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シナリオ詳細

<アアルの野>今は遠きキャラバンの影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ファルベライズ、地底湖。
 ふらふらと、何かがそのほとりを歩いていた。
 一見、旅装束の女に見える――が、ただの女性が単身でこんな場所に来れるはずがない。
 その証拠に女の後ろ姿は半ば透けており、透けた先に虹色に淡く輝く扉が見えた。
『サヴェリオ……』
 女が誰かの名を呼んだ。
 扉の奥から、長い髪を一つに纏めた精悍な男が姿を現す。
『――ラ、ウラ……』
 たどたどしい口調で、男が女の名を呼ぶ。
『サヴェリオ!』
 地底湖の水面を走り、扉の奥から出てきた男の元へと女が急ぐ。
『ああ、こんなところにいたのね……アーシアは? マリサは? 一緒ではないの?』
 男に続いて出てきた土塊の人形が、二人の女性の姿を取った。
『アーシア……マリサも』
 嬉しそうに微笑んで、女は安否を気遣うかのように他の誰かの名を呼び続ける。
 扉から出てくる土塊の生き物が、女の声に応えるように次々と『誰か』へと姿を変えていく。
『……あの子たちは無事かしら……』
 女の唇が更に別の名前を紡ぐ。
『エツィオ……ディノ……』
 扉の奥から、小さな子供の影が二つ現れた。


「ファルベライズの調査、ですか?」
 ネフェルスト、サンド・バザールのほど近く。先日の大鴉盗賊団による大規模なネフェルスト襲撃事件以来初めて顔を会わせた男に、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が問い返した。
 男の名前は「タンクレート」。ネフェルスト襲撃に加担し、ルーキスをはじめとするイレギュラーズに身柄を拘束された盗賊グループのリーダーである。
 彼らの処遇についてはラサの判断を仰ぐことになったのだが、ネフェルストで一応の尋問を受けた後、最終的に数人ずつのグループに分かれて連合所属の傭兵団へ預けられることになったらしい。
 未遂とはいえネフェルスト襲撃に関与したということで建前上「当面の間は各傭兵団の監視下に置く」ということになっているのだが、イレギュラーズの口利きもあって――周囲の人々の内心はどうあれ――実質形式だけのもので済んでいる、という話だった。

 ――閑話休題。

 タンクレートもまたグループ最年少だったディノ、エツィオと共にとある傭兵団に身を置くことになったのだが、ディノとエツィオが「ファルベライズの調査を手伝いたい」と言い出したのだという。
「正確に言うと『調査の露払い』をしたい、かね? あのあたりは大鴉盗賊団もいりゃモンスターもいるだろう? せめてそいつらの排除を手伝いたい、とね」
 二人とて、つい最近まで盗賊だった人間がホイホイと遺跡中核の調査に参加できるとは思っていない。
「あいつらなりにやりたいことがあるらしくてな。少しでも早く、最低限の信用だけでも得たいんだとさ。傭兵団としても『イレギュラーズと一緒なら』と言ってくれてる」
 彼らが身を置く傭兵団は辛うじて中規模かどうかという程度の傭兵団であり、ファルベライズの調査に三人を同行させて傭兵団の名前に少しでも箔をつけたい、という思惑もあるようだ。
「ですが……」
 難しい顔をするルーキス。
「手伝いに行って助けを求めるなんて真似はしねぇよ。邪魔になったなら置いていってくれて構わねぇ」
 タンクレートも件の場所がどういう状況にあるかは把握している。それでも、という彼に圧され、ルーキスは仕方がないといった様子で頷いた。
「わかりました、調査依頼はかなり来ているようですしローレットに話してみます」
「頼むわ」
 短く返すタンクレートに、ルーキスが心持ち憮然とした表情で付け加える。
「あと、いくら覚悟を示すためでも『置いていけ』とか言わないでください。そんなことができるなら、最初から助けたりしません」
「……そのとおりだな、悪かった」
 ルーキスの言葉に一瞬虚を突かれたような顔をした後、タンクレートが頭を下げる。
「何があっても自分達の安全を優先すること、それが同行の条件です」
「わかった、肝に銘じておくよ」


