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シナリオ詳細

再現性東京編2010:孤高のグルメ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある特待生の夕餉
 仕事を終えた。なんてことのない、自分一人で片づく仕事だ。
 スマホで報告を済ませ、『お疲れ様です』といって通話を切ると、フッと身体が軽くなった気がした。
 有り体に言えば、肩の荷が下りたというのだろうか。
 夕暮れからすこし後。民家から焼き魚の香りが漂う時刻。
 仕事やローレットギルド員としての身分から、道ばたにいながらにして解放されたせいだろう。
 急に、腹が、減った。

 家に帰るまで待てる気がしない。
 歩いて行ける範囲に丁度良い食べ物屋はないだろうか。
 スマホを見ればグルメ情報くらいは載っていそうなものだが、今はこれに頼る気にはなれなかった。
 夕餉はいわば一日の終わり。自分という人間が小さな人生の一コマに区切りをつける儀式だ。
 他人のレビューや宣伝用の編集された写真よりも、自分の直感と運命に任せて店を選びたかった。
 足早に進んでいくと迷い込んだのは住宅街。老人ホームや中学校が横目に見える。とても食べ物屋が連なるような場所ではなかった。
 それでも自らの直感と運命を信じ、このまま空腹の苦しみが長く続くかもしれない不安にこらえながらも進んでいく……と。
 ぽつん、と暖かい灯りが目についた。
 民家とは異なる二枚の引き戸からもれる光は、日本の古い居酒屋の入り口によくみるそれだった。近づいてみればのれんもかかっている。
 こんな場所によくもまあと思いながら周囲を見回せば、家、家、家。ここを逃せば他はなし。居酒屋に夕餉をとりに入ることに少々の抵抗を感じつつも、覚悟を決めて引き戸に手をかけた。

 からからと、時折がたがたと、年季の入ったスチールの引き戸が半分ほど開き、テレビの相撲中継の音とふんわりと漂う煮魚の香りが出迎えた。
 見れば、カウンターテーブルと木の椅子がいくつかあるばかりで、向かい側には一段上がった畳と座布団のスペース。
「ひとり?」
 カウンターの向こうからにょきりと顔を出した店主らしき年配の男はこちらにそう問いかけてきた。
 いらっしゃいませでも、開いてるよでもなく。
 だがそれでいい。かしこまった接客もチェーン店のマニュアルも求めていない。求めているのは、いましがた漂った香りの煮魚だ。
 ひとりだけだと言って、カウンター席に座る。
 奥の方で透明なグラスから透明な液体を飲みつつ、魚らしきものを黙ってつついている男がいる。焼酎とカレイだろうか。醤油と砂糖で甘辛く煮付けたカレイの香りだったのだと、席についてからやっと気づいた。
 注文をすべきだろうと見回してみれば、メニューブックらしいものはない。振り返って壁をみても、メニューらしいものは書いていなかった。代わりに演歌歌手の公演ポスターが張られているのみである。
「なにくいたいの」
 店主らしき男が笑顔で言う。なるほど、と心の中で頷いてから横を指さし『あれと同じものをください』と言ってみた。くわえて、白いご飯を。
 店主は意図を察したのか、ポテトサラダと味噌汁もあるよと言ってきた。
 もってこいじゃないか。
 頷いて、時を待つ。
 テレビでは相撲の次なる試合が始まっていた。
 なにとはなく眺めながら、カチンとコンロをひねる音を聞く。
 今日の夕餉は、いい時間になりそうだ。

GMコメント

■オーダー?
 実質的なオーダーはありません。
 あなたはこの街で仕事を終え、自由になったところで夕飯を食べたくなりました。
 適当なお店に入って夕ご飯にありつきましょう。
 あなたはどんな店構えのお店を好むでしょうか。
 どんな料理があったら嬉しいでしょうか。
 疲れたときに欲しいものは?
 運命的に出会えたら嬉しいお店は?
 そんな空想をプレイングにしたためてください。
 きっと、素敵な出会いが訪れるでしょう。

 舞台は再現性東京です。
 知らなくても大丈夫。なんとなく現代日本と同じような町並みだとお考えください。

 基本、このシナリオは1人1パートで別々に描かれるでしょう。出会うお店も時系列すらも異なるかもしれません。
 シナリオ参加者の誰かと一緒に行きたい場合は、一旦相談ですりあわせてもらってからプレイング冒頭にそうとわかるように書いて頂ければOKです。

