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シナリオ詳細

<アアルの野>神の目を盗んだ男と、名を盗まれた娘

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●神の目をもつザイード
 はじめに昔話をしよう。
 ここではないどこか、いまではないとき。A0201地球世界エジプトの暗殺者ザイードの物語である。
 戦後分けあって暗殺者ギルドへと身を堕とした戦士は、あるとき暗殺対象となった王族の娘ハーラに恋をした。
 恋は彼に刃を落とさせ、暗殺者であることをやめさせた。
 彼は表にも裏にも身を置くことが出来ぬ黄昏の民ザイードとなった。
 だが運命は彼に黄昏を許さなかった。娘ハーラは暗殺され、その命を落としたのである。
 悲しみと絶望に暮れるザイード。
 だがひとつの希望が彼を動かした。
 王宮の隠し宝物庫に眠る『神の目』を盗み出すのだ。
 この秘宝をもってすれば、ハーラの命は蘇るのだ、と。
 ザイードはむせ返るほどの魔術と罠と黄金の神像兵たちを掻い潜り、見事その秘宝を手に入れた。
 悲願は叶い、ハーラは蘇った。
 そして彼女は隣国の王子と結婚し、子をもうけ老い、安らかにその世を去ったという。

 だから。

「こんな場所にいるはずがねえ……『ハーラ』!」
 王族らしい煌びやかなドレスに身を包んだ娘は、世にも美しく可憐に笑った。
「はい。わたしは『ハーラ』。あなたその名を、くれたのよ?」

●スフェーンの残光
「よう、上手くいったなキドー」
 ここはラサ、ファルベライズ遺跡群――の前にできた露店街。
 ローレットが絶え間なくダンジョンに挑み、そのたびに色宝の運搬が行われるということで目をつけた中小の商人達がダンジョン攻略に役立つ携帯食料やらロープやらの消耗品を売り始め、さらには飯屋が開かれ、やがては立ち飲み屋ができあがった。
 動きあるところに利益あり。利益あるところに商人あり。旺盛なラサ商人たちのタフネスがうかがえる光景である。
 そんな立ち飲み屋の一角で、ザイードはキドー(p3p000244)の肩を乱暴に叩いた。
 ジョッキのビールをこぼしそうになって舌打ちするキドー。
「ンだよ。分け前はくれてやっただろ。まだ何かあんのか?」
「とぼけてくれるなよ『ザ・ゴブリン』。お前等が『扉』を見つけたってネタはもう掴んでんだ。もっとヤバいお宝が眠ってるかも知れねえだろ?」
「…………」
「レーヴェン救出の時は邪魔しねーで助けてやったろ?」
 闇酒場は嘘吐き隠し事だまし合いは基本中の基本。しかしだからこそハッキリとわかることがある。
 ザイードの目的は大鴉盗賊団のように色宝ではないということだ。でなければ、『ヤバいお宝』などという言い方はしない。今勢いのあるローレットについていけば美味しい目があるかもしれないと、そういう考え方なのだろう。
「俺を雇っておくと、いい傭兵になるぜ?」
 この目と槍! とザイードを象徴する二つを指さしてみせる。
 もし成果がなくても傭兵代くらいは稼がせてくれという意味だ。
「わかったよ。ったく……まあ、今は人手がいるだろうしな」

 ファルベライズ遺跡群の奥。いくつもある『扉』を抜けた先にはクリスタルの遺跡が眠っていた。その更に先には、これまでとは比べものにならないほど強力な色宝が眠っているというのだ。
 だがここには『ホルスの子供達』と呼ばれる土人形たちが待ち構えており、これより先に進むのであれば彼らとの戦闘はさけられないという。
 大鴉盗賊団コルボたちも色宝を狙っている以上悠長にしてはいられない。
 ローレットには大規模かつ散発的な攻略依頼が無数に寄せられることとなった。
 ――そう、これはそんな攻略依頼のひとつ。
 ザイードを傭兵として雇って向かった先で出会った、『ホルスの子供達』との戦いの物語である。

