PandoraPartyProject

シナリオ詳細

吹き攫うシュネー・フラオ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シュネー・フラオ
 凍て風が吹く。深と降り積もった雪の根は深く当分は真っ新な平原を見る事はないだろう。氷雪の振り荒むその場所に、一人の女が立っていた。
 誰も踏み入れた事のない雪原の如き、足跡一つもない美しい白磁の肌を持った女である。
 寒々しく歯の根さえも悴むその場所で彼女は顔色一つ変えずに立っていた。藜の杖はシンプルに装飾なども存在せず、薄氷を思わす瞳を覆い隠す長髪はミルクシフォンケーキのように柔らかであった。
 厳かなローブに身を包んでいた女の腕は硬質な鉄を思わせる。鉄騎種――それが彼女の種であった。
「イエティ、行きましょう」
 女の声に応える様に何かが像を結ぶ。ずんぐりむっくりとした白い毛を持った其れは巨大な像を作り上げ「グオオ」と低く呻いた。
「野蛮なノルダインに狡猾なシルヴァンス。何方も野放しにしておけやしないわ。
『雪女』の名において、奴らより我々の方が脅威である事を示しましょう。良いでしょう? イエティ」
「ウ――ウ――」
「ええ。奴らと連合王国だなんて虫唾が奔るもの。
 この地を治めるは勇猛果敢なる誇り高きハイエスタだけで良いのですから!」

●introduction
「聞いてってくれる?」
 ひらりと手を振った『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)は眠たげな眼でぱしぱしと瞬きを繰り返しながらイレギュラーズに呼びかけた。
「実は、ヴィーザル地方……ノーザンキングスっていう連合王国が牛耳ってる鉄帝の一角ね。
 その場所で『ハイエスタ』の妖精使いが出撃するってのが分かってさ」
 ヴィーザル地方では三つの種族が小競り合いを繰り返す。ハイエスタ、シルヴァンス、ノルダイン。いざこざばかりの彼らは時に手を取り合い鉄帝を相手に戦い、時に互いの足を引っ張り合う。今回は後者である。
 誇り高きハイエスタの妖精使い『アンナ=マーヤ』は近隣の村へと略奪に向かったシルヴァンスの後を追いかけ、自身がその村より備蓄を略奪するというのだ。
「で、此処からが本題なんだけど、シルヴァンスの罠って訳でして。
 アンナ=マーヤがシルヴァンスが蹂躙しようとしている村に、シルヴァンスは居ないんだ。
 寧ろ、アンナ=マーヤを誘き出すための作戦、という感じなんだよね」
 アンナ=マーヤを誘き出し村を焼かせ、それを彼女を強請るネタにしよという訳なのだろう。誇り高き彼女が無意味に村を焼いたとなればどの様な心境に陥るかは自明の理である。
 村に被害が訪れる事は防ぎたい。だが、それがシルヴァンスの罠だと言って聞いてくれる相手でもないだろう。
「止めるなら力づくで、になると思う。貴女は騙されてますと叫んだって、『分かりました』となる様な相手でもないから……さ」
 彼女を勇猛果敢なハイエスタの戦士として扱い、今までも数々のシルヴァンスを撃退した者であるように一芝居打ってやれば彼女のプライドに傷をつけずに済むかもしれない。
「まあ、オーダーとしては、さ、アンナ=マーヤとイエティを追い返して欲しいって感じかな。村を守る為にも、どうかよろしく」

GMコメント

日下部あやめと申します。アフターアクション有難うございます。
雪女、本当に居たみたいです。

●成功条件
 イエティ、『雪女』の撃退

●『雪女』アンナ=マーヤ
 ミルクシフォンケーキの様な柔らかな長髪と薄氷の瞳を持った鉄騎種。
 妖精使いと呼ばれており、氷や雪を好み使役するために雪女の異名を持ちます。
 儚げな風貌をしていますが勇猛果敢なハイエスタとしての誇りを胸に抱いています。
 彼女自身はハイエスタの優秀さを示し、ノルダインとシルヴァンスなど必要ないことを示すべくシルヴァンスの提示してきた情報に従っています。(本人は何処か抜けたタイプの女性である事が伺えます……)
 後衛タイプ、イエティの支援を行います。

●『イエティ』
 大柄な雪男。妖精です。アンナ=マーヤが使役しており、非常に凶暴で強力です。
 アンナ=マーヤを護るように立ち回り、ハイエスタ以外の種族に対しては非情です。
 前衛タイプで拳を武器に立ち回ります。とても凶暴な性質です。

