シナリオ詳細
<アアルの野>歌に舞い、剣に歌って道を開かば
オープニング
●ホルスの子供たち
踊り子さんはなんでできてる?
粘土と、あこがれ。きらきらしたもの。
いくつかのハーブをどろんこに混ぜて。
人の体を煮込んだスープでかためるの。
色宝(たからもの)を心臓に埋め込んで――。
あとはお名前をあげれば、勝手に歌って踊る。
お人形さんはどうやって動くの?
観客。拍手。おひねり。きらきらしたもの。
まばゆいステージがあれば、勝手に動き出す。
作った人が、
「歌ってほしい」と願ったならば。
「踊ってほしい」と願ったならば。
つくりものの美しい肢体で、壊れるまで踊り続ける。朽ち果てるまで、リズムに乗せて――それが、お人形さんの存在意義。
●ここは舞台。熱砂の舞台
遺跡の奥。
「供犠の間」と呼ばれる魔方陣の上。
「次、舞い手アーシェッド、吟遊詩人のバロック!」
閉ざされた遺跡で砂の人形――ホルスの子供達は盗賊たちに名を呼ばれ、踊り子と吟遊詩人に姿を変える。
彼女たちは、まるで意思を持たず。
盗賊の求めに従って舞うだけ、奏でるだけの人形劇。
この遺跡の奥に行くためには、門番。水晶髑髏の審査を突破しなくてはならなかった。
「供犠の間」の魔方陣の上で美しい芸を見せたならば、先への扉が開かれる。
……そういう仕掛けだ。
『舞え、ここにきたからには。
歌え、ここに立つからには。
踊れ、その命尽きるまで』
審判は遺跡を守る水晶髑髏たち。
心のない彼らを満足させなければ、扉は開かない。
『この砂漠に住まうものたちの英雄譚――英雄譚、英雄譚――』
まず泥人形の吟遊詩人の様子がおかしくなった。
同じ一節を繰り返すばかりとなる。
水晶髑髏が近寄って、槍で喉を一突きにした。
曲が途切れる。
「へっ、所詮、つくりものは所詮つくりものに過ぎないってか」
「踊り子の方はどうだ?」
「舞ってるな」
軽やかな足音と、袖口の金鎖が揺れる音だけが響き渡る。
一般的に見れば、その踊りはそれなりにそれらしいものであっただろう。
けれど水晶髑髏のお眼鏡にはかなわなかった。水晶髑髏の衛兵たちがステージの上に槍を向ける。
ホルスの子供たちはぐしゃりと潰されて、土塊にもどった。
「くそっ、次だ!」
盗賊たちは別の名前を読み上げる。
どんな作り物の歌姫も、それを満足させることはできていなかった。気持ちがこもっていやしないからだろうか。いや、それを受け止める感性は、はたして骸骨に備わっているものだろうか。
「次、次、次はいないのか」
とうとうリストはなくなって、盗賊たちは打つ手がなくなった。
「おい、俺たちは――」
『舞え、ここにきたからには。
歌え、ここに立つからには。
踊れ、その命尽きるまで』
ついには髑髏たちにステージの上にあげられ、同じ道をたどる。
●ステージ
そこは熱砂の遺跡。
砂でできたレンガの殿堂。
こうして、盗人はいなくなり、あとに遺されたのは、煌めくステージだけになった。
今回の舞台は氷の上ではない。
磨き抜かれた石は世界を反射するステージ。
きらきらと壁に光る水晶はシャンデリアのように明かりを反射して。
今歌う泥人形はだれでもない。
ただ、かすかな歌声が響き渡っていた。
誰かの歌。
それは憧れの人物によく似た歌。
「レアータ……?」
彼女は思わずつぶやいていた。
「レアータ、なの?」
あなたが、思い出してくれたのなら。
その海種の影は成った。
砂を泳いで、声を張り上げ、ステージの上に姿を現す。
(つくりものでもいい)
エルス・ティーネ様。――あなたの歌が聴きたい。
それを読み取ってしまうのはエゴだろうか。
もう一度会うなら、舞台の上がよかった。
