PandoraPartyProject

シナリオ詳細

守神を騙る獣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「さて、神使の諸君。諸君らに少しばかり仕事の手伝いをお願いしたい」
 甲冑に身を包んだ武士姿の男――各務 征四郎 義紹(p3n000187)は開口一番にそう言って笑う。
「詳細はおいおい、向かいながら説明させてもらう。
 なに、神を逐った諸君らであれば今更、どうという相手でもないただの妖怪退治だ。
 着いてきてほしい」
 そういうや、8人のイレギュラーズを見渡して、そっと刀の石突きに手を置いた。


 高天京を離れ、カムイグラでも東国に下りつつあった。
 足を踏み入れているのは、山の中だった。
 木々の間が広く、こちらからなら下の様子も見て取れた。
「無事に陛下を取り戻し、天下を牛耳った魔を討ち果たし、国に安定をもたらして平穏はなった……」
 語りながら先を行く武者姿の男――義紹がちらりと君達の方へ振り返る。
「これはたしかに、まったくもってその通りだ。
 お見事という他ない。流石は英雄と呼ばれる諸君だ」
 言いながら進んでいた義紹が、ぴたりと足を止めた。
「――だが、その目線は『やや偏った見方』でもあるというのも、事実。
 仕方のない事であり、誰かから責められるわけでもない。
 諸君らが中央に関わり、これまでそこを中心としてみるしかなかったが故の目線ゆえに」
 そう言って、義紹はそっと視線を横に配った。
 喧騒が聞こえ、そちらの方へ視線をやれば、遠くで複数の人影がぶつかり合っているのが見えた。
「魔を払って国を救ったという事は、逆にいえばそれまで政府を牛耳っていた席ががら空きになるという事。
 数年にわたって魔が中央政権の中枢を担っていた以上、それによって開く権力の空白は大きい。
 つまりは、地方の大名どもや小規模勢力にとっては『自分達の影響力を拡大する絶好の機会』なわけだ」
 あのように、と。軍勢同士のぶつかり合いを眺め、それが徐々に片方の勝利に傾き始めた所で義紹が動き出す。
「仕事は妖怪退治じゃないのか?」
「すまない、あれは偶然だ。大方この辺りの小規模勢力同士の小競り合いだろう。
 それに、あの人数同士では負けた方も吸収はされんだろうさ」
「そういえば、あなたは何をしてるんだ」
「あの大戦に参戦せず、どこぞにも消えた魔の行方を追っているのだ。
 東へ下って行ったことまでは分かっているが、未だに尻尾が掴めなくてな。
 ……さて、そろそろか」
 そう答えた義紹が立ち止まる。
「ここって……」
 蔦状の枝に巻き付けられ、そこら中にひびの入った朱の鳥居と、草が生い茂った石畳。
 見るからに随分と使っていないことが分かる神社だった。
 視線を上げれば、殆ど中央あたりで真っ二つに崩れた本殿が見える。
 本殿にも蔦やら何やらが絡まっているところを見れば、少なくとも本殿があれだから人足が途絶えたのではないことが分かる。
「――山を守りし神よ、どうぞ御身を現したまえ」
 ずんずんと足を進め、本殿の前まで行った義紹が両の手を合わせて礼をした。
『――汚らわしき鬼が、我の姿を望むか』
「御身が麓の村にて度々、人々に人身を御供せよと仰っていた話は聞き及んでおります。
 なぜそのようにあらぶられるのか、お答えいただきたい」
 荘厳さの滲む声に、義紹が淡々と答えた。
『――よかろう、獄人ごときが良く吠えた!』
 本殿の中から、紅蓮の炎が槍のように真っすぐに尾を引いて放たれる。
 それを義紹が横に跳躍して躱し、ばさりと、翼の音。
 みしりと音を立て、社が軋み――それが奥から姿を現した。
『いい加減、麓の人間を食い飽きた所だ、今日は貴様ら9人諸共にくろうてやる!』
 それは、全身が燃え上がるように紅蓮をした鳥であった。
 体長は一般的な人間よりも遥かに大きく、翼を広げれば横もかなりのモノだ。
 それがただの生物ではないことを証明するのは、それらよりも何よりも――頭部だった。
 鳥の羽毛から途中で変質した体毛は犬のもの。
 狂気に蝕まれたように爛々と輝く瞳が、敵意に満ちていた。
「さて、諸君、神を騙る獣退治だ。
 手伝ってほしい」
 いつの間にか刀を抜いた義紹がからりと笑いながら告げた。
 あれが、今回の相手という事だろう。