 イレギュラーズと共に向かったファルベライズの地底湖、そのほとり。
 発見した人影に、タンクレートの表情が変わる。
 見たことのある男だった。
 おそらくは最悪の部類であろう盗賊……いや、強盗か。それに襲撃され壊滅したキャラバン隊にいた男だ。
 幾人もが死んでいた。男もまた、死にかけていた。今際の際に――現れたのがたまたま通りがかった別の盗賊だったなどとは知らぬまま――生き残っていた幼子二人を託して息絶えた。
「……趣味の悪い……」
 毒づいたタンクレートの耳に、驚愕に満ちた少年二人の声が届く。
「サヴェリオ?! なんで!!」
「かあさん……おばさんまで?!」
 壊滅したはずのキャラバン隊がそこにあった。
 中心にいるのは、薄く透けた死霊の女。
『……行きましょう、次の町へ……こんな危ないところで足を止める訳にはいかないわ……』

 女……ラウラの声に応えるように、偽りのキャラバンは『外』を目指す――。

GMコメント

 乾ねこです。
 こちらは『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)さんのアフターアクションから派生したシナリオとなります。
 ファルベライズ地底湖のほとりにて砂漠を渡るキャラバンを模した『ホルスの子供達』及び『死霊』を倒してください。

●成功条件
 敵を全滅させる

●地形
 ファルベライズ『クリスタル遺跡』に繋がる通路が存在する地底湖のほとり。
 キャラバン隊の後方は湖で、そのさらに奥にはクリスタル遺跡へと続く扉が見えています。
 ほとりにはそこそこの平地があり、多少の凸凹や長い年月で崩落したと思われる岩が転がったりしています。凸凹に足を取られた等でもない限り、戦闘に大きな支障はないようです。

●敵の情報
 女の死霊一体と、十数体のホルスの子供達が相手です。
 彼らはディノとエツィオがかつて所属していたキャラバン隊を模しています。
 女の死霊「ラウラ」の願い通り「外に出て次の町を目指そう」とし、邪魔するものは容赦なく攻撃してきます。
 また、戦闘になると幼い子供の姿をしたホルスの子供達二人を守ろうとする素振りをみせるようです。

・死霊「ラウラ」
 どのタイミングでかは定かではありませんが、未練を残したまま亡くなった女性が死霊と化したもの。
 もともとはディノやエツィオと同じキャラバン隊で旅をしていました。
 彼女の呼びかけにより、ホルスの子供達はキャラバン隊に所属していた面々の姿を取っています。
 戦闘力はまったくありませんが、放置した場合再びキャラバン隊を復活させる可能性があるため排除する必要があります。
 攻撃全般に対する耐性が異様に高く、ダメージがほとんど入りません。
 その代わり、説得など何らかの方法で現実を理解させることができれば簡単に消滅します。

・ホルスの子供達『サヴェリオ』
 キャラバン隊のリーダーであった長髪の男性の姿をしています。
 生前のサヴェリオは商人であると同時に剣士としての腕もあったらしく、それを模倣してか片手にサーベル、片手にソードブレイカーを所持しています。
 全ての能力において他のホルスの子供達より勝っており、状況によっては近くの味方を庇うようなこともあるようです。

・ホルスの子供達『アーシア』『マリサ』
 キャラバン隊の一員だった女性の姿をしています。アーシアはディノに、マリサはエツィオにどことなく似ています。
 サヴェリオ以外のホルスの子供達よりも僅かに能力が高く、癒し手としての力が優れています。

・ホルスの子供達『ディノ』『エツィオ』
 タンクレート曰く、初めて出会った当時のディノとエツィオの姿をしているそうです。
 ホルスの子供達に守られながら、中距離または遠距離からの行動阻害系BSを使用してきます。

・その他のホルスの子供達(10体)
 ラウラに名前を呼ばれ、それぞれキャラバン隊に所属していた人物の姿をしています。
 サーベルを手にした近接系の攻撃を主体とする個体が5体、弓や魔法系の杖など遠距離攻撃を主体とする個体が5体。
 『ディノ』『エツィオ』を守りながら戦う習性があるようです。

