PandoraPartyProject

シナリオ詳細

世界征服のための町内征服のための家庭征服

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『幻想』の片隅で
「……は?」
 フロストドラゴンのブレスよりも冷たい中年女性の声が、ご町内の一角に響きわたった。
「アンタ……もう一度言ってみな?」
 聞くからに不機嫌そうな女性……しかし、それに答えた男の言葉は。
「止めても無駄だぜ愛しのドロシー。25年前、俺はお前にプロポーズする時に、お前を世界一幸せな女にすると言った。そして俺たちには……ようやくその時が来たわけさ。
 そう……俺も鍛冶屋組合じゃ親方と呼ばれるほどの男になった! あの時の約束を果たすための力と金を手に入れたんだ!
 そうッ! 俺は今から全財産を元手に秘密結社を立ち上げ、世界征服を遂げてみせるッ! そうすれば俺は世界の覇者ユージーン、お前は世界の女王ドロシーで、まさに世界一の女……」
「……は?」
 頭もとっくの昔に禿げあがり、腹回りも随分とふくよかになった夫ユージーンの妄言を、妻ドロシーはフロストデーモンの絶対零度魔法よりも冷たい声で一刀両断に切り捨てたのだった。

●ローレットにて
「ええと……この依頼は、世界征服を目指す『闇の帝王(予定)ユージーン』というおじさんからのものなのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、戸惑いを隠さず皆へと伝えた。

 曰く、彼は妻ドロシーを愛している。
 ゆえに彼は、妻を世界一幸せな女にしたい。
 そのためには彼は世界を征服し、彼女を世界一の女にしなければならない。
 なのに彼の財布の紐を握っている妻は、彼の計画に協力してくれない。
 だから運命特異座標のみんな助けて。

「……一応、皆さんはユージーンさんの悪の組織『デスヴィクトリー』(現状構成員1名)への助っ人として、ユージーンさんのへそくりを使って雇われることになるのです。主な活動は『世界征服のための諸活動』なのですが……」
 しかし、そんな巨大な活動のためには、やはり段階を踏んでゆかねばならない。もしかしたら旅人の中には、その第一段階として市街征服から開始する悪の組織の噂を聞いたことがあるかもしれないが……ユージーンの場合はそれすら覚束ない。
「……なので最初はもっと小さく、『家庭征服』から始めようと考えているらしいのです」
 早い話が、奥様の説得。しかし当然ながら彼女がそれを受け入れるはずがなく、それでも運命特異座標はパンドラを貯め世界を救うため、世界征服結社デスヴィクトリーの設立を成功させねばならぬのだ……もちろん、奥様の身に危害を加えることなく。
 ……やっぱ無理?
 いや、そこをどうにかしてほしい。何故なら、それがゆくゆくは世界のためなのだから。

GMコメント

 そんなわけで初めまして。るうでございます。皆様の力で、この勘違いおじさんをどうにか闇の帝王に仕立てあげてやってください。

●世界征服結社『デスヴィクトリー』首領・“闇の帝王”ユージーン
 あまりに奥さんラブである以外、どこからどう見ても凡庸な鍛冶屋のおじさんです。仕事一筋さと奥さんラブさはご近所でも有名ですが、世界征服の件ももうご近所に知れわたっています……そりゃああの大声じゃね。
 世界征服のプランはありません。皆様が「これは世界征服に繋がるんですよ」と説明できれば、たぶん大抵のことは納得します。

●ドロシーおばさん
 肝っ玉母ちゃんです。夫のアレさに呆れてはいますが夫ラブではあるので、他人様に迷惑をかけず、ちゃんと収入も確保できる世界征服プランを提示すれば、夫を応援するようになってくれるでしょう。

 たとえば、武力ではなく人の役に立つ商品を売って世界征服を目指す結社(というか会社)、みたいな形だとドロシーも納得してくれそうですが、もちろんより良いアイディアがあればそれでも構いません。しかし、どんな案であっても言葉で説明しただけではユージーンが斜め上解釈する危険性が非常に高いため、ご近所さんたちも巻きこんだり、皆様自身が実践してみせたりしなければシナリオ成功は難しいかもしれません。

●注意事項
 この依頼は悪属性依頼『ではありません』。
 成功すれば普通に名声が上昇しますし、失敗したら通常どおり悪名が上がります。

  • 世界征服のための町内征服のための家庭征服完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月29日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
リュスラス・O・リエルヴァ(p3p000022)
川越エルフ
アレフ(p3p000794)
純なる気配
スリー・トライザード(p3p000987)
LV10:ピシャーチャ
ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)
冒険者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]
牙軌 颯人(p3p004994)
黄金の牙

