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シナリオ詳細

水平、リーベ、さよならボクの舟

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 海辺の小さな村で、一人の男が死んだ。
 これから働き盛りになるであろう若者は、たった一度の流行病であっさりと旅立ってしまった。
 未来ある息子の死に、父母は冷たくなった体にしがみついて泣いた。
 なんで、どうして。そんな声が小さな家の外まで響いているのを聞いて、村の人々もああ助からなかったのかと全てを察し目を閉じて彼の死を悼んだ。
 冬の冷たい雨が降る、白い朝のことだった。


 海洋の辺境へと行って欲しい。
 そうバシル・ハーフィズがイレギュラーズ達に切り出した声は、どこか低く沈んでいた。
 数日後に流行病で亡くなったハイリという青年の葬儀が行われるという。
「リトマーレ村で船乗り達が遺体を海へ沈めるように、小舟に乗せて流すんだそうだ。
 そこで困ったことに魔物が住み着いちまったから、これを退治して欲しいとの依頼だ」
 海への祈りの句を捧げたあと、遺体を乗せて沖合まで出て遺体を小舟に乗せて流す。
 ――海に生まれ育ったこの命を、父母たる海へと還す。
 弔い舟に揺られて遥か水平線の彼方、空と海の青が混ざり合う場所へと行って魂ごと溶け合うために。
 だが沖合に出れば流れ着いた狂王種が住み着いており、これを倒さなければ送り出すこともままならない。
 そこでローレットの噂を聞きつけ、魔物退治の依頼が舞い込んだのだ。
「現われるのは鯱の狂王種が10体現われる。獰猛かつ統率の取れた群れで、舟や浜に一時的とはいえ乗り上げてくることもあるそうだ。
 噛みつきと尾鰭の叩き付け、バブルリングを吐き出して混乱を誘うなど知性もありそうだな」
 波も穏やかで天候の良い日に執り行うため、敵の位置を視認することは容易いだろう。
 沖合へ出る船は村でも操船技術に長けた熟練ものを用意したから、安心して欲しいとの事である。船については自前で用意しても構わないが荒っぽい使い方になるから気をつけた方がいい、とバシルは付け足した。
 戦闘が終わったことを発煙筒を使い合図を送ると、青年を海へと送り出すために舟を海へと流す手はずとなっている。
「依頼人はニト少年ってなってるな。そいつからもう一つ。
『一緒に行きたいけれど、この舟をボクの代わりにして欲しい』との事だ」
 死んだハイリ青年とニトは年の離れた友人で、海へ送り出す際に『ボクの宝物の舟』に乗せて運んで欲しいとハイリの両親に掛け合ったそうだ。
 二人の関係を知る家族や村の方からも賛同を得て、正式に彼の舟を使う運びとなった。
「今回は俺も同行する。まァ、どうにも最後まで見ておきたいっていう単なる我が儘だ」
 さして理由など気にするなというように片手をひらひらと振ると、依頼書をくるくると丸めてイレギュラーズの方へと差しだした。
「……いつも、どこだって。さっさといなくなっちまう奴はいるんだな」
 ため息交じりの独り言を漏らして、拙いと表情を顰めた後乱暴にコートのポケットを探る。
 見つかった煙草の箱を掴むと「悪ィ、ちょっと一服してくる」と言い残して扉に手をかけた。
「子どもが一端な願い事をして、ここに頼んだんだ。成功させてやらねぇとな」
 そう言い残して、今度こそバシルは扉を潜った。


 宝島の地図を眺めて、いつかお宝をとりに二人で行こうとはしゃいでいた。
 櫂を手繰り浜からさほど離れない程度なら自由にいけるようになった頃、ハイリは漁に出るようになった。
 いつか大物を穫ってくると言っていたのに、嘘つき。
 宝物の地図をそっと小舟に忍ばせて、ニトは船縁から手を放した。