●味方NPC

・タンクレート
 元盗賊グループのリーダー。ロングソードの使い手です。イレギュラーズの足を引っ張らない程度の実力がありますが、今回に関しては半ば混乱状態にあるディノとエツィオのフォローで手一杯といった様子です。

・ディノ、エツィオ
 タンクレートを中心とした盗賊グループの一員だった二人組の少年で、かつてはサヴェリオ率いるキャラバン隊に所属していました。
 壊滅したはずのキャラバン隊が目の前に現れたことで半ば混乱しています。相手が「本人ではない」ということを頭では理解しており攻撃に対する回避や防御は行いますが、刃を向けることはできずにいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 リプレイはオープニングの最後、キャラバン隊と遭遇したところから始まります。
 皆様のご参加、お待ちしております。

  • <アアルの野>今は遠きキャラバンの影完了
  • GM名乾ねこ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月27日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
竜撃
イカルガ(p3p007758)
特異運命座標
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
アセナ・グリ(p3p009351)
灰色狼

リプレイ


 二人の少年の瞳が大きく見開かれる。
「なんで……なんで……っ」
 ここがどういう場所なのかは知っていた。
 名を呼ばれることで死者の姿を模す『ホルスの子供達』という存在のことも、聞いてはいた。

 けれど何故、それが『彼ら』の姿を取っているのか――。

 動揺を隠せぬ二人をよそに、即座に臨戦態勢に入るイレギュラーズ。
(死人が復活なあ、故郷でもそういう奴は居なくも無かったけれど)
 『特異運命座標』イカルガ(p3p007758)がホルスの子供達を窺う。
 キャラバン隊の、とは言うもののそこに荷車などはない。あるのはそれらしい「ヒト」の姿だけ――それでも、超常的な現象であるには違いない。
 それを起こしているのが色宝の力だというのであれば、色宝が『願いを叶える』力を持つと言われるのも無理からぬことなのかもしれない。
「珠緒さん、今回も頼りにさせてね」
 『桜花爛漫』桜咲 珠緒(p3p004426)の身を、『桜花絢爛』藤野 蛍(p3p003861)の聖骸闘衣が包み込む。
『”貴方達”も私達を”襲う”のね……』
「ラウラ姉ちゃん……?」
 震えた小さな声が、死霊の名を呼んだ。その呟きをイレギュラーズが拾うより早く、「サヴェリオ」が動き出す。
 得物を構えイレギュラーズとの距離を詰めるサヴェリオの前に『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が立ちはだかった。
「貴方の相手はこの俺です」
 堂々とした名乗りに巻き込まれてか他のホルスの子供達が数体、ルーキスに視線を向ける。
「この状況で刃が鈍るのは理解します……が、敵はこちらの都合に合わせてはくれません」
 その目はサヴェリオを捕らえたまま、ルーキスは後方の二人に語りかけた。
「動かなければ、自分達がやられる。死んだら全て終わりです。戦果を挙げて、信用を得たいのでしょう? ――ならば、今がその時です」
 サヴェリオが動いたのがきっかけとなったのか、次々と行動を開始するホルスの子供達。
 ルーキスは言葉を続ける。
「倒すのではなく……彼らを『救って』下さい」
 頭上を飛び回る蝙蝠と視界を共有していた珠緒が、一体のホルスの子供達に向けて手を翳す。
「まず、ガードを崩してから回復手を削りましょう」
 珠緒の手から青い衝撃波が放たれ、それに飛ばされたホルスの子供達が別の一体にぶつかった。
(とりあえず頭数を減らしていかなきゃなあ)
 ルーキスに襲い掛かろうとしていた一体に接敵するイカルガ。金の瞳に見据えられたホルスの子供達……その体の一部が捻じ曲がる。
 見た目はよろしくないかもしれないが相手は土塊の人形だ、躊躇はない。
(別に綺麗な手ってわけでもないしな)
