シナリオ詳細
わるいこシェリーは強くなりたい
オープニング
●
「まだダメだ、全然足りない」
風が吹き抜け、木々をなぎ倒す。
「こんなんじゃ、全然満たしてあげられない」
強い時化がもたらす波の音をかき消す様な暴風は木の葉を吹き飛ばし、漫然と輝く満月を覆い隠す。
「ボクのエネルギーだけじゃアリスを、強《きもちよ》くできない」
その銀の長髪を垂らした、酷くクマのできた蝙蝠のスカイウェザーは、石畳に座り込みうなだれる。ガス灯が照らし出す周囲の土や木の残骸が生み出した惨事もお構いなしに、一人思いに耽り息を吐く。
「ああ、ボクはただ、アリスに本気でおしおきしてもらいたいだけなのに!」
「だから、私が協力してあげるのではないですか、シェリー」
シェリーと呼ばれたその人物は、ガス灯から語り掛けるその影に向かって首を振り、嘲笑するかの様に呆れ声で返事を返す。
「確かにスポンサーのキミには感謝してるよ、でも、キミの『誘い』に乗る気は無い――ひっくり返っちゃったら、アリスを嫌いになっちゃうかも知れないじゃないか」
明らかに飛行種の特徴ではない尻尾を振り、強い拒絶を示すシェリーにその影はホホと笑い、そして黒い風をシェリーへと吹かせる。
「そうはしませんよ……想い人の前であれば、きっと、あなたは好きなままで居られる」
黒い風がシェリーの後ろで形作ると、それは虚ろな瞳をした無数の男の姿を取る。
「彼女を唆して私の元へ連れてくるのです、そうすれば……」
シェリーはその様子に物分かりが悪いと溜息をつく。アリスの為ならばなんでもするしどんな奴とも手を組むつもりだったが、よりにもよって得体の知れないもの相手に見惚れられてしまうとは。
「そううまく行くとは思わないけどね、ボクはアリスにおしおきされればそれでいいわけだし」
シェリーは再び立ち上がると男どもを連れ人気の多い方へと歩みを進める、そして建物の、白い石の壁に手を付けて。
「ま、ボクが人類の敵としておしおきされる所をみたら満足して世界の隅っこにでも帰ってよ、スポンサーさん?」
不気味な笑みを浮かべる影へと手を振り、そしてその腕に風を纏うのであった。
●
「……海洋の方から依頼が来たの、ちょっと困る話だけど……」
「ここに来るのなんていつも困る仕事でしょ☆……あー」
時を少し遡ってローレット、いつもの様に依頼内容をまとめた羊皮紙を手に取った『いねむり星竜』カルア・キルシュテン(p3n000040)――からそれを奪い取り、代わりに読み上げたAlice・iris・2ndcolor(p3p004337)は確かに困ったとイレギュラーズたちを手招きする。
「名前は隠してるみたいだけどこの情報間違いなくSherryの仕業ね、自分で事件を起こして自分で解決してくれだなんて何考えてるんだか?」
首を傾げたイレギュラーズの一人に対し、Aliceが手短に語った情報をまとめるとこう。Aliceには自分にエナジーを提供する宿主が大勢おり、その中の一人であるSherryに手を焼かされている、と。
「海洋貴族の次男坊って事で宿主にしてみたのはいいんだけど。アリスは一人だけのエナジーじゃ生きていけないのにあの子ったら独り占めしたいみたいでね、かまってーってなると暴れたり盗んだり悪さする奴なの、心意気はわるくないんだけどね♪ ……で、これ」
Aliceが示した羊皮紙にはSherryなる少年が海賊団を結成し、次の満月、海洋のとある港町で暴れるのだという情報と、それを止める依頼が出たことを示している。
「つまり今夜よ! まだ被害も出てないのに暴れるので止めてくださいだなんて依頼出せる奴、本人ぐらいだね☆ ご丁寧に依頼金まで付けてるし」
「いや、普通に自警団とか町長とか……」
「本人よ……もう、これならもっときついおしおきをしてあげないと駄目かな?」
ツッコミを入れるイレギュラーズをAliceが遮るとそのまま両手の指を7本立て、彼女の困った宿主の暴走を止める仲間達を呼び集めるのであった。