GMコメント

さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
神様を騙って人を要求する輩なんざろくでもないのです。
容赦なくぶっ潰しましょう。

それでは詳細をば。

●オーダー

犬鳳凰の討伐。

●フィールド
 寂れ切ってしまった神社の境内です。
 蔦やら何やらが生え放題、石畳も砕け放題ですが、
 フィールド効果はありません。

●エネミーデータ
・犬鳳凰
 人よりも遥かにでかい犬の顔を持った鳥の妖怪。
 我々が知ってそうな本来の伝承では『うざくとも脅威的でも危害を加えるような妖怪でも』ないはずですが、
 どうやら人身御供を求める等、非常に厄介な妖怪となっています。
 ある種の暴走、ということは……? とはいえ、やったことの責任は負わねばならないのです。

 常に低空飛行状態にあり、もしかすると皆さんの射程外まで逃亡を図る可能性もないとは言えません。
 神攻、命中、回避、抵抗、HPが豊富です。反面、防技は低め。それ以外は並みか若干低め。

<スキル>
炎槍射:槍状の炎を吐いて一直線上を攻撃します。
神遠貫 威力中 【万能】【業炎】【呪い】

羽陣:大きな翼をはためかせ、集中力を削ぐと共に攻撃を加えます。
物遠範 威力中 【ブレイク】【混乱】

牙犬喰:対象に食らいついてその身を焼くと共に毒性をもたらし、自身の体力を回復させます。
物至単 威力大 【猛毒】【業炎】【HP吸収】

鳥獣爪:呪性を帯びた巨大な鳥の爪で対象を切り裂きます。
神至単 威力中 【致命】【呪い】

●友軍データ
・『カガミの君』各務 征四郎 義紹
 カムイグラの動乱後、ある魔種の調査と中央(高天京)の求心力低下を見越し、
 各地を放浪しながら事件に首を突っ込む刑部省の役人です。皆さんの友軍として活動します。
 リプレイ中では基本はふわっと動いてます。
 指示や話したいことがあればプレイングでの記載を頂ければと思います。

 弓による遠距離攻撃、刀による近接攻撃を用いる物理アタッカーです。
 皆さんと同等程度の力を持ちます。

<スキル>
三矢一殺:一度に三本の矢を対象に叩き込みます。
物遠単 威力中 【万能】【ショック】【乱れ】【スプラッシュ3】

雷迅刀:摩擦による電流を闘気で増幅させて対象を上段から斬り下ろします。
物至単 威力特大 【感電】【体勢不利】

絶無一心:心を無とし、殺気を削ぎ落し、無我へ至ります。
自付与 威力無 【副】【瞬付】【命中大アップ】【反応大アップ】【EXA大アップ】

●戦後
 戦後、麓の村に解決の話をしに行ってついでに宴を開いてもらえます。
 昼食か夕食にちょうど良い時間帯になるでしょう。山菜料理が楽しめます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 守神を騙る獣完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月28日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
ノワール・G・白鷺(p3p009316)
《Seven of Cups》
久遠・N・鶫(p3p009382)
夜に這う

