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シナリオ詳細

聖女候補誘拐事件

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


ㅤ聖女とはなにか。

ㅤそれは奇跡を体現する者。

ㅤでは、何を持って奇跡とみなすのか。

ㅤそれこそが、死者蘇生の秘術。

ㅤ古今東西ありとあらゆる権力者が追い求めたその境地に、聖女となった一人のみが到達することができる。

ㅤ聖女がひとたび身体に触れるだけで、その身に刻まれた傷はたちどころに塞がり、病は払拭される。

ㅤしかし、その因果の捻じ曲げ、事象の上書きとも言えるほどの、まさしく神の御業たるそれは、勇者一個人にのみ使用を許される。

ㅤ有り体に言ってしまえば、その秘術は勇者と呼ばれる個体にしか効果を発揮しない。

ㅤ──と、伝えられている。



「ふぅ、ふぅ、聖女さえ手に入れば、私は死を克服できる……」

ㅤ肥太った豚、という表現がこれほど似合う者もそう居ないだろう。

ㅤ男は豪華な椅子に腰掛けているにも関わらず息を切らし、額よりしきりに落ちる汗を傍らに座る美女に拭わせていた。

ㅤそして、男の目の前には魔女風の装いをした老婆が一人。

「ふぅ、今聖女に一番近い者は誰だ……?」

ㅤ男がそう尋ねると、魔女風の老婆は一刻時間をおき、そして静かに答える。

「──ネメシアです」

ㅤ老婆の示す名に、しかし男は興味を抱くことはなく。ただ秘術が使えるものが居ればいいといった声色であった。

「ふぅ、そうか。なら連れてこい」


「やぁ、来てくれたんだね」

ㅤ本を捲る音だけが静かに響く書庫の一角。グラスはやはり、いつものようにそこに居た。

「今回は聖女の誘拐だよ」

ㅤグラスの言葉を聞いたイレギュラーズは訝しげに彼を見るが、グラスはそんな視線を気にすることなく説明を続ける。

ㅤ曰く、今回の依頼は死者蘇生の秘術を扱う聖女。その候補筆頭であるネメシアの誘拐。
ㅤ夜半、聖女候補を育成する教会に忍び込み、その身柄を確保して街を抜け、待機している人攫いの集団に明け渡すまでが依頼内容だ。

ㅤしかし、死者蘇生の秘術を扱える聖女、その候補を複数囲う教会への潜入に向かうのがたった四人で大丈夫なのか。

「まぁ、安心して大丈夫だよ。教会にはそもそも護衛なんていないからね」

ㅤ聞けば、死者蘇生の秘術は勇者と呼ばれる者にしか効果をなさない、という風に情報が改竄されているらしい。
ㅤ仮に、誰にでも死者蘇生が可能という事実が広まった場合、どうなるかは想像にかたくないだろう。

「警戒をすること自体が違和感を生むからね。教会には戦力となる者が一人しかいない」

ㅤまぁ、その一人が厄介なんだけど、とグラスが続ける。

ㅤそこまで説明を行った後、ようやくグラスはイレギュラーズの訝しげな視線を受け、こちらを見据える。

「あぁ、僕はあくまで呼び声に従って依頼を出しているに過ぎない。だから、こういう依頼も当然受けるよ」

ㅤこういう依頼とは、つまりは悪い依頼。この世を善悪で見た場合の、悪にあたる依頼のことだ。
ㅤグラスは善悪に頓着せず、世界からの助けを呼ぶ声に従って依頼を出しているという。
ㅤその助けが誰からのものであるかは関係ない。

ㅤただ機械のように決められた行動を行うのみだと。

「この後聖女がどうなるかなんて僕には知ったこっちゃないね」

ㅤじゃ、頑張ってきてね、と手を振るグラスの目には、特になんの感情も宿っていない様だった。

NMコメント

※このシナリオは悪属性“風”シナリオです。参加頂いても境界の悪名が増えたりはしませんことをご了承ください。


おはようございます。七草です。悪いことしたい年頃。

●目的
聖女の誘拐。

●ロケーション
時間帯は深夜。
聖女候補達はみな寝静まっており、シスターであるクレスチマのみが起きている。
クレスチマは侵入した貴方達に気づき、排除に動くだろう。

●ターゲット
・ネメシア
嘘が嫌いな女の子。聖女候補の一人であり、もっとも聖女に近いと噂の子。最近11歳になった。
2人1組でひとつの部屋を使用しており、その一室にてガーベラという少女と一緒に寝ている。二段ベッドの下の方。