GMコメント

 水平彼方(みずひら・かなた)です。
 今回は海洋より、ひとつの別れお届けします。

●成功条件
 鯱10体の討伐

●敵
 狂王種の鯱×10

 リトマーレ村の沖合を餌場とする群れです。
 獰猛かつ統率が取れており、弱った個体を狙うなど知性のある魔物です。
 凶暴で腹を空かせており、近づいてきた獲物に容赦なく襲いかかります。

・ストランド 噛みつき。【出血】
・カルーセル 尾鰭の叩きつけ。
・バブルリング 水塊を吐き出す。中距離範囲、【窒息】

●現場状況
 波の穏やかな海上になります。
 鯱たちが暴れると船体が揺れますのでご注意ください。
 舟に関しては村からも出しますし、自前の小型船を用意してもOKです。
 二手以上に分かれる場合は、グループ分の舟を出してくれます。

●バシル・ハーフィズ
 今回はバシルが同行します。
 特に指示がなければ船上より射撃で攻撃します。

●船葬
 村近くの浜辺で待機しており、皆さんが船上へ向かう前に合図用の発煙筒が渡されます。
 戦闘が終わり次第、発煙筒を使って合図をお願いします。
 合図を確認した後、ハイリを乗せた舟を海へと流します。暫くは先導する船と共に沖合まで進み、潮の流れに乗ったのを見送った後村に戻ります。
 同行する舟にニトとハイリの両親も乗船しており、ここで最期の別れをします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 水平、リーベ、さよならボクの舟完了
  • GM名水平彼方
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月05日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)
破戒僧

リプレイ


 リトマーレ村を包む空気はぴんと張り詰めて、悲しみの中に居ながらもどこか厳かな空気があった。
 まずは依頼人と顔を合わせるため挨拶に行くと、初老の男性が「遠いところわざわざありがとうございます」と労った。
 顔を覗かせた『砂礫の鴉』バシル・ハーフィズ (p3n000139)が男性の顔を見て、「ああ」と納得顔で頷いた。
「今回の依頼人を代表する村長だ」
「今日はおそーしきのオシゴトな? ひとまずはおくやみもーしあげるな」
「そうだよ、私達にとってとても大切な日なんだ。仕事を引き受けてくれてありがとう」
 『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)の拙い口調の挨拶に、彼は丁寧に礼を言い優しく迎えた。
 その視線はどこか孫を見るような目線で、日に焼けた肌に刻まれた皺をふんわりと緩ませていた。
「コジンのことはぜんぜんしらないけど、そいつのおそーしきをジャマするやつがいるのはみすごせないな!
キョーオーシュってやつのこともぜんぜんしらないけど、そいつがおそーしきのジャマをするならコッコがオシオキしてやるな!」
「頼りにしているよ」
「村長。今回は舟の上で戦闘になる故、わしのポチニ号を出して皆を乗せていこうと思うのじゃ」
「分かりました。それではこの発煙筒をお使いください。終わりましたらこれで合図を送って下さい」
 『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)は村長であろう老人から発煙筒を受け取ると、ゆったりと頭を下げた。
「それでは、よろしくお頼み申し上げます」
「旅立つ舟の安全な航路のため、尽力いたしましょう」
「忘れ物はないかの? 無ければ出発進行じゃ」
 イレギュラーズ達を乗せたポチ二号はゆっくりと海へとこぎ出した。
「上手くいったら、一匹ぐらい食べてみちゃいましょうか――なんて、普段ならそういうテンションなんですけどね……。
 今回は、どうにもそういう感じの話じゃなさそうです」
「ひとの末路は焔に包まれてあれ、餞は紅蓮色であるべし……というのが私の流儀なのですが。
 当地では、小舟と海なのですね」
 遅れて追従する舟と、それに乗っているであろう人物を思い『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)と『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は言葉を交す。
 『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はニト少年の乗る舟をちらりと見やった。
「船葬なんてのは見慣れてるが……子供がいろいろと悩んで考えてやろうとしてるんだ。
 人の門出を邪魔する狂王種には、きっちりお仕置きしてやらねぇとな」
「船葬ねぇ……舟をだすにゃ確かに邪魔になりそうな奴等だわ」
 鯱か、と『自堕落適当シスター』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が気だるげに独り言ちる。上空を見上げれば、飛びながら風と潮を読み、潮の航海をサポートしている『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)の赤い翼が見える。
 周囲の警戒もしている彼が、不自然に立つ波頭を見かけて「おっ」と声を上げた。
「……そろそろシャチのやろーが来そうだな?」
「んじゃま、仕事と行きますか」
 コルネリアは腰を上げると、Hades03の具合を確かめる。今日の乙女心は感傷的ながらも絶好調だ。