リプレイ


「犬の顔じゃなくて鳥の顔なら格好良いんだろうけどなー
 もっとこう、威厳あって包容力あるほうが神様っぽいぞ?
 ……ま、神を真似ただけの狗頭にはできないだろうけどな」
 低空に舞う『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)の言葉に犬鳳凰がぎろりと視線を向けてくる。
『鳥風情が良く吠えたな――』
 最速で動いたカイトは大きく羽ばたいて疾走する。
 ギュン、と初速から一気に速度を上げたままに、犬鳳凰へ突撃する。
 対する妖は、空へ舞い上がって間合いを開けた。
「図体ばかりでかくなって逃げることしかできないのか?」
 返ってきたのは遠吠えのみ。
「個人的な恨み辛みなんて無いけれど、民喰らう“獣”は見逃しておけないよね!」
 視線を犬鳳凰に向ける『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は儀礼剣を構え、魔術書を紐解く。
 魔術書を媒介として練り上げた魔力を儀礼剣に収束させていく。
「仮にも神を名乗っていた様だけど……この閃光は如何かなッ!」
 切っ先へと収束した魔力はビュンっと真っすぐに犬鳳凰へと走り抜ける。
 音に反応を示した犬鳳凰がそれを慌てふためいた様子でギリギリのところで避ける。
 その様子を真っすぐに見据えていた『魔法中年☆キュアシャチク』只野・黒子(p3p008597)は黒手袋をきゅっと伸ばし、犬鳳凰に向けて掲げる。
 そのまま、その身体を握り締めるように、拳を作る。
 その瞬間――空を走らんとした犬鳳凰が、遂に捕捉される。
 まるで巨大な腕に鷲掴みにされたように動きを止めた犬鳳凰が雄叫びを上げた。
 そこへ、真っすぐに三本の矢が殺到し、全てを身体に突き立たせた犬鳳凰が地面へと落下していく。
「どうしてこんなことになったのはとても気になるけれど……
 逃げないうちにさっさと片付けてしまおう」
 長身のリボルバーを構えた『夜に這う』久遠・N・鶫(p3p009382)は引き金を引いた。
 長大な銃身より放たれた弾丸は、遠く、速く、美しき弾道を描いて犬鳳凰へと走り抜ける。
 その見るからに分厚い筋肉へと吸い込まれた弾丸は、それでいて止まることなくその肉を断ち、千切り、抉りとって――微かな、向こう側を作り出す。
 まつりごとのことは良くわからない。けれど、麓の村に被害が出ている以上は、退治しないわけにはいかない。
 蒼炎を見せる『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は己が可能性をこじ開け、今ここにいる自分へと重ね合わせる。
「コャー。イヌ科の風上にも置けないやつなのよ」
 そもそもイヌ科――哺乳類に分類するべきなのか、鳥類に分類するべきなのかもわからない微妙なところではある。
 ともあれ。纏いし蒼炎を変化させて生じるは蒼き雷。
 大気へと溶けだしたそれは体勢を立て直そうとする犬鳳凰の周囲を取り囲むようにして滞留し――空に描くは雷雲。
 光――のち音。つんざく蒼い雷霆が駄目押しとばかりに落ちた。
「そなたは何故、人身御供を求めるでありますか」
 妖の眼前に立った『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)は静かに問うた。
 直後、獣の口元に笑みが滲む。反吐が出るほど邪に染まった笑みが、狂乱に満ちた瞳が、笑い――その笑みのまま、蛇のように伸びて希紗良を喰らわんと牙を剥いた。
「……そうは容易くいかないでありますかね。ならば」
 向けられた牙がその身を削り、炎と毒が身体を侵す。
 それとほとんど同時に刀を振るった。後の先を穿つ刺突――翼の付け根を強烈な一撃が、獣の身動きを阻害する。
「神を騙ると言うのならば、せめて人の一人二人を救えば未だ体裁が保てたものを。
 ……まぁ、案外『神』というのは、こういう傍若無人なものなのかもしれませんが」
 仲間たちの攻撃に犬鳳凰がその動きを鈍らせるのを待ち続けていた『《Seven of Cups》』ノワール・G・白鷺(p3p009316)は、自らの血液をぴしゃりと払う。
 放たれた血液は鞭のようにしなり、最早鈍り切った犬鳳凰の身体をがんじがらめに抑え込んでいく。
「さて、躾のなっていない犬には罰が必要でございますよね。
 ……あれ、犬? 鳥? まぁどちらでも構いませんか。
 痛い目を見てもらう事には、相違ありませんので」
 縛り上げた鞭をぎゅっと引っ張れば、縛り上げられた顔がぐん、と上を向く。