「そんなわけで、急遽アリスちゃんのおしおきのお手伝いをしてくれる人を募集しまーす☆ アリスちゃんも気が向いたら一緒に行くから、よろしくね♪」
自作自演とは言え、金と名声とパンドラが出る以上依頼は依頼だ。イレギュラーズたちは困った仲間とその宿主のため、いそいそと出発の支度を始めるのであった。
「んー、でもちょっと妙ね? 確かにシェリーは御小遣いは持ってる方だと思うけど、そんなに傭兵雇えるほどじゃなかったような? ……まあ、いっか♪」
- わるいこシェリーは強くなりたい完了
- GM名塩魔法使い
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月31日 22時01分
- 参加人数7/7人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●その恋は突風の様に
まんまるい月が街を照らす、海へと吹き抜ける強い風を感じる。白い石の街並みとそれを護る砂浜に波しぶきが散る音が響く。
聖女の祈りに、そして年の瀬に、その港町の露店立ち並ぶ通りは非常に賑わい、沸いていた。
「それじゃあ、始めようか」
「げ、ご子爵様――」
軽やかな靴の響く音、続き屈強な男が急所を護る粗雑な鎧を鳴らす音が十数。
その異質な組み合わせに商人たちは顔を見上げ仰天すると、何かを察したのか一目散に逃げ出そうと飛び出す。
露店とガス灯は破壊され、暗闇に木材や鉄材が飛び散る。
「キミ達ならこれぐらいの障壁乗り越えてくれるだろう、ねえ?」
ほくそ笑む悪魔、無言で佇む男たち。その暴行を真っ先に食い止めたのは『きつねに続け!』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が振るう剣であった。
「シェリー君!」
「ッ!」
瓦礫を透り抜けガス灯を軽やかに躱し巧みに振るわれたその剣にシェリーが後退し暴風が収まり、視界が開けた通りに仲間のイレギュラーズ達が駆け付け、暴風に阻まれていた一般人を助け、手馴れた様に避難させていく。
「うっわ、すっごいイタズラ! あなたとはうまいジュースが飲めそうだね!」
踏み場の悪くなった足元を見回し、救援の素早さに拍手を送るシェリーを見つめ、マリカ・ハウ(p3p009233)が喜ぶとヒィロはシェリーに呆れたようににため息をつく。恋からの可愛いワガママのつもりでも、被害者からしたらたまったものではないだろう。
「やれやれ、止めてもらう為だけにここまでするかねぇ」
同感と『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)が瓦礫を蹴り飛ばし悪態をつくと、シェリーは「じゃないと来てくれないじゃないか」と微笑を浮かべる。
「それはこっちの台詞だね。ぞくぞくするじゃないか、ボクとアリスの為にあの幻蒼海龍まで来てくれるんだから!」
「……どうしてこうなったのかしら?」
相変わらずの読めなさに、『Sensitivity』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)が困ったように肩をすくめても彼女をじっと見つめるシェリーの表情は変わらず、『Raven Destroy』ヨハン=レーム(p3p001117)は松明を片手にこう零すしかなかったのであった。
「すげぇ。とんでもないひと」
「ああ、知っていてくれたことはありがてぇが、突っ込みてぇ事も山ほどだ」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)も辺りを見渡しながらそうつぶやくと、刀を抜き海賊の数を数え戦闘に備える。
「ま、依頼は依頼だ、ちっと手伝ってやるとしようかね」
「ええ、人間関係にはお互い踏み込み無用ね」
『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)もまた依頼を淡々とこなそうと魔術を展開すると、瓦礫を踏みつけぬ様浮かび上がるのであった。というか関わったら絶対めんどくさいし。
