天空と大地の間、空飛ぶものたちのレイヤー

オープニング

●天空と大地の間、空飛ぶものたちのレイヤー
　針葉樹林がはるかに遠く、白い雲もまた遠く。
　吹き抜けるような暴風の中を、鋭いくちばしと流線のようにすらりとした身体と、そして何よりも美しい大きな翼の滑空によって抜けていく。
　時折羽ばたき、ゴーグル越しに見える世界に目を細める。
　ここは翼あるものたちの世界だと、白き鷹のアンソニーは思う。
　ゆえに。
「空を侵す魔女たちよ、去れ！」
　脇腹に備え付けていたエーテルアサルトライフルをとり、ゴーグル越しに狙いをつけて打ちまくる。
　空に描かれた斜めの点線を、しかし箒に乗った魔女達は軽々と回避。よく磨かれた金色のワンドを振り呪文を唱えると、雷の矢を連続して放ってきた。
　翼を畳みバレルロールをかけることで器用にそれらを回避、魔女とすれ違い、そして魔女が急速にターン。加速しアンソニーへと追いついてくる。
「空戦機動は互角か。忌々しいな……！」
　互いに空を併走しながらシザーズ機動による危険な交差を続ける二人。
　アンソニーのライフルが雷撃によって打ち払われた瞬間、腰に備えていた拳銃を抜いてさらなる射撃を開始した。
「この空は渡さん！　魔女め！」
　だがアンソニーの顔には、どこか笑顔が浮かんでいた。
　友と戯れるかのような、笑顔が。

　シルヴァンスの飛行種族ファルコの戦士であるアンソニーとその一族にとって翼は空の象徴であり一族の誇りである。
　それゆえに、雷神の末裔をかたり天空を支配せんとするハイエスタの鉄騎種族フリームファクシの魔女たちと古来より空を競い合う関係にあった。
　表向きには空の権利を主張し合い、互いの武力を大空にてぶつけ合わせることで自らの力を誇示していたが、それが何百年と続いたことで彼らの中に形容しがたい友情のようなものが芽生えていた。
　それは鉄帝国の侵略をはねのけるために結成されたノーザンキングス連合王国の国民となった今でも変わっていない。
　内紛と呼ぶにはあまりに深い、彼ら空へ生きる者たちのプライドと歴史を賭けた戦いである。
　だが昨今、その雲行きが徐々に怪しくなっていくのを、アンソニーは感じていた。

　激しい射撃によって魔女を一機撃墜し、自らのダメージを回復するために木々の間へと鋭く着地するアンソニー。
　ふと見ると、先ほど撃墜した魔女が草の上に倒れている。
　だが何気なく魔女へ近づくとその異様さに、アンソニーは口元を覆った。
「こいつは……一体……？」
　ゆっくりと歩み寄る。
　魔女は既に死んでおり、ぽっかりと開いた口とどこも見ていない目がそれを物語っている。だが、死んだのはついさっきではない。明らかに、何日も前に死に風雨にさらされ腐ったであろう痕跡がその顔に、いや全身にあったのだ。
　目はまるで黒い球体がそのままはめ込まれているように真っ黒で、口の奥からはほのかに黒い霧のようなものが出入りしている。
　顔をしかめるアンソニーがゆっくりと手を近づけると、口から霧の塊が飛び出しどこかへと飛び去っていった。
　何が何だかわからない。
　だが、一つだけ確かなことは……。

●戦いを穢すもの
　ファルコ一族とフリームファクシの魔女達による歴史が、いま何者かに穢されている。
　アンソニーはそう語って、ローレットの門を叩いた。
「魔女どもは古来からの敵だ。空を賭け幾度も争ったが、奴らが卑劣な手を使ったことはない。それは俺たち同様、奴らにも誇りがあるからだ」
　ヴィーザルの針葉樹林帯にて。たき火を囲みながらアンソニーはそう語る。
　『もちろん俺たちには劣るが』というプライド故の但し書きをつけながら。
「だがここ最近、奴らはおかしい。空飛ぶ死体とでも言おうか……なにか怪しげな術を使って、魔女たちを操っているものがいる。そう感じるんだ」
　たとえば先日目撃した黒い霧のようなもの。
　既に腐り果てた死体が空を飛び魔術を行使したこと。
「奴らは敵だが、誇り高き敵だ。そんな魔女たちがこんな風にプライドを穢されるようなことをするはずがない。次の戦いで、それをハッキリさせたいんだ。そのための手伝いをしてくれ」
　アンソニーが求めていることは、要約すれば簡単だ。
　彼らと共に戦い、魔女たちを倒すことだ。
　それらの後で、死体を確保し持ち帰ることになっている。例の霧を逃がさないように確保するための特別な棺をアンソニーは一族のツテで用意してもらったらしく準備は万端だ。
「俺たちのように空で戦える者がいれば嬉しいが、もちろんそうでなくてもいい。木の上から射撃をしたり、そういう連中に襲いかかる敵を払いのける役目があってもいいだろう」
　アンソニーはそこまで説明すると、たき火に砂をかけて消火した。
「さあ、行こう。戦いが待っている」

