シナリオ詳細
チョコレートに向かって愛を叫ぶ
オープニング
●甘いチョコレートはいかが?
時はもうすぐ、グラオ・クローネ。
現代日本でいうところのバレンタインといったところだ。
「ふんふんふん、ナルホド。こっちの世界にもあんだね? そういう行事みたいなのが! おけまる」
来るべき14日に備え、羽切 響(はきり ひびき)は鼻歌を歌いながら雑貨屋をめぐっている。
可愛いパッケージを手に取って、ほわほわと脳裏に思い浮かべるのは、赤羽・大地 (p3p004151)の姿だ。もっとも、正確に言うなら、『三船大地』なのかもしれない。赤羽・大地は”彼等”とも呼べる、なかなか複雑な素性を持っているのだった。
けれど、JKの恋心はそんなの関係ない。一度別の世界に行ってしまった彼と再会できたことは十分に奇跡なのだから。
(みっひーにあげるなら、やっぱハートじゃん? アタシのキャラ的に全然アリでしょ。……てかバネっちはチョコ好きなんかな?)
二人分のチョコレート。本が好きな彼のために文庫本でも添えようか。
「みっひーとバネっちか」「赤羽ダイチか」
「お?」
「オオ?」
同じような羽ペンの、スカーレットのインクに同時に手を伸ばした。
道化師の服を着た麗しい男――ダイヤモンド・セブンは目をキラキラと輝かせる。
「モシカシテ、知り合いか? ダイチの」
「バネっちの?」
「ソウ!」
つまり、響とセブンは同じ人物にグラオ・クローネの贈り物をしようとしているわけだが……。
「それって……」
「オオオ……」
「「分かってるじゃん!」ナ!」
意気投合して、がっしりと腕を組みあう二人。
「ねね、チョコレート手作り料理教室だって! これっしょ」
「手作リ、手作リ、……つまりダイチに勝負を挑むんダナ? いい! いいな!」
●練達クッキング
「ではこのわが社の開発したケミカルXを入れます――」
途中までは穏当な料理教室だったのだが、そこは練達。
「愛を可視化するための溶剤」と言いながらピンク色の液体を混ぜると……。
チョコレートは自我を持って暴れだしたのだ。
「ヒャッハハハ!」
腹を抱えて笑うダイヤモンド・セブン。
「ぴえん」
呆然とする響。
襲い来るチョコレートはどんどんと巨大に、強大になっていく。
「ってかこれじゃみっひーにあげられないじゃん! ここでおしまい? いやそんなことないっしょもうだめみっひー! 好きだったよ!」
「ナンドデモナンドデモ黄泉がえルオマエガスキダッタ!」
どーん。
「???」
愛を叫んだ瞬間、チョコレートは爆発したのだ。
「コレハ?」
さっき言っていた、科学者が。『愛を可視化する』とかなんとか。
「も、もしかして告白すれば爆発するってこと?」
「逃げるなら今のうちダナ!」
●助けてイレギュラーズ!
「みっひー! バネっち!」
「オレたち、マジメにやってたんダヨ? ホントダヨ???」
チョコレートまみれになった羽切 響とダイヤモンド・セブンがローレットへと駆け込んできたのはこんなわけだ。
「チョコレートが追いかけてきた! 助けて! このーーーみっひーの頑張り屋さん! あ、なんかね! 好きな人の好きなところを叫ぶと弱体化するみたい!」
背後がどーんと爆発する。
「モテるなぁ?」
赤羽がからかうように言った。
「ええ……と」
「あ、違くて、いや違くないんだけどこれね! なんでもいいみたい! ダイヤっちでもいけたし! ダイヤっちおしゃれ!」
「赤羽! ダイチ! もう一度首が繋がルトコロがミタイ!」
ダイヤの求愛で、背後がどーんと爆発する。
「うわっ」
「ってかダイヤっちのどういう感情なのそれ!?」
というわけなので、盛大に誰かへの愛を叫んで、チョコレートを爆発させてやりましょう。
あ、倒した後は、美味しく食べられます。
- チョコレートに向かって愛を叫ぶ完了
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月09日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●Let's cooking!