「その次男坊とやらのことは任せるからね?」
「任された! それじゃあみんな、とっつげきー☆」
「それは僕の仕事ですよ!?」
開幕そうそうAliceとヨハンが取っ組み合い、シェリーがその様子にほくそ笑む。
たぶん今年最後のぐだぐたな戦闘は、こうして幕を開けたのである。
●わるいこシェリーの悪戯劇
シェリーが頬に流れる血を拭う、静止していた海賊達は時が動き出したかの様にゆらりと動き出す。
「Sherry、風魔法の次は洗脳術でも覚えたの?」
「まさか? でも、鋭いね。流石アリスだ」
アリスの冗談めかした言葉にシェリーは被虐心を感じ恍惚とした笑みを浮かべ――突撃、破壊。
「それだからたまらない!」
浅葱色の風を纏った貴公子は己が身を風と化すと凄まじい速度で懐に潜り込み、両手より生み出すカマイタチで全てを切り刻む。黒い風が吹き抜ける。
「なんて威力……!」
美咲の躰が衝撃で後ずさり、舌打ちをする。縁への評価でそんな予感はしていたがこの男、素直に諦める様なタイプではない。むしろ全身全霊で戦いを楽しみ、打ち倒される事に興奮する類の人間だ。
「何てタチの悪い奴……ヒィロ、いつも通りに!」
「アイアイサー!」
厄介だ、だが厄介なだけで所詮人間だ。人間相手ならばなんとでもなる。美咲の号令で飛び出したヒィロを海賊たちが取り囲む。単身特攻など無謀の極み、だがヒィロならば問題ない、誰もヒィロに触れられやしない。
「さあ、みんなボクが相手だよ!」
溢れんばかりのオーラがヒィロを包み、海賊たちを翻弄する。海賊たちの虚ろな精神ならばこの程度の攪乱など容易い。
「美咲さん、お願いしまーす!」
まるで霧の中で尾を掴むが如く、砂漠の中でたった一つの宝石を見つけるが如く。斧や銃弾を奇跡的な身のこなしで読み躱すヒィロのアグレッシブな動きに感銘を受けながらもその眼光は鋭く、己の内に揺らぐ魔力を込めると一つの閃光として解き放つ。
「安心してね、死にはしないから。死ぬほど痛いけど」
美咲の魔力が夜の闇を照らし、炸裂する。海賊たちの咆哮と仲間の雄たけびが木霊する。
「さぁて、エナジーの美味しそうな宿主候補はいるかしら☆」
Aliceは腕に巻き付けた不可思議な色の触手ちゃんに口づけをすると翼を広げ幻影を展開――尻尾から摩訶不思議な力で分泌された彼女の分身が質量を持ち、海賊達へと飛び掛かる。
「忙しいから、後でレビューよろしくね☆」
Aliceの分身たちが海賊を押し倒し、甘美な幻覚を見せられ悲鳴は次第に甘美な物へと声色が変わっていく。
「アリス、おあずけなんて酷いじゃないか」
「おしおき目当てで悪さするSherryにはしてあげないわよ?」
Aliceのツンとした声に彼はそれもそうだと目を瞑ると黒い風を纏い、Aliceに向け解き放つ。
「じゃあ、もっと悪い事しよう」
走る旋風は石畳を剥がし、無数の瓦礫という形でAliceへと襲い掛かる。しかし瓦礫は遥か頭上の月が不思議と光り輝くと同時に不思議と方向がそれ、Aliceの急所を避けていった。
「おや――」
「やっぱりAliceさんを狙ってきました! そうすると思ったんですよ!」
Aliceの方へと向けた扇を広げ、ヨハンは得意気な顔を浮かべる。
「場数が違うんだよっ! 海賊と貴族のお坊ちゃんが鉄帝国のレイザータクトに勝てると思わん事だなっ!」
プラグ状の尻尾を視えない何かに突き刺しバチバチと放電して、何か得体の知れぬ力で仲間の傷を無かったことにしているヨハン。そんなヨハンをちらりとシェリーは見やると、一言。
「随分と可愛いオールドワンもいるんだね、アリスの宿主になるといい」
「さあ、僕の回復力を上回れると思うなら……って可愛いってなんですか!? この人もヒトの話聞かないタイプだ!?」
「やれやれ、随分と派手に荒らしたモンだ」
喧噪から外れ、光から外れ。海賊達の目線が彼らを引き付けるヒィロや主と戦闘するAlice達にあつまる最中、縁は散らばった物の間の石畳を踏みつけ、暗がりの戦場を駆け抜ける。