- <アアルの野>歌に舞い、剣に歌って道を開かば完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月28日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●水晶の舞台へ
静寂が満ちた。
「あの子を……レアータを模すなんて、ね」
凍てつく氷の人魚。レアータが、『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)を待っていた。
過去のレアータと、現在のエルス。
もう二度と出会うことのないはずの二者の共演。
(レアータ。あれから、いろんなことがあったわ)
このステージ。短い時間の中で――。
伝えることが、できるだろうか。
「ともあれ、全力で行きましょ!」
水晶の舞台が、『魅惑のダンサー』津久見・弥恵(p3p005208)を迎え入れる。
(観客の皆様に最高のパフォーマンスを、です)
水晶髑髏が、品定めをするようにじっとこちらの出方をうかがっているのがわかる。
歩いているだけで肢体は伸びやかに動き、周りの視線を集める。
(この場を抜ける為に水晶髑髏、いえ、この場に全員を湧かせればいいのですね)
レアータが誘うように笑った。
(これでも舞姫と語る身です。
花よりもなお華やかなに夜を彩る宝石の如く鮮やかに戦って魅せましょう)
(彼女のことは、知らぬが識っておる)
『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)に向かって、魔種だったものは懐かしそうな表情を浮かべた。いや、そんなはずはない……。
(紛い物と似て非なる者。
再演としてはまあ、妥当な具合じゃろ)
在りし日を映し出す思い出はそこにはなく、ただ、互いを映し出す。
「さあ、踊ろう」
差し出す腕が、在りし日に重なる。
――さあレッスンだよ。上手についてきてね?
「この奥に行くには水晶のお姫様達を美しい芸で満足させなきゃいけないんだね。OK! そういうの、得意だよ」
『ふたりのワルツ』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)は堂々と裁定者の前に歩み出る。異形を前にしてもひるみなどはしない。
「……私と彼女に面識はないけれど、死者の姿を象るというのはあまりいい気がしないな。生まれた彼女らに罪は無いのだとしてもね」
凍てつくような息吹を感じて、それでもアントワーヌは王子様然として柔らかに笑ってみせる。
「……お手をどうぞプリンセス、今宵私と踊ってくれますか?」
これはとても、残酷な舞台だ。
(崩れながら舞い続けるあの人も。
槍に貫かれ消えたあの人も)
『スノウ・ホワイト』アイシャ(p3p008698)の瞳は揺れる。
(嘗ては『自分の人生』を生きていた。
終わりを迎えて静かな眠りについていた)
誰でもないホルスの子供たちは、死者への冒涜だ。
(それなのに──。仮初の命を与えられ、使い捨てられて
望んでなんかいないのに、誰かのエゴで名前と魂を穢される)
だから、アイシャは上手に歌おう。痛みなどおくびにも出さないで。
「もう一度安らかに眠れるように、子守唄を歌わせて下さいませね」
(素人の私には、レアータさん達がたとえ本物でなかったとしてもただただ綺麗だという感情しか持てません……)
『泡沫の夢』ラグリ=アイビー(p3p009319)はぎゅっと手のひらを握りしめた。ぷるりと傘が揺れる。海のきらめきを閉じ込めるように、水晶の明かりを閉じ込める。
作り物のホルスの子供たち。
介入なくしては、壊されるために作られた舞台。
きっと、彼女だけでは、ステージは最後まで続かない。
(そして本物とか偽物とかそんなこと関係なく、奪わなくていいのなら何も奪いたくない、です!)