●『ホルスの子供達』ハーラ
 ホルスの子供達。それは生きた土人形だ。
 肉体も生命も持っているが、魂(なまえ)だけを持っていない。
 彼らは死者の名を得ることで姿を映し、本当の意味で人間のように振る舞うことができるのだ。
 そして今、遺跡の中で遭遇した土人形はザイードのつぶやいた『ハーラ』という名前を奪い取り、美しい娘の姿をとっていた。
「おい、ザイード。なんだこいつ」
「説明してもいいが……」
 ナイフを構えるキドー。
 舌打ちするザイード。
 周囲の風景はザイードがかつて『神の目』を盗み出すために挑戦した黄金のダンジョンに姿を変えていく。
 まるでそれに伴うように、黄金の神像兵や黄金蠍たちが集まってきた。
「一旦退いて準備をし直したほうがよさそうだ。それでもゴリ押ししたいって奴は?」
「おめーの言うこと聞くみたいで癪だが、賛成だ!」
 神像たちが一斉に弓矢を放つ。魔法の籠もった矢は空中で幾本にも分裂し、ザイードは飛来するそれを槍の回転でもって防御。それでもすり抜けて突き刺さる矢を、右目のホルスアイによって瞬間治癒した。
 そこへハーラは鋭く接近し、魔力を纏った手でザイードの腕に触れる。
「ねえ、わたしにどうして欲しい? 好きって言って欲しい? 言ってあげる。わたしはハーラ。あなたの――」
「うるせえ!」
 強引に手を振り払う。握られた箇所から魔術性の毒や痺れがはしったが、ホルスアイで中和して走り出した。
「キドー、あとローレットの! こっちだ!」
 ザイードが案内するまま、キドーたちイレギュラーズは石壁で覆われた部屋へと逃げ込んでいく。
 扉を閉めて後、キドーは息を切らせたザイードへと振り返った。
「おい、そろそろ紹介してくれてもいいんじゃねえのか? あのオンナをよ」
 呼吸を深く。
 そしてため息を深く。
 ザイードは数秒おいてから、語り始めた。
「あれは、前の世界のことだ……」
 A0201地球世界エジプトの暗殺者ザイードの物語を。

GMコメント

■シチュエーション
 ファルベライズ深層、クリスタル遺跡を攻略中皆さんは『ホルスの子供達』と遭遇しました。
 彼らはどうやら同行していた助っ人のザイードを介し、かつて彼が恋した名前を奪い姿を得たようです。
 ザイードからその物語を聞かされたあなたは……。

■フィールド
・黄金のダンジョン
 ザイードがかつて『神の目』を盗むために挑んだという王宮地下の隠しダンジョンがある程度再現されています。
 石や金でできた大広間と複雑に入り組んだ通路で構成されているようです。

■エネミー
・『ハーラ』
 名前を奪って姿を得た『ホルスの子供達』。
 美しい王族の娘(それもザイードが恋をした若い頃のもの)が反映されていますが、戦闘能力は別物です。
 強力な魔術を用いた近接格闘戦を主体とし、様々なBS攻撃を扱います。

・神像兵
 一般成人男性くらいの大きさで作られた神像です。
 ゴーレム術式によって動き、魔術を込めた剣や弓矢によって戦います。
 数は初見の時点で5体ほどいましたが、ダンジョンのあちこちに散っているようで徐々に集まって数を増やしている様子です。

・黄金蠍
 神像兵とセットで動く巨大な蠍型ゴーレムモンスターです。しっぽの毒は『毒系BS』をもっています。
 こっちは数が少なく、中ボス的存在になりそうです。

■味方NPC
・ザイード
 今回はがっつり味方として活動する助っ人です。
 古代エジプト的世界からきたウォーカーで、槍を用いたオールレンジ戦闘と『神の目』を用いた治癒スキルが特技です。
 HP回復よりもむしろBS回復のほうが優れているようで、ハーラや黄金蠍によるBS攻撃へのリカバリーに重宝するでしょう。
 彼へやってほしいことがある場合はプレイングで指示するとおおむね聞き入れてもらえます。が、基本的には彼自身で考えて効率的に動いてくれるので指示プレイングは一切かけなくても構いません。
 絡んだりして仲良くしてあげてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <アアルの野>神の目を盗んだ男と、名を盗まれた娘完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月11日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
モニカ(p3p008641)
太陽石
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
玄緯・玄丁(p3p008717)
蔵人