 では、よい夕餉を。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●希望ヶ浜と学園
詳細はこちらの特設ページをどうぞ
https://rev1.reversion.jp/page/kibougahama

  • 再現性東京編2010:孤高のグルメ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年12月28日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

スティーブン・スロウ(p3p002157)
こわいひと
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
パーフェクトミニスカポリス
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
トキノエ(p3p009181)
特異運命座標
ブラム・ヴィンセント(p3p009278)

リプレイ

●『こわいひと』スティーブン・スロウ(p3p002157)のグルメ
 音というのは不思議なものだ。
 普段は気にならない人の声や雑踏でさえ、いつまでも聞いていれば嫌になってくるもの。
 久しぶりに希望ヶ浜の繁華街にやってきていたスティーブンは、まるで人混みをさけるかのように裏通りへと身を寄せていた。
 野外へ向けて大音量で流れる雑貨店のテーマソングも、しつこい客引きも、等間隔に並んだティッシュ配りも、行き交う自動車の音すらない、そこは暗く静かな通りであった。
「今日は人疲れしてんのかね。家に帰ってのんびりメシにしたいもんだが……」
 腹のむしに聞いてみると、どうもそれまで待てないらしい。
 かといって賑やかな通りに帰って洒落たバーやネオンの輝く店に入りたいわけでもない。
 どうしたものかと歩いていると、ガード下にぽつんと光るものを見つけた。
「お……あれは、たしか」
 希望を抱いて近づいてみれば、それは確かに赤提灯。
 今の気分に丁度良い静けさだ。スティーブンはのれんをくぐり、引き戸を開く。
 すると、カウンター越しに『いらっしゃい』と静かに答える女性の姿があった。
 客は……自分以外にはいない。
 どうやら当たりを引いたらしい。
 スティーブンは小さく笑ってカウンター席に座ると、壁に並んだメニュー表を眺めた。
「実はサシミとか生魚が苦手でね。焼いたのとかならいけるんだが」
 スティーブンは小気味よく軽口をいって、焼き鳥を数本注文した。
 ゆったりと落ち着く、静かな時間。
 心の中だけでわずかにテンションをあげながら、スティーブンは焼き鳥数本を平らげると畳んだ紙幣をカウンターにトンと置いた。
「ごちそーさん。いい店だね。ここ、女将も美人だし」
 またまた、と笑う女将。
 スティーブンはウィンクをして、店を出て行った。

●『天翔る彗星』新道 風牙(p3p005012)のグルメ
「うおおおおおおおおお! ラーメン!」
 風牙は道ばたで叫んだ。
 サラリーマン風のオッサンがハッて振り返るくらい唐突な叫びであった。
 ふつう往来でこんなこと叫ばないが、これには理由があるのだ。
 ぜひ聞いて欲しい。
 たとえばあなたがメチャメチャ運動した後だとする。風牙でいえば囲碁サッカー部の助っ人として謎の運動をめっちゃやらされた後だ。
 こんなときはカロリーが欲しい。
 それも寒い12月のこと。暖かくてがっつりしてて気合いの入る食い物……例えばあつあつの豚骨スープがこってりと絡んだ細麺。背脂がかるくまだらに浮いてるくらいの破壊力に更にニンニクをたたき込んだ暴力的なラーメンを箸で掴むあの瞬間の期待感……。
 嗚呼、ラーメン!
「あ、ダメだ。もうダメ。完全に口の中と胃がラーメン受け入れ態勢に入ったわこれ」
 行くしかねえ。風牙は足早に歩き出し希望ヶ浜駅前を巡った。
 中華蕎麦チェーン店。これは違う。
 魚介出汁の創作ラーメン。これも違う。
 北海道の味噌ラーメン。でっかいバターと大粒のコーンがのったそれは美味そうだが今じゃない。
 野菜大盛りのちゃんぽんも嫌いじゃないが、今じゃない!
「ああくっそ! こういうときに限って目当ての店が見つからない!
 おのれ神め! 頑張ったオレにご褒美も与えてはくれないのか! やはり世界に神など不要! 斬るしかない!」
 心のチェーンソーに手をかけようとした……その時。
「あっ」
 鋭敏に研ぎ澄まされた風牙の嗅覚が、それを察知した。
 小さな十字路へ小走りに入り脇を見ると、看板もろくに出していない店から立ち上るオーラが見えた。それは豚骨の白いスープを彷彿とさせる気合いのオーラ。
 香るそれも豚骨! ニンニク!
「サンキュー神様! 愛してるー!」
 風牙は心のチェーンソーを投げ捨てて店の引き戸を開き、ずんずんとカウンター席へ。
 メニューは雄々しくも『ラーメン』『餃子』『唐揚げ』という三つの木札がかかるのみ。
 餃子と唐揚げからさしこむ誘惑に脳を焼かれるが……。
「すみませーん! 豚骨ラーメンの唐揚げセット。あと餃子一人前」
 もう迷わない。欲張るのだ、若さよ!