 そのままねじ切れた四肢が土塊となって、地面に落ちた。
「「――っ!」」
 思わず声を上げかけたディノとエツィオの視界を、二人のイレギュラーズの背中が塞ぐ。
「シャキッとしなさい、男の子でしょ!」
「しっかりしろ、ここがどういう場所かは聞いていたろう!」
 動揺の収まらない二人を、蛍と『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が叱咤した。
「彼らを、ラウラさんを最後に見送ってあげられるのは、今はもう貴方達だけなんでしょう?」
 二人を振り返り言い聞かせるように言葉を紡ぐ蛍。
「正面から伝えてあげなさいよ――ありがとう、そしてさようなら、って」
 それができるのは、きっと貴方達だけだから――。
 そう言って、蛍は再び前を向く。珠緒が開いた射線の先には杖を構えたホルスの子供達が一体、更にその奥にはエツィオに似たホルスの子供達……「マリサ」がいる。
 蛍が桜色を湛えた剣を振るった。射線上に舞う艶やかな桜吹雪がマリサ達を捕らえ、自失と呪縛の縁へと誘う。
「例え偽物であっても肉親が殺される様は辛いだろう、だから見ずともいい」
 ほんのひと時、邪剣の極意をその身に宿しながらラダが語る。
「だがあれが土の人形である事からは目を反らすな。ラウラからも」
 ラダが放った鋼の驟雨が、「アーシア」と「マリサ」に降り注ぐ。
「死霊は、未練があってなるものだそうだ」
 ほんの一瞬、ラダはディノとエツィオを振り返って見せた。
「……なあ、何が未練だと思う?」
 答えを待つことなく、再びアーシアとマリサに視線を戻すラダ。
(ホルスの子供達だけじゃなく、ホンモノの怨霊まで出てくるたぁな)
 『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は心の中だけでそうごちる。
(さて、こいつは幸運なのか不運なのか)
 死霊――ラウラにとって。
 あるいはあの二人にとって。
 いずれにせよ、ルカがやることは一つ。
(……それじゃあ幸運とする為にいっちょ気合い入れて働きますか)
 蛍に対する怒りに囚われ前線へと出てきたマリサに、ルカが生み出した黒き大顎が襲い掛かった。
「あんたらが二人の親か? 紛いモンでもガキの前で親を潰すってのは気分よくねえが……!」
『ア、アア……』
 傷ついたマリサの声。
『みンな、頑張ッて』
 アーシアが癒しの力を発動させた。遠い昔に喪ったはずの声に、ディノとエツィオがビクリと肩を震わせる。
「狼狽えんな! 冷静さを保てなきゃ仲間は守れねえぞ!」
 ルカの発破にディノはきつく拳を握り締め、エツィオもまた堪えるように唇を噛み締める。
 そんな二人に、『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)が痛まし気な視線を向けた。
(ホルスの子供達だけじゃなくて、本物の死霊も出るなんて……)
 しかもよりにもよって、関係者がその場に居合わせるとは。
「残酷なことだけど、ここにいるのは死んでしまったラウラさんとホルスの子供達だ」
 叱咤するでも発破をかけるでもなく、静かな口調で二人に語りかけるドゥー。
「きっとキャラバンは皆にとってかけがえのないものだったんだよね」
 そうでなければ、死霊になってなお旅を続けようとは思うまい。
「だからこそ、一緒にラウラさんを止めて欲しい」
 手にするのは憎悪の剣――けれど、心にあるのは憎悪にあらず。
「彼女を……眠らせてあげて欲しい」
 そのために、ドゥーはマリサに向けて悪意の名を借りた一撃放つ。
 その直後、一気にマリサとの間合いを詰めた『灰色狼』アセナ・グリ(p3p009351)がその体に剣魔双撃を見舞った。
 傷ついた仲間を庇おうというのだろうか、マリサの元へ向かおうとするサヴェリオ。
「言ったでしょう、貴方の相手は俺だと」
 サヴェリオにピタリとついたまま、ルーキスが再び名乗りを上げる。またしても他のホルスの子供達の怒りまで買うことになったが、それは覚悟の上。
 サヴェリオがルーキスに向き直り、無言のまま剣を構える。
 ルーキスもまた、白百合と瑠璃雛菊、それぞれに花の意匠が施された二刀を構えてサヴェリオに正対する。
「――よそ見している暇は、無いですよ」