リプレイ

●細く狭く覗く空の下で
 世界征服。
 なんと浪漫溢れる響きであろうか。
 世界征服。
 それは男なら一度は夢見るもの。次第に器に引きずられつつある『冒険者』ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)の魂に、ユージーンの野望はしばしの運命に抗う力を与えてはくれる。
 しかし……だとしても。
(流石に現実にはできんな)
 ……とも彼女(彼? 便宜上ここは肉体に準じて彼女としておこう)はやはり思うのだ。いや決して彼女だけではあるまい……誰もが多かれ少なかれ、困惑し、あるいは呆れている。それだけユージーンの発想は、悪い意味で突飛で本人以外には理解しがたいししたくもない代物だってことだ……思わず『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)あるいはルイン・ルイナが「こいつは放っておくと自分で勝手にロクでもないことになりかねない!」と声を荒げたくなるほどに!
 ……が、彼は包帯の下に激情を隠し、努めて穏やかに決意を語る。
「……まぁ、ヤツの行く末が破滅ならその結末は滅ぼしてやるさ。そのための存在だからな、俺は」
 確かに親方は困った人物のようではあるが、かといって破滅させたほうが世のため人のためというわけでは決してない。それもまた、この場に集まった『雇われデスヴィクトリー構成員』たち皆のの想いであろう。だって、考えてもみてほしい……彼は、自らの愛する女を一番幸せにしたいだけじゃないか。そのためならば世界を敵に回すことさえ厭わないという心意気を買わずして、『黄金の牙』牙軌 颯人(p3p004994)は何を買うだろう? ……手段の是非はともかくとして。
 マルク・シリング(p3p001309)は自身の胸に手を当て目を閉じた。
「25年前の約束を覚えていて、奥さんの幸せのためにそれを果たそうっていうの自体は、とても素敵なことだと思うんだ」
「まったくだ。愛する奥さんのためを思って、ってのはイイことなんだがなぁ……」
 家々の間に僅かに顔を覗かせる空を眺めながら答える、『TS [the Seeker]』タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)。今日はユージーンと夢物語を分かちあいやすい男の姿で現れたタツミは、なんの気なしにこうもつけ加えてみる。
「俺たちの力で、二人が納得する形に切り替えられるといいな」
「その通りだ」
 聞いて颯人は、強く頷いた。
「どこまでやれるかは判らないが、力にならせてもらおう」
 颯人の厳しい瞳の中に、戦の前に宿るような光が点ったように見えた。

●世界征服拠点
 その家は、左右に無造作に家や店の並ぶ通りの一角に、小ぢんまりと佇んでいた。この何の変哲もない町角のひとつから、彼の『世界征服』はひとつずつ階段を上ってゆくのだろうかと、『堕ちた光』アレフ(p3p000794)は家の戸口の周囲を見回してみた。
 年季の入った石造りの壁。子供の背丈ほどもある大型の甕。そして2階から通りの反対側まで伸びた洗濯紐には、孫たちのものであろう色とりどりの小さな服が風に揺れている。庶民的ではあるが決して貧した様子ではないユージーンの家は、彼が壮大な目的のために段階を踏むことを忘れた人間ではなく、目の前の小さなことにも地道に対処しながら幸せを掴んできた人物であることを物語っている……いやでも最終目標が最終目標だけに、お子さんやお孫さんへの影響が心配なのだが、とは颯人の談。まったくだ。
(まずは家庭征服……という依頼もその表れか)
 その考え自体は大切なことだとは、アレフも心の中では信じている。
 ただ……なのに何かが致命的に違う。そこを彼らはなんとか軌道修正せねばならぬのだ。そこに、いかなる苦労があろうとも。

「失礼。ご主人は、おいでですか?」
 魔導書を携えて訪ねた『LV8:グール』スリー・トライザード(p3p000987)をひと目見た者は、彼のことを人間種の魔術師だと考えたことだろう。彼の応対に出たドロシーもそう思いこんだひとりであって……戦士ならともかく何故魔術師が、と怪訝な顔をする。儀式用ナイフなんて主人は扱っていたかしら、と。
 もっとも彼女はそう思って玄関口まで出てきて、もっと怪訝な顔をしたのだが。そりゃそうだ、目の前には少女から包帯男まで、何の統一性もない8人の男女。わかるのは、いずれも盗賊にしては礼儀正しいということくらいだ。
 ひとしきりドロシーが首を捻っていると、ちょうど奥から人のよさそうなおっちゃんが顔を出した。
「お、もしかして頼んでた人たちかい?」
「……何を頼んだんだい」
 ドロシーの声が絶対零度……でも。
「男は、いつまでもガキなのさ。だが安心してくれ奥方殿、決して悪いようにはしない」
 などと『川越エルフ』リュスラス・O・リエルヴァ(p3p000022)が奥さんを宥めてみせるのは、リュスラスが愛の力を信じているからだ。というか、元の世界で痛い目を見たからだ。
「ほんと皆さん、バカ主人のせいでお手数おかけしますねぇ……」
 奥さんは溜め息を吐いた。
「何かあれば、主人を見捨ててやってくれれば結構ですんで。とにかく……立ち話もなんですから入ってくださいな」