 イレギュラーズ達は複数の船に分かれるのではなく、潮のポチニ号一隻に全員が乗船した。
 今回の相手は鯱といえど、群れで行動し知恵もある。
 下手に離散したところを囲まれて沈められては目も当てられないと、集合して一気に叩く作戦だ。
「ひい、ふう……よし、ちゃんと10匹揃っとるな」
 潮が敵影を数えると、上空のカイトが「応ッ!」と景気よく答えた。
「へへん、シャチよりタカのほうが強いって見せてやるぜ!
 そこのシャチのやろー共! カイト・シャルラハの相手になる骨のある奴はどいつだ!?」
 風を読み、緋色の大翼を広げてカイトが声を張り上げる。
 多くの鯱から狙われ、バブルリングやカルーセルを躱しつつ、カイトはピィ! と快活な鳴き声を上げて群れを挑発した。
 そのまま脇を通り、一直線にポチニ号へと乗り上げた鯱たちの叩き付けを今度はエイヴァンが受け止める。
「来たな! さあ、船に上がったんならエイヴァン=フルブス=グラキオールが相手になるぞ!」
 メイドインメイドで強化したエイヴァンの肉体は頑健さを増して、立ち上る大波のようであった。
 名乗り向上で注意を引くと、イレギュラーズ達は待っていましたとばかりに攻勢に出た。
 敵が一カ所に固まる時を狙い、一網打尽に叩く。それが今回の作戦だった。
「よし、みんな! コッコにつづけ! わるいシャチをオシオキするぞ!」
 コッコは【曜陽花 サンサンサン】をくるりと一回転させ、愛くるしい笑顔で味方を鼓舞すると、自分は鎧を纏って鯱の攻撃に備えた。
 クーアはバブルリングを警戒してエイヴァンから距離を取ると、距離を置いて時を待つニト達を乗せた船をちらりと見やりそっと祈る。
 御家族と御友人の別れの時が、せめて後悔のなきものでありますよう。
 彼自身の死出の旅が、どうか安らかなものでありますよう。
 クーアの祈りを、願いを体現するために体に満ちる魔力を練り上げる。
「その妨げとなる狂王種に、恨みなどはありませんが。
 妨げであるなら致し方なし。全力で討ち果たしましょう」
 エイヴァンに押し寄せる鯱目がけて神気閃光を放つ。裁きの光が激しく瞬き、狂王種は身もだえるように体を大きく震わせた。
 クーアに続いてリディアが輝剣リーヴァテインを両手で構え前に出る。アドレナリンを爆発させると戦いに向けて最適のコンディションを作り出すし、乗り上げた二頭へと翠色の闘気を纏った大剣を叩きつける。
「思えば、私の初陣もこうして海の上、相手は狂王種でしたね」
「――ああ、あの時の元気な嬢ちゃんか」
「ええ。ご案内をしてくださったのはバシルさんでしたね」
 まだ海の果てが『絶望の青』と呼ばれていた頃。大号令のもとにリディアの初陣の舞台はあった。
 通常よりも膨れ上がった巨体のそれに向かって、先達の背中を追いかけて必死に剣を振るっていた。
 それから場数を踏んだからか、あの時とは面構えが違う。
「いい感じに集まってんじゃねーか、おかげで狙いが付けやすい。
 ――纏めて穿いてやらぁ」
 コルネリアが呵々と笑うとHades03を構え、ぴたりと照準を合わせる。
 敵味方の位置を確かめると、砲門からD・ペネトレイションを放った。
 鋭い牙を剥いて襲い来る鯱を『自称破戒僧』インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)がソニックエッジで迎え撃つ。
 仕返しとばかりに噛みつかれたが、クーアの神気閃光が視界を焼いた。痛みに注意が逸れ、口元の力が緩んだ隙に牙を引き剥がした。
「だいじょうぶ?」
 滴り落ちる血を見てコッコがすかさずキュアイービルで止血すると、潮がメガ・ヒールで癒やす。
「コッコ殿、潮殿、助かった」
「まだ油断なさらぬ事じゃ、敵はまだまだこちらを見て狙って居るからの」
 潮は怒りによって気色ばむ鯱たちがカイトやエイヴァンに挑みかかるのを見て、優しげな表情を引き締めた。