 洞窟内を飛び回る蝙蝠の視界を借りて、珠緒が味方の射線を遮る敵を的確に排除する。
 蛍の桜吹雪が敵の正気を失わせ、癒し手達を前線へと引きずり出す。
 アーシアもマリサも、度々怒りの念から逃れ癒しの力をまき散らしたが――イレギュラーズから受けた傷を癒しきるには到底足りない。
『お、かあさん』
『かあさん……』
 時折、まだ幼い子供の声が響く。幾人かのイレギュラーズはその度に顔を顰めていた。
 声に合わせて襲い掛かる数々の不調そのものは無視できても、幼子が母を呼ぶ声というのは違う意味で心に刺さる。
「結局、死者でなくてもいいわけか」
 アーシアとマリサに鋼の驟雨を浴びせながら、何とも言えない現実だな、とラダが呟いた。
 幼子の姿をしたホルスの子供達。その元となった人物はまだ生きている。そして、彼女達の後方で懸命に「現実」と向き合おうとしている……。
(……やっぱり記憶の中を見ているのかしら?)
 ラダの呟きに、アセナはちらりとそんなことを考えた。
 しかし、今はそれを考える時ではない。一瞬で思考を切り替え、アセナはマリサの懐へと飛び込む。
 魔術と格闘、双方を織り交ぜたアセナの技が命中したその瞬間、マリサの身体が土塊となってボロボロと崩れ落ちた。
 崩れ落ちる土塊の中で、何かがキラリと光を放つ。
 気付いた蛍が咄嗟にソレを掴み取る。開いた手の平の上には、色宝が乗っていた。
『――マリサ!!!』
 悲鳴のようなラウラの声に、アセナが辛そうに眉を寄せる。
(ラウラ、可哀想に)
 思い故に死霊となり、願い故に偽りのキャラバンを生み出した哀れな女性。
(ホルスの子供達っていうのは酷いことをするのね。死者を甦らせたり、死者の気持ちを踏みにじったり)
 それは彼らの意思ではないのかもしれないが、それでも……。
(これ以上おいたが過ぎると赦されなくなるわ)
『ア……ディ……』
 イレギュラーズの攻勢に、ほどなくアーシアも土塊に戻っていく。
 母親……肉親の姿をしたホルスの子供達が攻撃され、倒される。
 ディノとエツィオは動かない、動けない。
 しかしそれでも。彼らは目を背けたり耳を塞ぐようなことことだけは、しなかった。

 蛍の散華に引き付けられたホルスの子供達に、ラダの鋼の驟雨が、ルカの乱撃が襲い掛かる。
 イカルガの歪曲にねじ切られる者、珠緒の神聖な光に裁かれる者。あるいはドゥーが放った死者の怨念に貫かれる者……癒し手を喪ったホルスの子供達は、イレギュラーズの手によって次々と倒されていく。
 十体のホルスの子供達があらかた片付いたところで、ルカがルーキスに合流した。
「助かったぜルーキス。じゃあ一気に決めるとするか」
 早速黒顎魔王を放つルカ。ほんの一瞬、サヴェリオの意識がルカに向く。その隙を見逃さず、ルーキスがサヴェリオに斬りかかった。
 サヴェリオと対峙する中で散々痛めつけられた身体が悲鳴を上げるが、知ったことではない。
 変幻の邪剣がサヴェリオの首筋を斬りつけた。他のイレギュラーズも次々に駆け付け、苛烈になる攻撃にサヴェリオが身を引こうとする。
「逃がしゃしねえ!」
 気付いたルカが力任せに拳を振るった。距離を無視して空間ごと敵を殴りつけるその攻撃をまともに受け、サヴェリオはついにその動きを止める。
 動かなくなった身体が土塊へと戻っていく。残されたのは、幼いディノとエツィオの姿をしたホルスの子供達と……死霊の女性。