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第3章

第3章 第1節

　ファルコ族の村へとたどり着いたイレギュラーズ。
　アンソニーと同じくファルコ族の戦士やその家族たちがくらすその村は、ちょうど夕餉の準備にとりかかるところだった。
　回収してきたフリームファクシの魔女たちの遺体を調べるのは、今すぐでなくていい。
　まずは身体を休めるべきだ。そう主張したアンソニーに同意する形で、イレギュラーズたちはファルコ族の村で一夜を明かすことになった。

　――その、翌朝。

「話があるわ！」
　魔法の箒を逆立てて、フリームファクシの魔女セラータが叫んだ。
　村の入り口。それも見回りの男達に堂々と名乗った彼女は、ずんずんとアンソニーに、そして何事かと出てきたイレギュラーズたちへと近づき、それぞれの顔をじっと観察した。
　そして腕組みし、フウと息をつくと……。
「一時休戦よ、ファルコ族。それと、あなたたち……。さっきは悪かったわね。疑ったりして」
「別にいい」
　アンソニーは手を振り、そして背中を親指でしめした。
「翼に誓って俺たちはやってない。それに、ここにいるローレットの客人たちもだ」
「ろーれっと……」
　セラータは興味深そうにイレギュラーズたちを見ると、『ンン』と言いにくそうに唸った。
「急で悪いんだけど、『葬儀』に付き合ってもらえないかしら。そのあとで、あなたたちを歓迎するわ。村の皆にも紹介してあげる」
　ついてきて。
　そう言って手招きするセラータに、あなたは……。

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●第三章：フリームファクシの村で
　フリームファクシの魔女セラータより正式に案内をうけたアンソニーとローレット・イレギュラーズ。
　彼らは引き渡した魔女の遺体を（調査に必要な処理を済ませたうえで）火葬によって弔ったのち、歓迎の宴に招かれました。

　このパートはフリームファクシの村での観光シナリオです。
　彼女たちの出す料理を楽しんだり、村の様子を観察したり、魔女へ質問をしてみましょう。
　村の雰囲気は中世北欧の山村といった感じです。
　花があちこち沢山さいており、なかには家をおおうほど花だらけのところもあります。
　時間は夕方～夜といった感じです。
　皆さんは広場のキャンプファイヤーを囲んでバイオリン演奏を聞きながら食事をとったりあちこち散歩したりしています。
　村の魔女たちは正式な案内をうけたあなた方を歓迎しており、そこそこ友好的です。お友達になれるかどうかは、あなた次第になるでしょう。

（※予定ではこの章でシナリオを終了し、フリームファクシ編として新たにシナリオが始まる予定です。次に繋がる情報も得られるかも知れません。色々チャレンジしてみましょう）

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第3章 第2節

「キャンプファイヤーするな？　音楽もなってるな？　つまりお祭りな？
　なにをかくそーコッコはお祭りのタツジンな！　祭りときいちゃー黙ってられんな！」
　ちょっとかわった六角形にくみ上げられた大型のキャンプファイヤーを囲んで、『魔法少女』エシャメル・コッコ（p3p008572）は両肩と頭にヒヨコちゃんを乗っけたプリンダンス（ヒヨコばーじょん）を踊っていた。
「コッコッコー♪」
「「ぴっぴっぴー！」」
　弾むプリンを引き連れて盆踊りをするという、どうかしちゃってる光景が広がったがフリームファクシの村人たちは割とその光景をすんなり受け入れていた。
「ここの魔女はみんないい子な？　きれいなお花畑がいっぱいあるからそうにちがいないな！　お花好きに悪いやつはいないな！」
　だいぶ偏った持論でフリームファクシになじみつつあるコッコ。
　ヒヨコ音頭（？）にバイオリン演奏をあわせていた『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）は、演奏をひとまず終えて一緒に演奏をしてくれていた魔女へと話しかけた。
「皆は、よくあの子の異文化をすぐに受け入れられたね。オイラはいろんなものを見てきたから慣れっこだけど……」
　ローレットにいると極端におかしな価値観をもった人に接することはよくある。コッコはその中でも割とノーマルな部類だがそれでもヒヨコとプリンで踊り狂ってる風景は常人には入りづらいアブノーマリティなはずだ。
　しかしフリームファクシの魔女ソワレは『なあんだ』といって笑い返した。今回追撃に加わっていた一人で、魔法の剣を扱っていた魔女だ。
「私もそうなの。フリームファクシは代々素質のある女を村の外からスカウトして、魔術血脈を豊かにしていく風習があるのよ。異国はもとより、ウォーカーが一族に加わるのも珍しくないわね」
「へえ……」
　アクセルは横で酒を飲んでいたアンソニーをちらりとうかがったが、彼は眉を左右非対称に上下させるとどこか人なつっこい顔で笑った。
　彼の風貌は普段のアクセルに近く、白い鷹の頭と翼を誇らしく晒している。
「俺は元々鉄帝軍人だったんだ。仲間の墜落事故があってから、除隊してな。セラピーを受けて復帰を目指していたんだが、ノーザンキングスが連合を組んだことで隊に戻れなくなった。だからノットの森はいい戦場さ」
　ライバル関係なのに色々話しちゃうんだね？　と遠回しに尋ねてみると、アンソニーは苦笑で応える。
「親父の代はそうだったが、今は一応ノーザンキングスの連合部族だしな。シルヴァンスとハイエスタが邪険にいがみ合ってちゃほかが纏まらないだろう」
「ま、そゆこと。森での戦いじゃ負けるつもりはないけど、だからって嫌いなわけじゃないんだから」
「そうは言っても、こうして村に招かれたのは連合ができた時以来だったかな。何ヶ月ぶりか……」
　どうやらシルヴァンスのファルコ族とハイエスタのフリームファクシ族は気持ちの良いライバル関係であるらしかった。それでも互いの村への行き来がないのは、ライバル関係ゆえだろうか。ことさら邪険にはしないが、わざわざ密着もしないという、独特の射程距離があるようだ。