「ぶはははっ! 調子乗ってんねェ! そういうヤツぁ横っ面殴ってやんねぇとなぁ!」
 見上げた視線の先、呵々大笑する『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の眼があった。
 金眸に充てられた獣の眼に、露骨な不快感が浮かび上がれば上々だった。
『グルル……ふざけるなよ、この我をこの程度で――』
 血の鞭より抜け出した犬鳳凰が雄叫びを上げた。
『ぉ、ぉ、ぉ、お、お、おおおおお!!!!』
 疾走した犬鳳凰が、雄叫びのようなものを上げながら真っすぐにゴリョウ目掛けて突貫する。
 騎士盾を構えたゴリョウの金色の鎧を、鳥の爪が閃いた。
 鎧にひびが入りこそするものの、その殆どの威力はゴリョウの堅牢さに呑み込まれる。
「ぶははは! 果たして自称神様にゃあ無視できねえわなぁ!」
『ふ、ざ――お、お、お、おおお!! けものが、獣風情が――わ、れ、を、お、ぉぉぉぉ!!!!』
 苛立ちを露わにする獣めがけ、カイトが疾走する。
「震えろ、怯えろ、緋色は全てを喰らう。お前は餌だ、お前は獲物だ、――」
 妖怪の眼に見せるは緋色の翼。
 捉えた獣の眼に映しだすのは、緋色に彩られた黄昏の空。
 あるいは昏き宇宙(そら)――極彩色の海。
『グル、ぐ、お、ぉ、ァ、が、ゥ』
 耐えきれなくなった鳥モドキの自我が崩壊する。
 そして来るは『もう一度』だ――
「炎を使えるのはテメェだけじゃねーんだぜ? 蔦もろとも焼けちまえ!」
 振るわれた蒼き三叉槍よひ放たれたる紅蓮の刺突が、犬鳳凰の羽を焼き払っていく。
 カインは犬鳳凰の動きをじっと見据えていた。
 羽ばたきの動き、揺らぐ足、血走りながらもどこか畏怖を讃えたような双眸。
 その全てを写し取るようにして、真っすぐに見据えている。
 三本の矢が犬鳳凰へ炸裂するのを見ながら、カインは再び魔力を籠める。
 魔術書を媒介に、儀礼剣をもって指向性を持たせた神聖なる光。
 収束させた輝きを、カインは真っすぐに振り抜いた。
 激しく瞬き、放たれた光は真っすぐに妖の肉体に降り注がれる。
 木陰を作る木々の影を打ち消し、城を持って塗り替えるような鮮烈の閃光が妖怪の身体を打ち据える。
 続けるように黒子はゴリョウの方へと歩み寄ると、術式を展開する。
 両の手袋で最適化された術式を地面へと打ち据えれば、魔方陣が大地へ展開。
 白い光が瞬き、ゴリョウの身を包んでいた疲労感を根こそぎそり落としていく。
 最後の弾丸を狙い澄まして撃ち込んだ鶫は、弾倉を開く。
 そのまま犬鳳凰から一切視線を外さず、瞬く間に弾丸を籠めなおして、獣の翼に目線を合わせた。
 スナップを効かせて戻った弾倉を軽く回し、目線に合わせるように持ち上げる。
 意識を集中させ、狙うははためく翼。
 そ静かに引き金を二度。弾倉が回り、銃弾が飛ぶ。
 ――精密に狙い澄まされた弾丸は、真っすぐに風を切って突き進んでいく。
 真っすぐに走った弾丸は、そのまま綺麗に犬鳳凰の翼の付け根を抉る。
 犬鳳凰の羽毛がじんわりと赤黒く変色していく。
「そなたにも理由があったかもしれないけれど、それでも人の世との関りを蔑ろにしてはいけないのよ」
 煌々と輝き、揺らめくは蒼き焔。全身に纏う蒼炎を片手に収束させながら、胡桃は語り掛ける。
 それは何の技術も用いぬ、己が持つ単純なる力――揺らめく炎に帯びた数多の性質。
 そのまま、ただ蒼炎を放つ。
 揺らめきながら尾を引いて放たれた蒼き炎が獣の身体を包み込んだ。
 秘められた力は積み重ねられた呪いを以って妖の身を削り、その気力を奪い、落としていく。
 熱砂の魔力が収束していく。
 ノワールは数多の状態異常を受けた様子を見せる犬鳳凰を見据え、手を翳す。
 じんわりと魔力が成形され、やがて一条の矢へと変質していった。
「それではお灸をすえて差し上げます」
 熱砂の悪意を帯びた一条の矢は著しい魔力の収束の果て――爆発と共に放たれる。
 戦場をかけ、犬鳳凰の胸部辺りへ炸裂した瞬間、破裂したように砂塵を巻き上げ、悪意を振りまいた。
 苦し気にあえぐ犬鳳凰がばさりと羽ばたき始める。
 太刀を握り締め、真っすぐに敵を見る。
 深呼吸と同時、犬鳳凰の羽ばたきに合わせ、前に出た。
『邪魔だ――――小娘!!』
 再び剥かれた牙。疾走するように突っ込んでくる犬鳳凰に合わせて、静かに太刀を降ろす。
「――ここであります」
 強靭な顎が、希紗良の身体に食らいつく。
 それと合わせるように、希紗良は太刀を振り上げた。
 真一文字に駆ける変幻の刃が、自分の身体に刻まれる痛みを超えて、犬鳳凰の口を大きく、深く、より裂き開く。