「チョコとすぱいすは合うものが結構あるそうなのですよ。
ですので、今年はそんな、ちょっと刺激的な愛の形を蛍さんに……」
藤野 蛍(p3p003861)、桜咲 珠緒(p3p004426)は『二人でひとつ』。
彼女たちは今年も、互いのためにチョコレートを贈りあう。
そのはず、だった。
湯せんで溶かし、型にはめて……珠緒が楚々として入れるスパイスは一振りの練達マジック。
浮かび上がる七色のチョコレートX。
「何 で す か こ れ は」
「! 危ない」
蛍はすかさず珠緒の手を引いた。
「あ、ありがとうございます蛍さん」
「せっかく、珠緒さんへのバレンタインチョコを作ってたのに……。自我を持って暴れるチョコレート? ……相変わらず非常識なことが日常的に起こる国ね!」
「可笑しい……美味しいチョコを作りたくて料理教室に通ったはずなのに……どうして私が作ったチョコは毒々しいの……?」
『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は七色に輝くチョコレートを前に呆然としている。
恋の道は、かくも険しいものか。
いや、この場合は完全に物体Xのせいだろう。
「こんなんじゃ……遮那君にあげられない!」
朝顔が思わず呟くと、チョコレートXが変化し始めた。
「!?」
そしてそのまま、景気よくパアンと小爆発したのである。
「みっひー! バネっち! ってなわけでねっ!」
響がチョコレートからぴょんぴょん逃げながら教えてくれた。
告白すれば爆発する。
すなわち、チョコレートは弱体化していくらしいのだ。
「告白すれば爆発する? どういうことなの……」
「あまり上手いこと言えてませんよ。……洒落ではない? 愛の可視化? 叫べば、勝てる? ちょっと何言ってるかわからないですが……」
首を傾げる珠緒の反応は、至極全うなものだろう。
「まあ、やってみましょう」
「チョコレートって混沌に来てから初めて食べたけど、すっごく美味しくて好きだなぁって思ったよ。でもそれが動いて爆発するってどういうことなんだろう」
『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は、頬に飛んできたチョコレートを拭って舐めてみる。甘くて、美味しい。これでいいはずだ。
だが、まさかチョコレートが動いて襲いかかってくるとは……。
「カップル爆発しろという呪詛は聞いたことがあるが、世界広しと言えどもチョコが爆発するのは……あったか? あったような気がして、たまるか」
『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はふうと息を吐く。爆風で吹き飛びそうになる帽子を見事にキャッチし、脇に抱える。
「まあ魔法も奇跡もあるこの混沌だ、チョコレートが動いて爆発するくらい当たり前の事なんだろうな。うむ。そうしておこう」
ドゥーはヤツェクの言葉に「そうなのか」というような顔をしながら、不思議そうに動くチョコレートを目で追っていた。
「とにかく……解決しないといけないね」
『戦場のヴァイオリニスト』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)がヴァイオリンを構えた。ヤツェクは応えて、ギターを鳴らす。
「愛を叫ぶと爆発するのか……ふむ……少し恥ずかしいが」
「奏者は二人か。吟遊詩人は惹かれあうものだ。アンタ、大切な人はいるか?」
「やってやれない事はない……その、頑張る……」
ヨタカは少し恥ずかしそうにうなずいた。
(たまたま通りかかっただけだったが、人々を襲ってしまってはいけないからな……)
対処法は、愛だというのなら。
「愛ッ……!!」
『神仕紺龙』葛籠 檻(p3p009493)は爆風を逆向きに、逃げ惑う人々とは逆方向に、脅威の方向へとまっすぐに歩みを進めてゆく。
「愛を叫ぶのにッ! 小生ほど!! 適任は!! いない!! 小生の神への愛は天を衝く、到刺破晴空!」
そして此処にも、恋する乙女が。
「……はい! 愛の告白なら私にお任せ下さい!」
決意して、朝顔はすうと息を吸った。天香・遮那。その人のために。
「頼もしい仲間がいるナァ! 大地ぃ!」
『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)は二人で一つ。わくわくと視線を向ける響とダイヤを振り返る。
「とりあえず、先に一言良いか?」
「いいよ」「ドウゾ」
「羽切ィ! とりあえず俺を『バネっち』と呼ぶのは辞めロ!!!」
「ダイヤ! 今だけ首の話はよしてくんない!? 皆居るから!!!」
ぽつぽつとチョコレートが友愛を感じ取って爆発する。
「オレたちってば!」
「超愛されてる!」
兎のマスコット、リコリスがその様子を見てニヤッと笑ったような気がした。
というわけで、彼らはチョコレートの前で愛を叫ぶことになったのだった。
●二人で一つ、二人は一つ
(まずはビークール)
爆発、炎上するチョコの嵐を浴びながらも、料理教室は守られる。
……蛍の張り巡らした保護結界によって。
「これで……そ、それじゃ、次は珠緒さんへの愛を叫んでチョコを倒す番ね」
「はい……!」
「……本当にここで叫ぶの?