●現場情報
 ヴィーザル地方の近隣に存在する鉄帝の住民たちの住む村です。シルヴァンスが略奪場所として指定しています。
 村にはイレギュラーズが訪れることが周知されており、避難はある程度住んでいます。
 姑息なるシルヴァンスが周囲で見張りをしているようですが、アンナ=マーヤが撃退された段階で彼らも逃げ果せます。
 また、アンナ=マーヤの心境を考えた場合はシルヴァンスに騙されているなどとは言わずに、一芝居打ち優秀な妖精使いと必死に戦っている様子を見せてあげると彼女も満足するかもしれません……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 吹き攫うシュネー・フラオ完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
すずな(p3p005307)
信ず刄
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

リプレイ


 また――と。唇に音乗せて溜息を交えたのは『血雨斬り』すずな(p3p005307)であった。ノーザンキングスと呼ばれる鉄帝国のヴィーザル地方を拠点とする三部族。彼等は旨味のない地であるとして手を拱いていた帝国の支配から逃れ自身らを連合王国として立身しようとしていたらしい。
 故に、すずながよく知る彼等の在り方は略奪略取ではあるが、今回は連合内部での小競り合いだ。三つの部族は其れ其れが別の思惑を胸に抱き理念も何もかもを違えているらしい。
「……全く、仲が良いのか悪いのか」
 ややこしい連中だと溜息を吐き出せば天より舞い落ちる白雪はその柔らかなミルクティカラーの髪をふわりと撫でる。
 ノーザンキングスに関しては事情通とも言えるヴィーザル地方の奥地に住まう『ベルゼルガ』の娘、『厳寒の誇り』リズリー・クレイグ(p3p008130)は肩を竦めた。
「あの三部族の中じゃ一番マシかなってのはアタシとしても同意するけど。
 良いように騙されてちゃ片手落ちさね。他が要らねえってんなら、誇りにかまけてないでもうちょっと頭使うようにしなきゃあね」
 小賢しいばかりで碌な事を起こさないシルヴァンスに略奪を平気で行い続けるノルダイン。ならば、誇り高きハイエスタが一番『マシ』というのは確かに誰もが頷けることなのだろう。
 情報屋からの事情を聞いて、はた、と動きを止めた『never miss you』ゼファー(p3p007625)は長い銀糸を持ち上げて頭を掻く。
「何というか、まあ……悪い子じゃないんでしょうねぇ」
 この場へと訪れるというハイエスタ。妖精遣いと呼ばれた一人の魔女、アンナ=マーヤ。
 雪女の異名を持った美しきかんばせの娘が勇猛果敢にも此の地へと一人で突き進んできている。雪を踏み締める音は重苦しく、ざ、ざ、と幾度も音を立てる。雪の根の深い草原に厳かな魔術士のローブが浮かび上がったように見えた。
「怪しげな人物がやってきたと聞いたのでシルヴァンスの襲撃かと思いましたが、違うみたいですね」
『折れぬ意志』日車・迅(p3p007500)は情報が違いましたか、と傍らに立っていた『さよならの香りがする』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)へと問い掛けた。柔らかな絹の様は髪を揺らしたアントワーヌは首を振る。
「いいや、確かにシルヴァンスの襲撃があると聞いていた――けれど、彼女は……」
 ローブで身を包んでいてもそのシルエットが女で有ることは見て取れる。この極寒の白雪を物ともせぬ鉄騎の娘。背後にはずんぐりむっくりとした巨躯が佇んでいた。
(本当は騙されている彼女に真実を教えてあげるのが筋なんだろうけど。わざわざお姫様をいらぬ真実で傷つける必要はないだろう)
 アンナ=マーヤはシルヴァンスが提示してきた情報を真に受けて、他部族より己達ハイエスタが優秀で有ることを示すためにやってきたのだろう。そも、その条件すら彼女がシルヴァンスに利用され欺された結果だとしても。
(……勇猛果敢か……アンナさんの行動は確かに意味として合うんだが。
 シルヴァンスを倒したら、或いは倒さなくても略奪するんだよな……?)
『薄桃花の想い』節樹 トウカ(p3p008730)は納得行かないというようにその女を見遣った。ローブが風に煽られてすたん、と落ちる。ミルクシフォンケーキのような柔らかな長髪には妖精の祝福を受けたように淡く光るサークレットが飾られる。薄氷の眸はイレギュラーズを睨め付ける。
「……何者」
「それは此方の台詞……いえ、毛むくじゃらの巨人を従えた、柔らかな白雪の髪に薄氷の瞳の鉄騎の娘。……もしや『雪女』では?」
 驚いたように迅が息を飲む。『Adam』眞田(p3p008414)は「え、雪女?!」と驚愕したように目を見開いた。雪女やイエティと言う存在に馴染みの無い眞田にとっては其れが存在して居たと言う事に驚いた意味合いが強いが『雪女』――そう呼ばれたアンナ=マーヤはそうは思わなかったらしい。
「ええ、私はハイエスタの『雪女』――識っているのかしら?」
「ちょっと! 聞いてないですよ、ハイエスタの『雪女』が来るなんて……!」
 驚愕し、息を飲んだすずなに 『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はこくりと頷いた。
「ええ、聞いて何て無いわ。全く以て情報になかったもの! どういうこと? どうなってるの?
 ここに来るのはシルヴァンスって話だったじゃない! あの『雪女』と戦う事になるなんて、聞いてないわよ!?」
 慌てジルーシャが振り向けばリズリーはからりと笑った。相手が敵で在る事に違いないのならば解決方法はいたってシンプルとそう言うように。
「聞いてた話と相手は違うが、ぶっ倒していい相手ってのは変わりなさそうだね。上等、上等!」