抱き上げたりした際には目を覚ますが、聡い子なので、他の子を巻き込まないように、悲鳴を上げたりはせず素直にイレギュラーズ達に身を任せるだろう。

関連依頼
『聖別の輸送』
『聖街クラリネット』


●エネミー
・シスタークレスチマ
聖女候補達を育成する教会に住みこむ年配のシスター。
キッチンにて明日の朝食の仕込みをしているが、侵入者である貴方達の事を察知するとすばやく排除に向かう。

彼女は魔法の様なものを扱うことができ、聖女候補達が起きないように周囲に消音の結界を貼ることができる。
そしてそのまま室内での戦闘になる可能性が高い。
獲物は素手、近接戦闘を得意としており、ステータスは防御技術、特殊抵抗に優れている。
隙を見せたら通報等によって応援を呼ばれる可能性もある為注意。

※オープニングの豚のような男と魔女風の老婆は今回のリプレイ内には登場しません。

●その他
部屋の鍵を開ける際に解錠。逃げる際にバレにくくするために隠蔽工作など、適宜非戦スキルを使用するとより素早く、スマートに誘拐することが可能でしょう。

もちろん使用しなくてもゴリ押しでなんとでもなります。

●サンプルプレイング1
抜き足差し足で教会に侵入、そのまま足音を立てずにネメシアのいる部屋までたどり着き、解錠を用いて鍵を開ける。そのままネメシアをかっさらって颯爽と夜の街を抜け、人攫いに明け渡す。楽勝だぜ!

●サンプルプレイング2
シスターの足止めを行う。派手に暴れて応援でも来られたら厄介だから、エフェクトが派手なスキルの使用は控えようか。
そして、そのままシスターを昏倒させたらネメシアを誘拐したものと合流し、脱出する。

以上、皆さんの参加をお待ちしております。

  • 聖女候補誘拐事件完了
  • NM名七草大葉
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月31日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
鏡(p3p008705)

リプレイ


ㅤ夜の帳が深く降りる。

ㅤ草木も寝静まる丑三つ時とも言える刻、四人の男女がここ聖街クラリネットの教会──聖女候補育成機関へとやって来ていた。

ㅤ言葉を交わすことは無い。打ち合わせは既に終えている。

ㅤ行動は迅速に、丁寧に。

ㅤまず動いたのは『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)だった。

ㅤカインは自身の気配を極限まで薄め、数多の冒険を経て培った隠密技能と直感を駆使し、あっという間に聖女候補筆頭であるネメシアの元へとたどり着く。

ㅤネメシアの部屋へと続く扉には鍵がかかっている。しかし、そんなものはカインの前では児戯に等しい。
ㅤ取り出したのは針金一本のみ。それを器用に鍵穴へと差し込み、寸刻。

ㅤドアノブを捻り手前に引くと、扉は静かに開いた。

ㅤ果たして、そこには薄い紫の髪を枕に流した少女が、静かに寝息をたてていた。

ㅤ話に聞いた人相との一致を確認したカインは、彼女こそがネメシアだと確信する。

ㅤそして、早速とばかりにネメシアを抱きあげようとしたカインを手で制す者がいた。

ㅤそれは、カインと共にネメシアの寝室まで同行していた鏡(p3p008705)だった。

ㅤ彼女はネメシアの頬にそっと手を当てる。
ㅤ外の空気によって冷やされた鏡の手は冷たく、その冷気によってネメシアの瞼はゆっくりと開かれた。

ㅤ目の前に映り込む怪しげな二人に目を丸くし、少し肩を震わせたネメシアだったが、それだけ。心を落ち着かせるように呼吸を整えると、静かにこちらを見据えた。

ㅤ大きな声を上げるのならば上のベッドの子を……と考えていた鏡であったが、ネメシアが声を上げることはなかった。

(『私が本当にする』って事を感じ取れてる、偉いですよぉ)