皆の前で?」
珠緒は期待に目を潤ませる。
蛍の頬は夕焼けのように真っ赤に染まる。こんな表情を見せられては、もう腹をくくるしかない。
「あーーーもう!
わかってるわよ、やってやろうじゃないの!!!!
ヤツェクさん、景気の良いBGMお願い!」
「いいとも」
ヤツェクがギターをかき鳴らした。
「隠岐奈さん、桜色のピンクなスモークの演出を!」
「はい、いいですよ!」
先輩方はある意味ライバルではあるが、今は心強い味方だ。
きらきらとしたピンク色のスモークが、二人を包み込む。
「こ、こほん。
もう、何度伝えたかわからないけど、ボクの気持ちを聞いてほしいの……珠緒さん!」
「はい、何度でも」
桜花の決意。
故国の、鮮やかな桜の花はひらり、ひらりと舞い落ちる。
花びらの合間からこちらを見ている珠緒と、かつての思い出の珠緒が重なる。
(始めは、故郷が似てて仲良くなれそうな、お友達としての珠緒さんだった。
そのうち、隣にいてくれるのが当たり前の、親友としての珠緒さんになった。
それから、隣にいてくれないと寂しくて寂しくてたまらなくなっちゃう、初恋の珠緒さんになって――)
二人の間を桜が舞った。
――今は、隣にいてくれるだけで幸せになれる、恋人の珠緒さんになってくれた……。
「珠緒さん、大好きよ」
桜が舞う。舞い上がって幾重にも幾重にも、桜吹雪が舞い降りる。
司桜に、御桜。不可侵のフィールドの方程式。この結論に、何度も何度もたどり着いた。
さあ、と桜が舞った。
「これからもずっとずっと一緒に――『二人でひとつ』でいてほしい……愛してるわ!!」
とくんと、鼓動が鳴った。
嗚呼。
嗚呼、どうお返事をしようかと。珠緒の答えは決まっているのだけれど、それでもどういう道筋をたどろうかと考えてしまう。
(既に伝えたことでも、何度でも、惚れ直す都度言葉にしたいのです)
桜吹雪に踏み出して、手を取る。
変わらぬ体温がそこにあった。
(血を吐きすぐ倒れる珠緒を、嫌な顔ひとつせず支えてくれた優しい方。
旅先のお話、故郷のお話、様々教えてくださる頼れる方。
そして、お役目を引きずり続けていた桜咲を、個の珠緒にしてくれた方)
「蛍さんのおかげで、珠緒の日々は常に輝いています……実際にどれ程素敵なものか、お見せしきましょう」
水たまりに溜まる花びらが風に揺れるように。
水面の如く広がる桜花水月のスクリーン。
「二人で星を眺めた夜は……」
(二人で月を眺めた夜は)
「この日は、お菓子の家に招待いただいて……」
(そうだね、とても美味しかった)
「ひとつの傘で雨を凌いだときは……」
(身を寄せ合って……体温を感じた)
ふと、かけがえのない日常を愛しい人と過ごせることの奇跡に思わず笑みがこぼれた。
「学園祭でやった企画は実に好評で……」
(楽しかったね)
「境界では旅館のお手伝いを……」
愛に溶かされ、派手にとろけるチョコレート。
「……何故砕け散っているのですか。
『二人でひとつ』と過ごした珠緒達の日々は、まだ少しも語れていないというのに」
「さすがですね、先輩……!」
チョコレートは甘やかな愛に照らされて弾けて溶けていく。
ヤツェクのギターが切ないメロディを奏でた。