 アンナ=マーヤはその様子を驚いたように見詰めていた。シルヴァンスの指示を受け、村へと訪れた彼女を待ち構えていたのは驚き許しを請うて品々を差し出す村人では無く『毛むくじゃら』共を討伐するために訪れていたという志士達だ。
(……ええ、イエティ――相手が違ったくらいでこのハイエスタの妖精遣いが挫ける物ですか)
 傍らで唸ったイエティより感じた心配が心地よいとでも言うようにアンナ=マーヤは目を細める。
 ゼファーの言の通り『悪い子ではない』彼女はイレギュラーズの芝居がかった口調に気付かず、自尊心が満たされたかのようにまんざらでもなさそうな笑みを浮かべている。
「シルヴァンスから村を守る依頼の道中にあのアンナ=マーヤと出くわすなんてな。
 消耗は避けたいが、あんたと妖精の武勇はこちらにも伝わっている……イレギュラーズとして全力で行かせてもらう」
 トウカの周りで鮮やかな桃花がふわりと待った。臨戦態勢を整えたイレギュラーズ。地を蹴ってアンナ=マーヤの傍へと飛び込んだアントワーヌは「お手をどうぞ、プリンセス」と甘い言葉をその唇に乗せてみせる。
「あら、ダンスのお誘い? 生憎だけれど、私は『毛むくじゃら』ではないわ」
「ああ、勿論。麗しき白雪姫。いや、氷の女王かな? 『毛むくじゃら』より、君が良いさ。その美しい顔を私に見せてくれないかい」
 御伽噺の如く、囁いたアントワーヌに続くように迅は頷き鳳兵の本領を見せるように不退転を魂(こころ)へと刻み込む。研ぎ澄ませた獣の黄金がイエティを睨め付ける。
「シルヴァンスではなく、勇猛名高きハイエスタの妖精使いが何故ここに……いえ、疑問は後ですね。今はとにかく迎撃するとしましょう。あちらはやる気満々のようですしね!」
 地を蹴った。迅の眼前で吼えるようにクレイヴ族の宝剣に力を込めたリズリーはイエティとアンナ=マーヤを引き離すようにその牙を覗かせ笑う。
「喰い甲斐がありそうな方と一番前で殴り合う役を譲って貰ったんだ。気合も入るってものさ!」
 それは獣の慟哭の如く。地へ響いたその声音に巨躯たるイエティがぐるりと視線を変える。妖精遣いの指示は届かず、リズリーへと飛び込むその拳。
「アタシはベルゼルガのリズリー! テメエの飼い主の誇りが口だけじゃないかどうか、力で示してみせな!」
 拳を受け止める。腕の衝撃を飲み込むようにリズリーの唇が釣り上がった。
 ぞう、と背筋に入ったのは恐怖。眞田は「あんなでかい拳喰らったら一溜まりも無いじゃん、怖いじゃん」とおっかなびっくり肩を竦めてアダムの名を得た影に溶け込む幻惑の凶刃握る。
「さあイエティ君、遊ぼう! 俺は鬼、君も鬼の鬼ごっこ。俺、遊びはいつでも本気だから」
 手招くようにと手を伸ばす。眞田の傍らで舞う花弁は感情湛え、声を届ける如く――

 ――勇猛果敢なハイエスタの戦士と妖精よ……
 貴方も手段を選ばない非道なシルヴァンスから無辜の村人たちを守る為に来たのかもしれないが、俺は貴方の事やこれから守る村の事を詳しく知らない――