●『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)のグルメ
「再現性や〇やKICHIJOJI……」
 『おかえりなさい』の声に迎えられた寛治は、まるで吸い寄せられるようにカウンター右側の席へと腰掛けた。
 異世界に心のよすがを求めて作り上げたのが再現性東京なら、この店もまたよすがによって作り上げられたもの、いわば心のふるさとである。
 寛治が座ったのを見るや、ガラスのお猪口がトンと置かれる。
 彼と店を繋ぐよすがであり、店が彼に贈ったものだ。
 何も注文をしていはいないが、わかっているとばかりに出された『鰤刺し』。
「ほう……」
 眼鏡のレンズ越しに目を細めた寛治は、箸に手をつけ分厚い鰤のひときれをつまみ上げる。
 どこかずっしりと手に主張してくるそれを口に入れたなら、まるで身体にしみこむかのように蕩け、そして素早く舌になじんでいく。
 鮮度。身の質。そして寛治の体質や外気温までを考えて整えられたそれは、まさしく『料理を出す』という行為の最上位にあるサービスだ。
「11~12kgってところか」
 つぶやく彼に、厨房からは『11kgですね』と声が帰ってくる。
「やはりね……」
 思わずもれた笑み。
 食は人体の調律だと、寛治は思う。いつも美味しく食べられる店で美味しさを感じられなかったら、それは自らの肉体か精神が不調をきたしているサインだ。
 そしてよいものを食べ、よい酒を飲む。
 こうして調律は保たれるのだ。
 やがて運ばれてきた土鍋には白菜とエノキ。かぐわしいダシのなかで睦まじく寄り添う彼らに、かつら剥きの大根が泳いだ。
 迎えるべき最大のゲストは……そう、鰤だ。
 鰤しゃぶである。

 鰤しゃぶを心ゆくまで楽しみ、そして〆の雑炊に心をなごませ、身体を満たした寛治。
 傘を手にエレベーターに乗り込む彼を、店員達が揃って見送った。
 そんな彼らに礼を返す寛治。
 彼らを繋ぐのは食と礼節によって繋がれた信頼である。
 絆と呼ぶものがあるのだとすれば、きっとこれがそうだろう。

●『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)のグルメ
「そういえばアオイ、今日は機械の調整で忙しいとか朝言ってたっけ。その後も依頼に行くとか……」
 最近めっきり女性らしさが出てきたリウィルディアは、再現性東京の賑やかな町並みを抜けながらそんなひとりごとをつぶやいた。
 頭の中でくるくると空想する。
 彼が家に帰ってきた時、はさんだ食卓になにが載っていたら嬉しいだろう。
 無数のシミュレーションが駆け巡るなか、ぴたりとリウィルディアの足をとめたのは肉の焼ける匂いと、パンのふんわりとした香ばしさ。
 興味がひかれ香りのもとへと歩いてみると、見えてきたのはどこかハワイアンな外装だった。
 看板にはパンでハンバーグを挟んだいかにもジャンクな食べ物が描かれている。
「これは……あ、ハンバーガーか」
 アオイが包装紙に包まれたハンバーガーをぱくつく光景が脳裏をよぎる。
 じっと見つめていると、小窓から顔をだした店員が『お持ち帰りですか?』と声をかけてきた。
「お持ち帰り? そういうのもあるの?」
 店に入るための自動ドアとはまた別に、テイクアウトがしやすいようにと設けられた小窓のむこうでは今もハンバーグが巨大な鉄板の上でやけている。
 なるほど、これを持ち帰ればきっと……。
「じゃあ、えっと……テキサスバーガーとタルタルフィッシュと、それからフライドポテトを」

 まだほかほかと暖かい紙袋を抱えて街を歩く。
 スマホを取り出して、二度タップ。
「あ、アオイ? まだなにも食べてない? 実はハンバーガーっていうのを買って帰ろうと思っててさ――」
 今日の夕餉は、楽しくなりそうだ。