(幸い一夜の恋なら星の数、惑星ごとに恋人がいたといってもおかしくないこの渡り鳥にとって、愛を語るなんぞ、日常茶飯事のことだ)
「そう、流星雨の夜に出会った君。納屋で密やかな口吻を交わした君。破天荒な「女王様」だった君。皆懐かしくも甘い思い出、時に苦いのはチョコレートの如く――」
吟遊詩人のごとく紡がれる物語に、人々は思わず足を止めて聞き入るだろう。
「追われるお嬢様、酒場の踊り子、野心に燃える村娘、老いたかつての名花。肌の温かさ、つないだ手、唇の触感」
大衆たちが、小さく揺れていた。いつしか、手拍子が広がり、そして、それはゆっくりと輪になっていく。
ギターが鋭く情熱を奏でる。
「その都度、心の底から、おれは愛した! そして愛された! 今も愛している! アムール!」
情熱のかけ声とともに、チョコレートははじけ飛ぶ。
R.S.Cが警告を発するが、「耐えられぬほどではない」と。
であるからして、ヤツェクは甘んじてそれを受け、ぺろりとなめとった。
激しいものにしろ、穏やかなものにしろ、……愛は全身で受けるもんだ。
(若い心のときめきほど素晴らしい物はない。青春ラヴフォーエヴァー)
最後にギターをかき鳴らし、一曲を終える。流れるようにBGMはゆったりとしたバラードに変わり、次の主役を招き寄せる。
「アンタはどんな歌を歌うんだ?」
「俺の、番に……」
手に持った荷物をしっかり抱えて、叫んでいく。
「愛しい……俺の番、好きだ……!」
ヨタカは叫ぶ。片割れへの愛を。もう一つの翼。
「紫月が居なきゃ俺は今頃ダメになってた!」
ヨタカは美しい声で歌い、愛を捧げる。
「俺の月!」
ぱあんと、チョコレートが弾けていく。
「安心する俺の鳥かご……!! これからも俺と共に歩んでくれ……!」
夜明刀・向日葵を手に。
スピーカーボムで、ひときわ声は大きくなる。
(彼の好きな所は全部って言えるぐらい大好きで
何時間あっても叫び足りないぐらいに!)
好きなところは数え切れないほどあって。
彼を構成するどれもが、朝顔が恋した理由だった。
(例えば獄人が差別される事が”正しい”という国でも
彼は自分が正しいと思った事を貫いた。
誰に対しても平等に笑顔を向けた。
私はその心に惹かれたの)
まっすぐに空を見上げて。かの人がいるであろう方を眺めて。
「星影 向日葵は、天香・遮那君に恋をしています」
恋情に溶けたチョコレートが綺麗にはじけ飛んでいく。
(大切な者を失いすぎた今でも、彼らの遺志を、想いを受け継いで、必死に頑張ってる)
だからこそ、彼の悲しみに寄り添うばかりはしたくなかった。
(悲しい事、失った者ばかり見て。
『あの頃は幸せだった』なんて誰にも思って欲しくないから……)
「だから私は彼の最愛になりたいのです! 彼が心から今が1番幸せだと言えるように! 失った者以上の存在になりたいから!」
その祈りは、エゴと嫉妬を含んでいる。気がついている。
それは誓いだった。
牡丹一華。
色鮮やかなアネモネの幻が、チョコレートを包み込んでいた。
「羽切。
俺が言うのは癪だガ、お前の存在は『大地』の支えになっているようダ」
「え? ちょ、今なんて……」
「……フン、俺からはこれ以上は言わんゾ、
後は本人から聞きナ」
「バネっち……」
「いや、それはヤメロ」