 短期決戦を狙うイレギュラーズの猛攻は続いていた。
 連続攻撃により、高い抵抗力と回避能力を殺して状態異常を撃ち込めたのが大きかった。
 怒り狂う妖はその生命力の高さで未だしぶとく空を舞っているものの、その身体にはいくつもの傷が刻まれている。
 戦いはまごうことなく、イレギュラーズの優位に進んでいた。
 ――だからこそ。
「――逃げます」
 黒子は真っすぐに敵を見据えながら、大きく羽ばたく敵を見た。
『が、が、あ、あ!!――』
 なりふりを構わず、振り払うように空へ。
「獲物は逃さねーぞ、猛禽舐めんなよ?」
 それを追ったのはカイトだった。
「風は俺の味方だぜ――」
 追い越し、上空へ。
 明確に浮かぶ畏怖の表情を見据え、真っすぐに降下する。
 進行方向を変えんとする犬鳳凰の先手を撃ち、その頭部目掛けて蒼き三叉が走る。
 打ち落とす必中の刺突は、約束されたかのようにそのまま第二撃を打ち下ろす。
 狙い澄ました軌道が犬鳳凰の片目を潰し――
『お、お、お――』
「――獲物は逃さないって言ったよなぁ?」
 にやりと笑えば、隻眼が忌々し気に殺意を籠めてカイトを見ていた。
「カイトの旦那! 頼むぜ!」
 振り仰いで告げると同時、ゴリョウは一気に後退する。
 目指すは後衛。
 切れたヘイトコントロールの間に振りまかれた状態異常に苦しめられた後衛陣。
 懐から取り出した携帯食料を彼らの口に放り込めば、美味しさに目を見開いた仲間が異常を振り払う。
「神としての矜持もないんだね……」
 カインは落ちてくる犬鳳凰へ視線を向け、儀礼剣を横に引いた。
 奔るは不可視。見えざる斬撃は犬鳳凰をその場に括り付けるように真っすぐに打ち据えられる。
 度重なる攻撃に、片翼が千切れかけ、落ちる速度が上がっていく。
 黒子もそれに応じるように術式を起こしていた。
 事前にやや前寄りにいたのは、『逃げ』への追撃。
 だからこそ、落ちてくる敵には手早い――向けた掌で犬鳳凰の『当たり前』を、その最後の一かけらを奪い取る。
 胡桃もまた、恐らくは最後の一撃となせるであろう蒼炎を纏い、犬鳳凰目掛けてけしかける。
 ゆらゆらと、鬼火の如く蛇行しながら、それでいて読み切ったように犬鳳凰へと走る蒼炎が、その背中へと着弾する。
 爆ぜるようにして開いた蒼炎が、犬鳳凰の身体へと迸って、大気に尾を引いた。
「まぁ、何か事情はあったのかも、等と思うところがない訳ではありませんが……
 それでも、これ以上は放っておく訳にはいきませんでしたので。悪く思わないでくださいね?」
 ノワールは熱砂の悪意を起こし、あらん限りの気力を注ぎ込む。
 収束した魔力が、気力が、熱砂を変質させ、刃を形作っていく。
 射出された刃は真っすぐに走り抜け、まだちゃんとついている片翼を中ほどからへし折って見せる。
 鶫は落ちてくる獣に視線を向け、引き金を引いた。
 最後の弾丸は吸い込まれるようにして、ほぼ千切れかけていた翼を抉り取る。
「お覚悟を……」
 大口を開け、道ずれにせんばかりに落ちてくる妖へ、希紗良は静かに太刀を向けた。
 自重がかかる妖が、太刀に覆いかぶさり――真っ二つに切り裂かれた。


