PandoraPartyProject

シナリオ詳細

真紅の女王はなびかない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●娼館『ヘヴンズローズ』
 とある開店前の娼館で、その一幕は繰り広げられていた――。
「言ったでしょう? 執事さん。私はあなたの雇い主の養女になるっもりはないの」
 艶やかかつ扇情的なデザインの真紅のドレスを着こなす美女――娼婦の1人と思われる彼女は、身なりのいい壮齢の男性と話し込んでいた。
「しかし、約束通り身請け金はお渡ししました。そちらが契約を守らないのは理不尽かと――」
 そう言って眉をひそめる執事だったが、娼婦の『カルミア』は相手を突き放す。
「本気であのオーナーがナンバー1の私を手放すと思ったの? 払ったお金は勉強代だと思ってあきらめることね」
 「しかし……」と食い下がる執事を制して、カルミアは更にまくし立てる。
「どうしてもと言うなら、娼館を丸ごと買い取らない限り無理ね。オーナーが首を縦に振るとは思えないけど」
 踵を返すカルミアに向かって、執事は問いかけた。
「あなたは……本当に今のままでよろしいのですか?」
 遠ざかるカルミアの背中は、ぴたりと止まった。そして、執事にしか聞こえない声でつぶやいた。
「私を慕ってくれている女の子たちを残して、私1人が出ていく訳にはいかないわ」
 その直後に、50代ほどの小太りの男――オーナーが店の奥から姿を見せた。
「カルミア、話は済んだかい?」
 オーナーの『シモンズ』は、娼館のボーイ兼用心棒の男たちを複数従えて現れる。
 オーナーから猫撫で声で話しかけられたカルミアは、「オーナー、話があるの」と険しい表情で切り出した。
「オルガから聞いたの。そこのラングがうちの商品に手を出しているってね」
 ボーイの男の1人はカルミアから名指しされ、慌てて弁解する。
「オ、オルガに何を吹き込まれたのか知らねえが、誘ってきたのはあの女だぜ?!」
 だが、カルミアは「クズの常套句ね」と一言で切り捨てると、
「もう少し利口に振る舞ったらどうなの? オルガのアザをどう説明する気? あんたの代わりなんていくらでもいるのよ」
 オーナーもカルミアに呼応し、ラングに対し冷たくあたる。
「聞いたな、ラング。お前はクビだ」
 ラングは顔を真っ赤にして怒りを抑えていたが、
「甘やかすにもほどがあるぜ、オーナー」
 最も大柄で体格のいいボーイが抗議した。ボーイのハーヴェイに続き、いかにもな悪人面のジェイも畳みかける。
「これで何人目のボーイをクビにしたと思ってる? 調子に乗り過ぎるな――」
 「しつけのなってない犬を連れてくるあんたが悪いのよ!」とカルミアはボーイのジェイの言葉を遮った。ジェイは咄嗟にカルミアの肩を突き飛ばそうとしたが、それよりも速くカルミアの扇子がジェイの手を張り飛ばした。
 カルミアは筋骨隆々のジェイにも劣らない迫力で相手を睨みつけながら、
「気安く触らないでよ……脳筋のあんたとナンバー1の私が対等だなんて思わないでよね。ここではナンバー1の私がルールなのよ!」
 カルミアの鋭い怒声が店中に響き渡る。
 オーナーは気の強いカルミアに味方することを惜しまず、続けて念を押した。
「いいな、お前ら。うちの商品に傷をつけるようなバカは、この店に置くつもりはないからな?」