大地の優しい表情が、響を向いている。
「おやおや、なにやら訳ありであるな?」
檻は詮索せずにうんうんと頷いた。
愛。この空間には、愛が満ちていた。
赤羽・大地……いや、『三船大地』は、高校を一緒に卒業することはできなかったけれど。
(この広い混沌でもう一度羽切に会えたこと、こうして明るい笑顔を見られて、とても良かった
俺に贈り物をしようとたころ、それ自体がとても嬉しい)
「本当に、ありがとう ダイヤ
お前は芸人としても素晴らしい腕の持ち主ダ」
「オオ?」
「そのナイフ捌キ、並の腕じゃねェ
そノ、夜闇に浮かぶ月のような金の瞳モ、俺と同じ赤い瞳も綺麗ダ
あト、今日のメイクもバッチリ決まってるゾ」
「♪」
上機嫌で繰り出される攻撃は、別に赤羽・大地に向けられたものではない。
牡丹一華が枯れていく。チョコレートも、それに伴ってはじけ飛ぶ。
攻撃を避けて、二人は笑った。
「絶対、この首は落ちないし、俺は死なない。
何度でも蘇るし、赤羽と一緒に生き延びてやる。
だって、きみと話したいことがまだまだ沢山ある。
もっと俺達に色んな事を教えてくれ」
死にたくない、死ぬはずがない。攻撃をかわして戦場に立って、死の淵を歩み、生者と死者の間を保ち。
……それでこそ、とダイヤは笑う。
ドゥーのベリアルインパクト。
土壁がチョコレートの追撃を防いだ。
(うーん……)
チョコレートと真面目に戦闘するなんて夢にも思わなかった。……内心、正直怖い。
愛と言っても、……。と、思っていたのだが、ひとつ。
皆の様子を見ていて思いついたことがある。
(グラオ・クローネは誰かへの感謝を告げたりするらしいし……
だから俺はお世話になってるご近所さんや情報屋さん、それから仲間のイレギュラーズに感謝しよう)
「近所の定食屋さん! この前教えてもらったパスタのレシピ、すっごい役立ってる! それにいつも美味しいご飯をありがとう!」
一生懸命の感謝の気持ち。
檻はうんうんと頷いた。
「情報屋さん! 俺一人じゃ依頼を探すのも大変で……すごく助かってる! いつもお疲れ様、ありがとう!」
ちょうど町にいた情報屋たちがぴいと口笛を吹いて、帽子を取って手を振った。
「それから仲間の皆!」
ドゥーは、彼らを振り返る。
「本当に頼りになって……俺も皆みたいに強くて格好いいイレギュラーズになりたいよ! ありがとう!!」
精一杯に、仲間に向かって叫べばチョコははじけ飛んでいく。
「なんだか、照れるね」
「大地……強くならなきゃナァ?」
「ふむ、どうやら素敵な愛が集まったようだ」
檻はにこにこと辺りを見回す。最後の猛攻とばかりに、残ったチョコレートがひとつにまとまったが、そのようなことは問題ではない。
神への信仰パワー……らぶ♡ぱわー。
その力が、ここに満ちていた。
(愛。愛しているとしか言いようがない。小生には“それ”しかない。そのために生きている。
修行もそうだ、生もそうだ。そもそもこの世界で小生が正気であるのもきっと愛。
神はここにあり、そしてその愛を叫ぶことを小生は許されている)
赦されているのであれば――叫ぶ!
(小生の全ては!!!!!!あなたのためにあるのだ!!!!!!!!!!!)
思い切り息を吸い込んで……シャウト!!!