 戦いを終えた後、カイトと希紗良を中心に本殿の掃除を行なったイレギュラーズは、下山をしつつあった。
 案内されてたどり着いた村ではすでに歓迎と感謝の意を籠めた宴の準備が整っていた。
「それにしても……本物の神様はどこ行っちゃったんだろうな。喰われたか?」
「さて、な。そもそも最初からいなかったのかもしれぬし、どこかに行ったのかもしれぬ。
 そう言う意味では、貴殿の言う通り食われた可能性もあるが……分からぬよ。
 あるいは、アレが本来はそうであったのかもしれぬ」
 道すがら呟いたカイトの言葉に反応を示した義紹は腕を組んで考えた後、そう言っていた。
「ぶははは! やっぱ山菜はてんぷらが一番だな!」
 ゴリョウは村の特産だという山菜とスパイスをもらい受け、そのままそれを天ぷらに揚げている。
「ほほう、これは美味そうだ。ゴリョウ殿は料理が上手なのだな」
「各務の旦那もどうだ! 揚げたては美味いぞぉ!」
「ありがたく馳走になろう。どれ、一つ、二つお願いできるだろうか」
「おうよ!」
 小皿に盛り付け、塩と天つゆを提供したゴリョウはその視線を次に並んでいた胡桃に向ける。
「コャー。わたしもくださいなのよ」
「おう、大丈夫だぜ! どれにする?」
「えっと……」
 各々の前に料理が運ばれてきたあたりで、鶫は乾杯の音頭を取る。
「みんな、お疲れ様、無事で何より。それじゃあ……乾杯」
「やっぱり依頼を終えた後の宴は格別に美味しいよね!」
 ふんだんに盛りつけられた山菜たちを目の前にカインも頷いて見せる。
 塩を付けて口にかじりつけば、独特の苦みと塩の味がじわりと口の中に溶けて広がっていく。
「山菜料理でありますね。山の幸、ありがたく頂くでありますよ」
 山の恵みと作ってくれた村人への感謝を告げ、ぺこりと一礼をしてから、希紗良も皿に盛りつけられた山菜料理に目を向ける。
「こちらは、何のお料理でありますか?」
「それは……たしかふきのとうを味噌を絡めて炒めた物だな。
 中々、いい味ではある」
 返ってきた答えに、ほう、と息を吐いてから一口舌鼓を打つ。
 多種な料理に舌鼓を打ちながら、視線を村人たちの方に。
「政はよく分からないでありますが……どうして人は権力に溺れるのでありましょうな。
 『悪しきもの』がこの国から駆逐されたならば、皆で手を取り合い、空いた穴を埋めつつ進めばよきものを……」
「それほど魅力的なのかもしれぬし、場合によってはそうせざるを得ないこともあるのだろう。
 我々だって、刀を抜かれて友人を殺すと言われれば刀を取る以外に道は無いだろうから」
「やはりよくわからぬのであります」
 並べられた料理に箸を進めていく。
「ふふ、楽しいねえ」
 そんな面々の様子を眺めながら、鶫も仲間たちの方へ声を掛けに動く。
 戦いの疲れを癒すように、その日の食事は続くのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
これにて妖怪退治終了でございます。

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