●カルミアと貴族の関係
 ローレットを訪れたのは、身なりのいい壮齢の男性――とある貴族に仕える執事だった。
「『ヘヴンズローズ』という娼館をご存知ですか? そこで働いている、『カルミア』というお嬢さんを連れ出してほしいのです」
 依頼内容に耳を傾ける特異運命座標の面々に対し、執事の男性は事情を語り始める。
「カルミア嬢は、我が主の妾の娘――つまりは隠し子ということですな」
 何やら複雑な事情を感じさせるが、執事は包み隠さずにカルミアと主人の関係を説明する。
「我が主はカルミア嬢を引き取り、そばに置きたいと考えていたのです……しかし、娼館のオーナー『シモンズ』は強欲な男で、散々身請け金をぼったくっておきながら、カルミア嬢を引き渡すことを拒み続けているのです」
 それを腹に据えかねた執事の主は、実力行使という手段を選び、ローレットを頼ることにしたそうだ。
「連れ出す手段は問いません。主の屋敷までお連れする手はずは私の方で整えますので、娼館から離れた場所で落ち合いましょう。ただ――」
 誘拐そのものを要求されている訳だが、執事は更に条件を加えてきた。
「あなた方が我が主からの依頼を引き受けたことは、決して悟られないようにお願い致します」
 カルミアが貴族の隠し子であることを、カルミアもシモンズもまだ知らない。シモンズは悪徳商人として評判で、カルミアの血筋のことで更に金をせびらないとも限らない。ローレットとの結びつきを悟らせないためにも、カルミアをさらう無法者を装うことが鍵となるだろう。
 執事は更に娼館の用心棒についても触れる。
「オーナーは屈強な用心棒も雇い入れています、ご注意ください」
 娼館には8人のボーイが在籍している。いずれも用心棒の役目を担っており、その中でも『ジェイ』と『ハーヴェイ』というボーイは抜きん出て強い。チンピラ風情とは違い、元騎士らしい屈強さを備えている。
 シモンズは、借金の形として連れてきた娘たちを娼館で働かせ、娘たちの自由を奪い荒稼ぎしていた。カルミアも母親を亡くした時以来、借金返済のため働かされているとか。
「カルミア嬢は気が強いことで評判ですが、娼館で働く女性たちを守りたい一心で気丈に振る舞っている節があります……」
 執事はカルミアの事情を知りつつも、改めてイレギュラーズの面々に依頼の完遂を願い出る。
「くれぐれもよろしくお願い致します……何とぞ、カルミア嬢の出生についてはご内密に」
 執事は最後に、娼館に赴くイレギュラーズのために、娼館でまあまあ豪遊できるほどの資金を提供することを約束した。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

 あえてヒールを演じ、ローレットを経由した貴族の差し金であることを悟られないようにしてください。シモンズなどに気づかれた時点で依頼は失敗となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 依頼主の存在に気づかれずに、娼館から『カルミア』を連れ去ること。

 シモンズやその用心棒たちの妨害は必至です。用心棒らを皆殺しにしようが、娼館を跡形もなく吹き飛ばしたとしても、依頼の成否には影響しません☆ いい感じに別の目的でカルミアを誘拐した体を装うことが重要です。

●考えられるパターン
「『ゲヘヘ、いい女じゃねえか……』て感じで誘拐しよ!」
「女だけど、堂々と客として利用させてもらうわね」
「ここは男装して行こうかな」
「商売敵のフリをするとか……?」etc…
 ※無理矢理連れ出す形になると、カルミアもかなり抵抗することが考えられます。

●戦闘場所
 主に『ヘヴンズローズ』の娼館。
 1階はキャバクラのようなラウンジ。2階には個室のVIPルームなどがあります。店のシステム的には、いろいろなサービスがあるキャバクラっぽいもの。

●敵の情報まとめ
 用心棒×8人とシモンズを含めた9名。
 元騎士のジェイとハーヴェイは、2メートル近い体格に恵まれた大男。他6名はチンピラモブ。シモンズは逃げ回るだけの雑魚同然です。
 共通する攻撃手段は、肉弾戦(物至単)。ジェイの武器はナックル、ハーヴェイの武器はトンファーです。シモンズはたまにオートマチックで攻撃します。いずれの用心棒も、シモンズをかばう行動を取ります。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。

  • 真紅の女王はなびかない完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月21日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
火夜(p3p008727)
夏宵に咲く華
久遠・N・鶫(p3p009382)
夜に這う
レべリオ(p3p009385)
特異運命座標