ㅤネメシアの頭を撫でる鏡。その後、彼女の耳元に顔を近づけ、そっとささやくように告げる。

「ネメシアちゃん、あなたがシスターをなんて呼ぶのか知りたいなぁ」

ㅤぴくっ、と肩が跳ねる。

「さ、心を込めて──私に教えて?」

ㅤ少しばかり時間が過ぎる。
ㅤネメシアの額からは一筋の汗が流れる。

ㅤシスターの安否、そして上で眠るガーベラのこと。様々な思考がぐるぐると頭を巡り──

「ぁ……」

ㅤ──やがて、ネメシアの口が小さく開く。



「先生……」

ㅤ“ネメシア”の声がキッチンにて響く。

「……どうしたんだいネメシア?」

ㅤ答えたのはシスタークレスチマ。この教会にて聖女候補達に礼儀作法や魔法の使い方を指導する年配の女性である。

「怪しい人達が……抵抗したらあっちに……」
「っ!ㅤそれは一体──」

ㅤ──金属の甲高い音が響く。

ㅤ辺りには火花が舞い、そっと床に落ちる。

「……あんた、何者だい?」

ㅤ自身の首元を腕で庇うクレスチマ。シスター服の袖はスパッと切れており、腕には切り傷が浮かんでいる。

「え、うそぉ?ㅤ防ぐんですかぁ?」

ㅤ子供の身体とはいえ、自身無くしちゃいますねぇ、なんて。

ㅤクレスチマと対峙する“ネメシア”、その表面が溶け崩れ、裸の女性が現れる。

「……んんっ、フフ。さてぇ、じゃあ改めて、ヤリましょう?」

ㅤその言葉に対し、クレスチマは無言。

ㅤかと思いきや、足元に幾何学模様の入り交じる陣を浮かばせる。
ㅤ窓の外でしきりに鳴っていた虫の音が消えた。

「……あんた、ネメシアに何をした?」
「さぁ、それを貴方に教える義務はないですよねぇ」

ㅤ元より答えるとは思っていない。クレスチマは素早く身を翻し、ネメシアの眠る寝室へと向かう。

ㅤ鏡にとってはあくびが出そうな程のスピードだ。しかし、あえて止めない。

「──悪いが、これも仕事だ」

ㅤキッチンのドアの向こう。そこには『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が青色の扇子を突きつけ待ち構えていた。

ㅤ咄嗟に手を交差させ急所を庇うクレスチマ。

ㅤしかし、特になにも起こらない。

ㅤ相手はこちらでは無いとばかりにマニエラが扇子で後ろを指すが、時すでに遅し。

ㅤ鏡の刀によって背中を大きく袈裟斬りにされたクレスチマは、くぐもった声を漏らした。

「ちっ、二人がかりたぁ趣味の悪い」
「ふふ、ご老体とはいえ貴女、とても美味しそうです」

ㅤ楽しい楽しい時間稼ぎの始まり。



ㅤネメシアを連れたカインは、時間稼ぎ役の二人を残し、一人教会の外へと出ていた。

ㅤ時に自身を浮遊させ家並みを飛び越えたりもしつつ仲間の元へ最短距離で向かう。

ㅤそうして暫く進むと、そこには今回の誘拐事件最後の役者である『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が、持参した馬車と共に待っていた。

「ご苦労さま。こっからは選手交代だな」

ㅤ錬はネメシアを馬車まで連れていくと、カインも馬車に乗るよう促した。

ㅤそして、そのまま式神を行使して馬車を引かせると、自身も荷台へとやってきた。

「俺の式神は役立ててくれたか?」
「ああ、ちゃんとベッドに置いてきたさ」
「よし、これで万が一上の子が起きたとしても、時間稼ぎ位にはなるはずだ」

ㅤネメシアのベッドには今、錬の作成した式神が眠っている。簡単な受け答えができる程度には高度な技術を用いており、上の子──ガーベラが何かの拍子に起きたとしても引き止めてくれるだろう。

ㅤそうして、二人はネメシアへと向き直る。
ㅤネメシアは、状況が理解できていないのか、それとも理解したうえで“そう”なのか至極落ち着いており、じっとこちらを見据えていた。

「やぁ、君には行き先も暗く未定なこの旅に付き合って貰うよ」

ㅤカインが声をかける。

「暇なら祈りでもしていれば良いよ。今まで積んできた功と徳次第では君の神がその先を照らしてくれるかもしれないしね」

ㅤ……届かぬ祈りほど意味のない物もそんなに無いと思うけどね、と口の中で呟くカイン。

「……嘘ね」

ㅤネメシアが、この馬車に乗って初めて口を開いた。

「行き先は未定、じゃないでしょ?」

ㅤそれは、「そこか?」と言いたくなるような指摘であった。しかし、ネメシアは確信に迫ったようにそれを言い放つ。

「……参ったな。嘘が嫌いっていうのは本当らしい」
「本当は?ㅤわたしはどうなるの?」
「……君はこれから人攫いに引き渡される。そこからどうなるかは知らないが、恐らく金持ちにでも売られるんだろう。聖女候補筆頭としてね」