　一方で、花咲く園で蜂蜜種を飲んでいたフリームファクシの魔女ダスク。彼女も追撃隊のひとりでマスケット銃を扱う魔女だった。
　彼女をみつけた『白虎護』マリア・レイシス（p3p006685）。手順を踏んで亡くなった魔女たちに哀悼の意を述べると、流れるように感謝と謝罪について述べようとした……ところで、ダスクに唇を人差し指で押さえるようにして止められた。
「戦いの後に野暮はなしよ。ノットの森で戦うことは誇りあることなんだから。もちろんニュイやノッテたちが死んだまま戦っていたことは気になるし、彼女たちの死が悲しくないわけじゃないけど……」
　うーんと小さく唸ったあと、ダスクは人差し指を自分の顎に持っていった。
「私の故郷では、魔女は死んだら世界に溶けるって言われてるの。溶けて広がって、皆とひとつになるのよ。そしてすべての命になるの。
　死は全に至り生は全よりの解ってね」
　難しい言い回しをしたせいでピンとこなかったが、どうやらダスクは独自の宗教観でもって身近な死を受け入れやすくなっているようだ。そしてそれは、フリームファクシの村全体に言えることであるらしい。
「みんなそういう考え方をしているのかい？」
「まったく一緒じゃないけど、大体にたようなものね。フリームファクシはいろんな血が混ざってできているから、宗教観もまぜこぜなの。けど比較的死が近いところにあるから、死を恐れたり忌避したりしづらい価値観が作られやすいわね」
「そうか……」
　言われてみれば、セラータは同族が死んだことよりも『殺したこと』や『死体を持ち去ったこと』に怒っていたように見えた。
　死によりそったからこそ、冒涜を嫌ったのだろう。
　まあ食べなさいなとパウンドケーキを差し出され、マリアはまずはそれを受け取っておくことにした。
　そうしていると。
「こうしてグラスを合わせることが出来て嬉しいわぁセラータちゃん！」
「そうね。けど今度はちゃんとやりましょアーリア！　今度は負けないから」
　『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ（p3p004400）とセラータが肩を組んで蜂蜜種を乾杯していた。
　ハンドネオンによる陽気な音楽にのって腕を組みながら踊る風景は、なんだかアーリアがフリームファクシの一員になったようにすら見える。
　彼女たちの足下にさく花がぼんやりと月光の色に光るせいだろうか。どこか神秘的な、もしくは魔術的な光景が広がっている。
「アーリア、あなたもフリームファクシになったらいいのよ。空の遊び方を教えてあげる」
「それも魅力的だけど、私はひとつところに留まらないお姉さんだから」
　ふふふと笑って踊る二人。
　曲がやむと、二人はこてんと花咲く園へと座り込んだ。
「綺麗な花ね」
「そうなの。この土地に昔から咲いてるのよ。土地に魔力が籠もっていて、勝手に群生するの。蜜からは魔力だってとれるのよ」
　そんなふうに村の話をしていると、やがて彼女たちの近況へとうつっていった。
　動く死体となっていたのはフリームファクシの魔女ニュイ、ノッテ、ナハトの三人であること。
　それに加えてトバリという魔女が村に戻らなくなっていて、彼女たちのことはアンソニーたちファルコ族も知らないと言うこと。
　さらには……。
「そのトバリって子も、そとからやってきた魔女なのかい？」
「そうね。といってもヴィーザルの東のほうで……故郷はなんていったかしら。……ホウ、ケン？」

成否

成功