の召喚、使役による偵察や攻撃も行える――が、基本的には味方への回復行為などの補佐がメインの模様。攻撃・回復・偵察などさまざな事が行える反面、耐久面は他の暦よりも劣っているようだ
●卯月
身の丈ほどもある金属製の大盾を持つ暦の一人。
所謂盾役であり、非常に頑強な防御能力を誇る。大盾自体が優れているからか、振りかざしての攻撃も出来る様だが――その反面、移動能力に関してはどうしても一歩遅れてしまうようだ。
●霜月
大型の銃を軽々と扱える程に銃の名手たる暦の一人。
中~遠距離を得意とし、攻撃から補助まで幅広く行える。
狙った獲物は逃がさないよ……!
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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