リプレイ

 カルミアを連れ去る計画を遂行するため、イレギュラーズはあらゆる策を講じた。
「さあ、今夜は貸し切りだ!」
 貴族に扮した『夜に這う』久遠・N・鶫(p3p009382)が娼館に通ったのもその1つ――。依頼主から提供された資金を有効的に活用し、鶫は貴族として店での羽振りのよさを見せつけた。シモンズはすっかり鶫のことを上得意として扱うようになっていた。
 店での貸し切りパーティーを高らかに宣言した鶫は、カルミアを含めた13人の娼婦たちを1階のラウンジに集めてハレームを満喫――しているように見せかけて、与えられた役割を真面目に演じる。
「鶫さんて、いつもすごく紳士的ですよね♡」
「本当よね、他のオヤジ客とは大違い♪」
 口々につぐみのことをほめそやす娼婦たち。鶫の両隣に座った2人は、特に胸の当たりを密着させては愛想を振りまく。
 目のやり場に困るような露出度高めのドレスを着た娼婦ばかりが集う中、『木漏れ日の先』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)はその内の1人として違和感なく色香を放っていた。
 娼婦として店に潜入したヴァイオレットは、カルミアに接触を試みていた。
 鶫を狙って襲撃を仕掛けるものの存在、その隙に乗じて娼婦たちを安全に逃す計画――それらをカルミアはヴァイオレットから聞かされた。
「あなたたちを巻き込むのは本意ではない方がいる――今はそれだけお伝えしておきます」
 カルミアはヴァイオレットの言葉を最初こそ訝しんだが、互いの協力なしでは最善の結果は得られないと判断し、ヴァイオレットに手を貸すことを約束した。
「これからもへヴンズローズをひいきにしてね、鶫さん」
 高級ワインのボトルをにこやかに掲げると、
「これは私からのサービスです」
 鶫は店の者たちを労いたいという口実で、
ボーイ、シモンズを含めた従業員全員のグラスの準備をさせた。