 トウカの周囲に舞い散る桃がその心を伝えるように。ジルーシャは耳を澄ませるようにその声を聞き、竪琴を静かに奏でた。
(きっと色々な事情があるんでしょうけれど……同じ妖精使いとして、放っておくわけにはいかないわ。――妖精も、精霊も、妖精使いも、アタシにとって大事な“お隣さん”だもの)


 破れかぶれで戦うしかないと『演技』をするようにそう囁き、すずなは攻めの型で節減を踏み締める。ざ、と音を立て跳ねた白雪が足裏に張り付いては離れていく。
 剣戟の一足一刀の間合いに舞い散るが如き殺気。剣士たる彼女の殺刃は頂は見えずとも鈍ることは無く。
 ふわり、と髪が躍った。風邪の如く舞い散る流れる斬撃が巨躯へと飛び込んだ。ぐるり、と音を立ててイエティの体が反転する。
 周囲全てを殴りつけんとするその拳を避けたのは獣の本能――迅はひらりと交すように地を蹴ってイエティへと速力を武器に飛び込んだ。考え抜いた戦法、作戦の中ではたと迅は気付く。
(……今うっかりトドメまでの流れを組み立ててしまいましたが、苦戦するお芝居をするのでした!)
 慌てる青年に気付いたようにジルーシャの唇に淡い笑みが乗った。柔らかな紫雲の髪を揺らがせた彼の傍らで精霊達が小さく笑う。紫香に導かれるように黒き獣、『リドル』はイエティへと噛み付いた。
「……同じ妖精を傷つけさせるなんて酷いことを頼んで、ごめんなさいね」
 囁くその声音にリドルは構いやしないと言うようジルーシャへと合図を送って。
 アンナ=マーヤはイエティを気にしながらもゼファーとアントワーヌを相手取る。故に、隙があるとジルーシャは感じていた。
(あの子……優しいのね。妖精のことも気にしてあげている。誇り高くて優しい子なんだわ。
 だからこそ、またこんな手に引っかかって欲しくないもの。信じて力を貸してくれているイエティのためにもね)
 底に存在するのが信頼という絆であらば、ジルーシャは其れを傷付けたくは無かった。すずなとて同じ。何方の命も取りたくはないからこそ撤退して往くように促すように。

 ――村は略奪されたら飢えて死ぬしかないかもしれない……
 だから俺は貴方を止める。シルヴァンスも止める。
 俺は戦いで傷つけ合うのは怖いけど、大切な人と死別するのはもっと怖いから。
 誰かが大切な誰かと暮らせる日々を少しでも伸ばす為に 貴方を村へは行かせない――

 その心を伝えるトウカの花弁から逃れるように、アンナ=マーヤは前線へと飛び出した。

「シルヴァンスが村を襲うって聞いていたの?」
「さあ?」
 ゼファーは小さく笑う。挑発するように「ええ、けれど、貴女のことはたっぷりしっているわ。名の知れた存在はその名を轟かせる物でしょう?」と囁けば、その手の内などお見通しとでも言うように槍が音立てる。
「ッ――私は貴女達には負けては居ないわ! 私はハイエスタ、誇り高き者!」
 美しき雪原に舞踊ったのは魔力の奔流。凍て付く寒さを肌に受けようともアントワーヌはサファイヤのブローチが己を護ってくれると信じるが如く。黄金の薔薇が雪色の乙女を包み込む。
「はは、さすが誇り高きハイエスタの民……私たちもついていない。
 シルヴァンスが略奪に来ると聞いて馳せ参じればこんなに手ごわい雪女だなんてね!」
 ふわり、と踊る様な精霊達を見遣ったアンナ=マーヤは唇を噛んだ。彼女は精霊を傷付ける事は厭うように。戦闘に集中できないその様子はイエティと分断された事にあるのだろう。
「美しき女王様、雪氷の薔薇の庭園はお好きかな!」
「ええ、とっても。けれど、もっと冷たい薔薇は如何?」
「綺麗な者は好きよ」
 アントワーヌの言葉の先を紡ぐようにゼファーがアンナ=マーヤの眼前へと飛び出した。