リプレイ


 様々な石煉瓦を途方もなく積み上げて作られた壁と天井。等間隔に並んだたいまつの光が所々に描かれた壁画や床のタイルに怪しく影を踊らせている。
 この風景が、『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)にはどこか懐かしく思えた。
「ホルス、ホルスか……元の世界で慣れ親しんだ名前をこの世界で聞くとは思わなかったなぁ」
 閉じられた部屋の中で、仲間達は迫る戦いに向けて準備を進めている。情報を整理する者。武器を整える者。部屋からの脱出から先の作戦を立てる者。
 そんな中で、バスティスはある意味この迷宮の真意に触れようとしていた。
「ホルスってなんですか? 知らない単語ですが……」
 『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)が刀の様子を確かめながら問いかけてくる。
 バスティスは小さく頷いて返した。
「ホルス神の4人の子供たち。臓腑を護る者、棺の守護者、天の階段、カノプス壺……。こう、なんていうのかな死体を分割して保存して、復活するときに備えるみたいな。
 けど臓腑の代わりに色宝を使ってるから、死者蘇生とは別物だよね。
 生という状態の果てに死が存在していたように、名前からの情報を再現した命は死という状態からの紐付けがないんだ。上辺だけの『ソレ』を人は蘇生とは認識しえない」
「って、ことは……」
 『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)が刀を鞘にさくんと収めて振り返る。
「『ホルスの子供達』には悪意は無くて、人間になりたかっただけ……って思ってたッスけど」
「悪意とか願いとか、それ自体がないんじゃないかな。哲学的ゾンビってわかる?」
「わかんないッス」
「人間と全く同じ振る舞いをするし会話もできるし日常生活を全部同じようにできるけど、何も感じてないし考えない。人間の形をしただけのもの。だっけ?」
 『太陽石』モニカ(p3p008641)が手持ち無沙汰そうに爪の先端を手入れしながらつぶやいた。
「それよりさ、これって恋の物語だよね、素敵!
 こういうのってアレだよね! 想い人が偽物だと分かっていても、ついつい刃が曇ってしまう……みたいなシチュエーションだよね!?
 うーん、分かる、分かるよ! その感情は決して間違いじゃないよ!
 あはは、なんか楽しくなってきた!」
 盛り上がるモニカたちの一方で、千尋はだらだらと流れる汗をハンドタオルで拭っていた。
「めっちゃ走った……やべえってこれマジで……」
 壁に背をつけ、座りこむ千尋。
「キドーさんてこんなヤバいダンジョンに毎回挑んでんの? すげえな。
 だけど安心しな! 『悠久ーUQー』は仲間を見捨てねえ。仲間の仲間は俺の仲間よ」
 な! と言って親指を立てて笑う千尋に、ザイードは一秒ほど無言で見つめてから『ザ・ゴブリン』キドー(p3p000244)に振り返った。
「お前の人脈どうなってんだ?」
「ローレットってのはこういうトコなんだよ。入らなかったおめーは知らねえだろうけどな。しかし、ヒヒヒ……」
 キドーは悪そうに笑い、ザイードの肩をポンと叩く。
「恋に破れた暗殺者は愛する女の幸せの為に身を引きました。めでたしめでたし、ってか?
 メダルチャレンジの武勇伝の続きがこんな恋物語に終わるとはねえ
 はっ。殊勝なこって。裏界隈に身を置き続けるロクでなしとは思えないねえ、ヒヒヒ」
「うるせえゴブリン。お前だってあの話ホラだったじゃねえか」
 『腕のことだよ』とジェスチャーするザイード。キドーはそれをすました顔でかえした。
「なんでわかった?」
「もいだ本人に聞いた」
「あのじいさん自由かよ」
 やれやれと言って石の扉の前に立つキドー。
 そこには『狼拳連覇』日車・迅(p3p007500)と『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)が扉に背をつける形で立っていた。外から扉を破って神像兵たちが突入してこないように色々とやっていたようだ。
「思い出の君……ですか。故人にお会い出来るのは嬉しい事の方が多いと思いますが、こんな風にザイ―ド殿にとっての大事な思い出が使われるのは何だか嫌ですね」
「そうだねぇ。ハーラさんは、ザイードさんにとって大事な人だったみたいだしねぇ。
 ……わたしも、大事な人の姿をあの人形に取られたことがあるんだ。紛い物と分かっていても、気持ちを揺さぶられるよねぇ……」
 今回の事件は、どうしても月光人形やアルベドを思い出してしまう。
「わたし、頑張るから。勝とうねぇ、絶対に!」