だから、全力でステージを、と思う。
偽物だとしても。全力で。
(どうか水晶髑髏さんがこの場にいるホルスの子供たち含め全てをこのステージの演出だとそう認識してくれますように……)
(知らないオレの判断よりは、知ってるヤツの感傷の方が正しいだろ)
『ロスト・アンド・ファウンド』キサナ・ドゥ(p3p009473)は、ステージに進み出る。レアータの動きは正確だが今のままではどこか空々しく、叩き潰すことは、おそらくたやすい。けれど……。キサナは別のことを考えていた。
(だから、この冒険……舞台においてのオレの優先度は、「演目を完遂する」こと。
ホルスの子供たちと仲間たちの因縁、そいつを叶えてやる)
「こっちを向けよ、水晶髑髏」
ひとときも目を離すことは許さない。キサナが歌い、リズムを刻み始めると、水晶髑髏のせわしなく動く人差し指が止まった。
やってやろうじゃねぇか、と気合いを入れる。
「――その邪魔を排除するのと、そもそもの目的を叶えること、それもやんなきゃならねぇんだから、アイドルは大変だな♪」
(はいはいはーい、準備OKっすよー)
『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)が頭を向けると、ぱあと紙吹雪が舞った。
アルヤンをじろりと見る髑髏。――奇妙な機械――それは扇風機というものだ。
(あ、気にしなくっていいっすよー自分、ほぼ動けないんすよね)
歌おうにも、音も伸びちゃうし。
というわけで、アルヤンは先輩方のサポートに回ることにした。
主役と、バックダンサー。そして舞台を彩る小道具もまた、必要なものだ。
(ホルスの子供たち、詳しくは知らないっすけど、死者を象る土人形っすかー。
まぁ人じゃないならあれっすねー、自分的にはモンスターと一緒っすー)
感慨そこそこ、口には出さず。それでも仕事はやりましょう。ひたむきなアルヤンはぶいーんと羽を回し始める。
思わずまじまじと見てしまっていた。水晶髑髏はステージに向き直った。
●オン・ステージ
明かりが増した。
きらきらと輝く砂の精霊たちが、アントワーヌの求めに応じた。きらきらと輝く部分を集めて水晶のように光り輝き、アントワーヌの周囲を舞った。
溶けた黄金のような金色の髪が揺れる。
帽子をとり、観客たる水晶髑髏君達へと一礼を。
「私の特技は舞踏でね。今からお目にかけるのは雷の薔薇の円舞曲だ。目を離さないでくれたまえよ、プリンセス」
「伴奏を頼むぞ。
我1人では演奏まで手が回らん」
クレマァダは、大切そうに持っていた鍵盤楽器を従者に差し出す。メリンガァタ=チェッロは懐かしそうに、その鍵盤を撫でた。
「おひい様ったらこんな大事なものまで持ち出すなんて、よっぽど今日は頑張るんですねえ」
鍵盤楽器「フィルハーマジック」。どんな音でも奏でてみせるという楽器のかつての持ち主は、カタラァナだった。
「うるさいわい。……何となく他人ごとと思えなかっただけじゃ」
メリンガァタはぽんと鍵盤を一つ押した。楽器は正確にⅠ音を奏でる。笑うような音色だった。「ああ、ほんとうに元のままです……」
(水の、音です)
ラグリはじっと耳を傾ける。なつかしいような、透明なような。海への思慕。
故郷、大いなる海。
レアータは嬉しそうにその音に歌声を乗せようとする。
音が、でない。
自分がどういう声をしているのか、人形は分からなかった。
けれど。
(歌う、のね。レアータ)
エルスは向き直り、頷いた。
「水晶髑髏……いざ、私の歌を聴いてもらおうじゃない。さ、レアータ……顔を上げて? 一緒に行きましょ!」
エルスとレアータ。エルスに導かれるようにして、ゆっくりと歌い始めていた。
エルスの歌声が響き渡った。
水晶のように、歌姫の声は辺りに染み渡っていく。凜とした強さを持った声は伸びやかに伸びて、辺りにこだまする。
レアータの体が大きくかしいだ。失点だ。すぐさまに立ち上がる髑髏だったが……。
エルスの魔性の切っ先が、髑髏の首元に突き付けられていた。