●長い道のり
 かくして、世界征服作戦会議室――とユージーンがつい今しがた命名した客間にて、その会議は始まったのだった。
「ではまず、ユージーン殿の世界征服計画について――」
「いやちょっと待ってくれ」
 さっそく切りだしたヴィンスの一言めに対し、いきなり異を唱えるユージーン。
「俺があんたらに頼んだのはドロシーの攻略であって……あ、あと俺のことは『首領』って呼んでくれると嬉しいんだが」
 いやだから、その攻略のために世界征服計画の“修正”が必要だ、って話をしようとしてるんじゃないか。いきなり大きく立ちはだかった意識の違いに、思わずヴィンスの溜め息も漏れる。
 仕方なく彼女はアレフに目配せを遣った。するとアレフは立ちあがり、見る者の心を惹きこむようなスマイルをユージーンへと向ける。
「いいえ首領。奥方様は、今の我らの計画の不確かさを嘆いておいでなのです。その不安をとり除くには……諸問題への的確な対処のための情報源、事を起こすために必要な資金……それらをいかに調達するかの計画を作ってみせるほかございません」
「なるほど」
 今度は通った。すかさずヴィンスが本題に戻す。
「そこで私たちが提案するのは……『鍛冶による世界征服』なのだ。今持っている技術を活用した世界征服計画だ」
「ユージーン。アンタは組合で親方と呼ばれているんだろう。腕前も相当高いと思っているんだが、違うか?」
 タツミが訊けば、英雄が持つような剣は作れねぇが、普段使いなら上等なモンだ、とユージーン。試しにナイフを1本受けとって、不要な布束につき立ててみれば、なるほど布はばっさりと真っ二つ。
「……思ったとおりだ。この切れ味、相当のモノだぜ……! 匠の技術と見た!」
「だろ? 伊達にガキん頃から30年近くこの仕事を続けてないぜ!」
 鍛冶屋は得意げに胸を張る! 今だ……さらにスリーまで畳みかける!
「今をベースに、事業拡大を図る形なら……既にノウハウもあり、準備すべきことも最小限。ドロシーさんの御眼鏡にも、適うかと」
 ついでに何の意味もなく魔導書のページを開いたり閉じたりしてみせると、ユージーンには、彼がものすごい賢者の知識でアドバイスしてくれているように見える。完全にスリーの策に嵌まっている……が、ふとユージーンは、急にいい知れぬ不安に駆られてそわそわし始めたのだった。

 ……それって、『世界征服』って言っていいの?

「俺が元いた世界では」
 そんな彼を諭すかのように始まる、リュスラスの昔語り。
「俺たちは似たようなことを企んだ時に、手段として暴力を選んだ」
 暴力は単純明快だ。容易く他者から何かを奪い……容易く『正義の味方』に奪い返される。死ぬほど痛かった、とリュスラスは顔を顰める。
 やはり暴力はクールさに欠けるのだ……だからリュスラスの世界の『勝者』は、『軍需産業』だったのだろう。
「世界最強の国家を『商売』で支配した者たちだ。知的で、邪悪で、ナウくて、クール」
 それは……『鍛冶』の超強力なバージョンだ。
「俺の鍛冶で……世界を……」
 ユージーンは、唾をごくりと飲みこんだ。彼の魂をくすぐるかのように、ヴィンスも横から言葉を挟む。
「店を大きくしてゆけば、いずれは権力者とのコネクションもできる。彼らを動かすことができれば、その影響力も世界征服のために」
「すなわち、商売として世界一になれば、世界を征服したも同然。首領の鍛冶の腕こそが、我ら『デスヴィクトリー』の悲願達成のための一歩にございます」
 アレフに芝居じみた一礼を捧げられた時、鍛冶屋の両手が感動にうち震えはじめたのが見えた。そこへと颯人も、こう説くのだ……鍛冶は、親方の座にまで上りつめたユージーンの、いわば牙城であると。
「『自らの城』を守れないようでは、そもそも最初から世界と戦うことなど不可能。しかしその城を地盤とすれば、それも可能となるでしょう」
 すると、弾けたように小躍りするユージーン! 彼は1人ずつ皆の手を取って、それから拳を胸元で握る!
「感謝するぜ……これならうちのヤツを説得できそうだ! 俺は決めた! この方法で俺は、世界を……獲る!」
 それからもうしばらくこれから為すべきことの話が続くが……おや、とルインの眉が怪訝に顰む。
(……この男、口では世界征服と言っているが、真の目的は『妻を幸せにすること』のはずだ。ドロシーはこの計画なら納得はしてくれるだろうが……彼女は本当にそれを望んでいるのだろうか?)
 その時『作戦会議室』の扉がノックされ、茶を淹れたドロシーが姿を現した。