 ――いい流れね。ヴァイオレットと鶫はうまくやってくれてるみたいね。
 『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は鶫が胸ポケットに忍ばせたファミリアー――使い魔のハムスターと聴覚を共有し、突入の合図を人知れず待ち構えていた。
 従業員全員がラウンジに集められ、全員がグラスを手にした。カルミアは乾杯の音頭を取ろうとしたが、その直前で何者かが正面のドアを開け放った。
 ドアを蹴破るようにして店内に踏み入る複数の影――マフィアのようにスーツを着こなしたレジーナたちは、店中の視線を集めた。
 ライフル銃を手にした『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)は、天井に向けて引き金を引いた。ルルリアの威嚇射撃によって、その場の空気は一挙に凍りつき、ただならぬ威圧感を抱かせた。
 レジーナは貴族役の鶫を睨みながら一歩踏み出すと、
「こんな店貸し切って豪遊とは、つくづくお貴族様は羨ましいわねぇ」
 堂々と店に侵入し、不遜な態度を見せるレジーナに対し、ジェイは食ってかかる。
「なんだ、お前らは?! 何が目的だ――」
 ルルリアがジェイに銃口を向けるのと同時に、『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)も刀の切っ先を向けた。
「一体何の真似だ?!」
 一晃は鶫の護衛役として同行し、店の者にもその顔を知られていた。目を見張るジェイをけん制しつつ、一晃は鶫を見据えて言った。
「悪く思うな、恨みを買ったら返されるのが世の道理よ」
 鶫を裏切り、レジーナたちに協力する素振りを見せる一晃。鶫はどこか余裕のある態度で一晃とその面々を眺めて――。
「ひどいなぁ、裏切るなんて……。関係ない子たちまで巻き込まないでくれないか?」
 その直後、ラウンジの隅に飾られていた花瓶がひとりでに砕け散った。一部の娼婦たちが悲鳴をあげるのを一瞥し、レジーナは花瓶にかざした手を下ろして言った。
「御免なさいね。ついイラッとして手が滑ったのだわ」
 真顔を崩さないレジーナの横で、『夏宵に咲く華』火夜(p3p008727)は鶫をクズ男扱いし、もっともらしい理由を語る。
「あの方に手を出しておいて、随分楽しそうにやってんだねぇ。この店の女の子まで悲しませるつもり?」
 火夜に呼応して、ルルリアも鶫への敵意を露わにする。
「ゴミみたいな貴族の利用する店なんて貴族ごと潰してやりましょう。彼の享楽に手を貸しているだけで有罪です」
 殺気立つ空気の中、ヴァイオレットはシモンズにこそこそと耳打ちするボーイの言葉を聞き取った。
「やっぱり、あの客がやばい女に手を出しているっていう噂は、本当じゃ――」
 裏工作として流布させた噂――鶫の悪評をシモンズらは信じ切っているようだった。
 ボーイとシモンズが顔を突き合わせている間にも、火夜は目の前のソファーを躊躇なく叩き潰した。
「ついでにこの店も、全部ぶっ壊そう!」
 自身の身の丈を超える大太刀を担いだ火夜の一言が、不穏な空気を増幅させる。
「そうね。ムカつくし店ごと消してしまいましょう、ね? ここのオーナーの下劣な商売も好きじゃなかったのよ」
 そう言い切るレジーナに対し、シモンズは烈火の如く怒鳴り散らす。
「どれだけ勝手な真似すれば気が済むんだ?! 礼儀ってものを教えてやれ!!」
 ボーイたちがそろってイレギュラーズと対峙する中、カルミアは娼婦たちをスタッフルームの方へと避難させる。
 カルミアと共に娼婦たちを誘導するヴァイオレットの姿を認めつつ、『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)は身構えるボーイたちに向けて、鋭い殺気を放つ。
「我々はそこの貴族に用がある、邪魔をするなら殺す」
 イレギュラーズであることを悟られないよう、『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)はあえて寡黙に身構えていた。その他のチンピラ風情のボーイたちとは違い、一線を画する威圧感を放つジェイとハーヴェイ。依頼遂行の妨げに成り得るその2人に、迅は特に注意を払った。
  ハーヴェイはカウンター裏から小振りのトンファーを持ち出すが、その間にも一晃は先手を取る。一晃はソファーを踏み台にして跳躍し、凄まじい速さでボーイの1人――ボーイAに迫った。ボーイAを袈裟斬りにし、ほんのわずかな間に斬り落とされた体の一部が転がる。ボーイAは、そのまま絶命した。
 乱闘の火蓋を切ると共に、鮮血を散らす一晃を前にして、あからさまに震えが止まらなくなるボーイもいた。乱闘と言うよりは殺し合いの様相を深め、大半のボーイたちは顔色を変える。弱腰のボーイBからFに比べ、元騎士でもあるジェイとハ―ヴェイは動じる様子を見せなかった。
「――よっし、殺っちゃうよー♪」
 華奢な見た目に反して、火夜は大太刀を軽々と振り回す。そんな火夜に下っ端のボーイは震える拳をがむしゃらに突き出してくるが、火夜の間合いに踏み込んだ時点で結果は決まっていた。相手を峰打ちにする火夜はボーイを吹き飛ばし、その宙に浮いたボーイはルルリアの射撃を食らう。撃ち出された無数の風の刃がボーイBの体を貫き、ルルリアは射撃の腕でボーイらを圧倒する。
 ――お金を得るために欲を張り、借金で女の子たちをしばりつける……ルル、こういう輩は大っ嫌いなのです。
 シモンズの悪徳商人ぶりに対し、ルルリアも他の者も同情の余地はないという考えに至っていた。カルミアを救い、シモンズに縛られている娼婦たちを解放する手段、それは単純無慈悲なもの――すべてを奪い、すべての口を封じしてしまえばいいだけのこと。腰を抜かしてへたり込むボーイCにも容赦はせず、レジーナは衝撃波を放つと共にボーイCの体を切り刻んだ。
 シモンズは柱の影に隠れ、「さっさと追い出せ!」と命令するだけだった。
 従業員の命よりも店の被害額の計算に余念がないシモンズは、いち早くあることに気づいた。
「あの疫病神がっ!! どこ行きやがった?!」
 シモンズは鶫がラウンジから姿を消したことに気づき、開け放たれたままのスタッフルームのドアを見つけて駆け寄った。
 シモンズは鶫を追いかけるようジェイを促し、ジェイはボーイFを引き連れてドアの向こうへすばやく向かった。
 迅も鶫たちの窮地を察し、誰よりもはやくジェイとシモンズたちの跡を追いかけた。その他のボーイたちもジェイの跡に従おうとしたが、ライフル銃を構えたルルリアはドア付近の天井を狙う。ルルリアの銃撃は天井の一部を破壊し、ドアを塞ぐように瓦礫の山を築いた。
 ドアを塞がれ、進路を阻まれたハーヴェイは即座に振り返る。それと同時に、手甲を身につけたレベリオはハーヴェイに向かって飛びかかった。すでに真っ赤に染まった意匠がハーヴェイの視界に飛び込む――レベリオの手甲はハーヴェイのトンファーとかち合い、ハーヴェイは全力でレベリオを押し返した。
「ここで死んでもらおうか……」
 そうつぶやくレベリオと、ラウンジに残ったレジーナ、ルルリア、火夜、一晃を見渡すハーヴェイ。すでに死んだボーイよりも、少しは気骨がありそうなボーイDとEがハーヴェイに付き従う。
「このイカレ野郎共が……!」
 息巻くハーヴェイは、イレギュラーズを返り討ちにしようと、明らかな殺意を燃やしていた。