「余所見なんてさせないくらい。飛びっきりのパフォーマンスを見せてあげるわ!」
(こちらの演目を邪魔されてしまえば敵のペースに飲まれてしまう)
弥恵が、攻撃をひらりと攻撃をかわす。あえて、接近し刃の合間を縫った。長い髪の毛は重力に惹かれて舞った。
表情、仕草、格好、すべてが、魅せるためのもの。
イルミナント・ドレスの裾が揺れる。意思のなきものどもであっても、だ。白磁の如き肌に視線は吸い寄せられる。
(視線を集めてこそのカレイドスターです、魅せ場ですよ)
自己紹介の代わりに、華麗な幻惑のステップを。
「月を彩る華の舞、天爛乙女の参上です。見惚れると怪我をなさいますよ♪」
天爛乙女の微笑みに抗うことは難しい。
音が途切れた。思い出のない人形は、言葉を紡げない。
……キサナのブレッシングウィスパーが祝福をもたらす。
途切れた音を縫うように、キサナのゆっくりとしたクラシックが流れ込んでいった。ぽつぽつと、途切れた言葉は誘われるように、今はあふれている。
それでいい。キサナはあえて一歩下がる。
(相応しいヤツが、それを夢見ているからな)
音。
遺跡の髑髏は、古い歌が好きらしい。だからキサナは思い出した旋律をなぞった。
(トラッド(伝統的)なものは、オレの好みとは別ベクトルだが、そんな経験もまた芸の肥やしだ)
曲調が変わる。
不可思議な高音がゆっくりと可聴域まで下りてきていた。
それは、夢見る呼び声。深淵に眠り待つ神を言祝ぐ歌。人の心では決して理解してはならない、人ならざる精神を伝播するもの。
理不尽な、いや、人の理屈では理解できないところにある決まった何かが、このステージに味方する。
ともすればそのパフォーマンスに感応し、味方するかのように。
クレマァダはこの歌を何度も歌った。
(同じ歌。同じ声。同じ技量。
だのに彼女の歌とはどこか違う)
レアータもまた。この場にいるのは影に過ぎない。影を追って影を踏んで、それでも”会いたかった”。
水晶にきらめく自分の姿は見間違うほどにそっくりだ。
足りないなら。
(持っている全てで補おう。祭司長の舞は、高いぞ?)
応えるように、レアータは歌った。
声を張り上げる。壊れそうなほどに。
(さてと、まずはエルス君へとレアータ君を誘導しないとね)
Votre brasの靴底が高らかに音を奏でる。
黄金の円舞曲の旋律に乗って、黄色い薔薇が咲き乱れる。ステップはリズムを崩さぬように。精霊が動き、一筋の道を作り出す。
「やあ、水晶のお姫様達! 雷の薔薇はお好きかな!」
道を彩るは可憐な薔薇たち。
ラグリの周りを、シャボンピローが覆い尽くしていく。歌声に合わせてふらふらと揺れるシャボン玉。
意地悪な髑髏の一撃も、ラグリは耐えていた。
阻む髑髏たちにふわりとカレンデュラの花の幻影が舞った。
『あなたの痛みに寄り添わせて』。
傷つくものに、天使の歌を。
(ラグリさん、あなたの、力になりたい)
歌声がラグリを癒やしていった。
シャボンと一緒に、紙吹雪が舞う。それは、アルヤンの飛ばした紙吹雪だった。
(これで先輩達の歌や踊りを煌びやかに盛り上げるっすー)
息を合わせて、閉じ込められた紙吹雪のかけらがシャボン玉に乗る。アイシャは、紙吹雪が舞うように風の歌を捧げる。
噴水のように、高いところで降り注ぐ、色とりどりの、色という色が乱反射した。
●再演:氷のステージ
急の段・月華繚乱。
夜を照らす月のように、弥恵は舞台を染め上げていく。
それは裁定者、水晶髑髏にすら踊って魅せろと手を差し伸べる。
本物も偽物も、オーディエンスも裏方たちも等しく参加者として。
アルヤンも心なしかリズムに乗りながら首を振っていた。
クレマァダが構えるのを見て、心なしか位置を調整する。
「ハイパワーでいくっすよー」
ハイエンドサーキュレーターの生み出す風は、シフトパリィ・ファンに乗って。アブソリュートゼロの絶対零度によって、氷のつぶてが辺りを舞った。
ここは、深海。
神域が展開する。
絶海拳『海嘯』。
……演武。
(これもまた舞じゃろ?)