●『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)のグルメ
(ふぅ、厄介事が一つ片付いたか。このままさっさと帰ろう……と思ったが)
 再現性東京、希望ヶ浜。
 世界は夜に静まった小道を歩きながら、無意識に腹へと手を当てた。
 空腹はそうごまかせるものではない。希望ヶ浜から出てポータルを使って空中庭園へ戻ってそこから自分の家へ……などと過程を考えると気が滅入る。
 多少の旅費は貰っていることだし、適当にその辺ですませるか……と世界はたまたま目にとまったファミリーレストランの前に立ち止まった。
 ガイストというなんともシンプルなロゴマークのついたレストランは、入ってみれば随分と開放的な空間だった。
 観葉植物のポプラから始まり、落ち着いたジャズがうっすらと流れる店内。椅子やテーブルはどこか小洒落た木製のものに統一されていた。
 自分の格好がばりばりの白衣であることに若干の場違い感を抱いたが、店員はなにくわぬ顔で彼をテーブル席へと案内していく。
 ファミレス。ある意味でそこは人類のるつぼだ。どんな人間も、そこは一旦うけれ入れる。

 メニューを開けばがっつりとしたハンバーグ……とは別のページに分厚いパンケーキがのっていた。
 はじめは『がっつりと肉!』という気分だった世界も、その写真にはやられるほどだ。
 注文して出てきたのはふんわりとしたパンケーキの上にバニラアイスとチョコレートソース。そして苺という洒落たメニューだ。
 フォークで刺してとってみると、苺には花のように綺麗な斬り込みが入っている。
「これがファミレスのメニューか。手ぇこみまくってるじゃねえか……」
 当初感じた場違い感はどこへやら。
 世界は夢中になってパンケーキとオレンジジュースを堪能し、〆のパフェを注文し始めていた。
 彼がはたから『可愛い大人』に見えていたことは、どうやら気づかぬようである。

●『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)のグルメ
 物語という文学形態において、終わりはその先がないことを示す。
 しかし人生という文学形態にたったなら、終わりは次の始まりを意味する。
 ものすごく賢そうに言ってみたが、要するに。
「仕事が終わったらおなかがすく……」
 オニキスは、完全ごはんモードになったのだ。

 疲れたときに食べたいものは人によって違う。
 それは塩を振ったおにぎりであったり、シーフード味のカップラーメンであったり、揚げたてのコロッケであったり、高級なチョコレートであったりする。
 その点オニキスにとっては――。
「中華だ。中がが食べたい。いろんな料理を沢山食べたい……」
 小さなお皿に乗ってターンテーブルをメリーゴーランドのように回る様々な料理。かに玉エビチリ餃子に麻婆豆腐。
 その光景に脳を焼かれる思いをしながらふらふらとたどり着いたのは、隠鱚飯店というなんとも読み方のわかりづらい店だった。
 赤い雷文模様に囲まれたその看板は、文字の意味が分からなくともピンときた。中華料理店、である。
 頭の中でターンテーブルが高速回転しはじめるのを感じながら、オニキスは食品サンプルの並ぶショーケースをのぞき見た。
 昼はワンコイン。夜も千円に届かぬ程度の価格でおなかいっぱい食べさせるという、大学の近くにあったら毎夜人で溢れそうな店であった。
「うん、きめた」
 ここにしよう。今は一番合っている。

 テーブルいっぱいの料理、料理、料理。ターンテーブルではなかったものの、普段なら気圧されてしまうほどの豚バラチャーハンや揚げ餃子やかに玉天津飯やら皿うどんやらごま団子やら青椒肉絲やら……。
 中華料理というとどうも茶色いイメージがつきがちだが、こうして並べるとカラフルだ。そして何より全体から立ち上る食欲への刺激がいかにもである。
(稼働2年半の私にはまだよくわからないけど、人間の言う『思い出の味』っていうのは、もしかしたらこういうことを言うのかな……)
 おなかいっぱい食べよう。
 そしてこれを、思い出にして持ち帰ろう。
 きっとまた疲れたときに、ここへ来たくなるだろうから。