 石扉が開かれる――と同時に、小柄な玄丁は通路側へと飛び出した。
 突然のことに身構える神像兵たち。
 そのうち数体が黄金の剣をぬくも、玄丁の動きはそれをはるかに上回った。
 抜刀が終わらぬほどの速度で神像兵たちの間をするすると抜け、彼の軽やかなステップと川の水が飛び石の間をすりぬけるようになめらかな風だけを残し、気づけば刀を振り抜いていた。
「では、行きましょうか」
 神像兵たちがバラバラに崩れていくその横を、鹿ノ子と迅。そしてザイードが駆け抜ける。
 キドーはギリギリ生き残っていた神像兵が足を掴もうとするのを、強引に蹴っ飛ばしてから後を追う。
「ダンジョンを変化させているのが色宝なら、その核になるのはハーラの名前とそれに関連する記憶か? だったら『ハーラ』を倒せばダンジョンと他の敵も消えるんじゃねえのか!?」
「どうかなあ。『ホルスの子供達』が偽造術式だとしたら、元を絶っても消えないんじゃないかな。投影術式とは違うように見えるし」
 バスティスはそんなことを言いながら走るスピードをあげ、カーブを豪快に壁を蹴るようにしながら走って行く。
「このエリアは迷宮的には新規に生えた横道にすぎん。『ハーラ』はあの広間から動いては居ないはずだ。だからどのみち、この通路は抜ける必要がある」
 ザイードは案内のため先頭を走り、通路を塞ぐように並ぶ神像兵へと槍を投擲した。
 黄金の鎧を貫く槍。
 そんな槍に飛び乗った鹿ノ子は、神像兵の首を切断しながら宙返りをかけ、その頭上を飛び越えていった。
 かぶとごと落ちた首。着地し、剣を水平に構える鹿ノ子。
(軽やかに! 艶やかに! 降り注ぐ数多の流星の如く!  天より落つる幾多の涙の如く!)
 更に鹿ノ子は加速し、他の神像兵を次々に斬り付けていく。
「たどり着いたら、せっかくの機会ですので何か言いたいことがあれば伝えてみるのも良いと思います。
 その場合はお早めに! 僕の拳はとにかくせっかちですので!」
 腕を巨大化させた神像兵が殴りかかるも、迅が横からそれをガード。根性で耐えきると、神像兵のどてっぱらに連続パンチをたたき込んだ。
 頑強な鎧にヒビが入り、しまいには崩壊し達磨落としのごとく崩れていく神像兵。
 そのパーツを蹴飛ばしながら走りやや広いフロアへ出たところで、今度は巨大な蠍型ゴーレムモンスター『黄金蠍』が現れた。
 部屋中央に陣取るようにガチガチと毒のある尻尾を鳴らす黄金蠍。
 さらには部屋の四方に開いた穴から次々と黄金の球体が飛び出し、蠍型に変形していく。
 機械というより、金属がまるで生きた粘土のように駆動するような動きである。
「はい皆集合! でかいの来るよ!」
 バスティスは不思議な紋様の書かれた四面ダイスを三方向へ放り投げると金色の目玉めいた道具を頭上高くに掲げた。
 ダイスとボールの間に黄金の線が走り、ピラミッド状のフィールドが形成される。
 迅たちはその中に飛び込み、蠍が放つ大量の毒針を防御した。
「毒がみるみる癒える上に体力やスタミナまで……すごいですねこの治癒魔法は! ピラミッドパワーですか!?」
「え、しらないわかんない」
「何故!?」
「攻撃やんだよ! 行け行けー! ダーッシュ!!」
 ういういーとハンドシグナルを出しながら走るモニカ。
 攻撃直後の隙を突く形で黄金蠍の尻尾を漆黒の鎌で切り落とすと、組み付いてくる黄金蠍の攻撃を自前の治癒魔法でリカバリーした。
 そこへ千尋がかけより、オラァといって黄金蠍に跳び蹴りをしかけてモニカから引き剥がす。
「あれぇ~? 千尋さん、もうバテちゃったの?」
「ゼェッ、ハァッ……でもこれシャトルランみてえなモンだろ……。
 くっそ、俺は陸上の選手じゃねえんだぞ! 現代っ子の体力の無さ舐めんな!
 煙草吸いてえと言いながら膝にてをつく千尋。
「せめてバイクが使えりゃあなあ……」
 ハァとため息をついて顔を上げる。その横にたまたま止まっていた黄金の馬。馬っていうか、ハンドルと二つのタイヤがついた馬。
「…………あー」
 一秒ほど見つめたあと、千尋はふかーく頷いた。