●考慮漏れ
「どうですウチの人は? 誰にもご迷惑をかけなければいいんですけれどねぇ」
「ご安心ください、素敵な奥様にも納得いただけそうな計画が出来てきましたので」
 どうやら夫の計画がロクなものであるはずがないと信じているらしいドロシーに向かって、マルクは柔和な笑みを浮かべてみせた。もっとも、とはいえ、と彼は話を続ける。
「ただ案があるだけではドロシーさんもご不安でしょう。『上手くゆく』ことを証明してみせるまでが、僕たちの仕事です。そして、そのために少し出かけてくるのですが……その前に」
「「その前に?」」
 仲良く声をハモらせる夫婦。それに対し、魔導書のページに目を落としながらスリーが語る。
「『シンボルマーク』です。デスヴィクトリーのマークを、商品に刻むのです。表向きは、鍛冶屋としてのブランド宣伝用。しかしてその実態は、『デスヴィクトリー』の影響範囲の証なのです……!」
 スリーの解説を聞いたユージーンの目が、少年のようにきらきらと輝いた。ドロシーがその様子をチラ見して、嬉しいような呆れたような複雑な表情を浮かべたのが見える。
 ユージーンは、妻に上手くやってみせるぜとウインクしてみせた。それから……腕を組んで特異運命座標らへとニヤリ。
「そいつはいい案だ。しっかし、どんなシンボルがいいかなぁ……?」

 ……結論から言えば、ユージーンが出した全ての案は、ことごとくドロシーに鼻で笑われましたとさ。
 というか『デスヴィクトリー』の名前が不吉だとして、そもそものブランド名からして却下。そりゃあね、調理道具のブランド名が『デスヴィクトリー』だったらね、できた料理に毒とか入ってそうだもんね。
 とりあえず、手元にはユージーンが辛うじて死守した『D』の頭文字だけを、お洒落に飾ったシンボルマーク。
「ちくしょう……地道に賛同者を増やして納得させるしかねえか……」
 家から追い出されてしょんぼりとするユージーンだが……それでも『鍛冶ブランドで世界征服』という計画そのものは却下されていなかったことに、はたして彼は気づいたのだろうか?

●それぞれの征服
「なんでぇ! ユージーンのやつ、本当に世界征服を始めちまったのか!」
 組合を訪れたマルクとリュスラスを出迎えたのは、他の親方衆の笑い声だった。おや、皆さんも好意的だったのですか、とマルクが訊けば、それくらい豪語してこそ男ってもんよ、とひげもじゃの親方。
 ならば……。マルクの目元が真剣みを帯びる。
「でしたら……お願いがあります。実際に世界征服するかは置いといて……皆さんの製品にこのマークを刻印するのはいかがでしょうか? これは皆さんの製品をブランド品としてアピールするチャンスだと思うんです」
 が、ひげ親方は首を振った。
「組合ってぇのは、いかに互いに住み分けるかってためのモンさ。ウチばっかり儲けて他の組合の関係が悪化するのは困っちまう」
「ふむ。だとすれば根本的に相容れない……か」
 唸るリュスラス。だが彼は不意に懐に手を入れて、自ら鍛えてきた金属塊を机に叩きつける!
「こいつは『灌鋼』。敢えて純度を不均一し、強靭な剣を作る技術だ。……そしてその剣は、私の世界では『斬鉄剣』と呼ばれる! この技術を他の組合に広めてやってくれ。そして……」
「……代わりに灌鋼製品には、シンボルを刻んでもらうわけですね」
 不敵に笑う2人につられて、ひげ親方もにんまりと笑みを浮かべた。