――いあ くつるぅ るる=りぇ ふたぐん。
不可思議で深遠なる呪文が唱えられれば、ソング・オブ・カタラァナが光った。水の流れに乗るように、言葉は紡ぎ出される。
♪
一度引いた気配が、再び怒濤のごとくに押し寄せる。
(我に、我(カタラァナ)と同じ事はできぬ。
あきれかえるほどの求道の体現たるあれとは。
しかし、我にしかできぬこともある)
しん、と静まりかえったかのような舞台の上で、クレマァダは飛び上がり、高台から飛び込むように突っ込んだ。
波が体を受け止めた。
「まあ、おひい様ったら」
メリンガァタがくすくす笑う。
(例えば運動の嫌いなあれにはなかったこの武。
例えば人の心がわからないあれにはなかった真摯な祈り。
例えば……そう、歌だって、我のものの方が好きという者もきっと居るだろう)
レアータは心地よさそうに歌声に耳を傾けている。
きれいな歌だ。
アイシャはその歌に込められた祈りを感じ取った。
クレマァダの歌声に寄り添うような波の歌を捧げる。
(海の青には、蒼穹の輪舞曲を!)
アントワーヌは慇懃にお辞儀をすると、手を取り、舞台へと駆けだしていった。
水しぶきが氷の薔薇へと変じる。レアータの舞踏(ダンス)をあるときは受けて、あるときは交わしながら舞台へと導く。さあ。エルスのもとへ!
ラサへの祈り。
ソフィアが歌うは、ラサに伝わる神話の物語。
神と神の物語。
神と人の物語。
神秘を歌声に乗せ厳かに神々しく歌う。
光翼乱破が、水晶髑髏を寄せ付けることはない。
アイシャがエルスとレアータの共演に贈るのは、深い海の底に差し込む優しい月明かりの歌。
どうか二人の舞台が一秒でも長く続きますように、と。
エルスは渡せなかったファンレターをポケットに忍ばせて。レアータを待っていた。
「レアータ……いえ、あなたが『彼女ではない事はわかっているの』」
「Erstine様」
「けれど共に奏でて欲しい……『あの子の代わりに』」
彼女の夢。それはステージの上で輝く事だった。
(あの時見た彼女は……必死で。でも私を超えたい気持ちが伝わってきた)
キラキラと宿す憧れは本物のようで、きっとそれがレアータの核を成すのだろう。
怒濤の攻撃に、思わずおかしくなる。
(私なんてまだまだなのにね?)
けれど……彼女の為にもエルスは、自信を持つと決めたのだった。
「受けて立つわ、レアータ、一緒に歌いましょう」
行こう 熱砂の都市、夢の都ネフェルスト
行こう 商人達の風が吹く 行こう 冷たい夜になる前に 辿り着こう
行こう 熱砂の国に辿り着こう!
砂が舞い上がる。太陽の歌に、憧れた光に。レアータはまぶしそうに目を細める。
360度も広がる砂漠の果て
今日も活気のいい声がする
ああ、あなたはそんなにも輝いていたの……。
知らなかった。
レアータは歌を重ねた。
taeal , ghani! taeal arqs! 嵐が吹く
taeal , ghani! taeal , arqs! 砂と共に
taeal , ghani! taeal , arqs! 夢を語ろう!
ギラギラ照らすラサの陽光!
(ラサに捧げる砂漠の歌……この気持ちがどうか伝わりますように……!)
知らない世界。ラサの大地。この遺跡の外の世界――。
レアータは応えて歌う。高く跳ぶ。理想に追従できず、動きは崩れる。それでも、そうしたかった。高みへ手を伸ばしたかった。そうしないと一緒の舞台にいるのはふさわしくない。
咄嗟に、ラグリが泡を吐いた。
(そういうことっすねー)
アルヤンの風に流されたシャボン玉が、水晶髑髏の視線を遮った。
崩れかけたのは一瞬だけ。
アイシャの癒やしの力が形を与える。思い出はないけれど、今、この場にレアータをとどめているのは歌だった。
一瞬だけで良い。この舞台が終わるまででいい。
「芸術に勝敗というものは本来存在しないが、もしそれがあるとしたら、それは心を動かした時じゃろう」
クレマァダは歌う。舞う。誰かに似た面影で。けれど、そのものではない姿で。
「我ら共に本物ではない。
じゃが本物に至ろうという心だけは……。
本物よりも本物じゃ。
さあ、愚直に足掻いてみようぞ。
さすれば星にも手が届こう」
もう少しだけ、劇を続けよう。
アルヤンのダークムーンが夜を照らす。
ラサは照りつけるような太陽から凍てつく夜へと変じる。
弥恵が、響く歌声に併せてステップを踏む。
昂るままに髪を靡かせて肢体を踊らせ自慢の美脚を振り乱し、手本のようにレアータの前で跳んだ。
ソフィアは、月の華の歌を捧げる。
(精霊たちよ、いっておいで)
アントワーヌの手を離れ、精霊はダンサーを照らし出す。
(主役に花を添えるように)
美しい薔薇がステージへと降り注ぐ。
「っと、無様に動けなくなってるのはそっちのほうだな」
キサナの魔砲が髑髏をとらえた。
「残念だが、ご退場願うぜ」
ここで終わりにはさせない。
「ここまで来ると、もはや舞台装置だな、オレ」
「たまには舞台装置みたいなのも悪くないっすねー」
それもいいさと、キサナは笑う。
ソフィアの歌声が華やかな曲調を帯びた。背を押されているようだ。
(デウスエクスマキナは、一度やってみてーと思ってたんだ!)