「ほらほら鬼さん、手のなる方へ。……こっちだよ!」
 誘うように手を鳴らす。柏手に誘われること無くイエティはリズリーと相対し続ける。ハイエスタ以外に対して非情な冬の妖精にベルゼルガの乙女は笑みを零してただ、相対し続けた。
 攻撃を重ねるように、イエティに届かぬならばと手を伸ばして迅は幾重も重ね続ける。イエティを突破できればアンナ=マーヤが『満足』する結末を与えれば良い。
 すずなが地を蹴り、踊る様に攻撃を重ね続ける。手数には自身があると『苦戦』を演じる彼女の傍らでジルーシャは琴を引き鳴らしながら一つのことに気付いた。
「皆、『良いかしら』?」
「……はい!」
 頷いたのはすずな。その鮮やかな晴天の眸が好機と言わんばかりに細められれば獣性秘めた金色は『殺してはならない』と自身に言い聞かせるように息を飲む。
 重ねた攻撃がイエティに蓄積し続けたことに気付いたリズリーがその巨躯の腕を受け止めた。
 視線が交錯する。アンナ=マーヤを受け止めたアントワーヌの傍らでゼファーは「強いわね」と微笑んだ。
「当たり前でしょう.私はハイエスタ――」
「ええ、知っているわ。けれど、多勢を相手に此程までの実力を発揮する事に素直に感嘆したの」
 褒められれば悪い気はしないというように藜の杖をぎゅうと握りしめてアンナ=マーヤは堂々と言った。
「私もよ。私も、よくぞ私とここまで対等に戦ったと驚いていたの。
 ええ、ええ、『嫌いじゃ無いわ』貴女たち。名前を聞かせて頂戴?」
「ローレット――そこに所属するイレギュラーズさ、プリンセス」
 恭しく微笑んだアントワーヌに気をとられた娘の傍らですずなの声が響く。
 地響きと共に白き巨躯が膝を突く。これ以上は責め立てることはしないとでも言うようにイレギュラーズの視線全てがアンナ=マーヤを穿った。
「残るは『雪女』だけ……! これは何とかなるかもしれませんよ……!」


「ッ――イエティ!」
 アンナ=マーヤは鋭く叫ぶ。その声音が天より振る雪を切り裂くような熱を帯びた物であることにゼファーは気付く。
「これ以上は止めましょうよ。お互いに得はしないわ?」
 悔しげなアンナ=マーヤは唇を噛み締める。そうしていても愛らしい相手なのだと眞田は彼女をまじまじと見詰めていた。そうやって立ち竦んでいる姿はただの少女だ――決して戦士と呼べるような存在ではない。だが、その魔術の強さはよく分かっていたから。
(いやぁ、さすが戦士……シンプルに強い。俺は仲良くなりたいだけだし、良い方向に持っていきたいな)
 ――『仲良く』なるならば、イエティもアンナ=マーヤもそのどちらもが無事の帰還を果たして欲しい。
 足に力を込め、藜の杖で己を支えるようにしてアンナ=マーヤはイエティへと「今は静かになさい」と囁いた。霞薄れるイエティはアンナ=マーヤが『そう』したのだろう。
 澄んだ薄氷は揺らぎ、イレギュラーズの出方を見詰めるようで。「往きなさい」と静かな声で囁いたゼファーに頷いて、アンナ=マーヤは静かに答えた。
「ええ。今回は『イレギュラー』……私のイエティを倒したと言うことは相当の強さなのね。
 また、相見えましょうよ。憶えておくわ。ベルゼルガのお嬢さんと――イレギュラーズ」
 凍て付くの眸に乗せられた闘志にゼファーは「あら」と呟いた。嗚呼、此方をライバルとして認識したのだろうか。
「……次は、ぜひ私と踊ってほしいものだね。今度は精霊使い同士、味方としてね」
 アントワーヌに返答は無いけれど。精霊達はふわり、ふわりと楽しげに踊り続ける。

「……ふう、無事に演技できましたか?」
 戦いながら彼女のプライドを折らぬようには、中々に骨が折れたと肩を竦める。その言葉に頷いたトウカは護りきることが出来たと確かな成果に胸を撫で下ろして。
「仲良くなれるかな……」
「まあ、彼女なら大丈夫よ。おてんばさんだろうけれど、ね?」
 くす、と笑ったジルーシャに眞田はそうだといいなあと小さく呟いて。
「勇敢なんだか、あわてんぼうなんだか……何だか憎めない子だったわねぇ」
 又会えるかしら、と囁いたゼファーにリズリーは「ヴィーザルで活動する以上、どこかで会うだろうな」と囁いた。

成否

成功

MVP

リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 アンナ=マーヤ、勇敢で誇り高きあわてんぼうな魔女でございます。
 MVPはアンナ=マーヤにとって『一番』印象に残った貴女へ。イエティを相手取る姿が印象的だったのでしょう。
 また、皆様とも相対する機会がございましたら、その際は是非宜しくお願いします。

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