 ジェイとシモンズ、ボーイFを追いかけた迅は、裏口へと続く廊下に出た。
 丁度娼婦たちが店の外に出ていく最中で、鶫はその最高尾に並んでいた。鶫の姿を見つけたシモンズは、鬼の形相で止めようとしたが――。
 背後から天井が崩落する音が響き渡り、そちらに気を取られる。その直後に、ボーイFは迅の一突きによって気を失った。力なくもたれかかるボーイFを、ジェイは鬱陶しそうに廊下の床に放り出す。
 迅と対峙するジェイを見たシモンズは、こそこそと脇の部屋に隠れた。ヴァイオレットやカルミアと、娼婦たちを店から遠ざけることを優先しようと、鶫はひとまずその場を離れた。
 大柄な体躯のジェイは廊下を塞ぎ、迅の前に立ち塞がる。
「目標も、目撃者も消せと言われた。――指令は絶対だ」
 自身を見下ろすジェイに対し、迅は毅然とした姿勢で言った。
 ジェイは不敵な笑みを浮かべ、明らかに迅を侮った態度を見せる。
「それは俺とお前次第だが――潰されるのはお前の方だろ?」


 裏口の方から何か激しい物音が、店内のラウンジまで響いてきた。状況を推察した一晃は――。
「俺はシモンズを……あの男を追う。ここは任せたぞ」
 標的である鶫を追いかける演技をし、店の裏側へ回り込もうと、正面の出入り口に向かう。
 ハーヴェイらは一晃を止めようとするも、他の4人がその進路を妨げる。ハーヴェイとボーイ2人は、やむなく4人の相手を続ける。
 レベリオは積極的にハーヴェイの相手を引き受け、激しくぶつかり合う。両手に構えたトンファーを巧みに扱うハーヴェイは、レベリオにも引けを取らない動きを見せつける。レベリオ自身も食い下がるハーヴェイを凌駕しようと、徹底的に攻撃を繰り返していた。
 一方で、ボーイDとEは2人がかりで火夜を打ち負かそうと挑んだ。ボーイDは椅子を掲げて殴りかかったが、レジーナやルルリアがそれを見過ごすはずがない。
 衝撃波を放つレジーナは椅子ごとボーイDを吹き飛ばし、ボーイDは耳障りな音を立てて壁に激突した。そのまま動かなくなるボーイDを一瞥するボーイEは、じりじりと火夜たちに距離を詰められる。
「ねえ、お兄さん。契約書とか、借金の証文の場所とか知らない?」
 血のついた大太刀を携えながら、火夜は無邪気にボーイEに尋ねた。ボーイEは「そ、それは……」と口籠る様子を見せた。しかし、火夜がその様子に気を取られた瞬間、ボーイEは店の出入り口へと走り出す。ルルリアは瞬時に引き金を引き、ボーイEをドアの手前で仕留めた。
「まあ、知ってても殺す以外ないけど、ねぇ?」
 ボーイEの最後を見届けた火夜は、そう言ってレジーナと顔を見合わせた。その間にも、レべリオはハーヴェイの相手に集中し、伯仲する戦いを繰り広げていた。しかし、ハーヴェイも容易に隙を見せるような真似はせず、拮抗した状態を突破する手段を用いる。
 ハーヴェイは瓦礫の一部をレべリオの顔面に向けて蹴り上げ、そのわずかな間にレべリオを至近距離に捉えた。レべリオは思わず顔をかばいながらもハーヴェイの動きに反応し、その場から飛び退こうとした。
 ハーヴェイのトンファーは、紙一重の差でレべリオの脇腹を強打する。レベリオは仮面の下の表情を歪めながらも攻撃の構えを崩さず、迎え撃つ動きを見せた。追撃を試みるハ―ヴェイだったが、ルルリアの銃撃がその動きを阻む。加勢しようとレベリオの下に駆け寄るレジーナや火夜を見て、ハーヴェイはにやついた表情で言った。
「女なんかの手助けが必要なのか?」
 ハ―ヴェイの言動はレベリオを挑発すると同時に、レジーナたちに対する侮蔑とも取れた。
「そういうあなたのボスは、女性から自由を奪い、搾取して利用している――」
 そう言うレジーナの鋭い視線は、一層の殺意をにじませていた。ルルリアも銃口を向けながら、ハーヴェイを罵る。
「そんなクズと同類のあなたは、女以下の存在ですね」
 ハーヴェイがルルリアを見据えた瞬間、火夜の一太刀がハーヴェイを薙ぎ払おうと迫った。トンファーで衝撃をいなそうとしたが、勢いに押されたハーヴェイは背中からソファーに激突する。
 火夜は一見愛らしい笑顔を浮かべているが、ハーヴェイを容赦なく痛めつける気構えを見せた。
「女の子の強さ、命懸けで思い知ってね?」
 可憐な容姿から誰もが女子と見紛う火夜だが、「僕は男だけどね☆」と一言付け加えた。