「あの女性を無念から開放する……そこは、ご家族の力をお借りしたく」
 戦闘中とは思えぬ優雅な素振りで、珠緒はディノとエツィオに頭を下げる。
「俺からもお願いするよ。彼女にあなた達の言葉を届けて欲しい」
 続けてドゥーもそう言えば、二人は蒼白な顔のまま、それでもしっかりと頷いて見せた。
「じゃあ、あっちはボクに任せてね」
 蛍が残されたホルスの子供達の側へと走り込み、炎熱の桜吹雪が舞った。小さなディノとエツィオの意識が蛍に向いたのを確認すると、ラダは死霊に声を掛ける。
「――ラウラと言ったな」
 蛍に襲い掛かる幼子二人を指さし、告げる。
「よく見ろ、お前が仲間と思ったのは土の人形だよ」
 そして後ろを振り返る。
「この子等を見ろ、風貌に覚えはないか」
 ラダの後ろには、イレギュラーズに守られたディノとエツィオの姿がある。
(奴さんの記憶さえはっきりしてりゃあ、現実を受け入れて貰うのはそこまで難しくない……と思うんだがなあ)
 周囲に気を配りながらイカルガは思う。
 何せ、彼らは本物の関係者なのだから。問題は相手にその記憶がどこまで残っているかだろうか。
 過去の姿しか認識できず、二人を拒絶する可能性もある。
(そこがおっかねえ所ではあるな?)
 警戒は怠るべきではない。仮に上手くいかなくても、自分達がなんとかしなければならないのだから。
(まあ、上手くいってほしいよな。あいつらにとってもちゃんと過去との決別になりゃ言うことねえし?)
 是非ともそうあってほしいものだ、イカルガは願う。
「こっちにいらっしゃい? そちらにいては駄目よ」
 優しい声音で死霊に語りかけるのはアセナだ。
「君はもう亡くなっているの」
 悲しいのだろう、無念なのだろう。けれど、それでも。
「君の大切な仲間は生きている」
「ここにいるのは成長したディノとエツィオさんだよ」
 ドゥーもまた、訴える。彼は戦闘中からずっと霊魂疎通の力を発動したままだ……皆の言葉を、よりしっかりと死霊――ラウラに届けるために。
「あなたのキャラバン隊は壊滅してしまった。でも、この二人は生きてちゃんと未来に進んでる」
「俺達、姉ちゃんのおかげで助かったよ」
 エツィオがポツリと呟いた。
「姉ちゃんがまだ小さかった俺達を隠してくれたから。絶対に出てくるなって言ってくれたから」
 剣戟の音、怒声に悲鳴。全てが終わった時の惨状――ラウラが機転を利かせなければ、きっと自分達も死んでいた。
「サヴェリオ達が……姉ちゃんが、俺達を守ってくれたんだよ」
 何かを堪えるようなディノの声。彼の肩に手を置き、ラダは再び死霊に話しかける。
「辛いだろうが、サヴェリオが守ったものを否定してやるなよ」
 彼は二人を最期まで守り切った。
「ディノとエツィオの名を、本人以外に呼んでやるなよ」
 彼らは生きて――今、目の前に立っているのだから。

(強すぎる思いって、こんなにもやるせない悲劇を引き起すこともあるのね……)
 仲間と一定の距離を置き幼いホルスの子供達と対峙する蛍が思うのは、自分を援護してくれている珠緒のこと。
(珠緒さんに向けてるボクの心も、もしかしたら――?)
 胸を過った考えに、蛍はブンブンと頭を振った。
 そんなことを考えている状況ではない。
 今はそう……彼女を止めてあげる、そのために。