「おー、縁ちゃんの言う通り! 海賊さん全然気づいてなかったり?」
マリカはぴょんぴょんと器用に瓦礫の無い場所を飛び回りながら、得物を振り上げ宙からがらがらと動く骸骨を海賊達に浴びせていく。身の凍るような悪戯に海賊達が悲鳴をあげてもなお、視線はマリカ達に集まらない。
一体どんな『催眠』を喰らったかは知らぬが、あの海賊達は身体能力や思考能力を超えた行動はできやしない。夜の町中で戦うならば、当然光のある場所を選択するであろう。縁は自らの作戦が的中した事を確認すると、さらに次の段階へと進めるのである。
「お前さん、やっちまいな!」
「応!」
縁の叫びに応じプラックが油と火を投げつけると屋台の残骸の一つへと引火し、それは大きな火柱となる。海賊たちの目線が集まった時そこにプラックの姿はなく、代わりに飛び上がったプラックの怒りの叩きつけと怒声が木霊した。
「おい、海賊共、海賊なら海賊らしく正気で悪さしやがれ!! こんな風にな!」
文字通り痺れるようなプラックの檄は海賊達に響くものがあったのか炎の灯に惹かれたのか、何か言葉を紡ごうと唇を動かしながら集い出す。
ぎゅむ。
『ア……?』
プラックに気がそれた彼らが瓦礫とは違う何かを踏み、当然下を見つめれば石畳を破り、彼らの足を掴み握りしめる子供の亡骸が――
『ア、アアアア!?』
「キャハハ! 見て見て! 暴れ出した! ざぁこ、ざぁこ♪」
お手製の幻覚がドツボにはまり、半狂乱になり斧を振り暴れ出す海賊を見つめながらマリカはざぁこざぁこと嘲笑う。海賊は斧を敵味方なく関係なく振り回し続け、物陰からぬっとあらわれた縁の顔に更に絶叫し腕を振り下ろすと。
「そんな寝ぼけた攻撃、芯にも当たらねえよ」
刃が刃に弾かれる爽快な音と共に縁に弾き飛ばされ体勢を崩したところに彼の持つ青い刀がドスリと突き刺さり、力なく崩れ落ちてしまうのみ。
「トリック・アンド・トリート♪ マリカちゃんの悪戯、どうだった?」
「ムード満点だよ……正直、ちびるかとおもった」
本気か冗談か、プラックはそう答えると手甲を強く握りしめ、賊どもの主人の方へと向き直る。
「この屋台の代金もアンタにツケといてやる」
「なるほど、ボクの悪さもここまでみたいだ」
翼をたたみ、利き腕を抑えながらシェリーが着地し、何かを観念したように深く息を吐く。まだ何人かの海賊達が果敢にも戦っているが大勢は決した様だ。
「アリス、ボクと一緒に来るんだ。キミとならどこにでも行ける、キミの疑問に答えて――洗脳術の先生の所へ連れてってあげようじゃないか」
「先生って、今回のスポンサーの事?」
何かを考えたAliceに対し、Sherryは「そうさ」と答える。瞳を閉じ、しばらく沈黙した後にAliceは親指を……下へと向けた。
「却下、それ負けイベってやつでしょ?」
「ふふ……流石にキミでもわかるか」
黒い風が海へと吹き抜けていく、シェリーが清々しいまでの笑顔を浮かべる。
「キミが選べばボクはボクを捨ててもいい覚悟だった、でも実を言うと同感さ、ボクだってキミとの間に得体の知れない奴を入れたくない」
「じゃあ、初めから自分の身の程にあった悪さしてればよかったとおもうよ?」
美咲の言葉にシェリーが向き直り、彼の元へと風向きが変わる。イレギュラーズの全員が迎撃の構えを取る。
「それこそ却下だよ、『魔なるもの』に手を貸すなんて最高に御伽噺的で、おしおきして貰うのに最高の条件じゃあないか!」
「雷光術式! 皆さん、全力で!」
Sherryが身を風に変えた瞬間、細く重い風圧の柱がAliceの体を射抜いた、はずだった。
「残念! きっきませーん!」
Aliceは何度だって、何回だって起き上がる。自分の渾身の一撃が無下に、無駄死ににされる、この感覚。
「ああ、その言葉を待っていた――」
ヨハンの閃光が号令となって場に広がっていく。数を減らそうと、勝利を確信しようと、決して油断せず、トドメの一撃を。