 カイトは囮となって引き付けながら鯱の攻撃をよく躱し、エイヴァンは他の仲間へと視線を向けた輩を見つけては余所見をするなとばかりにヴィエルナシチ・ザミルザーニイを見舞う。
「おっと!」
 飛び上がった鯱の尾鰭がカイトの翼を強かに撃ち、そのままのし掛かるようにして海面へと落ちてしまう。ここぞと放たれたバブルリングを受けながらも、短剣の守りによってすいすいと海中を移動して海面を目指す。
「ほれ、腹が減っているならこいつはどうじゃ」
 潮は手持ちのJ×Jを放り投げると、カイトから注意を逸らした。
「ぷはあ! 危なかった。ありがと海音寺の旦那」
 翼を器用に操って海面から飛び上がったカイトは、羽毛から滴り落ちる海水をぶるぶると身を震わせて払った。
「カイトにーちゃん、いま回復するからなー!」
 晴天の元に向日葵を翳して、コッコはカイトの傷を癒やす。
「わあっ!」
 その時、ポチニ号に大きな衝撃が走った。カルーセルの叩きつけに船体が巻き込まれ、ぐらぐらと左右に揺れる。
「っと!」
 コルネリアはジェットパックを噴射して揺れをやり過ごし、クーアは器用にバランスを取りながら耐えた。
 ころんと転げたコッコをバシルが慌てて受け止めると、手すりを掴まえて重心を低く保つ。
「これ以上好き勝手やらせるか!」
 乱暴に斧砲【白狂濤】を構えると、船体を揺らした鯱を狙ってゲオルギイ・スピリドノフを放つ。弾道の軌跡に氷が連なり、着弾と同時に白黒の巨体を凍らせた。
 体表の氷を振り払おうと暴れる鯱の傍に、一人の夢魔がとん、と爪先をならして降り立った。
「よい夢を、なのです」
 甘い囁き声を残して、クーアは小瓶の封を切り霊薬を振りまいた。
 突如、炎と雷の奔流が身体中を駆け巡り、熱と刺激によって意識はとろりと蕩けて夢の狭間に落ちていく。
 傾いだ体はそのまま海へと沈み、浮き上がることはなかった。
「はああぁぁっ!」
 気合の咆哮と共にリディアが輝剣リーヴァテインを振るう。淡い蒼光は今は鮮やかな蒼炎となり、渾身の力を込めた七星極光『蒼炎斬』で更にもう一体の鯱を撃った。
 カイトの足元で暴れる鯱を狙ってコルネリアが正確に狙いを定めて砲撃を加える。続いて顔を出したタイミングを狙って、バシルも射撃で攻撃する。
 義実は仲間の作った隙を逃さず、ヘヴィーランカーで強化するともう一度ソニックエッジで巨体を抉った。
 出し切った後では、傷も相まって体が悲鳴を上げて関節が軋んで痛い。
 それでも止まること無く迷宮の道標を振るった。
 幾重にも傷を負った鯱が、一匹また一匹と動かなくなり海面へと沈んでいく。
 バブルリングを吐き出した鯱の鼻っ柱へ豪快に砲身を叩きつけて、そのまま砲口を向ける。
「バシル合わせろ、弾幕張って船体の死角へ潜らせんの防ぐぞ」
「わかった」
 そのまま死角へと逃げようとした所へ、辺り一面を埋め尽くすようにハイロングピアサーで弾幕を張る。
「みんなスゴい! コッコもがんばらないとな!」
 仲間の姿に奮起され、コッコはエイヴァンの後ろからピューピルシールで封印をかけ、鯱の動きを制限していった。
「皆さんが頑張っているんですから、私も出し惜しみはしません!」
 リディアは射線上に敵が並んだのを確認すると、前例の力で振り抜いて七星極光『断空牙』を放つ。
 剣閃に両断されたあと、遅れて衝撃波のように空刃が海を駆けて、海面を両断する勢いで大きく波が立った。
 カイトはブルーノートディスペアー――コン・モスカの秘伝書の内容を思い出し、三叉蒼槍の切っ先を降ろしぴたりと狙いを定めた。
「シャチは鼻先を殴るといいって書いてあるぜ! ……漁師的にはサメな気もするけど、シャチも一緒だな?」
 すらりと放ったソニックエッジが命中するのを見ながら、ちらりと潮の反応を窺った。
 シャチとサメを混同したことに怒られやしないかと顔色を窺うが、特に反応はない。取り越し苦労だったかと胸をなで下ろした。
「なら私も試してみるのです」
 クーアは眼前の鯱へと向かい合うと、鼻先へと酔生夢死を再び振りまいた。
 残りは少し。今だとばかりにイレギュラーズ達は一気呵成に攻撃を繰り出した。
 持てる力を出し尽くした義実は、ふらつく体を叱咤してもう一撃を絞り出す。
 義実にとってイレギュラーズとしての初仕事だ、是非とも成功させたいという思いを胸に戦場に赴いた。
「それに死者を送り出す手助けをするのもまた、僧侶の務め。少年の願いを叶えるべく全力を尽くす所存である」
 悪になりきれない義実の性根が、最後の活路を開いていく。
 斬り、撃ち、穿ち。魔法を放ち。仲間を癒やして戦線を繋いだ先に掴み取るもの。
 そして最後の一匹がどうと音を立てて海面に倒れた。
「これで依頼は完了、か」
「そうですね。ではこれから、ご遺族を始め皆さんがお別れを言うまで気を抜かないようにしましょうか」
 敵の数を数えて撃ち漏らしがないか確認した後、潮は瞳を柔らかく眇めて発煙筒を取り出した。
 その前に。エイヴァンはリディアの顔を見て真剣な顔で問うた。
「倒した狂王種は……食べるつもりかどうか知らんが。まぁ好きにすればいいんじゃねぇか?」
「えっ……ううん、やっぱりいいです。今回は遠慮しておきます」
 エイヴァンの思わぬ提案にリディアの心が逸るも、旅立つ舟を見てそっと胸にしまい込む事にした。