『ディノ……? エツィオ……?』
 死霊が漸く二人の少年に目を向けた。
『あなた達……なの……?』
「そうだよ」
「姉ちゃん……」
 それ以上言葉を発することができずにいる二人を見かねてか、ルーキスが死霊に声を掛ける。
「貴女の感じた未練や痛みは、残された者達に十分伝わった筈。これ以上戦っても、互いの傷痕が増えるだけだ。ディノやエツィオの為にも、退いて頂けませんか」
「ね、彼らに後を託してもう眠りましょう? 大丈夫、心配しないで」
 貴方の分まで、私達が彼らを生かすから――諭すようなアセナの声。
 疑念か困惑か、死霊が逡巡するように視線を彷徨わせる。
「心配しなくて良い。もう大丈夫なんだ」
 手にした剣を敢えて仕舞い、ルカは改めてそう言った。
「ほら、お前さんが守ろうとした二人はこうやって立派に成長してる」
 これ以上、自分が言うべきことはない。
 ルカはそっとディノとエツィオの肩を押し、死霊の前に二人を立たせた。死霊が二人に危害を加える可能性も考えたが……その時は、この身を持って守り切ればいいだけのこと。
「これが最後だ。しっかり礼と別れを言ってやれ」
 ルカに促され、今にも泣きだしそうな顔をした二人の少年が懸命に言葉を紡ぐ。
「姉ちゃん、助けてくれてありがと」
「俺達もう大丈夫だから……だから」

 ――さよなら。

『泣き顔は、今も変わらないのね……』
 死霊が微かに微笑んだ。

 ――どうか、この子達を……。

 死霊の姿が、宙に溶けて消えた。


 残された幼子のホルスの子供達もイレギュラーズの手によって土塊に戻され、地底湖につかの間の静寂が訪れた。
(どうかゆっくりと眠ってほしい)
 死霊――ラウラの霊を弔うドゥーの隣には、彼を真似て祈りを捧げる少年達。
「ディノさんとエツィオさんがきっと覚えているから。きっと、大丈夫だよ」
 消滅した女性に語りかけるドゥー。
「……ね?」
 ドゥーの言葉に、ディノとエツィオが頷いた。
「忘れねぇよ」
「うん、忘れない……絶対」

 二人の後ろ姿を見つめながら、珠緒は思案していた。
「この再会? ……自体は偶然にしても」
 地縛されなかったにしても、ラウラは何故ここに? 本当にたまたま自力で辿り着いてしまったのか、あるいは……。
「あの、珠緒さん?」
 思考の海に沈みかけた珠緒の意識を現実に引き戻したのは、少し張り詰めた蛍の声だった。
「蛍さん……?」
 微かに首を傾げる珠緒の前で、蛍が言葉を紡ぐ。
「……もしボクがああなっちゃったら」
 ラウラのようになってしまったら。
「珠緒さんの手で、ボクも、ボクの歪んだ想いも、消し去ってほしいな……」
 蛍の深刻な、けれど真摯な願いを聞いて、珠緒は彼女の手を取った。
「前提を覆すようですが、珠緒はそのもし、を起こさせないために、日々技を磨いております」
「――うん……」
 珠緒の言葉に蛍が頷く。
 例えそれが、自分達に降りかかるものでなかったとしても。
「嫌な『もし』は悉く消し去りたいものです」
「……そうだね」

 アセナが地底湖の中央小島へと視線を向ける。
 淡く輝く扉の奥には、まだまだ沢山のホルスの子供達がいるという。
(ホルスの子供達のような存在を作ったものも、きっと赦せないわね。私は)
 ほう、と小さく息を吐き、アセナは仲間達に提案する。
「そろそろ引き上げましょう」
 それに異を唱える者はなく、イレギュラーズと元盗賊は地底湖を後にした。

「……俺達、強くなるよ」

 帰り道の途中、聞こえてきた呟きに振り返る。
 少年達の瞳に、新たな決意が宿っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
散華閃刀

あとがき

お疲れさまでした。
ホルスの子供達は撃破され、死霊となった女性も無事消滅しました。
ディノとエツィオは何か思うところがあったらしく、技術や体力だけではない「心の強さ」についても考え始めたようです。

ご参加ありがとうございました。
ご縁がありましたら、またよろしくお願い致します。

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