縁とヒィロの一発が十字型に刻まれる。美咲とプラックの魔力が奔り、宙で胡坐をかいていたAliceの元へと打ち上げられる。
「アリス」
「もうゲームセットみたいだけど、努力だけは認めてあげる☆」
HPが尽きても、その性癖に追撃を。お望み通りドMで悪い子Sherryにキツイお仕置きを一発だけ。
Aliceにビンタされ、イレギュラーズの面前に晒されたシェリーの笑顔はそれはそれはもう爽やかだったそうな……。
●はた迷惑な茶番劇
「最高に痛い。最高だよアリス、痛いのも最高だけど、それ以上に嬉しいんだ」
体のバランスを崩しシェリーが座り込む、力の入らない腕を支えながらAliceを見上げ、被虐的なものではない爽やかな笑みを浮かべる。
「アリス、ボクを止めるために、ボクのためにキミが強くなってくれた事が、嬉しくって嬉しくって、せっかくキミに打たれたってのに痛くない、だからもう一回」
「Sherry……」
そして歩み寄ったAliceにSherryは目を見開くと、「おっと、降参さ」と静かに手を上げた――
「ばっかじゃないのかしら? 私がそんな理由で強くなると思ったの?」
「うん?」
きょとんと目を見開くシェリー。確かに彼女の怠惰な性格ならば自身のために短期間で強くなる等ありえない。そうわかっているからこそ、強くなるために『大いなる狂気』にも手を出そうと考えていた彼ならばわかりきっていたことじゃないか。そうAliceが諭すと宙に数字を指で描き、指し示す。
「簡単な話よ、一万買ったの」
「何を?」
「RCよ、千と間違えて、しかもパズル直前に買ったおまけつき! それでヤケクソになって修行(クエスト)しまくったの」
静まり返る周囲のイレギュラーズ達、目を見開き凍り付くシェリー。メッタメタな上に笑えない。
「よく効いたわね、でもおかしいわ? てっきり笑い転げて動かなくなるかと思ったんだけど」
「あまりにも痛々しい理由だから気を失っちゃったんですよ!?」
ヨハンのツッコミが冴えわたる中プラックが困ったように頭を掻く。せめて後で、その黒幕に繋がる情報の一部を手に入れる事ができればいいのだが。
「それでアンタ、そいつをどうするんだ? 縁を切るのか?」
プラックの問いかけに対しAliceは「まさか?」とシェリーの躰を持ち上げ、舌なめずりをしながら否定する。
「そうね、おしおきしてあげたいところだけどこれ以上餌を与えちゃダメよね? そうだ、ついでにさっき良いなって思った海賊を何人かお持ち帰りしておしおきを見せつけましょう♪ 観念して吐いたらご褒美にお部屋に閉じ込めて悪さしないように何か月も閉じ込めて搾り取ってあげるわ。しばらくお尋ね者なんだし、おしおきして欲しいんだから仕方ないわよね?」
「そ、そうか」
Aliceの中に何かどす黒い愛の様な何かを感じ一歩下がる。きっと彼の末路については聞かない方がいい、そう確信するプラックなのであった。
「奴隷も奴隷なら、主人も主人ってことかい。ほら、とっとと起きな」
縁がAliceに気圧されるプラックの様子を流し見て、やれやれと呟きながら海賊の何人かを叩き起こすとなだめ、瓦礫を片付ける様に命令するが、何人か足りない。
「……お前さんもふざけてないで、手伝わさせてくれないか?」
「えー、やだー♪ イタズラしたいもん!」
縁が呆れながら振り返ればどっから取り出したのか練達製のマジックを手に瞼にやけにリアルな目玉を描くマリカの姿、ご丁寧に額にお約束の漢字まで書いて。
「まず起きたら恥ずかしいポーズを取らせるでしょ☆ 次に何にも覚えてないだろうしマリカちゃんに痴漢した罪をおっかぶせるでしょ! それからそれから」
「お前さんやめときな、何も海賊と同じレベルに堕ちるこたぁないだろ、ほらいくぞ」
「えー、どうして!? あ、そうだ! Aliceちゃん、今度シェリーの所に遊びにいってもいいかな? おしおきを恐れずイタズラするとかいいジュースが飲めそう!」
「考えてあげる☆」