 尻尾から毒針を乱射する黄金蠍。
 シルキィは助走をつけたジャンプから羽をはばたかせ、左右に蛇行するような軌道で毒針をかわしていく。
「さっきのフロアが見えてきたよぉ」
 シルキィは素早くラグビーボールサイズの繭を作り出すと、黄金蠍が増したにきたタイミングで投下。
 接触と同時に繭は激しい光を放って爆発した。
 衝撃で足がへし折れたのか、追跡に失敗してがくんとバランスを崩す黄金蠍。
 キドーはスライディングで足の下を抜けながら、黄金蠍の腹にナイフをはしらせていった。
「よう精霊さんよ、この辺にもいるかい? できればナビをたのみてえんだが……」
『いるけど?』
「とはいえこの手の利用法がシンプルに使えたためしはそうねえな。そんな便利なら全人類使って――うおお!?」
 当たり前みたいに耳元で返事をされ、キドーは首がねじれるかというほどに振り向いた。
 『ハァイ』といって片手をかざし、小指から流れるように握り込む褐色肌の女性。アラビアンな服装に、シンプルなアクセサリー。首に掛かった藍銅色のネックレスが、ふくよかな胸の谷間にやわらかく乗っている。
 他に特徴があるとすれば、彼女の全身がうっすらと透けていることとキドーの肩に腰掛けられるくらい小さいことくらいだろうか。
「あんた、まさか」
『フロア構造は変わってないし、この先にいるのはちょっとの兵隊と女の人だけみたいよ。その先は通路にみせかけた行き止まり。がんばってね』
 キドーの頬を指でつんとつつくと、女性……もとい精霊は姿を消してしまった。