 火夜たちがラウンジの標的を一掃していた頃――。
 ジェイは迅の反撃によって裏口のドアを突き破り、店の外へと転がり出た。
「ふざけやがって、ぶっ殺す!!!!」
 ジェイは怒号と共に即座に起き上がり、体術を駆使する迅を迎え撃とうとする。
 店の裏側に集められた娼婦たちは、ドアから飛び出してきた迅とジェイの様子を遠巻きに眺める。そこにはカルミアを含めた娼婦たちに付き添うように、ヴァイオレットと鶫の姿もあった。
「契約書などの在り処がわかれば、一緒に燃やしてしまいましょう……シモンズはどこでしょうか?」
 ヴァイオレットは鶫と計画の流れを確認し、シモンズの所在を気にかける。
「俺たちの跡についてきたはず……まだ店の中にいるんじゃ――」
 そう言いかけた鶫の足元に向けて、銃弾が撃ち込まれる。娼婦たちは発砲音に驚き、大きくどよめいた。
 シモンズは「動くな!!」と声を張り上げ、オートマチックの銃口を向けて鶫たちをけん制する。
 鶫は上着の下のリボルバーを抜こうと手を伸ばしかけたが、カルミアたちを銃撃戦に巻き込むことを恐れ、
「はいはい……逃げも隠れもしないよ」
 そう言って、鶫はシモンズに向けて両手を掲げて見せた。
 ヴァイオレットはさりげなく鶫と目配せし合い、おとなしく好機を窺う。
「お前のせいで、うちは大損害だ!! どう落とし前つけてくれるんだ?! あぁん?!!」
 興奮状態のシモンズは鶫に詰め寄り、仕切りに銃を向けてくる。シモンズをなだめる鶫は、頭をフル回転させながら打開策を練っていた。
 一方で、シモンズの背後では――。