腕をばたばた動かして抗議するマリカごと海賊をずるずると引きずる縁、そして相変わらず伸びたSherryを前に舌なめずりをするAlice。そんな茶番劇をヒィロは共に眺めながら、肩の力を抜いてのんびり過ごしていた。
「ねえねえ、一人も減ってないよね、美咲さん!」
「そうね」
ヒィロの呼びかけに三度、海賊の数を数えなおし美咲が頷く。確かに海賊の数は一人たりとも減っていないがどうにも腑に落ちない。そういえば、さっきまで吹いていた気味の悪い風が急に吹き止んだような――
「……気のせいだといいけど、一応吹いた方にネズミも一匹向かわせたし」
「え、何の話?」
「後で言うわ、それよりヒィロ、海賊が逃げ出したら追跡できるように見張っといて」
「了解だよ!」
敬礼をして応えるヒィロに美咲は深く息を吐き、海賊を働かせる縁の手伝いへと向かうのであった。
満月は年末の海洋を照らし、波の音と瓦礫を片付けながら身に降りかかった理不尽を嘆く海賊たちの声が深夜の街に響く。
ただ静かな陸風だけが、そこに吹き続けていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
●あとがき
依頼参加、おつかれさまでした。海洋貴族の仕掛けた自作自演の事件はこれにて終わりとなります。
プラックさんが燃やした分も含めて、露店の修理代はSherryさんや海賊達が弁償することになったようです。もうしばらくは悪さをしようなどとは考えないでしょう。
さらに後日、Sherryさんの情報を基に彼に交渉を持ちかけた怪しい人物を捜索したものの、その動向は不明なようです。
それでは、参加ご予約ありがとうございました。
●追記
プレイングを見て悲壮感からこれほど頭を抱えたのは多分最初で最後だと思います、せめてもの慰めにこれを持って行ってください。
GMコメント
お久しぶりです、塩魔法使いです。
●達成条件
事件の解決(敵の撃破)
オプション:Sherryにおしおきをする or Sherryの案内に従う。
●Sherry
海洋貴族の次男坊。Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)の関係者であり彼女におしおきされ生命力を提供する事に生きがいを感じる宿主の一人。ドMでありヤンデレの男の娘。
港町に騒動を起こしたのもローレットに依頼を持ち込んだのも彼、つまりは自作自演。
風魔法と徒手空拳で立ち回る実力派、少なくともAliceさんよりは実力者。距離を取って瞬発力や機動力を活かした攻撃で弄ぶのが好きなようです。
悪い事を一杯したいお年頃、だって、悪い子になればアリスがお仕置きしてくれるから。
悪い子シェリーは強くなりたい、だって、その方が一杯エナジーを注ぎこめるから。
もし彼にAliceさんが問い詰めれば、二人きりという条件付きで彼を唆した人物の元へと案内してくれるでしょう、ただし、お気を付けて。
誘いに乗らずふざけるなとお仕置きしてもそれはそれで彼は満足します。だってどMだもの。
●海賊
曲剣や杖、銃などを所持した出どころ不明の海賊(?)たちです、人数はこちらよりやや多い程度。
ステータスは様々でどのビルドなら完封できるという事はありませんが逆に言えばどのビルドでも得意な相手がいる、といった感じです、強みを押していきましょう。
どこか狂ったように暴れまわっているようですが、不殺や威力の低い攻撃で殴れば正気に戻ります。
●戦場
夜の海洋の港町、イレギュラーズ達が到着する頃には幾つかの露店が並んでいるはずですが海賊たちに荒らされガス灯が壊れ、物が散乱しています。
暗がりで思わぬ物をふんで転んでしまうかも……。
怪我人は出ていない様です。だって死人なんか出したらボクへのおしおきどころじゃすまないじゃないか。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
では、よろしくお願いします。
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