弥恵は手を差し伸べる。舞台が終わるまでは――。笑顔で。
レアータはそれにならって、微笑みを浮かべて崩れ落ちた。
●幕は下り、舞台は終わり、あとには水晶の欠片が残る
「成った、か」
クレマァダがつぶやく。
遺跡の扉が開いた。
水晶髑髏たちが崩れ落ちる。静かなひび割れはまるで拍手のようだった。
思い出を拾い上げるように、ラグリは小さな土の欠片をそっと手のひらにのせる。暖かい。小さな壊れた色宝の欠片。
この小さなものが、何を覚えていて、何を知っていたのだろうか。
キサナはそれを見下ろしていた。
「どうか、安らかな眠りを。プリンセス……」
アントワーヌが薔薇を一輪添える。
眠れてよかったと、アイシャは思った。子守唄とともに、ゆっくりと眠りにつけば良い。
「レアータ、憧れの夢の都ネフェルストからはまだ少し遠かったけれど
『あなたの代わり』だけど…このラサの地であなたと歌い踊れた」
(でも願わくば本物のあなたと……なんて、ね?)
「彼女の願いを仮初でもね。叶えてあげたかったの」
エルスがぽつりとつぶやいた。
「パフォーマンス、綺麗だったっすねー」
アルヤンの首振りがゆっくりと止まる。
本人とは違う。それは確かだ。けれど……。
「ホルスの子供たち……人……人ってなんすかねー。
ちょっとわかんなくなったっすー」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ステージ突破、おめでとうございます!
レアータが最後まで舞台にいられたのはみなさまのおかげです。
それが、たとえ作り物だったとしても……。幸せそうに見えました。
GMコメント
●目標
「供儀の間」において、水晶髑髏を満足させるパフォーマンスを行い、先へ進む。
●状況
中核内部クリスタル遺跡、ステージの場に「供犠の間」があります。
ここでステージ(華麗な戦闘、歌、踊り)……とにかく観客を沸かせるようなパフォーマンスを行うことで、先への道が開かれます。
レアータたち攻撃を避けつつ、パフォーマンス合戦です。
華麗に戦闘を行うことを念頭に置いてパフォーマンスするとよさそうです。
●登場
「レアータ」(ホルスの子供たち)
かつて、魔種におちた海種の少女の模倣。
憧れのエルス・ティーネに討伐された。
影たちとともに、対抗パフォーマンス(戦闘)を行う。
砂に潜り、泳ぎ、ステップを誘うような砂のつららを飛ばすなど。
けれど、レアータひとりのパフォーマンスでは遺跡の扉は開かない。
(このくらいの動きはできると知っている)(もっと、もっと、素敵なパフォーマンスがしたい)
その様子は、どことなく戦いを楽しんでいるかのよう。
名もなき踊り子たち×10
レアータとともに踊る踊り子たち。不揃いで時折崩れ、また立ち上がる。剣舞を行い攻撃してくる。
水晶髑髏の衛兵×2
槍を持ち、供犠の間を守る衛兵。ミスをすれば容赦のない槍での攻撃が襲い掛かってくる。ふさわしいと判断すれば手を出さない。
ほうっておけば、レアータ側のパフォーマーを倒すことが多いだろう。
的にしても良いし、倒しきっても構わない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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