 完全に頭に血が上ったジェイは、迅と激しい殴り合いを続けていた。がむしゃらに目の前の迅を倒そうと、ジェイはナックルを装着した拳を幾度となく突き出す。果敢に食い下がる迅の拳は、巨躯のジェイも押し負けるほどの突きを次々と打ち込む。
 互いに打ち身だらけになる中で、ジェイは迅の腕を捕らえた。そのまま迅の体を引き倒したジェイは、迅の上に馬乗りになろうとしたが――背後から走り寄る足音が聞こえ、ジェイは反射的に振り返る。
 刀を抜いた一晃がジェイの目の前へと迫り、一晃は大きく跳躍して刀を振り下ろした。ジェイはナックルの鋼の部分を突き出し、紙一重の差で一晃の刃を弾く。その際に金属同士が触れ合う音が一帯に響き、シモンズの注意が一瞬鶫たちから逸らされた。
 シモンズがジェイに視線を向けた瞬間を利用し、ヴァイオレットと鶫は行動に出る。
 タロットカードを手にしたヴァイオレットは、銃を持つシモンズに向けてそれを放った。カードは鋭利な刃と化し、シモンズの手の甲に突き刺さる。シモンズが思わず銃を取り落とした直後、鶫は瞬時にリボルバーを抜き、シモンズの右足を撃ち抜いた。
 シモンズは痛みに悶えて悲鳴をあげ、その場にくずおれる。シモンズの銃は鶫によって離れた場所に蹴り飛ばされ、シモンズはたちまち無力な状態に陥った。
 一晃が駆けつけたことで、迅とジェイの形勢もたちまち入れ替わる。迅はジェイに足払いをかけ、ジェイが態勢を崩した瞬間、強烈な一撃をミゾオチへと放った。吐血したジェイはよろめき、苦悶の表情を浮かべながら膝を着く。
 至近距離にジェイを捉えた一晃は、介錯を務めるように、ジェイの首筋に刃を宛てがう。一晃の刀は見事な切れ味を放ち、ジェイは一瞬でその命を散らした。


「お、お前……!」
 ヴァイオレットから攻撃されたことを認識し、シモンズは目を見張る。
 鶫とヴァイオレットに見下されるシモンズは、多くを察して懇願した。
「た、頼む! 情けをかけてくれ……! 金が欲しいならやる……っ、うちの商品をくれてやってもいいぞ!」
 娼婦の彼女たちを物扱いするシモンズに辟易しつつも、鶫はシモンズを脅して契約書の場所を聞き出した。
「ふーん……女の子も言ってたけど、やっぱり執務室にあるのか。じゃあ、もうあんたに用はないね――」
 そう言って、鶫は更に銃口を突き出す。
 シモンズは情けない声を上げ、震えながら往生際の悪さを見せつける。
「今までいい夢を見ていたのでしょう? ならば次は、永久に醒めない夢に彷徨うと宜しいでしょう……」
 そう静かにつぶやいたヴァイオレットの背後には、不気味にうごめく黒い影が現れ、シモンズを一層恐怖させた。


「お疲れ様、皆さん」
 メイド服姿の女性――に見える青年、ミハイル・カレンツカヤは、2人のメイドと荷車を引き連れて現れた。
 ヴァイオレットたちの前に、苦悶の表情を浮かべたシモンズの死体が晒されていようと、ミハイルは何食わぬ顔で言葉を続ける。
「麗しの薔薇の為に、ボクも手伝わせてもらうよ」
 荷車には大量の着火剤や燃料が満載されていた。ミハイルはレジーナの指示通りに動き、惨状の証拠隠滅を図るため、娼館諸共燃やし尽くす準備を始める。
「いや……お願い、殺さないで!!」
 1人の娼婦がパニックを起こしかけたが、カルミアはすべての事情を娼婦の皆に打ち明けた。その頃にはラウンジに残っていた4人もカルミアの下に集い、執事から依頼を受けたことをカルミアに伝えた。
 「まさかここまでやるとはね……」とカルミアはシモンズの死体を一瞥してつぶやいた。
 借金は帳消しになったが、帰る場所を失った娼婦――彼女たちに、ルルリアは自らの領地を移住先として提案した。
「せっかく自由になれたのですから、皆さんには幸せになってほしいんです」
 ルルリアの提案に対し、何人かの娼婦は前向きな反応を示した。
 無事に執事と合流したカルミアは、一時的に貴族の父親に彼女たちを庇護させる約束を取り付けた。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
女の子たちを助けるためなら容赦なしな皆さんの連携が素晴らしかったです。
カルミアは商魂たくましい子なので、元娼婦の女の子たちと何か商売を始めたりする……かもしれないです。またどこかでイレギュラーズのお世話になるかもしれません。

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