●『特異運命座標』トキノエ(p3p009181)のグルメ
 仕事終わりにふらりと適当な居酒屋に入って適当なつまみでちびちびとやる。それがトキノエの習慣……いや人生といってもいいくらい染みついたパターンだった。
 ラサなら野外に開いた露天でピラフと果実酒、鉄帝なら暖炉のそばでソーセージとビール、幻想なら吟遊詩人をさかなにエールやワインを楽しんだところだろう。
 それが彼にとっての風土であり、夜適当に飲みに入ることはその土地を知ることと同義とすらいえた。
 だからここ再現性東京に来たなら立ち飲み屋でビールとおでんをぶちかましてやろうか……などと思ったのだが。
「ない」
 居酒屋がない。
 住宅街から随分離れた山奥に来てしまったせいだろうか。
 居酒屋のゐの字も見つからない。
 そうして歩き回っているうちに腹のむしが騒ぎだし、もう何でも良いから飯屋にはいって飯を食いたいという気持ちが上回っていった。
「こうなったらどんな店でもいい。見つけた店にとにかく……お」
 歩いて行くとぽつりと見える灯り。
 目を細めると、『うどん』とあった。

 開いてみると、カウンターの向こうで携帯ラジオを流している男がいらっしゃいといって新聞紙のすみっこからこちらに笑いかけた。
 壁を見ると、ややきばんだ紙にメニューが大きく掲示されている。
 とんと置かれた湯飲みに手をつけながら……。
「あー……きつねうどん。あと、ちくわとさつまいも、かしわ天も」
「あいよ」
 流れてくるのは野球中継。
 ずいぶんふけた夜なのにどこの球場だろうとおもったが、深くは問うまい。
 やがて出てくるうどんは関西だしのスープに甘く煮た油揚げがのった、いかにもなうどんだった。
 そのくせ麺はいいぐあいにくたっとやわらかい、コシよりもなめらかさを重視した麺だ。噛まずに飲めるのではと思うほどに。
 ささくれた気持ちがスープと麺にやわらかく流されていく。
 作り置きされた天ぷらにかじりついてみれば、混ざったややしんなりした衣と青海苔が心をやさしく撫でていく。
(マジでいい店見つけたかもな……)
 トキノエはうどんに夢中になりながら、そんなふうに考えた。

●ブラム・ヴィンセント(p3p009278)のグルメ
 年齢不明性別不詳のブラム・ヴィンセント。彼の生涯を語ることは、彼自身にとっても難しい。
 21世紀中日本のどこかでトラックに撥ねられたという記憶と、それらの記憶を失って聖魔都市リンデンロンドへ飛ばされたという経歴。すったもんだで暗黒戦士<ブラッディニンジャ>となった彼ははたと自分が日本からの天声者であることに気づいたかとおもいきや気づけば混沌空中庭園。
 限界を超して振り回され続けた彼の人生は推定二度目のリセットボタンが押されたわけだが……。
「こっちの仕事は楽なんだ過酷なんだかわからんな」
 再現性東京でちょっとした怪異の破壊を依頼され、そこそこの賃金をもらい帰路につくかたわら。ブラムは田舎町をふらふらと歩いていた。
 こうしてみると不思議と懐かしい。
 日本からやってきた人々が懐かしむために、もしくは閉じこもるために作った街である。そう感じるべくして感じているのだろうが……。
「俺、どこに住んでたのかもわからねえんだよな……」
 かつての名前も住所も、部屋の風景すらまともに思い出せぬいまである。
 そんな彼がふと脳裏に浮かんだのは――。
(なんかこうさ、じゅわっとして、ほっこりして、バァンって感じの……?)
 統治450年を誇る都市で暮らした彼だが、ゆうて450年。地球で言えば中世前期。パン食の普及が西暦500年からと考えると、文化成熟度は推して知るべしである。
 ちなみにカルダシェフ・スケール的に言えば21世紀人類はタイプⅠ惑星文明すら突破していないのである意味どっちもどっちである。
 さておき。
「あれ、なんだこれ。俺の食いたいこの……あの、なんて料理なんだ? そもそも料理なのか?」
 もやもやした気持ちのまま吸い込まれたのはいかにも個人経営といった小さい飯屋。
 入ってみれば、座敷で寝転んでいた店主らしき男が『お、らっしゃい』とのんびり声をかけてきた。
「何食いたいの」
 かなり変わった角度からの問いかけにやや困惑するも、ブラムは『これで適当に』と予算を先に支払ってから席に着いた。

 出てきた料理は……なんと表現すべきだろうか。
 甘く煮たカボチャとイカ。焼いたホッケ。白ご飯となめこの味噌汁。ついでに三つほどの唐揚げであった。
 微妙に統一感がないがしかし。
(美味いのはわかる、わかるぞ……)
 なんだかよくわからないが。
(懐かしい味だ……)
 しばらく、この料理に浸ってみよう。
 再現性東京を作る人々の気持ちが、すこし分かった気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――ごちそうさまでした

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