ㅤ何を言っても無駄だと悟ったのか、真実を口にするカイン。

「そう……それと、先生は無事なの?」
「……分からない」

ㅤ先生──シスタークレスチマの安否は鏡とマニエラの手にかかっている。彼女らがもしも一線を超えたのならば、クレスチマは既にこの世には居ないだろう。
ㅤしかし、それはカインと錬には知りえないことだ。

「そう……嘘じゃ、無いのね」

ㅤそう呟くネメシア。それはまるで、カインが嘘をついていないと分かっているかのような口ぶりだった。

ㅤそんな傷心のネメシアに、錬が声をかける。

「さて、俺たちは『世界のために身柄が必要』としか聞いていないな」

ㅤごそごそと懐を漁る錬。

「だが、まぁ。着の身着のままで送り出すのも職人として気が進まん、聖女候補の未来を祝して贈り物でも授けようか」

ㅤそうして錬は三枚の符をネメシアに差し出した。


ㅤクレスチマの身体にはそこかしこに浅い切り傷が生えており、背中と右腕からはどくどくと止めどなく血が溢れていた。

「はぁ、はぁ……」
「あらぁ、やり過ぎちゃいましたかぁ」

ㅤ鏡がそう零す。

ㅤ近づけば鏡が、距離を取ればマニエラが。
ㅤ共に斬撃を浴びせ、その傷は深刻なものとなる。

「聖女が大事なのか、聖女の器が大事なのか、興味もないし知る気もないが…命をかけて戦うようなものではないさ」

ㅤ……そう言っても、わからないんだろうね。あぁ、私もだって理解できない。自重気味に呟くマニエラ。

「あんたには分からないさ!ㅤここの子は、全員あたしの可愛い教え子なんだよ!」

ㅤクレスチマの叫びに、しかして鏡は油を注ぐ。

「そうですねぇ、だったら……この教会皆殺しにでもしましょうかぁ?」
「そんなこと許すとでも……!」
「はぁい、足元注意」

ㅤその言葉に咄嗟に足を後ろに避けるも、斬られたのは左腕。

ㅤこれで両腕が使い物にならなくなったクレスチマ。もはや通報はおろか、戦うことさえままならない様相だった。

「もう終わりですかぁ?」

ㅤ対して鏡、そしてマニエラは息一つ乱れていない。

ㅤマニエラの放つ特殊支援は、二人の行動を最適化し、数多の技を砂粒ほどの労力で放つことが出来るようになっている。

ㅤさらには、自身に付与した紫星魔術・夜行によって、あらゆる攻撃を、その事象が起こる前に察知し、先んじて牽制していた。

ㅤまさに無尽。尽きることの無い斬撃は、マニエラの策士たる術式によって顕現されていた。

「くっ……せめて他の子に手出しは……」

ㅤクレスチマのその言葉が最後まで発されることは無かった。

「はぁい、さようならぁ」

ㅤゴトンと言う音が脳髄に響き、世界が九十度傾く。

「……まぁ、どうでもいいさね。この世界のことなんて」

ㅤ最期に聞こえたその言葉が、妙に耳に響いて──


ㅤこうして、聖女候補筆頭であるネメシアは、一晩のうちにその姿を消した。

ㅤ教会にはシスタークレスチマの死体が転がっており、その傷跡から複数の刺客と交戦したことが伺えた。
ㅤ聖女候補達はその惨状に非常に悲しみ、心を病む者も複数居たという。

ㅤそして、ネメシアはというと──

「三枚のお札、なんてな。当然俺が使うよりも効力は落ちるが──どう使うかはお前次第だ」

ㅤ馬車の中にて錬が渡した三枚の符を眺めるネメシア。その符には三種類の効果が付与されていた。

ㅤ一つは式符・陽鏡の呪符。目くらましの符。
ㅤ一つは式符・金槍の呪符。怯みの符。
ㅤそして、一つは式神使役の呪符。簡易作業を行ってくれる符だ。

ㅤ意味があるかどうかなんて分からない。そもそも錬達が世界を去ったらそのまま消えるかもしれない。

ㅤだが、それでもと託された三枚の符。

ㅤその符が役立つか否かは──また別のお話。

成否

成功

状態異常

なし

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