 そして、組合征服成功の報が届いたユージーン宅にて――。
「奥方。どうやらユージーン殿は、組合とも上手くやれそうだ。そこで奥方……少し時間をいいだろうか?」
「もちろんだとも。お蔭様で、洗濯物を取りこむ時間が省けたからねぇ」
 その答えに頷いて、颯人も最後の洗濯物を畳んで横にどけてドロシーに向きなおった。
「話というのはつまり……どこまで奥方に協力を頼めるのか、ということだ。話しあう時間が取れずすれ違う夫婦は何度も見ている。奥方らには、そうなって欲しくはないのだ」
「そうだねぇ……一度アタシも、はっきりさせたほうがいいかもしれないねぇ……」

「アンタ、あんなろくでな……ゲフン、愉快な男とどのように結ばれたんだ」
 ドロシーは計画を否定していない。だが……『否定しない』と『求める』の間には雲泥の差があることを、ルインはよく知っている。
「アンタにとっての幸せとは何だ? 本当に、世界征服なんて目指させていいのか?」
 すると、遠くに思いを馳せながら答えるドロシー。
「最初はね、普通のお見合いだったんですよ……でも、いつか俺の鍛冶の腕で世界を変えてやる、って目を輝かせているのを見たら、応援したくなるじゃないですか。……まさか本当にやらかすとはねぇ」
「ある意味では……アンタの望みどおりの幸せなのか?」
「だとすれば、依頼が終われば離れてしまう我々に代わって、マネージャーとしてユージーンさんを支えていただきたい」
 頭を下げたアレフに対して、あの人のアホを止められるのはアタシだけだからねぇ、とドロシーは笑った。
「あの人の手綱を握る毎日も、それはそれで幸せなんですから。そういう意味では……皆さんにいろいろ考えていただいて、嬉しく思ってるんですよ」
「……勘違いするな、俺は闇の帝王とやらが無残に滅ぶのを見ていられないだけだ」
 ルインは、ぷいと顔を背けた。

 一方、鍛冶場――。
「この技術を、広めてゆくんだな……」
 出来上がったばかりの灌鋼包丁を天にかざすタツミの喉が、ごくりと鳴った。
 まずはキュウリを手に取って、研ぎ澄まされた包丁ですっぱり。なるほど……灌鋼のお蔭か作りたてだからかは判らぬが、先ほどのナイフよりもずっと鋭く見える。
「確か、地球ってとこから召喚された旅人が言ってたな。つーはんばんぐみ、ってのをやって、オバちゃんたちにイイ反応をしてもらえればスゴそうに見える、だったか? 『切れた野菜が包丁に全然くっつかない! しかも切り口も瑞々しい! こんな包丁、生半可な職人じゃ作れねぇぜ!』……なぁんてな!」
「そうだな……私もナイフを作ってもらって、実際に使って宣伝としよう。特異運命座標も御用達とあれば、ゆくゆくは貴族や王族にも広まるだろう」
 そう請けあうヴィンスの視線の先には、熱した鉄と格闘するユージーンの弟子たちの姿があった。

「さぁ、皆さん是非とも、ご注目を。新ブランド『ドロシーズ』の、商品お披露目です。なんと、あのローレット所属のイレギュラーズの中にも、品質を認めて使用している者が、いるとか」
 数日後、通りにはスリーの客寄せ口上が響いていた。
「ただの刃物だろ? 一体何が違うんだ?」
「何やらどこかの親方が、異世界の技術をモノにしたって噂だぜ」
 互いに囁きあう通行人たち。それにしてもこのブランド名……一体どんな意味があるのだろうか?

 そう……あの日の夜、夫婦でもう一度組織名について議論が行なわれたのだ。議論はかなり紛糾したそうではあるが、最終的に『D』のマークを活かす形で出てきたのが妻の名だったというわけだ。
 ドロシーは、恥ずかしいからやめろと抵抗したそうな。が……ユージーンは功労者の名前をつけさせてくれと拝みこみ、とうとう妻を折れさせたとか。
 かくして夫婦の二人三脚は、新たな再スタートを切ることになる……彼らが本当に世界を征服するのかは、また別の物語。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 そんなわけで秘密結社『デスヴィクトリー』は、生まれる前に名称変更となりました。皆様のプレイングを拝見した結果……あれ、これじゃ名前が奥さんに却下される未来しか見えないな、となって出てきた代わりの名前が『ドロシーズ』でした。これはきっと、皆様が奥さんに配慮してくださったお蔭に違いありません。
 デスヴィクトリー改め『ドロシーズ・ファクトリー』の歴史は、ここから始まります。経営はしっかり者のドロシーが上手くやってくれるかとは思いますが、何かあった時には再びローレットに依頼があるかもしれません。その際、もしもまたご縁があるようでしたら、何卒よろしくお願いいたします。

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