 海が静けさを取り戻した事を確認したイレギュラーズ達は、潮は託された発煙筒を炊き合図を送る。
 船が追いつくと合図を送り、ポチニ号に接舷する。
「一緒に見送ってやってくれないか」
 甲板から声をかけた男が板を渡し、こちらに渡るように手招きした。
 その隣には一人の少年の姿があった。「ほら、ニト」と男に促されると、渡ってきたイレギュラーズ達の顔を見上げ大きく頭を下げた。
「あの、ありがとう……ございます」
「お礼なんて結構だぜ、いつか俺も死んだら海に葬って欲しいなぁ。こんな風に家族や友達に見送られたら、幸せだなぁって思うんだ。
 まあ、すぐに死ぬ気は無いけどな?」
 カイトがからりと笑顔で答えると、翼を広げて空高く飛び上がった。
 翼に触れる風の感触や湿度を計り、天候を読む。よく晴れて気持ちのいい天気だ、これから暫くは穏やかな天候に恵まれるだろう。
「あのよ? にいくとちゅうで食べるようのおやつな、エンリョせずもってくといいな!」
 コッコはとっておきの『サイコーのプリン』を花と共に船に乗せた。
「ニト、これを」
 エイヴァンが差しだしたのは小ぶりな羅針盤だった。
「これからの船旅を迷わないように餞別だ、宝探しの最中に大海原で迷っていちゃ世話ないからな」
 どうして、と言葉にならない声で呟いた。だが目元を乱暴に袖で拭うと、ニトは壊れものに触れるようにそっと受け取ると、慎重な足取りでハイリの傍まで盛っていき枕元に置いた。
「こっちはニトに。約束したんだろ? 宝を探しに行くって」
 小さな手に乗るコンパスを、ニトの掌に乗せる。
「まぁ、気が向いたら船ぐらいは出してやるぞ。とは言っても、操舵するのは俺じゃないかもしれんがな。
 いつになるかわからんが、いつかお前さんが海に出られるようになる日を待ってるぞ。俺もハイリもな」
「ほう、よい贈り物じゃな。いつかお父さんになってお爺さんになってそれからまた二人で冒険に出かけなさい。
 きっと素敵な宝物が見つかるじゃろう」
「……ありがとう。俺、どんな海でも越えられるような立派な船乗りになる。
 それで、ハイリもおじさんも乗せられるようになる」