「える!おー!ぶい!いー!らゔ♡だぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その声量は大地を揺らし、天を駆け抜け、口から飛び出すらぶ♡ふぁいあ――漆黒のビームがが空へと立ち上り、チョコレートXを貫いた。その日、美しい龍……檻の姿を、人々は目撃したという。
●チョコレートパーティー
「ああ、よかった」
ヨタカは荷物を抱きしめる。
(これは大切な番へのプレゼント……そっと持って帰ろう)
「うう、がんばって作ったチョコが……ぴえん……つらたん……」
「大地ィ……」
がっくりとうなだれる響とセブン。
チョコの欠片を、赤羽・大地は優しく拾い上げる。
「大丈夫、ちゃんと受け取るからね」
「アア、それがイイ」
「せっかく、二人で作ってくれていたんだ」
ちゃんと味わって、お礼を言おう。それが、大地の決意だ。
「やった、チョコパですねっ!」
朝顔がうきうきとチョコレートをすくう。
「戦闘で疲れた身体にチョコの甘さが染みる……」
ドゥーはチョコレートを口に含む。
「作った人達もきっと心を籠めて作ったんだろうね。
大変なことにはなっちゃったけど……なんだかんだで楽しかったし」
ごちそうさまでした、と。きちんと感謝の心を籠め、手を合わせるのだった。
「え、えっと、これで終わりかしら?」
「終わってしまいました……」
「それじゃ、せっかくだからチョコの名残をいただきましょっか。
珠緒さん、一足早いハッピーバレンタイン」
蛍が指でつまんだチョコレートを珠緒はぱくりと口にする。
「たくさん、愛が込められたのでしょうか。とてもおいしいですね ハッピーバレンタイン、なのです」
「おっ、いける口ならご一緒しようじゃないか!」
「もちろんだ。大人の味ってやつだな」
檻とヤツェクは酒で乾杯だ。
ラムにブランデーにウイスキーとともに。
(……ま、最愛の奴への叫びは、心の底にしまっておくが)
ヤツェクはぐびりとウィスキーをあおる。
「未成年には紅茶か橘子汁だな。
ほっとちょこれいとをのむのも良いかもしれんなあ」
「……ところでみなのらゔ♡をきちんと聞かせてもらったぞ?
どうせなら新参者の小生に詳しく教えてくれ給え?」
檻がそっと顔を寄せる。
響が、セブンが、そして朝顔が身を乗り出し。
ヤツェクが笑い、ヨタカは恥ずかしそうにやんわりと首を横に振って、聞き手に回る。
珠緒と蛍が視線を酌み交わし、ドゥーは恋の話に耳を傾ける。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
新たなグラオ・クローネの地平が切り開けましたね!
お疲れ様でした。友愛、恋愛、ビターなラブ。親愛、情愛、ごちそうさまです。
GMコメント
お砂糖、スパイス、素敵なものをいっぱい!
全部混ぜると死ぬほどおいしいチョコレートができるができる……はずだった!
だけど練達の研究者は、間違えて余計なものも入れちゃった……!
それは……ケミカルX……!
●目標
・愛を叫んでチョコレートXを倒す!
●状況
練達内某所のお料理教室。
きっと誰かのために手作りチョコレートを作っていたところだったのでしょう。あるいはたまたま通りかかったのか、こんな惨状でした。
●登場
チョコレートX(たくさん)
練達の謎の技術で意思を持ち動き出したチョコレートです。
体当たりしてくるほか、チョコレートを吹きかけて、武器や体をチョコレートコーティングしようとしてきます。
もしかすると自分で作成したチョコレートが襲い掛かってくるかもしれません。
アッやめて直接火にかけないで。
誰かへの愛を叫ぶと、景気よく爆発してどんどん弱体化します。どんどん叫びましょう。
愛情、友愛、感謝の気持ち、なんでもオッケーです。
「アンタのことなんか全然好きじゃないんだからねっ!」でも爆発する恐れがあります。「実質愛じゃない?」と思うと爆発します。
かなり美味です。
●NPC
羽切 響&ダイヤモンド・セブン
赤羽・大地 (p3p004151)さんにチョコレートを作ろうと張り切っています。それなりに加勢します。
「再会いやっほーーー!」
「シブトク起き上がるトコロ! 好キダヨ~~~」
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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