 黄金のダンジョン。ある世界、王宮の地下にて『神の目』を収めていたという罠だらけの迷宮。
 その中でも最も深い、『神の目』が置かれていた部屋を摸していた。
 中央に立つのはハーラ。いや、これもまた彼女を摸した人形だ。
「『ありがとう、ザイード。私を助けに来てくれたのね』」
 美しく、しかし驚くほど感情の感じられない声でハーラは言った。
 その左右にて、格闘の構えをとる二体のひときわ大きな神像兵。
「『こっちへ来て。あなたの体温を感じたいの。やさしくね』」
「……ザイードさん。ひとつ確認してもいいですか」
 迅はすり足でゆっくりと仲間よりも前へ出ながら、拳をしっかりと握り直した。
「お話にあった、神の目を盗みに入ったというダンジョン。そこに、そのお姫様は行ったことがあるんですか」
「俺が知る限りは、ないはずだ。あんな危険な場所につれてはいけん。そもそも、あのとき生きてはいなかった」
「……んー」
 玄丁が何かに気づいたように顎をあげる。
「その『ハーラ』さんを核にして他の敵や風景が作られてるんだとしたら、矛盾しませんか?」
「……あ」
 キドーがちらりとザイードを見る。
「気づかなかった俺も俺だが……俺を殺したら解決じゃんとか言うなよ?」
「言わねえよ。バスティスの言葉がマジなら、それでもこいつらは止まらねえ」
 後方から黄金蠍が追いつき、さらには神像兵たちがハーラへのゆくてを阻むように突っ込んでくる。
「前方は任せてください!」
 迅は跳躍すると、殴りかかってくる大きな神像兵の拳に、自らの拳を叩きつけることで対抗。
 一方で玄丁は後方から迫る黄金蠍へと斬りかかった。
「僕に毒は効かないからぁ、最後まで斬り合おうねぇ?」
 で、その一方。
「オラオラどけどけ! 『悠久ーUQー』の伊達千尋のお通りだぜ! 道を開けな!!」
 黄金の馬にまたがった千尋が猛烈なスピードでハーラの元へと参上――したかと思ったら落ちてるガラクタに躓いて馬事飛び、回転しながら別の神像兵へと激突していった。
「キドーさん俺やっぱ車だめだわ」
「なにやってんだ。けどよくやった!」
 キドーとザイードが、ガードのなくなったハーラへと走る。
 その左右を固めるのはシルキィと鹿ノ子である。
 シルキィは伸ばした糸をハーラへ巻き付け、ぐるぐると胴体を糸塗れにしていくと途端にその糸を発火。ハーラの身体を燃え上がらせる。
 ハーラはその糸を無理矢理引きちぎり、動き出した――所を狙って鹿ノ子の連続斬撃が走った。
(――回避不能な一撃を! そしてさらに追撃を!)
 ハーラの肉体がジグザグに切り裂かれる。が、血の一滴たりとも吹き出はしない。
 粘土細工をへらで切ったような跡ができるのみだ。
 しかもその跡は徐々に塞がっていく。
「『ザイード』」
 ハーラが微笑み、誘うように手招く。
 だがその動作とは裏腹にフロア中に激しい炎が燃え上がり、ザイードたちを炎でまいた。
「今回のハーラは確かに偽物なんだと思うよ。
 だけど、こうして貴方が彼女を覚えている事は――変わらず想っている事は、とても素敵な事だと私は思うな。
 ねぇねぇ、良かったらもっと沢山、彼女の事を聞かせてよ」
「中身が伴ってないとは言え、君の大事な人だったのだろう?
 このままでいいのかい? ザイード君。
 同郷に繋がる世界に住まう者の誼だ。
 あたしで良かったら協力するよ」
 だがそんな炎が、モニカとバスティスの力によって払われていく。
 キドーはといえば、落ちた神像兵の剣を拾い上げてしげしげと観察すると、ハーラめがけて思い切りぶん投げた。
「ほーらとってこい!」
 突き刺さった剣に群がるように邪精の犬たちが飛びかかっていく。
「トドメぐらいは譲ってやらねえこともねえぞザイード。それで何かしら気が済むならな」
「余計な気ぃまわしやがって」
 ザイードは憎まれ口をたたきながらも、口の端で笑った。
「ま、でも言いたいことはあったぜ。ひとつな」
 犬たちを振り払うハーラへ向けて、歩み寄る。
 防御のためにかざしたであろう魔法の壁を強引に突き破って、ザイードの槍がハーラの心臓があるであろう位置を貫いた。
「彼女は俺を、『ザイード』なんて呼ばねえ。名前も知らねえんだからよ」





 ハーラの撃破とほぼ時を同じくして、他の神像兵たちも破壊された。
 それがトリガーだったのだろうか、周囲の風景はクリスタル迷宮のそれにリセットされた。
 落ちた槍を拾うザイードに、歩み寄るキドー。
 ザイードは振り返り……。
「っしゃ、行こうぜ。この先にゃあすげえお宝が待ってんだろ?」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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