 ――――
 ――

 全ての船荷を乗せ祈りの句が捧げられると、いよいよ舟は海へと下ろされた。
 舟を揺らさぬようにそっと離れると、取り残された舟を見た瞬間に心細くなってニトと両親は欄干へと詰め寄った。
 彼を置いていく。この青い海の直中に、たった一人で。
 出航の合図にピィ、と一際高い声でカイトが鳴く。
「無念であったと思いますが……その魂が、どうか穏やかでありますよう――」
 そう、この水面の様に……。
 リディアは甲板に跪いて、両手を胸に、祈りを捧げた。
 御家族と御友人の別れの時が、せめて後悔のなきものでありますよう。
 彼自身の死出の旅が、どうか安らかなものでありますよう。
 例え餞の色は違えど祈りは同じ。
 クーアの祈りも乗せて、小舟は離岸流に乗ってぐんと速度を上げた。
「主の元へ一人の若者が向かいます、どうかその魂がこの少年を護りますように……」
 彼は青年に何を祈り、どんな別れを告げたのか。コルネリアがそっと横目に見やると、ニトはじっと動かずに舟の行方を見守っていた。
 その舟の行き先に、宝島がある。
 ハイリが先に見つけて「そらみろ」と笑うのか。再会を果たした後、共に大海原を旅するのか。
 遙かなる蒼の旅はまだ始まったばかり。
 二人が宝島にたどり着くのは、まだとおい遠い未来のことだ。
 二羽のカモメがみゃあみゃあと鳴いた。
 その声に隠れるようにして、ニトは「またね」の代わりに大声で泣いた。

成否

成功

MVP

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾

状態異常

インベルゲイン・浄院・義実(p3p009353)[重傷]
破戒僧

あとがき

お疲れ様でした。
ニト少年は無事、ハイリを送り出すことが出来ました。
彼はこの先、約束を果たすために様々なことを学びながら成長していくでしょう。
皆さんの応援と背中を押す言葉や贈り物があって、ハイリも安心したと思います。
MVPは海の漢として様々なことを魅せて下さったエイヴァンさんへ。

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